JP3873578B2 - エピスルフィド化合物の製造方法、それにより得られたエピスルフィド化合物を含む硬化性組成物及びその硬化物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脂環式骨格を有するエピスルフィド化合物を含む硬化性組成物及びその硬化物に関する。本発明の硬化性組成物は、適当な基材、例えばシリコンウエハ、ガラス、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、アルミ箔、銅箔等に塗布し、これを他の基材で覆ったのち、加熱して硬化させて接着させる接着剤に使用したり、あるいは、型等を用いて成形し、例えばランプ、発光ダイオード、半導体チップ等の成形体に使用し得るものである。また、本発明の硬化性組成物は、低い温度または短い時間で硬化し、無色透明でかつ誘電率の低い硬化物を与える組成物である。
【0002】
【従来の技術】
熱硬化性樹脂は、その用途によって、(1)熱硬化前の粘度、保存安定性等といった作業性の面、(2)接着性、硬化速度等といった加工性の面、及び(3)可撓性、耐候性、誘電率等に代表される硬化物の物性の面から、様々な性能が要求される。しかしながら、硬化速度を上げようとすると保存安定性や接着性が損なわれたりすることがあり、これら全ての要求性能を同時に満足させることは、必ずしも容易ではない。
【0003】
熱硬化性樹脂の代表であるエポキシ樹脂は、必要に応じて、エポキシ化合物と反応して結合する部位を同一分子内に2箇所以上持ち架橋を形成する硬化剤、及び/または硬化反応促進の為に加えられる硬化触媒に代表される各種添加剤を添加して使用する。
エポキシ樹脂の技術発展は、まず、硬化速度を速めたり硬化温度を下げるといった硬化条件の改良要求に応えることに始まった。エポキシ樹脂のオキシラン環に修飾を施してその反応性を調整することによって、保存性等の作業性や硬化後の高い接着力といった性能と両立させつつ硬化条件の改良がなされてきた。近年の、更なる硬化条件の改良要求に対しては、オキシラン環の修飾には限界があるため、硬化促進剤や触媒の開発が主として行われた。この際、硬化剤については、現実的に使用に供し得る化合物が限られているうえ、硬化条件に制約をもたらし、加えて、硬化物の物性にも大きな影響を及ぼすので、検討対象はかなり限られていた。
【0004】
一方、近年、発光ダイオードや半導体チップ等の電子部品の封止材としての用途が注目されるようになったのに伴い、硬化条件の他に、硬化物の物性について様々な性能が要求されてきている。重要な課題としては、硬化物の吸湿性を下げること、接着性を高めること、可撓性を付与すること等が挙げられる。こうした改良に向けて、各種の添加剤、例えばフィラーや繊維等の無機物、ポリマーやゴム等の有機物等の添加が検討されている。しかし、これらの物質を添加すると、硬化前の粘度が上がって作業性を損なったり、或いは、添加物とエポキシ化合物との相容性が低いために、性能が安定しなかったり新たな課題をもたらす、といった状況で、必ずしも満足な結果は得られていない。
【0005】
更に、近年の半導体や携帯電話などでは高周波数化の傾向にあり、それに伴って、これらの用途向けの材料については、誘電率、誘電正接に起因する誘電特性が重要視されつつある。エポキシ樹脂に比して誘電率が低く、誘電特性に優れる材料として、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリテトラフルオロエチレンに例示される熱可塑性ポリマーが知られている。しかし、これら熱可塑性ポリマーには接着性はなく、また溶融粘度や溶液粘度が高いため、硬化性樹脂のような作業性はない。従って、誘電率が低い硬化物を与えるような硬化性樹脂を提供することは、電気電子分野の今後の技術発展に大きく寄与するものと期待される。
【0006】
一方、エピスルフィド化合物は、分子内にチイラン環を有する化合物であり、チイラン環は、エポキシ樹脂のオキシラン環と同様に開環反応を起こして硬化物を形成する性質を持つ。例えば、特開平10−338810号公報や特開平11−116772号公報ではカルボジイミドとエピスルフィド化合物の反応例が示されている。また、特開平11−166037号公報では、特定の構造を有するエピスルフィド化合物と活性水素を有する化合物との組成物の例が挙げられている。
【0007】
