JP2005114445A - タンパク質の採取及び同定方法 - Google Patents

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隆文 山田
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秀雄 荒川
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Abstract

【課題】 サンプルの局所部位に存在する微量のタンパク質分子を高感度で採取し、同定できる手段を提供する。
【解決手段】 以下の(1)〜(3)の工程を含むタンパク質の採取方法、及び以下の(1)〜(4)の工程を含むタンパク質の同定方法。
(1)原子間力顕微鏡の探針の表面を、タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾する工程
(2)タンパク質を含む試料に、前記探針を差し込み、前記タンパク質を探針と結合させる工程
(3)前記探針を、タンパク質を含む試料から引き抜く工程
(4)探針を抗体と接触させ、その抗体との結合性からタンパク質を同定する工程
【選択図】 なし

Description

本発明は、タンパク質の採取及び同定方法に関する。これらの方法により、細胞膜などに局在する超微量タンパク質の採取が可能になり、また、質量分析計を凌ぐタンパク質の高感度の同定が可能になる。
従来、微量のタンパク質の同定において、質量分析計が広く利用されている。質量分析計による方法は、一般に目的のタンパク質を材料から抽出後、抽出サンプルを直接またはクロマトグラフィー等の分離操作を行った後、サンプル中に存在する各分子の質量を分析、同定するものである。その検出限界は、純粋なサンプルで最大10-16モルオーダーであるが、該サンプル中に不純物が混在する場合や分離操作を直結させた計測の場合は、一般的に10-14から10-15モルオーダーである。また、他の方法として化学発光を用いた免疫化学的検出法がある。該方法は、一般的に電気泳動等により抽出したタンパク質を分離した後、それを膜上に転写し、次に酵素を結合させた抗体で膜上に転写された各々のタンパク質を認識させ、抗体に結合した酵素と化学発光検出試薬との反応を用いて高感度に検出するというものである。該化学発光を用いた方法の検出感度は、一般に、10-16から10-19モルオーダーである。一方、上記したタンパク質の同定方法とは異なるが、全反射型蛍光顕微鏡を用いて蛍光標識したタンパク質溶液を検出視野に広げ、その中から一分子に由来する蛍光を観察することが行われている。
上記した質量分析計を用いたタンパク質の同定法は、比較的感度が高く、分子量を元にした分子種の同定を行うことが出来る点で優れているが、数万分子より少ない分子の検出は出来ない。一方、化学発光や全反射型蛍光顕微鏡を用いた検出法は検出感度において優れている。しかし、上記したいずれの方法においても、まとまったサンプル中に存在するタンパク質の同定や検出には適しているが、サンプルの局所部位に存在する超微量のタンパク質分子の同定、その時間変化の解析は出来ない。
特開2003-88383号公報
本発明は、サンプルの局所部位に存在する微量のタンパク質分子を共有結合性架橋剤を使用して採取した後、高感度〔例えば、10-20から10-21モル(1,000から100分子)オーダー〕で検出、同定できる手段を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、原子間力顕微鏡の探針の表面をタンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾し、その探針によってタンパク質を捕獲し、捕獲したタンパク質と抗体との結合性を調べることにより、試料の局所部位に存在する微量のタンパク質を高感度で検出、同定できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の〔1〕〜〔6〕を提供するものである。
〔1〕以下の(1)〜(3)の工程を含むタンパク質の採取方法。
(1)原子間力顕微鏡の探針の表面を、タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾する工程
(2)タンパク質を含む試料に、前記探針を差し込み、前記タンパク質を探針と結合させる工程
(3)前記探針を、タンパク質を含む試料から引き抜く工程
〔2〕タンパク質を含む試料が、細胞膜である〔1〕記載のタンパク質の採取方法。
〔3〕タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質が、スクシンイミジル基またはマレイミド基を持つ物質である〔1〕又は〔2〕記載のタンパク質の採取方法。
〔4〕以下の(1)〜(4)の工程を含むタンパク質の同定方法。
(1)原子間力顕微鏡の探針の表面を、タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾する工程
(2)タンパク質を含む試料に、前記探針を差し込み、前記タンパク質を探針と結合させる工程
(3)前記探針を、タンパク質を含む試料から引き抜く工程
(4)前記探針を抗体と接触させ、その抗体との結合性からタンパク質を同定する工程
〔5〕タンパク質を含む試料が、細胞膜である〔4〕記載のタンパク質の同定方法。
〔6〕タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質が、スクシンイミジル基またはマレイミド基を持つ物質である〔4〕又は〔5〕のタンパク質の同定方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のタンパク質の採取方法は、以下の(1)〜(3)の工程を含み、本発明の同定方法は、以下の(1)〜(4)の工程を含む。
工程(1)では、原子間力顕微鏡の探針の表面を、タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾する。
原子間力顕微鏡及びその探針は特別なものを用いる必要はなく、市販のものでよい。
タンパク質中の官能基としては、アミノ基、チオール基などを例示できる。
タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質は特に限定されず、例えば、スクシンイミジル基、マレイミド基、ピメリイミジル基などを持つ物質を挙げることができる。
タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質での修飾は、例えば、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジンと3,3’-ジチオビス(スルフォスクシニミジルプロピオネイト)との処理、3-アミノプロピルトリエトキシシランとジスクシンイミジルスベレートとの処理などにより行うことができる。
工程(2)では、タンパク質を含む試料に、前記探針を差し込み、前記タンパク質を探針と結合させる。
タンパク質を含む試料は特に限定されず、例えば、細胞内部、細胞膜、ゲル状物質などを試料とすることができる。細胞膜中のタンパク質は局所部位に存在する場合が多く、従来の方法では採取及び同定が困難であるが、本発明の方法であればこのようなタンパク質の採取及び同定も容易に行うことができる。
工程(3)では、前記探針を、タンパク質を含む試料から引き抜く。
探針の引き抜きは、探針を試料中に一定時間静置した後に行うのが好ましい。静置する時間は、探針の修飾に用いた物質や捕獲するタンパク質の種類などにより異なるが、通常、0.1秒〜15分程度である。
工程(4)では、探針を抗体と接触させ、その抗体との結合性からタンパク質を同定する。
使用した抗体が探針と結合した場合、探針に結合しているタンパク質はその抗体が認識するタンパク質であると同定できる。一方、使用した抗体が探針と結合しなかった場合、探針に結合しているタンパク質はその抗体が認識するタンパク質ではないと考えられる。この場合は、別の抗体を用いて反応を行い、抗体と探針の結合が確認されるまでこれを続ける。
抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。
探針と抗体との結合性は、例えば、蛍光標識した抗体(あるいは、抗体と特異的に結合する二次抗体を標識してもよい)を探針と接触させた後、蛍光顕微鏡で観察することにより、確認することができる。
本発明により、従来採取が困難であった細胞膜などに局在するタンパク質の採取が容易に行えるようになる。また、本発明により、質量分析計を凌ぐタンパク質の高感度の同定が可能になり、医学等の分野において、研究開発の時間が短縮され、コストダウンが実現できる。例えば、個々の細胞レベルでの経時的な解析が可能になり、病気の進行を分子レベルでより詳細に解明でき、それによって迅速な薬剤開発が可能となる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕 ゲルからタンパク質分子の捕獲
原子間力顕微鏡(オリンパス社製TR400-PB)の探針(探針先端は金コートされている)に5μmolの還元型3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジンを室温、pH8で終夜反応させ、探針を蒸留水で洗浄した後、3,3’-ジチオビス(スルフォスクシニミジルプロピオネイト)(10mM/200μl)を室温、pH7で1時間、反応させた。探針を同様に蒸留水で洗浄した。1μMのGFPを含むアガロースゲルに、上記のように調製した探針を原子間力顕微鏡を使って、ゲル表面から1μmの深さで差し込み、15分間そのまま静置させた。その後、その探針を0.1%Tween20を含み緩衝液(pH8)で洗浄し、原子間力顕微鏡で探針先端を動かしながら、高感度カメラを接続した全反射型蛍光顕微鏡で観察した。修飾した探針によって釣り上げられたGFPの蛍光を観察できた(図1A)。修飾していない探針ではその蛍光が観察されなかった(図1B)。GFPの分子数は、探針先端がゲルを押しのけた体積に含まれるGFP分子が、すべて、探針先端に結合したとき、約160分子となる。また、全反射型顕微鏡で蛍光分子が励起されうる場(深さ100nm程度)での探針表面に一面に結合できる分子数は1800分子と計算された。
〔実施例2〕 探針表面に結合した分子種の同定
実施例1と同様に修飾した探針に種々のタンパク質を化学的に結合させた。ここでは、GFP、フィブロネクチン、Bcl2をタンパク質として使用した。その後、それぞれに特異的なモノクローナル抗体を蛍光ラベルし、タンパク質を結合した探針とその抗体を反応させた。それらの探針を0.1%Tween20を含む緩衝液(pH8)で洗浄し、実施例1と同様に原子間力顕微鏡で探針先端を動かしながら、全反射型蛍光顕微鏡で観察した。その結果、各タンパク質に対して、それら特異的な抗体でのみ探針先端に蛍光が観察できた(図2)。
〔実施例3〕 探針の種々の修飾方法によるタンパク質分子の結合
実施例1で示したアミド結合によるタンパク質の探針への固定方法の他、アビジンとビオチンの特異的結合、N-ニトロ3酢酸ニッケルとポリヒスチジンとの結合を使用した方法を試した。アビジンとビオチンの特異的結合では、実施例1と同様、探針に還元型3-2(-ピリジルジオチ)プロピオニルヒドラジンを反応させ、アミノ基で探針表面を修飾させた。該探針に10mMのビオチンアミドヘキサンカルボン酸-3-スルフォ-N-ヒドロキシスクシンイミドナトリウム塩を室温で1.5時間反応、探針を洗浄、ストレプトアビジン(3mg/ml)をpH8、室温で1時間反応、探針を洗浄の順で修飾を行った。該探針にビオチン化GFP(0.1mg/ml)を室温で1時間処理した。
N-ニトロトリ酢酸ニッケルとポリヒスチジンとの結合では、実施例1で使用した探針に10μmolの還元型N-[5-(2’チオールエチルアミド)-1-カルボキシペンチル]イミノジ酢酸をpH8の緩衝液中、終夜反応させた。反応後、水洗浄、1mMNaOH、水洗浄、50mM硫酸ニッケル処理(1時間、室温)、水洗浄を行った。得られた探針にヒスチジンタグの付いたGFP(10μM)と1時間反応させた。探針先端の蛍光を実施例1と同様な方法で観察した。その結果、アビジンとビオチンの結合において固定されたGFPの蛍光が探針先端に観察された(図3、btGFP/AB)。同様に、N-ニトロトリ酢酸ニッケルとポリヒスジンの結合においてもGFPの蛍光が観察された(図3、GFP/NTA)。また、前者において対照実験でビオチン化していないGFPを用いた場合は、蛍光が観察されなかった(図3、GFP/AB)。後者の実験において結合後にキレート剤であるEDTAの添加によりGFP蛍光が探針から遊離した(図3、GFP/NTA with EDTA)。
実施例1の結果を示す写真。 実施例2の結果を示す写真。 実施例3の結果を示す写真。

