JP3901334B2 - フェノールの回収方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェノールの回収方法に関し、詳しくは、合成樹脂、農薬、染料、医薬などの製造のための中間体として有用であるフェノールのアルカリ水溶液からの分離・回収に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、フェノールを合成する方法として、各種の方法が提案されている。これらの方法の中で、クメンを出発原料としてフェノールを合成するクメン法フェノール製造プロセスが、一般的に実用化されている。このクメン法プロセスは、クメンを酸素または空気により酸化してクメンヒドロキシペルオキシド(以下、CHPと略す。)を生成し、次に得られたCHPを鉱酸触媒の存在下に分解反応させてフェノールとアセトンを得る方法である。
【0003】
近年、フェノールを製造するフェノールプラントにおいては、反応条件が温和で、経済性にも優れるこのクメン法プロセスが世界のフェノール製造法の主流を占めている。クメン法によるフェノール製造プロセスは、大きく分けて酸化系、濃縮系、クリベージ系、中和系、精製系、リサイクル系から成り立っており、クメンを酸化して得られるCHPを酸により開裂(クリベージ)した後、中和工程において、触媒である鉱酸を中和する。
【0004】
この鉱酸の中和には、苛性ソーダや、精製系などの各工程でフェノールの回収のためにアルカリ水によって抽出されリサイクルされたナトリウムフェノラート(以下、フェネートと略す。)を含有するアルカリ水溶液などが利用される。この中和処理液は、油・水分離された後、水層の一部は廃水として系外に取り出される。分離して得られる水(廃水)には、少量のフェノールなどの有価物を含有しており、経済的見地から工業的に回収方法を確立することは有用なことである。また、環境問題の観点からもほぼ完全に回収することが望ましいが、クメン法フェノールプラントの各工程から得られるフェネートを含有するアルカリ水溶液を中和槽にリサイクルする方法では、系外に排出される廃水中のフェノールは、気液平衡上、抑制できない。そこで、フェノール類を含有する廃水からフェノールを単独で分離・回収する方法について、種々検討されてきた。
【0005】
従来、フェノール系排水の処理方法としては、焼却処理、活性汚泥処理、溶媒抽出法、吸着法などが知られている。工業的にフェノール類を回収する方法としては、溶媒抽出法や吸着法が一般的である。従来の溶媒抽出法においては、処理後の廃水中に微量のフェノールが残留し、活性汚泥処理や焼却処理などの二次処理がさらに必要である。また、抽出溶剤の一部が水槽に移行するため、その回収操作のために加熱蒸発させる方法が採られている。この操作には多大なエネルギーを必要とすると共に、この操作自体が非常に煩雑であるとの問題点があった。このような例に次のようなものがある。例えば、特開平4−41465号公報では、ジフェニルカーボネートの製造工程において、無機塩類と少量のフェノール類を含む水層に精製したジフェニルカーボネートを抽出剤として用いたフェノールの回収方法が開示されている。
【0006】
一方、廃水中のフェノールを吸着処理法によって回収する方法としては、活性炭を吸着剤とする方法が特開平1−146838号公報に開示されている。しかしながら、このプロセスにおいて生成するフェノール類含有廃水は、微量のギ酸、酢酸などの有機酸を含んでいるので、脱着回収されたフェノール類中に有機酸が濃縮される可能性があった。さらに、活性炭吸着法では、吸着力が強いため、吸着したフェノールを溶離するためには苛性ソーダなどのアルカリを使用しなければならないだけでなく、さらに中和、抽出などの工程を経る必要があった。
【0007】
また、例えば、特開平3−117651号公報では、2,6−ジメチルフェノール製造工程でのフェノール類を含有する排水からフェノールを分離・回収する方法において、スチレン/ジビニルベンゼン系合成樹脂吸着剤を用いたフェノール回収方法が開示されている。しかし、該法においても合成樹脂の吸着能力に限界があるだけでなく、樹脂再生などの複雑な工程が必要となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した既存の溶媒抽出法では、その抽出効果が不十分であるだけでなく、使用する抽出溶剤の廃水への溶解があり、経済上、好ましくない。また、吸着処理法でも、再生工程の必要性から装置が煩雑化するだけでなく、合成樹脂を使用する場合などではその吸着能力に問題があり、工業化するには不十分であるなどの問題点があった。
【0009】
さらに、フェネートを含有するアルカリ水溶液を鉱酸によって中和する従来の処理では、水層中に分配されるフェノール量が多くなるため、ロス分が増加して経済的に好ましくない。しかし、フェネートを含有するアルカリ水溶液からフェノールのロスを最小限にして分離・回収し、さらに回収したフェノールは若干のアセトンを含むので、再び既設のフェノールとアセトンの分離塔などに戻すことにより、製品フェノールの収率を高めることが可能となり、経済的メリットは大きい。
