JP3891677B2 - 多層構造スチレン系共重合体の製造法、多層構造スチレン系共重合体及び多層構造スチレン系共重合体の成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐候性、耐衝撃性、成形品の透明度に優れ、特に低温での耐衝撃性の良好な多層構造スチレン系共重合体の製造法、多層構造スチレン系共重合体及び多層構造スチレン系共重合体の成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
耐衝撃性樹脂としてはABS樹脂と呼ばれる樹脂ーゴム系の熱可塑性樹脂があるが、ABS樹脂は、耐衝撃性を付与するために用いられるブタジエン系重合体が、主鎖中に化学的に不安定な二重結合を多く有するために、紫外線などによって劣化し易く、耐候性の劣ることが知られている。この欠点を改良する方法として、主鎖中に二重結合をほとんど有さない飽和ゴム重合体を使用する方法が提案されており、その代表的なものにアクリル系ゴムがある。
【0003】
この飽和ゴム重合体は、紫外線に対しては安定であり優れた耐候性をもつ反面、反応活性点をほとんど有しないため、架橋密度が低く、グラフト構造を構成しにくい。そのため、ゴムが成形中に変形して成形品表面にいわゆるウエルド二色性を生じやすく、また成形品表面での光線の乱反射を起しやすいために、光沢が低下させやすい。そのため、ABS樹脂と比較して成形品外観が劣るという問題があった。
【0004】
この欠点を改良するために、架橋剤を選定して共重合を行う、または過酸化物架橋を行う等の方法が提案されている。これらの方法では、アクリル系ゴムの架橋密度を上げることは可能であり、成形品外観は向上する反面、架橋密度の増加に伴って、アクリル系ゴムのガラス転移温度も上昇してしまうために、耐衝撃性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、ブタジエン系重合体ゴムの優れた耐衝撃性とアクリル系ゴムの優れた耐候性を両立するために、ブタジエン系重合体ゴムラテックスを核として、これにアクリル酸エステル及び架橋剤としての多官能性単量体を乳化グラフト共重合させた2層構造のグラフト重合体ゴムを使用することが提案されている。この場合、多官能成単量体の選定及びアクリル酸エステルとの共重合方法が重要な技術的要素であることが知られている。
【0006】
例えば、特開昭58ー187411号公報では、アクリル酸エステルの重合を完結させることなく、重合途中で停止する方法が、また特開昭61ー155416号公報では、ブタジエン系重合体ゴムに、アクリル酸エステルをグラフト共重合したグラフト重合体ゴム存在下に、芳香族系単量体の重合を行う際に、多官能性単量体としてポリアリルモノマを用いる方法が、特開昭62ー181312公報では、アクリル酸エステルの重合時にグラフト交叉剤及び架橋剤として異なった2種の多官能性単量体を併用する方法が提案されている。これらの方法により、耐衝撃性と耐候性の向上は認められるものの、アクリル系重合体を用いた場合の欠点の一つである成形品のウエルド二色性と低光沢度は改良がされていない。
【0007】
ABS樹脂をはじめ、殆ど全ての耐衝撃性スチレン系樹脂は不透明に近い。この原因は、ゴム成分であるブタジエン系重合体ゴムまたはアクリル酸エステル重合体ゴムの屈折率がマトリックス樹脂であるスチレンーアクリロニトリル系共重合体の屈折率に比較して非常に小さいために、可視光線の透過率が極めて低いことにある。この様な樹脂の不透明さは、樹脂を任意の色に着色する際に、透明樹脂に比較して鮮映度及び発色性が劣るという欠点を有する。
【0008】
この欠点を改良する方法として、ゴム成分とマトリックス樹脂の屈折率差を極力接近させることによって、樹脂の透明性を向上させる方法が知られている。例えば、ブタジエン系重合体の存在下に高屈折率の成分をグラフト共重合することによってゴム成分の屈折率を増加させる方法、マトリックス樹脂を合成する際に、より低屈折率のモノマ成分を共重合することによってマトリックス樹脂の屈折率を低下させる方法などである。この方法を用いると、樹脂の透明度は顕著に向上する反面、ブタジエン系重合体ゴム存在下にグラフト重合を行う際に用いる高屈折率成分は一般にガラス転移温度が高く、高屈折率である。従って、屈折率を重視した場合、ゴム成分のガラス転移温度が上昇してしまい、マトリックス樹脂と合成して得られる樹脂の耐衝撃性が低下するという欠点は免れない。また、樹脂の透明度が向上することによって、紫外線の透過率も増加してしまうために、耐候性が悪化するという欠点もある。
【0009】
そこで、耐候性、耐衝撃性、樹脂の透明度、成形品の光沢及びウエルド二色性を満足させる改良方法として、マトリックス樹脂がアクリル系樹脂である場合については多くの検討がなされており、その多くは、樹脂ーゴム系の熱可塑性樹脂を多層構造体とする方法である。例えば、特開昭58ー167605号公報、特開昭60ー63248号公報、特開平3ー52910号公報及び米国特許4473679号明細書には3層構造体が、特開昭59ー202213号公報、特公昭62ー41241号公報及び特公昭52ー30996号公報には4層構造体が、特開昭63ー27516号公報には5層構造体がそれぞれ開示されている。また、特公昭55ー27576号公報等には3層構造体と4層構造体をブレンドする方法が開示されている。これらの方法は、アクリル系樹脂に関しては効果が認められるものの、芳香族系、特にスチレン系樹脂に関しては充分な効果は得られない。
【0010】
スチレン系樹脂に有効であるとする多層構造体に関しては、特開平5ー331334号公報に耐衝撃性の向上を目的とした2層構造体が、特開平5ー302009号公報では耐候性の向上および靱性の温度依存性が小さいことを目的とした4層構造を基本構造が開示されている。これらの方法は、特定の特性には有効であるが、耐候性、耐衝撃性、成形品の光沢、ウエルド二色性、樹脂の透明性等の特性を全て満足するには至っていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
発明者らは上記の欠点を改良ため鋭意検討を行った結果、主として芳香族ビニル化合物、アクリル酸エステル及び多官能性単量体から構成されるスチレン系多層構造体に著しい改善効果のあることを見いだしたが、この多層構造スチレン系樹脂は特にー30℃程度の低温での耐衝撃性が低いという問題点があった。
【0012】
本発明は、耐候性、耐衝撃性、樹脂の透明度、成形品の光沢及びウエルド二色性を満足させる改良方法であり、特に低温での耐衝撃性の良好な多層構造スチレン系共重合体の製造法及び多層構造スチレン系共重合体を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記[1]〜[8]を要旨とする発明に関する。
[1]:下記の段階(1)〜(5)を含む多層構造スチレン系共重合体の製造法(但し、ビニルシラン系化合物は下記の段階(1)〜(5)において、0.1重量%以上となるように配合される。)に関する。
(1):スチレン40〜99.949重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種0〜35重量%と、多官能性単量体0.001〜5重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(a)を、得られる共重合体(A)のガラス転移温度が0℃以上になるように配合して乳化重合させる。
(2):段階(1)で得られた共重合体(A)の存在下、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル75〜99.949重量%と、多官能性単量体0.001〜5重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(b)を、この段階(2)で新たに得られる共重合体(B)のガラス転移温度が0℃以下になるように配合して乳化重合させる。
