JP3890249B2 - 分子解析方法及び分子解析装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生化学分野、分子生物学分野等で有用な分析技術に関する。詳しくは、バイオセンサー装置のセンサーチップ上の検出表面部位に予め固相化された「検出用分子」と相互反応を示す「標的分子」の配列や構造等を解析するために特に有用な分子解析技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、検出表面部位を備えるセンサーチップが組み込まれたバイオセンサー装置と称される分析装置が普及している。このバイオセンサー装置は、現在、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、低分子化合物、脂質等の分子間相互反応、例えば、抗原抗体反応、ハイブリダイゼーション、酵素応答反応の分析やそれらのカイネティクス解析等に有用なツールとなっている。
【0003】
ここで、前記センサーチップの検出表面部位は、検出用分子を固定化するために適する官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、チオール基等)を有する物質やストレプトアビジン等が予め固相化処理されている。この検出表面に対して結合することにより固定化された検出用分子は、検出表面上に送液されてくる試料溶液中に標的分子が存在すれば、特異的な相互反応を示して、検出用分子は標的分子を捕捉することになる。この相互反応の結合・解離状態を、バイオセンサーは、表面プラズモン共鳴原理や水晶発振視子原理等の原理を用いて、リアルタイムに検出することが可能である。
【0004】
そして、検出表面において相互反応を行った後には、検出用分子に捕捉された標的分子を極少容量の所定溶液で回収し、さらに詳細な分子解析(例えば、質量分析法)を行う方法が近年考案されている。該方法では、捕捉された標的分子を回収して質量分析法にかけるための(標的分子を含む)試料液を作製することになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
バイオセンサー装置に続く、質量分析計等を用いた分子解析の精度は、前記試料液中の試料濃度に大きく依存することから、できるだけ微量の回収液によって前記標的分子を回収することが重要である。
【0006】
しかし、極微量の回収液の調整及び送液作業には高度な熟練技術が必要であった。また、この溶液による回収作業は時間がかかることから、これをハイスループット化して作業効率を高めるための改良が試みられているが、限界があるという解決困難な技術的課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、センサーチップの検出表面に捕捉された標的分子を膜体に転写して回収する技術を提供するとともに、この技術を用いた分子解析方法及び分子解析装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するために、本願では、分子間の相互反応作用を分析するバイオセンサー装置の検出表面に結合された検出分子と相互反応を示した標的分子を固相に転写する分子転写手順を少なくとも含むように工夫された分子解析方法を提供する。
【0009】
具体的には、バイオセンサー装置のセンサーチップに形成された検出表面での分子間相互反応終了後に、センサーユニット部から検出表面部分を取り外し、所定の固相に対して転写する。
【0010】
ここで、「転写」は、検出表面に捕捉されていた分子を転写体である固相に移行させる手順又は写し取る手順を広く意味し、狭く解釈されない。分子転写手順としては、電気的転写、圧着転写、吸引転写の中から選択される一の手順を採用でき、これらの手順を適宜組み合わせてもよい。
【0011】
「検出表面」とは、例えば、プラズモン共鳴原理又は水晶発振子原理によって相互作用検出を行うセンサーユニット部に配置されるセンサーチップに設けられた、分子間相互反応が可能な処理が施された表面領域である。本発明に係る方法の実施に際しては、センサーユニット部において、センサーチップができるだけ簡易に脱着できる構成となっていることが望ましい。
【0012】
本発明に係る分子解析方法は、検出表面に捕捉された分子を液相中に回収するという従来の極めて一般化した発想から大きく転換した技術的思想を有するものであって、バイオセンサー装置のチップの検出表面に捕捉された標的分子を、固相、とりわけ膜体に転写することによって回収するという全く新規な分子回収技術を提供することを主題としている。
【0013】
