JP3898250B2 - エレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は医療の分野において使用されるエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤に関し、より詳しくはエレクトロポレーションとマイクロエマルションとを併用することにより薬物や生理活性物質を生体内へ投与する方法において使用するエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
エレクトロポレーションは、従来遺伝子の導入に用いられていた方法であり、細胞に対して瞬時に高電圧を負荷し、細胞内へのDNA等を導入させる方法である。近年、この技術を経皮、経粘膜からの薬物の送達に応用することが試みられている〔特表平3ー502416号、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:10504−10508(1993)〕。エレクトロポレーションにおいては皮膚や粘膜に対して新たな可逆的なルートである孔を形成し、この孔を薬物の送達に利用するが、エレクトロポレーションの単独利用では十分な量の薬物を送達することはできなかった。
【0003】
一方、マイクロエマルションは1943年にHoar等により初めて得られたもので、粒子径が著しく小さい澄明な液体である。近年、消化管からの吸収が悪いペプチドなどをこのマイクロエマルションに封入し、その吸収を促進させる方法が研究されている(特開平7ー2689号)。マイクロエマルションは数nm〜数百nm(nm=ナノメーター)の径を持つ安定粒子で、その中に薬物を封入することができる薬物キャリヤーである。これによれば皮膚や粘膜を通してある程度の吸収促進効果を有するが、吸収させようとする皮膚や粘膜に孔がなければ吸収されず、皮膚や粘膜から十分な量の薬物を吸収させるには至っていない。
【0004】
このように皮膚や粘膜から薬物を送達する場合、エレクトロポレーション単独やマイクロエマルション単独では皮膚や粘膜からの薬物の透過が不十分であり、十分な薬効を得ることはできなかった。本発明者は従来技術におけるこのような事情、問題点に鑑み、各種多方面から実験、検討を進めたところ、薬物や生理活性物質(本明細書中、両者を合わせて適宜「薬物」と指称する)をマイクロエマルションに封入する一方、エレクトロポレーションにより皮膚や粘膜に可逆的な孔を形成し、その孔からマイクロエマルションを送達することにより生体内に薬物を有効に送達する新規且つ有用な方法を見い出した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、本発明はエレクトロポレーションとマイクロエマルションとを併用するに際して使用するエレクトロポレーション用のマイクロエマルション製剤を提供することを目的とし、これによりエレクトロポレーション又はマイクロエマルションをそれぞれ単独に適用する場合に比べて薬物の送達効果を相乗的に増大させることができる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、エレクトロポレーション用のマイクロエマルション製剤であって、マイクロエマルションが水相、油相、界面活性剤及び薬物を含有してなるエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤を提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】
エレクトロポレーションにおいては皮膚や粘膜に対して孔を形成するが、これだけでは皮膚や粘膜透過性の低い薬物に対して透過促進効果が望めず、充分な量を送達することができない。本発明においてはエレクトロポレーションを適用した部位にマイクロエマルション製剤を投与することにより体内への薬物の吸収を格段に増大させるものである。本発明に係るマイクロエマルション製剤の粒子径は、好ましくは0.1nm〜100nmの範囲に90%以上の粒度分布を有し、さらに好ましくは粒子径が0.1nm〜50nmの範囲に90%以上の粒度分布を有する。
【0008】
すなわち、その粒子径は、大きすぎてもエレクトロポレーションにより形成された孔を透過することができず、逆に小さすぎるとエレクトロポレーションに適したマイクロエマルション化ができないか、或いはマイクロエマルション化していない可能性がある。エレクトロポレーションにより形成される孔のサイズは、適用電圧、適用部位等の如何により異なるが、可逆的に形成される孔径は最大100nm程度と考えられる。このためマイクロエマルションの粒子径は0.1〜100nm程度であるのが好ましい。また比較的電気刺激の少ない条件下においては形成される孔はさらに小さくなるため、この場合にはマイクロエマルションの粒子径は0.1〜50nm程度であるのが好ましい。
