JP3876345B2 - 道床バラストの安定化工法及びその軌道構造 - Google Patents
道床バラストの安定化工法及びその軌道構造 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、道床バラストの安定化工法及びその結果得られる軌道構造に関し、更に詳しくは、短時間で所定の強度を発現し、かつ、流動性と浸透性に優れた安定材を用いて道床バラストを安定化させる工法、及び、その結果得られる新規な軌道構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、レール、マクラギおよびバラスト道床からなる有道床軌道の保守省力化を図るために、てん充道床やB型舗装軌道等が提案されてきたが、これらてん充道床やB型舗装軌道は、いずれもバラスト間隙を完全に充填するものであるため、充填材の使用量が多く、現場で、型枠や不織布などを用いて漏れ止め作業を行う必要があり、作業が煩雑になるだけでなく、施工に時間がかかるという問題があった。しかも、バラスト間隙がすべて完全に充填、結合されているため、軌道狂の修正や道床交換などの保守作業に際して、道床バラストを解体することが極めて困難で、かえって労力を要するという欠点もあった。
【0003】
また、例えば、特公昭63−51201号公報に見られるように、道床バラスト層内に布を敷いて、注入材によって固められる固化層の厚さを制御し、かつ、注入材を布の下部バラストへ一部透過させて固化層とバラスト道床とを一体化する提案もあるが、作業手順が煩雑で、十分満足ができるものとは言い難い。
【0004】
【発明の解決しようとする課題】
本発明は、これら従来技術の問題点を解決するためになされたもので、比較的に土砂の混入の少ないバラストから成る既設有道床軌道を対象とし、少量の安定材で、かつ、効率良く道床バラストを安定化し、漏れ止め作業を簡易化すると共に、道床交換等に際しても、道床バラストの解体が容易に行える道床バラストの安定化工法、および、その安定化工法によって得られる新規な軌道構造を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、バラスト軌道の省力化について研究を重ねた結果、バラスト安定材の流動性および可使時間をコントロールし、かつ、注入方法に工夫を加えることによって、列車荷重により最も磨耗、細粒化するマクラギ直下のバラストの空隙は完全充填する一方で、下層部バラストは、空隙を残した点付け状態にして、安定化を保たせることが可能なことを見出して、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、安定化すべき道床バラストに安定材を注入して道床バラストの安定化を行うに際し、安定材の注入を、注入された安定材によってバラスト下層部までを空隙を残した点付け状態とする点付け充填工程と、その点付け充填工程によって減少したバラスト空隙を埋めてバラスト上層部のみを完全充填する完全充填工程とに分けて行い、道床バラストの上層部を完全充填状態、下層部を点付け充填状態とする道床バラストの安定化工法を提供することで上記課題を解決するものである。
【0007】
本発明のバラスト安定化工法においては、点付け充填工程で注入される安定材は、比較的少量であり、注入された安定材は、バラスト空隙を伝わってバラスト下層部にまで到達し、バラスト相互をその接触部において結合するが、バラスト空隙を充填するまでには至らない。
【0008】
一方、続いて行われる完全充填工程では、注入された安定材は、バラスト空隙を伝わって次第に下降して行くが、バラスト空隙は先行する点付け充填工程によって小さくなっているので、ある程度下降したところで停止し、その場所が、完全充填と点付け充填との境界となる。
【0009】
このように、本発明のバラスト安定化工法においては、安定材の充填工程を2つに分けることによって、列車荷重によって最も損傷を受けやすいバラスト上層部を安定材によって完全充填し、それ以外の部分は、バラスト間に空隙の残る点付け状態として必要かつ十分なバラスト間結合を行わせ、結果的に上層部から下層部までバラスト全体が安定化するものである。
【0010】
点付け充填工程の安定材と完全充填工程の安定材とは、基本的には同じものが使用されるが、点付け充填工程で使用される安定材に、完全充填工程で使用される安定材よりも、粘度の小さなもの、換言すれば、流動性の良いものを使用すれば、完全充填領域のコントロールが容易となり、好ましい。
