JP3881816B2 - 硬化被膜を有する光学部材およびその製造方法並びにそれに用いるコーティング組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬化被膜を有する光学部材およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、光学基材に密着性向上のための前処理を施すことなく、その上に、耐擦傷性や審美性などの各種機能を付与するための硬化被膜を密着性よく設けてなる光学部材、およびこのものを効率よく製造する方法並びにそれに用いるコーティング組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、プラスチック製光学部材に、耐擦傷性や審美性などの各種機能を付与する方法として、通常、プラスチック製光学基材表面に、硬化被膜を設けることが行われている。しかしながら、該硬化被膜とプラスチック製光学基材との密着性は、一般に不十分であることが多く、したがって、この密着性を向上させるために、例えば該光学基材表面に、プラズマ、コロナ火焔、紫外線などによる物理的処理、あるいは酸、アルカリ、各種有機溶剤による化学的処理などの前処理を施すことが試みられている。
しかしながら、このような基材の前処理法は、いずれも操作が煩雑である上、高価な装置を必要とし、目的とする光学部材の製造コストが高くつくのを免れないという欠点を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、光学基材表面に、煩雑な操作や高価な装置を必要とする前処理を施すことなく、耐擦傷性や審美性などの各種機能を付与するための硬化被膜を密着性よく設けてなる光学部材、およびこのものを効率よく製造する方法並びにそれに用いるコーティング組成物を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、光学基材に密着性向上のための前処理を施すことなく、密着性の良い硬化被膜を設けてなる光学部材を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、硬化被膜形成用として、金属酸化物コロイド粒子と、有機ケイ素化合物と、さらに硬化触媒とを含むコーティング組成物を用いることにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、光学基材と、その上に設けられた硬化被膜とを有する光学部材において、上記硬化被膜が、(A)金属酸化物コロイド粒子と、(B)下記一般式(I)で表される化合物からなる有機ケイ素化合物と、(C)下記一般式(III)で表される化合物またはその水和物とアルミニウムアセチルアセトネートとの混合物である硬化触媒とを、前記(B)成分の有機ケイ素化合物100重量部当たり、(C)成分の一般式 (III) で表される化合物またはその水和物を0.01〜10重量部の割合で含むコーティング組成物から得られたものであることを特徴とする硬化被膜を有する光学部材を提供するものである。また、この光学部材は、本発明に従えば、密着性向上のための前処理が施されていない光学基材上に、前記コーティング組成物を塗布したのち、硬化処理することにより、製造することができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の硬化被膜を有する光学部材(以下、単に「本発明の光学部材」ということがある。)における硬化被膜形成用のコーティング組成物においては、(A)成分として、金属酸化物コロイド粒子が用いられる。この金属酸化物コロイド粒子としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。この金属酸化物コロイド粒子の例としては、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化タングステンなどのコロイド粒子およびそれらの複合体のコロイド粒子が挙げられる。該複合体のコロイド粒子としては、例えば、特開平6−25603号公報に開示されている酸化スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステンの複合体微粒子、特開平3−217230号公報に開示されている酸化スズ−酸化タングステンの複合体微粒子、特開平8−113760号公報に開示されている酸化チタン、酸化セリウム、及び酸化ケイ素の複合体微粒子、特開平10−306258号公報に開示されている酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化スズの複合体微粒子、特開平9−21901号公報に開示されている酸化チタン−酸化ジルコニウム−酸化ケイ素の複合体微粒子、酸化第二スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステンの複合体微粒子などが挙げられる。
【0007】
これらの金属酸化物コロイド粒子の粒径は、1〜500nmの範囲が好ましい。また、この(A)成分の金属酸化物コロイド粒子は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0008】
また、本発明におけるコーティング組成物においては、(B)成分として、有機ケイ素化合物が用いられる。この有機ケイ素化合物としては、一般式(I)
R1 mSi(OR2)4-m …(I)
(式中のR1は官能基を有する若しくは有しない炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜8の一価の炭化水素基または炭素数1〜8のアシル基、mは0、1または2を示し、R1が複数ある場合、複数のR1はたがいに同一でも異なっていてもよいし、複数のOR2はたがいに同一でも異なっていてもよい。)で表される化合物の中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0011】
