本発明の実施の形態について、発明の理解を容易にするために、以下に添付図面を用いて説明する。なお、添付図面において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものである。まず、本発明の実施の形態に係るグレーティング用温度制御装置の第1の態様は、可変分散等化器を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けられた複数の温度可変手段を制御する制御信号の組み合わせである複数の温度制御パターンを記憶している記憶手段を有する。これによって、グレーティングに様々な分散、分散スロープを簡単に付与することができる。
本発明の実施の形態に係る温度制御パターンを記憶させる方法では、グレーティングに設定しようとする分散に対応する制御信号を各温度可変手段に印加し、実際のグレーティングの分散を測定して設定しようとする分散と比較する。そして、群遅延リップルが生じている波長に相当する場所の温度可変手段の温度を変化させて群遅延リップルを許容値以下として、各温度可変手段への制御信号を記憶手段に記憶させている。これによってあらかじめ様々な分散、分散スロープをグレーティングに与えることができる複数の温度制御パターンを記憶手段に記憶させることができ、各温度可変手段に簡易に温度制御パターンを設定できる。また、グレーティング固有の群遅延リップルをあらかじめ修正しておくことができる。
本発明の実施の形態に係るグレーティング用温度制御装置の第2の態様は、可変分散等化器を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けられた複数の温度可変手段に印加する制御信号を設定する2つ以上の制御信号設定手段と、該2つ以上の制御信号を加算する信号加算手段とを有する。これによって、2種類以上の制御信号を加算して同時に付与できる。例えば、グレーティングの分散を制御するとともに、群遅延リップルを解消する制御信号を付与することができる。
本発明の実施の形態に係るグレーティング用温度制御装置の第3の態様は、複数の温度可変手段を制御する制御手段と、グレーティングからの反射光を光電変換する光電変換部と、光電変換後の電気信号を所定値と比較して、該電気信号が所定値以上となるように、各温度可変手段を調整する演算装置とを備えている。これによって、グレーティングの分散等化を自動制御で最適化することができる。
また、本発明の実施の形態に係る可変分散等化器は、可変分散等価器を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けられている複数の温度可変手段を、グレーティングピッチΛと等価屈折率Neffとで規定される個数分布で配置している。これによって、群遅延リップルの周期を光信号に影響のない程度に小さくできる。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係るグレーティング用温度制御装置は、可変分散等化器を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けられた複数の温度可変手段を制御する制御信号の組み合わせである複数の温度制御パターンを記憶している記憶手段を有する。この記憶手段から選択した温度制御パターンの制御信号によって制御部において各温度可変手段を制御してグレーティングに所定の温度分布を与えることができる。これによって、様々な分散、分散スロープを簡易にグレーティングに与えることができる。
具体的には、このグレーティング用温度制御装置は、図1のブロック図に示すように、可変分散等化器1を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けたヒータ3に電極部5を介して制御信号を印加する制御部であるヒータ制御回路6、各ヒータ3に印加する制御信号の組み合わせである複数の温度制御パターンを記憶しているメモリ7とを備えている。また、メモリ7からどの温度制御パターンを選択するかを伝えるインターフェース回路8を設けている。即ち、このグレーティング用温度制御装置では、設定しようとする分散や分散スロープをインターフェース回路8に入力すると、このインターフェース回路8からの信号に基づいてROMなどのメモリ7に記憶された複数の温度制御パターンから所定の温度制御パターンが選択される。この温度制御パターンは、グレーティングに各分散や分散スロープを所定の値にできるようにグレーティングに与える温度分布のための温度可変手段であるヒータ3に対する制御信号の組み合わせからなる。この制御信号に基づいてヒータ制御回路6によって各薄膜ヒータ31,32,…,3Nにそれぞれ独立に電力を印加して、グレーティングに所定の温度分布を与える。