【0009】
本発明のエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤の適用態様としては、(1)皮膚や粘膜に対して少なくとも1回エレクトロポレーションを適用した後、その部位にマイクロエマルション製剤を適用して薬物を吸収させる、(2)皮膚や粘膜に対してマイクロエマルション製剤を適用した後、同じ部位に少なくとも1回エレクトロポレーションを適用して薬物を吸収させる、(3)マイクロエマルションをエレクトロポレーション用の電極と一体とした製剤とし、エレクトロポレーションとマイクロエマルションを同時に適用する等の各種手法により実施することができる。これら(1)〜(3)のいずれの態様の場合にも、その後経時的に何回エレクトロポレーションを適用しても差し支えない。
【0010】
図1は、そのような適用態様のうち特に(1)〜(2)の態様において使用され得るエレクトロポレーション用電極の一例を示す図である。図1中、1は絶縁性高分子フィルム、2は一対の電極であり、図示のとおり両電極間には複数個の細線が交互に間隔を置いて配置されている。その細線の間隔は、一例として図1中拡大図で示すとおり、例えば0.2mm程度である。本電極の使用に際してはその電極面を皮膚や粘膜に当接させた後、電極間に以下に述べるような電力がかけられる。
【0011】
本発明の製剤を適用するエレクトロポレーション用の電極としては分極性、非分極性のいずれでもよい。また電圧としては10〜2000V/cmの範囲で適用でき、皮膚に対する電気刺激を考慮すると好ましくは50〜1000V/cmの範囲で適用される。通電パターンとしては特に限定はないが、指数対数型波か矩形型波であるのが好ましい。エレクトロポレーションは1回以上通電すれば効果は見られるが、回数が多いほどその効果は増加する。通電時間は電気刺激感を考慮して指数対数型波の場合はτ値として0.1μ秒〜5秒(τは適用して電圧が約37%に減衰するまでの時間)、矩形波の場合には0.1μ秒〜100m秒程度であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係るエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤の適用形態としては、皮膚や粘膜に対してマイクロエマルションを多孔質膜へ含浸させた形で貼付するか、或いは液状のままで乳剤やローション剤のようにして塗布してもよく、さらに図2に示すようにマイクロエマルションをエレクトロポレーション用の電極と一体とした製剤としてもよい。この電極一体型製剤は前記適用態様(1)〜(3)のうち特に(3)の態様で適用する場合に好適に用いられる。
【0013】
図2中、3は電極、4は粘着層、5はマイクロエマルション保持層である。このマイクロエマルション保持層5としては不織布や各種高分子を材料とする膜(例えば6,6ーナイロン、セルロース、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデン等)を用いることができ、或いはゼラチン、寒天、ポリビニルアルコールゲル、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシルメチルセルロースナトリウムその他の高分子ゲルを使用してもよい。これら保持層中に本発明のマイクロエマルションが収容され保持される。
【0014】
本発明におけるマイクロエマルションは、水相、油相及び数種類の界面活性剤を含有して構成される。界面活性剤の種類としてはHLBが3ー7の非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを組み合わせて用いるか、またはHLBが3ー7の非イオン性界面活性剤とHLBが10ー20の非イオン性界面活性剤とを組み合わせて使用する。それら各成分の配合割合としては、水相については0.0001〜30%(重量%、以下同じ)、好ましくは1〜20%、さらに好ましくは5〜15%の範囲であり、界面活性剤は0.0001〜20%の範囲、また油性成分については50〜99%の範囲で使用される。
【0015】