【0011】
安定材の漏れ止めは、注入に要する安定材の量が、バラストの全領域を完全充填する従来技術に比べて少ないので、より簡便な方法で行うことができる。具体的には、安定材の注入に先立って、安定材と同じ材料を、安定化すべき道床バラストの側面部および/または周辺部に、吹き付け、散布、または注入することによって行うことができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明で使用できる安定材としては、粘度調整が可能で、ある程度の可使時間があり、バラスト相互を結合できる急硬性材料であれば、どのようなものでも使用可能であるが、セメント系、アスファルト系、樹脂系、ゴム系の急硬性材料の1種、もしくは2種以上を組み合わせた複合材料が好ましく用いられる。
【0013】
本発明で好ましく用いられるセメント系安定材としては、急硬性セメントペースト、急硬性セメントモルタルがあげられ、これらに更に、合成高分子重合体エマルジョン、合成ゴムラテックスエマルジョン、合成樹脂エマルジョンを混入して用いても良い。これらエマルジョンの中では、スチレンブタジエン共重合体エマルジョンおよびアクリル樹脂エマルジョンが、注入された施工箇所周辺の金属類を錆びさせる恐れがないので特に好ましい。これらエマルジョンを混入した急硬性ポリマーセメントペースト、急硬性ポリマーセメントモルタルは、脆性並びに耐衝撃性が向上し、耐久性に優れたものとなる。
【0014】
本発明で好ましく用いられるアスファルト系安定材としては、加熱アスファルトがあげられ、アスファルト系安定材とセメント系安定材とを組み合わせた急硬性セメントアスファルトペースト(以下、単に「急硬性CAP」という)や急硬性セメントアスファルトモルタル(以下、単に「急硬性CAM」という)なども複合材料として好ましく用いられる。
【0015】
また、樹脂系安定材としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が使用可能であり、ゴム系安定材としては、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴムなどが使用可能である。
【0016】
以上のように、本発明においては種々の材料が安定材として使用できるが、中でも、急硬性セメントペースト、急硬性セメントモルタル、急硬性CAP、急硬性CAM、または加熱アスファルトが、成分の配合割合や温度を変えることによって粘度調整が可能で、しかも、注入後、約1時間で、列車荷重を支持できる程度の強度を発現するので、列車運行の間隙をぬったバラスト安定化作業には特に好ましい材料である。
【0013】
表1に、本発明で使用する急硬性セメントペースト、急硬性セメントモルタル、急硬性CAP、急硬性CAMの標準的な配合割合を示す。
【0014】
【表1】
【0015】
これら配合成分の中で、セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、低発熱セメント、アルミナセメント、超速硬セメント等が使用可能であるが、急硬材との水和反応性に優れること、および、長期強度の確保に優れることから、普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0016】
また、混和材としては、石灰系膨脹材、エトリンガイド系膨脹材、減水剤等が使用できる。減水剤としては、市販のナフタリン系、メラミン系、リグニン系、カルボン酸系減水剤が使用できるが、ナフタリンスルフォン酸塩などのナフタリン系減水剤が好ましい。
【0017】
急硬材としては、カルシウムアルミネートと無水石膏との混合物、または、カルシウムアルミネート、ナトリウムアルミネートおよび無水石膏の3者の混合物が使用できる。この場合に使用する無水石膏としては、強度発現性に優れたII型無水石膏が好ましい。急硬材の粉末度は、4000〜8000cm2 /gの微粉末状のものが好ましい。
【0018】
微細粉末としては、石灰岩や火成岩を粉砕した石粉や高炉スラグを使用することができる。
【0019】
細骨材は、川砂、海砂、山砂、珪砂等を使用することができるが、強度並びに吸水率等の品質に優れる珪砂が好ましい。
【0020】
