JP3899634B2 - ポリエチレン系樹脂の性能改良方法およびそれを用いたポリエチレン系樹脂の加工方法 - Google Patents
ポリエチレン系樹脂の性能改良方法およびそれを用いたポリエチレン系樹脂の加工方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエチレン系樹脂の性能改良方法及びそれを用いた加工方法に関するものである。さらに詳しくは、ポリエチレン系樹脂を成形加工する際に必要な溶融物の溶融張力を著しく増大させるとともに、ポリエチレン系樹脂を成形する際の成形サイクル性を向上させ、さらに、得られた成形物の剛性および透明性を向上させることができるポリエチレン系樹脂の性能改良方法及びそれを用いた加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧ラジカル重合法で得られる低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレンとα−オレフィンとの共重合で得られる直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)およびエチレンと酢酸ビニルとの共重合で得られるエチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリエチレン系樹脂は、フィルムやシートおよび各種容器等に成形され、非常に幅広く使用されている。しかしながら、一口にポリエチレン系樹脂と言っても、その特性は分子構造によって大きく異なる。
【0003】
例えば、高密度ポリエチレンに関しては、規則性の高い分子構造であるために、得られた成形体は結晶の割合が多く、剛性の大きな材料となる。また、成形加工時の冷却過程における結晶化速度が速く、成形サイクル性が良好である。しかし、一方で、透明性が著しく悪く、また、直鎖状の分子構造であるために、溶融物の溶融張力が小さい。ポリエチレン系樹脂に対する多くの成形加工、例えば、ブロー成形、シート成形、カレンダー成形および真空、圧空成形においては、一般に樹脂に大きな溶融張力が必要であり、その意味では、高密度ポリエチレンの加工特性は著しく低いことになる。一般に、高密度ポリエチレンに対しては、その溶融物の溶融張力を増大させるために、分子量を大きくしたり、分子量分布を広げたり、あるいは高圧ラジカル重合法で得られる低密度ポリエチレンをブレンドしたり、さらには過酸化物や電子線照射によって分子鎖を架橋させるなどの手法がとられている。しかし、これらの方法に関しては、目的とする溶融張力の増大は可能なものの、それぞれに欠点がある。例えば、分子量の増大によって溶融張力を増大させようとすると、流動性は悪くなり、成形の際に成形機への負荷が大きくなったり、生産性が低下する。また、分子量分布を広げることによって溶融張力を増大させようとすると、製造プロセスが複雑となり、コスト面で不利となる。さらに、低密度ポリエチレンを添加する方法は、得られた成形物の密度が低下してしまい、高密度ポリエチレンの高剛性という特徴が損なわれる。また、過酸化物や電子線照射による方法では、その制御が難しく、フィシュアイなど発生を招くことがある。
【0004】
一方、高圧ラジカル重合法で得られる低密度ポリエチレンやエチレン/酢酸ビニル共重合体は、分子鎖中に長鎖分岐が存在するために、溶融物の溶融張力は大きい。しかし、低密度であるために剛性は小さく、また、衝撃強度や引裂強度が小さい。
【0005】
さらに、エチレンとα−オレフィンの共重合によって得られる直鎖状の低密度ポリエチレンは、高圧ラジカル重合法で得られる上記の低密度ポリエチレンに比べて、衝撃、引裂強度は大きくなるが、低密度であるためにやはり剛性は小さく、また、上記高密度ポリエチレンと同様、直鎖状の分子構造であるために、溶融物の溶融張力は小さい。
【0006】
以上、ポリエチレン系樹脂はその分子構造によって特性が大きく異なり、それぞれの樹脂は各々が有する特徴に応じて市場展開されているのが現状である。しかしながら、これらのポリエチレン系樹脂においても、その使用分野が広がるにつれて、市場からはさらに高度な性能が要求されるようになっており、これらの要求に応えるために、種々の方法で改良がなされている。とりわけ、ポリエチレン系樹脂に対しては、高圧ラジカル重合法で得られる低密度ポリエチレンやエチレン/酢酸ビニル共重合体を除いた主要な高密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンは、いずれも直鎖状の分子構造を有しており、各種成形加工に対して、溶融物の溶融張力の増大が望まれている。