JP3888181B2 - 液晶表示素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示素子は、基本的に一対の基板とこれら基板間に挟持された液晶を含む液晶層とを含んでいる。この液晶層に所定の駆動電圧を印加することで該液晶層における液晶分子の配列を制御し、素子に入射される外光を変調して目的とする画像の表示等を行う。
【0003】
液晶表示方式は様々なものが提案されている。近年、ネマティック液晶にカイラル材料を添加することにより、室温においてコレステリック相を示すようにしたカイラルネマティック液晶などのコレステリック相を示す液晶を用いた液晶表示素子が研究されている。
【0004】
このタイプの液晶表示素子は、例えば、カイラルネマティック液晶の選択反射能を利用した反射型の液晶表示素子として用い得ることが知られている。この反射型液晶表示素子では高低のパルス電圧を印加することにより液晶をプレーナ状態(着色状態)とフォーカルコニック状態(透明状態)に切り替えて表示を行なうことができる。そして、これらのプレーナ状態及びフォーカルコニック状態は電圧印加を停止した後も保持されるという、いわゆる双安定性或いはメモリー性を示し、これにより、電圧の印加を停止した後も表示が保たれるようにすることが可能である。
【0005】
この反射型の液晶表示素子には、黒色などの背景色を利用したモノクロ(モノカラー)画像表示や2色画像表示及びフルカラー画像表示を行うものがある。
【0006】
例えば、フルカラー表示を実現する一つの方法として、赤色表示を行う赤色液晶層、緑色表示を行う緑色液晶層及び青色表示を行う青色液晶層の少なくとも三つの液晶層を含む積層型液晶表示素子を採用することができる。かかる積層型液晶表示素子では、プレーナ状態(着色状態)のときに赤色、緑色、青色等を表示でき、フォーカルコニック状態(透明状態)のときに黒色などの背景色を表示できる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一対の基板間にコレステリック相を示す液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子では、液晶層の厚み、換言すれば基板間ギャップ(セルギャップ)が従来の程度のもの(例えば6μm〜10μm程度)であると、例えば高い電圧で駆動する必要があり、液晶表示素子を駆動するための駆動用ICとして、定格電圧(耐圧)の低い汎用の安価な駆動用ICを使用することができず、素子駆動のためのコストが高くつく。従って、液晶層の厚み(基板間ギャップ)はできるだけ小さい方が望ましい。
【0008】
しかしながら、一対の基板間にコレステリック相を示す液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子においては、液晶層の厚み(基板間ギャップ)を小さくすると、プレーナ状態での光反射率が低下し易く、それにより暗い画像表示となり、画像表示特性が低下する。
【0009】
そこで本発明は、一対の基板間にコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子であって、液晶層の厚み(基板間ギャップ)が小さく、それだけ低コストで駆動でき、しかも液晶層の厚みが小さいにも拘わらず大きい光反射率を得ることができ、それだけ画像表示特性良好な液晶表示素子を提供することを課題とする。
【0010】
また本発明は、それぞれが一対の基板間に挟持された液晶層を複数積層した積層型液晶表示素子であって、少なくとも一つの液晶層の厚み(基板間ギャップ)が小さく、それだけ低コストで駆動でき、しかも液晶層の厚みが小さいにも拘わらず明るく、それだけ画像表示特性良好な積層型液晶表示素子を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題を解決するため研究を重ね、次のことを見出した。
【0012】
すなわち、一対の基板間にコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子においては、前記液晶層の厚み(前記両基板間ギャップ)を小さくすることにより、駆動電圧を低減できるとともにフォーカルコニック状態での光の散乱や液晶の使用量も減らすことができる。しかし、液晶に所望の表示を行わせるうえで液晶の螺旋ピッチとの関係で液晶層の厚みを決定することが望ましい。
【0013】
この点も考慮して、前記一対の基板間ギャップd(液晶層の厚み)と前記液晶の螺旋ピッチpとの関係をd/p<12とすれば、換言すれば前記液晶層の厚み(前記両基板間ギャップd)を前記液晶の螺旋ピッチpの12倍程度より小さくすれば、概して液晶層の厚みが小さくなり(例えば液晶の螺旋ピッチpが0.4μm程度であれば液晶層の厚みが5μm程度以下になり)、前記のとおり駆動電圧、フォーカルコニック状態での光の散乱及び液晶の使用量を減らすことができる。しかし、d/p<12として基板間ギャップdを決定すると液晶の選択反射能が低下し、これによりプレーナ状態での光反射率が不足する。
【0014】
そこで基板間ギャップdと液晶の螺旋ピッチpとの関係がd/p<12である場合においては、前記液晶をプレーナ状態にしたときの前記液晶層における液晶ドメインについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域と、ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成されるようにすれば、基板間ギャップdが小さいことで減少しているフォーカルコニック状態での光の散乱を増加させることなく、プレーナ状態での光反射率の低下を抑制できる。
【0015】
ここで「ポリドメイン状態」とは、液晶のプレーナ状態において各ドメインの液晶の螺旋軸が基板法線に対し若干傾き、且つ、該螺旋軸の基板への射影方向が各ドメイン間でランダムに異なっている複数のドメインの集まり状態であり、「モノドメイン状態」とは、液晶のプレーナ状態において各ドメインの液晶の螺旋軸が基板面に対し垂直乃至略垂直に均一化している複数ドメインの集まり状態である。
【0016】
本発明者はかかる知見に基づき本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は前記課題を解決するため、一対の基板間にコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子において、
前記一対の基板間ギャップd(前記液晶層の厚み)と前記液晶の螺旋ピッチpとの関係がd/p<12であり、
前記液晶をプレーナ状態にしたときの前記液晶層における液晶ドメインについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域と、ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成される液晶表示素子を提供する。
【0018】
本発明にいう「ポリドメイン状態」とは、複数の小さなドメインが集まった状態であって液晶のプレーナ状態において各ドメインの液晶の螺旋軸が基板法線に対し若干傾き、且つ、該螺旋軸の基板への射影方向が各ドメイン間でランダムに異なっている状態をいい、「モノドメイン状態」とは、複数の大きなドメインが集まった状態であって液晶のプレーナ状態において各ドメインの液晶の螺旋軸が基板面に対し垂直乃至略垂直に均一化している状態をいう。
【0019】
本発明に係る液晶表示素子によると、前記一対の基板間ギャップdと前記液晶の螺旋ピッチpとの関係がd/p<12であるので、概して基板間ギャップd(前記液晶層の厚み)が小さくなり、駆動電圧を低減でき、それだけ素子駆動のためのコストを下げることができる。また、フォーカルコニック状態での光の散乱を減らすことができ、黒色などの背景色を利用して画像表示を行う場合、それだけ良好な背景色表示特性(例えば黒色表示特性)を得ることができる。さらに、液晶の使用量を減らすことができ、それだけ素子の低コスト化を実現できる。
【0020】
そして前記液晶をプレーナ状態にしたときの前記液晶層における液晶ドメインについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域と、ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成されるので、基板間ギャップdが小さいことで減少しているフォーカルコニック状態での光の散乱を増加させることなく、プレーナ状態での大きい光反射率を得ることができ、それだけ明るい、良好な画像表示を行うことができる。