上記水相としては特に限定はないが、好ましくは▲1▼水、▲2▼リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液などの緩衝液、▲3▼塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の塩類を含む水溶液を挙げることができ、これらに薬物を溶解させる。また油相としては特に限定はないが、好ましくは大豆油、胡麻油、オリーブ油のような植物油、或いは動物性食用油(脂肪酸グリセリンエステル類)、飽和又は不飽和脂肪酸、中鎖脂肪酸(C5 〜C18)のモノ、ジ、トリグリセリンエステル類等を挙げることができる。
【0016】
また上記イオン性界面活性剤としては特に限定はないが、例えばジー2ーエチルヘキシルコハク酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム(アルキル部分がC8 ーC20、好ましくはC10ーC14)等が挙げられる。またHLBが10〜20の非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレン硬化又は非硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン平均付加モル数が30〜80)、ポリオキシエチレングリコール高級脂肪酸エステル(脂肪酸が飽和又は不飽和のC16〜C20の脂肪酸であり、エチレングリコールの平均の付加モル数が10〜40)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(アルキル部分がC8 〜C14であり、オキシエチレン平均付加モル数が4〜25)等が挙げられる。
【0017】
また、HLBが3〜7の非イオン性界面活性剤としては、モノ又はポリグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸が飽和又は不飽和のC18〜C20の脂肪酸であり、グリセリン1モル当たりの脂肪酸付加モル数が1〜2であり、さらにグリセリンの付加モル数が0〜4)、ソルビタン脂肪酸エステル(脂肪酸が不飽和のC16〜C20であり、その付加モル数が1〜3)、ポリオキシエチレン硬化又は非硬化ヒマシ油(オキシエチレン平均付加モル数が3〜20)等が挙げられる。
【0018】
さらに本発明の製剤において用いられる薬物としては、例えばモルヒネ、フェンタニル、ペチジン、コデイン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、エプタゾシン、ペンタゾシンなどの中枢性鎮痛薬やインスリン、カルシトニン、カルシトニン関連遺伝子ペプチド、バソプレッシン、デスモプレシン、プロチレリン(TRH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、黄体形成ホルモン放出因子(LHーRH)、成長ホルモン放出ホルモン(GRH)、神経成長因子(NGF)及びその他の放出因子、アンギオテンシン(アンジオテンシン)、副甲状線ホルモン(PTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH,サイロトロピン)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロラクチン、血清性性線刺激ホルモン、胎盤性性腺刺激ホルモン(HCG)、下垂体性性腺刺激ホルモン(HMG)、成長ホルモン、ソマトスタチン、ソマトメジン、グルカゴン、オキシトシン、ガストリン、セクレチン、エンドルフィン、エンケファリン、コレストキニン、エンドセリン、ニュウロテンシン、インターフェロン、インターロイキン、トランスフェリン、エリスロポエチン、スーパーオキサイドデスムターゼ(SOD)、顆粒球刺激因子(GーCSF)、腸管血管拡張ペプチド(VIP)、ムラミルジペプチド、コルチコトロピン、ウロガストロン、ヒト心房性利尿ペプチド(hーANP)等のペプチド類、カルマバゼピン、クロルプロマジン、ジアゼパム、ニトラゼパム等の精神安定薬、プレオマイシン、アドレアマイシン、5ーフルオロウラシル、マイトマイシン等の抗悪性腫瘍薬、ジギタリス、ジゴキシン、ジギトキシン等の強心症薬、レセルピン、クロニジン等血圧降下剤、エストラジオール、テストステロン等の性ホルモン等が挙げられるが、これらに限らず、経皮や経粘膜により送達できるものであれば用いられる。
【0019】
【実施例】
