JP3887811B2 - 硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆炭化タングステン基超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、これらの切削を高速で行った場合にも硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮する表面被覆炭化タングステン基超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、炭化タングステン基超硬合金基体(以下、超硬基体という)の表面に、
(a) いずれも0.1〜5μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する、炭化チタン(以下、TiCで示す)層、窒化チタン(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)層、炭酸化チタン(以下、TiCOで示す)層、窒酸化チタン(以下、TiNOで示す)層、および炭窒酸化チタン(以下、TiCNOで示す)層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層と、
(b) 5〜15μmの平均層厚および縦長成長結晶組織を有する炭窒化チタン(以下、l−TiCNで示す)層と、
(c) 0.5〜10μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウム(以下、Al2 O3 で示す)層と、
で構成された硬質被覆層を5〜25μmの全体平均層厚で化学蒸着および/または物理蒸着してなる被覆超硬工具が知られており、またこの被覆超硬工具が鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられることも知られている。
また、一般に上記の被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するAl2 O3 層として、α型結晶構造をもつものやκ型結晶構造をもつものなどが広く実用に供されることも良く知られており、さらに上記l−TiCN層は、例えば特開平6−8010号公報や特開平7−328808号公報などにより公知であり、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成されるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化し、かつ切削工具には一段の使用寿命の延命化が求められる傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、硬質被覆層の構成層である相対的に厚膜のl−TiCN層はすぐれた靭性を有するものの硬さが十分でないために、実用に際しては切刃の摩耗進行が比較的速く、この傾向は高速切削になればなるほど顕著に現れるようになることから、上記の要求には必ずしも満足に対応することができないのが現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層の構成層である相対的に厚膜のl−TiCN層に着目し、これの一層の耐摩耗性向上を図るべく研究を行った結果、
(a)上記の硬質被覆層を構成するl−TiCN層におけるTiの一部をZr成分で置換して縦長成長結晶組織をもったTiとZrの複合炭窒化物固溶体[以下、l−(Ti,Zr)CNで示す]層とすると、この結果のl−(Ti,Zr)CN層は、TiのZrによる一部置換によって著しく硬さが向上し、耐摩耗性が向上したものになり、この場合前記l−(Ti,Zr)CN層を、
組成式:(Ti1- xZrx)C1- yNy、
で表した場合、xおよびy値は、原子比で、x:0.05〜0.3、y:0.3〜0.6とするのが望ましいこと。
上記組成式において、x値を0.05〜0.3としたのは、その値が0.05未満では所望の硬さ向上効果が得られず、一方その値が0.3を超えると層自体の靭性が急激に低下するようになり、これが原因で切刃に欠けやチッピングが発生し易くなるという理由によるものである。
また、y値を0.3〜0.6としたのは、その値が0.3未満になると、相対的に炭素の割合が増大し、窒素の割合が減少して、硬さは増すが靭性が急激に低下し、欠けやチッピングの原因となり、一方その値が0.6を超えると、反対に炭素の割合が減少し、窒素の割合が増大して、靭性は増すが硬さが急激に低下し、耐摩耗性低下の原因となるという理由によるものである。
【0005】
(b)上記の通りl−(Ti,Zr)CN層は、縦長成長結晶組織のもつ高靭性とZr固溶による硬さ向上によって、すぐれた靭性と耐摩耗性を具備するが、これに、l−(Ti,Zr)CN層形成直後および/または硬質被覆層全体を形成した後で、
雰囲気:水素、アルゴン、あるいは水素+アルゴン、
温度:1000〜1150℃、
保持時間:1〜5時間、
の条件で熱処理を施すと、上記l−(Ti,Zr)CN層はいずれも粒状結晶組織を有するが、微細粒にして均粒のTiCN結晶粒とZrCN結晶粒に熱分解し、この結果のTiCN結晶粒とZrCN結晶粒の混合層からなる熱分解生成層は、前記熱処理前のl−(Ti,Zr)CN層のもつ靭性と同等な高靭性を具備した上で、さらに一段と高い硬さをもつようになり、この熱分解生成混合層を硬質被覆層の構成層とする被覆超硬工具は、通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、これらの切削を高速で行った場合にも硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を示すことから、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0006】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)いずれも0.1〜5μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、TiNO層、およびTiCNO層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層と、
(b)3〜15μmの平均層厚を有し、さらに縦長成長結晶組織を有すると共に、
組成式:(Ti 1- x Zr x )C 1 −y N y 、(ただし、原子比で、x:0.05〜0.3、y:0.3〜0.6)、
を満足するl−(Ti,Zr)CN層を熱分解してなり、微細粒にして均粒の粒状結晶組織を有するTiCN結晶粒とZrCN結晶粒の混合層からなる熱分解生成層と、
(c)0.5〜10μmの平均層厚および粒状結晶組織を有するAl2O3層と、
で構成された硬質被覆層を5〜25μmの全体平均層厚で化学蒸着してなる、硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0007】
なお、この発明の被覆超硬工具の硬質被覆層の形成において、上記l−(Ti,Zr)CN層は、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4 :0.5〜5%、ZrCl4 :0.1〜2%、CH3CN :0.1〜3%、必要に応じてN2:0.5〜20%、H2 :残り、
反応雰囲気温度:850〜950℃、
反応雰囲気圧力:40〜400Torr、
の条件で形成することができる。
【0008】
さらに、この発明の被覆超硬工具の硬質被覆層における構成層の平均層厚は以下の理由により定めたものである。
すなわち、Ti化合物層のそれぞれには、共通する性質として構成層相互間の層間密着性を向上させる作用があり、したがってその平均層厚が0.1μm未満では、所望のすぐれた層間密着性を確保することができず、一方その平均層厚が5μmを越えると、急激に粒成長するようになり、切刃に欠けやチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