【0010】
そこで、本研究の目的は、フェネートを含有するアルカリ水溶液からのフェノールの分離・回収工程において、水層中に分配され、損失するフェノールを低減させるフェノールの回収方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、フェネート水溶液を鉱酸により中和処理を行うに際し、中和処理液水層中の強酸と強アルカリの塩濃度を特定の範囲に調整することによって、驚くべきことに、処理液水層中のフェノール濃度が低下することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ナトリウムフェノラートを含有するアルカリ水溶液を硫酸によって中和し、フェノールを分離・回収する方法において、該中和により得られる処理液の水層中における硫酸ナトリウム濃度を23〜32重量%かつ溶解度より低い濃度とすることを特徴とするフェノールの回収方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する強酸と強アルカリの塩としては、硫酸ナトリウムが挙げられる。クメン法フェノール製造プロセスでは、CHPの分解に用いる硫酸の苛性ソーダによる中和によって、多量の硫酸ナトリウムが発生するので、これを利用することが経済的にも好ましい。
【0013】
本発明で調整する硫酸ナトリウム濃度は、中和により得られた処理後の水溶液量に対して、23〜32重量%かつ溶解度より低い濃度の範囲のものが使用できる。水溶液中の硫酸ナトリウム濃度が23重量%より低濃度であれば、中和水層中に含まれるフェノールやアセトン量が増加して不経済的であり、さらなる分離工程をも必要とする。一方、硫酸ナトリウム濃度が32重量%より高濃度になると、該塩の溶解度以上となり各種配管内での該塩が凝固する可能性が生じるため好ましくない。従って、中和水層中の好ましい硫酸ナトリウム濃度は23〜30重量%かつ溶解度より低い濃度の範囲であり、さらに好ましくは23〜28重量%かつ溶解度より低い濃度の範囲である。
【0014】
本発明でフェネートを含有するアルカリ水溶液を中和するのに使用する鉱酸は、硫酸が使用される。また、使用する酸の濃度は特に限定されないが、50〜98重量%のものを使用するのが好ましい。また、pHの微調整が必要な場合に使用する酸の濃度は、前記中和に利用した酸の濃度以下、例えば、10重量%程度のものが好ましく用いられる。これらの鉱酸の使用量は、中和するフェネートを含有するアルカリ水溶液中のフェネート及びアルカリ含有量に応じて、適宜決定されるが、最低、中和の当量分以上存在すればよく、好ましくは1.1〜1.5倍当量使用する。
【0015】
また、中和温度及びpHについては、特に制限はないが、通常、温度は常温付近、pHは7付近で行われる。しかし、これ以外の温度やpH条件での実施も、本発明の範疇に含まれるものである。
【0016】
本発明で使用するフェネートを含有するアルカリ水溶液の中和処理液と塩濃度を調整するのに使用する水、例えば蒸留水は、酸中和以前に前もって混合して使用しても、また、酸中和後に蒸留水を投入しても効果があり、いずれの方法も使用できるが、重要なことは該中和により得られた処理液の水層中における硫酸ナトリウム濃度が23〜32重量%かつ溶解度より低い濃度の範囲にあることである。なお、本発明の方法は、実施形態としてバッチ式及び流通式のどちらでもその効果が発揮されるものである。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
【0018】
実施例1
100mlのスクリュー管にクメン法フェノール製造プラントのリサイクル系から得られたフェネートを含有するアルカリ水溶液(フェネート32.9重量%、水酸化ナトリウム6.1重量%、pH12)を50g採取した。次いで、冷却・撹拌しながら、98重量%硫酸水溶液を添加して中和した。pHの微調整は10重量%硫酸水溶液で行った。pHが7付近になった時点で中和が完了したものとした。さらに、前記中和処理液に水層中の硫酸ナトリウム濃度が25.7重量%になるように蒸留水を添加した。得られた中和処理液を予め40℃に加温したウオーターバス中でマグネチックスターラーを用いて、30sec/回の撹拌を5min間隔で6回行った後30min間静置した。
【0019】
こうして得られた油・水層を分液ロートで分離し、油層中のナトリウムイオンは、shim−pack IC−A3カラムを装着したイオンクロマトグラフで測定した。また、油層中の水分量は、カールフィッシャー水分測定装置で分析した。さらに、水層及び油層中のフェノール濃度は、ガスクロマトグラフィーで分析した各種分析の結果は、油層中のナトリウムイオン及び水分が、それぞれ0.23重量%と16.9重量%であった。また、水層中のフェノール濃度は、0.64重量%であった。結果を表1に示す。