「固相」は、検出表面に捕捉された標的分子を受け取って保持できる性質を少なくとも備えている固体、半固体が含まれる。「膜体」は、液体透過性を有する多孔体であって、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)膜、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、メンブレンフィルターを挙げることができる。転写対象の固相として、膜体が適するのは、柔軟性を有するので検出表面を密着させ易く、液体透過性を備えるので、洗浄等の後処理を好適に行うことができるからである。
【0014】
上記した分子転写手順を採用すれば、初心者でも簡単に、検出表面に捕捉された標的分子を汚れを混入させることなく回収でき、分子回収作業に要する時間も、大幅に短縮できる。また、手間のかかる回収用カラムの作製作業も不要となる。そして、溶液による検出用分子の回収作業を行う必要がないことから、流路系に存在する汚れが微量な試料溶液中に混入し、分析の障害になるという従来の液相回収法が抱えていた問題を根本から解決できる。
【0015】
更に、近年、センサーチップの検出表面を区分けして、複数種の検出用分子を別々に固定化し、それぞれの検出用分子と相互反応を示す標的分子を検出、分析するという技術が試みられる場合があるが、この場合、本発明の分子転写手順を採用すれば、確実に複数種の標的分子を混合することなく別々に、かつ同時に転写回収し、解析することができるようになるという利点がある。
【0016】
具体的には、従来の溶液による回収手順によれば、検出表面上の各検出用分子に捕捉された標的分子の回収作業を、区分けされた流路系を用いて、順次、別個独立の作業の下で行わなければならなかったので、非常に手間と時間がかかっていた。また、長時間に及ぶ回収作業の間に、標的分子が解離したり、変性したりしてしまうことがあった。一方、本発明における分子転写手順は、検出表面に捕捉された複数種の標的分子を、一度に転写し回収できるので、手間がかからず、回収作業を短時間で終了できる。また、回収作業に時間がかからないので標的分子の解離や変性の問題も発生しない。
【0017】
ここに、本発明に係る分子解析方法の一連の手順の具体例を示せば、分子間の相互作用を分析するバイオセンサー装置の検出表面に対して標的分子を含有する溶液を接触させ、続いて、該検出表面に捕捉された標的分子(検出用分子とアクティブに反応した標的分子)を膜体に転写し、前記膜体に転写された標的分子を、例えば、酵素消化等を用いて液相中に溶出させた後に、試料液を質量分析法によって解析するという手順を挙げることができる。
【0018】
なお、質量分析法では、標的分子の分子種を同定したり、構造解析を行ったりすることができる。例えば、標的分子がタンパク質である場合には、アミノ酸配列、リン酸化の状態、糖質の付加状態等を解析し、標的分子が脂質である場合には、側鎖長の解析等を行うことができる。
【0019】
次に本願では、上記分子解析方法に加えて、分子間の相互作用を分析するバイオセンサー装置の検出表面に結合された検出分子と相互作用を示した標的分子を膜体に自動的に転写できるように工夫された自動分子転写手段を少なくとも備える構成の分子解析装置を提供する。
【0020】
即ち、検出表面での相互反応手順完了後に、バイオセンサー装置からセンサーチップ(又は検出表面部位)を取り出し、該センサーチップ(又は検出表面部位)を所定箇所に設置し、続いて、電気的転写、圧着転写、吸引転写の中から選ばれる一の手段によって、予めセンサーチップと対向する位置に設置されている膜体等の固相に対して検出用分子が自動的に転写されるようにする。なお、本装置には、転写手段に加えて、後続の分析に有用な洗浄、修飾化、酵素消化、抽出等の手順を自動的に実行できる手段を設けてもよい。
【0021】
以上のように、本発明に係る分子解析方法又は分子解析装置は、バイオセンサー装置の検出表面に捕捉された分子を固相に回収することによって、作業効率を向上させるとともに、後続の分子解析精度を高めることができるという技術的意義を有している。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る分子解析方法及び分子解析装置の好適な実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
まず、図1は、本発明に係る分子解析方法の分子転写手順及び分子解析装置の分子転写手段の概念を簡略に表す図である。
【0024】
図1中における符号1は、バイオセンサー装置を用いた分子間相互反応後に、該装置のセンサーユニット部から取り外されたセンサーチップの検出表面を表している。この検出表面1の反応面101には、予め検出用分子Dが固相化処理されており、分子間相互反応によって該検出用分子Dには、該分子Dとアクティブに相互反応を示した標的分子Tが固定化されている。なお、本発明において、バイオセンサー装置の種類や検出表面の構成は、適宜選択可能であって、狭く限定されることはない。
【0025】