(3):段階(2)で得られた共重合体(B)の存在下、スチレンと、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物0〜99.999重量%と、多官能性単量体0.001〜99.95重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(c)を、この段階(3)で新たに得られる共重合体(C)のガラス転移温度が0℃以上でかつその屈折率が1.45〜1.60の範囲内になるように配合して乳化重合させる。
(4):段階(3)で得られた共重合体(C)の存在下、スチレン60〜85重量%と、シアン化ビニル化合物15〜40重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜15重量%と、多官能性単量体を0.001〜10重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(d)を配合して乳化重合させて、新たな共重合体(D)を得る。
(5):段階(4)で得られた共重合体(D)の存在下、スチレン60〜90重量%と、シアン化ビニル化合物10〜35重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜30重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(e)を、配合して乳化重合させて、新たな共重合体(E)を得る。
【0014】
[2]:段階(1)〜(5)における単量体混合物(a)〜(e)のそれぞれの配合量が、単量体混合物(a)〜(e)の総量に対し、単量体混合物(a)5〜55重量%、単量体混合物(b)10〜60重量%、単量体混合物(c)1〜20重量%、単量体混合物(d)5〜35重量%及び単量体混合物(e)10〜79重量%である[1]記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法であることが好ましい。
【0015】
[3]:段階(5)終了時の共重合体(E)の粒子径が、50〜500nmである[1]または[2]記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法であることが好ましい。
【0016】
[4]:ビニルシラン系化合物のビニル基がメタクリル基又はアクリル基である[1]〜[3]のいずれかに記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法であることが好ましい。
【0017】
[5]:シラン系化合物がジメチルシロキサン、フェニルシロキサン又はメチルフェニルシロキサンである[1]〜[4]のいずれかに記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法であることが好ましい。
【0018】
[6]:段階(1)〜(4)で配合する多官能性単量体が、それぞれポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキレンジオールの(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である[1]〜[5]のいずれかに記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法であることが好ましい。
【0019】
[7]:段階(4)で配合する多官能性単量体が、アリルメタクリレートである[1]〜[6]のいずれかに記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法であることが好ましい。
【0020】
[8]:[1]〜[7]のいずれかに記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法により得られる多層構造スチレン系共重合体。
【0021】
[9]:[8]記載の多層構造スチレン系共重合体を用いて得られる多層構造スチレン系共重合体の成形品。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
I.多層構造スチレン系共重合体の製造法
本発明の多層構造スチレン系共重合体(樹脂)の製造方法は、下記(1)〜(5)の段階を含む。ビニルシラン系化合物は下記の段階(1)〜(5)において、0.1重量%以上となるように配合される。
1.段階(1)
段階(1)では、スチレン40〜99.949重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種0〜35重量%と、多官能性単量体0.001〜5重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(a)を所定の条件で乳化重合させ、共重合体(A)を得る。
【0023】
本発明に用いられるスチレンとしては、スチレンまたはスチレンを主成分とし、α−メチルスチレン,クロルスチレン,ビニルトルエン等のスチレン誘導体;アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類等との混合単量体を挙げることができる。
【0024】
単量体混合物(a)において、スチレンの組成割合は、単量体混合物(a)の総量に対して40〜99.999重量%とされ、好ましくは95〜99.949重量%である。スチレンが多すぎても少なすぎても得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の透明性が低下し、多層構造スチレン系共重合体の成形品とした場合の光沢及びウエルド二色性が低下する。
【0025】
本発明に用いられる炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2ーメチルペンテル(メタ)アクリレート、3ーメチルペンテル(メタ)アクリレート、4ーメチルペンテル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フエニル(メタ)アクリレート、2、3ージメチルブチル(メタ)アクリレート、2、2ージメチルブチル(メタ)アクリレート、3、3ージメチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、2ーメチルヘキシル(メタ)アクリレート、3ーメチルヘキシル(メタ)アクリレート、4ーメチルヘキシル(メタ)アクリレート、5ーメチルヘキシル(メタ)アクリレート、2、2ージメチルペンチル(メタ)アクリレート、2、3ージメチルペンチル(メタ)アクリレート、4、4ージメチルペンチル(メタ)アクリレート、3、4ージメチルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2ーメチルヘプチル(メタ)アクリレート、3ーメチルヘプチル(メタ)アクリレート、4ーメチルヘプチル(メタ)アクリレート、5ーメチルヘプチル(メタ)アクリレート、3ーエチルヘキシル(メタ)アクリレート、4ーエチルヘキシル(メタ)アクリレート、5ーエチルヘキシル(メタ)アクリレート等を例示することができ、これらのすべての異性体を用いることができる。これらの中で、好ましいものは、n-ブチル(メタ)アクリレート、2ーエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。より好ましいものは、n-ブチルアクリレート、2ーエチルヘキシルアクリレートである。さらに好ましいものはn-ブチルアクリレートである。これらの単量体は単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
