JP3884528B2 - 成形装置および成形方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形装置および成形方法に関し、詳しくは、金型のキャビティに対して部分移動型を進退させるための金型移動装置を備えた成形装置、この成形装置を用いた成形方法に関する。
【0002】
【背景技術】
従来より、自動車の内装品、家電製品の部品、日用品、住宅設備および土木資材等は射出成形により製造されている。
射出成形では、一般に、型締装置の固定盤に取り付けた固定金型に対し、型締装置の可動盤に取り付けた可動金型を進退させることにより、金型の開閉を行う。
これらの固定金型および可動金型からなる金型においては、溶融樹脂を導入するためのスプルやランナ等の通路は、通常、固定金型に形成され、この通路に射出装置のノズルを接続して溶融樹脂を金型内に射出するようになっている。このため、成形品における樹脂射出口の跡は成形品の固定金型側の面、つまり型締装置の固定盤側の面に形成される。
【0003】
このような射出成形のうち、射出圧縮成形、発泡剤添加樹脂の使用やガスインジェクションによる膨張成形、および、GF(ガラス繊維)膨張成形等では、金型内の樹脂を圧縮或いは膨張(拡張)させるために、前述した可動金型を溶融樹脂の射出後に移動可能な移動型とし、金型内に溶融樹脂を射出してから、移動型(可動金型)を固定金型に対して前進・後退させるようにしている。
例えば、この移動型を有する金型を用いて表皮面材を備えた成形品を成形する場合には、予め移動型に表皮面材を装着しておき、型締装置により金型を閉じて、この金型内に溶融樹脂を射出してから、キャビティが溶融樹脂の射出量に応じた容積になるまで移動型を前進させて樹脂を圧縮する。これにより、金型内の樹脂圧力が低くなり、表皮面材の損傷を防止できる。
【0004】
このような移動型の進退は、成形装置においては、前述した型締装置、或いは、移動型に取り付けた金型移動装置により行われている。
型締装置を用いる場合には、固定金型および移動型(可動金型)の型締めを行った後、この金型内に樹脂を射出してから、さらに可動盤を固定盤に対して進退させることにより移動型を進退させて樹脂の圧縮或いは膨張を行う。
【0005】
金型移動装置は、型締装置による可動盤の進退とは別に、移動型のみを固定金型に対して移動させる装置である。
本願出願人は、汎用性に優れた金型移動装置として、移動型を固定金型へ向かって押圧する機構をユニット化して移動型と型締装置との間に着脱可能とした圧縮装置を提案している(特願平7−164500号)。この圧縮装置は、圧縮方向に対して傾斜した傾斜面を互いに面接触させた一対の傾斜部材を圧縮方向に沿って配列し、一方の傾斜部材を移動型に固定したものであり、他方の傾斜部材を圧縮方向と直交する方向に移動させて一方の傾斜部材に対して前進させることで圧縮力を発生させるようにしている。
【0006】
しかしながら、金型の可動金型全体を移動型とする方法では、複雑な形状の成形品の場合、バリの発生を防止するための移動型(可動金型)および固定金型の嵌合部の形状が複雑になり、金型加工が不可能であったり、加工できたとしても、合わせが不十分でバリが発生したりするおそれがあった。
また、成形品の立ち壁部に穴等のアンダーカットがある場合、移動型(可動金型)にアンダーカット用の可動部を設けて固定金型に当接させるようにすると、成形の度に移動型が固定金型に対して動作するため、可動部の固定金型に当たる部分が摩耗することがあり、バリや動作不良の原因となるおそれがあった。
【0007】
このような問題を解消するために、可動金型の一部を部分移動型とし、樹脂の射出後にこの部分移動型のみを、前述した金型移動装置により進退させる方法を採用することが考えられる。
すなわち、成形品の末端部(パーティング部)は、通常の射出成形用の金型と同様の構造になり、固定金型および可動金型の合わせや構造を単純にすることができる。これにより、これまで射出圧縮成形や膨張成形を適用し難かった成形品への適用が可能となる。
また、部分移動型を用いた方法は、樹脂の圧縮および膨張を部分的に行う場合や、成形品の表面に部分的に表皮面材を設ける場合にも適用できる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、可動金型の一部を部分移動型にすると、部分移動型の進退により、成形品の部分移動型側の面に、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡、或いは、膨張部および非膨張部の境界線の跡が形成され、固定金型側の面に樹脂射出口の跡が形成される。このため、いずれの面を成形品の表面にしても、樹脂射出口の跡或いは境界線の跡が露出するので優れた外観品質が得られないうえ、仕上げ作業に手間がかかるという問題がある。
とくに、部分移動型に表皮面材を装着して表皮面材を樹脂とともに一体成形すると、表皮面材に境界線の跡が形成されるため外観品質が低下する。
【0009】
さらに、前述した特願平7−164500号の圧縮装置を用いて部分移動型を進退させると、一対の傾斜部材の傾斜面同士を摺り合わせてシリンダ装置の駆動力の方向を変換しているので、フリクションロスが大きく、装置の機械的効率が低いという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、機械的効率に優れた金型移動装置を備え、かつ、優れた外観品質を有する成形品を成形でき、これにより仕上げ作業を容易化できる成形装置およびこの成形装置を用いた成形方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、固定盤および可動盤と、前記固定盤側に取り付けられた固定金型、前記可動盤側に取り付けられ前記固定金型との間にキャビティを有する可動金型および前記固定金型に前記キャビティに対して進退可能に設けられた部分移動型を有する金型と、この金型のキャビティに対して前記部分移動型を進退させるために、内部が二つに仕切られかつ前記部分移動型の移動方向に沿って並設された二つの圧力室、この二つの圧力室に設けられロッドを介して一体化された受圧面の大きさが異なる二枚のピストンプレート、および、前記二枚のピストンプレート並びにロッドにこれらに貫通して設けられた開口を有する金型移動装置と、この金型移動装置の二つの圧力室に導入する油圧を発生するポンプおよび圧力室からの油を蓄えるタンクを有