JP3878504B2 - 呈色性化合物を含有する懸濁重合体粒子並びにこれを利用したインキ及びトナー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロイコ染料に代表される呈色性化合物を含有することにより、消色或いは変色することができる懸濁重合体及び該懸濁重合体を含有する筆記具用等のインキ並びに印刷用トナーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ロイコ染料に代表される呈色性化合物を利用したインキが、消色又は変色可能なインキとして広く知られている。例えば、特開平7−81236号公報には、有機溶剤中でいずれも無色のロイコ染料と顕色剤とを化学反応させることにより生成する有色化合物を用いたインキが記載されている。該インキ中には減感剤も含まれるため、このインキを用いて印字された字は、加熱による減感剤の作用により消色される。
また、特開平10−287081号公報には、ロイコ染料と顕色剤を加熱溶融し、放冷後粉砕した粉体を着色剤としたインキを利用した水性ボールペンの発明について記載されている。この水性ボールペンにより描かれた筆記線は、減感剤を含む水を主成分とする剥離液に浸した後、加熱されることにより消色する。
しかし、これらのインキは、加熱のみによって消色されるものであるため、消色手段が限定される。また、ロイコ染料や顕色剤が溶剤である水に直接接触するため、経時的に褪色してしまう上、直接日光に晒されるため耐光性も低い、という欠点があった。
【0003】
また、特開平10−88046号公報に記載されたロイコ染料は、顕色剤、消色剤と共に樹脂と混練するので、樹脂のコーティング効果により比較的高い耐光性を有する。更に、この混練物を含んだインキは、有機溶剤を用いて樹脂を溶解すると、消色剤が顕色剤と優先的に化学結合するため、加熱のみでなく有機溶剤によっても消色可能であった。
しかし、前記インキは、該混練物をジェットミルで微粉砕して着色剤とするものであるため、得られた着色剤の粒子径が比較的大きくて均一ではなく、筆記具用のインキに用いた場合は筆感が悪くなり、トナーに用いた場合は印刷された画質が粗くなってしまう。また、該着色剤の粒子形、粒子径が均一とならないため、インキに用いた場合は、インキの粘度を注意深く調整しない限り液体のインキ中における分散性に劣り、トナーに用いた場合は、トナー粒子の帯電量にムラが生じ、画質が悪くなる等の問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の第一の目的は、上記課題を解決すべく、呈色性化合物を用いた場合に、消色手段として加熱のみでなく有機溶剤をも利用することができ、耐光性に優れている上に、比較的粒子径及び粒子形が均一であり球状である懸濁重合体粒子を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記懸濁重合体粒子を含む筆記具用等のインキ並びに印刷用トナーを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の目的を達成する懸濁重合体粒子は、分散安定剤を含有するpH4〜7の水系媒体に、少なくともビニル系単量体、ロイコ染料、顕色剤を含有する混合物を添加し、均一に撹拌分散させた後、重合開始剤を添加して、懸濁重合させることにより得られることを特徴とする。
なお、上記顕色剤は、分子内にリン酸基を有する化合物とすることができる。
そして、本発明に係るインキ並びにトナーは、前記懸濁重合体粒子を含有することを特徴とする。
この際、上記インキは、窒素原子を含む塩基性化合物からなる消色剤を含有してもよい。これにより該インキは、有機溶剤を添加するか若しくは加熱することによって、容易に消色或いは変色することができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の態様を詳細に説明する。
まず初めに、本発明の懸濁重合体粒子の原料として使用可能な単量体について詳細に説明する。
本発明の懸濁重合体粒子の原料として使用可能な単量体は、通常、懸濁重合に用いられる単量体であればいずれでもよいが、好ましくは、非極性の若しくは極性が小さい単量体がよい。単量体は、その極性が大きいとロイコ染料に対してルイス塩基として作用し、ロイコ染料が顕色剤と作用して発色するのを阻害するためである。
従って、本発明に使用する単量体は、好ましくは極性の小さいビニル系単量体がよく、例えば、スチレン、ニトロスチレン、クロロスチレン、ハイドロキシエチルメタアクリレート等が、特に好ましい。
これらの単量体は単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0007】
次に、上記単量体から得られる懸濁重合体に含有される、本発明に係る呈色性化合物及び顕色剤について詳細に説明する。
