JP3895842B2 - セメント系無機質材補強用炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント系無機質材補強用炭素繊維と炭素繊維補強セメント系無機質材成形物およびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、セメント系無機質材中での繊維の分散性が優れ、力学的特性に優れたセメント系無機質材成形物を提供するセメント系無機質材補強用炭素繊維とその製造方法および該炭素繊維によって補強されたセメント系無機質材製部材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、炭素繊維はそのすぐれた力学的性質、特にすぐれた比強度および比弾性率を利用した複合材料の補強繊維として工業的に広く利用され、セメント類を用いた建築構造物、土木材料などにも広く利用されつつある。
【0003】
一般的に炭素繊維は、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂の補強用に処理されているのでセメント系無機質材中での分散性が悪く、セメント系無機質材をマトリックスとしたものでは炭素繊維の優れた特徴である高強度、高弾性率という性質が十分発揮されていない。
【0004】
すなわち、炭素繊維の多くはエポキシ系サイジング剤が付与され、十分な集束性を有するためにセメント系無機質材中での繊維の分散性が良くない。
【0005】
そこで、炭素繊維のセメント系無機質材の補強効果を高めるための手段として特開平6−166554号公報には、メソフェーズピッチ系炭素繊維のモノフィラメント100〜1000本の集合体からなるストランドにサイジング剤を付与し、このストランド5〜100本を一つの集合体としたコンクリート補強用炭素繊維が提案されている。
【0006】
ピッチ系炭素繊維の場合、通常の製造プロセスによって、単繊維本数が100〜1000本の集合体を製造できるが、モルタルに投入して混合するときに、剪断応力により繊維が脆いため破断して短くなり、成形物の曲げ強度はポリアクリロニトリル系炭素繊維に比べると低い。
【0007】
また、特開平6−166553号公報、特開平6−166554号公報では、炭素繊維表面にポリエーテルエステル系、ポリオキシアルキレンビスフェノールエーテルからなるサイジング剤を付与することにより、解舒性が良好となり、セメントとの接着性に優れ、かつダイレクトスプレーガンに対する工程通過性がよい上、曲げ強度の高いセメント複合体を提供するものが開示されている。
【0008】
しかし、ポリエーテルエステル系、ポリオキシアルキレンビスフェノールエーテルを付与した炭素繊維は、ダイレクトスプレーガンに対する工程通過性は良いが、繊維の集束性が良すぎて、より細かい繊維束に分散しにくく、炭素繊維による十分な補強効果を発揮できないという欠点がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、従来の上述した問題点を解決し、セメント系無機質材中で繊維束の分散性を向上させ、かつ、セメント系無機質材との接着性に優れたセメント系無機質材補強用炭素繊維およびそれを使った炭素繊維補強セメント系無機質材成形物を提供するにある。
【0010】
また、この発明の他の目的は、吹き付け成形時、カットされた繊維束がより小さい繊維束に分離、分散でき、成形物の補強効果が上がり、曲げ強度が向上するセメント系無機質材補強用炭素繊維の製造方法を提供するにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記のような目的を達成するために、この発明は、次の構成からなる。すなわち、水および/または分子量100〜600のポリエチレングリコールをサイジング剤として付着されてなり、かつ、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維である。また、下記一般式〔1〕で示される化合物をサイジング剤として付着されてなり、かつ、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維である。
R 1 O−POA−R 2 …〔1〕
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R 1 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種、R 2 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種または水素原子)
【0012】
また、本発明に係るセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、炭素繊維にサイジング剤として水および/または分子量100〜600のポリエチレングリコールを付着せしめた後、温度70〜250℃に加熱したローラの表面に接触通過させることによって水分の一部を除去しながら繊維形態をテープ状に扁平化して芯材に巻き上げること、または炭素繊維にサイジング剤として下記一般式〔1〕で示される化合物を付着せしめた後、温度70〜250℃に加熱したローラの表面に接触通過させることによって水分の一部を除去しながら繊維形態をテープ状に扁平化し、次いで温度70〜250℃の乾燥機内を通過させて残水分を除去し繊維形態を固定した後、芯材に巻き上げることによって製造できる。