【0021】
このように本発明に係る液晶表示素子によると、液晶層の厚み(基板間ギャップd)が小さく、それだけ低コストで駆動でき、しかも液晶層の厚みが小さいにも拘わらず大きい光反射率を得ることができるとともに、良好な背景色表示特性(例えば黒色表示特性)を得ることができ、それだけ画像表示特性が良好である。
【0022】
本発明に係る液晶表示素子では、前記一対の基板間ギャップd(前記液晶層の厚み)と前記液晶の螺旋ピッチpとの関係はd/p<12であるが、このd/pの値は製造上の困難性が高くなるため、小さくても2.3、すなわち2.3以上とすることが望ましい。
【0023】
前記液晶層の厚み(前記両基板間ギャップ)dとしては、駆動電圧低減の観点から5μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下程度を例示でき、その下限値としては、使用可能な液晶の螺旋ピッチも考慮すると、それに限定されないが、1μm程度を例示できる。
【0024】
前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域と、ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成される場合としては、代表例として、一方の基板近傍の液晶ドメインがポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態になっており、該一方の基板近傍から他方の基板近傍にかけて、該ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態のうちポリドメイン状態の占める割合が次第に多くなり、ついには該他方の基板近傍の液晶ドメインがポリドメイン状態になっている場合を挙げることができる。
【0025】
いずれにしても前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域は、液晶分子配向処理によって形成されてもよい。この配向処理は、例えばラビング処理によって行われてもよいし、或いは光配向処理によって行われてもよい。特に、ラビング処理が最も適している。ラビング処理は、他の配向処理に比べて、ラビング条件の調整によりポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態の制御がしやすく、しかも工程が簡単である。いずれの配向処理を行うにしても部分配向処理(配向処理を部分的に行う処理)によって行われてもよい。
【0026】
いずれにしても前記配向処理は、典型的には、前記一対の基板のうち少なくも一方の基板に対して施す。この場合、前記一対の基板のうち配向処理が施される基板には少なくとも配向膜が設けられていてもよい。
【0027】
前記一対の基板のうち少なくも一方の基板に対して施す配向処理がラビング処理によって行われる場合、配向処理を行う領域の表面を布等で一方向にこする処理を例示でき、代表的には所定の毛先長さのラビング布が周設されていて、所定方向に回転できるラビングローラと、基板を載置して所定方向に移動できるテーブルとを備えているラビング装置を用いてラビング処理する場合を挙げることができる。すなわち、基板を載置したテーブルをラビングローラに対し相対的に移動させるととも、該ローラを所定の回転数で回転し、且つ、ローラ表面を基板を載置したテーブルの移動方向とは逆方向に移動させつつ該基板最表面に接触させることにより、該基板最表面をラビングする。
【0028】
このラビングローラを利用したラビング装置を用いる場合、ラビング布毛先の被配向処理面への押し込み量(長さ)、基板の所定一端部から他端部へのラビング処理を1回のラビング処理とするラビング回数、ラビングローラ半径、ラビングローラ回転数、テーブルのラビングローラに対する相対移動速度などの制御により液晶分子の配向制御が可能である。
【0029】
ラビング回数をN、ラビング布毛先の押し込み量をx、ラビングローラ回転数をm、ラビングローラ半径をr、テーブルのラビングローラに対する相対移動速度をvとしたとき、ラビング密度Lは以下の式(1)で表すことができる。
【0030】
L=Nx(1+2πmr/v)・・・(1)
このラビング密度Lは3以下であることが望ましい。ラビング密度Lが3より大きいと、液晶をプレーナ状態にしたときに、ラビング処理を施された基板近傍の液晶ドメインはモノドメイン状態になり易く、フォーカルコニック状態での部分的なプレーナ状態が増え、黒色などの背景色を利用して画像表示を行う場合、それだけ背景色表示特性(例えば黒色表示特性)が悪くなる。また、ラビング布毛先の押し込み量を0.01mm以下とし、ラビング密度Lが0.01より小さくなると、ラビングローラが被配向処理面にうまく接触せず、ラビング効果がなくなり、液晶をプレーナ状態にしたときに、ラビング処理を施された基板近傍の液晶ドメインはポリドメイン状態になり易く、光の散乱が多く、光反射率が低くなり、それだけ暗い画像表示となる。従って、ラビング密度Lの下限値としては、それには限定されないが0.01程度を例示できる。
【0031】
光配向処理としては、例えば、基板最表面が配向膜(例えば、ポリイミド膜のような配向膜)である場合、成膜後の配向膜に無偏光若しくは直線偏光の光(例えば、紫外線)を照射し、該膜に異性化、二量化、分解等の反応を起こさせ、異方性を生じさせる処理を挙げることができる。
【0032】
いずれにしても、本発明に係る液晶表示素子において、前記一対の基板のうち前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板は素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置することが望ましい。前記一対の基板のうち前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板が素子観察側に配置されていてもよいが、表示素子最表面との間に拡散効果がない場合、プレーナ状態での光の散乱が少なく、光反射率が低く、視野角特性が低下し易い。
【0033】
前記コレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶としては、例えば、室温(例えば略25℃)でコレステリック相を示す液晶を挙げることができる。このコレステリック相を示す液晶としては、例えば、それ自体がコレステリック相を示すコレステリック液晶や、ネマティック液晶にカイラル材料を添加することにより、所定波長域の光を選択反射するとともに、メモリ性を示すカイラルネマティック液晶などを挙げることができる。カイラルネマティック液晶は、カイラル材料の添加量によって、選択反射波長を調整できる利点がある。
【0034】
本発明はまた、それぞれが一対の基板間に挟持された液晶層を複数積層した積層型液晶表示素子であり、該複数の液晶層のうち少なくとも一つの液晶層が、該液晶層を挟持する一対の基板とともに前記本発明に係る液晶表示素子を構成している積層型液晶表示素子も提供する。
【0035】
この積層型液晶表示素子においては、複数の液晶層として、例えば、互いに異なる色表示を行う、換言すれば選択反射のピーク波長が互いに異なる液晶層を用い、黒色などの背景色を利用することで、モノクロ(モノカラー)画像表示や多色表示(すなわち2色以上のカラー表示)を行うことができる。また青色表示を行う液晶層、緑色表示を行う液晶層、赤色表示を行う液晶層の少なくとも三つの液晶層を採用するとフルカラー画像表示を行うことができる。
【0036】
いずれにしても、かかる積層型液晶表示素子としては、本発明に係る液晶表示素子を少なくとも1つ含む(全部がそうでもよい)複数の液晶表示素子を積層した積層型液晶表示素子を例示できる。この場合、各隣り合う液晶表示素子が該各隣り合う液晶表示素子間に設けられた接着層(例えば粘着層)にて互いに接着されていてもよい。また、各隣り合う液晶表示素子において、その両者間の基板を共通にしてもよい。
【0037】