する油圧ユニットと、この油圧ユニットを制御して前記金型移動装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記二つの圧力室を相互に連通させかつポンプに接続させる駆動速度優先制御と、前記二つの圧力室を互いに遮断しかつ受圧面の大きいピストンプレートが設けられた一方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続するとともに他方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続する駆動力優先制御と、前記一方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続するとともに前記他方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続する後退制御とを切り替えて行う手段を備え、前記金型移動装置は、前記固定盤と前記部分移動型との間に介装され、前記金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出装置のノズルが前記ピストンプレートおよびロッドの開口を通って、前記金型のスプルに接続されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前述した成形装置を用いた成形方法である。すなわち、固定盤および可動盤と、前記固定盤側に取り付けられた固定金型、前記可動盤側に取り付けられ前記固定金型との間にキャビティを有する可動金型および前記固定金型に前記キャビティに対して進退可能に設けられた部分移動型を有する金型と、この金型のキャビティに対して前記部分移動型を進退させるために、内部が二つに仕切られかつ前記部分移動型の移動方向に沿って並設された二つの圧力室、この二つの圧力室に設けられロッドを介して一体化された受圧面の大きさが異なる二枚のピストンプレート、および、前記二枚のピストンプレート並びにロッドにこれらに貫通して設けられた開口を有する金型移動装置と、この金型移動装置の二つの圧力室に導入する油圧を発生するポンプおよび圧力室からの油を蓄えるタンクを有する油圧ユニットと、この油圧ユニットを制御して前記金型移動装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記二つの圧力室を相互に連通させかつポンプに接続させる駆動速度優先制御と、前記二つの圧力室を互いに遮断しかつ受圧面の大きいピストンプレートが設けられた一方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続するとともに他方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続する駆動力優先制御と、前記一方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続するとともに前記他方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続する後退制御とを切り替えて行う手段を備え、前記金型移動装置は、前記固定盤と前記部分移動型との間に介装され、前記金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出装置のノズルが前記ピストンプレートおよびロッドの開口を通って、前記金型のスプルに接続可能となった成形装置を用いた成形方法であって、前記金型内への溶融樹脂の射出を開始した後、前記金型移動装置を作動させて、前記部分移動型を前記キャビティに対して進退させることにより、前記金型内に設けられたキャビティの容積を変化させることを特徴とする。
【0013】
ここで、部分移動型とは、金型の内部に溶融樹脂を充填してから、溶融樹脂の成形を行う成形時に移動される金型の部分をいう。具体的には、部分移動型は、溶融樹脂の射出開始直後、射出中、射出終了と同時、および射出終了から所定時間経過後のいずれかに移動を開始するものである。
また、金型の固定金型とは、所定位置に固定され移動されることのない金型の部分をいう。
本発明では、射出装置のノズルから金型のスプルを通じて金型内への溶融樹脂の射出を開始した後、金型移動装置を作動させて、部分移動型をキャビティに対して進退させることにより、樹脂を圧縮する或いは樹脂を膨張させる。すなわち、射出を開始してから部分移動型をキャビティに対して前進させてキャビティの容積を縮小すると、金型内の樹脂を圧縮することができ、部分移動型をキャビティに対して後退させてキャビティの容積を拡張すると、樹脂を膨張させることができる。
【0014】
このような本発明においては、部分移動型が固定盤側に取り付けられているため、部分移動型の進退により成形品に形成される境界線の跡、具体的には、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡、或いは膨張部および非膨張部の境界線の跡は、成形品の固定盤側の面に形成される。
また、金型移動装置は固定盤と部分移動型との間に介装され、この金型移動装置のピストンプレートおよびロッドの開口を通って、射出装置のノズルが金型のスプルに接続されているので、キャビティの固定盤側から溶融樹脂が金型内に充填されるようになるから、樹脂射出口の跡は成形品における固定盤側の面に形成される。
従って、樹脂射出口の跡および部分移動型による境界線の跡は、両方とも成形品における固定盤側の面に形成されるので、固定盤側の面を成形品の裏面(露出しない側の面)にすれば、樹脂射出口の跡および境界線の跡が露出することがなくなるので、優れた外観品質が得られるうえに仕上げ作業を簡略化できる。
【0015】
また、表皮面材を樹脂とともに一体成形する場合には、金型における部分移動型と対向する部分に表皮面材を装着し、溶融樹脂を金型内に射出してから、固定盤側の部分移動型を進退させるようにすれば、境界線の跡は成形品の固定盤側の面に形成され、表皮面材に境界線の跡が残ることがなくなるから優れた外観の成形品が得られる。
【0016】
さらに、ピストンプレートの大きさを、部分移動型の投影面積と同程度に設定すれば、大きな機械的出力が得られるようになるうえ、キャビティ容積の圧縮や拡張に要する部分移動型の移動距離は短いので、ピストンプレートのストロークは、通常のシリンダ装置のように長く設定する必要がない。