【0013】
R1 O−POA−R2 …〔1〕
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R1 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種、R2 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種または水素原子)。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素繊維は、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用炭素繊維である。
【0015】
本発明の炭素繊維は、モルタルと同時に吹き付け成形する際、繊維の分散性が良くなり、モルタルの補強効果を向上させる。
【0016】
繊維束の扁平度が3より小さくなると圧縮空気の抵抗を受けにくくなり、繊維束がより小さい繊維束に分離しにくく、分散性が悪くなる。また、扁平度が500を超えると、ボビンからの解舒性が悪く、繊維の集束性が悪い上に圧縮空気の抵抗を大きく受けすぎて吹き付け時ファイバーボール状になり、分散斑が原因でモルタルの補強効果が低下する。繊維束のより好ましい扁平度は、5〜100である。繊維束の扁平度は、次式で求められる。
【0017】
扁平度=W/T
ただし、T:繊維束の厚み、W:繊維束の幅
さらに、その繊維束の交絡度は1以上25以下である。1より低いと繊維の集束性が悪く開繊しやすくなり、ボビンからの解舒性が悪く、糸切れ、吹き付け時のファイバーボール、ガン内での詰まりの原因となる。逆に、繊維の交絡度が25を超えると集束性が強すぎて吹き付けた際、繊維束がより小さい繊維束に分離しにくく、分散性が低下し、モルタルの補強効果が低下するため成形物の曲げ強度が低下する。繊維束のより好ましい交絡度は、1以上10以下である。
【0018】
繊維束の交絡度は、JIS−L1013化学繊維フィラメント糸試験方法の交絡度測定方法に準じて測定した。その測定方法は、試料の一端を適当な性能を有する垂下装置の上部つかみ部に取り付け、つかみ部より1m下方の位置に荷重(100gf)を吊り下げ、試料を垂直に垂らす。試料の上部つかみ部より1cm下部の点に糸束を2分割するようにフック(直径1mmの針金状)を挿入する。フックの他端には所定の荷重(10gf)を取り付け、約2cm/秒の速度でフックを下降させる。フックが糸の絡みにより停止した点までのフックの下降距離を求め、次式により求める。試験回数は50回とし、その平均値で表す。
【0019】
交絡度=L/1000
L:フックが下降した距離(mm)
本発明の炭素繊維は、繊維の水中沈降時間が1秒以上30秒以下であることが好ましい。詳しくは、深さ10cm、温度25℃の水の表面に長さ25cmの繊維束を置いた時点から自然沈降で底に着くまでの時間を測定し、沈降時間が1秒以上30秒以下であるセメント系無機質材補強用炭素繊維である。水中沈降時間が30秒を超えると水との馴染みが悪く、結果的にモルタルとの馴染みが悪くなり、繊維束の中にセメント粒子が入りにくく、モルタルとの接触面積が小さくなり、補強効果が低下する。より好ましくは水中沈降時間が4秒以上15秒以下が良い。
【0020】
さらに本発明の炭素繊維は、繊維束を圧力0.1MPa以上1MPa以下、好ましくは圧力0.1MPa以上0.3MPa以下の圧縮空気で型枠に吹き付けたとき繊維の拡散面積が50cm2 以上400cm2 以下であることが好ましい。圧縮空気の圧力が1MPaを超えると吹き付けた繊維が不規則に分離分散し、型枠からはみ出る繊維束が発生するため正確な評価ができない。また、圧力が0.1MPaより低いと吹き付けるすべての繊維が分離しないため、分散性の正確な評価ができない。
【0021】
また、繊維束を圧力0.1MPa以上1MPa以下の圧縮空気で型枠に吹き付けたとき繊維の拡散面積が50cm2 より低いと繊維の集束性が強いため、繊維は分離分散しにくく、モルタルとの接触面積が小さくなり、繊維束の中にセメント粒子が入り込みにくくなり、補強効果が低下する。逆に繊維の拡散面積が500cm2 を超えると繊維束の分散斑が発生し、均等に分散させることが難しく、成形物の強度が低下する。
【0022】
繊維の拡散面積とは、固定したダイレクトスプレー装置で1辺が100cmの鉄板の周囲を高さ2cmの角材で囲んだ鉄製型枠(容器)に0.1MPa以上1MPa以下の圧縮空気で繊維束とモルタルを同時に円形ノズルで50cmの高さから垂直真下の鉄製型枠面中央部に吹き付けると繊維とモルタルが一緒に円状に拡散付着するが、その時の最外周に存在する繊維間距離(直径)を測定し、円の面積(πr2 )として計算したものである。
【0023】
本発明の炭素繊維束に付着させるサイジング剤としては、水および/または分子量が100〜600のポリエチレングリコールとすることができる。付着させる水は安価でモルタルの水と馴染みやすいため、モルタル中で繊維の分散性が良くなる。また、ポリエチレングリコールも安価で水との馴染みが良いことから、モルタルとの馴染みが良く、繊維の集束性が良いことから扁平糸の形態保持性が良い。
【0024】
