JP3879567B2 - 冷延鋼板の局部ステイン抑制方法及び洗浄又は水冷設備 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼鈍後の鋼板を洗浄設備又は水冷設備に通板するときに発生する局部ステインを抑制する方法、及びその実施に好適な洗浄設備又は水冷設備に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
冷延鋼板は、自動車、家電製品、鋼製家具、装飾品など、多くの用途に使用されている。特に近年は、これらの商品価値および製造歩留を高めるために、冷延鋼板の表面品質の厳格化がますます進んでいる。このため、冷延鋼板の表面性状改善の要求は厳しく、押疵欠陥、スリ疵欠陥などの機械的に発生する欠陥の管理は勿論のこと、鋼板表面の変色、ステインなどのような腐食欠陥に関しても厳しい管理が要求されている。
【0003】
鋼板表面に発生する変色やステインの防止対策として、従来より様々な検討が行われている。特に、熱延鋼板の酸洗工程におけるリンス槽で発生する変色は以前から大きな問題となっており、リンス水のスプレー方法の工夫や変色防止剤などの薬液を用いる方法など、様々な提案がなされている。
【0004】
一方、冷間圧延後の鋼板の電解洗浄設備においても、ステインが問題となる。その対策として、特公平2−41600号公報には、冷延鋼帯の電解洗浄ラインにおいて、ライン停止時に温水槽内の浸漬ロールを上昇させて鋼帯を液面より引き上げ、鋼帯に防錆剤を塗布し、さらに排気ブロアーにより温水槽内の水蒸気を吸引排気させることにより鋼帯の変色を防止する方法が記載されている。また、特開平9−296284号公報には、冷間圧延後の鋼帯の洗浄設備のリンス槽内において、鋼帯の搬送速度の減速時又は停止時に、有機カルボン酸化合物及び有機アミン化合物含有水溶液を、鋼帯の表面に散布、塗布する鋼帯の防錆方法が記載されている。
【0005】
しかし、従来の酸洗工程や電解洗浄工程において問題としている変色やステインは、特にライン停止時又は減速時において、鋼板表面全面に発生するような変色やステインである。したがって、前記の先行文献を含め、これまでに提案されている対策も、鋼板表面全面に発生する変色やステインを防止するためのものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
冷延鋼板の製造において、焼鈍後の鋼板を洗浄設備又は水冷設備へ通板する場合がある。例えば、連続焼鈍ラインの焼鈍炉の出側に水洗設備が設けられている場合などである。従来、このような製造ラインで製造した鋼板表面に、局所的にステインが発生している場合があった。これらの局所的なステインの形状は、ヘゲ等の線状欠陥に類似しているが、水洗設備入側の鋼板表面では確認できない事が多いものであった。
【0007】
本発明者等は、上記のような局所的なステインの発生原因について種々検討を重ねた。その結果、このような局所的なステインは、通常では目立たない微小な凹凸欠陥部(軽度のヘゲ等の線状疵やスリ疵)と水洗設備内における水中の溶存酸素との間で局部電池が形成され、凹凸欠陥部が局所的に腐食されて、ステインとして明瞭に浮き立っているものと推測した。例えば連続焼鈍ラインの焼鈍炉直後に洗浄工程又は水冷工程を有する場合、炉出側の鋼板表面温度は約100℃と高温であり、鋼板が水槽内に浸漬されると水中における鋼板界面の温度が上昇する。したがって、鋼板表面の腐食反応に対する活性度が高くなり、腐食が進行する。さらにこれらの工程に水槽を複数有する場合には、水槽間において水槽から引き上げられた鋼板は空気中の酸素と接触し、腐食反応はより促進される。一方、ステインは電気化学的な腐食により発生するものであり、特にヘゲのような凹凸欠陥部には水中の溶存酸素の影響で局部電池が形成されやすく、局部的な腐食(ステインの発生)が生じやすい。したがって、前述のような腐食反応が起こりやすい環境において、凹凸欠陥部を有する鋼板を通板すると、正常部ではステインが発生しないような条件であっても、凹凸欠陥部に局所的なステインが発生するものと考えられる。