また、特開平11−209576号公報や特開平11−209689号公報ではエポキシ樹脂(オキシラン環を有する化合物)とエピスルフィド樹脂(チイラン環を有する化合物)をポリアミドアミンで硬化させる例が記載されている。更に、特開平11−140161号公報にも、アミン化合物、或いは酸無水物との反応の例が示されている。しかしながら、一般的にポリアミドアミンによる硬化物は吸湿量が多く、また、組成物の保存性が低いので、例えば、半導体チップや発光ダイオード等の封止材といった低吸水性、低誘電率が要求される電気電子用途には不適当である。また酸無水物との硬化物はガラス転移点が低いといった欠点がある。
また、特開平7−138254号公報、特開平7−196800号公報ではチイラン環を有する芳香族化合物が例示されている。一般に芳香族化合物は耐熱性は高いが、光や熱により酸化され着色しやすい性質を有する。そのため、着色を防止するためには、酸化防止剤などを添加する必要がある。しかしながら、酸化防止剤は光の強度によっては効果が低下することがある上に、酸化防止剤が硬化物中から析出し、これにより表面の汚染や光透過性の低下を起こすことがある。従って、高度な耐候性が要求される用途、或いは発光ダイオード封止材等のように高度な光透過性が要求される用途に共するには、このような酸化防止剤添加は抜本的な改良とはなっていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものであって、(1)硬化前溶液の粘度、保存安定性等の作業性の面、(2)基板等との接着性、硬化速度等の加工性の面、及び(3)可撓性、耐候性、誘電率等の物性の面から優れ、接着剤、積層体材料としての用途に加え、ランプ、発光ダイオード、半導体チップ等の封止にも好適で、新規な硬化性組成物を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、分子内に脂環式骨格を有する特定構造のエピスルフィド化合物が、低温での硬化性能が良好であり、その硬化物が無色透明で、且つ基材との接着性と可撓性に優れている事を見いだし本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、分子内に少なくとも1つの芳香環または不飽和脂肪族環及び少なくとも2つのオキシラン環を有するエポキシ化合物の芳香環または不飽和脂肪族環上の炭素−炭素不飽和結合を水素化し、得られた水素化物を硫化剤と反応させてオキシラン環の酸素原子を硫黄原子に置換することによりエピスルフィド化合物(但し下記一般式(1)〔式中、R 1 〜R 6 は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは0〜20の数を示し、Z 1 及びZ 2 は硫黄原子又は酸素原子を示し、少なくともいずれか一方が硫黄原子である。〕で示されるエピサルファイド樹脂を除く
【0010】
【化2】
【0011】
・・・(1))を得ることを特徴とする、エピスルフィド化合物の製造方法に存する。
【0012】
又、本発明の要旨は、前記方法により得られたエピスルフィド化合物に硬化剤及び/又は硬化触媒を加えることを特徴とする硬化性組成物の製造方法、及び、該方法により得られた硬化性組成物を加熱し硬化させることを特徴とする硬化物の製造方法にも存する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、分子内に、少なくとも1つ以上の脂環式骨格を有し、且つ少なくとも2つ以上のオキシラン環またはチイラン環を有し、そのうち1つ以上はチイラン環であるエピスルフィド化合物を用いることを一つの特徴とする。
本発明の「エピスルフィド化合物」とは、脂環式骨格を分子内に1つ以上有し、且つチイラン環部位を2つ以上有する単一のエピスルフィド化合物、または、脂環式骨格を分子内に1つ以上有し、且つチイラン環部位を2つ以上有するという条件を満たす2種類以上のエピスルフィド化合物の混合物、或いは、上記の化合物または混合物に含まれるチイラン環部位の一部が硫黄ではなく酸素となりオキシラン環を形成しているようなエピスルフィド化合物の混合物を指す。
本発明のエピスルフィド化合物には、オキシラン環のみを有するエポキシ化合物が混入していてもよい。
【0014】
上記した、単一のエピスルフィド化合物は、1つ以上の脂環式骨格からなる基本骨格、及びチイラン環部位を含む置換基から構成される。チイラン環部位を含む置換基は、分子内に2つ以上存在するが、互いに同一の構造をとらなくてもよい。この置換基の数は、2〜10が好ましく、2〜4がより好ましい。
基本骨格は、単一の脂環式骨格のみから、若しくは、複数の脂環式骨格及びこれらの脂環式骨格を連結する基から構成される。
【0015】