ポリエチレングリコールは、単独または水で希釈して用いても良い。サイジング剤としての水は、通常の飲料水、地下水、イオン交換水、フィルター濾過水等いずれでも良い。サイジング剤の付着量は、0.1〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましい。0.1重量%未満になるとダイレクトスプレー法での工程通過性が悪くなり、スプレーガン内で繊維束が開繊するため詰まりが発生する。また、吹き付けても繊維束の集束性が弱いためファイバーボール状になり、繊維の分散性が悪く、成形物の強度が低下する。付着量が20重量%を越えると繊維の水分率が高いため、集束性が強くなり、スプレーガンで吹き付けた時、繊維束がより小さい繊維束に分離せず元の繊維束の状態でモルタル中に存在し、繊維束の分散性が著しく悪くなり、成形物の強度が低下するため好ましくない。水には他に平滑剤、柔軟剤、希釈剤等の添加剤を加えるとより好ましい。
【0025】
ポリエチレングリコールは、100〜400の分子量が好ましい。分子量が100より小さいと繊維の集束性が不足し、繊維束が開繊してスプレーガン内での詰まりが発生する。また、400より大きいと繊維の集束性が強くなりすぎて繊維の分散性が低下し、セメント補強効果が悪くなる。ポリエチレングリコールの付着量は0.1〜20重量%であることが好ましい。より好ましい付着量は、0.5〜10重量%である。付着量が0.1重量%未満になるとダイレクトスプレー法での工程通過性が悪くなり、スプレーガン内で繊維束が開繊するため詰まりが発生する。また、吹き付けても繊維束の集束性が弱いためファイバーボール状になり、繊維の分散性が悪く、成形物の強度が低下する。付着量が20重量%を越えると集束性が強くなり、スプレーガンで吹き付けた時、繊維束がより小さい繊維束に分離せず元の繊維束の状態でモルタル中に存在し、繊維束の分散性が著しく悪くなり、成形物の強度が低下するため好ましくない。
【0026】
あるいは、本発明の炭素繊維束は、下記一般式〔1〕で示される化合物であることを特徴とするサイジング剤が付着しているセメント系無機質材補強用炭素繊維である。
R1 O−POA−R2 …〔1〕
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R1 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種、R2 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種または水素原子)。
【0027】
上記した一般式〔1〕で示した化合物からなるサイジング剤を付着させた炭素繊維は、セメントとの親和性、分散性、集束性にすぐれている。一般式〔1〕に示す化合物の基本構造は、ポリオキシアルキレン構造であり繊維の集束性、分散性、セメントとの親和性を向上させる。一般式〔1〕においてPOAは、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが単独で繰り返してなるポリオキシアルキレンでも良く、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドが共重合されてなるポリオキシアルキレンでも良い。
【0028】
一般式〔1〕においてPOAが単独のアルキレンオキサイドからなる場合、エチレンオキサイド(以下、「EO」と略記する場合がある。)またはプロピレンオキサイド(以下、「PO」と略記する場合がある。)が好ましく、EO単独がより好ましい。その繰り返し数は、4〜100の範囲が好ましく、より好ましくは4〜50が良い。nが2より小さいと、親水性が悪くモルタルとの馴染みが悪くなる。また、100より大きいと繊維の集束性が良すぎて吹き付け成形時、繊維の分散性が悪くなり補強効果が低下する。
【0029】
一般式〔1〕においてPOAが単独のアルキレンオキサイドからなる場合、一般式〔1〕のR1 はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアルケニル基のいずれか1種を用いることができるが、アルキル基としては、炭素数8〜20のアルキル基が好ましく代表的なものとしてオクチル基、デシル基、ドデシル基、ラウリル基、セチル基、ステアリル基などを挙げることができ、中でもブチル基がサイジング剤の溶解性、繊維の分散性、平滑性が良好であるため好ましい。アリール基の代表的なものとしてフェニル基、ナフチル基が挙げられる。さらに、アルキルアリール基としては、炭素数6〜20のアルキル基を有するものが好ましく、代表的なものとしてノニルフェニル基、ドデシルフェニル基、ラウリルフェニル基、オクチルフェニル基などを挙げられる。中でもノニルフエニル基が繊維の分散性および平滑性が良好であるため好ましい。
【0030】
さらに、アルケニル基としては炭素数6〜20のものが好ましく、代表的なものとしてオレイル基が好ましい。また、一般式〔1〕のR2 はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基もしくはアルケニル基のいずれか1種または水素原子であるが水素原子が好ましく用いられる。なお、アルキル基としては、炭素数8〜20のアルキル基が好ましい。また、アリール基の代表的なものとしてフエニル基、ナフチル基等が挙げられる。さらに、アルキルアリール基としては炭素数6〜20のアルキル基を有するものが好ましく、代表的なものとしてノニルフェニル基ドデシルフェニル基、ラウリルフェニル基、オクチルフェニル基等が挙げられる。さらにアルケニル基としては炭素数6〜20のものが好ましく、代表的なものとしてオレイル基が好ましい。