【0008】
従来から提案されている変色やステイン防止対策は、前述したように、ライン停止時又は減速時において鋼板表面の全面に発生するような程度の悪い変色やステインを防止するための方法であった。したがって、本発明が課題とする局所的な腐食まで十分に抑制できるものではない。さらに、焼鈍前の鋼板に発生した変色やステインであれば、その後の焼鈍炉内における還元反応により変色やステインを解消することもできるが、本発明は焼鈍後の鋼板に発生するステインを問題としており、より一層の厳しい管理が求められる。また、従来の薬剤を使用する方法ではその設備の設置や管理にコストがかかるだけでなく、本発明が対象とする焼鈍後の鋼板へ薬剤を使用することは、例えば食料品用途や化成処理用途に対しては品質上の問題から望ましくない場合がある。
【0009】
本発明の目的は、焼鈍後の鋼板を洗浄設備又は水洗設備へ通板する際に、特殊な薬剤処理を施すことなく、洗浄設備や水洗設備内で鋼板表面に発生する局所的なステインを抑制する方法を提供すること、またそのような方法の実施に好適な洗浄設備又は水洗設備を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前述のような局部腐食について検討を行うため、まず実験室においてサンプルによる局部腐食の再現試験を行った。試験は、表面に凹凸欠陥として微小な線状疵を有する鋼板サンプルを用意し、前記サンプルを一定温度で管理された水槽内へ一定時間浸漬した後に引き上げて大気中に放置し、その直後の表面性状を評価した。なお、腐食の程度の定量的な評価として、実験前後での凹凸欠陥部でのハンターの色差計における明度指数差を用いた。この明度指数差が大きいほど、凹凸欠陥部の色調が変化した事を示し、すなわち腐食されたことを意味する。図2は、上記の実験により得られたサンプルの大気放置時間と実験前後での凹凸欠陥部の明度指数差の関係を示したものであるが、本実験により以下のことが明らかとなった。
▲1▼水槽内の水温が高い場合に腐食が発生しやすい。
▲2▼水槽から引き上げた直後の放置時間(大気との接触時間)が長いほど腐食は進行する。
▲3▼腐食反応は、線状疵のような凹凸欠陥部に局部腐食として発生しやすい。
【0011】
本発明者等は、以上のような実験結果により得られた知見に基づき、鋼板の洗浄設備や水冷設備において局部腐食の発生を抑制する方法についてさらに検討を重ね、本発明を完成させた。その特徴とするところは、以下の通りである。
【0012】
(1)焼鈍後に鋼板表面温度が約100℃の鋼板を洗浄設備又は水冷設備の複数の水槽を通板させる際、前記複数の水槽間の大気に触れる領域を通板する鋼板表面に、水温30℃以下の水を噴射することを特徴とする冷延鋼板の局部ステイン抑制方法。
【0013】
(2)前記複数の水槽間の大気に触れる領域を通板する時間を15秒以下とすることを特徴とする上記(1)に記載の冷延鋼板の局部ステイン抑制方法
【0014】
(3)洗浄設備又は水冷設備の水槽内の水温を30℃以下とすることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の冷延鋼板の局部ステイン抑制方法
【0015】