さらに、これらの高密度ポリエチレンや比較的高密度の直鎖状低密度ポリエチレンについては、成形物の透明性が悪く、また、一般的な直鎖状低密度ポリエチレンは成形サイクル性に劣るなどの欠点があり、それらの改良が望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリエチレン系材料を取り巻く前記のような外況に鑑みたもので、発明が解決しようとする課題は、ポリエチレン系樹脂、特に、直鎖状の分子構造を有するポリエチレン系樹脂の溶融物の溶融張力を増大させ、加えて、成形時のサイクル性の向上ならびに得られた成形体の剛性および透明性を向上させることができるポリエチレン系樹脂の性能改良方法及びそれを用いた加工方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリエチレン系樹脂に少量のポリプロピレン系樹脂を配合し、一度両成分を両成分の融点以上の温度で溶融混練し、その冷却物をポリプロピレン系樹脂の融点以下の温度で再溶融させることによって、ポリエチレン系樹脂の溶融物の溶融張力を増大させ、加えて、成形時の成形サイクル性の向上につながる結晶化温度の上昇、ならびに得られた成形物の剛性および透明性を向上させることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリエチレン系樹脂(以下、[A]という。)にポリプロピレン系樹脂(以下、[B]という。)を重量分率で[A]:[B]=99.9:0.1〜95:5となるように配合し、[A]及び[B]の融点以上の温度で溶融混練した後、[A]の融点以上[B]の融点以下で再溶融させることを特徴とするポリエチレン系樹脂の性能改良方法及びそれを用いた加工方法に関するものである。
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明に用いる[A]のポリエチレン系樹脂については、その種類は特に限定されない。例えば、エチレンの単独重合体やエチレンと他の1種類以上のα−オレフィンやジエンとの共重合体、さらにはエチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、スチレン等のビニル基を有する化合物との共重合体を使ってもよい。また、高圧ラジカル重合法で得られる長鎖分岐を有する低密度ポリエチレンでもよい。ここで、エチレンと共重合させるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数3以上の1−オレフィンを挙げることができる。また、ジエンとしては1,3−ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロペンタジエン等を挙げることができる。
【0012】
以上のような[A]のポリエチレン系樹脂については、その製造方法は特に限定されるものではない。従来公知の製造技術、例えばチーグラー触媒を用いて、スラリー重合、高圧重合、気相重合、溶液重合などで得られたものや、メタロセン触媒を用いて、上記の重合法で得られたものなど、いずれであってもよい。
【0013】
一方、本発明における[B]のポリプロピレン系樹脂は、一般に使用されているものを用いることができる。例えば、プロピレンホモポリマー、エチレン含量が0.5〜12重量%のプロピレン・エチレンランダム共重合体、エチレン含量が0.5〜12重量%、1−ブテンのようなα−オレフィン含量が0.5〜20重量%のプロピレン・エチレン・α−オレフィン三元共重合体、エチレン含量が1〜60重量%であるインパクトポリプロピレンである結晶性のポリプロピレン系樹脂が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が用いられる。この中でも、プロピレンホモポリマーが好ましい。
【0014】
また、本発明における[B]のポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート (MFR)は特に限定されない。ただし、190℃、2160gの荷重下で測定したMFRが4g/10分以下の[A]に対しては、溶融物の溶融張力を増大させるために、[B]のMFRは230℃、2160gの荷重下で測定した値が8g/10分以下であることが望ましい。
【0015】
本発明における[B]のポリプロピレン系樹脂は、例えば、チーグラー系触媒を用いた従来公知の方法で得ることもできるし、メタロセン触媒を用いて得ることもできる。
【0016】
ここで、本発明の目的であるポリエチレン系樹脂の性能改良効果は、[A]のポリエチレン系樹脂に[B]のポリプロピレン系樹脂を、重量分率で[A]: [B]=99.9:0.1〜95:5となるように配合することによって得ることができる。[B]が重量分率で0.1重量%より少ない場合は、目的とする [A]のポリエチレン系樹脂の性能改良効果が十分でなく、一方、5重量%を超えると、目的とする改良効果の一部は達成されるものの、[B]の重量分率が5重量%以下の場合に得られる効果と差はなく、さらに、透明性が[B]を添加しない場合より悪化する場合が生じたり、あるいは表面平滑性が悪化するなどの副生的な問題が生じ、好ましくない。
