JP3885691B2 - 980MPa超級非調質厚鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非調質厚鋼板に係り、とくに造船、橋梁、建設機械、産業機械、ペンストック等に用いて好適な、980MPa超の引張強さと高靭性を有する980MPa超級非調質厚鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、引張強さ(TS)980MPa級以上の厚鋼板は、高強度と高靱性をバランス良く確保するため、調質処理を施されて製造されていた。調質処理は、高強度で高靱性の優れた特性を有する製品を安定して製造できるという利点はあるが、調質処理を施された鋼板は、圧延のままの非調質鋼板と比較して、長い製造期間を要するうえ、980MPaを超える高強度を確保するために合金元素を多量に添加していた。このため、耐溶接割れ性が低下し、溶接時に50℃以上の予熱を行う必要があるという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、調質処理を行なうことなく、非調質(圧延まま)で高強度厚鋼板を製造しようとする試みがある。例えば、特開平6-93332号公報には、適正組成を有する鋼素材に制御圧延と加速冷却とを組み合わせて施し、組織をベイナイト主体の組織とするとともに、加速冷却途中の、580 〜450 ℃の温度域で等温保持あるいは該温度域を0.5 ℃/s以下の冷却速度で徐冷して、組織中の島状マルテンサイトを分解し、優れた溶接性と優れた低温靭性を有する厚鋼板とする非調質厚鋼板の製造方法が記載されている。
【0004】
しかし、この特開平6-93332号公報に記載された方法では、制御圧延ー加速冷却で導入された転位が、等温保持あるいは徐冷中に回復するため、溶接性には優れるが、980MPa以上の引張強さを確保することが困難となるという問題があった。
また、例えば、特開平10-152749 号公報、特開平11-71640号公報には、引張強さ:980MPa以上の高強度を有する厚鋼板を非調質で製造する方法が記載されている。特開平10-152749 号公報、特開平11-71640号公報に記載された技術では、靱性向上を目的として極低炭素化した組成としたうえで、冷却途中あるいは冷却後にTiNあるいはV(C、N)を析出させて、強度増加を図っている。しかし、析出強化を利用した強化方法は、母材靱性の劣化が著しいため、機械構造部品などの靱性要求が比較的厳しくない場合は適用可能であるが、厚鋼板におけるように厳しい靱性要求がある場合には、問題を残していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、非調質で、引張強さ:980MPa超級の高強度と、シャルピー衝撃試験における破面遷移温度vTrsが−20℃以下という高靭性と、を有する高強度高靭性非調質厚鋼板およびその製造方法を提案することを目的とする。なお、本発明でいう「厚鋼板」とは板厚6mm以上の鋼板をいうものとする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、TS:980MPa超の非調質高強度鋼板の靭性に及ぼす組織の影響について鋭意検討した。その結果、合金元素を多量含有することなく、TS:980MPa超の高強度で、vTrsが−20℃以下という高靭性を確保するためには、硬質の島状マルテンサイトの生成を抑制するとともに、面積率で90%以上のベイニティックフェライト相を含む組織とすることが肝要であることを見出した。
【0007】
島状マルテンサイトは、非常に硬い組織であるため、母相と島状マルテンサイトとの界面が剥離しやすく、ここが破壊の起点となり、靭性が低下しやすい。したがって、厚鋼板で高靭性を確保するためには、島状マルテンサイトの生成を抑制することが肝要となる。
島状マルテンサイトの生成には、変態時にベイニティックフェライト中に固溶できないC(炭素)がオーステナイト(未変態)中に吐き出されること、および冷却速度が速くマルテンサイト変態開始温度(Ms点)以下に冷却されること、が必要となる。
【0008】
島状マルテンサイトの生成を抑制するためには、熱間圧延後の冷却速度を遅くし、未変態オーステナイトをマルテンサイト変態させないことが、まず考えられる。しかし、熱間圧延後の冷却速度を遅くすることは、強度の低下を生じるため、合金元素を増量し、所定の高強度を確保する必要があるが、溶接性が劣化することになる。
【0009】
そこで、本発明者らは島状マルテンサイトの生成を抑制するために、更なる検討を行った。その結果、熱間圧延後の冷却速度を高い冷却速度に維持したままで島状マルテンサイトの生成を抑制するにはC含有量をフェライトの固溶限内である0.02mass%以下とするあるいはわずかな島状マルテンサイト生成は許容範囲であるためCを0.025 mass%以下とする、すなわち極低炭素系とすることが、効果的であることに想到した。なお、このような場合には、生成する組織は、面積率で90%以上がベイニティックフェライトと称されるベイナイト組織となる。
