JP3879477B2 - 無機系多孔質プレート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は無機系多孔質プレート、特に細孔内にプロトン伝導性ポリマーを充填することにより燃料電池用高分子固体電解質としての応用が可能な自己保持性を有する無機系多孔質プレートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多孔質ポリエチレン膜、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜のような多孔質ポリマー膜をメタノール直接型燃料電池用高分子固体電解質の基材として利用して、多孔質ポリマー膜の約0.1〜1μmの直径の貫通細孔にプロトン伝導性ポリマーを充填することが試みられている。(Polymer Preprint,Japan,p3493〜3494,Vol.49,No.11)
【0003】
しかし上記の多孔質ポリマー膜は耐熱性がそれほど優れていないので、さらに耐熱性が優れた無機系の自己保持性多孔質プレートが要望されている。約2〜50nmの細孔直径を有する無機系の自己保持性多孔質プレートとしては、特開平11−246665号公報にテトラアルコキシシランとアルケニルトリアルコキシシランを界面活性剤の存在下に重合させた自己保持性の多孔質シリカ膜が、特開2001−172089号公報に4官能性アルコキシシランと1〜3官能性アルコキシシランと2〜4官能性アルコキシチタンを界面活性剤の存在下に重合させた自己保持性の多孔質シリカ−チタニア膜がそれぞれ開示されている。サブミクロン〜ミクロンオーダーの孔径を有する多孔質無機材料については中西の論文(例えば、Bull. Chem. Soc. Jpn.,67,1327-1335(1994))にテトラアルコキシシラン、ポリエチレンオキシド(平均分子量100000)および酸を含む液を加水分解してゲル化した後に80℃で揮発成分を蒸発させて製造することが示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記公報は細孔直径が数十nm程度以下であり、細孔内にプロトン伝導性ポリマー等を充填することはできず、分離膜として使用するときは孔の物理的性質に依存した性質しか活かすことができない。一方、上記論文で得られるものはバルク体であり、このバルク体を薄板化するには研磨工程が必要となるので煩雑であり、実用的ではない。
【0005】
本発明は以上のような問題点を解決して、燃料電池用高分子固体電解質の基材に適した、細孔直径が0.1〜10μmである貫通孔を有する耐熱性が優れた無機系の自己保持性多孔質プレートを研磨工程を要することなく提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、プロトン伝導性ポリマーを充填することによって、燃料電池用高分子固体電解質として使用される無機系多孔質プレートであって、(1)テトラアルコキシシラン、および(2)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコールおよびポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機高分子化合物、を含む液を無機質繊維の織布または不織布基材に含浸させ、これを加熱焼成して、該有機高分子化合物を気化させることによって得られる無機系多孔質プレートである。
【0007】
本発明で用いられる不織布または織布は0.03mm〜2mmの厚み(厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの厚み)および10〜220g/m2の目付を有することが好ましい。より好ましくは20〜120g/m2である。厚みが0.03mm未満または目付が10g/m2未満では無機系多孔質プレートの機械的強度が低くなるとともに無機系多孔質プレート内の細孔体積が小さすぎて細孔に充分な量の高分子固体電解質を充填させることが困難になる。厚みが2mmを超えたり目付が220g/m2を超えると無機系多孔質プレートが厚くなり過ぎる。不織布は織布よりも大きな空隙率が得られやすいので、例えばセラミックスペーパーのような不織布が特に好ましく用いられる。
【0008】
不織布または織布を構成する無機繊維は2〜20μmの平均直径を有することが好ましい。無機繊維としてはガラス繊維;シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、酸化スズなどからなるセラミックスの繊維またはホイスカ;金属繊維;炭素繊維等を用いることができる。
【0009】
本発明において上記織布または不織布基材に含浸させる液に含有させるテトラアルコキシシランとしてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、およびテトラプロポキシシランの単体またはこれらの混合物が好適に用いられる。アルコキシル基の一部が加水分解性を有しない有機基に置換されたアルコキシシラン、例えばメチルトリエトキシシランなどを原料に用いると、プレート内に有機基が残ってしまうため1000℃以上の高温で使用することはできない。従って、最終的に有機基が残らないアルコキシシランを用いるべきである。