【0017】
さらに、本発明のポリエチレン系樹脂の性能改良方法及びそれを用いた加工方法においては、一度[A]及び[B]をそれらの融点以上の温度で溶融混練し、その後、[A]の融点以上[B]の融点以下の温度で再溶融させなければならない。一度[A]及び[B]をそれらの融点以上で溶融混練することは、[A]中に少量の[B]を微分散させるために必要であり、その後、該溶融混練物を[A]の融点以上[B]の融点以下で再溶融させることで、本発明の目的が達成される。ここで、該溶融混練物を[B]の融点以上で再溶融させた場合は、本発明が目的とする性能改良効果は発現されない。
【0018】
また、本発明における[B]のポリプロピレン系樹脂は示差走査型熱量計(DSC)において、200℃に5分間保持し、その後10℃/分の一定速度で冷却した際に得られる結晶化発熱ピークの中で、最も高温に位置するピークのピーク温度(Tc(PP))が125℃以上であると、上記の溶融混練冷却物を再溶融する際に、その溶融温度が[B]の融点以上であっても、ある程度本発明の目的が達成されることになるので好ましい。Tc(PP)の上限は特に限定されず、基本的には、Tc(PP)は高ければ高いほど好ましい。但し、上記の方法で得られるTc(PP)は、一般的には135℃が上限である。ここで、Tc(PP)が125℃以上となるポリプロピレン系樹脂は、例えば、アイソタクチックの立体規則性を向上させることによって得ることができる。また、ポリプロピレン系樹脂に安息香酸金属塩に代表される公知の結晶核剤ならびにソルビトール系の化合物に代表される市販の透明化剤を添加することによるポリプロピレン系樹脂組成物としても得ることができる。
【0019】
本発明の性能改良方法及びそれを用いた加工方法において、その改良対象となる[A]のポリエチレン系樹脂に対しては、必要に応じて、フェノール系、亜リン酸エステル系、チオエーテル系の各種酸化防止剤、脂肪酸の金属塩、ヒドロキシ脂肪酸の金属塩、アルキル乳酸の金属塩、ハイドロタルサイト等の中和剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、分散剤、顔量等を添加することができる。
【0020】
さらに、[A]のポリエチレン系樹脂に他のポリエチレン樹脂やポリアミドやポリエステルなどの他の樹脂をブレンドしても構わない。また、過酸化物の添加や電子線照射によって架橋を施したポリエチレンでも構わない。
【0021】
本発明の加工性および性能改良方法における[B]のポリプロピレン系樹脂の添加は、任意の方法が可能であるが、取扱いの容易さ、ならびに分散性の向上のために、ロール、プラストミル、1軸および2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなど、適当な混練機を用いて、[A]及び[B]をそれらの融点以上の温度で加熱混練する方法が好ましい。
【0022】
この様にして得られたポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂よりなる組成物は、周知の成形法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形およびキャスト成形等の成形法に適用される樹脂成形用素材として使用される。また、本発明の組成物は、高充填樹脂を前もって調製し、これらを成形時や再混練時に添加する方法、いわゆるマスターバッチでの添加によっても目的とする改良効果を得ることができる。ただし、請求項2を満足するような[B]でない限り、成形時の樹脂温度は成分[B]の融点以上になってはならない。
【0023】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
なお、実施例および比較例に用いたポリエチレンおよびポリプロピレン系樹脂の密度、メルトフローレート(MFR)ならびに融点は下記の方法で測定されたものである。
【0025】
▲1▼密度:JIS K6760(1981年)に準拠して、100℃の熱水に1時間浸し、その後、そのままの状態で23℃の雰囲気下で40℃以下まで放冷した試料について、23℃に保った水/イソプロピルアルコール混合系の密度勾配管を用いて測定した。
【0026】
▲2▼メルトフローレート(MFR):JIS K7210(1976年)に準拠して、成分[A]ならびに比較例に用いたポリエチレン系樹脂の場合は、190℃,2160gの荷重下で、成分[B]のポリプロピレン系樹脂の場合は、230℃、2160gの荷重下で、それぞれ測定した。
【0027】
▲3▼融点:融点は示差走査型熱量計(DSC−7,パーキンエルマー(株)製)を用いて測定した。ペレットを圧縮成形したシート状試料から重量約5mgの小片を切り出し、それをDSC測定用のパンに詰めて測定用試料とした。測定は30℃から80℃/分で180℃にもたらし、その温度で5分間保持した後に10℃/分で30℃まで冷却し、さらに30℃で5分間保持した後に10℃/分で180℃まで昇温する過程で得られる最も高温に位置する吸熱ピークのピーク温度を融点とした。
