JP3874051B2 - 環状四量体テトラオールの製造方法 - Google Patents

環状四量体テトラオールの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
本発明者の最近の研究によって、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体(以下、環状四量体テトラオールという)は、溶媒中、緩和な条件下で縮合し、梯子状の構造を有するいわゆるラダーポリマーとなることが解明された(特願平11−53475号)。このようにして合成されるラダーポリマーは、耐熱性、電気絶縁性に優れ、かつ塗布性と耐クラック性に特に優れた性質を示すために、半導体の絶縁材料等に対する応用が可能である。
【0003】
その他にも、本環状四量体テトラオールは、完全に構造制御されたフェニルシロキサンオリゴマーとして様々な分野への応用が可能である。
【0004】
しかしながら、この環状四量体テトラオールの合成に関しては、従来、いくつかの研究者によって発表されているが、これらはフェニルトリクロロシランを水中で加水分解し、それを低温で長時間静置して結晶を生成せしめるというものであり、腐食性を有するクロロシランを原料として用いる点と、合成効率が低いという問題があった。即ち、BrownらがJ.Am.Chem.Soc.,87巻,4317(1965年)に記載した方法は、フェニルトリクロロシランをアセトンに溶解した溶液を大量の氷水の中に撹拌しながら加え、それを0℃で2日間静置することで結晶を形成させ、これを濾過し、二硫化炭素で洗浄した後、乾燥することで、収率52%でテトラオールが得られたというものである。しかし、この方法ではフェニルトリクロロシランは水と反応する際に激しく発熱するために、反応温度の制御が必要であることと、2日間という長時間が必要であるという問題があり、更に82.3gのフェニルトリクロロシランを反応させるためにアセトン140mL、氷水3100gが必要である。氷水の量を減らして高濃度で反応すると、テトラオールの収率が大幅に減少することが本発明者の検討で明らかになっており、反応のポット収率が悪く、生産性が低いという欠点を有する。
【0005】
木村らもフェニルトリクロロシランの加水分解を検討しており、それについて記載してあるPolymer Journal,30巻,234(1998年)によれば、6.3gのフェニルトリクロロシランを163mLのトルエンと815mLの水を用い、0℃で加水分解し、重曹で中和した後、0℃で更に一夜保持することで、重量平均分子量540の固体を得ている。この場合、生成物の構造が明確にされておらず、環状四量体テトラオールが生成しているかどうか不明であり、かつ、たとえ生成していたとしても、やはりポット収率が低く、生産性が低いという欠点が解消されているわけではない。
【0006】
以上の観点から、クロロシランではなく、それ自体腐食性を有しないアルコキシシラン又はヒドロキシシランから環状四量体テトラオールを合成する方法の開発が待たれていた。しかしながら、従来、そのような方法は知られていなかった。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
このような実状に鑑み、本発明者は、腐食性がなく、取り扱いが容易なアルコキシシラン又はヒドロキシシランを原料とする環状四量体テトラオールの生産性が高く効率的な合成方法の検討を行った。
【0008】
その結果、下記一般式(2)
1−Si(OR23 (2)
(但し、式中R1は置換又は非置換のフェニル基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18の直鎖又は分岐状の一価炭化水素基を表す。)
で表される有機ケイ素化合物を酸性水溶液中で加水分解すると、縮合が進行するに従い、加水分解縮合によって生成するオリゴマーが分離析出してくるが、これを溶液が凍らない程度に冷却して放置すると、析出した液状物が次第に固化してくると共に、水中に無色のやや粘稠な結晶が生成する。これを冷却下静置した後、生成する沈澱を分離し、その分析を行ったところ、この固体は環状四量体テトラオール、即ち下記一般式(1)で表される1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体を主成分とするものであることを知見した。また、この沈澱物をベンゼン、トルエン、キシレン等の上記環状四量体テトラオール(1)が不溶な溶剤に分散させ、この沈澱物中の可溶性成分をこの溶剤に溶解させ、不溶性固体を回収することにより、純良な環状四量体テトラオール(1)が効率よく得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
【化2】
Figure 0003874051
(但し、式中R1は置換又は非置換のフェニル基を表す。)
【0010】
従って、本発明は、上記式(1)で表される1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体を製造するにあたり、下記一般式(2)
1−Si(OR23 (2)
(但し、式中R1は置換又は非置換のフェニル基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18の直鎖又は分岐状の一価炭化水素基を表す。)
で表される有機ケイ素化合物を原料として用い、これを酸性水溶液中で反応させ、生成した沈澱を回収する工程を含むことを特徴とする1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体の製造方法を提供する。この場合、上記回収した沈澱を乾燥した後、これを1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体が不溶の溶剤に分散させ、この溶剤中の不溶性固体を回収するようにすることが有効である。