凝結調整剤としては、無機塩類、有機酸及び有機酸塩類の単味、または、これらを併用して用いることができる。無機塩類としては、CaCl2 、ZnCl2 、FeCl2 等の塩化物、K2CO3、Na2CO3、CaB4O7、Na2B4O7 等の炭酸塩、硼酸塩が使用できる。有機酸としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸等が使用でき、有機酸塩類としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カルシウム等が使用できる。
【0021】
このほかに、発泡剤として、アルミニウム粉末、マグネシウム粉末、亜鉛粉末等の金属粉末、および、これらをステアリン酸等の有機酸で表面処理したものを使用することができる。
【0022】
アスファルト乳剤としては、ノニオン系アスファルト乳剤を使用するのが好ましい。また、水としては、水道水、地下水、河川水等の淡水を使用し、流動性の調整に用いる。
【0023】
これら急硬性セメントペースト、急硬性セメントモルタル、急硬性CAP、急硬性CAMの混練プロセスを図1ないし図4に示す。図1は、急硬性セメントペースト、図2は、急硬性セメントモルタル、図3は、急硬性CAP、図4は、急硬性CAMの混練プロセスをそれぞれ表している。
【0024】
水、凝結調整剤および減水剤に、必要に応じてアスファルト乳剤を混合したものに、急硬材を加え、1000rpmの高速回転連続ミキサで約2分間練り混ぜ、練り混ぜ途中で、セメント、膨脹材、アルミ粉末に石粉または細骨材を加えたものを添加する。練り混ぜ終了後、土木学会Jロート法でコンシステンシーを確認し、注入用の安定材とする。なお、好ましいコンシステンシーは安定化すべき道床バラストの平均粒径に依存するが、通常の30〜50mm程度の平均粒径の道床バラストに対しては、フロータイムで8〜25秒が好ましく、特に好ましくは10〜20秒である。フロータイムが8秒よりも短いと、点付け充填工程でバラスト上層部の空隙を十分に小さくすることができず、また、完全充填工程では安定材がバラスト下層部にまで達し、上層部のみを完全充填することが困難となる。逆に、フロータイムが25秒を越えると、点付け充填工程で安定材がバラスト下層部にまで達することが困難となり、下層部は安定化されないままに残される可能性があり、好ましくない。
【0025】
一方、本発明で使用する加熱アスファルトとしては、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、セミブローンアスファルト等が使用可能であるが、中でも、改質が容易であるストレートアスファルトが好ましく用いられる。
【0026】
改質は、バラストの把握力(タフネス・テナシティ)の向上や低温での耐衝撃性等の改善を目的として必要に応じて行われるが、母材となるストレートアスファルトに、スチレンブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリアクリル酸エステル等のゴムを1種または2種以上添加して、分散、溶解して改質ゴム入りアスファルトとすることもできるし、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、熱可塑性ゴムであるスチレンブタジエンスチレン共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体等の1種または2種以上を添加して、分散、溶解して熱可塑性樹脂系改質アスファルトとすることもできる。更には、上記ゴムと樹脂の両方を添加して改質することもできる。これら、ゴムや樹脂の添加量は、ストレートアスファルト100重量部に対して、6〜20重量部、好ましくは、8〜15重量部である。
【0027】
必要に応じて改質された加熱アスファルトを安定材として用いる場合には、加熱温度を変化させてコンシステンシー、すなわち、浸透性を調節する。点付け充填工程に際しては、230℃前後に加熱した浸透性の良いものを用い、完全充填工程に際しては、200℃前後に加熱した粘性の高いものを用いるのが好ましい。このように、加熱アスファルトは、所定の温度に加熱することによって使用可能な状態になるので、準備のための時間が短くて済み、施工性に優れている。また、溶解することによって注入できる状態になる材料であるので、工程の簡素化と、工程の低騒音化が可能である。
【0028】
以下、図を用いて本発明の道床バラスト安定化工法を説明する。
【0029】