このため、前述の油圧シリンダおよび二枚のピストンプレートで構成される複動式のシリンダ装置は、大きな機械的出力を有する薄型大口径シリンダ装置となり、金型とともに通常の射出成形機に装着可能となる。
従って、駆動力を金型の部分移動型に直接伝達できるようになり、機械的効率が優れたものとなるうえ、金型内に充填された溶融樹脂に対して充分な圧縮力を与えることができるとともに、樹脂を膨張させるために金型のキャビティを拡張することができる。
【0017】
しかも、大口径のピストンプレートが部分移動型を駆動すると、部分移動型は、成形の開始から完了まで一定の姿勢で平行移動するようになり、溶融樹脂全体に加えられる力の均一性を確保できる。従って、キャビティを拡張して樹脂を膨張させる場合も含めて、形状や寸法精度に優れた成形品の製造が可能となる。
ここで、二枚のピストンプレートは、受圧面の大きさが異なっているので、大口径のピストンプレート側の圧力室に油圧を加えて、大口径のピストンプレートを駆動する際に、二つの圧力室を連通することにより、小口径のピストンプレートが大口径のピストンプレートに牽引され、小口径のピストンプレート側の圧力室から大口径のピストンプレート側の圧力室へ油が流れ、大口径のピストンプレートは、駆動力が減少するが、移動速度は増加する。
このため、大きな駆動力は不要でも、大口径のピストンプレートを高速で駆動しなければならないときに、二つの圧力室を連通し、大口径のピストンプレートの移動速度を加速すれば、成形におけるサイクルタイムを短縮することが可能となり、油の吐出量の小さい小型の油圧ユニットでも、部分移動型をポンプ吐出量以上の高速で駆動することが図れるようになる。
【0018】
さらに、ピストンプレートおよびロッドにはこれらを貫通する開口が設けられ、この開口を通って射出装置のノズルが金型のスプルに接続されているため、固定盤に射出装置を接続する既存の成形機に対して金型移動装置を簡単に組み込むことができる。すなわち、部分移動型と固定盤との間に金型移動装置を介装しても、ピストンプレートおよびロッドの開口を通じて射出装置のノズルを金型のスプルに容易に接続できる。
【0019】
また、成形にあたっては、金型内への溶融樹脂の射出を開始した後、前記金型移動装置を作動させて、前記部分移動型を前記キャビティに対して前進させることにより、前記キャビティに射出された溶融樹脂を圧縮してもよい。
このように部分移動型により溶融樹脂を圧縮することで、溶融樹脂を金型内に隅々まで充填できるから射出圧力が低くて済む。このため、とくに、表皮面材を金型に装着して樹脂と一体化させる場合、金型内の樹脂圧力を低くすることで表皮面材にかかる樹脂の圧力を低くできるから、表皮面材を良好な状態のまま樹脂と一体化できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第一実施形態〕
図1には、本発明の第一実施形態に係る成形装置を構成する横形の射出成形機1が示されている。この射出成形機1は、固定金型11、可動金型12および部分移動型13に分割された金型10で成形を行うものである。
部分移動型13は、固定金型11の周縁部を除いた中央部分を貫通するように設けられ、金型10のキャビティ10Aに対して進退可能とされ、部分移動型13の進退によってキャビティ10Aの容積が変化するようになっている。
このような金型10のキャビティ10Aは、成形品の部分移動型13側の面が成形品における裏面、つまり、露出しない側の面になるように形成されている。
【0025】
部分移動型13には、溶融樹脂を金型10内に導入するためのスプル14が形成され、このスプル14のキャビティ10A側末端により、部分移動型13の成形面、つまりキャビティ10A側の面には、樹脂射出口であるゲート14Aが形成されている。
このスプル14には射出装置2のノズル2Aが接続され、部分移動型13のスプル14およびゲート14Aを通じて溶融樹脂を金型10内に充填するようになっている。なお、射出装置2は、図示しない射出シリンダの内部に供給された樹脂ペレットを、図示しないスクリュで混練しながら可塑化して、この可塑化した溶融樹脂を先端に設けられたノズル2Aから射出するものである。
【0026】
本実施形態の射出成形機1は、固定金型11が固定された固定盤3と、可動金型12が可動基板15を介して固定された可動盤4と、この可動盤4を固定盤3へ向かって前進させるための型締装置5とを備えている。
可動盤4は、この可動盤4を挟んで対向配置された固定盤3および固定プレート6の間に架け渡されたタイバー7に沿って摺動自在に設けられたものであり、固定プレート6には型締め用の油圧シリンダ装置8が取り付けられている。
型締装置5は、油圧シリンダ装置8のピストンロッド8Aが連結されたトグル機構9を有し、油圧シリンダ装置8の押圧力をトグル機構9で増力して可動盤4を固定盤3に対して前進させ、これにより、金型10の型締めを行うようになっている。
【0027】
このような成形機1を備えた成形装置では、型締装置5により、可動金型12を固定金型11および部分移動型13に対して前進させて金型10を閉鎖し、射出装置2から溶融樹脂を射出して、部分移動型13のスプル14を通じて金型10の内部に充填する。そして、本実施形態では、固定金型11および部分移動型13の後方に配置された金型移動装置20によって部分移動型13を押圧することにより、金型10内に充填された溶融樹脂を圧縮しながら成形を行う。
【0028】
金型移動装置20は、部分移動型13と固定盤3との間に介装され、固定盤3に設けられた薄型の油圧シリンダ装置30と、この油圧シリンダ装置30によって固定盤3に対して進退する移動基板21とを備えている。
移動基板21の前面(可動盤4側の面)には部分移動型13が取付けられ、この移動基板21を進退させることにより、部分移動型13をキャビティ10Aに対して進退させるようになっている。
【0029】
油圧シリンダ装置30は、移動基板21および固定盤3の間に配置され、図2に示すように、部分移動型13の移動方向に沿って並んだ二つの圧力室31, 32(圧力室31は図4,5にのみ図示)が形成されるように、隔壁33で内部が二つに仕切られたシリンダ34を備えている。
シリンダ34の固定盤3側の端部は閉塞されて固定盤3に固定され、シリンダ34の可動金型12側の端部には固定金型11が取り付けられている。これにより、固定金型11はシリンダ34を介して固定盤3に固定され、この固定金型11の内部で部分移動型13が進退するようになっている。