本発明で使用する呈色性化合物は、酸化還元反応や酸塩基反応等の呈色反応を起こし、特に無色から有色へ可逆的に変化する化合物であり、具体例としてフェノールフタレイン等も挙げられるが、代表的にはロイコ染料である。このロイコ染料は、例えば、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系等の分子内にラクトン環を有する化合物であり、それらのうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。
これらの化合物としては、例えば、「CVL」、「Green DCF」、「Vermilion DCF」、「Red DCF」、「Orange DCF」、「TH−106」、「TH−107」、「TH−108」、「TH−109」、「CF−51」、「D.L.M.B.」(以上、保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名)、「DEBN」、「RED 500」、「RED 520」、「S−205」、「Black 100」、「Black 202」、「Black305」、「ETAC」、「Blue 220」、「NIR Black 78」、「Green 300」、「PINK 535」(以上、山田化学工業株式会社製、商品名)、「ODB」、「ODB−2」、「ODB−7」、「Black−15」、「Black−173」、「Blue−63」、「Blue−502」、「Green−40」、「Red−3」、「Red−40」、「MNSP」、「LCV」、「GN−2」、「GN−169」、「GN−118」(以上、山本化成株式会社製、商品名)、「PERGASCRIPT RED I−6B」、「PERGASCRIPT GREEN I−2GN」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製、商品名)等を使用することができる。
【0008】
また、本発明で使用する顕色剤は、呈色性化合物に作用することにより、呈色性化合物を発色させるものである。この顕色剤として、ロイコ染料に対するものとしては、例えば、リン酸,リン酸モノエステル,リン酸ジエステル等の分子内にリン酸基を有する化合物か、又はヒドロキシアセトフェノン系,ヒドロキシベンゾフェノン系,没食子酸エステル系,ベンゼントリオール系,ビスフェノール系,トリフェノール系,クレゾール系等の分子内にフェノール性水酸基を有する化合物であり、それらのうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。
これらの化合物のうち、リン酸基を有する化合物としては、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジアルキルリン酸エステル等を使用することができる。
また、フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、ジヒドロキシアセトフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロ安息香酸、ビスフェノール、ヒドロキシフェニルアルキル−ベンゾトリアゾール、メチレントリス−p−クレゾール、没食子酸アルキルエステル等を使用することができる。
ここで、上記リン酸基若しくはフェノール性水酸基を有する化合物は、アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ラウリル基、オレイル基、ステアリル基等を有する。
上記リン酸基を有する化合物の具体例としては、例えば、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業株式会社製、商品名)、プライサーフシリーズ(第一工業製薬株式会社製、商品名)、ニューコール 565−PS(日本乳化剤株式会社製、商品名)等を挙げることができる。
尚、懸濁重合体の調製には、比較的激しい撹拌を必要とするため、顕色剤は、撹拌による泡立ちが少ないもの、即ち界面活性剤として作用しない化合物がよい。従って上記顕色剤の中で、本発明に係る顕色剤としては、リン酸、又は、アルキル基としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のいずれかを有するモノアルキルリン酸エステル若しくはジアルキルリン酸エステルが、特に好ましい。
【0009】
次に、本発明に係る消色剤について詳細に説明する。
消色剤は、ロイコ染料と顕色剤との相互作用を阻害することにより、発色したロイコ染料の色を消すために用いられる化合物である。
上述した本発明に係る呈色性化合物及び顕色剤は、筆記面又は印刷面が紙の場合、多くの紙には上記消色能を有するデンプンが含まれるため、該呈色性化合物等を含む着色剤系(例えば、インキやトナー)が特に消色剤を含有しなくても、有機溶剤並びに加熱による消色が可能である。しかし、筆記面等が、デンプンを含まない紙だったり、ガラスやプラスチック等の場合では、有機溶剤並びに加熱によっては充分に消色されない。このような場合には、着色剤系中に別途消色剤を添加することによって消色が可能となる。消色剤としては、窒素原子を含む重合体やアミノ酸等の塩基性化合物が挙げられる。
