JP3894734B2 - 繊維状結晶体及びその製造方法と該結晶体の回収材としての使用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川、湖沼、又は、海上で流出油を効率よく吸着し、固形化する繊維状集合結晶体とその製造方法、その流出油回収剤としての使用、及び流出油を前記回収材を用いて固形化、回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油化学工業の規模が年々拡大され、有機化合物が大量生産、大量消費されるようになったことに伴い、各種化学工場、石油化学コンビナートやタンカーの事故による河川、湖沼、海洋等の汚染、火災、爆発事故など、人類、生物の生存をも脅かす公害や事故が世界的に頻発しており、石油化学物質をはじめとする有機化合物の安全な取り扱い、輸送、備蓄、事故発生後の適切な処理が大きな問題となっている。これらの公害、事故に対する根本的な対策の1つは安全に反応、貯蔵もしくは輸送が行える装置を設計することによって、事故そのものを起こさないことであるが、もう一方、次善の対策になるが、事故が起こったときに、速やかに適切な処置を行うことが必要である。
化学工場、石油化学コンビナートやタンカーの事故により水面が汚染されたとき、従来は、多くの場合、そのまま放置して自然に蒸発、希釈、分解されるのを待つか、界面活性剤等を大量に散布して強制的に希釈してしまうかの、何れかの方法が採られてきたが、長期ないしは短期のいずれの視点からも環境に悪影響を及ぼすのは避けられず何れも満足できる方法とは言い難い。オイルフェンスを用いて流出油を囲い込み、油回収船で、汚染された海水と一緒に汲み上げ、密度差によって分離して、海水を海に戻す方法も行われているが、効率は悪く、結果的には流出油の大半は拡散して回収不可能となり、そのまま放置されている。
海水中に生息する微生物を用いて、流出油を分解する試みもなされているが、未だ実験段階で、実用化には程遠い。
【0003】
このような現状を考慮すると、河川、湖沼、海上に流出した油を、できるだけそのままの形で、速やかに、吸着、回収する技術の開発が望まれる。しかし、水上、水中に広範囲に容易に拡散する油の特性を考えると、機械的、物理的な回収は極めて困難だと思われる。また、油が流出した水中で何らかの化学反応を起こさせ、流出油を他の安全な物質に変えてしまうことは、一見、望ましい方法のようにも見えるが、広い海洋中等で未知の新たな物質を大量に生産し、分散させてしまう可能性も大きく、従って、化学反応を伴う方法は避けなければならない。このように考えると、物理化学的な手段を用いて、そのままの形で吸着、回収する方法が、最も好ましいと考えられる。
【0004】
海面に流出した油の吸着材が備えるべき条件としては、▲1▼海水中の塩分で機能が損なわれずに作用し、油とともに吸着材が容易に回収でき、回収された吸着材のリサイクル使用が可能であること、▲2▼化学的に比較的安定であること、▲3▼大量に使用されることが想定されるので、安全かつ無害な物質であり、万一、海洋への流出が発生し回収が困難となっても、それ自体が海洋に棲む生物及び環境に対し悪影響を及ぼす危険が少ないこと、などが挙げられる。
更に、河川、湖沼等の淡水、硬水中に油が流出した場合には、それぞれの水に含まれるイオンの種類、濃度に影響を受けることなく、吸着剤が効率良く流出油に作用して、上記海水中と同様の働きをすることが必要である。
このような物理化学的吸着材は、ゲル化剤として市販されているものも含めて甚だ効率が悪く、十分に実用化されているとは言い難い。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明は、上記のような条件を満足する油類吸収材として使用しうる新しい繊維状集合結晶体を提供することを目的とする。また、本発明は前記繊維状集合結晶体をカルボン酸金属塩より製造する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、河川、湖沼、もしくは海上に流出した油類を物理化学的吸着によって効率よく回収しうる方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、種々の長さのアルキル基を有するカルボン酸系化合物の水中における溶解、乳化、分散挙動について検討する過程で、これらのカルボン酸系化合物が高温では完全に水に溶解すること、完全に溶解した後に塩化ナトリウム水溶液を高温で加えることによっても完全に溶解した状態が保たれること、完全溶解状態から撹拌、徐冷することによって、初めて、カルボン酸系化合物は微細、均一な繊維状で集合した結晶体となって析出すること、更に、このような繊維状集合結晶体が、特に効率よく各種純粋炭化水素、軽質油、重質油などの混合油類を吸着することを見出した。本発明はこの知見に基づき検討を重ね、なされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、