上記した「脂環式骨格」とは、炭素鎖が環状に閉じた構造で且つその環状部位が芳香族性を示さないものを表し、複数の環状構造が縮環していてもよい。また、環状部位は、これが芳香族性を示さない限り不飽和結合を含んでもよい。合成のし易さ等を勘案すると、これらの中でも、5員環、6員環、並びに、5員環及び/または6員環が縮環した構造が好ましい。より好ましい構造としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、デカリン環、シクロペンタジエンが2分子縮合した4,8−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカジエン、及びその還元体であるトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン等が例示され、最も好ましい構造はシクロヘキサン環である。
【0016】
分子内に2つ以上の脂環式骨格がある場合に、それらを連結する基としては、炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、エーテル結合、エステル結合、及びアミド結合、並びにこれらを2つから3つ組合せた構造が例示される。これらの中で、好ましい例は、メチレン基、ジメチルメチレン基等、下記式(1)〜(3)に示される構造が挙げられる。
【化1】
【0017】
また、複数の脂環式骨格を連結する部位の特殊な例として、ただの化学結合が好ましく挙げられ、この場合、一方の脂環式骨格上の炭素と他方の脂環式骨格上の炭素とが直接、共有結合で連結される。
上記した、2つの脂環式骨格を含む構造の好ましい例を、下記式(4)〜(8)に示す。
【化2】
【0018】
更に、3つの脂環式骨格がある場合に、それら3つを連結する部位としては、炭素数1〜10の3価の非環式飽和炭化水素基が好ましく例示される。3価の非環式飽和炭化水素基の炭素数は、1〜3がより好ましい。
3つ以上の脂環式骨格を含む構造の好ましい例を、下記式(9)〜(13)に示す。
【化3】
これらの中で最も好ましい脂環式骨格は、(4)、(5)、(7)、(13)に示すものである。
【0019】
次に、チイラン環部位を含む置換基の構造を説明する。この構造は、チイラン環部位、及びこれと脂環式骨格を含む基本骨格とを連結する基から構成される。
チイラン環部位は、下記式(14)で示される。これは、上記脂環式骨格を含む基本骨格と連結する基が一方の炭素原子に結合する以外は、いずれの炭素も無置換である末端チイラン環基である。
【化4】
【0020】
脂環式骨格を含む基本骨格と該チイラン環部位を連結する基としては、炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、エーテル結合、エステル結合、及びアミド結合、並びにこれらを2つから3つ組合せた構造が好ましく例示される。
上記したチイラン環部位を含む置換基の好ましい構造例を、下記式(15)〜(19)に示す。
【化5】
これらの中で、合成のし易さ等を勘案すると、2,3−エピチオプロポキシ基、3,4−エピチオブトキシ基、2,3−エピチオプロポキシメチル基が特に好ましい。
【0021】
上述したように、チイラン環部位を含む置換基は、分子内に2つ以上存在するが、互いに同一の構造をとらなくてもよい。これらのチイラン環部位を含む置換基が基本骨格に結合する位置は、該基本骨格の構造に含まれる脂環式骨格を構成する炭素原子のいずれかである。チイラン環部位を含む複数の置換基は、別々の炭素原子と結合しているのが好ましく、また、2つ以上の脂環式骨格がある場合には、別々の脂環式骨格と結合しているのが好ましい。
更に、この基本骨格は、チイラン環部位を含む置換基の他に、置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基等が好ましく、特に、メチル基、エチル基、メトキシ基、及びエトキシ基が好ましい。
【0022】
以上、詳述した本発明のエピスルフィド化合物、即ち、脂環式骨格を分子内に1つ以上有し、且つチイラン環部位を2つ以上有する化合物の具体例を示すと、2,2−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)プロパン、ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)メタン、4,8−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.0 2.6]デカン、3,9−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.0 2.6]デカン、3,8−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.0 