【0028】
実施例1
実施例1では、成分[A]のポリエチレン系樹脂として、エチレン・ブテン−1共重合体[A1]を用いた。[A1]は、東ソー(株)製の高密度ポリエチレン、ニポロンハード、グレ−ド4010である。これは、前記方法で測定された密度が0.963g/cm3、MFRが5.5g/10分、融点が136℃である。また、成分[B]のポリプロピレン系樹脂として、プロピレンホモポリマー[B1]を用いた。[B1]は、チッソ(株)製のポリプロピレン、チッソポリプロ、グレードK1008である。これは、前記方法で測定されたMFRが11.0g/10分、融点が162℃である。両成分の混合組成は、[A1]:[B1]を重量分率で99:1とした。両成分の上記配合物を東洋精機(株)製のスクリュー直径25mmの単軸押出機を用いて、両成分の融点以上の温度であるシリンダー温度180℃、スクリュー回転数50rpmで溶融混練し、押し出されたロッド状の溶融物を水冷カットして、ペレットを作製した。[B1]の添加による[A1]の加工性および性能改良効果は、上記ペレットの溶融張力(MS)、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化温度(Tc)、上記ペレットから作製した圧縮成形シートの引張弾性率(E)およびヘーズを測定することにより評価した。Tcは成形サイクル性の指標であり[B]を添加することにより、 [A]単体に比べて成分[A]に起因するTcが上昇すれば,成形サイクル性が向上したことに対応する。以下に、各測定項目についてその方法を記す。
【0029】
▲1▼溶融張力(MS)の測定
MSは東洋精機(株)製のキャピログラフを用いて測定した。用いたダイスはキャピラリ径が2.095mm,キャピラリ長が8mmである。測定は、ピストンの降下速度を10mm/min、引き取り速度を10m/minの条件下で行った。ここでは、前記の押出溶融混練されたペレットを成分[B]の融点以下である150℃で測定した。
【0030】
▲2▼結晶化温度(Tc)の測定
Tcはパーキンエルマー(株)製のDSC−7を用いて測定した。前記の押出溶融混練されたペレットから厚さ約0.2mmの圧縮成形シートを作製し、そこから約5mgの小片を切り出して、DSC測定用の試料とした。シートは、150℃で12分間、0.4MPaで圧縮し、その後30℃の圧縮成形機にすばやく移して、0.4MPaで、5分間圧縮することで作製した。なお、DSC測定は、成分[B]の融点以下である150℃で5分間保持し、その後10℃/分の一定速度で冷却する条件で行った。ここでは、その際に得られる成分[A]の吸熱ピ−クの中で最も高温に位置するピークのピーク温度を結晶化温度(Tc)とした。
【0031】
▲3▼引張弾性率(E)の測定
上記Tc測定用試料と同様、150℃で溶融し、作製された圧縮成形シートから、ASTM1822型の試験片を打ち抜き、測定用試料とした。測定には、オリエンテック(株)製の引張試験機、テンシロンを用い、チャック間距離28mm、引張速度20mm/分の条件下で測定した。引張弾性率はその際に得られる応力−歪み曲線の初期勾配より求めた。
【0032】
▲4▼ヘーズの測定
上記TcおよびEを測定した試料と同様、150℃で溶融し、作製された圧縮成形シートを測定用試料とした。測定は、JIS K7105(1981年)に準拠し、日本電色工業(株)製のヘーズメーターを用いて行った。
【0033】
表1には、前記方法で求めた実施例1のMS、Tc、E、ヘーズを示す。
【0034】
比較例1
比較例1は実施例1の比較例で、実施例1で用いた[A1]単体である。[B1]を添加しなかった以外は、実施例1と同じである。表1には、比較例1のMS、Tc、E、ヘーズを示す。これより、[B1]の添加により、[A1]に対して、目的とする改良効果が現れていることがわかる。
【0035】
比較例2
比較例2も実施例1の比較例である。MSおよびTcを測定する際の溶融温度を150℃から180℃に、また、Eおよびヘーズを測定する際に用いる圧縮成形シートを作製する際の溶融温度を150℃から180℃とした以外は、実施例1と同じである。本比較例での溶融温度180℃は、[B1]の融点(162℃)より高い温度であり、本発明の請求範囲から外れる。表1には、比較例2のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、ここでは[B1]を配合していない[A1]単体を180℃で再溶融した結果も示す。これより、両成分の溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上の温度で再溶融した場合は、成分[A]に成分[B]を配合しても、目的とする改良効果が得られないことがわかる。