【0031】
一方、一般式〔1〕のPOAが共重合物からなる場合、その結合形態としては、ブロツクまたはランダム配列が好ましく、より好ましくはランダム配列が良い。ランダム配列させると水溶解性が向上する他、モルタル成形時泡立ちが少ないため成形物中の気泡量が少なく、かつ親水性が向上するため単繊維の間にセメント粒子が入り込み成形物の曲げ強度が向上するので特に好ましい。好ましくは、一般式〔1〕において、POAが、C2 〜C4 のアルキレンオキサイド単独からなるポリオキシアルキレンまたはエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合物若しくはランダム共重合物が好ましい。EO/POの好ましい共重合比は、モル比が90:10〜10:90の範囲、好ましくはEO/POのモル比が40:60〜60:40の範囲である。EO/PO共重合物の場合は、POの成分が上記の範囲より多いと疎水性が大きくなりすぎ炭素繊維とセメントとの親和性が低下し、炭素繊維とセメント粒子との馴染みが悪いため単繊維の間にセメント粒子が入りにくくなることがある。上記範囲の共重合比をとることにより水溶性が高くなりモルタル成形時泡立ちが少ないため成形物中の気泡量が少なく、かつ親水性が向上するため単繊維の間にセメント粒子が入り込み成形物の曲げ強度が向上するので好ましい。
【0032】
一般式〔1〕のPOAが共重合物からなる場合、アルキレンオキサイドの繰り返し数は共重合成分のそれぞれを合計して4〜100であることが好ましく、4〜50がより好ましい。nが4より小さい場合、親水性が悪くモルタルとの馴染みが低下する。また、100より大きい場合は繊維の集束性が良すぎて吹き付け成形時繊維の分散性が悪くなり補強効果が低下する。
【0033】
一般式〔1〕のPOAが共重合物からなる場合、R1 はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアルケニル基のいずれか1種を用いることができる。アルキル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、代表的なものとしてエチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ラウリル基、セチル基、ステアリル基などを挙げることができ、中でもブチル基がサイジング剤の溶解性、繊維の分散性、平滑性が良好であるためより好ましい。アリール基の代表的なものとしてフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0034】
さらに、アルキルアリール基としては、炭素数6〜20のアルキル基を有するものが好ましく、代表的なものとしてノニルフェニル基、ドデシルフェニル基、ラウリルフェニル基、オクチルフェニル基などを挙げられる。中でもノニルフエニル基が繊維の分散性および平滑性が良好であるため、より好ましい。
【0035】
アルケニル基としては炭素数6〜20のアルキル基を有するものが好ましく、代表的なものとしてオレイル基が挙げられる。次にR2 はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基若しくはアルケニル基のいずれか1種または水素原子であるが、炭素数2〜20のアルキル基または水素原子が好ましく用いられる。炭素数2〜20のアルキル基の代表的なものとしてエチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ラウリル基、セチル基、ステアリル基が挙げられる。
【0036】
一般式〔1〕で示される化合物は単独でもよいが他の化合物と混合させても良い。混合させる場合は、一般式〔1〕で示される化合物が少なくとも10〜100%の範囲で、より好ましくは75〜100%の範囲で含むサイジング剤を炭素繊維に付着させることが好ましい。一般式〔1〕で示される化合物が10%より少ないサイジング剤では繊維の集束性が悪く、セメントとの親和性が大きく低下し、炭素繊維による十分な補強効果が発揮出来ない。
【0037】
一般式〔1〕で示される化合物と混合させるものは、例えばエポキシ、不飽和ポリエステル、平滑剤、柔軟剤、希釈剤、界面活性剤等の添加剤を加えることができる。
【0038】
サイジング剤の付着量は、繊維の集束性とダイレクトスプレー法での工程通過性を良好なものとし、スプレーガン内での繊維の開繊による詰まりを防止する観点から0.1〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。0.1%以下になると、ダイレクトスプレー法での工程通過性が悪くなり、スプレーガン内で繊維束が開繊するため詰まりが発生する。また、吹き付けても繊維束の集束性が弱いためファイバーボール状になり、繊維の分散性が悪く、成形物の強度が低下する。付着量が20%を越えると集束性が強くなり、スプレーガンで吹き付けた時、単繊維本数100〜3000本程度の繊維束に分離せず、元の繊維束のままでモルタル中に存在し、繊維束の分散性が著しく悪くなり、成形物の強度が低下するため好ましくない。
【0039】
本発明の炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維である。ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、アクリロニトリルを溶媒DMSO中で重合開始剤により重合反応させた高分子ポリマーを湿式または乾式または乾湿式紡糸により製造することができる。
