JP3881213B2 - プロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜およびその製造方法 - Google Patents

プロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロトンを伝導イオン種とするプロトン伝導材料、プロトン伝導性膜およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、プロトン伝導度が高く、高温条件下や低湿度下でもプロトン伝導度の低下が小さいプロトン伝導材料、プロトン伝導性膜およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体中をイオンが移動する物質は、電池をはじめとする電気化学素子を構成する材料として精力的に研究されており、現在Li+、Ag+、H+、F-など様々な伝導イオン種のイオン伝導体が見出されている。中でもプロトン(H+)を伝導イオン種とするものは、燃料電池、キャパシター、エレクトロクロミック表示素子など様々な電気化学素子への応用が期待されており、上記のような電気化学素子の電解質としてプロトン伝導体を用いることができる。
【0003】
プロトン伝導体は、室温付近でも高いプロトン伝導性を示すことが必要であり、このようなプロトン伝導体としては、ウラニルリン酸水和物あるいはモリブドリン酸水和物などの無機物、あるいはパーフルオロアルカン系高分子にパーフルオロスルホン酸基を含む側鎖のついた高分子イオン交換膜などの有機物が知られている。
【0004】
しかしながら、上記の無機プロトン伝導体は、結晶水中のプロトンが伝導に寄与しているため、高温下、特に、低湿度条件下では結晶水が脱離し、プロトン伝導性が著しく低下するという問題点がある。また無機プロトン伝導体は、成型性・加工性が低いという問題点もある。
一方、有機プロトン伝導体は、複雑な有機合成により作製するために、収率等の製造技術上の問題が多く高価な材料となってしまうという製造上の問題と、高温でプロトン伝導に機能する伝導膜中の水が脱離しやすく、高温、あるいは高温、低湿度でのプロトン伝導度が低下しやすいという物性上の問題点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであって、プロトン伝導性に優れ、高温条件下でもプロトン伝導性の低下が少ないプロトン伝導材料、プロトン伝導性膜およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るプロトン伝導材料は、平均粒径が10μm以下のホスホシリケートゲルとポリイミドとからなり、前記ポリイミドが、ポリイミドとホスホシリケートゲルとの合計量に対して、10〜75重量部の量で含まれることを特徴としている。
上記ホスホシリケートゲルは、例えば酸性縮合触媒を含む水とテトラアルコキシシランとの接触物に、リン酸を添加し混合してゾルとし、得られたゾルをゲル化させた後熱処理することにより得られる。
【0007】
本発明に係るプロトン伝導性膜は、平均粒径が10μm以下のホスホシリケートゲルとポリイミドとからなり、前記ポリイミドが、ポリイミドとホスホシリケートゲルとの合計量に対して、10〜75重量部の量で含まれることを特徴としている。
上記プロトン伝導性膜は、例えば可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸と、ホスホシリケートゲルとを含む懸濁液を基板に塗布した後、加熱することにより製造することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るプロトン伝導性材料、プロトン伝導性膜およびその製造方法について具体的に説明する。
プロトン伝導性材料
本発明に係るプロトン伝導性材料は、ホスホシリケートゲルとポリイミドとからなる。
【0009】
(ホスホシリケートゲル)
本発明で用いられるホスホシリケートゲルは、ゾル・ゲル法により製造することができる。
ホスホシリケートゲルをゾル・ゲル法により製造する方法としては、例えば、▲1▼酸性縮合触媒を含む水の存在下に、テトラアルコキシシランにリン酸を添加し混合して、加水分解および縮合を行わせる方法、▲2▼酸性縮合触媒を含む水とテトラアルコキシシランとの接触物に、リン酸を添加し混合してゾルとし、得られたゾルをゲル化させた後、熱処理する方法などがある。
【0010】
上記▲2▼の方法は、具体的には、酸性縮合触媒を含む水とテトラアルコキシシランとを接触させてテトラアルコキシシランを部分加水分解し、および必要に応じて部分縮合させた後、得られた部分加水分解物を含む溶液にリン酸を添加し混合して、さらに加水分解および縮合を行わせてゾルを調製する。このように複数の段階に分けて反応を行わせることにより、リン酸の縮合度を所定値に容易にコントロールすることができる。このようにして得られたゾルを乾燥させてゲル化した後所定の熱処理を行うことにより、ホスホシリケートゲルが得られる。
【0011】
ここで使用できる酸性縮合触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、ギ酸、硫酸などが用いられ、好ましくは塩酸、硝酸である。水の酸性度はpHで0〜4程度であることが好ましく、酸性度の調整は、塩酸で行うことが好ましい。
テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェニルシランなどが挙げられる。
【0012】
テトラアルコキシシランは有機溶媒に溶解または混合して用いることができ、有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類などが挙げられ、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類である。
用いられる水の量は、テトラアルコキシシラン1モルに対して0.1〜10モル、好ましくは1〜8モル、さらに好ましくは2〜5モル、最も好ましくは3〜5モルである。
【0013】
用いられるリン酸の量は、テトラアルコキシシラン(部分加水分解物を含む溶液に添加する場合は仕込量)1モルに対して通常0.05〜3モル、好ましくは0.1〜2モル、さらに好ましくは0.1〜1モル、最も好ましくは0.3〜1モルである。
テトラアルコキシシランにリン酸を添加した後、または酸性縮合触媒を含む水とテトラアルコキシシランとの接触物にリン酸を添加した後は、反応系を攪拌することが好ましい。
【0014】
攪拌終了後、得られた反応系を通常室温〜60℃で風乾しまたは真空乾燥し、粉末化した後、熱処理(焼成)するとホスホシリケートゲルが得られる。
熱処理温度は、通常100〜700℃、好ましくは100〜600℃、さらに好ましくは120〜400℃であり、熱処理時間は1〜10時間、好ましくは4〜6時間である。
【0015】
上記のようにして得られたホスホシリケートゲルは、プロトン伝導性材料として使用でき、通常、微粉末化して使用する。
微粉末化する際の粒径はプロトン伝導性材料の用途により任意に選択できるが、後述するプロトン伝導性膜に使用する場合には、平均粒径が通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。ホスホシリケートゲルの平均粒径が上記範囲にあると、ホスホシリケートゲルとポリイミドとを混合し、ホスホシリケートゲルをポリイミド中に分散させたときに分散性が向上する傾向がある。
【0016】
ホスホシリケートゲルを微粉化する方法としては、例えば乳鉢、ボールミルなどの機械的粉砕法が挙げられる。
ホスホシリケートゲルとしては、85%H3PO4溶液を標準とし、測定周波数が121.419MHz、回転数が約5000Hzの条件で得られた31P MAS−NMRスペクトルにおいて、0ppmと−11ppm付近、好ましくは0ppmと−11ppm付近と−44〜−52ppm付近にピークを有するホスホシリケートゲルが好ましい。
【0017】
このようなホスホシリケートゲルは、プロトン伝導性に優れ、高温低湿条件下でもプロトン伝導性が低下しないので、プロトン伝導性材料として好適に使用できる。そのメカニズムは明らかではないが、ホスホシリケートゲル中に上記ピークが存在することから、ゲルの骨格中にSi−O−P結合が多く存在し、このSi−O−P結合とゲル中の水和物が強く相互作用しているために上記効果を奏するものと推測される。
【0018】
また、ホスホシリケートゲルのゲル中には、リン酸が縮合して得られる上記Si−O−P結合と共に、縮合してないフリーのリン酸がゲル中に存在していることが好ましい。
例えば、リン酸の縮合度(リン原子に結合した架橋酸素原子の数)としては、31P MAS−NMRスペクトルにおいて、0ppmのピークが縮合度0、−11ppm付近のピークが縮合度1、−44〜−52ppm付近のピークが縮合度3〜4に対応する。
【0019】
(ポリイミド)
本発明で用いられるポリイミドまたはその前駆体であるポリアミック酸としては従来公知のモノマーの組み合わせが制限なく用いられるが、好ましくは後述するポリイミドまたはその前駆体であるポリアミック酸である。
(プロトン伝導性材料)
本発明に係るプロトン伝導材料は、上述したようなホスホシリケートゲルとポリイミドとからなる。
【0020】
ポリイミドは、ポリイミドとホスホシリケートゲルとの合計量に対して、通常10〜75重量部、好ましくは20〜70重量部の量で含まれる。ポリイミドの量が上記範囲内にあると、プロトン伝導材料は、柔軟性に優れたプロトン伝導性が得られる。
本発明に係るプロトン伝導体は、燃料電池、キャパシター、エレクトロクロミック表示素子など様々な電気化学素子への応用が可能であり、特に燃料電池用のの電解質として好適に用いることができる。
【0021】
プロトン伝導性膜
本発明に係るプロトン伝導性膜は、上記ホスホシリケートゲルと
ポリイミドとからなるプロトン伝導性材料からなる。
プロトン伝導性膜の膜厚は、通常、1〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜100μmである。
【0022】
プロトン伝導性膜の製法
上述したようなプロトン伝導性膜は、ポリイミドまたはポリアミック酸と、上記ホスホシリケートゲルを均一に分散させた懸濁分散液を基板に塗布した後、加熱することにより製造することができる。
(ポリイミドまたはポリアミック酸)
本発明で用いられるポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の反応により得られる。
【0023】
テトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、テトラシクロ[6.2.1.1.02,7]ドデカ-4,5,9,10-テトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物などの脂肪族および脂環族テトラカルボン酸二無水物;ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4'-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4'-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4'-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3',4,4'-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、4,4'-オキシジフタル酸無水物、p-フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4'-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4'-ジフェニルメタン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)フルオレン二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらのうちではブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、テトラシクロ[6.2.1.1.02,7]ドデカ-4,5,9,10-テトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0024】
ジアミン化合物としては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ジアミノベンズアニリド、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、3,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4'-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)-10-ヒドロアントラセン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2-フェノキシ-4-アミノフェノキシフェニル)フルオレン、4,4'-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2',5,5'-テトラクロロ-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ジクロロ-4,4'-ジアミノ-5,5'-ジメトキシビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ビストリフルオロメチルベンチジンなどの芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン、o-トリジンスルホンなどのヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;メタキシリレンジアミン、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または脂環族ジアミンが挙げられる。これらのうち、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0025】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の反応により得られる。かかる反応は有機溶媒中で、通常0〜150℃、好ましくは0〜100℃の温度で行われる。
反応に用いられる有機溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン化合物、および反応で生成するポリアミック酸を溶解しうるものであれば特に制限はない。例えば、γ-ブチロラクトン,N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン系極性溶媒;m-クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒を挙げることができる。有機溶媒の使用量は、通常、テトラカルボン酸二無水物および全アミン化合物の総量が、反応溶液の全量に対して0.1〜30重量%になるようにするのが好ましい。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の使用割合は、高分子量体を得るためにジアミン化合物中のアミノ基1当量に対してテトラカルボン酸二無水物の酸無水物基を0.8〜1.2当量とするのが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1当量である。
本発明で用いられる可溶性ポリイミドは、上記したポリアミック酸を、加熱して、または脱水剤およびイミド化触媒の存在下でイミド化することにより得られる。