Claims (6)

  1. 以下の(1)〜(3)の工程を含むタンパク質の採取方法。
    (1)原子間力顕微鏡の探針の表面を、タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾する工程
    (2)タンパク質を含む試料に、前記探針を差し込み、前記タンパク質を探針と結合させる工程
    (3)前記探針を、タンパク質を含む試料から引き抜く工程
  2. タンパク質を含む試料が、細胞膜である請求項1記載のタンパク質の採取方法。
  3. タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質が、スクシンイミジル基またはマレイミド基を持つ物質である請求項1又は2記載のタンパク質の採取方法。
  4. 以下の(1)〜(4)の工程を含むタンパク質の同定方法。
    (1)原子間力顕微鏡の探針の表面を、タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質で修飾する工程
    (2)タンパク質を含む試料に、前記探針を差し込み、前記タンパク質を探針と結合させる工程
    (3)前記探針を、タンパク質を含む試料から引き抜く工程
    (4)前記探針を抗体と接触させ、その抗体との結合性からタンパク質を同定する工程
  5. タンパク質を含む試料が、細胞膜である請求項4記載のタンパク質の同定方法。
  6. タンパク質中の官能基と反応性を持つ物質が、スクシンイミジル基またはマレイミド基を持つ物質である請求項4又は5記載のタンパク質の同定方法。
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