前記一般式(I)において、R1で示される炭素数1〜20の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、炭素数2〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基を挙げることができる。ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。また、炭素数2〜20のアルケニル基としては、炭素数2〜10のアルケニル基が好ましく、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。炭素数6〜20のアリール基としては、炭素数6〜10のものが好ましく、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数7〜20のアラルキル基としては、炭素数7〜10のものが好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0012】
これらの炭化水素基には官能基が導入されていてもよく、該官能基としては、例えばハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基などが挙げられる。これらの官能基を有する炭化水素基としては、該官能基を有する炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、例えばγ−クロロプロピル基、3,3,3−トリクロロプロピル基、クロロメチル基、グリシドキシメチル基、α−グリシドキシエチル基、β−グリシドキシエチル基、α−グリシドキシプロピル基、β−グリシドキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、α−グリシドキシブチル基、β−グリシドキシブチル基、γ−グリシドキシブチル基、δ−グリシドキシブチル基、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、γ−アミノプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、β−シアノエチル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−アクリロイルオキシプロピル基などが挙げられる。
【0013】
一方、R2のうちの炭素数1〜8の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜8の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数7〜8のアラルキル基を挙げることができる。ここで、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられ、アリール基としては、例えばフェニル基、トリル基などが挙げられ、アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。また、炭素数1〜8のアシル基としては、例えばアセチル基などが挙げられる。
mは0、1または2であり、R1が複数ある場合、複数のR1はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、また、複数のOR2はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0014】
前記一般式(I)で表される化合物の例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、イソプロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート、tert−ブチルシリケート、テトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメト シシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、
【0015】
(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシン、
【0016】
3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
本発明におけるコーティング組成物においては、(B)成分の有機ケイ素化合物として、一般式(I)で表される化合物の中から適宜1種選択して用いてもよいし、2種以上を選択し、組み合わせて用いてもよい。
【0021】
次に、本発明におけるコーティング組成物においては、(C)成分として硬化触媒が用いられる。この硬化触媒は、光学基材と硬化被膜との密着性向上剤としての役割を果たすものであって、一般式(III)
M(ClO4)n …(III)
(式中のMはアルミニウムまたはリチウム原子、nはアルミニウムまたはリチウム原子Mの価数を示す。)で表される化合物またはその水和物とアルミニウムアセチルアセトネートとの混合物を用いる。
【0022】
このような一般式(III)で表される化合物の例としては、過塩素酸リチウム(無水)、過塩素酸リチウム三水和物、過塩素酸アルミニウム六水和物、過塩素酸アルミニウム九水和物などが挙げられ、毒性を考慮すると、過塩素酸リチウム(無水)、過塩素酸リチウム三水和物、過塩素酸アルミニウム六水和物、過塩素酸アルミニウム九水和物が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明におけるコーティング組成物中の各成分の含有割合については、前記(B)成分の有機ケイ素化合物100重量部当たり、(C)成分の一般式 (III) で表される化合物またはその水和物を0.01〜10重量部の割合で含むこと以外は特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、硬化被膜の性能および光学基材との密着性などを考慮すると、(B)成分の有機ケイ素化合物100重量部当たり、(A)成分の金属酸化物コロイド粒子を、固形分として、好ましくは1〜500重量部、より好ましくは10〜200重量部の割合で含むと共に、(C)成分の一般式(III)で表される化合物またはその水和物を0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で含むのが有利である。
【0024】
このコーティング組成物には、反応を促進するために、所望により硬化剤を含有させることができる。この硬化剤の例としては、アリルアミン、エチルアミンなどのアミン類、またルイス酸やルイス塩基を含む各種酸や塩基、例えば有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルトケイ酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸などを有する塩または金属塩、さらにアルミニウム、ジルコニウム、チタニウムを有する金属アルコキシドまたはこれらの金属キレート化合物などが挙げられる。