次に、このグレーティング用温度制御装置の動作について説明する。このグレーティング用温度制御装置を構成するヒータ制御回路6とメモリ7の制御系に関するブロック図を図2に示した。なお、ここで薄膜ヒータ3の数を32個とし抵抗として表した。例えば、ユーザーがインターフェース回路8から分散や分散スロープを設定すると、インターフェース回路8はその分散や分散スロープを実現するための温度パターン(温度制御パターン)が記録されたメモリ7のアドレスを送る。あらかじめメモリ7内には複数の温度制御パターンが記録されており、使用の際に選択される。図2において“温度パターン1”を選択した場合、インターフェース回路8は温度パターン1が記録されたメモリ7の先頭のアドレス“0000”の出力を指示する。するとメモリ7内のアドレス“0000”〜“001F”までの32個のデータがヒータ制御回路6に送られる。このメモリ7のアドレス”0000”,”0001”,“0002”,…,”001F”にはそれぞれ、薄膜ヒータ31,32,33,…,332の温度データが記録されている。この各温度データは、それぞれD−A変換器DA1、DA2、…,DA32でアナログ電圧または電流に変換され、制御信号として薄膜ヒータ31,32,…,332に印加され、所定の温度分布をグレーティングに付与する。一方、温度パターン2を設定した場合には、アドレス“0020”〜“003F”のデータが同様にヒータ制御回路6に送られ、各薄膜ヒータ3が所定の温度に設定される。このように複数のヒータ3についてあらかじめ所定の温度パターンになるように各薄膜ヒータ3を制御するデータをメモリ7に記憶させておけば、使用時に面倒な設定をすることなく、簡単に温度制御パターンを変化させることができ、グレーティングの分散や分散スロープを容易に変化させることができる。
ここでインターフェース回路8は、ユーザーが指定する分散や分散スロープをメモリ7に対するアドレスとして変換するための回路である。例えば、アドレスの上位ビット“FF××”に分散に対応するアドレスを割り当て、下位ビット“××FF”に分散スロープに対するアドレスを割り当てる場合には、インターフェース回路8としては、アナログ電圧を8ビットのデジタル信号に変換するA−D変換器を2個設けたものを用いることができる。すなわち、分散および分散スロープの値と線形に対応する電圧値の大きさをそれぞれ調整することで、これらがA−D変換されメモリ7のアドレスとしてインターフェース回路8からメモリ7に出力される。このような構成により分散256通り、分散スロープ256通りの温度パターンをそれぞれ独立に選択することができる。なお、分散や分散スロープの割り振りはこの比率でなく、例えば、分散に4096通り、分散スロープに16通りといった任意の割り振りで行うことができる。
さらに、このグレーティング用温度制御装置によって温度制御する可変分散等化器1の構成について説明する。この可変分散等化器1を構成する光導波路は、図1の(b)の断面図に示すように、コア10と該コア10の周囲を覆うクラッド11とからなる光ファイバ2aであり、グレーティングピッチが線形に変化するチャープグレーティング12が形成されており、熱伝導率の低い基板4上に配置されている。この熱伝導率の低い基板4としては、例えば、石英,ガラスなどのセラミックスやポリイミドなどの樹脂からなる基板を用いることができる。また、薄膜ヒータ31,32、…、3Nは、この光ファイバ2aと基板4との間に配置されている。なお、電極部51a,52a,…,5Na,51b,52b,…,5Nbは、薄膜ヒータ31,32,…,3Nと同時に薄膜プロセスにより形成される。この電極部51a,52a,…,5Na,51b,52b,…,5Nbは、薄膜ヒータと同じ材質であるが線幅を十分広くして抵抗値を小さくしている。そのため、各電極部5では、薄膜ヒータ3に比較し温度上昇は無視できるほど小さい。さらに上部に銅や銀など電気伝導率の高い金属薄膜を形成すればさらに高効率化できる。この電極部51a,52a,…,5Naはリード線によってヒータ制御回路6に接続され、一方、電極部51b,52b,…,5Nbはリード線によってグランド(GND)に接続される。また、チャープグレーティング12の一端には光信号入出力部となる光ファイバ9が設けられている。なお、チャープグレーティング12の上にはチャープグレーティング12を保護し、薄膜ヒータ3への密着を補助する保護部材(不図示)を設けてもよい。なお、インターフェース回路8、メモリ7、ヒータ制御回路6などの構成や動作はこれに限られるものではない。例えば、メモリ7にはROMとクロック発振器、バッファ回路などを含んでいてもよく、またヒータ制御回路6では、制御信号をD−A変換器によってアナログ電圧や電流に変換することなく、パルス電圧または電流を時間分割でデジタル的に印加してもよい。また、光導波路として、光ファイバではなく平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:以下PLCと称す)を用いた場合においても同様の構成とすることができる。