単量体混合物(a)において、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルまたはシアン化ビニル化合物の組成割合は、単量体混合物(a)の全量に対して0〜35重量%であり、好ましくは0〜15重量%である。これらが多過ぎると多層構造スチレン系共重合体の成形品の耐衝撃性が低下する。
【0027】
本発明に用いられるシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを用いることができるが、好ましくはアクリロニトリルである
【0028】
本発明に用いられる多官能性単量体としては、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン又は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、等の非水溶性のポリアルキレングリコル(メタ)アクリレート、更には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1、6ーヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。これらの中で、好ましいものは非水溶性のポリアルキレングリコールジアクリレート、アルキルジジオールジアクリレート、ジビニルベンゼンである。より好ましいものは、ポリアルキレングリコールジアクリレート、1、4ーブタンジオルジアクリレートまたは1、6ーヘキサンジオールジアクリレートである。さらに好ましいものは、1、4ーブタンジオルジアクリレート及び1、6ーヘキサンジオールジアクリレートである。これらの多官能性単量体は単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
単量体混合物(a)において、多官能性単量体の組成割合は、単量体混合物(a)の総量に対して、0.001〜5重量%、好ましくは0.05〜2重量%である。多官能性単量体が少なすぎると、多層構造スチレン系共重合体の成形品の透明性が低下し、多すぎると耐衝撃性が低下する。
【0030】
本発明に用いられるビニルシラン系化合物としては、上記の単量体と共重合可能であれば特に制限はないが、ビニル基がメタクリル基またはアクリル基であり、シラン化合物がジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサンまたはメチルフェニルシロキサンが好ましく、ジメチルシロキサンがより好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸両末端変性ジメチルシロキサン、(メタ)アクリル酸両末端変性ジフェニルシロキサン、(メタ)アクリル酸両末端変性メチルフェニルシロキサン及びこれらシロキサンの(メタ)アクリル酸片末端変性物等が例示され、その中でも(メタ)アクリル酸両末端変性ジメチルシロキサンが好ましい。ビニルシラン系化合物の官能基当量は400〜5000のものが好ましく、400〜2500のものがより好ましい。
【0031】
単量体混合物(a)において、ビニルシラン系化合物の組成割合は、単量体混合物(a)の総量に対して0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.2〜10重量%である。ビニルシラン化合物が20重量%を越えると成形品の透明性が低下する。
【0032】
段階(1)において、前記単量体混合物(a)は、生成する共重合のガラス転移温度は0℃以上になるように、好ましくは25℃以上になるように、より好ましくは60℃以上になるように配合される。
具体的には、ビーカー等のガラス製容器に所定量の単量体を秤量し、均一になるまで攪拌し、その混合物を重合反応に供する。得られる共重合体(A)のガラス転移温度は後述する方法で決定される。ガラス転移温度が0℃未満であると多層構造スチレン系共重合体の成形品の透明性、耐衝撃性が低下しやすくなる。
【0033】
段階(1)において、重合率は80重量%以上であることが好ましい。より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上である。重合率が80重量%未満であると、得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性及び透明性が低下する傾向がある。
【0034】
2.段階(2)
段階(2)では、段階(1)で得られた共重合体(A)の存在下、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル75〜99.949重量%と、多官能性単量体0.001〜5重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(b)を所定の条件で乳化重合させ、共重合体(B)を得る。
【0035】
段階(2)において、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルとしては、段階(1)で使用できるものが同様に使用できるが、中でも好ましいものはn-ブチル(メタ)アクリレート、2ーエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。より好ましいものはn-ブチルアクリレート及び2ーエチルヘキシルアクリレートであり、最も好ましいものはn-ブチルアクリレートである。これらの単量体は単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0036】
単量体混合物(b)において、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルの組成割合は、単量体混合物(b)全量に対して、75〜99.949重量%、好ましくは90〜99.93重量%の範囲である。炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルが75重量%未満であると耐衝撃性が低下し、また99.949重量%を越えると得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の透明性が低下する。
【0037】
段階(2)において、多官能性単量体としては、段階(1)で使用できるものが同様に使用できるが、好ましいものは、非水溶性のポリアルキレングリコールジアクリレート、アルキルジオールジアクリレート及びジビニルベンゼンである。より好ましいものは、ポリアルキレングリコールジアクリレート、1、4ーブタンジオルジアクリレートまたは1、6ーヘキサンジオールジアクリレートである。さらに好ましいものは、1、4ーブタンジオルジアクリレート及び1、6ーヘキサンジオールジアクリレートである。これらの多官能性単量体は単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
単量体混合物(b)において、多官能性単量体の組成割合は、単量体混合物(b)全量に対して、0.001〜5重量%、好ましくは、0.02〜1.5重量%の範囲である。多官能性単量体が0.001重量%未満であると多層構造スチレン系樹脂の成形品の透明性が低下し、また5重量%を越えると耐衝撃性が低下する。
【0039】
段階(2)において、ビニルシラン系化合物は、段階(1)で用いたものと同様のものが使用できるが、ビニル基がメタクリル基またはアクリル基であり、シラン化合物としてはジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサンまたはメチルフェニルシロキサンが好ましく、ジメチルシロキサンがより好ましい。ビニルシラン系化合物の官能基当量は400〜5000のものが好ましく、400〜2500のものがより好ましい。