該消色剤を着色剤系に含有させる方法としては、懸濁重合法等の着色微粒子を作成する方法と同様の方法による微粒子化や従来公知のマイクロカプセル化により、閉鎖系の粒子として着色微粒子と隔離して用いる方法がある。また、該着色剤系が液状組成物である場合は、液中に直接消色剤を加える方法も可能である。このうち、着色微粒子と隔離して用いる方法では、消色剤として、水酸化アルカリ金属塩、水酸化アルカリ土類金属塩、アルカリ金属アルコキシド等の塩基性水酸基を有する化合物、尿素及びヒダントイン並びにそれらの誘導体等の窒素原子を有するルイス塩基化合物が使用できる。
また、液中に直接消色剤を加える方法では、液中に消色剤が存在することとなるため、消色時とほぼ同様の状態となり、上記した塩基性水酸基を有する化合物では塩基度が強いために、着色微粒子が消色されてしまう。また、ルイス塩基化合物のうち、上記した尿素及びヒダントイン並びにそれらの誘導体はインキの色を消さないものの、筆記又は印刷した描線を加熱しても消色効果が極めて低い。これに対して、窒素原子を含む重合体等の塩基性化合物を消色剤として用いると、通常の状態ではインキの色を消さないが、消色用の有機溶剤(以降、消色用溶剤と称す。)若しくは加熱により消色させることが可能となる。この消色作用を有する窒素原子を含む重合体である塩基性化合物としては、特に一般式(1)で示される化合物を挙げることができる。
【化1】
〔式中、X,Yは任意の官能基であり、Qは単結合、アルキレン基、フェニレン基、又は−COO−L−,−CONH−L−,−CONR−L−で表される基を示す。ここで、L及びRは炭化水素により構成される基であり、R1,R2,R3は水素、炭素、窒素、酸素、硫黄より選択される原子により構成される基である。ここで、L,R,R1,R2,R3は互いに同じであってもよく、異なっていてもよく、置換基を有するものであってもよい。また、l,m,nは一般式(1)で表される構成単位を構成する各最小構成単位のモル百分率を示し、l,mは夫々0〜90までの整数、nは0〜100までの整数を表し、l+m+n=100となる。〕
【0010】
上記化合物において実際の消色能を有する部位は、窒素原子を中心とする基である。またX,Yは、任意の官能基であるが、親水性基及び/又は疎水性基を導入し、その割合を変えることによって、溶解性を制御することも可能である。消色剤に使用できる化合物の具体例としては、例えば、以下に(A)〜(G)の構造式で示す窒素原子含有重合体を挙げることができる。
【化2】
〔nは正の整数を示す。〕
ここで、(A)はポリビニルピロリドンであり、(G)はPUVAシリーズ(大塚化学株式会社製、商品名)である。また、PUVAシリーズは、紫外線吸収効果を有するため、水性インキに使用すると紫外線を吸収し、着色剤の褪色を抑制するので、筆記線の耐光性を向上させることができる。
【0011】
また消色作用を有するアミノ酸としては、水溶性アミノ酸若しくはそれらの塩及びそれらの誘導体から選択される化合物が挙げられる。
ここで言うアミノ酸は、1分子中にカルボキシル基とアミノ基の両方を有する有機化合物であり、アミノ基の代わりにイミノ基を有するもの、カルボキシル基の代わりにスルホ基を有するものも含まれる。また、アミノ基やイミノ基をアルキル基で修飾したもの、カルボキシル基やスルホ基の水素イオンを金属イオンで置換したものも含まれる。
また、水溶性アミノ酸とは、水に概ね0.5%以上溶解するアミノ酸をいう。消色作用を有する水溶性アミノ酸としては、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸を使用することができる。中性アミノ酸としては、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、カルノシン、プロリン、シスチン、フェニルグリシン、トリメチルグリシン等があり、酸性アミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸、オルニチン、ヒスチジン、リシン等があり、それらのうち1種又は2種以上混合して使用することができる。また、それらのアミノ酸のアルキル誘導体、例えば、トリメチルグリシンやベタイン型両性界面活性剤を使用することができる。
水溶性アミノ酸の塩としては、アミノ酸のカチオン塩やアニオン塩を用いることができる。対カチオンとしては、金属カチオン、アンモニウムイオン等が挙げられ、具体的には、グルタミン酸ナトリウム等を用いることができる。対アニオンとしては、ハロゲン化物アニオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等が挙げられ、具体的には、アルギニン塩酸塩を用いることができる。また、塩基性アミノ酸と酸性アミノ酸との塩を用いることもでき、具体的には、L−アルギニンL−グルタミン酸塩等を用いることができる。
水溶性アミノ酸の塩の誘導体としては、アミノ酸型両性界面活性剤が挙げられる。具体的には、アミノサーファクトシリーズ(旭化成株式会社製、商品名)を用いることができる。
【0012】
