JP3892595B2 - 芳香族ポリカルボジイミド及びそのシート - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の背景】
本発明は新規な芳香族ポリカルボジイミドに関する。本発明の芳香族ポリカルボジイミドは、高耐熱性、低吸湿性、低誘電率など種々の優れた特性を有するシート(フィルム)や接着剤、成形物として用いることができる。
【0002】
芳香族ポリカルボジイミドには、従来ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)やトリレンジイソシアネート(TDI)などをモノマーとし、これを重合したものが知られている。このようなポリカルボジイミドは、その優れた耐熱性により耐炎化フィルムや耐熱性接着剤として使用されている。
【0003】
【発明の目的及び概要】
これらポリカルボジイミドフィルムは、400℃以上の高温に曝しても揮発性ガスや分解モノマーを生成しないという点では耐熱性を有するが、耐湿性が低かったり、200℃以上で熱処理すると自己保持性がなく、脆くなり実用に耐えない。また、有機溶媒に対する溶解性が乏しく加工性も低い。
【0004】
本発明者らは、このような従来のポリカルボジイミドの欠点を解消すべく種々の原料モノマー、芳香族カルボジイミドポリマーについて鋭意研究を行った。その結果、下記の新規な骨格を有するポリカルボジイミドにより前記課題が解決し得るとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は下式(I):
【化2】
(式中、nは2〜300の整数、mは0また1、Aは炭素数4以下の二価の有機基、Phはフェニル基を意味する。)
で表される構成単位を有する芳香族ポリカルボジイミドを提供するものである。
【0006】
このポリマーは新規な高分子化合物であり、優れた溶解性と共に非常に高い耐熱性を有し、また接着性、低温加工性及び耐湿性にも優れる。
【0007】
なお、本願発明のポリカルボジイミドに関連し、本願出願人の出願にかかる下式(II):
【化3】
(式中、nは整数を表し、中央のベンゼン環に結合する二つのフェノキシ基の置換位置は1,3−または1,4−結合である。)
で表される芳香族ポリカルボジイミドが公知である(特開平9−235341号)。しかしながら本発明のように、主鎖の中央のベンゼン環上に置換基を有するポリカルボジイミドは報告例がない。本発明のポリカルボジイミドは主鎖の中央のベンゼン環上に置換基を導入したことにより、置換基がないものと比較してさらに溶解性、耐熱性が向上したのもと推定される。
【0008】
【発明の詳細な開示】
本発明のポリカルボジイミドは、モノマーとして下式(III):
【化4】
(式中、m、A及びPhは前記に同じ。)
で表されるジイソシアネートを用い、これをリン系触媒の存在下、それ自体は公知の方法で重合することにより得られる。
【0009】
前記式中、Aは炭素数4以下の二価の有機基であり、例えばカルボニル基、ビニレン基、プロペニレン基、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基などが挙げられる。このうち、特にカルボニル基、ビニレン基、プロペニレン基、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基が好ましい。また、Phはフェニル基である。なお、重合度nは2〜300である。nがこれより大きいとポリマー溶液の保存安定性が悪くなる場合があり好ましくない。
【0010】
したがって、本発明のポリカルボジイミドの原料となるジイソシアネートモノマーとしては具体的には2−フェニル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−ベンジル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−フェネチル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−スチリル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−シンナミル−1,4−ビス(4イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−ベンゾイル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェンキシ)ベンゼン、2−(α,α−ジメチルベンジル)−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−(α−メチルベンジル)−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、およびこれらの置換位置異性体などが挙げられる。
【0011】
なお、本発明ポリカルボジイミドのモノマーである前記式(III)のジイソシアネートに関連しては、下式(IV)で示されるジイソシアネートが公知である(特開平9−188660号)が、本発明にて用いられるモノマーについての開示はない。
【0012】
【化5】
(式中、R1、R2及びR3は各々独立に炭素数1〜4の低級アルキルまたはハロゲン原子であり、l、m、nは0〜4の整数で表わす。)
【0013】
本発明ポリカルボジイミドの他の製法としては、下式(V):
【化6】
(式中、m、A及びPhは前記に同じ。)
で表される芳香族ジアミンを、それ自体は公知の方法でジイソシアネート化して前記式(III)の化合物を得た後、重合してもよい。
【0014】
(ジアミンからのジイソシアネートの製造)
このようなジアミンからジイソシアネートを得る方法としては、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、又はカルボニルジイミダゾールを作用させる方法が挙げられる。さらに、他の方法として、ジアミン化合物にハロゲン化アルキルホルメートまたはハロゲン化アリールホルメートを作用させてジカーバメートを合成し、これに活性化試薬としてクロロシランを用いてジイソシアネート化する方法(G. Greber. et. al., Angew. Chem. Int. Ed., Vol. 17, No.12, 941(1968))やカテコールボランを用いてジイソシアネート化する方法(V.L.K.Valli.et.al.,J.Org.Chem.,Vol.60,257(1995))があり、これらの方法は収率及び安全性の点からより好ましい。
【0015】