【0027】
加熱によりイミド化する場合の反応温度は、通常60〜200℃、好ましくは100〜170℃である。反応温度が60℃未満では反応の進行が遅れ、また200℃を越えると可溶性ポリイミドの分子量が大きく低下することがある。
また、脱水剤およびイミド化触媒の存在下でイミド化する場合の反応は、前記した有機溶媒中で行うことができる。反応温度は、通常0〜180℃、好ましくは60〜150℃である。
【0028】
脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。
また、イミド化触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。脱水剤の使用量は、テトラカルボン酸二無水物の繰り返し単位1モルに対して1.6〜20モルとするのが好ましい。また、イミド化触媒の使用量は使用する脱水剤1モルに対し、0.5〜10モルとするのが好ましい。
【0029】
このようにして得られるポリアミック酸および/または可溶性ポリイミドの固有粘度[ηinh=(ln ηrel/C、C=0.5g/dl、30℃、N-メチル-2-ピロリドン中、以下同条件にて固有粘度を測定)は、通常、0.05〜10dl/g、好ましくは0.05〜5dl/gである。
なお、前記有機溶媒には、貧溶媒であるアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類を生成する重合体が析出しない程度に併用することができる。かかる貧溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、ブチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。
【0030】
可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
(成膜方法)
プロトン伝導性膜を形成するには、まず可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸と、ホスホシリケートゲルとを含む懸濁分散液を調製する。
【0031】
具体的には、例えば可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸の溶液に、ホスホシリケートゲルを添加し、混合攪拌して均質な懸濁分散液を調製する。このとき超音波を照射してホスホシリケートゲルの分散を促進させてもよい。
ホスホシリケートゲルは、平均粒径が通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下のものが用いられる。ホスホシリケートゲルの平均粒径が上記範囲にあると、ホスホシリケートゲルの分散性が向上する傾向がある。
【0032】
可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸の溶液に用いる溶媒としては、例えばγ-ブチロラクトン,N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン系極性溶媒;m-クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒などが挙げられる。
【0033】
可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸は、可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸と、ホスホシリケートゲルとの合計量に対して、通常、5〜80重量部、好ましくは10〜75重量部、さらに好ましくは20〜70重量部となるような量で用いられる。
次に得られた懸濁分散液を基板に塗布し、塗膜を形成する。ここで用いることができる基板としてはガラス、セラミックス、金属などが挙げられ、塗布方法としてはスピンコート、ディッピング、ローラーブレード、スプレーなど従来公知の成膜法が挙げられる。ここで、形成する塗膜の厚さは、製造するプロトン伝導性膜の膜厚により適宜選択される。次いで、形成された塗膜を加熱するが、このときの加熱温度は、通常100〜300℃、好ましくは120〜200℃であり、加熱時間は、通常10分〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0034】
また、膜の製造する際には、塗膜を減圧状態で加熱することができ、好ましくは0.5torr以下の減圧状態で加熱することができる。このような減圧状態で塗膜を加熱(反応)することにより、酸素の影響を排して、得られる膜の誘電率をより低い値とすることができる。なお、減圧状態は、一例として真空オーブンを用いて達成することができる。
【0035】
また、膜を製造する際には、塗膜を不活性ガス中で加熱することができ、この不活性ガスとしては窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、好ましくは窒素(窒素雰囲気を含む)である。
【0036】
【実施例】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。
【0037】
【実施例1】