図5において、1は路盤であって、2は安定化すべき道床バラスト、3はバラスト、4はマクラギ、5はレール、6はマクラギ4に設けられた注入孔を示す。本発明の道床バラスト安定化工法を施すに際しては、まず、吹き付け機7、7によって、安定化すべき道床バラスト2の側面部に、安定材と同種の材料9aを吹き付けて、漏れ止め層8、8を形成する。なお、図5は、PCマクラギの例を示したが、例えば、LPCマクラギの場合には、図6の右側に示すように、散布機10を用いて道床バラスト2の側面部に漏れ止め層8を形成しても良いし、図6の左側に示すように、注入具11を用いて道床バラストの周辺部に漏れ止め層12を形成しても良い。また、これら3種の手段は、必要に応じて併用しても良いことは勿論である。漏れ止め材9aの粘度としては、土木学会Jロート法で測定したフロータイムが10〜15秒程度のものが好ましい。フロータイムが10秒未満であると、道床バラストの側面部または周辺部に吹き付け、散布あるいは注入した際に、バラスト空隙に留まらずに流下してしまい、十分な漏れ止め層を形成することができず、また逆に、フロータイムが15秒を越えると、バラスト空隙に十分に浸透することができないだけでなく、作業性が悪化する。漏れ止め材9aの使用量としては、30〜60リットル/m2 の量が好ましい。
【0030】
図7は、点付け充填工程を示し、吹き付け機7、7等によって形成された漏れ止め層8、8の内側に、安定材9bが注入具11を用いて注入される。漏れ止め層が、漏れ止め層12のように道床バラストの周辺部に形成されたものである場合には、漏れ止め層12の内側に安定材9bを注入することは勿論である。道床バラストの中央部にも安定材9bを十分に浸透させるためには、マクラギ4に設けられた注入孔6、6から注入ロート13を用いて、安定材9bを注入するようにしても良い。
【0031】
点付け充填工程で注入される安定材9bは、比較的少量であり、バラスト空隙を伝わって、バラスト下層部にまで到達し、バラスト相互をその接触部や近接部において結合するが、バラスト空隙を充填するにまでは至らない。この点付け充填工程によって、道床バラストの下層部から上層部までの全体にわたって、点付け充填層14が形成される。
【0032】
図8は、バラストの点付け状態を示し、バラスト3の周囲が安定材9bに覆われて、互いに近接あるいは接触しているバラスト相互が、安定材9bによって相互に結合されている状態を示す。点付け充填工程では、安定材9bによってバラスト空隙がある程度充填されて、近接あるいは接触しているバラスト相互が安定材9bによって結合されるが、バラスト空隙は残存している点付け充填層14が、道床バラストの下層部から上層部までの全体にわたって形成される。
【0033】
この点付け充填工程で使用される安定材9bとしては、バラストの粒径や空隙率等にも依るが、土木学会Jロート法で測定したフロータイムが8〜25秒、中でも10〜15秒程度のものが好ましい。安定材9bの使用量は、道床バラスト2の厚さを25cmとした場合には、4〜50リットル/m2 、好ましくは20〜40リットル/m2 の量で使用する。使用量が4リットル/m2 以下では、バラスト相互を点付けしている安定材9bの膜厚が十分でなく、結合力が弱く、マクラギの沈下を防ぐことが難しい。逆に、使用量が50リットル/m2 を越えると、バラスト空隙が小さくなり過ぎ、好ましい点付け充填が得られない。
【0034】
特に、安定材9bとして加熱アスファルトを使用する場合には、この点付け充填工程において使用する加熱アスファルトの量を絞り込むことによって、水分を含んだ道床バラストへの注入作業の際に発生する水蒸気や泡立ち、突沸現象を防止することができて有利である。また、残存するバラスト空隙によって、注入された加熱アスファルトの冷却速度が速くなり、注入後、短時間で所定の硬さが得られるので、耐久性を維持しながら冷却時間の短縮を図ることが可能となる。なお、必要に応じて、扇風機、冷風、散水、ドライアイス等を使用して、更に冷却速度を速めることも可能である。
【0035】
図9は、完全充填工程を示し、既に点付け充填された道床バラスト部分に、注入具11および/または注入ロート13を用いて、安定材9cを注入する。注入された安定材9cは、バラスト空隙を伝わって流下していくが、バラスト空隙は先行する点付け充填工程によって既に小さくなっているので、図10に示すように、残存するバラスト空隙を完全充填しながら流下し、ある程度流下したところで停止して、そこが完全充填層15と点付け充填層14との境界となる。
【0036】
