JP3880749B2 - 義歯安定剤組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は優れた固定力有する義歯安定剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
義歯安定剤は、加齢に伴う顎堤の吸収や変形などにより生じた不適合義歯床を、暫間的に口蓋粘膜に固定し、咬合、咀嚼、会話などの機能を補う歯科用製剤である。
現在市販されている義歯安定剤は、義歯床を粘膜表面に固定するメカニズムの違いから「密着タイプ」と「粘着タイプ」の2種類に大別される。
密着タイプの義歯安定剤は、義歯床と口腔粘膜表面との間を埋めて空気を取り除き、義歯床を粘膜に真空吸着させるものであり、我が国においては、このタイプが義歯安定剤の主流となっている。
この密着タイプは、ゴム状でクッション性を有するため、咀嚼及び咬合時における義歯床の歯茎や粘膜に対する刺激あるいは疼痛を緩和できる利点があるが、義歯安定剤を使用する義歯床の表面が唾液等水分でぬれている場合は、その水分が分離剤として働くため充分な固定力が得られない。そのため、殆どの使用説明書には「義歯床表面の水分のふき取り」が指示されている。逆に、粘膜表面は唾液等水分でぬれていないと義歯安定剤の吸着力を発揮できない。
一方、粘着タイプは、水膨潤性の粘着性高分子を主剤として、義歯床と口腔粘膜表面の間で唾液を吸収して粘着性を発揮させることにより、義歯を粘膜表面に粘り付けるものであり、粉末状、ペースト状、液状、シート状など種々の剤型で提供されている。一般に、粘着タイプは密着タイプより固定力に優れる。
この粘着タイプは、その主剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの水膨潤性高分子が唾液等水分により膨潤後粘着力を発生し、その粘着力で強力な固定力を発揮するものであるため、水分は不可欠である。しかし、室内の乾燥などにより、装着前の義歯床表面水分が実質的に少なくなると、装着後に固定力が発揮できない欠点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、義歯床表面の水分の有無にかかわらず固定力に優れる義歯安定剤組成物を提供することをその課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、疎水性ゴム状物質(A)と水膨潤性高分子物質(B)とを主基剤とする義歯安定剤組成物であって、該疎水性ゴム状物質(A)は水分が実質的に存在しない義歯床表面に対して粘着性を有し、一方、該水膨潤性高分子物質(B)は実質的に水分が存在する義歯床表面に対して粘着性を有することを特徴とする義歯安定剤組成物が提供される。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の義歯安定剤組成物は、義歯床の固定化において、実質的に水分が存在しない(明らかに目では水分を観察できない程度に乾いている状態)義歯床表面及び口腔粘膜表面に義歯安定剤を使用した場合は、その義歯は疎水性ゴム状物質(A)による粘着力により固定され、実質的に水分が存在する(明らかに目で水分を観察できる程度に濡れている状態)義歯床表面及び口腔粘膜表面に使用した場合は、その義歯は含有する水膨潤性高分子物質が義歯床表面の水分により膨潤し、疎水性ゴム状物質を覆い、粘着力が発生し、その粘着力により固定される。
【0006】
疎水性ゴム状物質(A)としては、従来公知の各種のものが用いられる。このようなものには、炭化水素系のゴム状物質、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、ブチルゴム、ポリブテン、ポリイソブチレン等のゴム状物質であって、架橋もしくは非架橋のゴム状物質を挙げることができる。その他のゴム状物質としては、アクリルゴム等が包含される。これらのうちでポリイソブチレンとポリブテンとが特に好ましいゴム状物質である。
なお、ポリイソブチレンとポリブテンについては、食品添加物公定書に記載される平均分子量で表して、ポリイソブチレンの場合は、平均分子量8700〜200000のもの、好ましくは8700〜60000のものがよい。1種又は平均分子量の異なる2種類以上のポリイソブチレンを組み合わせて用いても良い。ポリブテンの場合は、平均分子量500〜8700のもの、好ましくは3000〜5500のものがよい。1種又は平均分子量の異なる2種類以上のポリブテンを組み合わせて用いても良い。
また、ポリイソブチレンとポリブテンの2種類を組み合わせてもよい。その場合、使用するポリイソブチレンは平均分子量8700〜200000のもの、好ましくは8700〜60000のものがよく、ポリブテンは平均分子量500〜8700のもの、好ましくは500〜3000のものがよい。
【0007】
なお、本発明のゴム状物質のなかにはシリコン系ゴム状物質及び含フッ素炭化水素系ゴム状物質は含まれない。これらは剥離力が強いゴム状物質であって、主基材として使用すると期待する粘着・付着力は得られず、逆に剥離作用のためはずれ易く、充分な固定性が得られないため義歯安定剤として適さない。また、ポリ酢酸ビニル系ゴム状物質も本発明のゴム状物質には含まれない。ポリ酢酸ビニルと水膨潤性高分子からなる組成物では、実質的に義歯床表面に水分がないとCo−Cr合金等の金属床には全く付着しないため固定できず、また樹脂床(アクリル、ポリサルフォン・ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスティック)では付着性が悪く充分な固定力が得られないため材料として適さない。
【0008】
本発明で用いる疎水性ゴム状物質の配合量は、組成物中、15〜70重量%であり、好ましくは30〜60重量%である。