【0040】
このポリアクリロニトリル繊維を200〜300℃の温度で耐炎化処理し、次いで温度850〜1300℃で炭化焼成し炭素繊維を得る。このポリアクリロニトリル系炭素繊維は、繊維が緻密で高強度、高弾性率、耐薬品性が高いことからセメント等の補強にも他の繊維を使うより高性能な成形物ができる。
【0041】
本発明のセメント系無機質材補強用炭素繊維の製造方法は、単繊維本数が1000本以上24000本以下の撚りの無いポリアクリロニトリル系繊維を上述の方法で撚りが入らないように平溝ローラを用いて耐炎化処理し、次いで繊維束を3〜10mmの幅に広げた状態にしながら850〜1300℃の温度で炭化焼成することにより交絡度が1〜25の繊維が得られる。この繊維にサイジング剤として水およびポリエチレングリコールをディップ方式で付着せしめた後、温度70〜250℃に加熱したホツトローラの表面に接触通過させることによって余分な水分を蒸発させ、水分率を0.1〜20重量%に、好ましくは1 〜10重量%にすることにより、扁平度を好ましくは3〜500に、より好ましくは5〜100に扁平化した後、芯材に巻き上げることによって製造できる。
【0042】
ホットローラの温度が70℃未満になると水分の蒸発が少ないため水分が多くなり、繊維形態をテープ状に扁平化することができなくなる。さらに、ボビンに巻き上げる際、水分が多くなりすぎると巻き形状が悪くなり、解舒性も悪くなる他、繊維の分散が悪くなり、セメントの補強効果が低下する。また、ホットローラの温度が250℃を越えると水分の蒸発が多くなりすぎて、繊維の集束性が低下し、ボビンからの解舒性、吹き付け時の工程通過性が悪く、繊維がファイバーボール状になり、モルタルの補強効果が低下する。ホットローラの温度は100〜160℃が繊維束をテープ状に扁平化させやすい水分率になるため、より好ましい。なお、サイジング剤として分子量が100〜400のポリエチレングリコールを単独で用いる場合はホットローラで扁平化した後、芯材に巻き上げる。
【0043】
上記サイジング剤に水または平滑剤、柔軟剤、希釈剤、界面活性剤等の添加剤を加えて希釈した場合は、ディップ方式で付着させた後、温度70〜250℃のホットローラに接触させ余分な水分を蒸発させて扁平化した後、繊維の残水分を除去するため温度70〜250℃の乾燥炉を通過させて芯材に巻き上げても良い。
【0044】
本発明のセメント系無機質材補強用炭素繊維の製造方法は、上記ポリアクリロニトリル系炭素繊維に次式R1 O−POA−R2 (ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R1 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種、R2 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種または水素原子)のサイジング剤をディップ方式で付着せしめた後、温度70〜250℃に加熱したホットローラの表面に接触通過させることによって余分な水分を蒸発させ、サイジング剤付着量を0.1〜10重量%に、好ましくは1〜5重量%にすることにより、扁平度を3〜500に、好ましくは5〜100に扁平化した後、次いで温度70〜250℃の乾燥機内を通過させて残水分を除去し繊維形態を固定した後、芯材に巻き上げることによって製造できる。
【0045】
ホットローラの温度が70℃以下になると水分の蒸発が少ないため水分が多くなり、繊維形態をテープ状に扁平化することができなくなる。ホットローラの温度が250℃以上になると水分の蒸発が多くなりすぎて、繊維の集束性が低下し、ボビンからの解舒性、吹き付け時の工程通過性が悪く、繊維がファイバーボール状になり、モルタルの補強効果が低下する。ホットローラの温度は100〜160℃が繊維束をテープ状に扁平化させやすい水分率になるため、より好ましい。繊維の水分を除去し、繊維形態を固定するための乾燥機の温度は70〜250℃であるが、温度が70℃より低いとサイジング剤の乾燥不足から繊維の目付けが不安定となる他、乾燥時間がかかり製造コストが高くなる。温度が250℃より高いとサイジング剤の成分が揮散し、繊維の性能が低下し、CFRCの曲げ強度が低下するため好ましくない。より好ましい乾燥温度は、100〜230℃である。
【0046】
本発明のセメント系無機質材製部材は、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であるセメント系無機質材補強用炭素繊維で補強したものである。セメント系無機質材製部材とは、たとえば壁材、型枠、板材などが挙げられる。
【0047】
壁材としては、間仕切り壁、間仕切り材、壁下地材、壁パネル、など壁構成物が挙げられる。また、型枠としては、柱型枠、型枠壁、梁型枠、基礎型枠、永久型枠などの枠状物が挙げられる。さらに板材としては、内壁、外壁、間仕切り、屋根、天井、庇、床などの板状物が挙げられる。
【0048】
本発明のダイレクトスプレー法で成形する炭素繊維補強セメント系無機質材成形物の製造方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の炭素繊維をボビンから引き出し、ダイレクトスプレーガンで連続的に切断し、セメント系無機質材と同時に型枠に吹き付けることにより成形できる。