【0030】
シリンダ34の圧力室31, 32の各々には、二枚のピストンプレート35, 36がそれぞれ設けられている。ピストンプレート35の受圧面(隔壁33側の面)の直径は、ピストンプレート36の受圧面(隔壁33側の面)の直径よりも大きく設定されている。
これらのピストンプレート35, 36は、ロッド37を介して一体化され、全体としてH字状の断面を有している。
【0031】
ピストンプレート35, 36およびロッド37にはこれらの中心を貫通する開口38が設けられている。また、ピストンプレート35に固定された移動基板21と、固定盤3に固定されたシリンダ34の端面とには、開口38と連通する開口21A, 34Aがそれぞれ設けられ、これらの開口34A,38,21Aおよび固定盤3の開口3Aを通って射出装置2のノズル2Aが部分移動型13のスプル14に接続されている。
ここで、射出装置2は、部分移動型13の進退に追従するように進退可能とされ、部分移動型13を可動金型12に向かって進退させたときに、射出ノズル2Aが部分移動型13のスプル14から外れないようになっている。
なお、射出ノズル2Aに、ドローリングを防止するためのシャットオフバルブを設け、スプル14のキャビティ10A側の端部に、金型10内の溶融樹脂の逆流を防止するためのバルブゲートを設けるようにしてもよい。
【0032】
シリンダ34には、図1に示すように、ピストンプレート35, 36を駆動するための油圧を圧力室31, 32内に導入する油圧ユニット22が接続され、この油圧ユニット11には金型移動装置20を制御するための制御装置23が接続されている。
油圧ユニット22は、図示しないが、油圧を発生するポンプおよび油圧シリンダ装置30から戻ってきた油を蓄えるためのタンクを備えている。なお、油圧ユニット22の動力源は、例えば、電気であり、電動モータを使用してもよい。
【0033】
このような油圧シリンダ装置30では、金型10の部分移動型13を可動金型12に向かって前進するにあたり、圧力室31, 32が相互に連通した状態で両方の圧力室31, 32にポンプを接続して油圧が加えることで、駆動力よりも駆動速度を優先して部分移動型13を前進させることができる。
すなわち、ピストンプレート35の受圧面はピストンプレート36の受圧面よりも大きいので、ピストンプレート36がピストンプレート35の駆動力に負けて圧力室32を狭める方向に移動し、圧力室32内の油は連通路を通じて圧力室31へと圧送される。このため、圧力室31には、油圧ユニット22のポンプからの油に圧力室32からの流量を加えた量の油が流れ込むようになり、油圧ユニット22のポンプからの油だけで駆動する場合よりもピストンプレート35が高速で前進するようになる。
【0034】
また、部分移動型13の前進動作において駆動速度よりも駆動力を優先したい場合には、圧力室31,32を互いに遮断し、圧力室31を油圧ユニット22のポンプに接続して油圧を加えるとともに、圧力室32を油圧ユニット22のタンクに接続して内部圧力を逃がすようにすることで、ピストンプレート35をゆっくり前進させることができる。
この際、ピストンプレート36の受圧面が大きいので、前進速度は遅くなるが、圧縮成形を行うのに充分な駆動力が確保される。
【0035】
一方、部分移動型13を可動金型12から後退させる場合には、圧力室32を油圧ユニット22のポンプに接続して油圧を加えるとともに、圧力室31を油圧ユニット22のタンクに接続することで、ピストンプレート35を部分移動型13とともに後退させることができる。
【0036】
次に、本実施形態の成形動作(成形手順)について説明する。
まず、金型10および金型移動装置20を、図1および図2の如く、一般的な射出成形機1に装着することにより、成形装置とする。この際、金型移動装置20の油圧シリンダ装置30は、そのピストンプレート35を後退させておく。
ここで、射出成形機1を起動し、最初に型締装置5を作動させ、可動盤4を可動金型12とともに固定盤3に向かって移動させて、金型10を閉鎖する。
【0037】
この後、図3に示すように、射出装置2の射出ノズル2Aから部分移動型13のスプル14を通じて溶融樹脂を金型10の内部に射出する。この際、金型10のキャビティ10Aに射出した溶融樹脂は、後の圧縮工程により金型10の細部まで行き渡るようになるから、溶融樹脂の射出圧力は、圧縮を行わない射出成形の場合よりも低くできる。
射出される溶融樹脂は、熱可塑性のものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS等のような汎用樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール等のエンジニアプラスチック、さらには、これらの樹脂に、ガラス繊維、炭素繊維および有機繊維等の補強剤、タルク等の充填剤、ならびに、各種の添加剤を含有させたもの等、その他全ての射出成形可能な高分子材料を採用できる。
【0038】
射出装置2の射出開始から所定時間経過後、あるいは、射出装置2の射出スクリュ(図示省略)が所定位置に達した時点で、図4に示すように、金型移動装置20が起動される。ここで、金型移動装置20の起動は、樹脂の射出終了後、あるいは、射出中に行ってもよく、また、金型10への樹脂の射出量は、任意に設定することができる。
金型移動装置20の作動開始時には、内部の溶融樹脂が金型10全体に充満しておらず、部分移動型13の移動に大きな力を要しないので、駆動力よりも駆動速度を優先する。すなわち、圧力室31, 32が相互に連通した状態で、圧力室31, 32の両方に油圧を加え、ピストンプレート35を部分移動型13とともに高速で前進させる。
【0039】
部分移動型13がある程度前進したら、圧力室32と圧力室31との連通を解消するとともに、圧力室31のみに油圧を加えるとともに、圧力室32を油圧ユニット22のタンクに接続して排圧し、ピストンプレート35を低速で前進させる。
この際、油圧ユニット22のポンプによる油圧が、ピストンプレート35の大きな受圧面で受け止められるので、金型10内の溶融樹脂を圧縮成形するのに必要な、強力な駆動力が得られる。
また、ピストンプレート35は、面積が大きく、部分移動型13の投影面積よりもやや大きくなっているので、部分移動型13を前進するにあたり、この部分移動型13には、一箇所に偏よることのないバランスのよい押圧力が加えられるようになり、部分移動型13は、可動金型12に対して常に正確な平行精度を維持しながら前進することになる。