2.6]デカン、4,8−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)−トリシクロ[5.2.1.0 2.6]デカン、3,9−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)−トリシクロ[5.2.1.0 2.6]デカン、3,8−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、1,1,1−トリス−(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)エタン、1−(2−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)−1,1−ビス−(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)エタン、1,1,2,2−テトラキス−(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)エタン等を挙げることが出来る。
【0023】
本発明のエピスルフィド化合物の製造方法は、目的化合物が合成できる方法である限りは特に制限はない。好ましい製造方法としては、対応エポキシ化合物を原料として、当業者に公知の方法により、硫化物を用いてオキシラン環をチイラン環に変換する方法が挙げられる。ここで、「対応エポキシ化合物」とは、エピスルフィド化合物のチイラン環の硫黄原子が酸素原子に置き換わった構造を持つ化合物を指す。この方法に於いて、好ましい硫化剤としては、チオ尿素類、チオシアン酸塩類等が挙げられる。中でも、チオ尿素、及びチオシアン酸カリウムが特に好ましい。具体的には、例えば、J. M. Charlesworth, J. Polym. Sci. Polym. Phys., 17, 329 (1979)に記載のチオシアン酸塩を用いる方法が、また、R. D. Schuetz et al, J. Org. Chem., 26, 3467 (1961) に記載のチオ尿素を用いる方法が挙げられる。
【0024】
次に、本発明のエピスルフィド化合物の条件を満たす2種類以上の化合物の混合物とは、上記に詳述した化合物の中の2種類以上の化合物の混合物であり、その混合比は任意である。好ましくは、混合する化合物は、2〜5種類であり、この混合物は更に、対応エポキシ化合物を含有していてもよい。
この混合物の製造方法としては、別個に製造した2種類以上の化合物を混合してもよいし、2種類以上の対応エポキシ化合物が含まれる物質を同様に処理して、これらのオキシラン環をチイラン環と変換してもよい。具体例としては、工業的に生産される芳香環を含むエポキシ化合物を触媒存在下に水素化処理して得られる脂環式エポキシ化合物を原料とした、上記のオキシラン環をチイラン環に変換する製造方法と同様の方法が挙げられる。
【0025】
次に、本発明のエピスルフィド化合物の中、上記した単一の化合物または混合物に含まれるチイラン環部位の一部が硫黄ではなく酸素となりオキシラン環を形成しているような化合物または混合物について説明する。
このエピスルフィド化合物において、チイラン環とオキシラン環の比は、特に制限はない。混合物全体に含まれるチイラン環とオキシラン環の合計に対するチイラン環のモル比率として、好ましくは25%〜100%、より好ましくは30%〜100%であるものが使用される。チイラン環への変換率が高くなるにつれて、これを用いた硬化物の特性がより良好になる傾向にある。これらのチイラン環への変換の状況は、例えばプロトンNMR等により確認できる。
【0026】
この一部オキシラン環を含む混合物の製造方法としては、上述の単一の化合物または混合物の合成法に例示された対応エポキシ化合物のオキシラン環をチイラン環に変換する上記の反応に於いて、反応条件を調整することによって製造できる。特に、工業的に生産される芳香環を含むエポキシ樹脂化合物を、触媒存在下に水素化処理して得られる脂環式エポキシ化合物を原料として、上記のように製造するのが好ましい。
【0027】
かくして、本発明の一態様(第2の態様)として、分子内に少なくとも1つの芳香環または不飽和脂肪族環及び少なくとも2つのオキシラン環を有するエポキシ化合物の芳香環または不飽和脂肪族環上の炭素−炭素不飽和結合を水素化し、得られた水素化物を硫化剤と反応させてオキシラン環の酸素原子を硫黄原子に置換することを特徴とする方法により得られるエピスルフィド化合物が提供される。
【0028】