【0049】
炭素繊維をボビンから引き出す方法は、ボビンの外から解舒する方法、ボビンの内側から解舒する(インサイドプル)方法があり、どちらでもよいがボビンの内側から解舒する(インサイドプル)方法が解舒抵抗が小さいため好ましい。
【0050】
ダイレクトスプレーガンに供給された炭素繊維は、長さ3〜50mmに切断され、定量ポンプで移送されてくるモルタルと同時に型枠に吹き付けられる。繊維の長さが3mmより短いとモルタル補強効果が小さくなり成形物の強度が低下する。また、50mmより長いと繊維の絡みが強くなり、分散性が低下し、成形物の強度が低下する。
【0051】
吹き付ける繊維の量は、モルタルとの重量比で好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%となるようにダイレクトスプレーガンへ連続的に供給するのがよい。供給する繊維量が0.1重量%より少なくなると断面積当りのマトリックス強度より繊維強度が小さいため繊維の破断により成形物の補強効果が低下することがある。また、繊維量が10重量%を越えると繊維混入率が大きくなるとともに空気混入率が大きくなり、マトリックス強度が低下するため成形物の曲げ強度が低下することがある。
【0052】
切断された繊維と同時に吹き付けるモルタルは、セメント、水、骨材との混合物が適用できる。
【0053】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強セメント、低収縮セメント、混合セメント、特殊セメント等が挙げられるが、通常用いられる普通ポルトランドセメントが安価であるため好ましい。骨剤としては、砂、ケイ砂、フライアッシュ、シラスバルーン、シリカなどの細骨材などが挙げられる。また、混和剤として減水剤、遅延剤、促進剤、急結剤、増粘剤などが挙げられ、必要に応じて使用することができる。
【0054】
また、本発明のスプレー脱水法で成形する炭素繊維補強セメント系無機質材成形物の製造方法は、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維を巻き上げたボビンより引き出し、セメント系無機質材との重量比で好ましくは2〜5%となるようにスプレーガンへ連続的に供給し、スプレーガン内のカッターで切断しながらポンプで移送されてくるモルタル、水、骨材、と混合させたセメント系無機質材と同時に型枠または微細孔を有するベルトの上にトラバースしながら吹き付け、真空装置により余分な水を除去し、水/セメント比を調整することにより製造できる。
【0055】
炭素繊維をボビンから引き出す方法、ダイレクトスプレーガンに供給された炭素繊維の長さ、吹き付ける繊維の量は、前記したダイレクトスプレー法で成形する炭素繊維補強セメント系無機質材成形物の製造方法が適用できる。
【0056】
カットされた繊維とモルタルは、同一のノズルから吹き付けられ、連続的に一定速度で移動するベルトの上に幅方向にトラバースしながら吹き付ける。ベルトの上に吹き付けられたモルタルは、真空装置によりモルタルの水分を吸引し、水分率を調整しながら成形する。
【0057】
切断された繊維と同時に吹き付けるモルタルも前記したダイレクトスプレー法で成形する炭素繊維補強セメント系無機質材成形物の製造方法が適用できる。
【0058】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0059】
実施例1
単繊維の太さが1デニール、単繊維本数が12000本の撚りの無いアクリル系繊維を250℃の空気中で加熱し、延伸倍率1.05で延伸しながら水分率が4.0%の酸化繊維を得た。この酸化繊維を1400℃の窒素雰囲気中で炭素化することによって炭素繊維を得た。サイジング剤として、水をディップ方式で付着させ、次いで温度150℃の加熱ローラに接触通過させて、扁平度15、交絡度1.2、サイジング剤付着量が10%の炭素繊維を得た。この炭素繊維の水中沈降時間は6秒であった。生産性は安定しローラ表面への毛羽の付着もなくボビンへの巻き揚げ性は良好であった。この炭素繊維の引張強度は5000MPa、弾性率は230GPa、伸度2.2%で、水中沈降時間は6秒であった。
【0060】
この炭素繊維をダイレクトスプレー法により成形するためのモルタルは、普通ポルトランドセメント1082gに対して水を512g添加して水/セメント比を47.3重量%とし、細骨剤として粉末硅石をセメントに対して25.3重量%投入し、混和剤としてAE減水剤をセメントに対して2.0重量%添加混合して製造した。
【0061】
該炭素繊維をボビンから引き出し、ダイレクトスプレーガンのローターでガン内に給糸し、カッターで連続的にカットしてポンプで移送されてきたモルタルとのトータル重量比で3%となるように圧縮空気で型枠に吹き付けた。吹き付ける際、繊維束の工程通過性が良好で大きな繊維束はさらに小さな繊維束に分離した。
【0062】
圧力0.2MPaの圧縮空気で繊維束を吹き付け繊維の拡散面積を測定すると250cm2 で型枠面へ均一に繊維束が分離分散していた。
【0063】
吹き付け成形物は厚さ10mm、縦400mm、横400mmの板状にして、温度25℃湿度65%で3時間気中養生した。ついで室温で28日間自然養生して、厚さ10mm、幅40mm、長さ160mmの測定サンプルを製作した。成形物の横断面を切断し、顕微鏡で観察すると単繊維間にセメント粒子が入っていることから、セメントとの馴染みが良好であった。この成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0064】