【0020】
実施例2
蒸留水により中和処理液水層中の硫酸ナトリウム濃度を28.0重量%にした以外は実施例1と同様の方法で実施した。各種分析の結果、油層中のナトリウムイオン及び水分は、それぞれ0.22重量%と15.1重量%であった。また、水層中のフェノール濃度は、0.47重量%であった。結果を表1に示す。
【0021】
比較例1
蒸留水により中和処理液水層中の硫酸ナトリウム濃度を19.3重量%にした以外は実施例1と同様の方法で実施した。各種分析の結果、油層中のナトリウムイオン及び水分は、それぞれ0.20重量%と19.2重量%であった。また、水層中のフェノール濃度は、1.31重量%であった。結果を表1に示す。
【0022】
比較例2
蒸留水により中和処理液水層中の硫酸ナトリウム濃度を33.5重量%になるように実施例1と同様の方法で実施しようとしたが、調整途中に水槽の底部に硫酸ナトリウムの沈殿が認められたので、実験を中止した。
【0023】
【表1】
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、フェネートを含有するアルカリ水溶液を硫酸によって中和して得た中和処理液の水層中の硫酸ナトリウム濃度を特定することによって、処理液水層中のフェノール濃度を低下させることが可能となり、中和廃水中の含有フェノールを低減させることができ、産業上優位である。
Claims (1)
- ナトリウムフェノラートを含有するアルカリ水溶液を硫酸によって中和し、フェノールを分離・回収する方法において、該中和により得られる処理液の水層中における硫酸ナトリウム濃度を23〜32重量%かつ溶解度より低い濃度とすることを特徴とするフェノールの回収方法。
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---|---|---|---|
JP07982598A JP3901334B2 (ja) | 1998-03-26 | 1998-03-26 | フェノールの回収方法 |
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JP07982598A JP3901334B2 (ja) | 1998-03-26 | 1998-03-26 | フェノールの回収方法 |
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JPH11279093A JPH11279093A (ja) | 1999-10-12 |
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ID=13700996
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Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP07982598A Expired - Lifetime JP3901334B2 (ja) | 1998-03-26 | 1998-03-26 | フェノールの回収方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN102311195A (zh) * | 2011-06-24 | 2012-01-11 | 扬州大学 | 癸二酸生产过程中废水的资源化利用和处理方法 |
CN102351357A (zh) * | 2011-06-24 | 2012-02-15 | 扬州大学 | 含苯酚和硫酸钠废水的资源化利用和处理方法 |
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1998
- 1998-03-26 JP JP07982598A patent/JP3901334B2/ja not_active Expired - Lifetime
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN102311195A (zh) * | 2011-06-24 | 2012-01-11 | 扬州大学 | 癸二酸生产过程中废水的资源化利用和处理方法 |
CN102351357A (zh) * | 2011-06-24 | 2012-02-15 | 扬州大学 | 含苯酚和硫酸钠废水的资源化利用和处理方法 |
CN102351357B (zh) * | 2011-06-24 | 2012-10-17 | 扬州大学 | 含苯酚和硫酸钠废水的资源化利用和处理方法 |
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