また、懸濁重合体を変色させる目的で、ロイコ染料以外の通常使用される従来公知の染料及び/又は顔料が、上述した呈色性化合物及び顕色剤に加えて使用されてもよい。これらの染料及び/又は顔料をも含有した懸濁重合体は、加熱により、若しくは消色用溶剤を用いることで呈色性化合物の色のみが消色されて、前記通常の染料及び/又は顔料の色のみが残り、変色されることとなる。染料としては、酸性染料、塩基性染料及び直接染料を用いることができる。そして顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系等の有機顔料、カーボンブラック、合成マイカ、酸化チタン、金属微粉末等の無機顔料、懸濁重合で得られる球状微粒子を通常の染料で着色した従来公知の樹脂顔料を用いることができる。
【0013】
次に、本発明に係る懸濁重合体粒子の製造方法について詳細に説明する。
本発明が適用される懸濁重合体粒子の製造方法としては通常の懸濁重合法を採用することができるが、重合温度は50〜90℃が好ましい。
また、本発明に係るロイコ染料は、塩基性条件下では消色してしまうため、懸濁重合前にリン酸等の酸を添加することにより、反応系のpHを4〜7に調整する。pHが7より高いと上述したとおりロイコ染料が発色しなくなり、pHが4より低いと後述する分散安定剤が溶解してしまい、分散安定剤として機能しなくなる。
【0014】
また、通常の懸濁重合では、水系媒体中における単量体の分散性を向上させるべく、分散安定剤を添加する。本発明においても、分散安定剤として、通常の懸濁重合に用いられるような水に不溶若しくは難溶である無機化合物微粒子を使用し、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム等が使用できる。
但し、本発明では、上述したpH領域(pH=4〜7)で溶解しないような分散安定剤を選択する必要がある。
更に、本発明では、ロイコ染料を発色させる顕色剤として、リン酸基若しくはフェノール性水酸基を有する化合物を使用するので、これらの化合物と反応する分散安定剤も使用することができない。
以上のことから、本発明においては、水に不溶若しくは難溶であり、上述した顕色剤と反応しない無機化合物微粒子として、例えばリン酸カルシウム、リン酸バリウム等のリン酸金属塩を分散安定剤として用いることが、特に好ましい。
【0015】
また、本発明に使用する重合開始剤としては、過酸化物やアゾ系若しくはジアゾ系重合開始剤等の通常の懸濁重合に用いる重合開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素等を使用することができ、或いは必要に応じて通常用いられる亜硫酸水素ナトリウム等の無機還元剤、アルコール等の有機還元剤を併用することも可能である。
【0016】
ロイコ染料及び顕色剤等は、懸濁重合前に単量体に混合されていてもよいし、懸濁重合後に懸濁重合体に着色させてもよい。懸濁重合前に混合する場合、ロイコ染料及び顕色剤は単量体中に分散させることができ、ロイコ染料の使用量は不揮発分の懸濁重合体100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、更には0.1〜5質量部が好ましい。
【0017】
また、ロイコ染料以外の通常使用される従来公知の染料及び/又は顔料は、上述のロイコ染料及び顕色剤と同様の方法で、ロイコ染料及び顕色剤と共に或いは単独で、懸濁重合前に単量体に混合されていてもよいし、懸濁重合後に懸濁重合体に着色させてもよい。これにより得られた着色懸濁重合体は、加熱若しくは有機溶媒により、ロイコ染料による着色部分が消色し、消色しない染料及び/又は顔料により着色された部分は、その色が残るため、結果として変色することとなる。
【0018】
次に、本発明に係るインキについて詳細に説明する。
本発明に係るインキは、上述した懸濁重合法により得られた懸濁重合体分散液に酸を加え分散安定剤を溶解させた後、ろ過、水洗、乾燥することにより得られた懸濁重合体微粒子を、イオン交換水に撹拌混合することにより得られる。また、インキの原料として通常用いられる界面活性剤、防腐剤、防錆剤、乾燥抑制剤、潤滑剤、分散樹脂等の添加剤が、必要に応じて添加されてもよい。但し、本発明の目的に鑑み、呈色性化合物、顕色剤、並びに懸濁重合体と反応したり、発色や消色を妨げるものであってはならない。
【0019】
続いて、本発明に係るトナーについて詳細に説明する。
本発明に係るトナーは、上述した懸濁重合法により得られた懸濁重合体分散液に酸を加え分散安定剤を溶解させた後、ろ過、水洗、乾燥することにより得られた懸濁重合体微粒子を着色剤として、通常のトナーの製造方法により得られる。
【0020】
次に、本発明に係る発色したロイコ染料を消色させる際に用いられる消色用溶剤について詳細に説明する。
消色用溶剤は、上述した懸濁重合体や消色剤を含有するマイクロカプセル等の樹脂を溶解する化合物である。
この消色用溶剤は、筆記された描線若しくは印刷された描線上に塗布等すると、ロイコ染料を含有する懸濁重合体及び/又は消色剤を含有する樹脂を溶解し、紙に含まれるでんぷん或いは消色剤をロイコ染料に直接接触させることにより、ロイコ染料を消色する。