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明にかかる上記式(1)の1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体の製造方法は、下記一般式(2)
1−Si(OR23 (2)
で示される有機ケイ素化合物を酸性水溶液中で加水分解、縮合させるものである。
【0012】
ここで、式(2)において、R1は置換又は非置換のフェニル基であり、この場合、置換フェニル基の置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、一価の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシ基が挙げられる。
【0013】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が実例として挙げられる。
【0014】
一価の脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられるが、これらは炭素数1〜18、特に好ましくは炭素数1〜6であり、実例としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、1−ヘプチル基、1−ヘキシル基、ビニル基、アリル基、1−プロペン−2−イル基、エチニル基、1−プロペン−3−イル基が挙げられる。
【0015】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基が実例として挙げられ、これらはメチル基、エチル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0016】
アルコキシ基としては、炭素数1〜18、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基であり、実例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0017】
また、R2は水素原子又は炭素数1〜18の直鎖又は分岐状の一価炭化水素基であり、好ましくはアルキル基、特に好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0018】
上記有機ケイ素化合物として具体的には、フェニルシラントリオール、4−ビニルフェニルシラントリオール、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリ−iso−プロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−iso−ブトキシシラン、フェニルトリ−n−ヘキシルオキシシラン、4−ビニルフェニルトリメトキシシラン、4−ビニルフェニルトリエトキシシラン等が実例として挙げられる。
【0019】
次に、酸性水溶液に用いられる酸としては、水溶性であれば特に限定されるものではないが、酢酸、蟻酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、トリフルオロ酢酸などのカルボン酸類、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、para−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類が実例として挙げられる。これらの中で、塩酸や臭化水素酸などのそれ自体が揮発性である酸を使用することが、真空乾燥によって酸を容易に除去できるために望ましい。
【0020】
酸の濃度としては、加水分解、縮合が進行するのに十分な濃度であれば特に限定されるものではないが、通常0.001〜2.0mol/L、より好ましくは0.2〜1.0mol/Lの範囲である。
【0021】
酸性水溶液に対する有機ケイ素化合物の濃度としては、1〜50重量%の範囲とすることができるが、特に2〜10重量%で実施することが望ましい。
【0022】
また、沈澱の生成を制御する目的で、水に対して溶解性のある有機溶媒を添加することができ、そのような溶媒としては、メタノール、エタノール、iso−プロピルアルコール、tert−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、その量としては酸性水溶液中1〜50重量%の範囲である。
【0023】
反応温度としては、水溶液が凍らない程度の範囲で実施することが可能であり、室温〜−5℃で実施される。通常は室温で有機ケイ素化合物と酸性水溶液を反応し、加水分解が進行して均一な溶液になった後、冷却し沈澱の生成を進める。この間、大体30分間程度の反応時間が必要である。その後の熟成は−5〜10℃の範囲で5〜100時間、通常は10〜24時間撹拌することによって行うことができる。
【0024】
生成した沈澱は、上澄みの水溶液をデカンテーションによって除いた後に水洗し、真空乾燥することで、アモルファス状の固体とすることができる。
【0025】
このアモルファスは、GPC及び29Si−NMRを測定、解析することによって、環状四量体テトラオールを含む混合物であることが明らかになった。通常、その純度は10〜50%であるが、生成物の純度によって本発明は特に限定されるものではない。
【0026】
この混合物から環状四量体テトラオールを分離する方法としては、不純物との溶解度差を利用するのが最も効率的であり、乾燥によって得られた固体にベンゼン、トルエン、キシレン等の環状四量体テトラオールが不溶な溶剤を加え、撹拌すると、環状四量体テトラオールはこれら溶媒に対し不溶性であるため、結晶状のままで保持されるが、他の成分は溶解する。従って、これを濾過し、残渣を真空乾燥することによって、純粋な物質が単離できる。