【0036】
比較例3
比較例3も実施例1の比較例で、成分[A]には[A1]を用いた。ここでは、成分[B]の代わりに、高圧ラジカル重合法で得られる低密度ポリエチレン [C1]を[A1]に添加した。[C1]は、東ソー(株)製の低密度ポリエチレン、ペトロセン、グレード190であり、前記方法で測定した密度が0.921g/cm3、MFRが4.0g/10分で、MFRは[A1]のそれとほぼ同等である。[A1]と[C1]の混合組成は[A1]:[C1]を重量分率で80:20とした。[B1]を1重量%配合する代わりに[C1]を20重量%配合したこと以外は、実施例1と同じである。表1には、比較例3のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、実施例1とMSはほぼ同等であるものの、ヘーズは実施例1より大きく(透明性が悪く)、Tcは比較例1の[A1]単体とほぼ同じで、Eに関しては比較例1の[A1]単体よりも小さくなる。
【0037】
実施例2
実施例2では、成分[A]のポリエチレン系樹脂として、エチレン・ブテン−1共重合体[A2]を用いた。[A2]は、東ソー(株)製の高密度ポリエチレン、ニポロンハード、グレード2500である。これは、前記方法で測定した密度が0.961g/cm3、MFRが8.0g/10分、融点が134℃で、実施例1で用いた[A1]よりMFRが大きい(分子量が小さい)。また、成分 [B]には実施例1と同じ[B1]を用いた。[A1]を[A2]とした以外は、実施例1と同じである。表1には、実施例2のMS、Tc、E、ヘーズを示す。
【0038】
比較例4
比較例4は実施例2の比較例で、実施例2で用いた[A2]単体である。[B1]を添加しなかった以外は、実施例2と同じである。表2には、比較例4のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、[A2]に対しても[B1]の添加によって、目的とする改良効果が現れていることがわかる。
【0039】
比較例5
比較例5も実施例2の比較例で、MSおよびTcを測定する際の溶融温度を150℃から180℃に、また,Eおよびヘ−ズを測定する際に用いる圧縮成形シートを作製する際の溶融温度を150℃から180℃とした以外は、実施例2と同じである。本比較例での溶融温度180℃は、[B1]の融点(162℃)より高い温度であり、本発明の請求範囲から外れる。表1には、比較例5のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、ここでは[B1]を配合していない[A2]単体を180℃で再溶融した結果も示す。これより、両成分の溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上の温度で再溶融した場合は、成分[A]に成分[B]を配合しても、目的とする改良効果が得られないことがわかる。
【0040】
比較例6
比較例6も実施例2に対する比較例で、成分[A]には[A2]を用いた。ここでは成分[B]の代わりに、高圧ラジカル重合法で得られる低密度ポリエチレン[C2]を[A2]に添加した。[C2]は、東ソー(株)製の低密度ポリエチレン、ペトロセン、グレード203であり、前記方法で測定した密度が0.919g/cm3、MFRが8.0g/10分で、MFRは[A2]のそれとほぼ同等である。[A2]と[C2]の混合組成は、[A2]:[C2]を重量分率で70:30とした。[B1]を1重量%配合する代わりに[C2]を30重量%配合した以外は、実施例2と同じである。表2には、比較例4のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、実施例2とMSはほぼ同等であるものの、ヘーズは実施例2よりも大きく(透明性が悪く)、Tcは比較例4の[A2]単体とほぼ同じで、Eに関しては比較例4の[A2]単体よりも小さくなる。
【0041】
実施例3
実施例3では、成分[A]のポリエチレン系樹脂として、エチレン・ブテン−1共重合体[A3]を用いた。[A3]は、東ソー(株)製の高密度ポリエチレン、ニポロンハード、グレード5110である。これは、前記方法で測定した密度が0.960g/cm3、MFRが0.9g/10分、融点が137℃で、実施例1で用いた[A1]よりMFRが小さい(分子量が大きい)。また、成分 [B]には、実施例1と同じ[B1]を用いた。[A1]を[A3]とした以外は、実施例1と同じである。表1には、実施例3のMS、Tc、E、ヘーズを示す。
【0042】
比較例7
比較例7は実施例3の比較例で、実施例3で用いた[A3]単体である。[B1]を添加しなかった以外は、実施例3と同じである。表1には、比較例7のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、[B1]の添加により、[A3]に対しても、目的とする改良効果が得られていることがわかる。