消色用溶剤の組成物に使用する有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルブチルケトン、ジブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−メチル−2−ブタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ピラン、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ジオキサン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のエステル系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶剤、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のグリコールエーテル系溶剤、メチルグリコールアセテート、エチルグリコールアセテート等のグリコールエーテルエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、パークロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、アニリン、トルイジン、ピリジン、ビピリジン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルフォキシド等の含ヘテロ炭化水素系溶剤であり、このうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。その中でも、消色能、人体に対する安全性及び溶剤の乾燥性等の点から、アセトン、シクロヘキサノン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンが特に好ましい。
【0021】
又、消色を促進する消色助剤として、揮発性液状アミン又はアミド等の分子内に窒素原子を含む化合物を消色用溶剤に添加することができる。これらの消色助剤は塩基性化合物であるため、それ自体発色したロイコ染料を消色する作用を有する。
この消色用溶剤の組成物に添加する揮発性液状アミンとしては、例えば、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、アニリン、ピリジン、ビピリジン等のアミンを使用することができる。また、消色用溶剤組成物に添加する揮発性液状アミドとしては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミドを使用することができ、N−メチル−ピロリドン等のその他の分子内に窒素基を有する揮発性液状化合物も使用できる。これらの中でも、消色能、人体に対する安全性及び溶剤の乾燥性などの点から、トリエタノールアミンとN−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
これらの揮発性液状アミン又はアミド等は、一種又は二種以上を混合して使用することができ、消色用溶剤組成物中に、0.1〜10質量%添加され、好ましくは1〜5質量%添加される。
以上、本発明に係る発色したロイコ染料を消色させる際に用いられる消色用溶剤について詳細に説明した。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
(実施例1)
イオン交換水350gにリン酸ナトリウム・12水和物を5.15g及び89%リン酸水溶液を0.9g加え、60℃まで加熱した後、TK式ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて12000rpmにて撹拌した。これに、1.0Mの塩化カルシウム水溶液20.4gを徐々に滴下し、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)微粒子(分散安定剤)を含有する水系媒体を得た。この水系媒体のpHは4.6であった。
次に、スチレン(単量体)20g、ピンク535(山田化学工業株式会社製、ロイコ染料、商品名)0.12g、没食子酸プロピル(顕色剤)0.2g、エタノール1.0gを予め撹拌混合しておいた混合物を、上記水性媒体に添加した後60℃に加熱し、窒素雰囲気下で、TK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて均一に分散した。これに2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.5gを加え、20分間撹拌を維持した。そして、80℃まで昇温した後、6時間撹拌した。
反応終了後、塩酸を加えてリン酸カルシウムを溶解させ、ろ過、水洗、乾燥して桃色懸濁重合体を得た。得られた懸濁重合体の平均粒子径は8.5μmであった。
得られた懸濁重合体2g、イオン交換水25.9g、トリメチルグルシン2g、キサンタンガム0.1gを撹拌混合し、水性桃色インキが得られた。得られた水性桃色インキは、市販されている直液マーカー(ポップスター極細、ゼブラ株式会社製、商品名)と同様の方法でインクタンクに充填した後、バルブ組込済先端カバーを装着し、ポリエステルペン先及びキャップを嵌着し、水性桃色マーカーを作成した。作成したマーカーを用いて乾式PPC用紙(王子製紙株式会社製、商品名)に手書きで筆記した。