まず対応するジアミン化合物にメチルクロロホルメート、エチルクロロホルメート、フェニルクロロホルメート、p-ニトロフェニルクロロホルメートなどを作用させてジカーバメートを製造する。これらのうち、イソシアネート化を円滑に進行させるためにはフェニルクロロホルメートまたはp−ニトロフェニルクロロホルメートが適している。p−ニトロフェニルクロロホルメートは活性が高く、副反応の生ずる恐れがあるのでフェニルクロロホルメートが最も好ましい。これらのハロゲン化ホルメート類は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ハロゲン化ホルメート類の使用量はジアミンのモル数の1.5〜3.4倍がよく、1.8〜3.0倍がより好ましい。使用量がこれより少ないと、系内に未反応ジアミンが残存し、次いで生成するイソシアネートと尿素生成などの副反応を引き起こし好ましくない。一方、前記範囲より多いと反応終了後に系内からの除去が困難であったり、副反応が生じ好ましくない。
【0016】
これら反応に用いられる溶媒はジアミンを溶解させるものであればよい。例えばテトロヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系化合物;酢酸エチルなどのエステル系化合物;トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0017】
反応混合物中のジアミン濃度は1〜50%、好ましくは5〜40%、最適には10〜30%である。上記濃度が低すぎると反応に時間を要し、実用的でない。濃度が高すぎると好ましくない副反応を招いたり、反応の制御が困難になる恐れがある。
【0018】
反応温度は−40〜100℃、好ましくは−20〜80℃、最も好ましくは0〜60℃である。反応温度が−40℃より低いと進行しにくく実用的でない。また、100℃より高いと、縮合などの副反応を生ずる可能性がある。
【0019】
反応により生成する塩化水素をトラップする塩基としては、用いた溶媒に溶解し反応を阻害しないものであればよく、有機塩基、無機塩基をいずれも用いることができる。溶媒に溶解しやすいという点から有機塩基が好ましく、反応を阻害しない点から特にトリエチルアミン、水酸化ナトリウム、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、コリジン、ピコリン、ルチジンなどの三級アミンが好ましい。塩基の使用量はジアミンの使用モル数の1.5〜3.4倍がよく、1.8〜3.0がより好ましい。
【0020】
得られたジカーバメートを精製するには再結晶、カラムなど従来公知の方法を用いることができる。また、必要に応じて蒸留を行ってもよい。
【0021】
つぎに、前記ジカーバメートを有機ハロゲン化ケイ素化合物を用いてジイソシアネート化するには、ジカーバメートのモル量の1.5〜3.4倍、好ましくは1.8〜3.0倍、の有機ハロゲン化ケイ素化合物を触媒として用いて熱分解を行う。触媒量がこの範囲より少ないと反応が完全に進行しない可能性がある。また、この範囲より多いと重合が進行しすぎ、分子量が大きくなりすぎる可能性がある。また、未反応物の除去が困難になる懸念がある。
【0022】
有機ハロゲン化ケイ素化合物としては、具体的にはトリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリメトキシクロロシラン、テトラクロロシランなどのクロロシラン類が好ましく、経済面、扱いやすさから特にトリメチルクロロシランが好ましい。
【0023】
用いられる溶媒はジカーバメートを溶解または懸濁するものであればよく、前記のカーバメート化に用いた溶媒がいずれも用いられてよい。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。また場合によっては反応途中でその一部ないしは全部を置換することにより、反応温度を変更してもよい。
【0024】
反応温度は0〜150℃、好ましくは20〜130℃、最も好ましくは40〜110℃である。温度が0℃より低いと反応が進行しにくく、150℃を越える高温では溶剤の選択が困難である。
【0025】
反応の際に生成する塩化水素をトラップする塩基としては前記カーバメート化と同様の塩基が用いられてよく、使用量も同様である。
【0026】
得られたジイソシアネートモノマーは、反応後、カラムや蒸留など公知の方法で精製してもよいし、過剰の反応試薬や溶剤を除去した後、そのまま用いてもよい。
【0027】
(ジイソシアネートからのポリカルボジイミドの製造)
本発明のポリカルボジイミドを製造するには、前記式(III)のジイソシアネートモノマーを単独で用いてもよく、本発明のポリカルボジイミドの特性を損なわない範囲で他の有機ジイソシアネート、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、1−メトキシフェニル−2,4−ジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、o−トリレンジイソシアネート、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパンなどと共重合してもよい。
【0028】
共重合比は式(III)で表されるジイソシアネートモノマーに対し、1〜90mol%、より好ましくは1〜70mol%、最も好ましくは1〜50mol%である。共重合比が90mol%を超えると、本発明のポリカルボジイミドの特性が失われる可能性がある。また、本発明のポリカルボジイミドに対して1/100〜100/1の割合で他のポリカルボジイミドをワニス状態で混合して用いてもよい。
【0029】
重合温度は40〜150℃が好ましく、50〜140℃がより好ましい。反応温度が40℃より低いと反応時間が長くなりすぎ実用的でない。また150℃を越える反応温度は溶媒の選択が困難である。
【0030】
ポリカルボジイミド合成におけるジイソシアネートモノマー濃度は5〜70重量%(以下、単に%という)、好ましくは10〜60%、最も好ましくは15〜50%である。モノマー濃度が5%より低いとカルボジイミド化が進行しない場合がある。また70%を越えると反応の制御が困難になる可能性がある。
【0031】
ポリカルボジイミドの合成時及びポリカルボジイミド溶液に用いられる有機溶媒は、従来公知のものであってよい。具体的にはテトラクロロエチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