本発明に係る積層型液晶表示素子では、それには限定されないが、前記複数の液晶層のうちいずれか一つの液晶層(例えば素子観察側からの光到達が最も不利な、換言すれば素子観察側から最も遠い液晶層)が、該液晶層を挟持する一対の基板とともに前記本発明に係る液晶表示素子を構成していてもよいし、前記複数の液晶層のうちいずれの液晶層も、該複数の液晶層を挟持する一対の基板とともに前記本発明に係る液晶表示素子を構成していてもよい。
【0038】
前記複数の液晶層のうちいずれの液晶層も、該複数の液晶層を挟持する一対の基板とともに前記本発明に係る液晶表示素子を構成している積層型液晶表示素子では、典型的には、前記複数の液晶層を挟持する一対の基板のうち前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板をいずれも素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置してもよい。また、前記複数の液晶層のうち、素子観察側から最も遠い液晶層を挟持する一対の基板のうちの前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板を素子観察側に配置するとともに、残りの液晶層を挟持する一対の基板のうちの前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板を素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置してもよい。この場合、素子観察側から最も遠い液晶層の光反射率を向上させることができる。またこの場合、素子観察側から最も遠い液晶層より素子観察側の液晶層、基板、或いは各隣り合う液晶表示素子が接着層(例えば粘着層)で互いに接着されているような素子では該接着層で光が散乱するので視野角特性を良くすることができる。
【0039】
いずれにしても、本発明に係る液晶表示素子及び積層型液晶表示素子では、素子観察側に光拡散部材が設けられていてもよい。こうすることで素子観察側に光拡散機能が付与され、視野角を増大させることができる。
【0040】
このように素子観察側に光拡散部材が設けられ、素子観察側に光拡散機能が付与されている場合には、液晶層を挟持する一対の基板のうちポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板を素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置してもよい。
【0041】
前記光拡散部材としては、光拡散機能を有するものであればいずれのものでもよく、代表例としては、拡散板を挙げることができる。この拡散板は素子を観測側から光照射するフロントライトの導光板を兼ねたものであってもよいし、素子の画像表示面に配置され、利用者の指等の接触により信号をコンピュータ等の情報処理装置に入力できるタッチパネルを兼ねたものでもよい。或いはタッチパネルとフロントライトの両方を設けてもよい。
【0042】
いずれにしても、前記光拡散部材のヘイズ値(曇価)としては、それには限定されないが、5%〜20%程度を例示できる。このヘイズ値が5%より小さいと光拡散機能が低下し、20%より大きいと暗い画像表示となる。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0044】
図1は液晶表示素子の1例の概略断面図である。
【0045】
図1に示す液晶表示素子LCD1は、一対の基板(上側基板1、下側基板2)間に室温(略25℃)でコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶6を含む液晶層10を挟持しているものである。両基板1、2間には該両基板間ギャップdを一定に保つ働きをするスペース保持材としての樹脂構造物4及びスペーサ5が配置されている。樹脂構造物4は両基板の結合にも寄与しているが、省略してもよい。
【0046】
また、素子観察側P(光を入射させる側)とは反対側(素子非観察側)の基板の外面(裏面)には、必要に応じて、可視光吸収層が設けられる。図1の例では基板2の外面(裏面)に可視光吸収層3が設けられている。例えば、下側基板2として黒色基板を用いるなどして、基板自体に光吸収機能を持たせるようにしてもよい。
【0047】
Sはシール材であり、液晶6を基板1、2間に封入するためのものである。
【0048】
図1に示す液晶表示素子LCD1では、後述する電極11、12間に所定の電圧を印加することにより液晶6をプレーナ状態(選択反射状態)とフォーカルコニック状態に切り替えて表示を行う。
【0049】
基板1、2は、少なくとも一方が透光性(ここではいずれも透光性)を有している基板とする。基板1、2は、ここではいずれも透光性を有しているが、少なくとも画像観察のために可視光を透過させるものを透光性を有するものとする。透光性を有する基板としては、ガラス基板を例示できる。このガラス基板の他、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフレキシブル基板等を使用することができる。
【0050】
液晶表示素子LCD1において、一対の基板1、2には必要に応じてそれぞれ電極11、12を形成することができる。
【0051】
電極としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)に代表される透明導電膜やアルミニウム、シリコン等の金属電極、或いはアモルファスシリコン、BSO(Bismuth Silicon Oxide )等の光導電性膜などを用いることができる。かかる電極は液晶層狭持用の基板に所望のパターン形状で設けられ、液晶表示素子制御用の電極として使用される。電極のパターン形状としては、互いに平行に形成された複数の帯状パターンを例示できる。この帯状パターンの電極が形成された一対の基板は、これらの電極が基板に垂直な方向から見て互いに交差するように向かい合わされる。すなわち液晶表示素子においては、単純マトリクス型の電極構造が使用可能である。さらに複数の画素電極とそれに接続される薄膜トランジスタを含むアクティブマトリクス型の電極構造も使用可能である。
【0052】
また、これら電極材を液晶層狭持用の基板に配する以外に電極自身を基板材として用いることも可能である。
【0053】
図1に示す液晶表示素子LCD1はガスバリア層、絶縁層として液晶表示素子の信頼性を向上させる機能を有する絶縁膜が形成されていてもよい。この絶縁膜としては、任意の有機系材料、無機系材料からなる膜を例示できる。ここでは電極11、12上に絶縁膜7がそれぞれ設けられている。また、絶縁膜7の上には配向膜81、82が設けられている。
【0054】
液晶表示素子に用いることができる液晶としては、一対の基板(例えば一対の電極付基板)間に狭持した状態でコレステリック相を示すものを例示できる。例えば、コレステロール環を有するコレステリック液晶を挙げることができる。この他、ネマティック液晶に光学活性基を有するネマティック液晶、コレステリック液晶若しくはネマティック液晶にカイラル材料を添加したカイラルネマティック液晶も使用可能である。これらの材料(ネマティック液晶、コレステリック液晶、カイラル材料)は単一のものでもよいし、単一のネマティック液晶、コレステリック液晶、カイラル材料に限らず各2種類以上の混合材料でもよい。
【0055】
可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶としては、単体で螺旋ピッチが可視波長域の光を反射するに有効なコレステリック液晶を例示できる。この他、ネマティック液晶材料に適量光学活性基を有する材料を混合し螺旋ピッチを調整したものを用いることができる。可視波長域をいずれの波長範囲に設定するかについては、可視波長域の考え方には一般に多少のバラツキがあり、その設定には多少のバラツキが生じることがあるが、一般的に可視波長域と認められている範囲であればよく、本実施形態及び後述する実験例では、可視波長域を400nmから700nmの範囲としている。また、コレステリック選択反射型液晶表示素子は、選択反射波長領域よりも短い波長領域に散乱成分を含むため、散乱成分を吸収し、色純度を向上させるために、液晶材料に選択反射波長領域よりも短い波長領域の光を吸収する色素を添加してもよい。
【0056】
図2に図1に示す液晶表示素子LCD1の液晶6をプレーナ状態にしたときの液晶層10における液晶ドメインの状態の一例を模式的に示す。なお、図2において絶縁膜7等は図示を省略してある。