【0010】
本発明でいう「ベイニティックフェライト」とは、ラスはあるが、炭化物はない束状組織(ただし初期オーステナイト粒界が残存する)(Sheaf-like with laths but no carbide:conserving the priorγ-gain boundary)(鋼のベイナイト写真集−I:日本鉄鋼協会ベイナイト調査研究部会、(1992)4)をいうものとする。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)mass%で、C:0.005 〜0.025 %、Si:0.05〜0.5 %、Mn:1.5 〜3.0 %、Nb:0.005 〜0.08%、B:0.0003〜0.0050%を含有する組成を有する鋼素材を、1100℃〜1350℃に加熱した後、950 〜1250℃の温度域における累積圧下率を30%以上、950 ℃未満Ar3変態点以上の温度域における累積圧下率を30%以上、圧延終了温度をAr3 変態点以上とする熱間圧延を施し、熱間圧延終了後、冷却速度:20℃/s以上で冷却することを特徴とする引張強さ:980MPa超え、破面遷移温度vTrs:−20℃以下を有する高強度高靭性非調質厚鋼板の製造方法。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:0.05〜2.0 %、Ni:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、Ti:0.003 〜0.050 %、V:0.003 〜0.080 %、Mo:0.05〜1.00%のうちから選ばれた1種または2種以上および/またはCa:0.0003〜0.0030%、REM :0.0003〜0.010 %のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高強度高靭性非調質厚鋼板の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Al:0.01〜0.08%を含有する組成とすることを特徴とする高強度高靭性非調質厚鋼板の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の製造方法で得られる厚鋼板の組成限定理由について説明する。以下、組成におけるmass%は単に%と記す。
C:0.005 〜0.025 %、
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、本発明では所定の強度を確保するために0.005 %以上の含有を必要とするが、0.025 %を超えると島状マルテンサイトの生成が顕著となり、靱性が劣化する。このため、Cは0.005 〜0.025 %に限定した。なお、好ましくはフェライト固溶限内である0.020 %以下である。
【0013】
Si:0.05〜0.5 %
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、本発明では製鋼上0.05%以上の含有を必要とするが、0.5 %を超えて含有すると、靱性を劣化させる。このため、Siは0.05〜0.5 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.2 〜0.4 %である。
Mn:1.5 〜3.0 %
Mnは、鋼の強度を増加させる元素であり、母材の引張強さを980MPa超えとするため、および組織をベイニティックフェライト組織とするために、1.5 %以上の含有を必要とする。一方、3.0 %を超える含有は、溶接部の靱性を著しく劣化させる。このようなことから、Mnは1.5 〜3.0 %の範囲に限定した。なお、好ましくは1.5 〜2.2 %である。
【0014】
Nb:0.005 〜0.08%、
Nbは、組織をベイニティックフェライトとする作用を有し、このために0.005 %以上の含有を必要とする。一方、0.08%を超えて含有すると、溶接熱影響部の靱性が劣化する。このため、Nbは0.005 〜0.08%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.015 〜0.035 %である。
【0015】
B:0.0003〜0.0050%
Bは、ベイナイト変態開始温度を低下させて、鋼の高強度化に寄与する元素である。このような効果を得るために0.0003%以上の含有を必要とするが、一方、0.0050%を超えて含有すると、鋼が著しく硬化して靱性の劣化を招く怖れがある。このため、Bは0.0003〜0.0050%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0010〜0.0025%である。
【0016】
以上が基本成分であるが、これら成分に加えてさらに、下記成分を選択して含有することができる。