カルボジイミド化に用いる触媒としては公知のリン系触媒がいずれも好適に用いられ、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、あるいはこれらの3−ホスホレン異性体などのホスホレンオキシドが挙げられる。
【0033】
なお、前記のジアミンのカーバメート化、ジイソシアネート化及びカルボジイミド化にあたっては、それぞれの工程で単離、精製を行い、段階的に進めてもよく、1つの反応容器中でこれらの工程を続けて一連の反応として行ってもよい。
【0034】
また重合反応の末期、中期、初期のいずれか、もしくは全般にわたり、モノイソシアネートを加えて末端封鎖処理をしてもよい。このようなモノイソシアネートとしては、フェニルイソシアネート、p−ニトロフェニルイソシアネート、p−及びm−トリルイソシアネート、p−ホルミルフェニルイソシアネート、p−イソプロピルフェニルイソシアネートなどを用いることができる。このようにして得られたポリカルボジイミド溶液は、溶液の保存安定性に優れている。
【0035】
また、反応終了後にメタノール、エタノール、ヘキサン、イソプロピルアルコールなどの貧溶媒に反応液を投入し、ポリカルボジイミドを沈澱として析出させ、未反応のモノマーや触媒を取り除いてもよい。ポリカルボジイミドの溶液を調製するには、沈殿として析出したポリマーを所定の操作により洗浄、乾燥を行い、再度有機溶媒に溶解する。このような操作を行うことにより、ポリカルボジイミドの溶液安定性を向上させることができる。
【0036】
また、ポリマー溶液中に含まれる副生成物を、適当な吸着剤などに吸着させ、精製してもよい。吸着剤としては例えばアルミナゲル、シリカゲル、活性炭、ゼオライト、活性酸化マグネシウム、活性ボーキサイト、フラースアース、活性白土、分子ふるいカーボンなどを単独もしくは併用して用いることができる。
【0037】
本発明のポリカルボジイミドは、式(I)においてnが2〜300の整数であり、好ましくは4〜100の整数である。ポリカルボジイミドの分子量がこれより大きいと、常温での放置においても数分から数時間で容易にゲル化し実用上好ましくない。また、分子量がこれより低いと皮膜の信頼性に欠け好ましくない。
【0038】
(フィルム及び接着シートの製造)
本発明のポリカルボジイミドフィルム(又はシート)は、ポリカルボジイミドワニスを公知の方法(キャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなど)を用いて適当な厚さに製膜することにより得られる。このフィルムは、通常、溶媒の除去に必要な温度で乾燥すればよく、硬化反応をあまり進行させずに乾燥させるよう、塗工温度は例えば20〜350℃、好ましくは50〜300℃、最も好ましくは70〜250℃である。乾燥温度が20℃より低いと、フィルム中に溶剤が残存し、フィルムの信頼性が乏しくなり好ましくない。また乾燥温度が350℃より高いと、フィルムの熱硬化が進みやすい。
【0039】
本発明のポリカルボジイミド樹脂組成物には、その加工性、耐熱性を損なわない範囲で微細な無機充填剤を配合してよい。また表面平滑性を出すための平滑剤、レベリング剤、脱泡剤などの各種添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0040】
本発明のポリマーをフィルム状に成形した成形物は、耐熱性接着シートとして用いることができる。フィルム、又は接着シートに成形することができるシート厚としては、一般には1〜200μmであるが、これに限定されるものではなく目的に応じて適宜選択することができる。またシートの形状や大きさについても、リードフレームや半導体チップなど、被着体に応じて適宜に決定することができる。
【0041】
接着シートを製造する場合、導電性の付与や熱伝導性の向上、弾性率の調節、特に高弾性率化などをはかるため、例えばアルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田などの金属、あるいは合金、アルミナ、シリカ、マグネシア、窒化ケイ素などのセラミック、その他カーボンなどからなる種々の無機粉末を必要に応じ1種または2種以上配合してもよい。
【0042】
さらに、これらのフィルムを支持体上に形成して接着シートとしてもよい。このような構成の接着シートを製造するには、支持体上にワニスを塗工してもよく、あらかじめフィルムを形成し、これをプレスなどによりラミネートして製造してもよい。
【0043】
ここで用いられる支持体としては金属箔、絶縁性フィルムなどが挙げられる。金属箔としてはアルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、インジウム、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム等がいずれも用いられてよく、これらを単独で、あるいは合金として用いてもよい。また、絶縁性フィルムとしては、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートなど、耐熱性や耐薬品性を有するフィルムであればいずれも用いることができる。
【0044】
また金属箔と絶縁性フィルムは、それぞれ単独で用いてもよく、また両者を2層以上積層した、例えば金属箔/絶縁性フィルムなどの2層基材を用いてもよい。このような2層基材としては、例えば銅/ポリイミド2層基材などが挙げられる。
【0045】
本発明のシート状接着剤は、加熱処理により熱硬化して強固な接着力を発現すると共に、低吸湿性の硬化物となる。加熱処理を行うには、例えばヒーター、超音波、紫外線などの適宜の方法が用いられてよい。従って本発明の接着シートは、種々の材料の接着処理に好ましく、特に高信頼性の固着処理が要求され、そのため低吸湿性であることを要する半導体チップやリードフレームなどで代表される電気・電子部品の固着処理に好ましい。本発明の接着シートは低吸湿性であること、可撓性に富み取り扱いやすいこと、半導体素子に対して接着性がよいこと、保存安定性がよいことなどの点で優れている。
【0046】
(用途)
このようにして製造されたポリカルボジイミド樹脂は、その耐熱性を利用して電子部品用の接着剤として用いることもできる。
【0047】
【実施例】
つぎに本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。反応はすべて窒素気流下で行った。なお、得られたポリカルボジイミドの特性は次のようにして測定した。
【0048】
IR
日本電子製FT/IR-230を用いて測定した。
【0049】
熱硬化温度
DSC−200((株)セイコー電子工業製)を用いて測定し、三量体化の発熱ピークを熱硬化温度とした。