以下、実験例1〜実験例3に基づき本発明の実施例を説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されないことは勿論である。実験例1においては、サーモンカルシトニン(sCT)の投与を例にして、エレクトロポレーションとマイクロエマルションの併用効果とエレクトロポレーション単独又はマイクロエマルション単独の効果とを比較した。また実験例2においては、平均粒子径が5.9nmのマイクロエマルションにsCTを封入した場合と4.3μmのエマルションにsCTを封入した場合との薬効を調べた。さらに実験例3においては種々の薬物とマイクロエマルションを組み合わせた処方と製剤の例及びそのときのマイクロエマルションの平均粒子径を示した。
【0020】
〔実験例1〕
《実施例1ー1》エレクトロポレーションとマイクロエマルションの併用によるsCTの投与(1)
〈マイクロエマルションの調製〉
サーモンカルシトニン(sCT、NOVA)1mgを牛血清アルブミン(1%BSA)の水溶液50μlに溶解させてsCT溶液を調製した。一方、スルホコハク酸型アニオン界面活性剤(ペレックスOTP、花王社製、商品名)140mgにジグリセリンモノオレイン酸エステル(DGMO、日光ケミカル社製、商品名)100mg及び中鎖脂肪酸トリグリセライド(パナセート810、日本油脂社製、商品名)1760mgを混合し界面活性剤油液を調製した。こうして得たsCT溶液20μlと界面活性剤油液980μlを混合しsCT封入マイクロエマルションを調製した。マイクロエマルションの粒子径をレーザー光散乱法(使用装置=レーザー光散乱粒度分布測定装置、大塚電子社製DLSー7000型、Arレーザー出力75mW、以下同じ)により測定した。
【0021】
〈吸収実験〉
SDラットをウレタン麻酔下、バリカンとシェイバーにより腹部除毛後、腹部に生理食塩水200μlを滴下し、図1に示す電極を使用して2回通電(1KV/cm、25μFD)した。通電後、直ちに生理食塩水を拭き取り、上記のとおり調製したsCT封入マイクロエマルションの200μlを該腹部に適用した。マイクロエマルションの適用後、経時的に頸静脈から採血し、遠心分離して血清を得た。次いで、市販のカルシウム測定キット(カルシウムCテストワコー、和光純薬社製、商品名)を用いて吸光度法(UV:570nm)により血清中のカルシウム濃度を測定し、薬物投与前の血清中のカルシウム濃度と比較した。
【0022】
《実施例1ー2》エレクトロポレーションとマイクロエマルションの併用によるsCTの投与(2)
〈マイクロエマルションの調製〉
サーモンカルシトニン(sCT、NOVA)1mgを牛血清アルブミンを含むpH3のクエン酸緩衝液(1%BSA/CB緩衝液)50μlに溶解させsCT溶液を調製した。一方、ポリオキシエチレン(平均付加モル数=20)モノオレイン酸ソルビタン(日光ケミカルズ社製)80mgにジグリセリンモノオレイン酸エステル(DGMO、日光ケミカル社製、商品名)160mg及び中鎖脂肪酸トリグリセライド(パナセート810、日本油脂社製、商品名)1760mgを混合して界面活性剤油液を調製した。こうして得たsCT溶液20μlと界面活性剤油液980μlを混合してsCT封入マイクロエマルションを調製した。このマイクロエマルションの粒子径をレーザー光散乱法により測定したところ、平均粒子径30.5nmであった。
【0023】
〈吸収実験〉
SDラットをウレタン麻酔下、バリカンとシェイバーにより腹部除毛後、腹部に生理食塩水200μlを滴下し、図1に示す電極を使用して2回通電(1KV/cm、25μFD)した。通電後、直ちに生理食塩水を拭き取り、上記sCT封入マイクロエマルションの200μlを該腹部に適用した。マイクロエマルションの適用後、経時的に頸静脈から採血し、遠心分離して血清を得た。次いで、市販のカルシウム測定キット(カルシウムCテストワコー、和光純薬社製、商品名)を用いて吸光度法(UV:570nm)により血清中のカルシウム濃度を測定し、薬物投与前の血清中のカルシウム濃度と比較した。
【0024】
《比較例1ー1》マイクロエマルションによるsCTの投与
〈吸収実験〉
SDラットをウレタン麻酔下、バリカンとシェイバーにより腹部除毛後、腹部に生理食塩水200μlを滴下し、直ちに生理食塩水を拭き取り、実施例1ー1で調製したsCT封入マイクロエマルション200μlを該腹部に適用した。マイクロエマルション適用後、経時的に頸静脈から採血し、遠心分離して血清を得た。血清中のカルシウム濃度の測定を実施例1ー1〜実施例1ー2と同様に行った。
【0025】
《比較例1ー2》エレクトロポレーションによるsCTの投与
〈sCT溶液の調製〉
サーモンカルシトニン(sCT、NOVA)1mgを牛血清アルブミン(1%BSA)の水溶液50μlに溶解させてsCT溶液を調製した。これらsCT溶液20μlと1%BSA溶液980μlとを混合してsCT溶液を調製した。