【0057】
図1に示す液晶表示素子LCD1では、図2に示すように液晶6をプレーナ状態にしたときの液晶層10における液晶ドメインDについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域X2と、ポリドメイン状態である領域X1とが基板1、2面に対して垂直方向に連続的に形成されている。さらに言えば、ここでは、一方の基板2近傍の液晶ドメインDがポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態になっており、一方の基板2近傍から他方の基板1近傍にかけて、該ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態のうちポリドメイン状態の占める割合が次第に多くなり、ついには他方の基板1近傍の液晶ドメインDがポリドメイン状態になっている。
【0058】
そして、一対の基板1、2のうちポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域X2に近い方の基板を素子観察側Pとは反対側(素子非観察側)に配置(下側基板2に)してある。
【0059】
ここで「ポリドメイン状態」は、複数の小さなドメインが集まった状態であって液晶6のプレーナ状態時において各ドメインDの液晶6の螺旋軸61が基板法線Hに対し若干傾き、且つ、螺旋軸61の基板1、2への射影方向が各ドメインD間でランダムに異なっている状態であり、「モノドメイン状態」は、複数の大きなドメインが集まった状態であって液晶6のプレーナ状態時において各ドメインDの液晶6の螺旋軸61が基板1、2面に対し垂直乃至略垂直に均一化している状態である(図2中符号M参照)。
【0060】
ここで液晶分子の配向処理について説明する。液晶表示素子LCD1では、図2に示すように、液晶6をプレーナ状態にしたときに、上側基板1(の配向膜81)近傍の液晶はポリドメイン状態に、下側基板2(の配向膜82)近傍の液晶はポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態(図2中Mがモノドメイン状態)になる。
【0061】
このような両基板1、2近傍の液晶分子の配向状態の違いは、例えば、液晶分子配向処理の違いにより実現できる。典型的には、一対の基板(ここでは基板1、2上の配向膜81、82)におけるラビング処理の有無やラビング処理の程度の調整によってこの違いを発現させることができる。
【0062】
基板に対してラビング処理を施す場合、代表的には所定の毛先長さのラビング布が周設されていて、所定方向に回転できるラビングローラと、基板を載置して所定方向に移動できるテーブルとを備えているラビング装置を用いてラビング処理する場合を挙げることができる。すなわち、基板を載置したテーブルをラビングローラに対し相対的に移動させるととも、該ローラを所定の回転数で回転し、且つ、ローラ表面を基板を載置したテーブルの移動方向とは逆方向に移動させつつ該基板最表面に接触させることにより、該基板最表面をラビングする。
【0063】
このラビングローラを利用したラビング装置を用いる場合、ラビング布毛先の被配向処理面への押し込み量(長さ)、基板の所定一端部から他端部へのラビング処理を1回のラビング処理とするラビング回数、ラビングローラ半径、ラビングローラ回転数、テーブルのラビングローラに対する相対移動速度により液晶分子の配向制御が可能である。
【0064】
ラビング回数をN、ラビング布毛先の押し込み量をx、ラビングローラ回転数をm、ラビングローラ半径をr、テーブルのラビングローラに対する相対移動速度をvとしたとき、ラビング密度Lは以下の式(1)で表すことができる。
【0065】
L=Nx(1+2πmr/v)・・・(1)
液晶6をプレーナ状態にしたときに、下側基板2の配向膜82近傍の液晶ドメインDについては下側基板2の配向膜82に対して比較的弱いラビング条件(例えば、ラビング密度0.01〜3程度)でラビング処理を施すことでポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を、上側基板1の配向膜81近傍の液晶ドメインDについては基板1の配向膜81に対してラビング処理を施さないことでポリドメイン状態を実現することができる。
【0066】
基板2の配向膜82に対しラビング処理を施すとき、ラビング密度Lが3より大きいと、液晶6をプレーナ状態にしたときに、ラビング処理を施された基板2の配向膜82近傍の液晶ドメインDはモノドメイン状態になり易く、フォーカルコニック状態での部分的なプレーナ状態が増え、それだけ背景色表示特性(ここでは黒色表示特性)が悪くなる。また、ラビング密度Lが0.01より小さいとラビングローラがうまく配向膜82に接触せず、ラビング効果がなくなり、液晶6をプレーナ状態にしたときに、ラビング処理を施された基板2の配向膜82近傍の液晶ドメインDはポリドメイン状態になり易く、光の散乱が多く、光反射率が低くなり、それだけ暗い画像表示となる。
【0067】
このようなラビング処理の有無や程度に代えて光配向処理の有無や光配向処理の程度の調整によって前記の混在状態を実現することも可能である。光配向処理を行う場合においては、配向処理を行う領域に、例えば紫外線を照射する場合、紫外線の照度、照射時間、照射時の基板温度、照射時の紫外線方向に対する基板傾斜角度のうち少なくとも一つを変えることにより、液晶分子の配向制御が可能である。
【0068】
配向処理を部分的に行う部分配向処理を行うことでも前記の混在状態を実現できる。図3に図1に示す素子において基板2の配向膜82に対して部分配向処理を施した一例を示す。なお、図3において65は部分配向処理により部分的に配向処理された領域を示す。樹脂構造物4は図示を省略してある。
【0069】
例えば、ラビング処理による配向処理を部分的に行う部分ラビング処理では、マスク層を用いるなどすることでラビング処理を部分的に行うことができる。光配向処理による配向処理を部分的に行う部分光配向処理では、前記の部分ラビング処理と同様、マスク層(フォトマスク)を介して露光を行うことで光配向処理を部分的に行うことができる。
【0070】
配向膜に対し部分的にラビング処理を施す手法としては、例えば、形成した配向膜にフォトレジスト材料をスピンコート等により塗布し、既存のフォトリソグラフィー工程によりラビング処理を行いたい部分のみレジストを除去し、ラビング処理を行った後、レジストを除去する手法を挙げることができる。これによりラビング領域が部分的に得られる。なお、ラビング方向は特に問わない。
【0071】
配向膜に対し部分的に光配向処理を施す手法としては、例えば、形成した配向膜にフォトマスク及び偏光板を介して紫外線露光する手法を挙げることができる。これにより容易に光配向領域が部分的に得られる。
【0072】
図4にかかる手法により配向膜を部分的に配向処理する工程の一例を示す。本例は以下の各工程を含む。
・図4(A):電極12がパターン形成された基板2の電極面に絶縁膜7を形成する。
・図4(B):絶縁膜7上に配向膜82を形成する。
・図4(C):光源70にてマスク72の開口部73を介して配向膜82を露光する。
【0073】
または、
・図4(C’):配向膜82上にレジスト膜40を形成し、レジスト膜40をパターニングする。そして、レジスト膜40の開口部41を介して配向膜82をラビング処理64する。その後、レジスト膜40を除去する。
・図4(D):以上により、部分的に処理された領域65が形成される。
【0074】
以上の工程により、比較的簡単な手法で、所望の形状を有した領域65を任意の位置に形成することができる。
【0075】
このようにして得られる領域65は、図1の液晶液晶素子LCD1において、図3に示すように、配向膜82に設けることができる。
【0076】
以上のようにして、基板に配向処理を施すことで、プレーナ状態にしたときに、下側基板2の配向膜82近傍の液晶ドメインDがポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態となる。
【0077】