Cu:0.05〜2.0 %、Ni:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、Ti:0.003 〜0.050 %、V:0.003 〜0.080 %、Mo:0.05〜1.00%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Ti、V、Moは、いずれも、鋼の強度上昇に寄与する元素であり、必要に応じ単独あるいは複合して含有できる。
【0017】
Cuは、固溶強化および析出強化により鋼の強度を上昇させる有効な元素である。本発明では含有する場合、0.05%以上含有することが好ましいが、2.0 %を超えて含有すると、靱性が劣化する。このため、Cuは0.05〜2.0 %に限定することが好ましい。
Niは、母材靱性を保ちつつ強度を増加できる有効な元素である。本発明では含有する場合、0.05%以上含有することが好ましいが、2.0 %を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、コスト的に不利となる。このため、Niは0.05〜2.0 %の範囲に限定することが好ましい。
【0018】
Crは、鋼の強度を上昇させる有効な元素であり、またベイナイト変態開始温度を低下させベイニティックフェライト組織の生成を促進させる作用も有している。本発明では含有する場合、このような効果を得るために0.05%以上含有することが好ましいが、2.0 %を超えて含有すると靱性が劣化する。このため、Crは0.05〜2.0 %の範囲に限定することが好ましい。
【0019】
Tiは、Ti(CN)として析出強化により強度を上昇させる元素であり、また、初期オーステナイト粒径を微細化し靱性の向上にも有効に作用する。本発明では含有する場合、このような効果を得るために0.003 %以上含有することが好ましい。 一方、0.050 %を超えて含有すると、Ti(CN)粒子が粗大化し、所望の効果が得られなくなる。このようなことから、Tiは0.003 〜0.050 %の範囲に限定することが好ましい。
【0020】
Vは、V(CN)として析出強化により強度上昇に有利に作用する元素であり、このような効果を得るためには0.003 %以上含有することが好ましい。一方、0.080 %を超えて含有すると、靱性が低下する。このため、Vは0.003 〜0.080 %の範囲に限定することが好ましい。
Moは、鋼の強度を増加させる元素であり、母材の高強度化に有効に作用する。本発明では含有する場合、このような効果を得るために、0.05%以上含有することが好ましい。一方、1.00%を超える含有は、靱性に悪影響を与える。このため、Moは0.05〜1.00%の範囲に限定することが好ましい。
【0021】
本発明では、上記した成分に加えて、さらに、Ca:0.0003〜0.0030%、REM :0.0003〜0.010 %のうちから選ばれた1種または2種を含有できる。
Ca、REM は、いずれも介在物の形態制御を介して溶接熱影響部(HAZ )靱性を向上させる作用を有している。
Caは、0.0003%以上の含有で、介在物の形態制御によりS,Oとのバランスを適切に選択することでHAZ 靱性を向上させる。一方、0.0030%を超えて含有しても、その効果が飽和する。このため、Caは0.0003〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。
【0022】
REM は、REM (O,S)を形成してHAZ 靱性を向上させる。このような効果は、0.0003%以上の含有で認められるが、0.010 %を超えて含有しても、その効果が飽和する。このため、REM は0.0003〜0.010 %に限定することが好ましい。
本発明では、上記した成分に加えて、さらに、Al:0.01〜0.08%を含有できる。Alで脱酸せず、SiおよびMnで脱酸すると大入熱溶接を行った場合のHAZ 靱性が良好となるため、必ずしもAlの含有は必要としない。
【0023】
Alは、脱酸剤として作用し、このためには0.01%以上含有することが好ましいが、0.08%を超えて含有すると、母材の靱性を低下させるとともに、溶接金属部への希釈によって溶接金属部の靱性を劣化させる。このため、Alは0.01〜0.08%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、0.02〜0.04%である。
【0024】
なお、上記した組成範囲としたうえで、さらに溶接性の観点からPcm値を0.25%以下とすることが好ましい。Pcm値は次(1)式
ここで、C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,V,B;各元素の含有量(mass%)
で定義される値である。
【0025】