出発原料としてテトラエトキシシラン(Si(OC25)4:TEOS)とオルトリン酸(H3PO4)を用いた。TEOSのエタノール(EtOH)溶液に希塩酸を加え、室温で10分間攪拌を行い加水分解を行った。ここで、TEOS:EtOH:H2O:HClのモル比は、1:8:4:0.01とした。
【0038】
次に、オルトリン酸をTEOSの仕込み量に対して、モル比(H3PO4:TEOS)で1:1になるように添加し、さらに3時間、密封した状態で攪拌しながら加水分解・縮重合を行った。ゾル調製後、ゲル化が起こるまで密封したまま50℃で保持し、ゲル化後は、開封して50℃で約1週間保持することによりバルク状のドライゲル(ホスホシリケートゲル)を得た。
【0039】
得られたホスホシリケートゲルは、めのう乳鉢で粉砕し、150℃で5時間、空気中で熱処理を行った。さらに、細かく粉砕するために、遊星型ボールミルを用いてめのうポットにホスホシリケートゲル粉末1gと、めのうボール(直径10mm)10個を入れ370rpmで30分程度メカニカルミリングを行った。これにより、平均粒径が1μm以下のホスホシリケートゲル粉末が得られた。
【0040】
複合化を行うポリアミック酸(ポリイミド前駆体)には、ユニチカ(株)製ポリイミドコーティング剤「Uイミド」ワニスCタイプ(樹脂成分30重量%、粘度40ポイズ、比重1.105、溶媒ジメチルアセトアミド、ガラス転移温度285℃、熱分解温度580℃)を用いた。上記ポリイミド前駆体のジメチルアセトアミド溶液に、所定量ホスホシリケートゲル粉末を添加し、室温で30分間攪拌し、さらに超音波を照射しながら30分間攪拌し、均質なスラリーを得た。
【0041】
スラリーをガラス基板上に展開し、スペーサ(アルミホイル)を介して、上からもう一枚のガラス基板を押合して、スキージのように移動させることにより均一厚みに展開した。得られたホスホシリケートゲル/ポリイミド複合体は、下面のガラス基板と一緒に、150℃のオーブンに投入し、3時間保持した。次に、室温に戻した後、ガラス基板からホスホシリケートゲル/ポリイミド複合体シートを剥離して、独立膜を得た。
【0042】
ホスホシリケートゲルの含量は、70重量%まで柔軟で曲げ可能なシートが得られた。80重量%のものは、柔軟性や光沢は乏しくなった。また、独立膜は膜厚30〜50μmのものが得られ、膜厚は、スペーサ厚を選択することにより可変であった。
また、得られたホスホシリケートゲル/ポリイミド複合体シートについてプロトン伝導度の安定性を評価した結果を表1に示す。
【0043】
85℃、60%RHおよび30℃、60%RHの条件下で、0分、60分、90分、120分、180分経過時のプロトン伝導度を測定し、プロトン伝導性の安定性を評価した。
プロトン伝導度はシートを白金電極に挟持し、導電率を交流法により測定し、評価した。
【0044】
【表1】
Figure 0003881213
【0045】
【実施例2】
実施例1で用いたポリアミック酸に代えて、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸2無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルから得られるポリイミド溶液(樹脂成分:20重量%、溶媒:ジメチルアセトアミド)を用いて、ホスホシリケートゲル70重量%のシートを同様にして55μmのシートを作製した。得られたシートは柔軟であった。
【0046】
得られたシートについて、実施例1と同様の条件でプロトン伝導度を測定してプロトン伝導性の経時変化を測定した。
【0047】
【表2】
Figure 0003881213
【0048】
【発明の効果】
本発明に係るプロトン伝導性材料およびプロトン伝導性膜は、プロトン伝導性に優れ、高温、乾燥条件下においてもプロトン伝導性の低下は小さく、安定している。また、本発明に係るプロトン伝導性膜の製造方法は、簡便であり、性能の優れたプロトン伝導性膜を効率的に製造することができる。また、本発明の方法により得られるプロトン伝導性材料およびプロトン伝導性膜は、燃料電池、キャパシター、エレクトロクロミック表示素子など様々な電気化学素子の電解質として有用である。

Claims (4)

  1. 平均粒径が10μm以下のホスホシリケートゲルとポリイミドとからなり、前記ポリイミドが、ポリイミドとホスホシリケートゲルとの合計量に対して、10〜75重量部の量で含まれることを特徴とするプロトン伝導材料。
  2. 上記ホスホシリケートゲルが、酸性縮合触媒を含む水とテトラアルコキシシランとの接触物に、リン酸を添加し混合してゾルとし、得られたゾルをゲル化させた後熱処理することにより得られることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導材料。
  3. 平均粒径が10μm以下のホスホシリケートゲルとポリイミドとからなり、前記ポリイミドが、ポリイミドとホスホシリケートゲルとの合計量に対して、10〜75重量部の量で含まれることを特徴とするプロトン伝導性膜。
  4. 可溶性ポリイミドまたはポリアミック酸と、ホスホシリケートゲルとを含む懸濁液を基板に塗布した後、加熱することを特徴とするプロトン伝導性膜の製造方法。
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