いずれにしても、配向処理は一対の基板1、2のうち少なくも一方の基板に対して施されてもよい。両方の基板に対し配向処理を施すことを妨げるものではないが、この場合、液晶分子の配向規制力が強くなりすぎてラビング密度が大きい時と同様に部分的なプレーナ状態が増え、フォーカルコニック状態の表示状態が悪くなる恐れがある。これを防止する観点からは、いずれか一方の基板のみに対して配向処理を施しておくとよい。
【0078】
また、図1に示す液晶表示素子LCD1では、液晶層10の厚み(換言すれば基板間ギャップ(セルギャップ))dと液晶6の螺旋ピッチpについて、これらの関係がここでは2.3≦d/p<12となるように設定されている。
【0079】
基板間ギャップdと螺旋ピッチpが、このような関係であると、概して液晶層10の厚みが小さくなり(ここでは液晶6の螺旋ピッチpが0.344μm程度、液晶層10の厚みが3μm程度であり)、プレーナ状態での光反射率が不足しがちになるところ、液晶6の配向状態が前記のように制御され、これにより液晶6をプレーナ状態にしたときの液晶層10における液晶ドメインDについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域X2と、ポリドメイン状態である領域X1とが基板1、2面に対して垂直方向に連続的に形成されているため、プレーナ状態での光反射率の低下が抑制される。このとき基板間ギャップdが小さいことで減少しているフォーカルコニック状態での光の散乱の増加は抑制されたままである。
【0080】
なお、液晶層10の厚みの好適な範囲は、駆動電圧低減の観点から1μm〜5μm程度である。
【0081】
以上説明した液晶表示素子LCD1によると、一対の基板1、2間ギャップdと液晶6の螺旋ピッチpとの関係が2.3≦d/p<12であるので、概して両基板間ギャップd(液晶層10の厚み)が小さくなり、駆動電圧を低減でき、それだけ素子駆動のためのコストを下げることができる。また、フォーカルコニック状態での光の散乱を減らすことができ、それだけ良好な背景色表示特性(ここでは黒色表示特性)を得ることができる。さらに、液晶6の使用量を減らすことができ、それだけ素子の低コスト化を実現できる。
【0082】
そして液晶6をプレーナ状態にしたときの液晶層10における液晶ドメインDについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域X2と、ポリドメイン状態である領域X1とが基板1、2面に対して垂直方向に連続的に形成されているので、基板間ギャップdが小さいことで減少しているフォーカルコニック状態での光の散乱を増加させることなく、プレーナ状態での大きい光反射率を得ることができ、それだけ明るい、良好な画像表示を行うことができる。
【0083】
このように図1に示す液晶表示素子LCD1によると、液晶層10の厚み(基板間ギャップd)が小さく、それだけ低コスト、低電圧で駆動でき、しかも液晶層10の厚みが小さいにも拘わらず大きい光反射率を得ることができるとともに、良好な黒色表示特性を得ることができ、それだけ画像表示特性が良好である。つまり低コストで低駆動電圧特性と良好な画像表示特性とを両立させることができる。
【0084】
図5(A)は積層型液晶表示素子の一例の概略断面図であり、図5(B)は積層型液晶表示素子の他の例の概略断面図である。
【0085】
図5(A)及び図5(B)に示す積層型液晶表示素子LCD2、LCD3は、いずれも青色表示を行う液晶表示素子B、緑色表示を行う液晶表示素子G、赤色表示を行う液晶表示素子Rの三つの液晶表示素子をこの順に積層したものである。なお、図5の積層型液晶表示素子LCD2、LCD3における各液晶表示素子R、G、Bは、図1に示す液晶表示素子LCD1と実質的に同様のものであり、基本的に同じ構成、作用を有する箇所については同じ参照符号を付してある。
【0086】
図5(A)の素子LCD2は、基板の枚数が液晶層数の2倍である例、換言すれば各隣り合う液晶層間に基板が2枚配置されている例を示すものであり、各隣り合う液晶表示素子が該各隣り合う液晶表示素子間に設けられた接着層(ここではアクリル系粘着剤からなる粘着層)Tにて互いに接着されているものである。
【0087】
また、図5(B)の素子LCD3は、各隣り合う液晶層間に基板が1枚だけ配置されている例を示すものであり、各隣り合う液晶表示素子において、その両者間の基板を共通にしてあるものである。すなわち、素子Bを構成している下側基板2は素子Gを構成している上側基板1を、素子Gを構成している上側基板1は素子Bを構成している下側基板2を兼ねており、素子Gを構成している下側基板2は素子Rを構成している上側基板1を、素子Rを構成している上側基板1は素子Gを構成している下側基板2を兼ねている。
【0088】
図5に示す積層型液晶表示素子LCD2、LCD3における各液晶表示素子B、G、Rは、一対の基板1、2間に室温(略25℃)でコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶6b、6g、6rを含む青色表示、緑色表示、赤色表示を行う液晶層10b、10g、10rがそれぞれ挟持されている。
【0089】
また、素子観察側P(光を入射させる側)とは反対側(素子非観察側)の基板の外面(裏面)には、必要に応じて、可視光吸収層が設けられる。図5の例では液晶表示素子Rにおける基板2の外面(裏面)に可視光吸収層3が設けられている。
【0090】
図5に示す積層型液晶表示素子LCD2、LCD3では、各素子の電極11、12間に所定の電圧を印加することにより液晶6b、6g、6rをプレーナ状態(選択反射状態)とフォーカルコニック状態に切り替えて表示を行う。
【0091】
この積層型液晶表示素子LCD2、LCD3では、それには限定されないが、複数の液晶層10b、10g、10rのうちいずれか一つの液晶層(例えば素子観察側Pからの光到達が最も不利な、換言すれば観察側Pから最も遠い液晶層10r)が、該液晶層を挟持する一対の基板1、2とともに図1に示す液晶表示素子を構成していてもよいし、複数の液晶層10b、10g、10rのうちいずれの液晶層も、該複数の液晶層を挟持する一対の基板1、2とともに図1に示す液晶表示素子を構成していてもよい。
【0092】
いずれの液晶層10b、10g、10rも、該液晶層を挟持する一対の基板1、2とともに図1に示す液晶表示素子を構成している積層型液晶表示素子LCD2、LCD3では、典型的には、液晶層10b、10g、10rを挟持する一対の基板1、2のうちポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域X2(図2参照)に近い方の基板をいずれも素子観察側Pとは反対側(素子非観察側)に配置してもよい。また、液晶層10b、10g、10rのうち、観察側Pから最も遠い液晶層10rを挟持する一対の基板1、2のうちの領域X2に近い方の基板を観察側Pに配置するとともに、残りの液晶層10b、10gを挟持する一対の基板1、2のうちの領域X2に近い方の基板を観察側Pとは反対側(素子非観察側)に配置してもよい。この場合、観察側Pから最も遠い液晶層10rの光反射率を向上させることができる。またこの場合、液晶層10rより観察側Pの液晶層10b、10g、基板、或いは図5(A)の素子LCD2のように、各隣り合う液晶表示素子が粘着層Tで互いに接着されているような素子では粘着層Tで光が散乱するので視野角特性を良くすることができる。
【0093】
なお、図5(B)に示す素子LCD3では、基板の枚数が図5(A)に示す素子LCD2よりも少なく、基板や接着層での光の吸収・散乱による反射率の低下が少ないため、素子LCD2よりもコントラスト特性向上に有利である。
【0094】
図6(A)及び図6(B)に図1に示す液晶表示素子LCD1及び図5(A)に示す積層型液晶表示素子LCD2において素子観察側Pにそれぞれ光拡散部材(ここでは拡散板)100を設けた一例を示す。
【0095】
図6(B)に示す液晶表示素子LCD1及び図6(B)に示す積層型液晶表示素子LCD2では、素子観察側に光拡散部材100が設けられているので、観察側Pに光拡散機能が付与され、視野角を増大させることができる。
【0096】
また図6(A)に示す積層型液晶表示素子LCD2のように、素子観察側Pに光拡散部材100が設けられ、観察側Pに光拡散機能が付与されている場合には、液晶層を挟持する一対の基板1、2のうちポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域X2に近い方の基板をいずれも素子観察側Pとは反対側(素子非観察側)に配置してもよい。