【0027】
このようにして得られた環状四量体テトラオールは、下記一般式(1)で示されるもので、これは再結晶によって更に高純度にすることができるが、このままであっても少なくとも90%以上の純度を有するものであり、通常の使用に対し十分に高純度であるといえる。
【0028】
【化3】
Figure 0003874051
(但し、式中R1は置換又は非置換のフェニル基を表す。)
【0029】
この一般式(1)の環状四量体テトラオールは、耐熱性、電気絶縁性に優れ、かつ塗布性と耐クラック性に特に優れた性質を示す、高度に構造制御された、いわゆるラダー型構造を有するシリコーン樹脂を製造するための原料として、あるいは熱又は室温硬化型樹脂の添加物として有用である。
【0030】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
純水7.7L、アセトン363mLの混合液に濃塩酸252mLを加え、氷冷しながら撹拌し、5℃にした。これにフェニルトリメトキシシラン400gを投入し、撹拌を継続すると、白濁した溶液は数分後に均一溶液となり、更に約10分後再び白濁した。更にこの条件下で15時間保持すると、器壁に粘稠な沈澱が生成し、水層部はやや白濁した懸濁液になった。上澄みを除いた後、沈澱を純水で洗浄し、真空乾燥すると、アモルファス状の固体252.2gが得られた。この固体にベンゼン1Lを加えて室温で3時間撹拌した。その後、不溶性固体を濾過回収し真空乾燥することで、無色の結晶状の粉末85.83g(収率35%)が得られた。この結晶の融点は181℃であった。そのGPCスペクトル(図1)及びIRスペクトル(図2)等の解析によって、本結晶は、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオールであることが確認された。
【0032】
〔実施例2〕
フェニルトリエトキシシラン125.5gを用いて、実施例1と全く同様に反応を行った。その結果、アモルファス状の固体55.3gが得られた。これをベンゼン400mLに溶解し、室温で2時間撹拌後、不溶性固体を濾過回収、真空乾燥することで、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール25.3g(収率39.7%)が得られた。
【0033】
〔実施例3〕
フェニルトリ−iso−プロポキシシラン134.9gを用いて、実施例1と全く同様に反応を行った。その結果、アモルファス状の固体49.8gが得られた。これをベンゼン400mLに溶解し、室温で2時間撹拌後、不溶性固体を濾過回収、真空乾燥することで、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール18.0g(収率30.8%)が得られた。
【0034】
〔実施例4〕
フェニルトリ−n−ヘキシルオキシシラン213.3gを用いて、実施例1と全く同様に反応を行った。その結果、アモルファス状の固体50.9gが得られた。これをベンゼン400mLに溶解し、室温で2時間撹拌後、不溶性固体を濾過回収、真空乾燥することで、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール12.6g(収率19.8%)が得られた。
【0035】
〔実施例5〕
4−ビニルフェニルトリメトキシシラン117.1gを用いて、実施例1と全く同様に反応を行った。その結果、アモルファス状の固体62.1gが得られた。これをベンゼン400mLに溶解し、室温で2時間撹拌後、不溶性固体を濾過回収、真空乾燥することで、1,3,5,7−テトラ(4−ビニルフェニル)シクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール31.0g(収率19.8%)が得られた。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、腐食性がなく、取り扱いが容易なアルコキシシラン又はヒドロキシシランを原料として、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体を効率的に合成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の環状シロキサンのGPCスペクトルである。
【図2】実施例1の環状シロキサンのIRスペクトルである。

Claims (3)

  1. 下記一般式(1)
    Figure 0003874051
    (但し、式中R1は置換又は非置換のフェニル基を表す。)
    で表される1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体を製造するにあたり、下記一般式(2)
    1−Si(OR23 (2)
    (但し、式中R1は置換又は非置換のフェニル基を表し、R2は水素原子又は炭素数1〜18の直鎖又は分岐状の一価炭化水素基を表す。)
    で表される有機ケイ素化合物を原料として用い、これを酸性水溶液中で反応させ、生成した沈澱を回収する工程を含むことを特徴とする1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体の製造方法。
  2. 上記回収した沈澱を乾燥した後、これを1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン−1,3,5,7−テトラオール又はその置換体が不溶の溶剤に分散させ、この溶剤中の不溶性固体を回収する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. 上記溶剤がベンゼン、トルエン又はキシレンである請求項2記載の製造方法。
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