次に、このグレーティング用温度制御装置によって温度制御される可変分散等化器の分散等化の作用について、図3の概念図を用いて説明する。この可変分散等化器1に光ファイバ9より入力された波長λ
Bの光は、グレーティング12のグレーティングピッチΛと等価屈折率N
effが下記数1を満足する場合に反射される。
例えば、図3に示すように、入出力側でグレーティングピッチが広く、入出力側から右に行くほどグレーティングピッチが密になっているチャープグレーティングに入力される光がどのように反射されるかを考えてみる。この場合には、波長の長い光λlongは、入出力側に近いalongの位置で反射され、一方、波長の短い光λshortは、入出力側から遠いashortの位置で反射される。このため、波長の短い光λshortは波長の長い光λlongより長い距離を伝搬するため群遅延時間は長くなる。このようにチャープグレーティングでは波長の違いによって群遅延時間が異なり、所定の分散を得ることができる。そこで、光ファイバ伝送路とは逆の符号の分散を伝送路に付与することで分散等化を行うことができる。
しかし、光ファイバ伝送路の分散は距離や温度などの周囲環境によって変化し、一定ではないので、光ファイバ伝送路の分散に応じて分散等化デバイスの分散を変化させる必要がある。このためにグレーティングに温度分布を与えて、等価屈折率Neffを変化させて各波長の光を反射する位置を変化させて分散を可変にしている。この可変分散等化器1の分散を変化させる例を、図4から図7のそれぞれの(a)のグレーティング位置による温度分布と、(b)の波長と群遅延時間との関係に示した。このように、グレーティング近傍に設けたヒータでグレーティングに与える温度分布によって分散は変化する。
具体的には、図4の(a)のグレーティング位置による温度分布のグラフにおいて、直線aは薄膜ヒータ31,32,…,3Nの各温度が一定で、チャープグレーティングの等価屈折率Neffがグレーティングの長手方向に対して一定である場合である。この場合、上記のように温度制御しない場合と同様であり、チャープグレーティングで反射される光の波長は、グレーティングピッチΛに比例する。従って波長の短い光λshortは波長の長い光λlongより長い距離を伝搬するため群遅延時間が長くなる。このときの波長に対する群遅延時間の関係を示すと図4の(b)に示す直線aのようになる。また、このヒータ3の温度分布を図4の(a)の直線bに示すように入出力側に近い側で高温にし、入出力側から遠い側で低温にすると、入出力側に近い側の等価屈折率が大きくなり、入出力側から遠い側の等価屈折率が小さくなる。従って波長の長い光λlongは、図3に示すように、blongの場所で反射され、一方、波長の短い光λshortはbshortの場所で反射されて、波長に対する群遅延時間の関係は図4の(b)の直線bのようになる。同様にヒータ3の温度分布を図4の(a)の直線cのようにすると、波長に対する群遅延時間の関係は図4の(b)の直線cのように傾きが大きくなる。分散は群遅延時間の傾き、即ち群遅延時間の波長微分であるので、以上のようにヒータの温度分布を変化することで分散可変を実現することができる。
また、同様の原理により図5の(a)のように二次関数的な温度分布を与えると、図5の(b)のような群遅延時間特性が得られる。図5の(b)の曲線b,cは中心波長付近では直線aとほぼ同じ傾きであるため中心波長の分散は同じであるが、群遅延時間の波長に対する二階微分である分散スロープが変化する。すなわち図5の(b1)のようにヒータの温度分布を変化させることで分散スロープ可変を実現することができる。さらに図6の(a)や図7の(a)のように一次関数の温度分布と二次関数の温度分布を足し合わせた温度分布とすると、図6の(b)や図7の(b)のような群遅延時間特性が得られ、分散と分散スロープの両方を可変にすることができる。
実施の形態2
本発明の実施の形態2に係る温度制御パターンを記憶させる方法では、可変分散等化器に設定しようとする分散に対応する制御信号を各温度可変手段に印加し、可変分散等化器の分散を測定し、設定しようとする分散と比較する。次いで、群遅延リップルが生じている波長に相当する場所の温度可変手段の温度を変化させて群遅延リップルを許容値以下として、各温度可変手段への制御信号を記憶手段に記憶させている。即ち、様々な分散、分散スロープを得ることができる複数の温度制御パターンをあらかじめ記憶手段に記憶させている。これによって各温度可変手段に簡単に温度制御パターンを設定できる。また、グレーティング固有の群遅延リップルをあらかじめ修正しておくことができる。