ついで、本発明の製造方法で得られる厚鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明では、厚鋼板の組織を、面積率で90%以上のベイニティックフェライト相を含む組織とする。ベイニティックフェライトは剪断変態的に変態が起こるため、組織の粗大化が起こりにくく、高靱性を確保しやすい。なお、ベイニティックフェライト相のパケットサイズは、20μm 以下とすることが好ましい。なお、本発明では、グラニュラーベイニティックフェライトの生成を抑制することが好ましい。グラニュラーベイニティックフェライトは、拡散変態が主となり組織の粗大化が起こり、靱性が劣化する。
【0026】
ここでいう「グラニュラーベイニティックフェライト」とは、粒状のベイナイト組織で転位密度の高いサブ組織を有するもの(ただし、ラスがほとんど残らないほど回復している組織(鋼のベイナイト写真集−I:日本鉄鋼協会ベイナイト調査研究部会、(1992)4.参照)をいう。
ベイニティックフェライト相を主相とする組織にすることにより、非調質でも高強度で高靭性の厚鋼板が得られる。ベイニティックフェライト相が面積率で90%未満では、高強度で高靭性を有する厚鋼板が得にくくなる。また、高靭性を確保するためには、ベイニティックフェライト相のパケットサイズは20μm 以下と、微細化することが好ましい。パケットサイズが20μm を超えると、粗大組織となるため、高靭性が得にくくなる。
【0027】
なお、ベイニティックフェライトのパケットとは、幅0.2 μm 、長さ10μm 程度のラスと呼ばれる組織が平行に集合した組織を指す。パケットサイズは、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡観察により得たパケット粒径をトレースして画像解析により求めるものとする。
また、島状マルテンサイトは、非常に硬い組織であるため、母相と島状マルテンサイトとの界面が剥離しやすく、ここが破壊の起点となりやすく、靭性を劣化させる。本発明では、厚鋼板の組織中に島状マルテンサイトを生成させないか、あるいは生成しても面積率で2%以下に低減する。
【0028】
本発明では、上記した以外の相については、その種類、含有量をとくに限定しないが、面積率で8%以下までのグラニュラーベイニティックフェライト相が許容できる。
次に、本発明の厚鋼板の製造方法について説明する。
まず、上記した組成の溶鋼を、転炉等の、通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の通常公知の鋳造方法で鋼素材(スラブ)とする。
【0029】
ついで、鋼素材を、1100〜1350℃の温度範囲に加熱し、鋼素材を完全にオーステナイト化する。加熱温度が1100℃未満では、その後の十分な再結晶圧延ができなくなる。一方、加熱温度が1350℃を超えると、結晶粒が粗大化するうえ、酸化ロスが顕著となり歩留が低下する。
加熱後、熱間圧延を行うが、本発明の製造方法では、950 〜1250℃の温度域における累積圧下率を30%以上、950 ℃未満〜Ar3変態点の温度域における累積圧下率を30%以上、圧延終了温度をAr3 変態点以上とする熱間圧延を施すことが好ましい。
【0030】
本発明では、オーステナイト再結晶温度域である、950 〜1250℃の温度域における累積圧下率が30%以上の圧延を行い、オーステナイトを十分に再結晶させ結晶粒を微細化する。累積圧下率が30%未満では、圧下量が不足して、十分なオーステナイト粒の微細化が達成できない。予め、オーステナイト粒を微細化しておくことが、その後の変態により生成される組織の微細化に有効であり、最終的に得られる鋼板の靱性を向上させる。さらに、Tiを含有し、TiN の分散が可能な組成とすると、オーステナイト粒の微細化には一層有利となる。
【0031】
ついで、本発明では、オーステナイト未再結晶域である、950 ℃未満Ar3変態点以上の温度域で累積圧下率が30%以上の熱間圧延を行う。オーステナイト未再結晶域で累積圧下率30%以上の圧延を行うことにより、オーステナイト結晶粒界の面積を幾何学的に増大させ、かつ、圧延による歪エネルギーを蓄積させることができる。これにより、オーステナイト粒界およびオーステナイト粒内からのベイナイト変態を促進させる。オーステナイト未再結晶域での強加工と、オーステナイト再結晶域での強加工によるオーステナイト微細化との相乗効果により、生成するベイナイトはパケットサイズが小さいベイナイトとなる。これにより、良好な母材靱性が確保できる。
【0032】
なお、熱間圧延はAr3変態点以上の圧延終了温度で熱間圧延を終了する。熱間圧延の圧延終了温度がAr3 変態点未満では、フェライトを圧延することになりセパレーションが発生し靱性が極端に低下する。
熱間圧延終了後、鋼板を冷却速度:20℃/s以上で、好ましくは400 ℃以下まで冷却する。冷却速度が20℃/s未満では、上記した成分範囲の鋼板では強度が低下し、所望の強度を確保できなくなる。このようなことから、980MPa以上の引張強さと高靭性、さらには優れた溶接性を兼ね備えるために、圧延終了後の冷却速度は20℃/s以上とすることが好ましい。なお、冷却速度の上限はとくに規定しない。なお、強度確保の観点から冷却停止温度は400 ℃以下とすることが好ましい。