【0043】
比較例8
比較例8は実施例3の比較例で、MSならびにTcを測定する際の溶融温度を150℃から180℃に、また、Eおよびヘーズを測定する際に用いる圧縮成形シートを作製する際の溶融温度を150℃から180℃とした以外は、実施例3と同じである。本比較例での溶融温度180℃は、[B1]の融点(162℃)より高い温度であり、本発明の請求範囲から外れる。表1には、比較例8のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、ここでは[B1]を配合していない[A3]単体を180℃で再溶融した結果も示す。これより、両成分の溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上の温度で再溶融した場合は、成分[A]に成分[B]を配合しても、目的とする改良効果が得られないことがわかる。
【0044】
実施例4
実施例4も、成分[A]には実施例3と同じ[A3]を用いた。ここでは、成分[B]のポリプロピレン系樹脂として、プロピレンホモポリマー[B2]を用いた。[B2]は、チッソ(株)製のポリプロピレン、チッソポリプロ、グレードK1011である。これは、前記方法で測定されたMFRが1.0g/10分、融点が162℃である。[B1]を[B2]とした以外は実施例3と同じである。表1には、実施例4のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、実施例3との比較で明らかなように、[A3]のようなMFRの小さい(分子量の大きい)成分 [A]に対しては、[B2]のようなMFRの小さい(分子量の大きい)成分 [B]を添加した方が、本発明が目的とする改良効果は大きくなることがわかる。
【0045】
比較例9
比較例9は実施例4の比較例で、MSならびにTcを測定する際の溶融温度を150℃から180℃に、また、Eおよびヘーズを測定する際に用いる圧縮成形シートを作製する際の溶融温度を150℃から180℃とした以外は、実施例4と同じである。本比較例での溶融温度180℃は、[B2]の融点(162℃)より高い温度であり、本発明の請求範囲から外れる。表1には、比較例9のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、ここでは[B2]を配合していない[A3]単体を180℃で再溶融した場合の結果も示す。これより、両成分の溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上の温度で再溶融した場合は、成分[A]に成分[B]を配合しても、目的とする改良効果が得られないことがわかる。
【0046】
実施例5
実施例5では、成分[A]としてエチレン・ヘキセン−1共重合体[A4]を用いた。[A4]は、東ソー(株)製の高級α−オレフィン系直鎖状低密度ポリエチレン、ニポロン−Z、グレードZF260−1で、前記方法で測定した密度が0.935g/cm3、MFRが2.0g/10分、融点が126℃である。ここでは、[A4]のMFRが4g/10分以下であることから、成分[B]には、実施例4と同じMFRの低い[B2]を用いた。[A1]を[A4]とした以外は、実施例4と同じである。表2には、実施例5のMS、Tc、E、ヘーズを示す。
【0047】
比較例10
比較例10は実施例5の比較例で、実施例5で用いた[A4]単体である。 [B2]を添加しなかった以外は、実施例5と同じである。表2には、比較例10のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、[A2]のような密度の低いポリエチレン系樹脂に対しても、[B2]の添加により、目的とする改良効果が得られていることがわかる。
【0048】
比較例11
比較例11も実施例5の比較例で、MSならびにTcを測定する際の溶融温度を150℃から180℃に、また、Eおよびヘーズを測定する際に用いる圧縮成形シートを作製する際の溶融温度を150℃から180℃とした以外は、実施例5と同じである。本比較例での溶融温度180℃は、[B2]の融点(162℃)より高い温度であり、本発明の請求範囲から外れる。表2には、比較例11のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、ここでは[B2]を配合していない[A4]単体を180℃で再溶融した結果も示す。これより、[A4]のような密度の低いポリエチレン系樹脂においても,両成分の溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上で再溶融した場合は、成分[A]に成分[B]を配合しても、目的とする改良効果が得られないことがわかる。
【0049】
比較例12