具体的には、この温度制御パターンを記憶させる方法は、図8のフローチャートに示す手順で行われる。まず、所定の分散、分散スロープを設定する(S1)。次に、設定する分散、分散スロープに対応した電力を各ヒータに供給する(S2)。そして実際のグレーティングの分散を分散測定器で測定し、群遅延時間特性を得る(S3)。次いで、設定した群遅延時間特性と実際の群遅延時間特性との差、すなわち群遅延リップルを計算する(S4)。この群遅延リップルが許容値以下かどうかを判断する(S5)。群遅延リップルが許容値以下であれば、各ヒータへの供給電力をメモリに記憶する(S6)。その後、次の分散、分散スロープを設定するかどうか判断する(S7)。次の設定がなければメモリからROM装置にデータを書き込んで(S8)、その後、終了する。一方、S5で群遅延リップルが許容値を超える場合には、Flagに1をたてて(S9)、群遅延リップルの生じる波長に相当する場所のヒータの温度を所定幅ΔTとFlagとの積(Flag×ΔT)だけ上げる(S10)。次いで、S3からS5の各手順と同様にして、実際のグレーティングの分散を分散測定器で測定し、群遅延時間特性を得る(S11)。次いで、設定した群遅延時間特性と実際の群遅延時間特性との差、すなわち群遅延リップルを計算する(S12)。この群遅延リップルが許容値以下かどうかを判断する(S13)。群遅延リップルが許容値以下であれば、S6以下の手順に移行し、一方、群遅延リップルが許容値を超える場合には、次に、群遅延リップルが先にS4で測定した場合と比較して小さくなったかどうか判断する(S14)。群遅延リップルが前回の測定より大きくなっている場合にはFlagを反転しておく(S15)。さらに、群遅延リップルが許容値以下となるように該当箇所のヒータ温度を(Flag×ΔT)だけ上げることを繰り返す。これによって、設定しようとする分散、分散スロープが得られる各ヒータへの供給電力のデータ、即ち、温度制御パターンをROM装置に記憶させることができる。
次に、この温度制御パターンを記憶させる方法において用いるシステムについて、図9のブロック図に示すように、可変分散等化器1を構成する光導波路のチャープグレーティング近傍に薄膜ヒータ3が設けられている。この薄膜ヒータには電極5を介してヒータ制御回路6から電力を供給される。また、このヒータ制御回路6はコンピュータ23に接続され、コンピュータ23からの制御信号によって各ヒータ3の電力を独立に制御する。一方、可変分散等化器1の光信号入出力部である光ファイバ9は光サーキュレータ19を介して分散測定装置22に接続されている。分散測定装置22としては、例えば、変調された波長可変レーザーを用いた位相シフト法による測定装置等を使用できる。この分散測定装置22はコンピュータ23にGPIB等で接続され、分散測定装置22で測定した可変分散等化器の群遅延時間特性や振幅特性をコンピュータ23に取り込むことができる。なお、可変分散等化器の特性を分散測定器で測定したが、スペクトルアナライザなど他の測定装置を使用してもよい。この場合は振幅特性を測定するため、分散および分散スロープの直接的な特性ではないが、群遅延特性と振幅特性には相関関係があり、換算することができる。
このシステムにおいて、温度制御パターンを記憶させる方法を具体的に説明する。まず、コンピュータ23からは可変分散等化器を所定の分散および分散スロープとなるようにヒータ制御回路6に制御信号が送られる(S1)。次に、ヒータ制御回路6によって各ヒータ3の温度分布が制御され(S2)、グレーティング12の温度分布に応じた分散および分散スロープとなる。このときの群遅延時間特性を分散測定装置22で測定し(S3)、そのデータをコンピュータ23に取り込む。この群遅延特性と所望の分散および分散スロープとなる仮想の群遅延特性とをコンピュータ23で比較し(S4,S5)、所望の分散および分散スロープと異なる場合、所望の値となるように各ヒータの温度を所定値だけ変化させる制御信号がヒータ制御回路6に送られる(S9,S10)。さらに群遅延時間特性を分散測定装置22で測定し(S11)、そのデータをコンピュータ23に取り込む。この群遅延特性と所望の分散および分散スロープとなる仮想の群遅延特性とをコンピュータ23で比較し(S12,S13)、この一連の動作を繰り返し行って、所望の分散および分散スロープとなる温度分布を実現できる各ヒータへの供給電力のデータを得る。さらに他の分散および分散スロープとなる温度分布を同様の手順を繰り返して決定する。このようにして複数の温度制御パターンとなるデータを測定して、このデータはROM書き込み装置に転送されROMに記憶される(S8)。上記手順によって複数のデータをメモリ7に記憶させることができる。この場合において、使用するチャープグレーティングに起因する群遅延リップルなどがあっても、意識することなくこれを修正することができ、所定の分散および分散スロープを実現することができる。
実施の形態3.