【0023】
(実施例2)
イオン交換水350gにリン酸ナトリウム・12水和物を5.15g及び89%リン酸水溶液を0.5g加え、60℃まで加熱した後、TK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて撹拌した。これに、1.0Mの塩化バリウム水溶液30.3gを徐々に滴下し、リン酸バリウム(Ba3(PO4)2)(分散安定剤)微粒子を含有する水系媒体を得た。この水系媒体のpHは6.6であった。
次に、スチレン20g、H−2114(山田化学工業株式会社製、ロイコ染料、商品名)0.12g、89%リン酸水溶液0.3g、エタノール1.0gを予め撹拌混合しておいた混合物を、上記水性媒体に添加した後60℃に加熱し、窒素雰囲気下で、TK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて均一に分散した。これに2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.5gを加え、20分間撹拌を維持した。そして80℃まで昇温した後、6時間撹拌した。反応終了後、塩酸を添加してリン酸バリウムを溶解させ、ろ過、水洗、乾燥して桃色懸濁重合体を得た。得られた懸濁重合体の平均粒子径は8.0μmであった。
得られた懸濁重合体2g、イオン交換水25.75g、PVP K−15 2g、キサンタンガム0.25gを撹拌混合し、ジェルインキボールペン用緑色インキが得られた。得られたジェルインキボールペン用緑色インキは、市販されているジェルインキボールペン(BW−100、ゼブラ株式会社製、商品名、ステンレスボール径0.8mm)と同様の方法で、ポリプロピレン製リフィールに充填した後、ペン先を嵌着し、尾部よりインキ追随体を適量注入し、遠心機により1960m・s−2(200G)にて脱泡し、ジェルインキボールペンを作成した。作成したジェルインキボールペンを用いて乾式PPC用紙に手書きで筆記した。
【0024】
(実施例3)
イオン交換水350gにリン酸ナトリウム・12水和物5.15gを添加した後、TK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて撹拌した。これに1.0Mの塩化カルシウム水溶液を20.4g徐々に滴下し、リン酸カルシウム微粒子を含有する水系媒体を得た。
p−アミノスチレン(単量体)20gを、上記水系媒体に添加し、60℃に加熱した後、窒素雰囲気下でTK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて均一に分散した。これに2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.5gを添加し、20分間撹拌を維持した。その後、80℃に昇温し、6時間撹拌した。
反応終了後、塩酸を加えてリン酸カルシウムを溶解させ、ろ過、水洗、乾燥して乳白色懸濁重合体を得た。得られた懸濁重合体の平均粒子径は8.5μmであった。
この乳白色微粉体4gと、比表面積200m2/g(BET法)の疎水性シリカ0.05gを、実施例1で得られた桃色微粉体6gに外添し、乾式トナーとした。このトナーとフェライトキャリア90gを混合し、非磁性2成分現像剤とした。この現像剤を用いて、レーザープリンター(京セラ株式会社製、FS−600、商品名)で乾式PPC用紙に印刷した。
【0025】
(比較例1)
PSD−184(日本曹達株式会社製、ロイコ染料、商品名)5g、3,5−ジヒドロアセトフェノン 3g、GPPS−673(エーアンドエムスチレン株式会社製、ポリスチレン、商品名)20gを加熱ニーダーを用いて、加熱混合し、発色した塊状の顔料を得た。この顔料をジェットミルで粉砕し、分級により分けられた粒子径5〜10μmの黒色微粉体顔料を得た。
この微粉体顔料15g、PVP K−15 8g、デルトップ(武田製薬株式会社製、防腐剤、商品名)0.3g、エマルゲン707(花王株式会社製、非イオン系界面活性剤、商品名)0.8g、キサンタンガム0.6g、イオン交換水75.3gを攪拌器を用いて撹拌混合し、粘度131mPa・s(25℃、150s−1)のジェルインキボールペン用インキを得た。このインキを用いて実施例2と同様にしてジェルインキボールペンを作成し、これを用いて乾式PPC用紙に手書きで筆記を行った。
【0026】
(比較例2)
イオン交換水350gにリン酸ナトリウム・12水和物を5.15g加え、60℃に加熱した後、TK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて撹拌混合した。これに1.0Mの塩化カルシウム水溶液20.4gを徐々に滴下し、リン酸カルシウム微粒子を含有する水系媒体を得た。この水系媒体のpHは10.9であった。この水系媒体を用いて、実施例1と同様に懸濁重合体を得ようと試みたが、ロイコ染料が消色されてしまい、着色した懸濁重合体が得られなかった。
【0027】