15重量%より少ない場合は、実質的に義歯床表面の水分がない場合に固定力が不足し、70重量%より多い場合は、実質的に水分がある場合に固定力が不足する。
【0009】
本発明で用いる水膨潤性高分子物質(B)としては、従来公知の各種のものが用いられる。このようなものには、例えば、カラヤガム、アラビアガム、トラガカントガム等の天然性高分子物質や、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸の金属塩、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アルキルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体の塩及び酸等の合成又は半合成高分子が包含される。また、これらのものは架橋したものでも非架橋のものでも良い。特に好ましいものは、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、アルキルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体の塩である。
【0010】
水膨潤性高分子物質(B)の配合量は、組成物中、5〜40重量%、特には15〜35重量%が好ましい。5重量%未満では、実質的に水分が存在する場合に、水膨潤性高分子物質が少ないため粘着力が不足し、固定力が充分でなくなる。一方、40重量%を超えると、実質的に水分が存在しない場合には、付着に関与する義歯安定剤表面のゴム状物質の実質量が不足するため、疎水性ゴム状物質の粘着力が不足し固定力が充分に得られなくなる。
【0011】
本発明の義歯安定剤組成物は、前述の成分以外に、補助成分として、慣用のもの、例えば、高級アルコール、脂肪酸アルキルエステル、界面活性剤、水不溶性粉体、多価アルコール、天然ワックス、パラフィン類、ポリプロピレングリコール等を配合することができる。
【0012】
前記高級アルコールとしては、炭素数8〜24、好ましくは12〜18のもの、例えば、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、オクチルデカノール、デシルテトラデカノール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミスチルアルコール、セチルアルコール、アラキルアルコール等であり、好ましくはオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコールである。高級アルコールの主な配合目的は、疎水性ゴム状物質(A)の軟化剤あるいは義歯床からの剥離促進剤であり、その効果とにおいの点から選択するとオレイルアルコールが最も好ましい。
【0013】
前記脂肪酸アルキルエステルにおいて、その脂肪酸の鎖長は炭素数5〜20、好ましくは炭素数9〜18である。鎖長が炭素数4以下の場合には粘膜に刺激を感じ、炭素数21以上の場合にはブリードして義歯床を汚染する。また、そのアルキル部分は鎖長が炭素数1〜20である1価もしくは多価のアルコール由来の飽和又は不飽和アルキル基であり、好ましくは炭素数3〜18の飽和又は不飽和のアルキル基である。具体的には、ペンタン酸イソプロピル、ペンタン酸ステアリル、オクタン酸イソセチル、2−エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸メチル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸ヘキシル、イソパルミチン酸イソプロピル、イソパルミチン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸エイコシル、パルミチン酸イソプロピル、エイコサン酸ステアリル、オクタン酸セチル、オクタン酸セトステアリル、トリオクタン酸グリセリル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸ブチル、イソステアリン酸イソセチル、トリイソステアリン酸グリセリル、オレイン酸エチル、トリオクタン酸グリセリル、トリアセチルグリセリン、ジアセチルグリセリン、エチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0014】
高級アルコールと脂肪酸アルキルエステルは単体でも組合せでも使用でき、その配合量は5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0015】
前記界面活性剤としては、従来公知の各種のもの、例えば、ステアリン酸のモノ〜トリグリセライド、オレイン酸のモノ〜トリグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、アセチルグリセリルモノステアレート等のアセチル化グリセリルモノステアレート、ソルビタンモノステアレート等が挙げられ、好ましくは、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、ショ糖脂肪酸エステルである。本発明では、親油型界面活性剤で、HLBが10以下、好ましくはHLBが3〜5のものの使用がよい。その配合量は、0.1〜5重量%であり、好ましくは0.2〜3重量%である。
【0016】
本発明で使用されるその他成分として、剥離剤及び固さ調整剤等として、水不溶性粉体、多価アルコール、天然ワックス、パラフィン類等を加えても良い。
水不溶性粉体としては、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、シリカ、ゼオライト、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチックパウダー、セルロースパウダー等である。