〈吸収実験〉
SDラットをウレタン麻酔下、バリカンとシェイバーにより腹部除毛後、腹部に生理食塩水200μlを滴下し、図1に示す電極を使用して2回通電(1KV/cm、25μFD)した。通電後直ちに生理食塩水を拭き取り、sCT溶液を200μlを腹部に適用した。投与後、経時的に頸静脈から採血し、遠心分離して血清を得た。血清中のカルシウム濃度の測定を実施例1ー1〜実施例1ー2と同様に行った。
【0026】
<試験結果>
図3は実施例1ー1で調製したマイクロエマルションの粒度分布を示す図である。前記のとおり比較例1ー1でも同じマイクロエマルションを使用している。図3のとおり実施例1ー1及び比較例1ー1で用いたマイクロエマルションの平均粒子径は5.9nmであり、1.5〜20.3nmの範囲に100%の粒度分布を持っていた。次に、図4は吸収実験の結果である。図4のとおりエレクトロポレーションとマイクロエマルションを併用した実施例1ー1及び実施例1ー2においては、血清中カルシウム濃度はともに2時間経過時までに投与前の69%まで低下している。これに対して、比較例1ー1すなわちマイクロエマルション単独では77%、比較例1ー2すなわちエレクトロポレーション単独では84%までしか低下しなかった。これはエレクトロポレーションとマイクロエマルションの併用により、エレクトロポレーション単独又はマイクロエマルション単独に比べて、sCTの吸収が相乗的に促進されたためである。
【0027】
〔実験例2〕
《実施例2ー1》前記実施例1ー1の結果を用いた。ここで使用したマイクロエマルションの平均粒子径は5.9nmである。
《比較例2ー1》エレクトロポレーションと粒径の大きいマイクロエマルションの併用によるsCTの投与(3)
〈マイクロエマルションの調製〉
サーモンカルシトニン(sCT、NOVA)1mgを牛血清アルブミンを含むpH3のクエン酸緩衝液(1%BSA/CB緩衝液)50μlに溶解させてsCT溶液を調製した。このsCT溶液20μlにジグリセリンモノオレイン酸エステル(DGMO、日光ケミカル社製、商品名)を80mgを加え、さらに中鎖脂肪酸トリグリセライド(パナセート810、日本油脂社製、商品名)880mgを混合した後、超音波を5分間適用し、sCT封入マイクロエマルションを調製した。マイクロエマルションの粒子径をレーザー光散乱法により測定した結果、平均粒子径4.3μmであった。
【0028】
〈吸収実験〉
SDラットをウレタン麻酔下、バリカンとシェイバーにて腹部除毛後、腹部に生理食塩水200μlを滴下し、図1に示す電極を用いて2回通電(1KV/cm、25μFD)した。通電後、直ちに生理食塩水を拭き取り、上記sCT封入マイクロエマルション(平均粒子径4.3μm)200μlを腹部に適用した。このマイクロエマルション適用後、経時的に頸静脈から採血し、遠心分離後血清を得た。次いで、市販のカルシウム測定キット(カルシウムCテストワコー、和光純薬社製)を使用して吸光度法(UV:570nm)により血清中のカルシウム濃度を測定し、薬物投与前の血清中カルシウム濃度と比較した。図5はその結果である。
【0029】
<試験結果>
前記のとおり実施例2ー1で用いたマイクロエマルションの平均粒子径は5.9nmであり、他方比較例2ー1で使用したマイクロエマルションは白濁しており、その平均粒子経は4.3μmである。図5のとおり、このように粒子径が異なるマイクロエマルションを用いた吸収実験の結果、実施例2ー1すなわちエレクトロポレーションとマイクロエマルション(平均粒子径:5.9nm)とを併用した場合には、血清中カルシウム濃度は2時間経過時までに投与前の69%まで低下した。これに対して、比較例2ー1すなわちエレクトロポレーションとエマルション(平均粒子径:4.3μm)の併用では、血清中カルシウム濃度は2時間経過時までに投与前の90%までしか低下しなかった。
【0030】
この事実は、粒子径の小さいマイクロエマルションの場合には、エレクトロポレーションにより形成された非常に小さい孔を透過することができ、そこに封入されたsCTがSDラット体内に吸収されるために血清中のカルシウム濃度が低下するが、粒子径のやや大きいエマルションを用いるとエレクトロポレーションによる形成された孔を透過させることができないため、sCTも吸収されず、血清中のカルシウム濃度もほとんど低下しないことを示している。本実験例によりエレクトロポレーションと組み合わされるマイクロエマルションの粒子径の重要性が確認された。
【0031】