本発明の実施の形態3に係るグレーティング用温度制御手段は、可変分散等化器を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けられた複数の温度可変手段に印加する制御信号を設定する2つ以上の制御信号設定手段と、該2つ以上の制御信号を加算する信号加算手段とを有する。これによって、2種類以上の制御信号を加算して同時に付与できる。例えば、グレーティングの分散を所定の値とするとともに、群遅延リップルを解消する制御信号を付与することができる。
具体的には、このグレーティング用温度制御装置は、実施の形態1に係るグレーティング用温度制御装置と比較すると、図10の(a)のブロック図に示すように、各ヒータ3に独立に電力を供給するヒータ制御回路6にメモリを介さずインターフェース回路8から直接に制御信号を伝達している点で相違する。また、このグレーティング用温度制御装置によって温度制御する可変分散等化器1を構成する光導波路は、図10の(b)の断面図に示すように、平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:以下PLCと称す)2bである点で相違する。この可変分散等化器1は、SiやSiO2などの基板4にクラッドおよびコアを形成して光導波路2を形成したPLC2bのコアの上部に対応するクラッド上に薄膜ヒータ3を形成している。なお、光ファイバを用いた場合においても同様の構成とすることができる。
さらに、このヒータ制御回路6は、実施の形態1に係るグレーティング用温度制御装置を構成するヒータ制御回路と比較すると、図11のブロック図に示すように、32個の薄膜ヒータに電力を供給するヒータ制御回路6は、各薄膜ヒータ31,32,…、332に対応した加算回路131,132,133,…,1332と、第1可変抵抗群14、第2可変抵抗群15とにより構成されている点で相違する。この加算回路131,132,133,…,1332は、個別の電圧源を介して各薄膜ヒータ31,32,…,332に接続されている。なお、電圧源でなく電流源を用いてもよい。また、第1可変抵抗群14は32個の可変抵抗が直列に接続されたもので、各可変抵抗の一端と各加算回路の入力端がそれぞれ接続されている。第1可変抵抗群14の各可変抵抗の抵抗値を調整することで、各加算回路に入力される電圧比を調整することができ、全体の電圧値は第1可変抵抗群14に印加する電圧V1を調整することにより変化させることができる。一方、第2可変抵抗群15は2個の可変抵抗を直列に接続したものを32個並列に接続し、各2個の可変抵抗間と加算回路13のもう一方の入力端を接続したものである。この場合も第2可変抵抗群15の各可変抵抗の抵抗値を調整することで、各加算回路に入力される電圧比を調整することができ、全体の電圧値は第2可変抵抗群15に印加する電圧V2を調整することにより変化することができる。なおこのように第1可変抵抗群14と第2可変抵抗群15とを異なる構成としたが、第1可変抵抗群14の代わりに第2可変抵抗群15を用いても同一の動作を行うことは可能である。
次に、このグレーティング用温度制御装置の動作について説明する。図11のブロック図より、第1可変抵抗群14の各抵抗値を等しくすると、単純な直列抵抗による電圧の分圧により、各ヒータに対する各加算回路13には、図12の(a)に示すように、一次関数的な比率で減少する電圧が入力される。一方、第2可変抵抗群15は直列に接続された2個の抵抗の抵抗比をそれぞれ任意に調整することで、任意の比率の電圧値が、図12の(b)に示すように各ヒータに対する各加算回路13に入力される。これらは各ヒータに対する加算回路13で加算され、出力される電圧は、図12の(c)に示すようになる。各加算回路から出力された電圧は、電圧源によって可変分散等化器1の各薄膜ヒータ31,32,…,332に図12の(c)の分布で印加される。これによって、各薄膜ヒータに印加された電力に応じて各薄膜ヒータの温度分布を変化させることができる。この場合において、第1可変抵抗群14は一次関数的な電圧分布を得るためのものであり、第1可変抵抗群14の印加電圧V1を変化させることで、可変分散等化器1の分散を変化することができる。なお、上記のように電圧源でなく、電流源を用いて電流に変換して印加してもよい。
また、各薄膜ヒータの温度は各薄膜ヒータの電力に応じて変化するものであるから、厳密には第1可変抵抗群14により出力される電圧分布は、平方根的、すなわち電圧の二乗が一次関数的になる方が好ましい。このような電圧分布は電圧源により電圧の二乗が一次関数的になるように変換される。なお、電圧源でなく、電流源を用いて電流の二乗が一次関数的になるように変換してもよい。一方、第2可変抵抗群15によって群遅延リップルを修正する電圧分布を与えることができる。例えば、PLCに形成した光導波路のコア幅や屈折率の不均一性や、グレーティング作製時の紫外レーザー光の照射量不均一性によって等価屈折率Neffの不均一性が生じる。この等価屈折率Neffの不均一性によって群遅延リップルが生じる。そのため、この群遅延リップルを修正するために、等価屈折率の不均一性を修正する電圧分布を与えることができる。また、第2可変抵抗群15の出力電圧分布を図5の(a)のグラフに示すように、各ヒータの温度分布が二次関数的となる電圧分布とすることで、分散スロープを可変とすることができる。このように第2可変抵抗群15の印加電圧V2を可変とすることで、分散スロープを可変とすることができる。第1可変抵抗群14と第2可変抵抗群15に印加される電圧V1,V2を独立に制御することで、分散、分散スロープを独立に変化させることができる。なお、インターフェース回路8からはユーザーが設定した分散および分散スロープに応じて電圧V1およびV2を制御する信号を送ってもよいし、電圧V1およびV2をインターフェース回路8から直接供給してもよい。さらに、等価屈折率の不均一性を修正するための可変抵抗および印加電圧V2はあらかじめ調整されて固定されていてもよく、さらに調整できる構成であってもよい。