実施例2
実施例1と同様の炭素繊維にサイジング剤として、分子量400のポリエチレングリコールをディップ方式で2.0重量%付着させ、次いで温度150℃の加熱ローラに接触通過させて、扁平度18、交絡度1.3の炭素繊維を得た。生産性は安定しローラ表面への毛羽の付着もなくボビンへの巻き揚げ性は良好であった。この炭素繊維の引張強度は4900MPa、弾性率は230GPa、伸度2.1%で、水中沈降時間は7秒であった。この炭素繊維をダイレクトスプレー法で吹き付けた繊維拡散面積は240cm2 で成形物は厚さ10mm、縦400mm、横400mmの板状にして、温度25℃湿度65%で3時間気中養生した。ついで室温で28日間自然養生して、厚さ10mm、幅40mm、長さ160mmの測定サンプルを製作した。成形物の横断面を切断し、顕微鏡で観察すると単繊維間にセメント粒子が入っていることから、セメントとの馴染みが良好であった。この成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0065】
実施例3
実施例1と同様の炭素繊維にサイジング剤として、次式の化合物(オレイルエーテル)C18H35O−(EO)8-Hを用い、濃度4%水溶液が入っている槽の中に上記炭素繊維をディップ方式で2.0重量%付着させ、次いで温度150℃の加熱ローラに接触通過させた後、150℃の乾燥機を通過させ残水分を除去した後ボビンに巻き取り、扁平度20、交絡度1.4の炭素繊維を得た。生産性は安定しローラ表面への毛羽の付着もなくボビンへの巻き揚げ性は良好であった。この炭素繊維の引張強度は5100MPa、弾性率は229GPa、伸度2.3%で、水中沈降時間は6.2秒であった。
【0066】
この炭素繊維を実施例1と同様の方法で吹き付け成形した繊維の拡散面積は260cm2 で型枠面へ均一に繊維束が分離分散していた。この成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0067】
実施例4
実施例1と同様の炭素繊維にサイジング剤として、次式の化合物(オレイルエーテル)C18H35O−(EO)8-Hを用い、このサイジング剤の濃度4%水溶液が入っている槽の中に上記炭素繊維をディップ方式で2.0重量%付着させ、次いで温度150℃の加熱ローラに接触通過させた後、150℃の乾燥機を通過させ残水分を除去した後ボビンに巻き取り、扁平度19、交絡度1.5の炭素繊維を得た。生産性は安定しローラ表面への毛羽の付着もなくボビンへの巻き揚げ性は良好であった。この炭素繊維の引張強度は4950MPa、弾性率は232GPa、伸度2.2%で、水中沈降時間は6秒であった。
【0068】
実施例1と同様の炭素繊維とモルタルを用いて繊維の添加量がモルタルに対する重量比で2.0%になるようにスプレーガンへ連続的に供給し、スプレーガン内のカッターで切断しながらポンプで移送されてくるセメント、水、骨材と混合させたセメント系無機質材と同時に型枠または微細孔を有するベルトの上にトラバースしながら吹き付け、真空装置により余分な水を除去し、水/セメント比を調整しながら成形した。圧縮空気で吹き付けた繊維の拡散面積は240cm2 であった。成形物は厚さ10mm、縦400mm、横400mmの板状にして、温度25℃湿度65%で3時間気中養生した。ついで室温で28日間自然養生して、厚さ10mm、幅40mm、長さ160mmの測定サンプルを製作した。この成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0069】
比較例1
実施例1の連続炭素繊維をビスフェノールA型エポキシ樹脂(“エピコート”1004(油化シェルエポキシ製))にエチレンオキサイド30モルを付加させた化合物の水分散液で濃度4%の水溶液中に通過させディップ方式で2.0%付着させ、200℃の温度で乾燥した。この繊維の扁平度は2.5、交絡度は35であった。圧縮空気で吹き付けた時の繊維拡散面積は40cm2 であった。
【0070】
実施例1と同様のモルタルおよび成形方法により型枠に吹き付け成形しサンプルを製作した。吹き付け時、繊維の集束性が強いため繊維束がさらに小さい繊維束に分散しなかった。また、顕微鏡による断面観察では単繊維間に入ったセメント粒子が少なかった。繊維束のモーメントおよび成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0071】
比較例2
実施例1の連続炭素繊維にビスフェノールA型エポキシ樹脂(“エピコート”828(油化シェルエポキシ製))濃度4%水分散液の中に炭素化した繊維を通過させディップ方式で付着量を2.0重量%とした。この繊維の扁平度は2.1、交絡度は31であった。
【0072】
プリミックス法で成形するため、普通ポルトランドセメント1082gをオムニミキサーに投入し、細骨剤として粉末硅石をセメントに対して25.3重量%投入し、長さ6mmに切断した炭素繊維をモルタルに対して重量比で2.0%添加した。この状態で一端撹拌混合させた。次いで、水を512g添加して水/セメント比を47.3重量%とし、混和剤としてAE減水剤をセメントに対して2.0重量%添加混合してモルタルを製造した。
【0073】