【0040】
この結果、金型10内の溶融樹脂に加えられる圧縮力が偏ることなく均一となり、得られる成形品は、反りや歪みのない、形状および寸法精度が良好なものとなるうえ、固定金型11および部分移動型13の互いの摺動部分が摩耗損傷することはない。
なお、ピストンプレート35の前進速度の切換制御方式としては、移動開始からの時間経過に基づく時間制御方式、部分移動型13等の位置に基づく位置制御方式、油圧ユニットの油圧値に基づく油圧制御方式、および、金型内の溶融樹脂の圧力値に基づく樹脂圧制御方式等が採用できる。
【0041】
そして、図5に示すように、金型移動装置20で溶融樹脂に圧力を加えた状態で、当該溶融樹脂の冷却・固化を所定時間行う。所定時間が経過して溶融樹脂が十分固化すると、型締装置5(図1参照)が作動して可動盤4を後退させ、金型10を開く。そして、金型10の内部から成形品を取り出し、成形を完了する。以降、必要に応じて、以上のような射出圧縮成形作業を繰り返す。
ここで、可動盤4の後退を開始した時点から、次の射出成形を開始するまでの間に、圧力室32に油圧を加えるとともに、圧力室31を油圧ユニット22のタンクに接続して排圧し、ピストンプレート35を後退させておく。なお、このピストンプレート35を後退させるために、小径の別の油圧シリンダを設けてもよい。
【0042】
本実施形態の部分移動型13は、成形品の中央部分を構成する樹脂のみを圧縮するため、成形品の裏面となる部分移動型13側の面(固定盤3側の面)には、部分移動型13により圧縮された圧縮部と部分移動型13に圧縮されない非圧縮部との境界線の跡が形成され、かつ、部分移動型13のゲート14Aの跡が形成される。
【0043】
一方、本実施形態の成形装置を用いて金型10内の樹脂を膨張させる場合には、油圧シリンダ装置30のピストンプレート35を前進させた状態で金型10を閉鎖する。そして、この金型10内への溶融樹脂の射出を開始してから、金型移動装置20を起動してピストンプレート35を部分移動型13とともに所定位置まで後退させ、金型10のキャビティ10Aを拡大する。
この場合、固定金型11に対応した成形品の周縁部の樹脂は膨張しないで、部分移動型13に対応した成形品の中央部分のみが膨張するので、成形品の裏面となる部分移動型13側の面には、部分移動型13の後退によって膨張した膨張部および部分移動型13が後退しても膨張しない非膨張部の境界線の跡と、ゲート14Aの跡とが形成される。
なお、この膨張成形に用いる溶融樹脂としては、膨張を促すための発泡剤およびガラス繊維等を添加したものを用いることができる。また、成形時に、金型10内にガスを注入して樹脂を膨張させるようにしてもよい。
【0044】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。
すなわち、部分移動型13が固定盤3側に取り付けられているため、部分移動型13の進退により成形品に形成される境界線の跡、具体的には、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡、或いは膨張部および非膨張部の境界線の跡は、成形品の部分移動型13側の面(固定盤3側の面)に形成される。
また、射出装置2のノズル2Aが部分移動型10のスプル14に接続されているので、溶融樹脂は部分移動型13のスプル14の末端であるゲート14Aからキャビティ10Aに射出されるから、ゲート14Aの跡は成形品における部分移動型13側(固定盤3側)の面に形成される。
従って、ゲート14Aの跡および部分移動型13による境界線の跡は、両方とも成形品における部分移動型13側の面に形成されるので、部分移動型13側の面を成形品の裏面にすることで、ゲート14Aの跡および境界線の跡が表面に露出することがなくなるので、優れた外観品質が得られるうえに仕上げ作業を簡略化できる。
【0045】
さらに、金型移動装置20の移動基板21、シリンダ34の固定盤3側の端面、ピストンプレート35,36およびロッド37にはそれぞれ開口21A,34A,38が形成されているため、これらの開口34A,38,21Aを通じて射出装置2のノズル2Aを部分移動型13のスプル14に接続できるから、固定盤3に射出装置2を取り付けた既存の成形機に対して金型移動装置20を簡単に組み込むことができる。
すなわち、固定盤3および部分移動型13の間に金型移動装置20を設置しても、射出ノズル2Aは、これらの開口21A,34A,38に通すだけで、スプル14に従来通り容易に接続できる。
【0046】
また、ピストンプレート35を大きくし、シリンダ34を大口径化したので、大きな機械的出力が得られるようになり、油圧シリンダ装置30のみで圧縮成形に必要充分な駆動力を出力できるうえ、一個の油圧シリンダ装置30全体を薄型化したので、射出成形機1に装着した金型10の部分移動型13に対して、駆動力を直接伝達できるようになり、機械的効率を優れたものにすることができる。
【0047】
しかも、ピストンプレート35の大きさを、図1〜図5の如く、部分移動型13よりも大きく設定し、部分移動型13を前進するにあたり、部分移動型13には、一箇所に偏よることのない、バランスのよい押圧力が加えられるようにしたので、部分移動型13は、固定金型11および可動金型12に対して常に正確な平行精度を維持しながら進退することになり、金型10内に充填された溶融樹脂全体に加えられる力の均一性を確保できるから、形状や寸法精度に優れた成形品を製造できる。
【0048】
また、二枚のピストンプレート35, 36の受圧面の大きさを異ならせるとともに、二つの圧力室31, 32を連通可能とし、必要に応じて、ピストンプレート35の前進速度を高速に切換えられるようにしたので、駆動力よりも前進速度を優先させたいときにはピストンプレート35の前進速度を加速できるから、成形におけるサイクルタイムを短縮することができるうえ、油圧ユニット22を小型化できる。
【0049】
そして、樹脂射出口であるゲート14Aが部分移動型13に設けられているため、このような金型10を用いて成形を行うことで、部分移動型13の進退により成形品に形成される境界線の跡およびゲート14Aの跡は、両方とも成形品における部分移動型13側の面に形成される。
従って、部分移動型13側の面を成形品の裏面にすれば、ゲート14Aの跡および境界線の跡が表面に露出することがなくなるので、優れた外観品質が得られるうえに仕上げ作業を簡略化できる。