図1中における符号2は、PVA膜、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、メンブレンフィルター等の膜体を示している。この膜体2に対して、前記検出表面1の反応面101を対向させて、その後、前記反応面101と膜体2の転写面201を接触させた状態を確保し、続いて、検出表面1に電気を印加したり、検出表面1を転写面201に向けて押し付けて圧着させたり、真空吸引等の吸引力を利用したり等して、検出表面1の反応面101から膜体2の転写面201へ標的分子Tを移行させる(分子転写手順)。
【0026】
図2は、分子転写作業後の膜体2の状態を簡略に示す図である。この図2に示されるように、分子転写作業完了後には、検出表面1から膜体2の転写面201へ標的分子Tが移行し、該標的分子Tが転写面201に付着した状態となる。即ち、固相中に検出用分子Dと相互反応を示した標的分子Tが確実に固相中に回収される。
【0027】
なお、検出表面1に複数種の標的分子T,T,T,Tが固定化されている場合では、これらの標的分子T〜Tが、一度の分子転写作業で、膜体2の転写面201に転写されることになる。なお、膜体2には、標的分子Tに加えて、検出用分子Dも同時に転写される場合があるが、この場合、後続の分析により、両者を区別することが可能であるので、標的分子Tの構造等の解析には問題がない。
【0028】
膜体2に転写回収された標的分子は、後続の分析方法に応じて、必要な洗浄、修飾化、酵素消化、抽出等の処理が施され、その分子種の同定や構造解析等が行われる。
【0029】
次に、添付した図3に基づき、本発明に係る分子解析装置の構成を説明する。図3は、本発明に係る分子解析装置の基本概念を簡略に示すブロック図である。
【0030】
図3中の符号3は、バイオセンサー装置の一例である表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)原理を用いたバイオセンサー装置の要部構成を簡略に示しており、このバイオセンサー装置3には、符号Uで示されたセンサーユニット部が設けられている。
【0031】
このセンサーユニット部Uは、表面プラズモンが金属/液体界面で励起した場合に起こる表面プラズモン共鳴を光学的に検出するSPR検出手段301を備える。SPR検出手段301は、検出用分子と標的分子の結合と解離に伴って、センサーチップの検出表面で生じる微妙な質量変化をSPRシグナルとして検出する。
【0032】
また、センサーユニット部Uには、一般に、検出表面1に対して正確な送液の制御を行うマイクロ流路系302と、センサーチップ303と、を備えている。センサーチップ303の所定箇所には検出表面1が形成されており、該検出表面1は、例えば、ガラス基板に金の薄膜が蒸着された構成を備え、この金薄膜側に固相化された検出用分子Dと、前記マイクロ流路系によって制御されて送液されてくる溶液中に含まれる標的分子Tの相互反応作用の場を提供する。なお、センサーユニット部Uには、マイクロ流路系302ではなく、キュベット方式が採用される場合がある。
【0033】
上記構成のバイオセンサー装置3において、分子間の相互反応作用を所定の手順に従って行った後、該装置3からセンサーチップ303を取り外し、自動分子転写装置4に移送する。そして、センサーチップ303(又は該センサーチップ303から外した検出表面1)を、自動転写部401の所定の転写個所401aに設置する。なお、センサーチップ303の転写個所401aへの設置手順は、自動化してもよい。
【0034】
前記した転写箇所401aには、予め膜体2が設置されており、前記センサーチップ303は、その検出表面1が、前記膜体2に対向するように設置される。転写は、電気的転写、圧着転写、吸引転写のいずれかの手段を適宜選択して行えばよい。なお、これらの手順を組み合わせた転写手段を採用してもよく、例えば、転写箇所401aを密閉状態として、吸引圧着する手段を採用することができる。
【0035】
続いて、転写作業終了後、転写箇所401aから膜体2を取り出し、分析サンプル調整部402の所定箇所402aに移送する。なお、転写箇所401aからの膜体2の取り出し並びに分析サンプル調製部402への移送の各手順についても、全自動化してもよい。
【0036】
分析サンプル調製部402では、後続の分子解析に適したサンプルSを得るための前処理手順である、洗浄、修飾化、酵素消化、抽出等の手順を適宜に選択できる構成とし、これらの手順を自動的に実施できるようにする。
【0037】
図3では、自動転写部401と分析サンプル調製部402が区分けされた構成を例示しているが、自動転写部401と分析サンプル調整部402を一体化し、膜体2を移送することなく、自動転写部401において転写と前処理手順を連続で行うようにしてもよい。
【0038】
分析サンプル調整部402で前処理されて得られたサンプルSは、質量分析計等の分子分析装置Mにかけられて、当該分子種の同定や当該分子の構造解析が行われる。
【0039】
【実施例】
本願発明者は、センサーチップの検出表面に捕捉された標的分子が膜体に転写されるか否かの検証実験を行った。