【0009】
また、Al2 O3 層には、硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる作用があるが、その平均層厚が0.5μm未満では、所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えると切刃にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
【0010】
さらに、熱分解生成混合層は、l−TiCN層と同等の靭性を具備した上で著しく高い硬度を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に一段と寄与するが、その平均層厚が5μm未満では、耐摩耗性向上効果が不充分で、この結果満足な使用寿命の延命化が図れず、一方その平均層厚が15μmを越えると切刃に欠けやチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を5〜15μmと定めた。
また、硬質被覆層の全体平均層厚を5〜25μmとしたのは、その平均層厚が5μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が25μmを越えると、切刃に欠けやチッピングが発生し易くなるという理由からである。
【0011】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、平均粒径:1.5μmの細粒WC粉末、3.0μmの中粒WC粉末、同1.2μmの(Ti,W)CN(重量比で、以下同じ、TiC/TiN/WC=24/20/56)粉末、同1.3μmの(Ta,Nb)C(TaC/NbC=90/10)粉末、同1.2μmのZrC粉末、同1.0μmのCr 粉末、および同1.2μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、この混合粉末をISO規格CNMG120412に則したスローアウエイチップ形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を同じく表1に示される条件で真空燒結することにより超硬基体A〜Eをそれぞれ製造した。
さらに、上記超硬基体Eに対して、50torrのCH4ガス雰囲気中、温度:1400℃に1時間保持後、徐冷の条件で浸炭処理を施し、処理後超硬基体表面に付着するカーボンとCoを酸およびバレル研磨で除去することにより、表面から6μmの位置で最大Co含有量:12.8重量%、深さ:28μmのCo富化帯域を基体表面部に形成した。
また、いずれも焼結したままで、上記超硬基体Cには表面部に表面から16μmの位置で最大Co含有量:8.6重量%、深さ:20μmのCo富化帯域、上記超硬基体Dには表面部に表面から20μmの位置で最大Co含有量:12.7重量%、深さ:26μmのCo富化帯域がそれぞれ形成されており、残りの超硬基体AおよびBには前記Co富化帯域の形成はなく、全体的に均一な組織をもつものであった。
さらに、表1には上記超硬基体A〜Eの内部硬さ(ロックウエル硬さAスケール)をそれぞれ示した。
【0012】
ついで、これらの超硬基体A〜Eを、所定の形状に加工およびホーニング加工した状態で、その表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表2、3に示される条件にて、表4、5に示される目標組成および目標層厚(切刃の逃げ面)の硬質被覆層を形成することにより硬質被覆層の構成層として表4に記号A-1〜A-4として示されるTiCN結晶粒とZrCN結晶粒の混合層からなる熱分解生成層を形成(前記熱分解生成層は硬質被覆層全体を蒸着した後でそれぞれ表4に示される条件で熱処理を施すことにより形成した)してなる本発明被覆超硬工具1〜10、および前記熱分解生成層に代わってl−TiCN層を形成してなる従来被覆超硬工具1〜10をそれぞれ製造した。
なお、この結果得られた各種の被覆超硬工具について、硬質被覆層の構成層の組成および平均層厚を電子プローブマイクロアナライザーおよび光学顕微鏡を用いて測定したところ、いずれも表4、5に示される目標組成および目標層厚と実質的に同じ組成および平均層厚を示した。
【0013】
つぎに、上記本発明被覆超硬工具1〜10および従来被覆超硬工具1〜10について、
被削材:JIS・SCM 420Hの丸棒、
切削速度:400m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.35mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式連続高速切削試験、並びに、
被削材:JIS・SCM440長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での合金鋼の乾式断続高速切削試験を行い、いずれの切削試験でも切刃の最大逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
【表3】
【0017】
[表4]
【0018】
【表5】
【0019】
【表6】
【0020】
【発明の効果】
表2〜6に示される結果から、硬質被覆層中に構成層として微細粒にして均粒のTiCN結晶粒とZrCN結晶粒の混合層からなる熱分解生成層が存在する本発明被覆超硬工具1〜10は、いずれも前記熱分解生成層が一段と高い硬さを有し、かつ靭性も具備することから、連続高速切削および断続高速切削のいずれの切削でも切刃に欠けやチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、l−TiCN層が硬質被覆層の構成層として存在する従来被覆超硬工具1〜10においては、いずれの切削高速試験でも切刃の摩耗進行がきわめて速いことが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、例えば鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、これらの切削を高速で行ってもすぐれた耐摩耗性を発揮し、使用寿命の延命化を可能とするものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金基体の表面に、
(a)いずれも0.1〜5μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する、炭化チタン層、窒化チタン層、炭窒化チタン層、炭酸化チタン層、窒酸化チタン層、および炭窒酸化チタン層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層と、
(b)3〜15μmの平均層厚を有し、さらに縦長成長結晶組織を有すると共に、
組成式:(Ti 1- x Zr x )C 1 −y N y 、(ただし、原子比で、x:0.05〜0.3、y:0.3〜0.6)、
を満足するTiとZrの複合炭窒化物固溶体層を熱分解してなり、微細粒にして均粒の粒状結晶組織を有する炭窒化チタン結晶粒と炭窒化ジルコニウム結晶粒の混合層からなる熱分解生成層と、
(c)0.5〜10μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウム層と、
で構成された硬質被覆層を5〜25μmの全体平均層厚で化学蒸着してなる、硬質被覆層が高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆炭化タングステン基超硬合金製切削工具。
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