【0025】
また、該コーティング組成物には、塗布時における濡れ性を向上させ、硬化被膜の平滑性を向上させる目的で、所望により各種の有機溶剤や界面活性剤を含有させることもできる。さらに、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等も硬化被膜の物性に影響を与えない限り添加することも可能である。
【0026】
本発明の光学部材に用いられる光学基材としては、例えばメチルメタクリレ−ト単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタンなどのプラスチック基材を挙げることができる。
【0027】
これらの光学基材上に硬化被膜を形成させてなる本発明の光学部材の製造方法としては、例えば上述したコーティング組成物を、密着性向上のための前処理が施されていない光学基材上に塗布したのち、硬化処理する方法が用いられる。塗布方法としてはディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法など通常行われる方法が適用できるが、面精度の面からディッピング法、スピンコーティング法が特に望ましい。硬化処理は、通常熱風乾燥または活性エネルギー線照射によって行われ、硬化条件としては、70〜200℃の熱風中にて行うのがよく、特に好ましくは90〜150℃が望ましい。なお活性エネルギー線としては遠赤外線などがあり、熱による損傷を低く抑えることができる。
本発明においては、光学基材に密着性向上のための物理的または化学的な前処理を施さなくとも、該光学基材と硬化被膜との十分な密着性が得られる。
【0028】
なお、一般式 (III) で表される化合物またはその水和物は、コ−ティング組成物に硬化剤として用いることは知られていたが、基材と硬化被膜との密着性を向上させる機能は知られていなかった。本発明は、一般式 (III) で表される化合物またはその水和物とアルミニウムアセチルアセトネートとの混合物である硬化触媒を密着性向上剤として用いることによって、顕著な効果を見いだし、本発明を完成させたものである。
【0029】
本発明の光学部材においては、前記のようにして形成された硬化被膜の上に、所望により無機酸化物の蒸着膜からなる反射防止膜を設けることができる。この反射防止膜は、特に限定されず、従来より知られている無機酸化物の蒸着膜からなる単層、多層の反射防止膜を使用することができる。その反射防止膜の例としては、例えば、特開平2−262104号公報、特開昭56−116003号公報に記載された反射防止膜が挙げられる。
【0030】
また、本発明におけるコーティング組成物からなる硬化被膜は、高屈折率膜として反射膜に使用でき、更に防曇、フォトクロミック、防汚などの機能性を加えることにより、多機能膜として使用することができる。
【0031】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
なお、各例で得られた硬化被膜を有する光学部材は、以下に示す方法により、諸物性を測定した。
(a)密着性評価
硬化被膜に1.5mm間隔で100目クロスカットし、このクロスカットした所に粘着テープ(商品名:セロテープ ニチバン(株)製品)を強く貼り付けた後、粘着テープを急速に剥がした後の硬化被膜の剥離の有無を調べた。クロスハッチテストにより、100/100得られるものを○の評価、それ以外を×の評価とした。
【0033】
(b)耐擦傷性評価
スチールウール#0000で硬化被膜の表面を2kgの荷重を掛けて前後に20往復擦すり、傷のつきにくさを目視で判断した。判断基準は以下のとおりである。
◎………ほとんど傷がつかない
○………5本未満の傷が入る
△………5本以上10本未満の傷が入る
×………10本以上〜光学基板と同等の傷が入る
【0034】
(c)透明性評価
暗室内、蛍光灯下で硬化被膜に曇りがあるかどうかを目視で調べた。判断基準は以下のとおりである。
◎………曇りがみえない
○………曇りがほとんどみえない
△………少し見える
×………かなり見える
【0035】
(d)耐湿性試験
40℃、90%RH条件下、恒温恒湿試験機(ヤマトエンジニアリング社製)中に光学部材を週間放置した後、前述した(a)の評価を行った。
【0036】
製造例1 変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体メタノールゾルの調製
〈酸化第二スズゾルの調製〉
金属スズ粉末と塩酸水溶液と過酸化水素水溶液との反応により得られた比重1.420、pH0.40、撹拌直後の粘度32mPa・s、SnO2含量33.0重量%、HCl含量2.56重量%、電子顕微鏡による紡錘状コロイド粒子径10nm以下、BET法による粒子の比表面積120m2/g、この比表面積からの換算粒子径7.2nm、米国コールター社製N4装置による動的光散乱法粒子径107nm、淡黄色透明の酸化第二スズ水性ゾル1200gを水10800gに分散させた後、これにイソプロピルアミン4.8gを加え、次いで、この液を水酸基型陰イオン交換樹脂充填のカラムに通すことにより、アルカリ性の酸化第二スズ水性ゾル13440gを得た。このゾルは、安定であり、コロイド色を呈しているが、透明性が非常に高く、比重1.029、pH9.80、粘度1.4mPa・s、SnO2含量2.95重量%、イソプロピルアミン含量0.036重量%であった。
【0037】
(a)工程
試薬のオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2・8H2O)を水に溶解して調製したオキシ塩化ジルコニウム水溶液(ZrO2として2.0重量%)3043g(ZrO2として60.87g含有する。)に撹拌下に、室温で、上記調製したアルカリ性の酸化第二スズ水性ゾル10791g(SnO2として409.5g)を添加し、二時間撹拌を続行した。混合液はZrO2/SnO2重量比0.15、pH1.50でコロイド色を有する透明性の良好なゾルであった。
【0038】
(b)工程(酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾルの作製)