【0097】
次に、液晶表示素子及び積層型液晶表示素子の性能評価実験を行ったので、比較実験とともに以下に説明する。但し、本発明はこれらの各実験例に限定されるものではない。
【0098】
実験は、単層型液晶表示素子及び積層型液晶表示素子について、画像表示における液晶のプレーナ状態時の明るさ及び液晶のフォーカルコニック状態時の黒色表示特性を評価した。
【0099】
実験に先立ち、単層型液晶表示素子として図1に示すタイプの素子を、積層型液晶表示素子として図5(A)に示すタイプの素子を、次のようにして作製した。
(液晶材料の作製)
ネマティック液晶E48(メルクジャパン社製)にカイラル材料CB−15(メルクジャパン社製)をネマティック液晶とカイラル材料の合計重量に対して47重量%、40重量%、33重量%混合したカイラルネマティック液晶a、b、cをそれぞれ調製した。このカイラルネマティック液晶は、コレステリック相を示し、液晶aは0.48μm付近に、液晶bは0.55μm付近に、液晶cは0.66μm付近にピーク波長(λ)がある選択反射特性を示した。
【0100】
これらのカイラルネマティック液晶a、b、cの平均屈折率(n)はいずれも1.6であった。
(単層型液晶表示素子の作製)
ITO(インジウム錫酸化物)の透明電極を有する厚さ100μmのポリカーボネート(PC)フィルム基板を用意し、第1及び第2のPCフィルム基板上に設けられたITO透明電極上に配向膜をそれぞれ形成した。このとき後述する各実験条件に応じて、第1及び第2のPCフィルム基板のうちいずれか一方の基板に対して液晶分子配向処理(ラビング処理、部分ラビング処理又は光配向処理)を施したり、或いはいずれの基板に対しても液晶分子配向処理を施さなかったりした。
【0101】
次に第1PCフィルム基板上に所定の径(3μm又は7μm径)のスペーサ(積水ファインケミカル社製ミクロパールSPシリーズ)を散布し、また第2PCフィルム基板上に熱可塑性樹脂からなる接着剤(テクノアルファ社製ステイスティック371)をスクリーン印刷して柱状構造物を形成した。
【0102】
続いて、第1基板上の周縁部に熱硬化性シール材をスクリーン印刷してシール壁を形成した後、該第1基板上に前記のカイラルネマティック液晶bを滴下した。その後第1基板上に第2基板を重ね合わせてから重ね合わされた2枚の基板をそれぞれ加熱してシール材を硬化させた。このようにして緑色(G)表示用の液晶表示素子(Gパネル)を作製した。
【0103】
さらに、Gパネルの裏面(素子観察側とは反対側の基板の外面)に黒色の光吸収膜を設けた。このとき基板に対して配向処理を施したパネルについては後述する各実験条件に応じて、該配向処理が施された基板を素子観察側或いは素子観察側とは反対側(非観察側)に配置した。かくして単層型液晶表示素子を得た。
(積層型液晶表示素子の作製)
ITO(インジウム錫酸化物)の透明電極を有する厚さ100μmのポリカーボネート(PC)フィルム基板を用意し、それぞれ3枚の第1及び第2のPCフィルム基板上に設けられたITO透明電極上に配向膜をそれぞれ形成した。このとき後述する各実験条件に応じて、それぞれ2枚又は3枚の第1及び第2のPCフィルム基板のうちいずれか一方の基板に対して液晶分子配向処理(ラビング処理)をそれぞれ施したり、或いはいずれの基板に対しても液晶分子配向処理を施さなかったりした。
【0104】
次に3枚の第1PCフィルム基板上に所定の径(青色(B)表示用のBパネルでは3μm、4μm又は6μm径、緑色(G)表示用のGパネルでは3μm、4μm又は7μm径、赤色(R)表示用のRパネルでは4μm又は9μm径)のスペーサ(積水ファインケミカル社製ポリマービーズ:ミクロパールSPシリーズ)をいずれも散布し、また3枚の第2PCフィルム基板上に熱可塑性樹脂接着剤(テクノアルファ社製ステイスティック371)をスクリーン印刷して柱状構造物をそれぞれ形成した。
【0105】
続いて、3枚の第1基板上の周縁部に熱硬化性シール材をスクリーン印刷してシール壁をそれぞれ形成した後、該3枚の第1基板上に前記のカイラルネマティック液晶a、b、cをそれぞれ滴下した。その後それぞれの第1基板上に1枚ずつ第2基板を重ね合わせてから重ね合わされた2枚の基板をそれぞれ加熱してシール材を硬化させた。このようにして青色(B)表示用の液晶表示素子(Bパネル)、緑色(G)表示用の液晶表示素子(Gパネル)、赤色(R)表示用の液晶表示素子(Rパネル)をそれぞれ作製した。
【0106】
さらに、Rパネルの裏面(素子観察側とは反対側の基板の外面)に黒色の光吸収膜を設け、3枚のB、G、Rパネルを上からB、G、Rの順に積層し、各隣り合うパネル(B、G)間及び(G、R)間をアクリル系粘着剤からなる粘着層で接着した。このとき基板に対して配向処理を施したパネルについては後述する各実験条件に応じて、該配向処理が施された基板を素子観察側或いは素子観察側とは反対側(非観察側)に配置した。かくして積層型液晶表示素子を得た。
(液晶分子配向処理)
基板に対して施す液晶分子配向処理は、素子作製のところで述べたように、ラビング処理、光配向処理或いは部分ラビング処理とした。
【0107】
このうちラビング処理には、配向膜として基板上に配向膜材料JALS−1024−R(JSR社製)を1000Åの厚みで形成したものを用い、ランビング装置として所定の毛先長さのラビング布が周設されていて、所定方向に回転できるラビングローラと、基板を載置して所定方向に移動できるテーブルとを備えているラビング装置を用いた。このラビング装置では、基板を載置したテーブルをラビングローラに対し相対的に移動させるととも、該ローラを所定の回転数で回転し、且つ、ローラ表面を基板を載置したテーブルの移動方向とは逆方向に移動させつつ該基板最表面に接触させることにより、該基板最表面をラビングする。
【0108】
ラビング密度Lは、L=Nx(1+2πmr/v)(N:ラビング回数、x:ラビング布毛先の押し込み量、m:ラビングローラ回転数、r:ラビングローラ半径、v:テーブルのラビングローラに対する相対移動速度)にて算出した。
【0109】
ラビング密度が0.01〜3の場合のラビング処理を弱ラビング処理とし、ラビング密度が3より大きい場合のラビング処理を強ラビング処理とした。
【0110】
光配向処理には、配向膜として基板上に配向膜材料TT−054(日立化成社製)を700Åの厚さに塗布して形成したものを用いた。この光配向処理は、照度条件を、照射強度0.5J/cm2 、照射方向に対する基板傾斜角度15度、基板温度23℃として紫外線を照射することにより行った。この場合の光配向処理を弱光配向処理とした。
【0111】
部分ラビング処理は、図4に示すような方法で、マスク層を用いることでラビング処理を部分的に行った。
(単層型液晶表示素子の実験条件)
基板間ギャップdがいずれも3μmでラビング密度Lがそれぞれ0.6、1.0の弱ラビング処理を施した基板を素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置した(下基板とした)素子を用いた実験を実験例1、2とした。
【0112】
基板間ギャップdが3μmでラビング密度Lが0.6の弱ラビング処理を施した基板を素子観察側に配置し(上基板とし)、画像表示面にタッチパネル(全光線透過率90%ヘイズ値10%のタッチパネル)を設けた素子を用いた実験を実験例3とした。
【0113】
基板間ギャップdがいずれも3μmでそれぞれ弱光配向処理、部分ラビング処理を施した基板を素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置した(下基板とした)素子を用いた実験を実験例4、5とした。
【0114】
基板間ギャップdがそれぞれ3μm、7μmでいずれも基板に対して配向処理を施さなかった素子を用いた実験を比較実験例1、6とした。
【0115】
基板間ギャップdが3μmでラビング密度Lが114の強ラビング処理を施した基板を素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置した(下基板とした)素子を用いた実験を比較実験例2とした。
【0116】
基板間ギャップdが3μmでラビング密度Lが0.6の弱ラビング処理を施した基板を素子観察側に配置した(上基板とした)素子を用いた実験を比較実験例3とした。
(積層型液晶表示素子の実験条件)