【0050】
数平均分子量
装置としてHLC8120((株)東ソー製)、カラムにGMHHR-H+GMHHR-H+G2000HHR((株)東ソー製)を用い、テトラヒドロフランを展開溶媒として測定した。
【0051】
接着強度
島津オートグラフAGS-100Dを用いて180°ピール強度を測定した。
【0052】
弾性率 (E') およびガラス転移温度 (Tg)
DMS210((株)セイコー電子工業製)を用いて測定した。
【0053】
[実施例1]
撹拌装置、滴下漏斗、還流冷却管、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに2−フェニル−1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(20g、54.28mmol)、トリエチルアミン(10.99g、108.56mmol)、トルエン156.5gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、滴下漏斗にフェニルクロロホルメート(17.00g、108.56mmol)を入れ、1分かけて滴下した。その後室温で120分間撹拌した。
【0054】
カーバメートの生成をIRで確認した後、トリメチルクロロシラン(11.79g、108.56mmol)、トリエチルアミン(10.99g、108.56mmol)、カルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)(521.6mg、2.714mmol)を仕込み、60℃で1時間、続いて80℃で4時間撹拌してイソシアネート化及び重合を行った。
【0055】
IRスペクトル(図1)によりカルボジイミド化を確認し、生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去し、ワニスを得た。このポリカルボジイミドの数平均分子量(Mn)は、2350(n=6)であった。
【0056】
上記ワニスの保存安定性は、10日以上であり、ワニスをガラス板上にキャスティングし、90℃にて30分間、さらに250℃で30分間乾燥して可撓性を有するフィルムを得た。得られたフィルムの熱的特性を評価したところ、熱硬化温度は330℃、ガラス転移温度は203℃、室温における弾性率は3.0GPaであった。
【0057】
また、ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥して得られた粉末はトルエン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、クロロホルムなどの一般の有機溶剤に再溶解が可能であった。
【0058】
[実施例2]
ジアミンとして2−(α,α−ジメチルベンジル)−1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いたほかは実施例1と同様にしてポリカルボジイミドを合成した。
【0059】
ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥し、数平均分子量3,500(n=8)のポリカルボジイミドの粉末を得た。
【0060】
上記ワニスの保存安定性は、10日以上であり、ワニスをガラス板上にキャスティングし、90℃にて30分間、さらに250℃で30分間乾燥して可撓性を有するフィルムを得た。得られたフィルムの熱的特性を評価したところ、熱硬化温度は330℃、ガラス転移温度は190℃、室温における弾性率は2.5GPaであった。
【0061】
また、ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥して得られた粉末はトルエン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、クロロホルムなどの一般の有機溶剤に再溶解が可能であった。
【0062】
[比較例1]
ジアミンとして1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いたほかは実施例1と同様にしてポリカルボジイミドを合成した。
【0063】
ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥し、数平均分子量1,900(n=6)のポリカルボジイミドの粉末を得た。この粉末はテトラヒドロフランのような極性溶媒には低濃度で溶けるが、トルエンのような非極性溶媒には不溶であった。
【0064】
[比較例2]
2,4−トリレンジイソシアネート/2,6−トリレンジイソシアネート混合物(混合割合90:10)5g(28.7mmol)をテトラヒドロフラン20g中でカルボジイミド化触媒(3−メチル−1フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)43mg(0.22mmol)とともに60℃で15時間撹拌し、ポリカルボジイミド溶液を得た。このポリマーの数平均分子量は6,700(n=52)であった。
【0065】
ワニスをガラス板上にキャスティングし、90℃にて30分間乾燥、次いで250℃で30分間乾燥して黒色の非常に脆いフィルムが得られた。このフィルムの熱的特性を評価したところ、熱硬化温度は300℃、ガラス転移温度は227℃、室温における弾性率は3.9GPaであった。
【0066】
[実施例3、4及び比較例3]
実施例1、2及び比較例2で得られたポリカルボジイミドフィルムをそれぞれ銅箔上にのせ、42アロイ板で挟んで電熱プレスを用いて250℃、50kg/cm2の圧力で1秒間プレスして貼り合わせた。このときのピール強度と半田耐熱性の測定結果を表に示す。
【0067】
【表1】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ポリカルボジイミド ピール強度(g/cm) 半田耐久性(260℃×10秒後)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 1200 膨れなし
実施例2 1400 膨れなし
───────────────────────────────────
比較例2 50 膨れあり
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0068】
【発明の効果】
本発明のポリカルボジイミドは有機溶媒への溶解性が高く加工性が良好で、かつ優れた耐熱性、耐湿性を示し、電子部品製造時のハンダ付け工程における耐熱性被覆材料などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1にて得られたポリカルボジイミドの赤外吸収スペクトルである。