安定材9cとしては、安定材9bと基本的には同じ材料が用いられる。安定材9cの粘度は、安定材9bと同じでも良いが、安定材9bよりも少し粘度の小さいものを用いるのが好ましく、バラストの粒径や空隙率等にも依るが、土木学会Jロート法で測定したフロータイムが8〜25秒、中でも12〜20秒程度のものが好ましく用いられる。また、使用量としては、道床バラスト2の厚さを25cmとした場合には、5〜70リットル/m2 、好ましくは10〜40リットル/m2 の量で使用する。使用量が5リットル/m2 以下では、形成される完全充填層15の厚さが十分ではなく、列車荷重に耐えることが困難となり、逆に、使用量が70リットル/m2 を越えると、完全充填領域15の厚さが必要以上に厚くなったり、安定材9cが道床バラスト外へ溢れ出したりして好ましくない。
【0037】
このようにして形成される点付け充填層14の厚さは、安定化される道床バラスト2の厚さの約1/2〜2/3の範囲が好ましく、一方、完全充填層15の厚さは、安定化される道床バラスト2の厚さの約1/2〜1/3の範囲が好ましい。これは、通常の道床バラストの厚さが約25cmであるとすると、それぞれ、約12〜17cm、約8〜13cmとなる。なお、以上の説明では、点付け充填工程および完全充填工程は、それぞれ1回の安定材の注入で行ったが、それぞれの工程における安定材の注入は必ずしも1回で行う必要はなく、使用される安定材のフロータイムや、使用器具の大きさによっては、2回、もしくはそれ以上の回数に分けて注入しても良いことは勿論である。
【0038】
以下、実験例および実施例に基づいて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明の道床バラスト安定化工法がこれら実施例に限定されるわけではないことは勿論である。
【0039】
【実験例A】
急硬性セメントペースト、急硬性セメントモルタル、急硬性CAPおよび急硬性CAMを用いて、4種の安定材No.1〜4を用意した。安定材No.1〜4の配合割合、および、物性を表2、表3に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表2において使用した材料は、次の通りである。
セメント :秩父小野田(株)製 普通セメント
膨脹材 :(株)小野田製 エクスパン
減水剤 :花王(株)製 マイティ100
急硬材 :(株)小野田製 スーパーハード
微細粉末 :(株)藤坂製 珪石粉
細骨材 :前田建材工業(株) 珪砂6号
アスファルト乳剤:ニチレキ(株)製 M乳剤
アルミニウム粉末:中島金属箔粉工業(株) C−250
凝結調整剤 :(株)小野田製 APセッター
水 :水道水
【0043】
表3から明らかなように、安定材No.1〜4は、いずれも、使用可能なフロータイムを維持しながらも、20分前後の可使時間が確保でき、しかも、練り上がり後1時間で、0.2MPa以上の圧縮強度を発現し、高流動性と急硬性に優れることが分かる。したがって、安定材No.1〜4は、いずれも、作業時間が3時間程度しか確保できない既設線の場合でも、養生時間が十分に取れる新設線の場合でも、施工可能であることが確認された。
【0044】
【実施例1】
現場で調整した安定材No.1を用いて、新設線の道床バラストの安定化を実施した。対象とした道床バラストは、土砂の混入の少ない、LPCマクラギを敷設した新設の複線で、バラスト層の厚さは25cmであった。
【0045】
表2のNo.1の配合割合で所定量の原料を配合し、ミキサで2分間混練した。ミキサから試料を採取してJロート法でフロータイムを測定したところ、11.6秒であったので、直ちに、散布機を用いて、30リットル/m2 の量で、道床バラスト側面部に、路線約5mにわたって散布し、安定材の漏れ止め層を形成した。
【0046】
次に、同じく表2のNo.1の配合割合で所定量の原料を配合し、ミキサで2分間混練した。フロータイムを測定したところ、10.5秒であったので、直ちに、注入ロートおよび注入具を用いて、漏れ止め層が形成された道床バラストに注入し、点付け充填工程を行った。このときの注入量は、30リットル/m2 であった。
【0047】