【0040】
単量体混合物(b)において、ビニルシラン系化合物の組成割合は、単量体混合物(b)の総量に対して0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.2〜10重量%である。ビニルシラン系化合物が20重量%を越えると成形品の透明性が低下する。
【0041】
段階(2)において、前記単量体混合物(b)は、生成する共重合のガラス転移温度は0℃以下になるように、好ましくは−20℃以上になるように、より好ましくは−30℃以上になるように配合される。
具体的には、ビーカー等のガラス製容器に所定量の単量体を秤量し、均一になるまで攪拌し、その混合物を重合反応に供する。段階(2)で得られる共重合体(B)のガラス転移温度が0℃を越えると多層構造スチレン系共重合体の成形品の耐衝撃性が低下する。
【0042】
段階(2)において、重合率は80重量%以上であることが好ましい。より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上である。重合率が80重量%未満であると、得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性及び透明性が低下する傾向がある。ここで、重合率の決定には段階(1)終了時の未反応単量体も含む。
【0043】
3.段階(3)
段階(3)では、段階(2)で得られた共重合体(B)の存在下、スチレンと、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物0〜99.999重量%と、多官能性単量体0.001〜99.95重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(c)を、所定の条件で乳化重合させ、共重合体(C)を得る。
【0044】
段階(3)において、スチレンは、段階(1)で使用できるものが同様に使用できる。
【0045】
段階(3)において、炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニル化合物及び多官能性単量体は、段階(1)または段階(2)で用いることができるものと同様のものを用いることができる。
【0046】
単量体混合物(c)における各単量体の組成割合は、単量体混合物(c)の全量に対して、スチレン、炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸エステル、シアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物0〜99.899重量%(好ましくは65〜99.949重量%、より好ましくは75〜98.1重量%)と多官能性炭量体0.001〜99.9重量%(好ましくは0.001〜35重量%、より好ましくは1.5〜25重量%)及びこれらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%の割合で使用される。
【0047】
段階(3)において、スチレン、炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が多すぎると透明性及び耐衝撃性が低下する。スチレン40〜99.9重量%、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜27重量%及びシアン化ビニル化合物0〜15重量%の割合で使用されることが好ましい。スチレン40〜98.5重量%、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜20重量%及びシアン化ビニル化合物0〜5重量%の割合で使用されることがより好ましい。シアン化ビニル化合物または(メタ)アクリル酸エステルが多くなると多層構造スチレン樹脂の成形品の耐衝撃性が小さくなる傾向があり、スチレンが少なくなると透明性が小さくなる傾向がある。
【0048】
段階(3)において、多官能性単量体は単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて用いても良い。
【0049】
段階(3)において、ビニルシラン系化合物は、段階(1)で用いたものと同様のものが使用できるが、ビニル基がメタクリル基またはアクリル基であり、シラン化合物がジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサンまたはメチルフェニルシロキサンが好ましく、ジメチルシロキサンがより好ましい。ビニルシラン系化合物の官能基当量は400〜5000のものが好ましく、400〜2500のものがより好ましい。
【0050】
単量体混合物(c)において、ビニルシラン系化合物の組成割合は、単量体混合物(c)の総量に対して0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.2〜10重量%である。ビニルシラン系化合物が20重量%を越えると成形品の透明性が低下する。
【0051】
段階(3)において、前記単量体混合物(c)の各単量体は、得られる共重合体(C)のガラス転移温度が0℃以上であり、かつその屈折率が1.45〜1.60の範囲内になるように使用される。好ましくはガラス転移温度が40〜100℃の範囲内、かつ屈折率が1.50〜1.60であり、より好ましくは、ガラス転移温度が60〜100℃、かつ屈折率が1.56〜1.60の範囲である。ガラス転移温度が0℃未満であり、かつ屈折率が1.45未満または1.60を越えると、多層構造スチレン系樹脂の成形品の透明度が低下する。
具体的には、ビーカー等のガラス製容器に所定量の単量体を秤量し、均一になるまで攪拌し、その混合物を重合反応に供する。
【0052】
段階(3)において、重合率は70重量%以上であることが好ましい。より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。重合率が80重量%未満であると、得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性及び透明性が低下する傾向がある。ここで、重合率の決定には段階(2)終了時の未反応単量体も含む。
【0053】
4.段階(4)
段階(4)では、段階(3)で得られた共重合体(C)の存在下、スチレン60〜85重量%と、シアン化ビニル化合物15〜40重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜15重量%と、多官能性単量体を0.001〜10重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(d)を乳化重合させて、新たな共重合体(D)を得る。
【0054】
段階(4)で使用されるスチレン、シアン化ビニル化合物、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及び多官能性単量体は、段階(3)で用いることができるものと同様のものを用いることができる。多官能性単量体のうち、好ましいものは非水溶性のポリアルキレングリコールジアクリレート、アルキレングリコールジアクリレートまたはアリルメタクリレートであり、より好ましいものはアリルメタクリレート、1,6ーヘキサンジオールジアクリレートまたは1,4ブタンジオールジアクリレートである。これらの多官能性単量体は単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルのうち、n−ブチルメタクリレート、2ーエチルヘキシルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2ーエチルヘキシルアクリレートが好ましい。最も好ましいものはn−ブチルアクリレートである。これらの単量体は単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。また、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルをさらに配合しても良い。