(a)工程で調製した混合液を撹拌下に、90℃で5時間加熱処理を行い、酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾル13834gを得た。このゾルはSnO2として2.96重量%、ZrO2として0.44重量%、SnO2+ZrO2として3.40重量%、pH1.45で、粒子径9.0nm、コロイド色を有するが、透明性は良好であった。
【0039】
(c)工程(酸化タングステン−酸化第二スズ−二酸化ケイ素複合体ゾルの作製)
3号珪そう(SiO2として29.0重量%含有する。)113gを水2353.7gに溶解し、ついでタングステン酸ナトリウムNa2WO4・2H2O(WO3として71重量%含有する。)33.3gおよびスズ酸ナトリウムNaSnO3・H2O(SnO2として55重量%含有する。)42.45gを溶解する。次いでこれを水素型陽イオン交換樹脂のカラムに通すことにより酸性の酸化タングステン−酸化第二スズ−二酸化ケイ素複合体ゾル(pH2.1、WO3として0.75重量%、SnO2として0.75重量%、SiO2として1.00重量%を含有し、WO3/SnO2重量比1.0、SiO2/SnO2重量比1.33であり、粒子径2.5nmであった。)3150gを得た。
【0040】
(d)工程
(c)工程で調製した酸化タングステン−酸化第二スズ−二酸化ケイ素複合体ゾル3150g(WO3+SnO2+SiO2として78.83gを含有する。)に撹拌下に、室温で(b)工程で調製した酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾル11592.6g(ZrO2+SnO2として394.1g含有する。)を20分間で添加し、30分間撹拌を続行した。得られた混合液は酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体コロイド(ZrO2+SnO2)と酸化タングステン−酸化第二スズ−二酸化ケイ素複合体コロイド(WO3+SnO2+SiO2)の比は(WO3+SnO2+SiO2)/(ZrO2+SnO2)重量比0.20、pH2.26、全金属酸化物3.2重量%であり、コロイド粒子のミクロ凝集による白濁傾向を示した。
【0041】
(e)工程(変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾルの作製)
(d)工程で得た混合液14742.6gにジイソブチルアミンを9.5g添加し、次いで水酸基型陰イオン交換樹脂(アンバーライト410)を充填したカラムに室温で通液、次いで80℃で1時間加熱熟成することにより変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体水性ゾル(希薄液)16288gを得た。このゾルは全金属酸化物2.90重量%、pH10.43で、コロイド色は呈するが透明性は良好であった。
【0042】
(e)工程で得られた変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体水性ゾル(希薄液)を、分画分子量5万の限外濾過膜の濾過装置により室温で濃縮し、高濃度の変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体水性ゾル2182gを得た。このゾルはpH8.71、全金属酸化物(ZrO2+SnO2+WO3+SiO2)18.3重量%で、安定であった。
【0043】
上記高濃度の変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体水性ゾル2182gに撹拌下に、室温で酒石酸4.0g、ジイソブチルアミン6.0g、消泡剤(サンノプコ社製SNディフォーマー483)1滴を加え、1時間撹拌した。このゾルを撹拌機付き反応フラスコで常圧下、メタノール20リットルを少しずつ加えながら水を留去することにより、水性ゾルの水をメタノールで置換した変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体メタノールゾル1171gを得た。このゾルは比重1.124、pH7.45(水との等重量混合物)、粘度2.3mPa・s、全金属酸化物(ZrO2+SnO2+WO3+SiO2)32.7重量%、水分0.47重量%、電子顕微鏡観察による粒子径は10〜15nmであった。
このゾルはコロイド色を呈し、透明性が高く、室温で3ケ月放置後も沈降物の生成、白濁、増粘などの異常は認められず安定であった。またこのゾルの乾燥物の屈折率は1.76であった。
【0044】
実施例1
(1)コーティング組成物の作製
(a) 変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウムケイ素複合体ゾルの調製
回転子を備えた反応器に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン15重量部と、製造例1で得られた変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体メタノールゾル49重量部を仕込み、4℃で3時間撹拌したのち、0.001モル/リットル濃度の塩酸3.5重量部を徐々に反応器中に滴下し、4℃で48時間撹拌して、変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウムケイ素複合体ゾルを調製した。
【0045】
(b) コーティング組成物の調整
上記(a)で得られた変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウムケイ素複合体ゾルに、プロピレングリコールモノメチルエーテル30重量部およびシリコーン系界面活性剤0.04重量部を添加混合し、4℃で3時間撹拌したのちアルミニウムアセチルアセトネート0.60重量部および過塩素酸アルミニウム(アルドリッチ社製)0.05重量部を添加混合した。4℃で3日間撹拌したのち、4℃で2日間静置することにより、コーティング組成物を調製した。
【0046】
(2)硬化被膜の形成および評価
アルカリ、酸、プラズマ処理等、従来公知の密着性向上処理の前処理を全く行わないプラスチックレンズ基材(HOYA(株)製、眼鏡用プラスチックレンズ、屈折率1.60)を、上記(b)の方法で作製したコーティング組成物中に5秒間浸漬させ、浸漬終了後引き上げ速度20cm/分で引き上げたプラスチックレンズを120℃で1時間加熱して硬化被膜を形成し、光学部材を作製した。
この光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例2