基板間ギャップdがそれぞれ3μm、3μm、4μmでラビング密度Lがいずれも0.6の弱ラビング処理を施した基板をいずれも素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置した(下基板とした)B、G、Rパネルを積層した素子を用いた実験を実験例6とした。
【0117】
基板間ギャップdがいずれも3μmでラビング密度Lがいずれも0.6の弱ラビング処理を施した基板をいずれも素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置した(下基板とした)B、Gパネルと、ギャップdが4μmでラビング密度Lが0.6の弱ラビング処理を施した基板を素子観察側に配置した(上基板とした)Rパネルとを積層した素子を用いた実験を実験例7とした。
【0118】
基板間ギャップdがそれぞれ3μm、3μm、4μmでラビング密度Lがいずれも0.6の弱ラビング処理を施した基板をいずれも素子観察側に配置した(上基板とした)B、G、Rパネルを積層し、画像表示面にタッチパネル(全光線透過率90%ヘイズ値10%のタッチパネル)を設けた素子を用いた実験を実験例8とした。
【0119】
基板間ギャップdが4μmで基板に対して配向処理を施さなかったBパネルと、ギャップdがいずれも4μmでラビング密度Lがいずれも0.6の弱ラビング処理を施した基板をいずれも素子観察側とは反対側(素子非観察側)に配置した(下基板とした)G、Rパネルとを積層した素子を用いた実験を実験例9とした。
【0120】
基板間ギャップdがそれぞれ3μm、3μm、4μmでいずれも基板に対して配向処理を施さなかったB、G、Rパネルを積層した素子を用いた実験を比較実験例4とした。
【0121】
基板間ギャップdがそれぞれ3μm、3μm、4μmでラビング密度Lがいずれも0.6の弱ラビング処理を施した基板をいずれも素子観察側に配置した(上基板とした)B、G、Rパネルを積層した素子を用いた実験を比較実験例5とした。
【0122】
基板間ギャップdがそれぞれ6μm、7μm、9μmでいずれも基板に対して配向処理を施さなかったB、G、Rパネルを積層した素子を用いた実験を比較実験例7とした。
(共通の実験条件)
液晶の螺旋ピッチpは、液晶の選択反射ピーク波長λと液晶の平均屈折率nとから式λ/nで求めることができる。従って、(基板間ギャップd)/(液晶の螺旋ピッチp)=d/λ×nとなる。
【0123】
実験では、既述のとおり平均屈折率nがいずれも1.6で選択反射ピーク波長λがそれぞれ0.48μm、0.55μm、0.66μmの液晶a、b、cを用い、基板間ギャップdは、Bパネルでは3μm、4μm又は6μm、Gパネルでは3μm、4μm又は7μm、Rパネルでは4μm又は9μmとするので、
Bパネルのd/p=3/0.48×1.6=10
Bパネルのd/p=4/0.48×1.6=13.3
Bパネルのd/p=6/0.48×1.6=20
Gパネルのd/p=3/0.55×1.6=8.7
Gパネルのd/p=4/0.55×1.6=11.6
Gパネルのd/p=7/0.55×1.6=20.4
Rパネルのd/p=4/0.66×1.6=9.4
Rパネルのd/p=9/0.66×1.6=21.8
となる。
(評価方法)
素子の画像表示における明るさの評価は、素子観察側の正面反射率、25°反射率を測定することで行った。
【0124】
正面反射率及び25°反射率の測定は図7(A)に示すリング状光照射部材を用い、図7(B)に示すように測定した。
【0125】
図7(A)に示すリング状光照射部材は、被測定面(パネルの画像表示面)に光を略リング状に照射できるリング状ファイバー(内径φ1 =30mm、外径φ2 =40mm)からなるものであり、被測定面からの反射光の該被測定面から測定器(分光計)に至る光路を確保できるように、一部(スリット幅s=10mmのスリット部)で途切れているとともに、ファイバーの一端部から他端部に向かう途中の中央部分が鏡面反射成分を測定から除くためにマスク幅t=10mmでマスクされているものである。
【0126】
正面反射率及び25°反射率の測定は、図7(B)に示すように、液晶をプレーナ状態(着色状態)にしたときに、パネルの画像表示面から高さh=400mm上方に配置されたリング状光照射部材にて液晶表示素子(パネル)観察側法線H’に対してθ=10°の方向から略リング状に光照射を行い、パネルの画像表示面から反射した光のピーク反射率を、正面反射率測定では光検出角度ψ=0°で、25°反射率測定では光検出角度ψ=25°で、分光計(ミノルタ社製CS−1000)にミノルタ社製AFレンズAPO TELEMACRO200mmを装着したものによって、液晶パネル表面からレンズまでの距離を400mmとして測定した。この測定値が大きいほど明るい画像表示となる。なお、積層型液晶表示素子の場合は、測定色パネルの液晶をプレーナ状態(着色状態)にし、他の色パネルの液晶をフォーカルコニック状態(無着色状態)にして測定した。
【0127】
黒色表示特性の評価は、液晶をフォーカルコニック状態にしたときの黒色表示時のY値(視感反射率)を測定することで行った。
【0128】
黒色表示時のY値は、反射型分光測色計CM−3700d(ミノルタ社製)を用い、SCEモードで分光測色計の駆動10秒後の値を測定した。なお、積層型液晶表示素子の場合は、すべてのパネルの液晶をフォーカルコニック状態(無着色状態)にし、測定色を黒色表示状態にして測定した。この測定値が小さいほど黒色表示特性が良好である。
(単層型液晶表示素子による実験結果)
単層型液晶表示素子による実験結果を以下の表1に示す。
【0129】
【表1】
実験例1〜5に用いた液晶表示素子について偏光顕微鏡を用い、目視にて観察したところ、いずれの素子についても液晶をプレーナ状態にしたときに、両基板のうち一方の基板近傍の液晶ドメインがポリドメイン状態に、他方の基板近傍の液晶ドメインがポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態になっていて、該混在状態である領域と、該ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成されていた。
【0130】
また、実験例1〜5に用いた液晶表示素子では、液晶層を挟持する電極間にホメオトロピックリセット電圧として60Vの比較的低いパルス電圧を3ms印加するとホメオトロピック状態を示した。このホメオトロピック状態において、プレーナ電圧として40Vの比較的低いパルス電圧を3ms印加するとプレーナ状態を示し、またフォーカルコニック電圧として26Vの比較的低いパルス電圧を3ms印加するとフォーカルコニック状態を示した。このときの正面反射率及び25°反射率は大きく、黒色表示時のY値は小さかった。このように実験例1〜5の素子では、低電圧駆動可能で、液晶層の厚みが3μmと小さいにも拘わらず視野角が広く、大きい光反射率及び良好な黒色表示特性が得られた。
【0131】
これに対し、比較実験例1に用いた基板に対して配向処理を施さなかった素子では、プレーナ状態での散乱成分が多く、正面反射率が低くなり、実際に見た目も暗かった。
【0132】
比較実験例2に用いた下基板に対して強ラビング処理を施した素子では、黒色表示特性が悪くなった。
【0133】
比較実験例3に用いた上基板に対して弱ラビング処理を施した素子では、上側基板をラビング処理し、且つ、表面に拡散層がないので、鏡面反射成分が強くなり、鏡面反射成分を除いて反射率を測定する本測定法の場合には正面反射率及び25°反射率ともに低くなった。
【0134】
比較実験例6に用いた基板間ギャップdが7μmで基板に対して配向処理を施さなかった素子では、液晶層を挟持する電極間にホメオトロピックリセット電圧として100Vという比較的高いパルス電圧を印加しないとホメオトロピック状態を示さなかった。このホメオトロピック状態において、プレーナ電圧として80Vという比較的高いパルス電圧をしないとプレーナ状態を示さず、またフォーカルコニック電圧として52Vという比較的高いパルス電圧を印加しないとフォーカルコニック状態を示さなかった。このときのフォーカルコニック状態での散乱成分が多く、黒色表示時のY値は大きくなり、黒色表示特性が悪かった。
(積層型液晶表示素子による実験結果)
積層型液晶表示素子による実験結果を以下の表2に示す。
【0135】
【表2】