【0010】
また、本発明で用いられるポリエチレンオキシドはテトラアルコキシシランと混合した後、テトラアルコキシシランの重合が進むにつれて相分離を起こし、0.1〜10μmの直径の連続細孔を生成させるのに重要な働きを示す。ポリエチレンオキシドの分子量としては5000〜100000のものが好適に用いられる。分子量が5000未満では細孔の直径が0.1μm未満となり、100000を超えると細孔の直径が10μmを超えてしまう。ポリエチレンオキシドの代わりにポリプロピレングリコールまたはポリビニルアルコールを使用することができる。ポリプロピレングリコールとしては500〜1000の平均分子量を有するものが好適に用いられ、ポリビニルアルコールとしては2000〜80000の平均分子量を有するものが好適に用いられる。
【0011】
本発明で使用する金属アルコキシドおよびポリエチレンオキシドのような有機高分子化合物を含有する液は金属アルコキシド100重量部に対して有機高分子化合物を3〜30重量部含有することが好ましい。有機高分子化合物が少なすぎると得られる無機系多孔質プレートの空孔率が20%未満となり、また細孔が連続した貫通孔を形成しにくくなる。有機高分子化合物が多すぎると得られる無機系多孔質プレートの機械的強度が低下する。
【0012】
該液にはテトラアルコキシシランを加水分解および重合させるための触媒としては塩酸、硝酸などの酸を含有させる。焼結後の残留物から考え、硝酸が好適に用いられる。酸の使用量はテトラアルコキシシラン100重量部に対して10-5〜10重量部が好ましく、より好ましくは10-3〜1.0重量部である。
【0013】
また該液にはテトラアルコキシシランの加水分解のために水を含有させる。水の量は、酸触媒の水分を含めて、テトラアルコキシシラン100重量部に対して10〜300重量部である。
【0014】
さらに、該液にチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムのアルコキシドを酸化物換算でテトラアルコキシシランに対して10モル%以下含有させることもできる。また該液を含浸させる織布または不織布基材の種類に応じて該液に0.01〜1重量%のシランカップリング剤またはチタンカップリング剤を添加しても良い。
【0015】
本発明において、無機質繊維の織布または不織布基材に該液を塗布、浸漬等により含浸させる。その後に5時間〜48時間保持してテトラアルコキシシランの加水分解・縮重合反応および乾燥させる。その後に500〜1200℃で30分〜5時間、加熱焼成して、該有機高分子化合物を気化させることにより、該織布または不織布基材で補強されたシリカゲルの多孔質プレートが得られる。このプレートの細孔部分は主として該有機高分子化合物が存在していた場所と一致する。
【0016】
無機系多孔質プレートは三次元網目多孔質構造、すなわち原料の金属アルコキシドに由来する金属酸化物が立体的に繋がった三次元状の網目構造をしている。無機系多孔質プレートの細孔はプレートの一方表面から他方表面に貫通しており、好ましくは細孔も三次元網目を構成している。
【0017】
この三次元網目多孔質構造は、その細孔径が0.1〜10μmであることが好ましく、より好ましくは、0.2〜5μmである。細孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)などで、表面を撮影した写真から、100個の細孔の直径の平均値から求めることができる。
【0018】
三次元網目多孔質構造の空孔率は、20〜90%であることが好ましい。より好ましくは50〜90%である。空孔率は、無機系多孔質プレート全体積から無機繊維およびシリカの占める体積を減じたものを無機系多孔質プレート全体積で除した百分率(%)である。空孔率は、無機系多孔質プレートの重量、この無機系多孔質プレートに液体例えば水を含浸させて多孔質プレートの細孔を水で充填したものの重量および無機系多孔質プレート全体積から計算して求めることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
[実施例1]
分子量10000のポリエチレンオキシド0.7gを水10ccに溶解し、これに1モル/Lの硝酸0.1ccを加えて撹拌した。ここにテトラメトキシシラン6ccを加えて均一になるまで撹拌した。このようにして作製したゾルをガラス板上に配した5cm×5cmで厚み250μmのセラミックスペーパー(新日化サーマルセラミックス社製、品番1260I)の上に滴下し、このゾルを滴下したセラミックスペーパーを上から他のガラス板を載せて2枚のガラス板で挟む形にした。ゾルはセラミックスペーパーの空隙に含浸する。ガラス板で挟んだセラミックスペーパーを密閉容器に入れ、40℃で24時間保持した後、密閉容器から取り出して開放系において40℃で24時間乾燥させた。このようにして作製した基材をさらに空気中で1000℃で2時間加熱焼成することにより75%の空孔率を有する250μmの厚みの多孔質プレートを得た。得られた多孔質プレートの表面を電子顕微鏡写真で観察したところ、図1および図2に示すようにセラミックスペーパーの繊維1、1'の間にシリカゲル2が存在しており、シリカゲル2には直径約4μmの連続細孔3(黒い部分)が三次元網目状に形成されていた。