【0055】
段階(4)において、ビニルシラン系化合物はとしては段階(1)において、使用できるものが同様に使用できる。
【0056】
単量体混合物(d)における各単量体の組成割合は、単量体混合物(d)の全量に対して、スチレン60〜85重量%(好ましくは73〜80重量%)、シアン化ビニル化合物15〜40重量%(好ましくは22〜35重量%)、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜15重量%(好ましくは0〜5重量%)及び多官能性単量体0.001〜10重量%(好ましくは0.1〜5重量%)の割合で配合される。スチレンが多すぎると多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性、耐薬品性が低下し、少なすぎると透明性が低下する。シアン化ビニル化合物が多すぎると透明性が低下し、少なすぎると耐衝撃性が低下すると共に重合ラテックスの安定性が低下する。(メタ)アクリル酸エステルが多すぎると多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性、耐薬品性が低下する。多官能性単量体が多すぎると多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性が低下し、少なすぎると透明性が低下する。
【0057】
単量体混合物(d)において、ビニルシラン系化合物の組成割合は、単量体混合物(d)の総量に対して0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.2〜10重量%である。ビニルシラン化合物が0.1重量%未満であると低温での耐衝撃性が向上せず、また20重量%を越えると成形品の透明性が低下する。
【0058】
段階(4)において、前記単量体混合物(d)は、得られる共重合体(D)のガラス転移温度が好ましくは60℃以上になるように使用され、より好ましくは、75℃以上、さらに好ましくは95℃以上になるように使用される。ガラス転移温度が60℃未満であると、多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性が低下しやすくなる。
【0059】
段階(4)において、重合率は70重量%以上であることが好ましい。より好ましくは85重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。重合率が70重量%未満であると、得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性及び透明性が低下する傾向がある。ここで、重合率の決定には段階(3)終了時の未反応単量体も含む。
【0060】
5.段階(5)
段階(5)では、段階(4)で得られた共重合体(D)の存在下、スチレン60〜90重量%と、シアン化ビニル化合物10〜35重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜30重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(e)を乳化重合させて、新たな共重合体(E)を得る。
【0061】
段階(5)で使用されるスチレン、シアン化ビニル化合物及び炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルとしては、段階(4)で使用することができるものと同様のものを使用することができる。炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステルとしてはn−ブチルメタクリレート、2ーエチルヘキシルメタクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレート、2ーエチルヘキシルアクリレートがより好ましく、n−ブチルアクリレートが最も好ましい。これらの単量体は単独で用いても良いし、二種以上組み合わせて用いても良い。
【0062】
段階(5)で使用されるビニルシラン系化合物はとしては段階(1)で使用できるものが同様に使用できる。
【0063】
単量体混合物(e)における各単量体の組成割合は、単量体混合物(e)の全量に対して、スチレン60〜90重量%(好ましくは65〜80重量%)、シアン化ビニル化合物10〜35重量%(好ましくは20〜30重量%)、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜30重量%(好ましくは0〜15重量%)の割合で使用される。スチレンが少なすぎると多層構造スチレン系樹脂の成形品の透明性が低下し、多すぎると耐衝撃性が低下する。シアン化ビニル化合物が少なすぎると多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐薬品性が低下し、多すぎると透明性が低下する。(メタ)アクリル酸エステルが多すぎると耐衝撃性、耐薬品性が低下する。
【0064】
単量体混合物(e)において、ビニルシラン系化合物の組成割合は、単量体混合物(e)の総量に対して0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.2〜10重量%である。ビニルシラン化合物が20重量%を越えると成形品の透明性が低下する。
【0065】
段階(5)において、重合率は85重量%以上であることが好ましい。より好ましくは90重量%以上であり、さらに好ましくは95重量%以上である。重合率が85重量%未満であると、得られる多層構造スチレン系樹脂の成形品の耐衝撃性及び透明性が低下する傾向がある。ここで、重合率の決定には段階(4)終了時の未反応単量体も含む。
【0066】
6.単量体混合物(a)〜(e)の配合量
段階(1)から段階(5)の各段階で配合される単量体混合物(a)〜(e)の配合量は、単量体混合物(a)〜(e)の総量に対し、それぞれ以下の通りとする。すなわち、段階(1)で配合される単量体混合物(a)は、好ましくは5〜55重量%、より好ましくは10〜45重量%、さらに好ましくは10〜30重量%であり、単量体混合物(a)が5重量%未満であると多層構造スチレン系共重合体の成形品の透明性が損なわれる傾向があり、55重量%であると成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0067】
段階(2)における単量体混合物(b)は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜50重量%、さらに好ましくは20〜40重量%である。単量体混合物(b)が10重量%未満であると多層構造スチレン系共重合体の成形品の耐衝撃性が低下する傾向があり、60重量%を超えると成形品の透明度が低下する傾向がある。
【0068】
段階(3)における単量体混合物(c)は、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%、さらに好ましくは4〜10重量%である。単量体混合物(c)が1重量%未満であると多層構造スチレン系共重合体の成形品の透明性が低下する傾向があり、20重量%を超えると成形品の耐衝撃性及び耐熱性が低下する傾向がある。