なお、このグレーティング用温度制御装置では可変抵抗群を第1可変抵抗群14と第2可変抵抗群15の2群とし、一方に分散の可変、他方に群遅延リップルの修正あるいは分散スロープの可変という機能を付与したがこれに限られない。また各可変抵抗群の可変抵抗の調整には、上記実施の形態1で示したように分散測定装置22等の可変分散等化器1の特性測定装置とコンピュータ23を用いた方法を使用することができる。この場合、ROM書き込み装置24の変わりに各可変抵抗を自動調整する可変抵抗調整装置を用いる。
次に、等価屈折率の不均一性による群遅延リップルの修正を行う原理について説明する。等価屈折率N
effは前述のように伝搬する光波とコア10およびクラッド11の相互作用によって決まるため、光導波路のコア幅の不均一性や、コア10およびクラッド11の屈折率の不均一性によって等価屈折率に不均一性を生じ、製造プロセスから光ファイバよりPLCにおいて生じやすい。またグレーティング作製時の紫外光照射量により屈折率変化量が決まるため、グレーティング作製時の紫外光照射量の不均一性によっても等価屈折率の不均一性を生じる。グレーティングで反射される光の波長は、下記数2で表される。なお、この数2は上記数1と同一である。
ここで、グレーティングの長手方向の長さlでの反射される光の波長λ
B(l)は、N
eff(l)およびΛ(l)を、それぞれグレーティング12の場所lでの等価屈折率およびグレーティングピッチとすると下記数3で表される。
ここで、等価屈折率N
eff(l)がグレーティング12の場所lによって不均一性を有している場合、等価屈折率N
eff(l)は、グレーティング全体に一定な値N
constと、その値との差ΔN
eff(l)としてあらわすことができる。従って、数3は下記数4のように表すことができる。
さて前述のように、等価屈折率は温度によって変化するので、グレーティングの場所lに温度変化を設けた場合の等価屈折率の変化をΔN
t(l)とすると、数4は下記数5のように表せる。
従って、ΔN
eff(l)+ΔN
t(l)=定数となるような温度分布を設けることで等価屈折率の不均一性を修正し、群遅延リップルを低減することができる。実際には等価屈折率の不均一性を測定し、それを修正する温度分布を付与することは困難なので、チャープグレーティングの群遅延特性を測定しながら、それを修正する温度分布を付与することによって群遅延リップルを修正できる。例えば、図13の(a)に示すような群遅延リップルを(b)に示すように修正することができる。
なお、ここでは、一次関数的な電圧分布、二次関数的な電圧分布、および任意の電圧分布を得る方法として可変抵抗を複数用いた場合に示したが、これに限るものではなく様々な手段を用いることができる。また電圧分布と電圧加算回路を用いたが、これに限られず電流分布と電流加算回路であってもよい。さらに加算回路13としては演算増幅器(オペアンプ)を用いた加算回路13を示したが、回路構成はこれに限るものではない。また電圧源や電流源としてはバイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、各種アンプなど任意のものを用いてもよい。さらにこれらの回路部品を集積回路とすることで小型化できる。
実施の形態4.
本発明の実施の形態4に係るグレーティング用温度制御装置は、実施の形態3に係るグレーティングよう温度制御装置と比較すると、さらに、各加算回路の入力端を4個とし、このうち3群の可変抵抗群と1群の定電圧群を設けており、分散、分散スロープの可変、群遅延リップルの修正、さらにバイアスの付加をそれぞれ独立に行うことができる点で相違する。なお、各加算回路の入力端はこのグレーティング用温度制御装置では4個としたが、これに限られず、3個やあるいは5個以上の場合であってもよい。また、可変抵抗群の数は、3群としたが、4群以上設けてもよい。
具体的には、ヒータ制御回路6は、図14のブロック図に示すように、第1可変抵抗群14、第2可変抵抗群15の他に、さらに第3可変抵抗群16と定電圧群17を備えている。この定電圧群17によって同一電圧を各加算回路13に入力することができる。そのため、全体として均一な温度変化をグレーティングに付与することができ、反射光の波長を全体としてシフトさせるバイアスとして働く。この定電圧群17によって、光通信システムで必要とされる10pm程度の精度について、使用環境の変化に対する調整機構として機能させることができる。
実施の形態5.