【0050】
〔第二実施形態〕
以下、本発明の第二実施形態を図6に基づいて説明する。
本実施形態は、前記第一実施形態の成形装置と略同様な構成を備え、金型の構造および移動基板の形状が異なるのみであるので、同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略し、以下には異なる部分のみを詳述する。
本実施形態の成形装置は、前記第一実施形態の部分移動型13を、固定金型51の成形面に対して成形面の面積が小さい部分移動型53とし、固定金型51および部分移動型53の両方にスプル54,55およびゲート54A,55Aを形成したものである。
【0051】
すなわち、金型50の固定金型51の中心部よりも上側の部分には、部分移動型53の移動方向に沿った貫通孔51Aが形成され、この貫通孔51Aに部分移動型53が摺動(進退)可能に挿入されている。
貫通孔51Aにおける部分移動型53よりも固定盤3側の部分には、当該貫通孔51Aの上面および下面を連結するストッパ部51Bが設けられている。
部分移動型13および移動基板21の間には、一対のスペーサ56(図6では一方のみを図示)がストッパ部51Bを挟んで架設され、移動基板21の進退により部分移動型13が進退するようになっている。
この移動基板21は、部分移動型53と略同じ断面形状を有し、ピストンプレート35における部分移動型53に対応した部分にのみ取り付けられている。具体的には、移動基板21は、ピストンプレート35の開口38よりも上側の部分に取り付けられている。
また、本実施形態の金型50では、部分移動型13の進退範囲をストッパ部51Bにより規制するようになっている。つまり、部分移動型13を所定位置まで前進させると移動基板21がストッパ部51Bに当接して部分移動型13の前進が制限される。
【0052】
このような固定金型51および部分移動型53には、それぞれスプル54,55が設けられ、その各成形面には各スプル54,55の末端であるゲート54A,55Aが形成されている。
固定金型51のスプル54の一端には射出装置2のノズル2Aが接続されている。このスプル54の他端側の部分は二つに分岐し、一方の末端は固定金型51の成形面のゲート54Aからキャビティ50Aに連通し、他方の末端はストッパ部51Bから部分移動型53側の面に開口している。このスプル54の他方の末端は、樹脂導入管57を介して部分移動型53のスプル55に接続され、部分移動型53のゲート55Aからキャビティ50Aに連通している。樹脂導入管57は、部分移動型53の進退方向に沿って伸縮自在に形成されている。
【0053】
また、本実施形態の可動金型52は、前記第一実施形態の可動金型12を表皮面材40を装着可能に構成したものである。この可動金型52の成形面には、表皮面材40を係止するための係止部52Aが設けられ、成形面における部分移動型53と対向する部分に表皮面材40を装着するようになっている。
表皮面材40としては、織布や不織布等の布、熱可塑性樹脂面材、熱可塑性樹脂の発泡面材、および、模様等が印刷されたフィルム等の単層面材、ならびに、熱可塑性エラストマや塩化ビニル樹脂等の表皮材に、熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂の発泡体等から裏地材を裏打ちした多層面材等を採用できる。
【0054】
このように構成された本実施形態の射出成形装置を用いて、表皮面材40を成形時に樹脂と一体化させる場合には、予め、表皮面材40を可動金型52の係止部52Aに係止して可動金型52に装着するとともに、金型移動装置20のピストンプレート35を後退させておく。このとき、樹脂導入管57は収縮した状態になる。
そして、金型10を閉鎖した状態で、射出装置2の射出ノズル2Aから固定金型51のスプル54を通じて溶融樹脂を射出する。すると、溶融樹脂は、固定金型51のゲート54Aから金型50内に射出されるとともに、樹脂導入管57を介して部分移動型53のスプル55に導入されてそのゲート55Aから金型10内に射出される。このとき、部分移動型53は後退しているため、表皮面材40にかかる樹脂圧力が低くなり、樹脂圧力による表皮面材40の損傷を防止できる。
このとき、樹脂圧力による表皮面材の損傷を防ぐために射出圧力を低くしてもよく、この場合でも、射出後に溶融樹脂を圧縮するので、金型50の細部まで行き渡らせることができる。
【0055】
射出装置2の射出開始から所定時間経過後、あるいは、射出装置2の射出スクリュ(図示省略)が所定位置に達した時点で、金型移動装置20を起動し、ピストンプレート35を前進させる。これにより部分移動型13が成形品の形状に応じた位置まで前進し、表皮面材40および部分移動型13の間の溶融樹脂が圧縮される。
そして、溶融樹脂を金型移動装置20で加圧した状態のまま所定時間保持して冷却・固化させ、この後、型締装置5(図1参照)を作動し、可動盤4を後退させて金型10を開き、成形品を取り出す。
【0056】
本実施形態では、部分移動型53により、成形品のうち表皮面材40および部分移動型53の間の樹脂のみを圧縮するため、成形品の裏面となる部分移動型53側の面には、部分移動型53により圧縮された圧縮部および部分移動型53に圧縮されない非圧縮部の境界線の跡が形成されるとともに、部分移動型53および固定金型51の各ゲート54A,55Aの跡が形成される。
【0057】
このような本実施形態によれば、前記第一実施形態と同様な作用、効果を奏することができる他、以下のような効果がある。
すなわち、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡と、ゲート54A,55Aは両方とも成形品の裏面となる部分移動型53側の面に形成されるので、表皮面材40に境界線の跡が残ることがなくなるから、表皮面材40を良好な状態のまま樹脂と一体化でき、優れた外観の成形品が得られる。
固定金型51および部分移動型53の両方にそれぞれスプル54,55およびゲート54A,55Aを形成したので、二つのゲート54A,55Aから溶融樹脂がキャビティ50Aに射出されるから、細部まで確実に溶融樹脂を充填することができ、キャビティ50Aの形状に忠実な形状の成形品を得ることができる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、例えば、前記第一実施形態のゲート14Aは部分移動型13に設けられ、前記第二実施形態のゲート54A,55Aは部分移動型53および固定金型51に設けられていたが、固定金型のみにゲートを設けてもよい。