【0069】
段階(4)における単量体混合物(d)は、好ましくは5〜35重量%、さらに好ましくは7〜20重量%、最も好ましくは10〜15重量%である。単量体混合物(d)が5重量%未満であると多層構造スチレン系共重合体の成形品の耐衝撃性及び耐薬品性が低下する傾向があり、35重量%を超えると成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0070】
段階(5)における単量体混合物(e)は、好ましくは10〜79重量%、さらに好ましくは30〜65重量%、最も好ましくは35〜55重量%である。単量体混合物(e)が10重量%未満であると、重合後の塩析、多層構造スチレン系共重合体の乾燥に関する作業性が低下する傾向があるだけでなく、多層構造スチレン系共重合体の成形品の透明性及び耐薬品性並びに耐熱性が低下する傾向があり、79重量%を超えると成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0071】
7.乳化重合における重合条件
(1)重合温度
本発明の多層構造スチレン系共重合体の製造方法においては、乳化重合法が用いられるが、そのときの適切な重合温度は、各段階で異なるものではなく、各段階で40〜100℃である。好ましい重合温度は50〜80℃の範囲で選ばれる。
【0072】
(2)シード重合法
本発明の多層構造スチレン系共重合体の製造方法において、段階(2)以降では、その前の段階まで形成された共重合体の存在下に次の段階の単量体混合物を逐次添加して重合反応をさせる。したがって、段階(2)以降では、シード重合法を適用しているといってよい。この際、段階(2)以降の重合を行う場合に、新たな粒子の生成を起させない重合条件を選択することが重要である。これには用いる界面活性剤の量を臨界ミセル濃度未満にすることが重要である。
【0073】
(3)界面活性剤
乳化重合に用いられる界面活性剤については、特に制限はなく、通常用いられているものを用いることができる。たとえば、長鎖アルキルカルボン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。これらの界面活性剤量は、段階(5)の乳化重合が終了した時点での粒子径が、好ましくは50〜500nm、より好ましくは、50〜350nm、さらに好ましくは、100〜250nmになるように決定される。
【0074】
(4)重合開始剤
乳化重合に用いられる重合開始剤については、特に制限はなく、通常の開始剤を用いることができる。たとえば、過硫酸鉛、過ホウ酸塩等の単独、又は、これらと亜硫酸塩、チオ硫酸鉛等と併用したレドックス開始系、又は有機過酸化物と第一鉄塩、有機化酸化物とナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートを用いたレドックス開始系も用いることができる。
【0075】
8.多層構造スチレン系共重合体
(1)粒子径
本発明の多層構造スチレン系共重合体は、前記段階(5)での重合終了直後(共重合体(E))の粒子径が50〜500nmであることが好ましい。50nm未満であると成形品の耐衝撃性が低下し、500nmを超えると成形品の透明度が低下する傾向がある。より好ましくは、50〜350nmであり、さらに好ましくは、100〜250nmである。
【0076】
(2)共重合体の構造
多層構造スチレン系共重合体の詳細な構造は、電子顕微鏡観察によって調べることができる。
【0077】
(3)共重合体のガラス転移点の決定
各段階で得られる共重合体(A)〜(E)のガラス転移点(Tg)の決定は下記式(1)によって行う。
【0078】
【数1】
【0079】
但し、mi は共重合体中のi 成分のモル分率、Tgi はi 成分のガラス転移温度を示し、i は共重合体を構成する単量体に便宜的に付けた通し番号であり、1から最大数k (単量体の種類の総数)まで変化する。多官能性単量体以外のi 成分のガラス転移温度はそれぞれの成分を単独で塊状重合して得られる重合体のガラス転移温度を表す。このときのガラス転移温度の測定は周波数5Hz、昇温速度1℃/分の条件で行った動的粘弾性測定においてtanδがピークになるときの温度と定義する。多官能性単量体のガラス転移温度は多官能性単量体を単独で塊状重合して得られる重合体の昇温速度1℃/分の条件で行った熱膨張測定において線膨張係数が不連続に変化する温度と定義する。段階(2)で得られる共重合体(B)のガラス転移温度の算出に当たっては、段階(1)終了時点の未反応単量体と段階(2)で新たに配合した単量体混合物(b)とを併せた単量体から共重合体(B)が段階(2)で得られるものとして計算する。段階(3)以降のガラス転移温度の算出もこれと同様に行った。各段階の未反応単量体の組成決定及び定量はガスクロマトグラフィ測定を使用でき、後述する実施例においてはこの方法により測定した。
【0080】
(4)共重合体の屈折率の決定
各段階で得られる共重合体の屈折率の決定は下記式(2)によって行う。
【0081】
【数2】
【0082】
但し、mi は共重合体中のi 成分のモル分率、ni はi 成分の単量体の屈折率を示し、i は共重合体を構成する単量体に便宜的に付けた通し番号であり、1から最大数k (単量体の種類の総数)まで変化する。i 成分の単量体の屈折率は25±0.05℃の条件で測定する。段階(2)で得られた共重合体(B)の屈折率の算出に当たって、段階(1)終了時点の未反応単量体と段階(2)で新たに配合した単量体混合物(b)を併せた単量体から共重合体(B)が段階(2)で得られるものとして計算する。段階(3)以降のガラス転移温度の算出もこれと同様に行った。各段階の未反応単量体の組成はガスクロマトグラフィによって測定でき、後述する実施例においてはこの方法により測定した。
【0083】
本発明によって得られる多層構造スチレン系共重合体は、単独またはスチレンーアクリロニトリル共重合体、スチレンーアクリロニトリルーメタクリル酸メチル共重合体、スチレンーアクリロニトリルーαーメチルスチレン共重合体、スチレンーアクリロニトリルーフエニルマレイミド共重合体等と溶融混練して、多層構造スチレン系共重合体の成形品として用いることができる。この際、多層構造スチレン系共重合体は15重量%以上であることが好ましい。15重量%未満であると成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0084】
本発明によって得られる多層構造スチレン系共重合体は着色剤または安定剤等の通常の添加剤を適宜添加し、さらに必要に応じて他の共重合体とも混合して、溶融混練することができる。具体的には、スチレンーアクリロニトリルーαーメチルスチレン共重合体、スチレンーアクリロニトリルーフエニルマレイミド共重合体等の製造には、特に制限はなく、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合法等の公知の重合法により製造できる。
【0085】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
【0086】
実施例又は比較例における測定は以下の機器又は方法を用いて行った。
1.重合率:
サンプリングした重合反応液を赤外線水分系を用いて乾燥した後、不揮発分の重量を測定し、この値とし込み割合とから下記式(3)を用いて決定した。
【0087】
【数3】
n層の重合率=((α×β÷γ−δ)/ε)×100% ・・・(3)
【0088】
式(3)中の記号の意味を下記に示す。
n:1〜5の整数
α:段階(n)の重合終了時に重合系に存在する反応混合物全重量
β:段階(n)の重合終了時に採取した反応混合物の不揮発分重量