(1)純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させ形成したことを特徴とする結晶体、
(2)(1)記載の繊維状集合結晶体よりなる河川、湖沼、もしくは、海上へ流出した油の回収材、
(3)純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、塩化ナトリウム水溶液を加え、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させたことを特徴とする結晶体、
(4)(3)記載の繊維状集合結晶体よりなる河川、湖沼、もしくは、海上へ流出した油の回収材、
(5)(2)又は(4)記載の繊維状集合結晶体よりなる回収材を用いて、河川、湖沼、もしくは、海上へ流出した油を固形化することを特徴とする流出油の回収方法、
(6)(5)記載の方法により得られた、流出油を含んだ固形化物を加熱して分解し、もとの脂肪族カルボン酸金属塩及び流出油に分離し、回収することを特徴とする流出油の回収方法、
(7)純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させることを特徴とする繊維状結晶体の製造方法、及び
(8)純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、塩化ナトリウム水溶液を加え、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させることを特徴とする繊維状結晶体の製造方法
を提供するものである。
本発明の繊維状集合結晶体とは微細な1本の繊維状結晶が無数に集合したものであり、繊維状結晶の1本の太さは1μm以下、長さは50〜1000μm、好ましくは100〜500μmである。また、1本の繊維状結晶は、更に細い多数の繊維状結晶より構成されている。
なお、本発明の油類を吸収して固形化する繊維状集合体からなる結晶体は、脂肪族カルボン酸金属塩を純水中で加熱溶解し、もしくは、更に塩化ナトリウム水溶液を加えた後、撹拌、徐冷することによって形成される。この集合体は、通常室温以下で長期間安定に繊維状集合結晶体の分散状態を維持するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において用いる脂肪族カルボン酸金属塩(本発明では、カルボン酸金属塩ということがある)は、直鎖状のアルキル鎖を有するカルボン酸の金属塩である。カルボン酸金属塩の炭素数は、8〜22、好ましくは10〜18である。金属の種類は、好ましくはナトリウム、カリウム、である。即ち、加熱によって純水中に完全に溶解し、且つ、そのままもしくは塩化ナトリウム水溶液を加えて撹拌、徐冷することによって繊維状に析出することが出来るだけの、適度な長さのアルキル鎖長を有していることが必要である。
直鎖のアルキル基を有するカルボン酸ナトリウムの場合、炭素数が8〜10の場合には、加える塩化ナトリウムの濃度を濃くし、或いは、室温以下で冷却することが必要となることもある。炭素数が19以上の場合には、完全溶解のために100℃以上に温度を上げたり、塩化ナトリウム濃度を低くする等の工夫が必要となる。
直鎖のアルキル基を有するカルボン酸カリウムの場合もこれに準ずる。
脂肪族カルボン酸としては直鎖のアルキル鎖をもつものが好ましい。
本発明で用いることのできるカルボン酸金属塩として、具体的には例えば、オクタン酸ナトリウム、ノナン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ウンデカン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、トリデカン酸ナトリウム、テトラデカン酸ナトリウム、ペンタデカン酸ナトリウム、ヘキサデカン酸ナトリウム、ヘプタデカン酸ナトリウム、オクタデカン酸ナトリウム、テトラデカン酸カリウム、ヘキサデカン酸カリウム、オクタデカン酸カリウムなどがあげられる。