【0059】
【実施例】
〔実施例1〕
本実施例1では、前記第一実施形態の成形装置および成形手順を用い、周縁部に立ち上がりを備えた矩形板状の成形品、具体的には、ノート型パソコンのアンダーカバーを成形した。この成形品の外形寸法は、縦300mm×横240mm×高さ25mm、平均肉厚1.2mmであり、その立ち上がりには多数の孔が形成されている。
【0060】
本実施例1では、具体的には、以下のような原材料、射出成形機、金型、金型移動装置、および成形手順を採用した。
[a]原材料:ポリカーボネート/ABSアロイ(商品名:タフロンSC−250)
[b]射出成形機:型締力200t,商品名;射出成形機IS200E,東芝機械株式会社製
[c]金型移動装置:最大圧縮力180t
[d]金型:部分移動型の成形面は280mm×220mmの矩形形状とした。なお、この金型で成形される成形品の裏面は、部分移動型側の面になる。
[e]成形条件
・成形温度: 280℃
・金型温度: 80℃
・樹脂充填時間: 1.2秒
・射出圧力: 80MPa
・成形機型締力:200t
・圧縮ストローク: 1.5mm
・圧縮力: 180t
・圧縮速度: 5mm/秒
・圧縮開始時間:射出開始から1.3秒後
・冷却時間: 30秒
【0061】
〔比較例1〕
本比較例1では、前記実施例1の成形装置から金型移動装置を取り外し、部分移動型による樹脂の圧縮を行わない点以外は、前記実施例1と同様にして成形品を得た。
【0062】
〔比較例2〕
本比較例2では、前記比較例1の射出成形機を型締力350tの射出成形機に変更した以外は前記比較例1と同様にして成形品を得た。
【0063】
〔実施例1および比較例1,2の結果〕
実施例1では、部分移動型をキャビティに対して前進させて金型内の溶融樹脂を圧縮したので、キャビティが比較的薄いにもかかわらず、溶融樹脂がキャビティに完全充填され、肉厚1.2mmの略均一な肉厚の成形品が得られた。
また、圧縮により溶融樹脂を完全充填できるから射出圧力が比較的低くて済むうえ、部分移動型よりも大きいピストンプレートにより部分移動型を駆動したため溶融樹脂全体に加えられる力の均一性を確保できるので、反りや変形が非常に少ない成形品が得られた。
そして、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡とゲートの跡とは、両方とも成形品の部分移動型側の面、つまり成形品の裏面に形成されるので、成形品の表面(可動金型側の面)に外観不良のない良好な外観品質を有する成形品を製造できた。
【0064】
一方、比較例1では、金型内の樹脂を圧縮しないで通常の射出成形により成形品を製造したので、厚さの薄いキャビティに対して射出圧力が高く、型締力が不足して、射出中に金型を閉鎖した状態を維持できなかった。このため、射出圧力を下げて樹脂の充填を行ったところ、射出圧力が足りず、溶融樹脂を厚さの薄いキャビティに完全充填することができず、キャビティ充填率が90%程度しか得られなかった。
また、比較例2では、型締力を大きくしたので、80MPaの射出圧力で溶融樹脂を充填でき、肉厚1.2mmの成形品が得られたが、部分移動型による圧縮を行わなかったため、樹脂の配向等に起因する大きな反りが生じ、商品性を確保できなかった。
【0065】
〔実施例2〕
本実施例2では、前記第二実施形態の成形装置および成形手順を用い、基材の表面(片面)の一部に表皮面材を張った自動車用のドアトリムを成形した。この成形品の外形寸法は、縦520mm×横800mm×高さ115mm、平均肉厚2.5mmである。
【0066】
本実施例2では、具体的には、以下のような原材料、射出成形機、金型、金型移動装置、および成形手順を採用した。
[a]原材料
・基材:ポリプロピレン(MI=40g/10分;230℃,2.16kgf ,出光石油化学株式会社製,商品名:IDEMITSU PP J−5066H ,ブロックコポリマー)
・表皮面材:ポリ塩化ビニル(0.5mm厚)からなる表皮およびポリプロピレンフォーム(2.5mm厚,商品名:トーレペフ,(東レ株式会社製)からなるパッドを積層したもの。なお、 表皮面材は、その表皮が可動金型側になるように装着した。
[b]射出成形機:型締力850t,商品名;射出成形機850MGW,三菱重工業株式会社製
[c]金型移動装置:最大圧縮力800t
[d]金型:部分移動型は、その成形面の面積が表皮貼合部分の面積の90%となるものを用いた。なお、この金型で成形される成形品の裏面は部分移動型側の面になる。
[e]成形条件
・成形温度: 180℃
・金型温度: 40℃
・樹脂充填時間: 2.5秒
・射出圧力: 60MPa
・成形機型締力: 850t
・圧縮ストローク: 30mm
・圧縮力: 200t
・圧縮速度: 10mm/秒
・圧縮開始時間:射出開始から2.5秒後
・冷却時間: 50秒
【0067】
〔比較例3〕
本比較例3では、以下の点を除き、前記実施例2と同様にして成形品を得た。すなわち、前記実施例2の成形装置において、金型移動装置による溶融樹脂の部分的な圧縮を行わないで、部分移動型を前進させる代わりに可動金型全体を固定金型に向かって前進させることにより溶融樹脂を圧縮した。
また、前記実施例2の成形条件において、圧縮ストロークを30mm,4mmの二つの条件にして二種類の成形品を得た。
【0068】
〔実施例2および比較例3の結果〕
前記実施例2では、成形品の表皮面材には破れや皺が認められず、表皮面材のクッション性も良好であったことから、溶融樹脂を射出してから部分移動型を前進させて表皮貼合部分を圧縮することで、表皮面材にかかる樹脂圧力が低くなり、表皮面材を良好な状態のまま樹脂と一体化できることがわかる。
また、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡とゲートの跡とは、両方とも成形品の裏面である部分移動型側の面に形成されるので、成形品の表面、とくに表皮面材に外観不良のない良好な外観品質を有する成形品を製造できた。
【0069】
一方、比較例3において圧縮ストロークを30mmとした場合には、成形品の表皮面材には、破れ、皺およびフォームの溶解による外観不良等が認められなかったが、成形品の裏面(部分移動型側の面)には、その表皮貼合部側のゲート跡の近傍に、圧縮によるエアーの巻き込みに起因すると思われる外観不良(フローマーク)が発生し、商品性が得られなかった。