(4)連続焼鈍炉出側に設けられた焼鈍後の鋼板を通板する鋼板の洗浄設備又は水冷設備であって、鋼板表面温度が約100℃の鋼板を浸漬する複数の水槽と、該水槽間の大気に触れる領域を通板する鋼板表面に水を噴射する水噴射装置と、前記水槽及び水噴射装置に供給する水を冷却する冷却装置とを備えたことを特徴とする冷延鋼板の洗浄設備又は水冷設備。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の一実施形態である洗浄設備を模式的に示す縦断面図である。本図において、洗浄設備は連続焼鈍炉1の出側に設けられており、洗浄設備には複数の水槽2と、各水槽2間の鋼板通板部に面して設けられ、ライン上流側の水槽2を出た鋼板の両面に冷却水を噴射する水噴射装置4a,4bと、前記水洗槽2および水噴射装置4a,4bへ供給する水を冷却する冷却設備(冷却塔3)とを備えている。また、各水槽間の上方及び各水槽2の内部には、搬送ロール6a,6bが設けられている。
【0018】
前記複数の水槽2は、通板ライン方向で隣接して設けられている。前記水噴射装置4a,4bは、水槽2間の上方に設けられる各搬送ロール6aの上方位置及び下方位置に設置される。このうち上部の水噴射装置4aは各搬送ロール6aを通過する鋼板部分の外側面に冷却水を噴射し、また下部の水噴射装置4bは搬送ロール6aの入側及び出側の鋼板部分の内側面に冷却水を噴射するようになっている。なお、水噴射装置4a,4bの設置位置は図1に示した位置に限定されるものではないが、噴射された冷却水や噴射された後に鋼板面を伝って流れ落ちる冷却水により、鋼板両面を常に水膜で覆うことができる位置に設置する。特に、搬送ロール6a出側の内側面は、搬送ロール6aにより鋼板面の水が絞られているため、水噴射装置4bによる冷却水の噴射が必須である。
【0019】
連続焼鈍炉1から出た鋼板Sは、水槽2へ浸漬され、搬送ロール6bに巻き掛けられて上方へ方向転換し、水槽2から引き上げられた後、水槽2間上方の搬送ロール6aに巻き掛けられて下方へ方向転換し、次の水槽2へ浸漬される。このようにして、鋼板Sは複数の水槽2へ次々と順に浸漬される。ここで、各水槽2の間にあって水面上に出ている鋼板Sが大気に触れる領域においては、水噴射装置4a,4bにより鋼板Sの両面へ水を噴射し、鋼板表面が直接大気には触れないようにする。そして、全ての水槽2を通った鋼板Sは、洗浄設備の出側に設けられた鋼板乾燥設備5により乾燥される。
【0020】
ここで、連続焼鈍炉1から出た直後の鋼板Sの温度は約100℃であり、このような温度の鋼板Sを水槽2へ連続的に供給すると、水槽2の水温は上昇していく。したがって、本発明では、水槽2中の水は冷却塔3との間を常時循環するようになっており、水槽2中の水温を常に30℃以下に保つようにする。また、水噴射装置4から噴射する水も、冷却塔3から供給される冷却水を使用する。その水温は、水槽2中の水温と同様に30℃以下であることが好ましい。
【0021】
これらの水温を30℃以下としたのは、以下の理由による。洗浄装置の設備構成や鋼板Sの搬送速度にもよるが、一般的な洗浄設備の場合は鋼板Sが各水槽の間にあって水面上に出ている時間は約15秒以下である。図2より、水温が30℃程度であれば、15秒程度大気中に放置されても変色の程度は品質限界レベル内であることがわかる。30℃を超えると、腐食反応の活性度が高くなり、局部腐食により変色が品質限界レベルを超えてしまう。なお、より好ましくは20℃以下とする。
【0022】
以上のように、水槽の温度を低温に保ち、また水槽間では冷却水を鋼板に噴射することにより、水中の溶存酸素による腐食反応の活性度も低く抑えることができ、かつ鋼板が大気中の酸素と接触することを回避し、鋼板の凹凸欠陥部の局部腐食を抑制することができる。
【0023】
なお、以上は水槽2が複数ある場合について説明したが、水槽2が一つのみの場合には水槽間の領域はないため、水噴射装置4は設置しなくてよい。ただし、水槽2と鋼板乾燥装置5の間での腐食を抑制するためには、この間に水噴射装置4を設置してもよい。水槽2が複数ある場合も同様である。
【0024】