【発明の背景】
本発明は新規な芳香族ポリカルボジイミドに関する。本発明の芳香族ポリカルボジイミドは、高耐熱性、低吸湿性、低誘電率など種々の優れた特性を有するシート(フィルム)や接着剤、成形物として用いることができる。
【0002】
芳香族ポリカルボジイミドには、従来ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)やトリレンジイソシアネート(TDI)などをモノマーとし、これを重合したものが知られている。このようなポリカルボジイミドは、その優れた耐熱性により耐炎化フィルムや耐熱性接着剤として使用されている。
【0003】
【発明の目的及び概要】
これらポリカルボジイミドフィルムは、400℃以上の高温に曝しても揮発性ガスや分解モノマーを生成しないという点では耐熱性を有するが、耐湿性が低かったり、200℃以上で熱処理すると自己保持性がなく、脆くなり実用に耐えない。また、有機溶媒に対する溶解性が乏しく加工性も低い。
【0004】
本発明者らは、このような従来のポリカルボジイミドの欠点を解消すべく種々の原料モノマー、芳香族カルボジイミドポリマーについて鋭意研究を行った。その結果、下記の新規な骨格を有するポリカルボジイミドにより前記課題が解決し得るとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は下式(I):
【化2】
(式中、nは2〜300の整数、mは0また1、Aは炭素数4以下の二価の有機基、Phはフェニル基を意味する。)
で表される構成単位を有する芳香族ポリカルボジイミドを提供するものである。
【0006】
このポリマーは新規な高分子化合物であり、優れた溶解性と共に非常に高い耐熱性を有し、また接着性、低温加工性及び耐湿性にも優れる。
【0007】
なお、本願発明のポリカルボジイミドに関連し、本願出願人の出願にかかる下式(II):
【化3】
(式中、nは整数を表し、中央のベンゼン環に結合する二つのフェノキシ基の置換位置は1,3−または1,4−結合である。)
で表される芳香族ポリカルボジイミドが公知である(特開平9−235341号)。しかしながら本発明のように、主鎖の中央のベンゼン環上に置換基を有するポリカルボジイミドは報告例がない。本発明のポリカルボジイミドは主鎖の中央のベンゼン環上に置換基を導入したことにより、置換基がないものと比較してさらに溶解性、耐熱性が向上したのもと推定される。
【0008】
【発明の詳細な開示】
本発明のポリカルボジイミドは、モノマーとして下式(III):
【化4】
(式中、m、A及びPhは前記に同じ。)
で表されるジイソシアネートを用い、これをリン系触媒の存在下、それ自体は公知の方法で重合することにより得られる。
【0009】
前記式中、Aは炭素数4以下の二価の有機基であり、例えばカルボニル基、ビニレン基、プロペニレン基、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基などが挙げられる。このうち、特にカルボニル基、ビニレン基、プロペニレン基、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基が好ましい。また、Phはフェニル基である。なお、重合度nは2〜300である。nがこれより大きいとポリマー溶液の保存安定性が悪くなる場合があり好ましくない。
【0010】
したがって、本発明のポリカルボジイミドの原料となるジイソシアネートモノマーとしては具体的には2−フェニル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−ベンジル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−フェネチル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−スチリル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−シンナミル−1,4−ビス(4イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−ベンゾイル−1,4−ビス(4−イソシアナートフェンキシ)ベンゼン、2−(α,α−ジメチルベンジル)−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、2−(α−メチルベンジル)−1,4−ビス(4−イソシアナートフェノキシ)ベンゼン、およびこれらの置換位置異性体などが挙げられる。
【0011】
なお、本発明ポリカルボジイミドのモノマーである前記式(III)のジイソシアネートに関連しては、下式(IV)で示されるジイソシアネートが公知である(特開平9−188660号)が、本発明にて用いられるモノマーについての開示はない。
【0012】
【化5】
(式中、R1、R2及びR3は各々独立に炭素数1〜4の低級アルキルまたはハロゲン原子であり、l、m、nは0〜4の整数で表わす。)
【0013】
本発明ポリカルボジイミドの他の製法としては、下式(V):
【化6】
(式中、m、A及びPhは前記に同じ。)
で表される芳香族ジアミンを、それ自体は公知の方法でジイソシアネート化して前記式(III)の化合物を得た後、重合してもよい。
【0014】
(ジアミンからのジイソシアネートの製造)
このようなジアミンからジイソシアネートを得る方法としては、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、又はカルボニルジイミダゾールを作用させる方法が挙げられる。さらに、他の方法として、ジアミン化合物にハロゲン化アルキルホルメートまたはハロゲン化アリールホルメートを作用させてジカーバメートを合成し、これに活性化試薬としてクロロシランを用いてジイソシアネート化する方法(G. Greber. et. al., Angew. Chem. Int. Ed., Vol. 17, No.12, 941(1968))やカテコールボランを用いてジイソシアネート化する方法(V.L.K.Valli.et.al.,J.Org.Chem.,Vol.60,257(1995))があり、これらの方法は収率及び安全性の点からより好ましい。
【0015】