本発明の実施の形態5に係るグレーティング用温度制御装置は、グレーティングからの反射光を光電変換する光電変換部と、光電変換後の電気信号を所定値と比較して、該電気信号が所定値以上となるように、各温度可変手段を調整する演算装置とを備えている。これによって、光ファイバ伝送路の分散等化を自動制御で最適化することができる。
具体的には、このグレーティング用温度制御装置は、実施の形態1に係るグレーティング用温度制御装置と比較すると、図15のブロック図に示すように、温度制御する可変分散等化器1からの出力光を光電変換する光電変換部であるフォトダイオード20及びクロック抽出回路21と、各ヒータへの制御信号を調整する演算装置18とを備えている。すなわち、このグレーティング用温度制御装置では、実施の形態1のようにヒータ制御回路6をメモリ7からの制御信号により制御するのではなく、グレーティングの反射光を光電変換してクロック電圧を抽出し、このクロック電圧を所定値以上とするように演算装置18により自動で制御している。
次に、このグレーティング用温度制御装置の演算装置18及びヒータ制御回路6等の制御系の構成について、図16のブロック図によって説明する。演算装置18はマイクロプロセッサやコンピュータなどの演算装置であり、図16に示すように演算処理部とデータ出力部からなる。各演算出力部はヒータ制御回路6の各D−A変換器DA1〜DA32に接続され、ヒータ電力を制御するためのデジタルデータDATA1〜DATA32が出力される。このデジタルデータDATA1〜DATA32に基づいて各薄膜ヒータ3の温度分布を制御する。演算装置18は可変分散等化器1から出力された光信号からクロック抽出器21によりクロック成分を電圧として抽出しA−D変換されデジタルデータに変換された後、演算装置18の演算処理部に入力される。このように一つのフィードバック系が形成されている。
ここで、このグレーティング用温度制御装置で温度制御する可変分散等化器1によって分散等化を自動で最適化する手順について説明する。前述の通り、光ファイバ伝送路を伝搬してきた光パルスは、光ファイバ伝送路の分散の影響を受け歪んでいる。この光パルスは光サーキュレータ19を介して可変分散等化器1に入力され、可変分散等化器1によって分散等化がなされた後、出力される。次いで、出力光は光サーキュレータ19を介してフォトダイオード20に入力され光電変換され電気信号とされる。この電気信号からクロック抽出回路21でクロック成分が電圧として抽出される(S23)。この電圧はクロック成分の同期が正しく取れている場合に最大となり、この場合が可変分散等化器1によって分散等化が最適化された場合である。そこで、このクロック電圧が最大となるように演算装置18によって可変分散等化器1の各薄膜ヒータに印加される電力が制御される(S24からS28の手順)。より詳細には、演算装置18の演算処理部から各ヒータの温度を少しづつ上下させる制御信号をデータ出力部を介して出力する(S25)。そしてこの制御信号に基づいて温度分布を与えられた可変分散等化器1を通過した光信号からクロック成分を抽出し(S26)、各ヒータの温度を上下させる前と比較する(S27)ことで、各薄膜ヒータの最適温度の方向性を決定する。このような一連のフィードバック制御を繰り返すことにより、可変分散等化器1の各薄膜ヒータ3は最適温度に制御される。これによって、各薄膜ヒータによってグレーティングに付与する温度分布を制御することで、分散、分散スロープ、群遅延リップルを特に意識することなく分散等化の最適化を自動制御によって行うことができる。
さらに具体的に、このグレーティング用温度制御装置の自動制御方法を図17のフローチャートによって説明する。まず、フラグFlagを1にセットし(S21)、次にヒータ番号iを1にセットする(S22)。次いで、クロック電圧を取りこみ(S23)、所定値以上かどうか判断する(S24)。もし、クロック電圧が所定値以上であれば可変分散等化器1による分散等化は最適化されているので、特に温度分布を変える必要はなく、S23とS24の手順を繰り返す。一方、クロック電圧が所定値未満の場合には、ヒータ番号iのヒータ温度を(Flag×ΔT)だけ上げる(S25)。その後、クロック電圧を取りこんで(S26)、直前のクロック電圧と比較を行う(S27)、クロック電圧が直前より上がっている場合にはさらにヒータ番号iのヒータ温度を上げる(S28)。クロック電圧が直前のクロック電圧より上がっていくかぎり繰り返しヒータ温度を上げていく。この場合において、クロック電圧が直前より下がった場合には直前のヒータ温度に戻しておく(S29)。これは各ヒータごとにクロック電圧が最大となるように調整するためである。その後、ヒータ番号iをインクリメントして(S30)、32番目のヒータまで同様の手順を繰り返す(S31)。32番目のヒータまで繰り返した場合には、フラグFlagが−1であるかどうか判断し(S32)、フラグFlagが−1でなければ−1をセットして(S33)、1番目のヒータから(S22)上記手順を繰り返す。なお、フラグFlagの意味は、ヒータ温度を高くする方向(Flag=1)とヒータ温度を低くする方向(Flag=−1)のそれぞれに調整して各ヒータごとにクロック電圧を最大となるように調整するためである。フラグFlagが−1の場合には、フラグFlagに1をセットし(S21)、上記手順を繰り返す。なお、この手順は自動制御であるので、終了の場合を特に規定していないが、新たな設定を行う場合を判断して適宜に終了に導いてもよい。
なお、この実施の形態では上記のような構成および動作としたが、演算装置18や演算処理方法、光信号からの抽出成分はこれに限られるものではなく、可変分散等化器1を通過した光信号特性を演算装置により処理し、フィードバックして各ヒータの電力を制御できるものであればよい。
実施の形態6.