【0020】
[実施例2]
分子量10000のポリエチレンオキシド0.5gを水2ccに溶解し、これに1モル/Lの硝酸7ccを加えて撹拌した。ここにテトラエトキシシラン6ccを加えて均一になるまで撹拌した。このようにして作製したゾルをガラス基板上に配したセラミックスペーパー(新日化サーマルセラミックス社製)の上に滴下し、このゾルを滴下したセラミックスペーパーを上からガラス基板で挟む形にした。ガラス基板で挟んだセラミックスペーパーを密閉容器に入れ、40℃で24時間保持した後、密閉容器から取り出して開放系において40℃で24時間乾燥させた。このようにして作製した基材を1000℃で2時間焼成することにより60%の空孔率を有する250μmの厚みの多孔質プレートを得た。得られた多孔質プレートの表面を電子顕微鏡写真で観察したところ、直径約2μmの連続細孔が三次元網目状に形成されていた。
【0021】
【発明の効果】
本発明により、プロトン伝導性ポリマーを含浸または充填できる自己保持性に優れた、燃料電池用高分子固体電解質の基材に適した多孔質プレートが得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の多孔質プレート表面の電子顕微鏡写真である。倍率については、写真の右下の矢印の両端間距離が100μmを表している。
【図2】 図1の多孔質プレート表面の異なる倍率の電子顕微鏡写真である。倍率については、写真の右下の矢印の両端間距離が12μmを表している。
Claims (9)
- プロトン伝導性ポリマーを充填することによって、燃料電池用高分子固体電解質として使用される無機系多孔質プレートであって、(1)テトラアルコキシシラン、および(2)ポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレングリコールおよびポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機高分子化合物、を含有する液を無機質繊維の織布または不織布基材に含浸させ、これを加熱焼成して、該有機高分子化合物を気化させることによって得られる無機系多孔質プレート。
- 該無機質繊維の織布または不織布基材は、0.03〜2mmの厚みおよび10〜220g/m2の目付を有しており、さらには、2〜20μmの平均繊維径を有するものである請求項1記載の無機系多孔質プレート。
- 該液が該テトラアルコキシシラン100重量部に対して該有機高分子化合物を3〜30重量部含有する請求項1または2に記載の無機系多孔質プレート。
- 該ポリエチレンオキシドは5000〜100000の平均分子量を有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機系多孔質プレート。
- 該ポリプロピレングリコールは500〜1000の平均分子量を有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機系多孔質プレート。
- 該ポリビニルアルコールは2000〜80000の平均分子量を有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機系多孔質プレート。
- 該テトラアルコキシシランがテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランおよびテトラプロポキシシランよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機系多孔質プレート。
- 0.1〜2mmの厚みを有し、0.1〜10μmの直径の貫通細孔が3次元の網目状に連続し、空孔率が20〜90%である請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機系多孔質プレート。
- プロトン伝導性ポリマーを充填することによって、燃料電池用高分子固体電解質として使用される無機系多孔質プレートの製造方法であって、(1)テトラアルコキシシラン、および(2)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコールおよびポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機高分子化合物、を含有する液を無機質繊維の織布または不織布基材に含浸させ、これを加熱焼成して、該有機高分子化合物を気化させることを特徴とする無機系多孔質プレートの製造方法。
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