γ:段階(n)の重合終了時に採取した反応混合物重量
δ:段階(n−1)の重合終了時に重合系に存在する不揮発分の合計重量
ε:段階(n)で新たに添加した単量体及び多官能性単量体と段階(n−1)の重合終了時に重合系に存在する未反応単量体混合物の合計重量
なお、上記においてn−1が0の場合におけるδの値は0であり、εは段階(1)で添加した単量体混合物(A)の配合量である。
【0089】
2.粒子径:
多層構造体ラテックスの粒子径レーザ散乱法を用いて測定した。用いた機器はBIC社製BI−90であった。
【0090】
3.アイゾット衝撃強度:
ASTM−D256に準じて行った。試験片の厚さは1/8インチ、ノッチ付きとした。測定温度は23℃±2℃とした。用いたアイゾット衝撃試験機は東洋精機社製であった。
【0091】
4.ダインシュタット衝撃強度:
DIN−53453に準じて行った。試験片の厚さは1/8インチ、ノッチなしとした、測定温度は23℃±2℃とした。用いたアイゾット衝撃試験機は東洋精機社製であった。
【0092】
5.耐候性
サンシャインウエザーメータ(スガ試験機社製WEL−SUN−HCH型)を用い、JIS A1415に準じて測定した。1000時間照射後の色相変化を測定した。色相変化の測定方法は、分光色差計(マクベス社製)を用いて△Eを測定した。
【0093】
6.可視光透過率:
波長領域400〜800nmの透過率を調べ、試験片の透過率曲線とベースラインで囲まれる面積を、多層構造体を全く含有しないマトリックス樹脂の場合の同様にして測定した面積で除した値を試験片の透過率とした。試験片の厚みは2mm、分光光度計(日立製作所社製、228A型)を用い、23℃±2℃の温度で測定した。
【0094】
7.熱変形温度:
ASTM D−648−56に準じて行った。試験片は1/2インチのものを用い、荷重18.4kgf、昇温速度2.0±2℃の条件で行い、試験片の変形が0.26mmに達したときの温度を熱変形温度とした。
【0095】
8.引張り強度:
JIS K6319に準じて、引張り試験機(オリエンテック株式会社製UTM−III−500型)を用いて測定した。
試験条件:チャック間距離112mm±0.05mm
標線間距離50mm±0.05mm
フルスケール200kg
チャートスピード100mm/分
テストスピード19mm/分
測定温度23±2℃
【0096】
9.発色性:
分光色差計(サカタインクス社製)を用いて成形品の黒色度を測定し、発色性の尺度とした。
【0097】
10.光沢度:
JIS Z 8741に準じて入射角60度における平面光沢度を測定した。用いた光度計は日本電色工業株式会社製VG−IB型であった。
【0098】
用いた化合物の略称を以下に示す。
St:スチレン
BuA:アクリル酸ブチル
AN:アクリロニトリル
MMA:メタクリル酸メチル
HDA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
AMA:アリルメタクリレート
V−Si:メタクリル基変性ジメチルシロキサン
TDM:t−ドデシルメルカプタン
KPS:過硫酸カリウム
ASK:アルケニルコハク酸カリウム
【0099】
実施例1
(段階(1))
4リットルの環流冷却器付きフラスコに、蒸留水1500g、ASK4.03gを採取し、320rpmの回転数で攪拌しながら40℃まで昇温した。40℃の到達した時点で、その温度を保ったまま、窒素ガスを水中に吹き込み、約1時間かけて、水中に溶解している酸素を置換した。その後、窒素ガス気流下に70℃に昇温し、濃度1.19重量%のKPS水溶液25.3gを添加した後、St344.80g、HDA0.566g、ビニルシラン化合物としてV−Si(粘度:58mm2/s)12.49gからなる混合物を9.3g/minの割合で滴下した。この全量を滴下した後、同温度で2.5時間保持した。このときの重合率は96.5%であった。
【0100】
(段階(2))
次いで、濃度1.1重量%のKPS水溶液25.3g及びASK6.04gを添加した後、BuA344.80g、HDA0.426gからなる混合物を、9.3g/minの割合で滴下した。この全量を滴下した後、同温度を2.5時間保持した。段階(2)重合時の単量体混合物及び段階(1)重合時の単量体混合物中の未反応分をあわせたものの重合率は97.7%であった。段階(1)及び段階(2)で使用した単量体全量の重合率は98.2%であった。
【0101】
(段階(3))
次いで、濃度2.9重量%のKPS水溶液25.8gを添加した後、St63.8g,BuA12.8g,HDA1.613gからなる混合物を、9.3g/minの割合で滴下した。この全量を滴下した後、4時間、同温度を保持した。段階(2)終了時における未反応単量体と段階(3)で新たに配合した単量体混合物をあわせたものの重合率(これを「段階(3)での重合率という」)は98.2%であった。段階(1)〜(3)の単量体混合物の全量の重合率は99.0%であった。
【0102】
(段階(4))
次いで、濃度1.4重量%のKPS水溶液25.4gを添加した後、St104.1g,AN32.9g,AMA4.088gからなる混合物を、9.3g/minの割合で滴下した。この全量を滴下した後、1.5時間同温度を保持した。段階(3)終了時の未反応単量体と段階(4)で新たに配合した単量体混合物を併せたものの重合率(これを「段階(4)での重合率という」)は93.0%であり、段階(1)〜(4)の単量体全量の重合率は99.2%であった。
【0103】
(段階(5))
次いで、濃度1.3重量%のKPS水溶液25.3gを添加した後、St153.34g、MMA40.46g、AN75.31gからなる混合物を13g/minの割合で滴下し、全量を滴下した後、2時間同温度を保持した。段階(4)終了時点における未反応単量体と段階(5)重合時の単量体を併せたものの重合率(これを「段階(5)での重合率」という)は95.5%であった。
【0104】
次いで、この様にして得られたラテックスの全量を、濃度1.3重量%の硫酸アルミ水溶液3000g中に80℃にて、激しく攪拌しながら約30分で滴下し、析出させた。その後、これを脱水乾燥させ目的の多層構造スチレン系粉体を得た。
この多段重合体粉体430gと別途に懸濁重合で製造したスチレンーアクリロニトリルーメタクリル酸メチル樹脂(重量比57/28/15)(日立化成工業製、ASM19)570g、及び所定の安定剤を混合し、この混合物を押し出し機を用いてペレット化した。このペレットを射出成形し、成形品の性能評価用試料とした。
【0105】
実施例2
ビニルシラン系化合物としてV−Siを段階(1)には用いず、段階(2)に15.56g用いたこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率96.8%、段階(2)での重合率97.9%、段階(3)での重合率98.7%、段階(4)での重合率98.0%、段階(5)での重合率98.2%であった。
【0106】
実施例3
ビニルシラン系化合物としてV−Siを段階(4)のみに3.28g用いたこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率97.1%、段階(2)での重合率96.9%、段階(3)での重合率98.1%、段階(4)での重合率98.3%、段階(5)での重合率98.9%であった。
【0107】
実施例4
ビニルシラン系化合物としてV−Siを第4段階にのみ5.42g用いたこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率95.8%、段階(2)での重合率96.9%、段階(3)での重合率97.9%、段階(4)での重合率98.9%、段階(5)での重合率98.9%であった。
【0108】
実施例5