次いで、点付け充填工程を行ったのと同じミキサ中の安定材No.1を、注入ロートおよび注入具を用いて点付け充填工程が施された道床バラストに注入し、完全充填工程を行った。このときの安定材No.1のフロータイムは15.3秒で、注入量は20リットル/m2 あった。1時間後、安定化された道床バラストを一部破壊したが、完全充填層ではバラスト空隙が完全に安定材によって充填、固化されており、破壊にはかなりの労力を要したが、その下の点付け充填層では、バラスト相互が点付け状態に保たれており、比較的容易に破壊することができた。なお、完全充填層の厚さは約10cm、点付け充填層の厚さは約15cmであった。
【0048】
【実施例2】
現場で調整した安定材No.3を用いて、既設線の道床バラストの安定化を実施した。対象とした道床バラストは、土砂の混入の少ない、PCマクラギを敷設した在来の単線で、バラスト層の厚さは25cmであった。
【0049】
表2のNo.3の配合割合で所定量の原料を配合し、ミキサで2分間混練した。ミキサから試料を採取してJロート法でフロータイムを測定したところ、10.5秒であったので、直ちに、吹き付け機を用いて、30リットル/m2 の量で、道床バラスト側面部に、路線約20mにわたって吹き付け、安定材の漏れ止め層を形成した。
【0050】
次に、同じく表2のNo.3の配合割合で所定量の原料を配合し、ミキサで2分間混練した。フロータイムを測定したところ、10.8秒であったので、直ちに、注入ロートおよび注入具を用いて、漏れ止め層が形成された道床バラストに注入し、点付け充填工程を行った。このときの注入量は、35リットル/m2 であった。
【0051】
次いで、点付け充填工程を行ったのと同じ連続ミキサ中の安定材No.3を、注入ロートおよび注入具を用いて点付け充填工程が施された道床バラストに注入し、完全充填工程を行った。このときの安定材No.3のフロータイムは14.0秒で、注入量は25リットル/m2 あった。1時間後、安定化された道床バラストを一部破壊したが、完全充填層ではバラスト空隙が完全に安定材によって充填、固化されており、破壊にはかなりの労力を要したが、その下の点付け充填層では、バラスト相互が点付け状態に保たれており、比較的容易に破壊することができた。なお、完全充填層の厚さは約11cm、点付け充填層の厚さは約14cmであった。
【0052】
【実験例B】
ストレートアスファルト100重量部にスチレンブタジエン共重合体を10重量部添加して改質した改質アスファルトを安定材として使用して、実験室規模で道床バラストの安定化工法を実施した。すなわち、PCマクラギを敷設した在来線を模した層厚25cmの道床バラストを実験室内に構築し、上記改質アスファルトを200℃に加熱して、フロータイムを12.0秒に調整したものを、道床バラスト側面部に散布して、まず、漏れ止め層を構築した。使用量は、30リットル/m2 であった。次いで、上記改質アスファルトを230℃に加熱して、フロータイムを10.2秒に調整したものを、20リットル/m2 の割合でバラスト層に注入し、点付け充填層を構築した。なお、注入に際しては、注入配管やノズル部分に保温手段を施して、注入中に温度が下がらないように留意した。注入された改質アスファルトの冷却は自然冷却に任せた。最後に、加熱温度を210℃に下げ、フロータイムを10.8秒に調整した上記改質アスファルトを、30リットル/m2 の割合でバラスト層に注入して、完全充填層を構築した。構築された点付け充填層の厚さ、および、完全充填層の厚さは、それぞれ、15cmおよび10cmであった。施工後1時間経過後、繰り返し載荷試験を行ったが、沈下量は殆ど見られず、上記改質アスファルトが、高流動性並びに急硬性の点で問題のない安定材であることが確認された。
【0053】
【実施例3】
実験例Bで使用したのと同じ改質アスファルトを用い、既設の道床バラストの安定化を実施した。対象とした道床バラストは、土砂の混入の少ない、LPCマクラギを敷設した既設の複線で、バラスト層の厚さは25cm、対象区間は10mであった。
【0054】
工場で調整した改質アスファルトを現場で加熱し、加熱温度、フロータイム並びに使用量を実験例Bと同じ値に調整して施工した。ただし、漏れ止め層は、バラスト側面部にではなく、安定化すべきバラスト層の周辺部に、注入具を用いて改質アスファルトを注入することによって構築した。1時間後、安定化された道床バラストを一部破壊したが、完全充填層ではバラスト空隙が完全に安定材によって充填、固化されており、破壊にはかなりの労力を要したが、その下の点付け充填層では、バラスト相互が点付け状態に保たれており、比較的容易に破壊することができた。なお、完全充填層の厚さは約10cm、点付け充填層の厚さは約15cmであった。