実験例6〜9に用いた積層型液晶表示素子におけるB、G、Rパネルのうち基板に対し配向処理を施したパネルについて偏光顕微鏡にて目視観察したところ、いずれのパネルについても液晶をプレーナ状態にしたときに、両基板のうち一方の基板近傍の液晶ドメインがポリドメイン状態に、他方の基板近傍の液晶ドメインがポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態になっていて、該混在状態である領域と、該ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成されていた。
【0136】
また、実験例6〜9に用いた積層型液晶表示素子では、各パネルの液晶層を挟持する電極間にホメオトロピックリセット電圧として60Vの比較的低いパルス電圧を3ms印加するとホメオトロピック状態を示した。このホメオトロピック状態において、プレーナ電圧として40Vの比較的低いパルス電圧を3ms印加するとプレーナ状態を示し、またフォーカルコニック電圧として26Vの比較的低いパルス電圧を3ms印加するとフォーカルコニック状態を示した。このときの正面反射率及び25°反射率は大きく、黒色表示時のY値は小さかった。このように実験例6〜9の素子では、低電圧駆動可能で、液晶層の厚みが3μm〜4μmと小さいにも拘わらず大きい光反射率及び良好な黒色表示特性が得られた。また、実験例7に用いたRパネルについてのみ弱ラビング処理を施した基板を素子観察側に配置した素子では、Rパネルより素子観察側のB、Gパネルの液晶層、基板、粘着層で光が散乱し、視野角特性が良かった。
【0137】
これに対し、比較実験例4に用いたいずれのパネルにおいても基板に対して配向処理を施さなかった素子では、正面反射率及び25°反射率ともに低くなり、実際に見た目も暗かった。
【0138】
比較実験例5に用いたいずれのパネルにおいても上基板に対して弱ラビング処理を施した素子では、上側基板をラビング処理し、且つ、表面に拡散層がないので、鏡面反射成分が強くなり、鏡面反射成分を除いて反射率を測定する本測定法の場合には正面反射率及び25°反射率ともに低くなった。
【0139】
比較実験例7に用いたB、G、Rパネルの基板間ギャップdがそれぞれ6μm、7μm、9μmで基板に対して配向処理を施さなかった素子では、各パネルの液晶層を挟持する電極間にホメオトロピックリセット電圧として100Vという比較的高いパルス電圧を印加しないとホメオトロピック状態を示さなかった。このホメオトロピック状態において、プレーナ電圧として80Vという比較的高いパルス電圧をしないとプレーナ状態を示さず、またフォーカルコニック電圧として52Vという比較的高いパルス電圧を印加しないとフォーカルコニック状態を示さなかった。このときのフォーカルコニック状態での散乱成分が多く、黒色表示時のY値は大きくなり、黒色表示特性が悪かった。
【0140】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によると、一対の基板間にコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子であって、液晶層の厚み(基板間ギャップ)が小さく、それだけ低コストで駆動でき、しかも液晶層の厚みが小さいにも拘わらず大きい光反射率を得ることができ、それだけ画像表示特性良好な液晶表示素子を提供することができる。
【0141】
また本発明によると、それぞれが一対の基板間に挟持された液晶層を複数積層した積層型液晶表示素子であって、少なくとも一つの液晶層の厚み(基板間ギャップ)が小さく、それだけ低コストで駆動でき、しかも液晶層の厚みが小さいにも拘わらず明るく、それだけ画像表示特性良好な積層型液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】液晶表示素子の1例の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す液晶表示素子の液晶をプレーナ状態にしたときの液晶層における液晶ドメインの状態の一例を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す素子において下側基板の配向膜に対して部分配向処理を施した一例を示す図である。
【図4】液晶表示素子の製造工程の一部の一例を示す図であり、図(A)は電極がパターン形成された基板の電極面に絶縁膜を形成する工程、図(B)は絶縁膜上に配向膜を形成する工程、図(C)は光源にてマスクの開口部を介して配向膜を露光する工程、図(C’)は配向膜上にレジスト膜を形成し、レジスト膜をパターニングし、さらにレジスト膜の開口部を介して配向膜をラビング処理する工程、図(D)はレジスト膜を除去し、部分的に処理された領域を得る工程を示す図である。
【図5】図(A)は積層型液晶表示素子の一例の概略断面図であり、図(B)は積層型液晶表示素子の他の例の概略断面図である。
【図6】図(A)及び図(B)はそれぞれ図1に示す液晶表示素子及び図5(A)に示す積層型液晶表示素子において素子観察側に光拡散部材(ここでは拡散板)を設けた一例を示す図である。
【図7】図(A)は正面反射率及び25°反射率の測定に用いたリング状光照射部材の平面図であり、図(B)は正面反射率及び25°反射率の測定を説明するための図である。
【符号の説明】
1 上側基板
2 下側基板
3 可視光吸収層
4 樹脂構造物
40 レジスト膜
41 レジスト膜40の開口部
5 スペーサ
6、6b、6g、6r 液晶
61 液晶の螺旋軸
64 ラビング処理
65 部分的に処理された領域
7 絶縁膜
70 光源
72 マスク
73 開口部
81、82 配向膜
10 液晶層
10b 青色表示を行う液晶層
10g 緑色表示を行う液晶層
10r 赤色表示を行う液晶層
11、12 電極
100 光拡散部材
d 両基板1、2間ギャップ
h リング状光照射部材が配置されたパネル画像表示面からの高さ
m ラビングローラ回転数
n 液晶の平均屈折率
p 液晶の螺旋ピッチ
r ラビングローラ半径
s スリット幅
t マスク幅
v テーブルのラビングローラに対する相対移動速度
x ラビング布毛先の押し込み量
B 青色(B)表示を行う液晶表示素子(Bパネル)
D 液晶ドメイン
G 緑色(G)表示を行う液晶表示素子(Gパネル)
H 基板法線
H’ 素子観察側法線
L ラビング密度
LCD1 液晶表示素子
LCD2、LCD3 積層型液晶表示素子
M モノドメイン状態
N ラビング回数
P 素子観察側
R 赤色(R)表示を行う液晶表示素子(Rパネル)
S シール材
T 接着層
X1 ポリドメイン領域である領域
X2 ポリドメイン領域とモノドメイン領域の混在状態である領域
λ 液晶の選択反射ピーク波長
φ1 リング状光照射部材の内径
φ2 リング状光照射部材の外径
θ 液晶表示素子観察側放線方向に対する光照射角度
ψ 液晶表示素子観察側放線方向に対する光検出角度
Claims (5)
- 一対の基板間にコレステリック相を示し、且つ、可視波長域に選択反射波長のピークを有する液晶を含む液晶層を挟持した液晶表示素子において、
前記一対の基板間ギャップdと前記液晶の螺旋ピッチpとの関係がd/p<12であり、
前記液晶をプレーナ状態にしたときの前記液晶層における液晶ドメインについて、ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域と、ポリドメイン状態である領域とが基板面に対して垂直方向に連続的に形成されることを特徴とする液晶表示素子。 - 前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態である領域が液晶分子配向処理によって形成される請求項1記載の液晶表示素子。
- 前記一対の基板のうち前記ポリドメイン状態とモノドメイン状態の混在状態を示す領域に近い方の基板が素子観察側とは反対側に配置されている請求項1又は2記載の液晶表示素子。
- それぞれが一対の基板間に挟持された液晶層を複数積層した積層型液晶表示素子であり、該複数の液晶層のうち少なくとも一つの液晶層が、該液晶層を挟持する一対の基板とともに請求項1、2又は3記載の液晶表示素子を構成している積層型液晶表示素子。
- 素子観察側に光拡散部材が設けられている請求項1から4のいずれかに記載の液晶表示素子。
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