まず対応するジアミン化合物にメチルクロロホルメート、エチルクロロホルメート、フェニルクロロホルメート、p-ニトロフェニルクロロホルメートなどを作用させてジカーバメートを製造する。これらのうち、イソシアネート化を円滑に進行させるためにはフェニルクロロホルメートまたはp−ニトロフェニルクロロホルメートが適している。p−ニトロフェニルクロロホルメートは活性が高く、副反応の生ずる恐れがあるのでフェニルクロロホルメートが最も好ましい。これらのハロゲン化ホルメート類は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ハロゲン化ホルメート類の使用量はジアミンのモル数の1.5〜3.4倍がよく、1.8〜3.0倍がより好ましい。使用量がこれより少ないと、系内に未反応ジアミンが残存し、次いで生成するイソシアネートと尿素生成などの副反応を引き起こし好ましくない。一方、前記範囲より多いと反応終了後に系内からの除去が困難であったり、副反応が生じ好ましくない。
【0016】
これら反応に用いられる溶媒はジアミンを溶解させるものであればよい。例えばテトロヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系化合物;酢酸エチルなどのエステル系化合物;トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0017】
反応混合物中のジアミン濃度は1〜50%、好ましくは5〜40%、最適には10〜30%である。上記濃度が低すぎると反応に時間を要し、実用的でない。濃度が高すぎると好ましくない副反応を招いたり、反応の制御が困難になる恐れがある。
【0018】
反応温度は−40〜100℃、好ましくは−20〜80℃、最も好ましくは0〜60℃である。反応温度が−40℃より低いと進行しにくく実用的でない。また、100℃より高いと、縮合などの副反応を生ずる可能性がある。
【0019】
反応により生成する塩化水素をトラップする塩基としては、用いた溶媒に溶解し反応を阻害しないものであればよく、有機塩基、無機塩基をいずれも用いることができる。溶媒に溶解しやすいという点から有機塩基が好ましく、反応を阻害しない点から特にトリエチルアミン、水酸化ナトリウム、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、コリジン、ピコリン、ルチジンなどの三級アミンが好ましい。塩基の使用量はジアミンの使用モル数の1.5〜3.4倍がよく、1.8〜3.0がより好ましい。
【0020】
得られたジカーバメートを精製するには再結晶、カラムなど従来公知の方法を用いることができる。また、必要に応じて蒸留を行ってもよい。
【0021】
つぎに、前記ジカーバメートを有機ハロゲン化ケイ素化合物を用いてジイソシアネート化するには、ジカーバメートのモル量の1.5〜3.4倍、好ましくは1.8〜3.0倍、の有機ハロゲン化ケイ素化合物を触媒として用いて熱分解を行う。触媒量がこの範囲より少ないと反応が完全に進行しない可能性がある。また、この範囲より多いと重合が進行しすぎ、分子量が大きくなりすぎる可能性がある。また、未反応物の除去が困難になる懸念がある。
【0022】
有機ハロゲン化ケイ素化合物としては、具体的にはトリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリメトキシクロロシラン、テトラクロロシランなどのクロロシラン類が好ましく、経済面、扱いやすさから特にトリメチルクロロシランが好ましい。
【0023】
用いられる溶媒はジカーバメートを溶解または懸濁するものであればよく、前記のカーバメート化に用いた溶媒がいずれも用いられてよい。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。また場合によっては反応途中でその一部ないしは全部を置換することにより、反応温度を変更してもよい。
【0024】
反応温度は0〜150℃、好ましくは20〜130℃、最も好ましくは40〜110℃である。温度が0℃より低いと反応が進行しにくく、150℃を越える高温では溶剤の選択が困難である。
【0025】
反応の際に生成する塩化水素をトラップする塩基としては前記カーバメート化と同様の塩基が用いられてよく、使用量も同様である。
【0026】
得られたジイソシアネートモノマーは、反応後、カラムや蒸留など公知の方法で精製してもよいし、過剰の反応試薬や溶剤を除去した後、そのまま用いてもよい。
【0027】
(ジイソシアネートからのポリカルボジイミドの製造)
本発明のポリカルボジイミドを製造するには、前記式(III)のジイソシアネートモノマーを単独で用いてもよく、本発明のポリカルボジイミドの特性を損なわない範囲で他の有機ジイソシアネート、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、1−メトキシフェニル−2,4−ジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'−ジフェニルエーテルジイソシアネート、o−トリレンジイソシアネート、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパンなどと共重合してもよい。
【0028】
共重合比は式(III)で表されるジイソシアネートモノマーに対し、1〜90mol%、より好ましくは1〜70mol%、最も好ましくは1〜50mol%である。共重合比が90mol%を超えると、本発明のポリカルボジイミドの特性が失われる可能性がある。また、本発明のポリカルボジイミドに対して1/100〜100/1の割合で他のポリカルボジイミドをワニス状態で混合して用いてもよい。
【0029】
重合温度は40〜150℃が好ましく、50〜140℃がより好ましい。反応温度が40℃より低いと反応時間が長くなりすぎ実用的でない。また150℃を越える反応温度は溶媒の選択が困難である。
【0030】
ポリカルボジイミド合成におけるジイソシアネートモノマー濃度は5〜70重量%(以下、単に%という)、好ましくは10〜60%、最も好ましくは15〜50%である。モノマー濃度が5%より低いとカルボジイミド化が進行しない場合がある。また70%を越えると反応の制御が困難になる可能性がある。
【0031】
ポリカルボジイミドの合成時及びポリカルボジイミド溶液に用いられる有機溶媒は、従来公知のものであってよい。具体的にはテトラクロロエチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
カルボジイミド化に用いる触媒としては公知のリン系触媒がいずれも好適に用いられ、例えば1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、あるいはこれらの3−ホスホレン異性体などのホスホレンオキシドが挙げられる。