【0040】
<実験条件及び方法>
バイオセンサー装置は、ビアコア社製表面プラズモン共鳴センサ;BIACORE3000を使用し、センサーチップは、ビアコア社のCM5を使用した。
【0041】
検出用分子として抗グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(Glutathione S-transferase:GST)抗体をアミンカップリング法にてセンサーチップ表面に固定化した。その後、標的分子であるGSTをセンサーチップ表面に送液・反応させた。
【0042】
その間、図4に示す表面プラズモン共鳴による実時間反応曲線を観察し十分な結合量が得られたことを確認し、センサーチップをバイオセンサー装置から取り外した。取り外したセンサーチップ表面にポリビニルアルコール転写膜(PVA膜)を10分間圧着した。なお、圧着した状態を図5に示す。
【0043】
その転写効率をウェスタンブロット法で評価した。ウェスタンブロット法に用いたのは検出用分子として用いたのと同じ抗GST抗体である。
【0044】
<実験結果と考察>
前記表面プラズモン共鳴による実時間反応曲線から、標的分子は約2ナノグラムがセンサーチップ上に結合したものと思われた。そのセンサーチップ表面にPVA膜を圧着して転写操作を行ったところ、標的分子のシグナルが膜体から極めて有意に検出された。このことは、センサーチップ上に結合した任意の分が膜体上へ高効率に回収され、質量分析法等によって高感度に結合分子の解析ができることを意味する。
【0045】
【発明の効果】
本発明に係る分子解析方法又は分子解析装置によれば、初心者でも簡単に、検出表面に捕捉された標的分子を固相に回収できるので、分子回収作業に要する時間を大幅に短縮できるので大変便利である。また、手間のかかる回収用カラムの作製作業も必要がない。加えて、溶液による検出用分子の回収作業を行う必要がないことから、バイオセンサー装置の流路系に存在する汚れが微量な試料溶液中に混入し、分析の障害になることがないので、分子解析精度を向上させることができる。
【0046】
複数種の検出用分子を別々に固定化し、それぞれの検出用分子と相互反応を示す標的分子を検出、分析する場合では、一度の分子転写手順又は分子転写手段を実行することによって、迅速かつ確実に、複数種の標的分子を転写回収し、解析することができる。
【0047】
本発明に係る分子解析方法又は分子解析装置は、バイオセンサー装置の検出表面に捕捉された分子を固相に回収するように工夫した結果、分子解析に係わる作業の効率を大幅に向上させることができるとともに、後続の分子解析精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る分子解析方法の分子転写手順及び分子解析装置の分子転写手段の概念を簡略に表す図
【図2】分子転写作業後の膜体(2)の状態を簡略に示す図
【図3】本発明に係る分子解析装置の基本概念を簡略に示すブロック図
【図4】表面プラズモン共鳴による実時間反応曲線を示す図(グラフ)
【図5】膜体への転写状態を示す図(写真)
【符号の説明】
1 検出表面
2 (固相である)膜体
D 検出用分子
T 標的分子

Claims (8)

  1. 分子間の相互反応作用を分析するバイオセンサー装置の検出表面に結合された検出分子と相互反応を示した標的分子を固相に転写する分子転写手順を少なくとも含むことを特徴とする分子解析方法。
  2. 前記固相は、膜体であることを特徴とする請求項1記載の分子解析方法。
  3. 前記分子転写手順は、少なくとも電気的転写、圧着転写、吸引転写の中から選択される一の手順を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分子解析方法。
  4. 前記検出表面は、プラズモン共鳴原理又は水晶発振子原理によって前記相互反応作用の検出を行うセンサーユニット部に配置されている検出表面であることを特徴とする請求項1記載の分子解析方法。
  5. 前記分子転写手順によって膜体上に回収された分子間の相互作用を分析するバイオセンサー装置の検出表面に結合された標的分子を質量分析法により解析する請求項1記載の分子解析方法。
  6. 分子間の相互反応作用を分析するバイオセンサー装置の検出表面に結合された検出分子と相互反応を示した標的分子を固相に自動的に転写する自動分子転写手段を少なくとも備えることを特徴とする分子解析装置。
  7. 前記固相は、膜体であることを特徴とする請求項6記載の分子解析装置。
  8. 前記分子転写手段は、少なくとも電気的転写、圧着転写、吸引転写の中から選択される一の手段を含むことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の分子解析装置。
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