多価アルコールとしては、2価及び3価のものが用いられ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等である。
天然ワックスとしては、ミツロウ、木ロウ、キャンデリラワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンロウ、カルナウバロウ、ライスワックス等が挙げられる。
パラフィン類としては、常温で液体もしくは固体のものが用いられ、その炭素数は5〜25である。
【0017】
また、本発明の効果を著しく阻害しない限り、シリコン系高分子、フッ素変性高分子等を剥離剤として配合することができる。
さらに、本発明の効果を阻害しない限り、義歯安定剤のクッション性改良のためにポリ酢酸ビニルを少量配合することができる。
【0018】
本発明の義歯安定剤組成物は、必要に応じて前述の成分以外に、例えば、無毒性油脂、乳化剤、湿潤剤、pH調整剤、防腐剤、色素または顔料、香料等を適宜加え、ゴム状、ペースト(クリーム)状、シート状などの剤型に加工することができる。この場合、無毒性油脂としては植物性硬化油等が挙げられる。
本発明の義歯安定剤組成物は、公知の義歯安定剤と同様にして製造することができ、従来のものと同様にして使用できる。
【0019】
【発明の効果】
本発明の組成物は、その成分とする疎水性ゴム状物質(A)の粘着力による固定性と水膨潤性高分子物質(B)の水分膨潤による粘着力による固定性により、義歯表面の水分の有無及び口腔内の水分の有無に関係なく、粘着力を発揮し、十分な固定力を得ることができる。さらに義歯床の種類(アクリル床、ポリサルフォン・ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスティック床、Co-Cr合金等の金属床)に関係なく粘着力を発揮し、十分な固定力を得ることができる。その他の効果として、本発明の義歯安定剤組成物は、疎水性ゴム状物質(A)の使用により適度な固さを有しており、義歯床と粘膜との間隙量の大小にかかわらず適応できるため、間隙量が少ない場合に向いている粘着タイプと多い場合に向いている密着タイプの2種類が持つ適応範囲を1種類でカバーすることができる。又、本発明の義歯安定剤組成物は使用終了時の剥離・撤去が容易で、剥離・撤去後の洗浄も一般の洗浄法(義歯洗浄剤、歯磨剤、歯ブラシ等)で行うことができる。
以上、本発明によれば、従来の2タイプ(密着・粘着タイプ)の長所を併せ持つ義歯安定剤組成物を提供することができる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。本発明は下記実施例に制限されるものではない。各例の配合量%はいずれも重量%である。
【0021】
実施例1
【0022】
実施例2
【0023】
実施例3
【0024】
比較例1
【0025】
比較例2
【0026】
次に、前記実施例及び比較例で得た組成物について、その義歯安定剤としての性能を以下のようにして評価した。
(評価方法)
(1)固着性(粘着力)
直径22mm、深さ0.5mmの穴が形成された厚さ6mmのアクリル樹脂板を用意する。その穴に、各義歯安定剤組成物を充填する。
レオメーター(サン科学製)のプランジャーに直径15mm、(面積1.8cm2)、厚さ3mmの歯科用アクリル樹脂、歯科用エンジニアリングプラスチック(歯科用ポリカーボネート樹脂)、歯科用金属(Co−Cr合金)の各義歯床用材料を♯2000の耐水研磨紙で研磨後、両面テープにて接着する。各プランジャーを義歯安定剤組成物に1kgfの荷重で30秒加圧後、直ちに引張る。その時の最大引張り強度を測定した。
▲1▼プランジャーに取りつけた各義歯床用材料の表面状態
乾燥:ドライヤーで表面を乾燥。
湿潤:噴霧器にて水を0.02g/1.8cm2になるように噴霧し、水分を付着させた。水分量0.02g/1.8cm2は市販ティッシュペーパーで義歯床表面に過剰に付着した水を一度拭きしたときに残る水分量の約20倍に相当する。
▲2▼評価基準(引張り強度)
◎:0.7kg以上
○:0.5〜0.6kg
△:0.3〜0.4kg
×:0.3kg以下
【0027】
【表1】
Claims (4)
- シリコン系ゴム状物質、含フッ素炭化水素系ゴム状物質及びポリ酢酸ビニル系ゴム状物質以外の疎水性ゴム状物質(A)とカルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド及びアルキルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体の塩から選ばれる少なくとも2種を組み合わせてなる水膨潤性高分子物質(B)とを主基剤とする義歯安定剤組成物であって、該疎水性ゴム状物質(A)は水分が実質的に存在しない義歯床表面に対して粘着性を有し、一方、該水膨潤性高分子物質(B)は実質的に水分が存在する義歯床表面に対して粘着性を有することを特徴とする義歯安定剤組成物。
- 該疎水性ゴム状物質(A)の含有量が15〜70重量%で該水膨潤性高分子物質(B)の含有量が5〜40重量%である請求項1の義歯安定剤組成物。
- 疎水性ゴム状物質(A)がポリイソブチレンである請求項1又は2記載の義歯安定剤組成物。
- 水膨潤性高分子物質( B )が、カルボキシメチルセルロースとポリエチレンオキシドの組み合わせ、又はカルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド及びアルキルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体の塩の組み合わせである請求項1〜3のいずれかに記載の義歯安定剤組成物。
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