本発明の実施の形態6に係る可変分散等化器では、グレーティングの近傍に設ける複数の温度可変手段は、グレーティングの長手方向の長さlの関数としてのグレーティングピッチΛ(l)と、等価屈折率N
eff(l)とで規定される個数分布で配置されている。具体的には、グレーティングピッチΛと等価屈折率N
effとの積Λ・N
effの単位長さ当りの差Δの2倍であるチャープ量2Δは、下記数6で表わされる。
ここで、N
eff longおよびN
eff shortはチャープグレーティングの互いに1cm離れた2つの地点の等価屈折率であり、Λ
longおよびΛ
shortはチャープグレーティングの互いに1cm離れた2つの地点のグレーティングピッチである。なお、N
eff longとΛ
longとは同じ地点の値であり、N
eff shortとΛ
shortとは同じ地点の値である。すると、複数の温度可変手段は、下記数7の単位長さ当りの個数分布n(個/単位長さ)の条件、
を満たすように配置されている。このような個数分布で配置することによってグレーティングの反射光の群遅延リップルを小さくし、また、群遅延リップルの周期を小さくでき、伝送特性を劣化させない。
具体的には、この可変分散等化器では、構成する光導波路のグレーティング近傍に設けるヒータをグレーティングピッチΛと等価屈折率とで規定される個数分布で配置している点で、上記各実施の形態で用いた可変分散等化器と相違する。即ち、上記各実施の形態で用いた可変分散等化器を構成する光導波路のグレーティング近傍に設けるヒータの個数は32個に固定していた。このグレーティング近傍に設けるヒータの個数が適切でないと伝送特性を劣化させる群遅延リップルが生じる。例えば、グレーティング近傍に複数のヒータを設けた場合、1個のヒータ内では温度分布はほぼ均一であり、各ヒータごとに異なる温度を与える場合には、この温度分布がそのままグレーティングに伝わる。このため、図20の(a)の従来の可変分散等化器の場合に示すような階段状の温度分布になる。このような階段状の温度分布が存在すると、チャープグレーティングによる等価屈折率の変化も階段状となり、群遅延リップルを生じる。この群遅延リップルには様々な周期のものがあり、使用する光通信システムのビットレートにより影響が異なることが知られている。可変分散等化器を最も必要とする40Gbit/s以上のビットレートでは、特に周期が0.1nm以上の群遅延リップルが大きく影響する。
この群遅延リップルはヒータによる階段状の温度分布に起因することから、グレーティング近傍に設けるヒータの個数分布を変化させると、図18に示すように、群遅延リップルの周期が変化する。この場合において、グレーティングピッチΛと等価屈折率N
effとの積Λ・N
effの単位長さ当りの差Δの2倍であるチャープ量2Δを変化させるとさらに群遅延リップルの周期は変化する。従って、グレーティング近傍にヒータを適切な個数分布で配置することによって、群遅延リップルの周期を影響の小さい周期にすることができる。具体的には、図19に示すように、グレーティングの1cmあたりのチャープ量2Δをパラメータとすると、群遅延リップルの周期が0.1nmの場合が直線で示される。したがって、この直線より上の領域が群遅延リップルの周期が0.1nm以下の領域である。これを式で表わすと、下記数8に示される関係が得られる。
そこで、この数8を満たす個数分布でヒータを配置することによって群遅延リップルの周期を小さくし、40Gbit/s以上の光信号への影響を抑えることができる。
1 可変分散等化器、 2a 光ファイバ、 2b 平面光波回路(PLC)、 3 ヒータ、 4 基板、 5 リード線、 6 ヒータ制御回路、 7 メモリ、8 インターフェース回路、 9 光ファイバ、 10 コア、 11 クラッド、 12 グレーティング、 13 加算回路、 14 第1可変抵抗群、 15 第2可変抵抗群、 16 第3可変抵抗群、 17 定電圧群、 18 演算装置、 19 光サーキュレータ、 20 フォトダイオード、 21 クロック抽出器、 22 分散測定装置、 23 コンピュータ、 24 ROM書き込み装置