ビニルシラン系化合物としてV−Siを第5段階にのみ9.10g用いたこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率95.4%、段階(2)での重合率96.3%、段階(3)での重合率97.1%、段階(4)での重合率98.5%、段階(5)での重合率98.6%であった。
【0109】
実施例6
ビニルシラン系化合物としてV−Siを段階(1)で12.49g、段階(2)で15.56g、段階(3)で3.28g、段階(4)で5.42g、段階(5)で9.10gを用いたこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率96.1%、段階(2)での重合率95.9%、段階(3)での重合率97.2%、段階(4)での重合率97.4%、段階(5)での重合率97.9%であった。
【0110】
実施例7
ビニルシラン系化合物としてV−Siを段階(4)で0.54g用いたこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率97.2%、段階(2)での重合率96.8%、段階(3)での重合率96.5%、段階(4)での重合率97.2%、段階(5)での重合率95.9%であった。
【0111】
比較例1
段階(1)〜(5)の全てにおいてV−Siを用いないこと以外は実施例1と同様に行った。段階(1)での重合率96.8%、段階(2)での重合率96.2%、段階(3)での重合率97.3%、段階(4)での重合率99.5%、段階(5)での重合率99.2%であった。
【0112】
比較例2
段階(4)に用いるV−Siの配合量が、33.9gであったこと以外は実施例4と同様に行った。段階(1)での重合率97.4%、段階(2)での重合率96.8%、段階(3)での重合率98.7%、段階(4)での重合率98.9%、段階(5)での重合率99.9%であった。
【0113】
実施例1〜7及び比較例1、2における段階(1)〜(5)で配合される単量体混合物の組成、単量体混合物の割合(重量%)、段階(1)〜(5)での重合率、共重合体のガラス転移点及び屈折率を表1〜9に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
【表9】
実施例1〜7及び比較例1,2における試験結果を表10に示す。
【0123】
【表10】
【0124】
【発明の効果】
本発明により、耐候性、光沢、耐熱性、機械的強度に優れ、特に成形品の透明度、発色性及び低温での耐衝撃強度に優れる多層構造スチレン系共重合体の製造法、多層構造スチレン系共重合体及び多層構造スチレン系共重合体の成形品を提供することができる。
Claims (9)
- 下記の段階(1)〜(5)を含む多層構造スチレン系共重合体の製造法(但し、ビニルシラン系化合物は下記の段階(1)〜(5)において、0.1重量%以上となるように配合される。)。
(1):スチレン40〜99.999重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種0〜35重量%と、多官能性単量体0.001〜5重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(a)を、得られる共重合体(A)のガラス転移温度が0℃以上になるように配合して乳化重合させる。
(2):段階(1)で得られた共重合体(A)の存在下、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル75〜99.949重量%と、多官能性単量体0.001〜5重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(b)を、この段階(2)で新たに得られる共重合体(B)のガラス転移温度が0℃以下になるように配合して乳化重合させる。
(3):段階(2)で得られた共重合体(B)の存在下、スチレンと、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル及びシアン化ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物0〜99.999重量%と、多官能性単量体0.001〜99.95重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(c)を、この段階(3)で新たに得られる共重合体(C)のガラス転移温度が0℃以上でかつその屈折率が1.45〜1.60の範囲内になるように配合して乳化重合させる。
(4):段階(3)で得られた共重合体(C)の存在下、スチレン60〜85重量%と、シアン化ビニル化合物15〜40重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜15重量%と、多官能性単量体を0.001〜10重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(d)を配合して乳化重合させて、新たな共重合体(D)を得る。
(5):段階(4)で得られた共重合体(D)の存在下、スチレン60〜90重量%と、シアン化ビニル化合物10〜35重量%と、炭素数1〜8の(メタ)アクリル酸エステル0〜30重量%と、これらの単量体と共重合可能なビニルシラン系化合物0〜20重量%との組成からなる単量体混合物(e)を、配合して乳化重合させて、新たな共重合体(E)を得る。 - 段階(1)〜(5)における単量体混合物(a)〜(e)のそれぞれの配合量が、単量体混合物(a)〜(e)の総量に対し、単量体混合物(a)5〜55重量%、単量体混合物(b)10〜60重量%、単量体混合物(c)1〜20重量%、単量体混合物(d)5〜35重量%、及び単量体混合物(e)10〜79重量%である請求項1記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法。
- 段階(5)終了時の共重合体(E)の粒子径が、50〜500nmである請求項1または2記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法。
- ビニルシラン系化合物のビニル基がメタクリル基又はアクリル基である請求項1〜3のいずれか1項記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法。
- シラン系化合物がジメチルシロキサン、フェニルシロキサン又はメチルフェニルシロキサンである請求項1〜4のいずれか1項記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法。
- 段階(1)〜(4)で配合する多官能性単量体が、それぞれポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルキレンジオールの(メタ)アクリル酸エステル及びジビニルベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1〜5のいずれか1項記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法。
- 段階(4)で配合する多官能性単量体が、アリルメタクリレートである請求項1〜6のいずれか1項記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法。
- 請求項1〜7のいずれか1項記載の多層構造スチレン系共重合体の製造法により得られる多層構造スチレン系共重合体。
- 請求項8記載の多層構造スチレン系共重合体を用いて得られる多層構造スチレン系共重合体の成形品。
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