このモルタルを厚さ10mm、縦400mm、横さ400mmの板状になる型枠に流し込み、温度25℃湿度65%で3時間気中養生した。ついで室温で28日間自然養生して、厚さ10mm、幅40mm、長さ160mmの曲げ強度測定サンプルを製作した。
【0074】
成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0075】
比較例3
市販のピッチ系炭素繊維を用いて、実施例1と同様のモルタルおよびダイレクトスプレー法により成形したサンプルを製作した。ピッチ系炭素繊維の扁平度は2.3、交絡度は28で、吹き付け時の繊維拡散面積は45cm2 であった。繊維の集束性が強いためか繊維束がさらに小さい繊維束に分散しなかった。成形物の曲げ強度について測定した結果を表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
【発明の効果】
本発明の炭素繊維は、扁平度3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることにより、吹き付け成形すると繊維がより小さい繊維束に分離、分散して繊維の拡散面積が大きくなる。すなわち、繊維の分散性が向上し、セメント系無機質材との接触面積が多くなりセメント成形物の補強効果が向上して、成形物の力学的特性が優れたものとなる。
Claims (10)
- 水および/または分子量100〜600のポリエチレングリコールをサイジング剤として付着されてなり、かつ、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
- 下記一般式〔1〕で示される化合物をサイジング剤として付着されてなり、かつ、繊維束の扁平度が3以上500以下で、その交絡度が1以上25以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
R 1 O−POA−R 2 …〔1〕
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R 1 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種、R 2 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種または水素原子) - 請求項1または2に記載の炭素繊維であって水中沈降時間が1秒以上30秒以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維であって圧力0.1MPa以上1MPa以下の圧縮空気で型枠に吹き付けたとき繊維の拡散面積が50cm2 以上400cm2 以下であることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
- 該サイジング剤の付着量が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維。
- 炭素繊維に水および/または分子量100〜600のポリエチレングリコールをサイジング剤として付着せしめた後、温度70〜250℃に加熱したローラの表面に接触通過させることによって水分の一部を除去しながら繊維形態をテープ状に扁平化した後、芯材に巻き上げることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
- 炭素繊維に下記一般式〔1〕で示される化合物をサイジング剤として付着せしめた後、温度70〜250℃に加熱したローラの表面に接触通過させることによって水分の一部を除去しながら繊維形態をテープ状に扁平化し、次いで温度70〜250℃の乾燥機内を通過させて残水分を除去し繊維形態を固定した後、芯材に巻き上げることを特徴とするセメント系無機質材補強用ポリアクリロニトリル系炭素繊維の製造方法。
R 1 O−POA−R 2 …〔1〕
(ここで、POA:炭素数2〜4の少なくとも1種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリオキシアルキレン、R 1 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種、R 2 :アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アルケニル基のいずれか1種または水素原子) - 請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維をモルタルに添加し、補強されてなることを特徴とする炭素繊維補強セメント系無機質材製部材。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維をボビンから引き出し、連続的に切断し、セメント系無機質材と同時に型枠に吹き付けるダイレクトスプレー法により成形することを特徴とする炭素繊維補強セメント系無機質材成形物の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維をボビンから引き出し、連続的に切断しながらセメント系無機質材と同時に型枠または微細孔を有するベルトの上に吹き付け、減圧下で水分を除去し、水/セメント比を調整するスプレー脱水法により成形することを特徴とする炭素繊維補強セメント系無機質材成形物の製造方法。
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