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムの代わりに、過塩素酸アルミニウム六水和物(添川化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムの代わりに、無水過塩素酸リチウム(和光純薬社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例4
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体メタノールゾルの代わりに、固形分換算で同じ量のコロイダルシリカを用い、かつ過塩素酸アルミニウムの代わりに、過塩素酸アルミニウム九水和物を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
【0050】
実施例5
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムの代わりに、過塩素酸アルミニウム九水和物を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
【0051】
比較例1
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムの代わりに、過塩素酸(和光純薬社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。この場合、十分な密着性を得ることができなかった。
【0052】
比較例2
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムを使用せずに、かつ硬化被膜を施す前にレンズ基材を10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で表面処理した以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
この場合、光学部材の物性は実施例と同様であるが、レンズ基材をアルカリにより前処理するために操作が煩雑である。
【0053】
比較例3
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。この場合、十分な密着性を得ることができなかった。
【0054】
比較例4
実施例1におけるコーティング組成物の調製において、過塩素酸アルミニウムを使用せずに、かつ硬化被膜を施す前にレンズ基材をプラズマ処理した以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。光学部材の物性および操作性についての評価結果を表1に示す。
この場合、光学部材の物性は実施例と同様であるが、レンズ基材をプラズマ処理するために、操作が煩雑である。
【0055】
【表1】
【0056】
以上の結果から分かるように、実施例1〜5の硬化被膜は、光学基材に前処理を施さなくとも、光学基材との密着性が良好である。これに対し、比較例2、4のものは、密着性を発現するために、光学基材に対して前処理が施されており、その結果、操作の煩雑さを招いている。また、比較例1、3の硬化被膜は、密着性を発現しなかった。
【0057】
【発明の効果】
本発明のコーティング組成物を用いた光学部材は、光学基材に対する密着性向上のための各種前処理を必要とせず、該光学基材との密着性に優れる硬化被膜を形成してなるものである。また、硬化触媒の添加により硬化被膜の物性低下が生じることはない。
Claims (8)
- (A)金属酸化物コロイド粒子と、(B)有機ケイ素化合物と、(C)硬化触媒とを含むコーティング組成物であって、
前記(B)成分の有機ケイ素化合物が、一般式(I)
R1 mSi(OR2)4-m (I)
(式中のR1は官能基を有する若しくは有しない炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜8の一価の炭化水素基または炭素数1〜8のアシル基、mは0、1または2を示し、R1が複数ある場合、複数のR1はたがいに同一でも異なっていてもよいし、複数のOR2はたがいに同一でも異なっていてもよい。)で表される化合物であり、
前記硬化触媒が、一般式(III)
M(ClO4)n (III)
(式中のMはアルミニウムまたはリチウム原子、nはアルミニウムまたはリチウム原子Mの価数を示す。)で表される化合物またはその水和物とアルミニウムアセチルアセトネートとの混合物であり、
前記(B)成分の有機ケイ素化合物100重量部当たり、(C)成分の一般式 (III) で表される化合物またはその水和物を0.01〜10重量部の割合で含むものであることを特徴とするコーティング組成物。 - コーティング組成物が硬化剤を含むものである請求項1に記載のコーティング組成物。
- (A)成分の金属酸化物コロイド粒子が、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化タングステンのコロイド粒子およびそれらの複合体のコロイド粒子の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のコーティング組成物。
- (B)成分の有機ケイ素化合物100重量部当たり、(A)成分の金属酸化物コロイド粒子を固形分として1〜500重量部の割合で含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
- 光学基材と、その上に設けられた硬化被膜とを有する光学部材において、上記硬化被膜が、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング組成物から得られたものであることを特徴とする硬化被膜を有する光学部材。
- 硬化被膜上に、さらに反射防止膜を有する請求項5に記載の硬化被膜を有する光学部材。
- 密着性向上のための前処理が施されていない光学基材上に、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング組成物を塗布したのち、硬化処理することを特徴とする硬化被膜を有する光学部材の製造方法。
- 硬化処理を、熱風加熱または活性エネルギー線照射により行う請求項7に記載の方法。
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