脂肪族カルボン酸ナトリウムは、古くから、石鹸として用いられ、その安全性は証明されているものである。脂肪族カルボン酸カリウムも、薬用石鹸として広く用いられ、やはり安全性が証明されている。更に、ナトリウム、カリウムは、本来、海水中に大量に含まれ、万一海洋中に流出、残存しても、環境に悪影響を与えるものではない。また、河川、湖沼中にも種々の濃度で含まれており、既に含まれている程度の濃度であれば、万一流出、残存しても、環境に悪影響を与えるものではない。
【0009】
本発明で用いる塩化ナトリウム水溶液は、純水に種々の量の塩化ナトリウム結晶を溶解させて作られる。僅かに水に溶けている低濃度から、溶解度の上限まで、一般に何れの濃度でも有効であるが、肝腎なことは、カルボン酸金属塩との組み合わせによって、繊維状の集合体として結晶体が析出するのに必要な濃度以上であり、且つ、析出した繊維状集合結晶体が、それぞれの用途に応じて有効に流出油と反応することである。また、必ずしも純粋の塩化ナトリウムである必要はなく、海水や天然水の構成成分であって、人間やその他の生物に無害な金属塩で、溶解したカルボン酸塩を析出させるだけの濃度を有していればよい。また、海水そのものや、人工海水をそのまま用いても良い。
【0010】
本発明の繊維状集合結晶体の製造方法においては、上記カルボン酸金属塩を先ず完全に純水中に溶解させること、次いで、必要に応じて、金属イオンを含有する水溶液を加えて完全に混合すること、次いで、混合しながら徐冷することによって、水溶液中に繊維状集合体として結晶を析出させることが特に重要である。この繊維状集合体としての結晶を用いることによって、流出油類を極めて効率よく吸着し、巨視的な塊として回収することが可能となる。これは、カルボン酸金属塩の繊維状集合体としての結晶が、表面積が大きいため、流出油を効率的に吸着し、この油吸着体が互いにファンデルワールス力によって引き合って結合して成長し最終的には容易に網や手を使っても回収できる固形状物となるためであると考えられる。
【0011】
本発明方法において繊維状集合結晶体を形成させて流出油類吸収材を製造する実施態様は、以下の通りである。
▲1▼カルボン酸金属塩を純水中に加えて加熱、完全に溶解後、激しく撹拌しながら徐々に室温まで冷却させる方法
▲2▼カルボン酸金属塩を純水中に加えて加熱、完全に溶解後、予め加熱して置いた塩化ナトリウム水溶液を加え、激しく撹拌しながら徐々に室温まで冷却させる方法
▲3▼上記▲2▼の方法の、塩化ナトリウム水溶液の代わりに、種々の金属塩水溶液、もしくは海水、もしくは人工海水を用いる方法
▲4▼上記▲2▼もしくは▲3▼の方法の、室温まで冷却させた後、更に0℃付近に長時間保って、繊維状集合体からなる結晶体を析出させる方法
などがある。また、
▲5▼上記▲1▼〜▲4▼の方法を用いて、複数の種類のカルボン酸塩の混合繊維状集合物の結晶体を析出させる方法
等がある。
【0012】
本発明における繊維状集合結晶体を析出させる際のカルボン酸金属塩/水のモル比は、0.1/1000〜10/1000、好ましくは0.5/1000〜2/1000である。また、集合結晶体析出時の塩化ナトリウム/水のモル比は、好ましくは0/1000〜加熱時の飽和濃度である。
【0013】
さらに実施態様を説明すると本発明においては先ず純水中にカルボン酸塩を完全に溶解させるために加熱を行う。加熱温度は、用いるカルボン酸金属塩の種類により異なるが、例えばペンタデカン酸ナトリウムからオクタデカン酸ナトリウムの場合には、90℃〜99℃で30分程度加熱する。炭素鎖長の短いカルボン酸塩の場合には、更に低温の加熱でもよい。炭素鎖長の長いカルボン酸塩の場合には、耐圧容器を用いて100℃以上に加熱することが必要な場合もある。いずれの場合にも加熱することによってカルボン酸金属塩が完全に溶解した後、激しく撹拌するか、もしくは、加熱した塩化ナトリウム水溶液もしくは各種金属塩水溶液を加えた後、激しく撹拌する。室温に低下するまで激しい撹拌を継続する。
上記のようにすることで、極めて微細な繊維状の、結晶集合体を析出させることができる。
この形成された繊維状集合結晶体は、遠心分離等の通常の手段で、あるいは集合体を金属塩水溶液中からすくいあげることによっても、海水等と分離できるが、通常は水中に分散したままの状態で使用する。この繊維状集合結晶体は形成された後は極めて安定であり、長期間室温に保持しても、或いは高温下でも、通常、安定に保持される。例えばペンタデカン酸ナトリウムより得られた繊維状集合結晶体の場合には、通常60℃程度までは極めて安定である。
【0014】