〔実験例3〕
以下に示す処方でマイクロエマルション製剤を調製した。マイクロエマルションの粒子径は実施例1ー1と同様に測定した。
《実施例3ー1》
下記表1の各成分を混合してマイクロエマルションを得た。このマイクロエマルションの平均粒子径は25nmであった。図2のマイクロエマルション保持層として不織布を使用し、そこにマイクロエマルションを含浸させてエレクトロポレーション用製剤を調製した。
【表 1】
【0032】
《実施例3ー2》
下記表2の各成分を混合してマイクロエマルションを得た。このマイクロエマルションの平均粒子径は30nmであった。図2のマイクロエマルション保持層としてカルボキシルメチルセルロースナトリウムゲルを用い、そこにマイクロエマルションを分散させてエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤を調製した。
【表 2】
【0033】
《実施例3ー3》
下記表3の各成分を混合してマイクロエマルションを得た。このマイクロエマルションの平均粒子径は45nmであった。図2のマイクロエマルション保持層としてセルロースアセテート膜を用い、そこにマイクロエマルションを含浸させてエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤を調製した。
【表 3】
【0034】
【発明の効果】
本発明は、エレクトロポレーションにより皮膚や粘膜に透過ルートの孔を生じさせ、そこから吸収性のよい粒子径の小さいマイクロエマルションに封入した薬物を吸収させることにより、従来技術に比べ高い薬効を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】エレクトロポレーション用電極の例を示す図。
【図2】エレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤の使用態様を示す例。
【図3】実施例1ー1(比較例1ー1も同じ)で調製したマイクロエマルションの粒度分布を示す図。
【図4】実験例1における薬物投与前の血清中カルシウム濃度に対する薬物投与後の血清中カルシウムの割合(%)を示す図。
【図5】実験例2における薬物投与前の血清中カルシウム濃度に対する薬物投与後の血清中カルシウムの割合(%)を示す図。
【符号の説明】
1 絶縁性高分子フィルム
2 電極
3 電極
4 粘着層
5 マイクロエマルション保持層
Claims (6)
- エレクトロポレーション用のマイクロエマルション製剤であって、前記マイクロエマルションが、(a)水相、油相、界面活性剤及び薬物を含有し、(b)その粒子径が0.1nm〜100nmの範囲に90%以上の粒度分布を有し、且つ、(c)エレクトロポレーションの通電を2回以上適用して使用するマイクロエマルションであることを特徴とするエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤。
- 上記マイクロエマルションの粒子径が0.1nm〜50nmの範囲に90%以上の粒度分布を有するマイクロエマルションである請求項1に記載のエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤。
- 上記マイクロエマルションの水相が水、緩衝液及び塩の水溶液より選択される水相である請求項1又は2に記載のエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤。
- 上記マイクロエマルションの油相が、植物油、動物油、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル及び中鎖脂肪酸エステルより選択される油相である請求項1又は2に記載のエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤。
- 上記マイクロエマルションの界面活性剤がHLB3〜7の界面活性剤とイオン性界面活性剤を混合してなるか又はHLB3〜7の界面活性剤とHLB10〜20の界面活性剤を混合してなる界面活性剤である請求項1又は2に記載のエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤。
- 上記マイクロエマルションの薬物が水相に含有されてなるマイクロエマルションである請求項1、2、3、4又は5に記載のエレクトロポレーション用マイクロエマルション製剤。
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