また、圧縮ストロークを4mmとした場合では、圧縮ストローク30mmにした場合よりも射出時の表皮面材とゲートとの距離が小さいので、表皮面材に大きな樹脂圧力がかかり、表皮面材のゲートに対向する部分のフォームが消失して、成形品の表面にはフォームの消失による凹みが発生し、商品性が得られなかった。
【0070】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明によれば、部分移動型の進退により成形品に形成される境界線の跡、具体的には、圧縮部および非圧縮部の境界線の跡、或いは膨張部および非膨張部の境界線の跡と、樹脂射出口の跡とは、両方とも成形品における一の面に形成されるため、この面を成形品の裏面にすることで、優れた外観品質が得られるうえ、仕上げ作業を簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施形態を一部破断して示す側面図。
【図2】前記実施形態の要部を示す拡大断面図。
【図3】前記実施形態の要部の他の状態を示す拡大断面図。
【図4】前記実施形態の要部のさらに他の状態を示す拡大断面図。
【図5】前記実施形態の要部のさらにまた他の状態を示す拡大断面図。
【図6】本発明の第二実施形態の要部を示す拡大断面図。
【符号の説明】
1 射出成形機
2 射出装置
2A 射出ノズル
3 固定盤
4 可動盤
5 型締装置
10,50 金型
10A,50A キャビティ
11,51 固定金型
12,52 可動金型
13,53 部分移動型
14,54,55 スプル
14A,54A,55A ゲート(樹脂射出口)
20 金型移動装置
31,32 圧力室
35,36 ピストンプレート
37 ロッド
40 表皮面材
Claims (3)
- 固定盤および可動盤と、
前記固定盤側に取り付けられた固定金型、前記可動盤側に取り付けられ前記固定金型との間にキャビティを有する可動金型および前記固定金型に前記キャビティに対して進退可能に設けられた部分移動型を有する金型と、
この金型のキャビティに対して前記部分移動型を進退させるために、内部が二つに仕切られかつ前記部分移動型の移動方向に沿って並設された二つの圧力室、この二つの圧力室に設けられロッドを介して一体化された受圧面の大きさが異なる二枚のピストンプレート、および、前記二枚のピストンプレート並びにロッドにこれらに貫通して設けられた開口を有する金型移動装置と、
この金型移動装置の二つの圧力室に導入する油圧を発生するポンプおよび圧力室からの油を蓄えるタンクを有する油圧ユニットと、
この油圧ユニットを制御して前記金型移動装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記二つの圧力室を相互に連通させかつポンプに接続させる駆動速度優先制御と、前記二つの圧力室を互いに遮断しかつ受圧面の大きいピストンプレートが設けられた一方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続するとともに他方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続する駆動力優先制御と、前記一方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続するとともに前記他方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続する後退制御とを切り替えて行う手段を備え、
前記金型移動装置は、前記固定盤と前記部分移動型との間に介装され、
前記金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出装置のノズルが前記ピストンプレートおよびロッドの開口を通って、前記金型のスプルに接続されることを特徴とする成形装置。 - 固定盤および可動盤と、前記固定盤側に取り付けられた固定金型、前記可動盤側に取り付けられ前記固定金型との間にキャビティを有する可動金型および前記固定金型に前記キャビティに対して進退可能に設けられた部分移動型を有する金型と、この金型のキャビティに対して前記部分移動型を進退させるために、内部が二つに仕切られかつ前記部分移動型の移動方向に沿って並設された二つの圧力室、この二つの圧力室に設けられロッドを介して一体化された受圧面の大きさが異なる二枚のピストンプレート、および、前記二枚のピストンプレート並びにロッドにこれらに貫通して設けられた開口を有する金型移動装置と、この金型移動装置の二つの圧力室に導入する油圧を発生するポンプおよび圧力室からの油を蓄えるタンクを有する油圧ユニットと、この油圧ユニットを制御して前記金型移動装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記二つの圧力室を相互に連通させかつポンプに接続させる駆動速度優先制御と、前記二つの圧力室を互いに遮断しかつ受圧面の大きいピストンプレートが設けられた一方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続するとともに他方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続する駆動力優先制御と、前記一方の圧力室を前記油圧ユニットのタンクに接続するとともに前記他方の圧力室を前記油圧ユニットのポンプに接続する後退制御とを切り替えて行う手段を備え、前記金型移動装置は、前記固定盤と前記部分移動型との間に介装され、前記金型のキャビティに溶融樹脂を射出する射出装置のノズルが前記ピストンプレートおよびロッドの開口を通って、前記金型のスプルに接続可能となった成形装置を用いた成形方法であって、
前記金型内への溶融樹脂の射出を開始した後、前記金型移動装置を作動させて、前記部分移動型を前記キャビティに対して進退させることにより、前記金型内に設けられたキャビティの容積を変化させることを特徴とする成形方法。 - 請求項2に記載した成形方法において、
前記金型内への溶融樹脂の射出を開始した後、前記金型移動装置を作動させて、前記部分移動型を前記キャビティに対して前進させることにより、前記キャビティに射出された溶融樹脂を圧縮することを特徴とする成形方法。
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