上記の本発明方法により形成した繊維状集合結晶体は、例えば重油で汚染された海水中に投入するだけで、選択的に重油を吸着する。繊維状集合結晶体に対して重油の割合が多すぎない範囲では、実質的に重油を全て吸着し、浄化された海水上に浮遊する。重油を吸着した後の繊維状集合結晶体は、重油の割合が小さいときには微粒子状集合体として、重油の重量比が繊維状集合結晶体の数倍に達してからは、全体として堅い強固な球状塊(あるいは玉子状の)として海上に浮遊する。これは固形状を保ち、網や熊手等を用いる通常の手段で、海水中からすくいあげることによって海水と分離できる。
本発明の繊維状集合結晶体からなる回収材が吸着、回収しうる油類としては、A重油、C重油、原油、流動パラフィン、軽油、灯油等の混合油、精製された各種炭化水素、即ちn−パラフィン類、オレフィン類、分岐状パラフィン類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類などがあげられる。回収しようとする油類の種類にもよるが、通常、本発明の繊維状集合結晶体1gに対し10gから30gの油類を吸着させることができる。本発明の繊維状集合結晶体に油類を吸着させるには、好ましくは1分以上、油類と繊維状集合結晶体を接触させればよく、緩やかに振蕩するのがさらに好ましい。
【0015】
油類を吸着した後の固形化物(固形状集合体)は、重油の場合を除き、流出水から分離、回収後、水を加え、加熱することによって、カルボン酸金属塩と回収した油類の各成分に分離することができる。カルボン酸金属塩は分離して水の側に移行し、油類は、水から相分離でき、回収することができる。また、大半のカルボン酸金属塩は、再び油類吸収材として使用しうる繊維状集合結晶体を製造するのに用いることができ、繰り返し使用することができる。分解、分離のための加熱は、通常80℃以上とするのが好ましい。
【0016】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
実施例1
高純度(99%以上)のペンタデカン酸ナトリウム132mg(0.0005モル)、純水4.5ml(0.25モル)を秤量してガラス容器に入れ、密閉し、95℃に加熱してペンタデカン酸ナトリウムを完全に溶解した。別途、塩化ナトリウム58.5mg(0.010モル)を純水4.5ml(0.25モル)に完全に溶解した水溶液を95℃に加熱しておく。両液を95℃で混合し、直ちに混合液を激しく撹拌する。室温に冷却するまで、20分程度撹拌を継続することによって、極めて微細且つ均一な繊維状集合結晶体が全液にわたって析出する。一昼夜室温で放置することによって、繊維状集合結晶体は更に安定なものになり、微細な結晶状態を保ったままお互いに引きつけ合って、水面上に集まろうとするため、下部がほんの少しだけ、無色透明の水溶液になる。図1にこのようにして調製したペンタデカン酸ナトリウムの繊維状集合結晶体の顕微鏡写真(倍率40倍)を示す。
この繊維状集合結晶体の分散液にC重油1.5gを加えて、緩やかに振蕩すると、重油は極めて微細な粒子となって白色の繊維状集合結晶体分散液全体に、分散した後、ペンタデカン酸ナトリウムの繊維状集合結晶体と重油の微粒子がお互いに凝集し始め、全体として巨大な、堅いボール状の凝集体(固形化物)を形成する。残された塩化ナトリウム水溶液にはペンタデカン酸ナトリウムも重油も含まれておらず、全くの無色透明である。また、巨大な堅いボール状固形化物の方にも、水は殆ど含まれていない。
【0017】
実施例2
ペンタデカン酸ナトリウムに代えてヘキサデカン酸ナトリウム139mg(0.0005モル)を用いた以外は実施例1と全く同様にしたところ、全く同様にして極めて微細且つ均一な繊維状集合結晶体が全液にわたって析出した。これにC重油1.5gを添加し、緩やかに振蕩したところ、安定な、堅いボール状固形化物となり、分離した塩化ナトリウム水溶液も無色透明であった。
【0018】
実施例3
実施例1の塩化ナトリウム水溶液に変えて、純水もしくは海水を用いたところ、C重油添加量が10〜15倍まで、同様の結果が得られた。
【0019】
実施例4
実施例1のペンタデカン酸ナトリウムに代えて、0.0005モルのウンデカン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、トリデカン酸ナトリウム、テトラデカン酸ナトリウム、ヘプタデカン酸ナトリウム、オクタデカン酸ナトリウムをそれぞれ用いたところ、C重油の重量が、それぞれのカルボン酸ナトリウムに対して、15.3倍、13.5倍、9.2倍、10.2倍、11.5倍、11.2倍まで、堅い安定なボール状固形化物が得られ、無色透明の塩化ナトリウム水溶液の上に浮遊した。