(比較例3)
イオン交換水350gにリン酸ナトリウム・12水和物を5.15g、89%リン酸を3.5g加え、60℃に加熱した後、TK式ホモミキサーを用いて12000rpmにて撹拌混合した。これに1.0Mの塩化カルシウム水溶液20.4gを徐々に滴下し、リン酸カルシウム微粒子を含有する水系媒体を得ようとしたが、pHが2.9と低かったため、リン酸カルシウムが複分解されてしまった。分散安定剤であるリン酸カルシウムが溶解したので、懸濁重合を行うことはできなかった。
【0028】
(分散安定性試験)
上記実施例1〜3並びに比較例1により得られたインキ及びトナーは、その粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2100(株式会社島津製作所製)を使用して測定した。その後、該インキ及びトナーを約半年間、静置した後、再び粒子径を測定した。静置前後の粒子径を比較し、これをもって分散安定性を評価した。
【0029】
(消色用溶剤による消色試験)
上記実施例1,2及び比較例1により得られたインキで筆記された描線並びに上記実施例3により得られたトナーで印刷された描線は、消色用溶剤としてアセトンを直接数滴滴下され、乾燥した後のそれらの線の色が、目視により確認された。
(加熱による消色試験)
上記描線は、約200℃に加熱したアイロンを直接押し当てられ、冷却後のそれらの線の色が、目視により確認された。
【0030】
各試験の結果を表1に纏めて示す。
【表1】
1)分散安定性の評価
○:粒子径に変化なし
×:粒子径が大きくなる
2)消色用溶剤による消色の評価
○:無色に変化
×:無色に変化せず
3)加熱による消色の変化
○:無色に変化
×:無色に変化せず
【0031】
表1より明らかなとおり、本発明に係る実施例1〜3により作成されたインキ、トナーによる描線はいずれも、良好に消色された。その上、該インキ、トナーは分散安定性が高く、微粒子である懸濁重合体の粒子径は約半年間変化がなかった。
一方、比較例1は、消色性は良かったものの、分散安定性に劣り、約半年間の静置により微粒子が凝集したため、粒子径が大きくなったという結果になった。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る懸濁重合体粒子はロイコ染料を含有するため、これを利用したインキ等は、加熱により消色することができる。更に、ロイコ染料が懸濁重合体の樹脂によりコーティングされているため、本発明の懸濁重合体粒子を含有するインキ等に消色剤を共存させても、直接ロイコ染料に接触しないため消色することはない。そして、加熱のみでなく有機溶剤によっても、該懸濁重合体粒子を溶解させることで、消色剤が顕色剤と優先的に結合し、消色することが可能となる。
更に、該ロイコ染料は、懸濁重合体の樹脂によるコーティングにより、直接日光に晒されないため、高い耐光性を有することとなる。
また、ロイコ染料を含有する微粒子は、粉砕法ではなく、懸濁重合により生成されるため、粒子径及び粒子形が比較的均一である上に、粒子形が球状となる。これは、該微粒子を液体インキに使用した場合、分散性が向上するため、インキの粘度等にそれほど注意を払わなくても沈殿しないという効果をもたらす。また、粒子径が小さくなることで筆記面に強く浸み込むこととなり、筆記線の耐水性が向上する上、筆感も良くなるという効果も得られる。
更に、該微粒子をトナーに使用した場合は、粒子径が比較的小さく、粒子形も球状で均一なものが得られ、トナーが潜像に強く且つ均一に付着されるため、高品質な画像を得ることができる。
以上の効果により、これまで、その取扱いが比較的困難であったロイコ染料の利用範囲が広がることが期待される。
Claims (7)
- 分散安定剤を含有するpH4〜7の水系媒体に、少なくともビニル系単量体、ロイコ染料、顕色剤を含有する混合物を添加し、均一に撹拌分散させた後、重合開始剤を添加して、懸濁重合させることにより得られることを特徴とする懸濁重合体粒子。
- 前記分散安定剤が、リン酸カルシウム若しくはリン酸バリウムであることを特徴とする請求項1に記載の懸濁重合体粒子。
- 上記顕色剤が、分子内にリン酸基を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の懸濁重合体粒子。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の懸濁重合体粒子を含有することを特徴とするインキ。
- 窒素原子を含む塩基性化合物からなる消色剤を含有することによって、有機溶剤或いは加熱により容易に消色或いは変色できることを特徴とする請求項4記載のインキ。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の懸濁重合体粒子を含有することを特徴とするトナー。
- 窒素原子を含む塩基性化合物からなる消色剤を含有することによって、有機溶剤或いは加熱により容易に消色或いは変色できることを特徴とする請求項6記載のトナー。
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