【0033】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼素材(スラブ:板厚219 〜40mm)とした。これらスラブ(鋼素材)を、表2に示す加熱、圧延、冷却条件で、板厚15〜35mmの厚鋼板とした。
得られた厚鋼板について、板厚1/4 tから引張試験片およびシャルピー衝撃試験片を採取し、引張特性および靱性を調査した。
【0034】
これらの鋼板について、微視組織、引張特性および靱性を調査した。
(1)微視組織
各鋼板から試験片を採取し、圧延方向に直角な方向(C方向)断面の板厚1/2t位置について、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡により組織を撮像し、画像解析装置を用いて、組織種類の同定、および組織分率を測定した。
(2)引張特性
各鋼板の板厚1/4 tからC方向にJIS 4 号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、降伏応力YS、引張強さTS、伸びElを測定し、降伏比YRを算出した。
(3)靭性
各鋼板の板厚1/4 tから、JIS Z 2202の規定に準拠してVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrsを求めた。
【0035】
得られた結果を、表3に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
本発明例はいずれも、面積率で90%以上のベイニティックフェライト組織で、島状マルテンサイトの生成が抑制された組織を有し、980Mpa超えの引張強さと、-20 ℃以下のvTrsとを示し、高強度で高靭性を有する厚鋼板となっている。一方、本発明範囲から、C含有量が低くはずれる比較例(鋼板No.16)は引張強さが98MPa 未満と強度が低く、一方、C含有量が本発明範囲から高く外れる比較例(鋼板No.17)は、島状マルテンサイトが生成し、母材靱性が劣化している。また、Nb含有量が本発明範囲から低く外れる比較例(鋼板No.20)は、引張強さが98MPa 未満と強度が不足し、一方、Nb含有量が本発明範囲から高く外れる比較例(鋼板No.21)は、母材靱性が劣化している。BもNbと同様である。また、950 ℃以上での累積圧下率が30%未満である比較例(鋼板No. 11B)、950 ℃未満からAr3変態点以上の温度域(未再結晶域)での累積圧下率が30%未満である比較例(鋼板No. 11E)では、vTrsが-20 ℃超えとなり母材靱性が十分でない。また、冷却速度が15℃/s未満である比較例(鋼板No. 11F)では、引張強さが980MPa未満と強度低下が顕著となる。
【0040】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、引張強さTS:980MPa超え級の高強度で、破面遷移温度vTrs:−20℃以下の高靭性を有する非調質厚鋼板が容易にかつ安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。
Claims (3)
- mass%で、
C:0.005 〜0.025 %、 Si:0.05〜0.5 %、
Mn:1.5 〜3.0 %、 Nb:0.005 〜0.08%、
B:0.0003〜0.0050%
を含有する組成を有する鋼素材を、1100℃〜1350℃に加熱した後、950 〜1250℃の温度域における累積圧下率を30%以上、950 ℃未満Ar3変態点以上の温度域における累積圧下率を30%以上、圧延終了温度をAr3 変態点以上とする熱間圧延を施し、熱間圧延終了後、冷却速度:20℃/s以上で冷却することを特徴とする引張強さ:980MPa超え、破面遷移温度vTrs:−20℃以下を有する高強度高靭性非調質厚鋼板の製造方法。 - 前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:0.05〜2.0 %、Ni:0.05〜2.0 %、Cr:0.05〜2.0 %、Ti:0.003 〜0.050 %、V:0.003 〜0.080 %、Mo:0.05〜1.00%のうちから選ばれた1種または2種以上および/またはCa:0.0003〜0.0030%、REM :0.0003〜0.010 %のうちから選ばれた1種またはは2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高強度高靭性非調質厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、mass%で、Al:0.01〜0.08%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度高靭性非調質厚鋼板の製造方法。
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