【0020】
実施例5
実施例1のペンタデカン酸ナトリウムに代えて、0.0005モルのデカン酸ナトリウムを用いたところ、塩化ナトリウム水溶液を加え、撹拌し、室温に放置しても、繊維状集合結晶体は全く析出しなかった。そこで当該混合液を4℃で一日保ったところ、同様な繊維状集合結晶体が析出し、析出後は、室温でも長時間安定であった。図2にこのようにして調製したペンタデカン酸ナトリウムの繊維状集合結晶体の顕微鏡写真(倍率100倍)を示す。この繊維状集合結晶体分散液に、実施例1と同様にC重油を順次添加したところ、デカン酸ナトリウムに対して、15.0倍のC重油添加量まで、堅い固形化物を得ることが出来た。
【0021】
実施例6
実施例1、3、4のC重油に代えて、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、ベンゼン、トルエン、0-キシレン、2,2,4-トリメチルペンタン、1-デセン、シクロヘキサン、A重油、流動パラフィン、軽油、灯油、を用いたところ、それぞれ、ペンタデカン酸ナトリウムに対して15〜30倍の重量まで、極めて堅いボール状固形化物を得ることが出来た。残された純水もしくは水溶液は、無色透明又はほんの少し白濁した状態であった。またこれらの固形化物の場合には、60℃〜90℃に加熱することによって、容易に元のそれぞれの油分を回収することが出来た。
【0022】
【発明の効果】
本発明の、脂肪族カルボン酸金属塩を金属塩水溶液中に分散させた繊維状集合結晶体は、油類吸収材として使用することができ、河川、湖沼、海水中または海水上で接触させた油類を選択的に効率よく吸着させることができる。本発明の繊維状集合結晶体は油類を吸着することによって固形状を保ち(通常はボール状ないし玉子状となる)、かつ、水面に浮上するので吸着後に海水中から回収することが容易であり、吸着剤は極めて安全な脂肪族カルボン酸金属塩と金属塩水溶液のみから構成されているので、吸収材自体による自然水の汚染も防止できる。また、本発明の繊維状集合結晶体は水中でも室温において長期間安定に繊維状集合結晶体の分散状態を維持するため取扱いが容易で、重油以外の油類を吸収させた場合には、加熱によりカルボン酸金属塩と回収した油類に分離することができ、流出油を元の状態で回収することが可能で、さらにカルボン酸金属塩は、繊維状集合結晶体の製造に再利用できる。
このような繊維状集合結晶体を用いた本発明の流出油類の回収方法は、流出油事故の処理に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた繊維状集合結晶体の顕微鏡写真である。
【図2】実施例5で得られた繊維状集合結晶体の顕微鏡写真である。
Claims (8)
- 純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させ形成したことを特徴とする結晶体。
- 請求項1記載の繊維状集合結晶体よりなる河川、湖沼、もしくは、海上へ流出した油の回収材。
- 純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、塩化ナトリウム水溶液を加え、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させたことを特徴とする結晶体。
- 請求項3記載の繊維状集合結晶体よりなる河川、湖沼、もしくは、海上へ流出した油の回収材。
- 請求項2又は4記載の繊維状集合結晶体よりなる回収材を用いて、河川、湖沼、もしくは、海上へ流出した油を固形化することを特徴とする流出油の回収方法。
- 請求項5記載の方法により得られた、流出油を含んだ固形化物を加熱して分解し、もとの脂肪族カルボン酸金属塩及び流出油に分離し、回収することを特徴とする流出油の回収方法。
- 純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させることを特徴とする繊維状結晶体の製造方法。
- 純水中に、直鎖状のアルキル鎖を有し炭素数8〜22である脂肪族カルボン酸金属塩を脂肪族カルボン酸金属塩/水のモル比が0.1/1000〜10/1000となるように完全に溶解させた後、塩化ナトリウム水溶液を加え、撹拌、徐冷することによって、繊維状結晶の1本の太さが1μm以下、長さが50〜1000μmである繊維状集合体として析出させることを特徴とする繊維状結晶体の製造方法。
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