【0033】
なお、前記のジアミンのカーバメート化、ジイソシアネート化及びカルボジイミド化にあたっては、それぞれの工程で単離、精製を行い、段階的に進めてもよく、1つの反応容器中でこれらの工程を続けて一連の反応として行ってもよい。
【0034】
また重合反応の末期、中期、初期のいずれか、もしくは全般にわたり、モノイソシアネートを加えて末端封鎖処理をしてもよい。このようなモノイソシアネートとしては、フェニルイソシアネート、p−ニトロフェニルイソシアネート、p−及びm−トリルイソシアネート、p−ホルミルフェニルイソシアネート、p−イソプロピルフェニルイソシアネートなどを用いることができる。このようにして得られたポリカルボジイミド溶液は、溶液の保存安定性に優れている。
【0035】
また、反応終了後にメタノール、エタノール、ヘキサン、イソプロピルアルコールなどの貧溶媒に反応液を投入し、ポリカルボジイミドを沈澱として析出させ、未反応のモノマーや触媒を取り除いてもよい。ポリカルボジイミドの溶液を調製するには、沈殿として析出したポリマーを所定の操作により洗浄、乾燥を行い、再度有機溶媒に溶解する。このような操作を行うことにより、ポリカルボジイミドの溶液安定性を向上させることができる。
【0036】
また、ポリマー溶液中に含まれる副生成物を、適当な吸着剤などに吸着させ、精製してもよい。吸着剤としては例えばアルミナゲル、シリカゲル、活性炭、ゼオライト、活性酸化マグネシウム、活性ボーキサイト、フラースアース、活性白土、分子ふるいカーボンなどを単独もしくは併用して用いることができる。
【0037】
本発明のポリカルボジイミドは、式(I)においてnが2〜300の整数であり、好ましくは4〜100の整数である。ポリカルボジイミドの分子量がこれより大きいと、常温での放置においても数分から数時間で容易にゲル化し実用上好ましくない。また、分子量がこれより低いと皮膜の信頼性に欠け好ましくない。
【0038】
(フィルム及び接着シートの製造)
本発明のポリカルボジイミドフィルム(又はシート)は、ポリカルボジイミドワニスを公知の方法(キャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなど)を用いて適当な厚さに製膜することにより得られる。このフィルムは、通常、溶媒の除去に必要な温度で乾燥すればよく、硬化反応をあまり進行させずに乾燥させるよう、塗工温度は例えば20〜350℃、好ましくは50〜300℃、最も好ましくは70〜250℃である。乾燥温度が20℃より低いと、フィルム中に溶剤が残存し、フィルムの信頼性が乏しくなり好ましくない。また乾燥温度が350℃より高いと、フィルムの熱硬化が進みやすい。
【0039】
本発明のポリカルボジイミド樹脂組成物には、その加工性、耐熱性を損なわない範囲で微細な無機充填剤を配合してよい。また表面平滑性を出すための平滑剤、レベリング剤、脱泡剤などの各種添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0040】
本発明のポリマーをフィルム状に成形した成形物は、耐熱性接着シートとして用いることができる。フィルム、又は接着シートに成形することができるシート厚としては、一般には1〜200μmであるが、これに限定されるものではなく目的に応じて適宜選択することができる。またシートの形状や大きさについても、リードフレームや半導体チップなど、被着体に応じて適宜に決定することができる。
【0041】
接着シートを製造する場合、導電性の付与や熱伝導性の向上、弾性率の調節、特に高弾性率化などをはかるため、例えばアルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田などの金属、あるいは合金、アルミナ、シリカ、マグネシア、窒化ケイ素などのセラミック、その他カーボンなどからなる種々の無機粉末を必要に応じ1種または2種以上配合してもよい。
【0042】
さらに、これらのフィルムを支持体上に形成して接着シートとしてもよい。このような構成の接着シートを製造するには、支持体上にワニスを塗工してもよく、あらかじめフィルムを形成し、これをプレスなどによりラミネートして製造してもよい。
【0043】
ここで用いられる支持体としては金属箔、絶縁性フィルムなどが挙げられる。金属箔としてはアルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、インジウム、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム等がいずれも用いられてよく、これらを単独で、あるいは合金として用いてもよい。また、絶縁性フィルムとしては、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートなど、耐熱性や耐薬品性を有するフィルムであればいずれも用いることができる。
【0044】
また金属箔と絶縁性フィルムは、それぞれ単独で用いてもよく、また両者を2層以上積層した、例えば金属箔/絶縁性フィルムなどの2層基材を用いてもよい。このような2層基材としては、例えば銅/ポリイミド2層基材などが挙げられる。
【0045】
本発明のシート状接着剤は、加熱処理により熱硬化して強固な接着力を発現すると共に、低吸湿性の硬化物となる。加熱処理を行うには、例えばヒーター、超音波、紫外線などの適宜の方法が用いられてよい。従って本発明の接着シートは、種々の材料の接着処理に好ましく、特に高信頼性の固着処理が要求され、そのため低吸湿性であることを要する半導体チップやリードフレームなどで代表される電気・電子部品の固着処理に好ましい。本発明の接着シートは低吸湿性であること、可撓性に富み取り扱いやすいこと、半導体素子に対して接着性がよいこと、保存安定性がよいことなどの点で優れている。
【0046】
(用途)
このようにして製造されたポリカルボジイミド樹脂は、その耐熱性を利用して電子部品用の接着剤として用いることもできる。
【0047】
【実施例】
つぎに本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。反応はすべて窒素気流下で行った。なお、得られたポリカルボジイミドの特性は次のようにして測定した。
【0048】
IR
日本電子製FT/IR-230を用いて測定した。
【0049】
熱硬化温度
DSC−200((株)セイコー電子工業製)を用いて測定し、三量体化の発熱ピークを熱硬化温度とした。
【0050】
数平均分子量