また、上記の説明では洗浄装置が連続焼鈍炉出側に設置された場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。焼鈍後の鋼板では凹凸欠陥部に発生する局所的なステインが同様に問題となることから、焼鈍後の鋼板を水槽内を通板する工程を含む製造ラインであれば、どのようなラインにおいても、本発明を適用することにより同様の効果を得ることができる。
【0025】
【実施例】
図1に示す洗浄設備を備えた連続焼鈍ラインを用いて、冷延鋼板の製造を行った。用いた鋼板は、板厚1.5〜2.7mmの炭素鋼である。また、鋼板Sの搬送速度は約120mpmとし、連続焼鈍炉1出側における鋼板Sの板温は、約100℃であった。
【0026】
洗浄設備の水槽2の水温及び水噴射装置4の使用条件は、以下の3通りで行った。
1)従来例:水槽内水温40〜45℃、水噴射装置不使用
2)参考例1:水槽内水温25〜30℃、水噴射装置不使用
3)本発明例:水槽内水温25〜30℃、水噴射装置使用(噴射水温約25〜30℃)
なお、水噴射装置4による冷却水の噴射圧力は、5kg/cm2とした。
【0027】
以上の条件により、それぞれ一定期間の冷延鋼板の製造を行い、局部腐食の発生率を比較した。なお、局部腐食の発生率は、局部腐食により浮き出る代表的な凹凸欠陥である幅0.5mm程度以上の微小な線状疵の発生率を指標とした。
【0028】
図3に各条件毎の局部腐食発生率を示す。従来例では局部腐食発生率が12%と高位であるが、水槽内温度を25〜30℃とすることにより、発生率は約1/3へ大幅に低下した(参考例1)。さらに加えて水噴射装置により水温約25〜30℃の水を水槽間の鋼板に噴射することにより、局部腐食発生率はさらに低下し、比較例の約1/4となった(本発明例)。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、焼鈍後の鋼板を洗浄設備又は水洗設備へ通板する際に、これらの設備内で鋼板表面の微小欠陥部に発生する局部腐食(ステイン)の発生を抑え、表面性状の良好な冷延鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態である洗浄装置を模式的に示す縦断面図
【図2】 腐食再現実験の結果を示す説明図
【図3】 実施例における局部腐食発生率を示す説明図
【符号の説明】
1 連続焼鈍炉
2 水槽
3 冷却装置(冷却塔)
4a 水噴射装置(外側面用)
4b 水噴射装置(内側面用)
5 鋼板乾燥装置
6a 搬送ロール(水槽間上方)
6b 搬送ロール(水槽内)
S 鋼帯

Claims (4)

  1. 焼鈍後に鋼板表面温度が約100℃の鋼板を洗浄設備又は水冷設備の複数の水槽を通板させる際、前記複数の水槽間の大気に触れる領域を通板する鋼板表面に、水温30℃以下の水を噴射することを特徴とする冷延鋼板の局部ステイン抑制方法。
  2. 前記複数の水槽間の大気に触れる領域を通板する時間を15秒以下とすることを特徴とする請求項1に記載の冷延鋼板の局部ステイン抑制方法。
  3. 洗浄設備又は水冷設備の水槽内の水温を30℃以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の冷延鋼板の局部ステイン抑制方法。
  4. 連続焼鈍炉出側に設けられた焼鈍後の鋼板を通板する鋼板の洗浄設備又は水冷設備であって、鋼板表面温度が約100℃の鋼板を浸漬する複数の水槽と、該水槽間の大気に触れる領域を通板する鋼板表面に水を噴射する水噴射装置と、前記水槽及び水噴射装置に供給する水を冷却する冷却装置とを備えたことを特徴とする冷延鋼板の洗浄設備又は水冷設備。
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