比較例12も実施例5の比較例で、成分[A]、[B]は実施例5と同じ[A4]、[B2]である。本例は[A4]:[B2]を94:6とした以外は実施例5と同じである。本例は[A4]、[B2]の混合比率が請求範囲から外れる。表2には比較例12のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、MSとEは[B2]が5重量%を越えても[A4]単体よりは大きくなっている。しかし、実施例5([A4]:[B2]=99:1)と比べてもMS、Eは大きくなっておらず、さらに、ヘーズが実施例5に比べて大きく透明性は悪くなる。そして何よりも、[B2]の融点以下で[A4]を溶融させたものを冷却したもの(例えば、MFR測定後の棒状試料)は、その表面がざらざらで、成形用材料としては好ましくない。
【0050】
実施例6
実施例6は、請求項2に対する実施例である。成分[A]、[B]には実施例1と同じ[A1]、[B1]を用いた。ただし、ここでは、[B1]に事前に安息香酸アルミニウム塩を3000ppm配合したもの(以下、[B1]Alと略す)を[A1]と溶融混練し、ペレットとしている。[B1]に安息香酸アルミニウム塩を3000ppm配合することにより、請求項2に記載の方法で測定された[B1]の結晶化温度(Tc(PP))が119℃から128℃まで上昇する。[B1]AlのTc(PP)は、,Tc(PP)が125℃以上であるとする請求項2の要件を満足しており、本実施例は、[A]、[B]両成分の溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上の温度で再溶融しても、目的とする改良効果が得られていることを例示すものである。具体的には、MSならびにTcを測定する際の溶融温度、ならびにEおよびへーズを測定する際に用いる圧縮成形シートを作製する際の溶融温度を180℃としており、この温度は[B1]Alの融点164℃より高温である。なお、ここでは、安息香酸アルミニウム塩を配合していない[B1]を[A1]に配合したものを180℃で再溶融したものが比較例となるが、それは比較例2と同じである。表3には、実施例6および比較例2のMS、Tc、E、ヘーズを示すが、Tc(PP)が125℃以上となる成分[B]を用いることによって、両成分溶融混練物(ペレット)を成分[B]の融点以上で再混練しても目的とする効果が得られていることがわかる。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【発明の効果】
以上示した様に、本発明におけるポリエチレン系樹脂の加工性および性能改良方法は、ポリエチレン系樹脂、特に、直鎖状の分子構造を有するポリエチレン系樹脂の欠点である溶融物の溶融張力を著しく増大させることができ、加えて、成形時の成形サイクル性の向上,ならびに得られた成形体の剛性および透明性を向上させることができる。したがって、本改良方法を適用することによって、適用できる成形法や成形条件の範囲が広くなり、さらにそれを成形する際の成形効率を高めることが可能である。また、得られた成形物も従来にない性能バランスを有するポリエチレン系材料となる。
Claims (4)
- ポリエチレン系樹脂にポリプロピレン系樹脂を重量分率でポリエチレン系樹脂:ポリプロピレン系樹脂=99.9:0.1〜95:5となるように配合し、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の融点以上の温度で溶融混練した後、ポリエチレン系樹脂の融点以上ポリプロピレン系樹脂の融点以下の温度で再溶融させることを特徴とするポリエチレン系樹脂の性能改良方法。
- ポリプロピレン系樹脂が、示差走査型熱量計を用い200℃で5分間保持し、その後10℃/分の一定速度で冷却した際に測定される結晶化発熱ピークの中で、最も高温に位置するピークのピーク温度が125℃以上であるポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン系樹脂の性能改良方法。
- ポリエチレン系樹脂にポリプロピレン系樹脂を重量分率でポリエチレン系樹脂:ポリプロピレン系樹脂=99.9:0.1〜95:5となるように配合してなるポリエチレン系樹脂をポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の融点以上の温度で溶融混練した後、ポリエチレン系樹脂の融点以上ポリプロピレン系樹脂の融点以下の温度で再溶融し、成形加工すること特徴とするポリエチレン系樹脂の加工方法。
- 示差走査型熱量計を用い200℃で5分間保持し、その後10℃/分の一定速度で冷却した際に測定される結晶化発熱ピークの中で、最も高温に位置するピークのピーク温度が125℃以上であるポリプロピレン系樹脂をもちいることを特徴とする請求項3に記載のポリエチレン系樹脂の加工方法。
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