装置としてHLC8120((株)東ソー製)、カラムにGMHHR-H+GMHHR-H+G2000HHR((株)東ソー製)を用い、テトラヒドロフランを展開溶媒として測定した。
【0051】
接着強度
島津オートグラフAGS-100Dを用いて180°ピール強度を測定した。
【0052】
弾性率 (E') およびガラス転移温度 (Tg)
DMS210((株)セイコー電子工業製)を用いて測定した。
【0053】
[実施例1]
撹拌装置、滴下漏斗、還流冷却管、温度計を取り付けた500mLの四つ口フラスコに2−フェニル−1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(20g、54.28mmol)、トリエチルアミン(10.99g、108.56mmol)、トルエン156.5gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、滴下漏斗にフェニルクロロホルメート(17.00g、108.56mmol)を入れ、1分かけて滴下した。その後室温で120分間撹拌した。
【0054】
カーバメートの生成をIRで確認した後、トリメチルクロロシラン(11.79g、108.56mmol)、トリエチルアミン(10.99g、108.56mmol)、カルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)(521.6mg、2.714mmol)を仕込み、60℃で1時間、続いて80℃で4時間撹拌してイソシアネート化及び重合を行った。
【0055】
IRスペクトル(図1)によりカルボジイミド化を確認し、生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去し、ワニスを得た。このポリカルボジイミドの数平均分子量(Mn)は、2350(n=6)であった。
【0056】
上記ワニスの保存安定性は、10日以上であり、ワニスをガラス板上にキャスティングし、90℃にて30分間、さらに250℃で30分間乾燥して可撓性を有するフィルムを得た。得られたフィルムの熱的特性を評価したところ、熱硬化温度は330℃、ガラス転移温度は203℃、室温における弾性率は3.0GPaであった。
【0057】
また、ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥して得られた粉末はトルエン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、クロロホルムなどの一般の有機溶剤に再溶解が可能であった。
【0058】
[実施例2]
ジアミンとして2−(α,α−ジメチルベンジル)−1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いたほかは実施例1と同様にしてポリカルボジイミドを合成した。
【0059】
ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥し、数平均分子量3,500(n=8)のポリカルボジイミドの粉末を得た。
【0060】
上記ワニスの保存安定性は、10日以上であり、ワニスをガラス板上にキャスティングし、90℃にて30分間、さらに250℃で30分間乾燥して可撓性を有するフィルムを得た。得られたフィルムの熱的特性を評価したところ、熱硬化温度は330℃、ガラス転移温度は190℃、室温における弾性率は2.5GPaであった。
【0061】
また、ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥して得られた粉末はトルエン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、クロロホルムなどの一般の有機溶剤に再溶解が可能であった。
【0062】
[比較例1]
ジアミンとして1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いたほかは実施例1と同様にしてポリカルボジイミドを合成した。
【0063】
ワニスをイソプロピルアルコールで再沈殿し、析出した固体を集めて乾燥し、数平均分子量1,900(n=6)のポリカルボジイミドの粉末を得た。この粉末はテトラヒドロフランのような極性溶媒には低濃度で溶けるが、トルエンのような非極性溶媒には不溶であった。
【0064】
[比較例2]
2,4−トリレンジイソシアネート/2,6−トリレンジイソシアネート混合物(混合割合90:10)5g(28.7mmol)をテトラヒドロフラン20g中でカルボジイミド化触媒(3−メチル−1フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)43mg(0.22mmol)とともに60℃で15時間撹拌し、ポリカルボジイミド溶液を得た。このポリマーの数平均分子量は6,700(n=52)であった。
【0065】
ワニスをガラス板上にキャスティングし、90℃にて30分間乾燥、次いで250℃で30分間乾燥して黒色の非常に脆いフィルムが得られた。このフィルムの熱的特性を評価したところ、熱硬化温度は300℃、ガラス転移温度は227℃、室温における弾性率は3.9GPaであった。
【0066】
[実施例3、4及び比較例3]
実施例1、2及び比較例2で得られたポリカルボジイミドフィルムをそれぞれ銅箔上にのせ、42アロイ板で挟んで電熱プレスを用いて250℃、50kg/cm2の圧力で1秒間プレスして貼り合わせた。このときのピール強度と半田耐熱性の測定結果を表に示す。
【0067】
【表1】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ポリカルボジイミド ピール強度(g/cm) 半田耐久性(260℃×10秒後)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 1200 膨れなし
実施例2 1400 膨れなし
───────────────────────────────────
比較例2 50 膨れあり
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0068】
【発明の効果】
本発明のポリカルボジイミドは有機溶媒への溶解性が高く加工性が良好で、かつ優れた耐熱性、耐湿性を示し、電子部品製造時のハンダ付け工程における耐熱性被覆材料などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1にて得られたポリカルボジイミドの赤外吸収スペクトルである。
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