【0055】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、安定材の注入工程を、バラスト空隙を残して、近接または接触しているバラスト相互を結合する点付け充填工程と、バラスト空隙を埋めて、バラスト空隙を完全充填する完全充填工程とに分けて行うという簡単な作業によって、バラスト上層部を完全充填状態とすると共に、バラスト下層部を点付け充填状態とすることが可能である。その結果、バラスト層全部を完全充填する従来の技術に比べて、使用する安定材の量が少なくて良いだけでなく、得られた安定化道床バラストは、列車荷重によって最も損傷を受けやすいバラスト上層部は安定材が完全充填されて十分な強度を有しているにも関わらず、バラスト下層部はバラスト相互が点付け状態とされているだけであるので、軌道狂いの矯正や、道床交換などの保守作業時には、バラスト下層部は比較的少ない労力で破壊可能であるので、バラスト層全体を完全充填している従来の技術に比べて保守作業の省力化が可能となるという優れた効果を有している。
【0056】
また、安定材の注入に先立って、安定材と同じ材料をバラスト層の側面部または周辺部に注入するだけの簡単な作業で、バラスト層に注入される安定材の漏れ止め効果を得ることができ、漏れ止めの為の型枠や不織布等の設置が不要となり、格段の省力化が実現できる。加えて、漏れ止め層の構築から、点付け充填工程、完全充填工程まで、すべての工程において、同じ安定材を使用することができるので、作業能率的にも優れた工法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 急硬性セメントペーストの混練プロセスを表す工程図である。
【図2】 急硬性セメントモルタルの混練プロセスを表す工程図である。
【図3】 急硬性CAPの混練プロセスを表す工程図である。
【図4】 急硬性CAMの混練プロセスを表す工程図である。
【図5】 本発明の漏れ止め工程を表す断面図である。
【図6】 本発明の漏れ止め工程の他の例を表す断面図である。
【図7】 本発明の点付け充填工程を表す断面図である。
【図8】 本発明の点付け充填工程の詳細を表す断面図である。
【図9】 本発明の完全充填工程を表す断面図である。
【図10】 本発明の完全充填工程の詳細を表す断面図である。
【符号の説明】
1 路盤
2 道床バラスト
3 バラスト
4 マクラギ
5 レール
6 注入孔
7 吹き付け機
8 漏れ止め層
9a、9b、9c 安定材
10 散布機
11 注入具
12 漏れ止め層
13 注入ロート
14 点付け充填層
15 完全充填層
Claims (7)
- 安定化すべき道床バラストに安定材を注入して道床バラストの安定化を行うに際し、安定材の注入を、注入された安定材によってバラスト下層部までを空隙を残した点付け状態とする点付け充填工程と、その点付け充填工程によって減少したバラスト空隙を埋めてバラスト上層部のみを完全充填する完全充填工程とに分けて行い、道床バラストの上層部を完全充填状態、下層部を点付け充填状態とすることを特徴とする道床バラストの安定化工法。
- 点付け充填工程で注入される安定材の粘度が、完全充填工程で注入される安定材の粘度よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の道床バラストの安定化工法。
- 安定材が、急硬性セメントペースト、急硬性セメントモルタル、急硬性セメントアスファルトペースト、急硬性セメントアスファルトモルタル、または加熱アスファルトであることを特徴とする請求項1または2記載の道床バラストの安定化工法。
- 安定材の注入に先立って、安定材が安定化すべき道床バラストの側面部から漏れ出すことを防止するために、安定材の漏れ止め工程を行うことを特徴とする請求項1、2または3記載の道床バラストの安定化工法。
- 安定材の漏れ止め工程が、安定化すべき道床バラストの側面部および/または周辺部に、安定材を吹き付け、散布、または注入して行われることを特徴とする請求項4記載の道床バラストの安定化工法。
- 請求項1、2、3、4または5記載の道床バラスト安定化工法によって安定化された道床バラスト。
- 安定材により完全充填された道床バラスト上層部と、安定材により点付け状態とされ空隙を残す道床バラスト下層部とを有する安定化された道床バラストを備えた軌道構造。
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