上記エピスルフィド化合物の製造方法中、水素化処理過程に於いて、オキシラン環を有する化合物(以下、「対応エポキシ化合物」と略記することがある。)に含まれる芳香環または不飽和脂肪族環は、その一部または全部が脂環式骨格に変換される。本発明に於いては、この水素化処理は、オキシラン環の導入よりも後に行われる。この際、オキシラン環よりも、芳香環または不飽和脂肪族環の方が選択的に還元される反応条件を用いることが好ましい。水素化処理方法としては、特に制限はないが、ロジウムまたはルテニウムを比表面積5〜600m2/gの範囲にある炭素質担体に担持した触媒を用いる方法が、好ましく例示される(特開平11−217379号公報参照)。
上記水素化処理過程に於いては、原料である芳香環を構成する炭素原子、または不飽和脂肪族環の不飽和結合を構成している炭素原子の中で、好ましくは70%以上が、より好ましくは85%以上が水素化される。これらの水素化の状況は、例えばプロトンNMR等により確認できる。
【0029】
これに引き続くチイラン環の導入は、目的化合物が合成できる限りは特に制限はない。好ましい例としては、適切な硫化剤を用いてオキシラン環をチイラン環に変換する方法が挙げられる。好ましい硫化剤としては、チオ尿素類、チオシアン酸塩類等が挙げられる。中でも、チオ尿素、及びチオシアン酸カリウムが特に好ましい。具体的には、例えば、J. M. Charlesworth, J. Polym. Sci. Polym. Phys., 17, 329 (1979)に記載のチオシアン酸塩を用いる方法が、また、R. D. Schuetz et al, J. Org. Chem., 26, 3467 (1961)に記載のチオ尿素を用いる方法が挙げられる。
どれだけのオキシラン環をチイラン環に変換するかは、特に制限はない。混合物全体に含まれるチイラン環とオキシラン環の合計に対するチイラン環のモル比率として、好ましくは25%〜100%、より好ましくは30%〜100%となるまで変換する。チイラン環への変換率が高くなるにつれて、これを用いた硬化物の特性がより良好になる傾向にある。これらのチイラン環への変換の状況は、例えばプロトンNMR等により次の通り確認できる。
【0030】
プロトンNMRの測定は当業者に公知の手順で行われる。具体的には、分子内に、少なくとも1つ以上の脂環式骨格を有し、且つ少なくとも2つ以上のオキシラン環またはチイラン環を有し、そのうち1つ以上はチイラン環である化合物を5〜20重量%となるように重水素化したクロロホルム溶媒に溶解し、300MHzのFT−NMRにて、4〜16回、通常は8回積算を行う。ここで、テトラメチルシランを標準として化学シフトが2.20±0.15ppm及び2.55±0.15ppmの範囲に、それぞれメチレンプロトンに由来するシグナルが1つずつ観測される。これらは本発明にて使用されるエピスルフィド化合物に含まれるチイラン環上のメチレンプロトンに帰属される。該メチレン由来のシグナルは、その化合物の構造にもよるが、多くの場合、ダブレットの形状で観測され、そのカップリング定数は約6.1Hz程度である。これら2つのメチレンプロトンは同一炭素原子に結合しているが、互いに非等価であるため、ほぼ等強度の2つのシグナルを与える。これら2つのシグナルの関係は、例えば、従来の2次元NMR測定手法によっても判別することができる。
【0031】
また、該チイラン環の硫黄が酸素となったオキシラン構造が含まれている場合、化学シフトが2.65±0.15ppm及び2.80±0.15ppmの範囲に、それぞれメチレンプロトンに由来するシグナルが1つずつ観測される。これらは、該オキシラン環上のメチレンに帰属される。該メチレン由来のシグナルは、その化合物の構造にもよるが、多くの場合、マルチプレットの形状で観測される。これら2つのメチレンプロトンは同一炭素原子に結合しているが、互いに非等価であるため、ほぼ等強度の2つのシグナルを与える。これら2つのシグナルの関係は、例えば、従来の2次元NMR測定手法によっても判別することができる。
【0032】
本発明に於いては、2.20±0.15ppm、及び2.80±0.15ppmの範囲に1つずつ観測される2種類のメチレンのシグナル強度の和に対して、2.20±0.15ppmの1種類のメチレンのシグナル強度が、好ましくは25%以上である化合物、より好ましくは30%以上である化合物が使用される。ここで、2.20±0.15ppmの範囲に観測される1種類のメチレンのシグナルとは、上述したエピスルフィド化合物に含まれるチイラン環上のメチレンプロトンに由来する2つのシグナルのうち、より低磁場側のものを意味する。また、2.80±0.15ppmの範囲に観測される1種類のメチレンのシグナルとは、上述したオキシラン環上のメチレンプロトンに由来する2つのシグナルのうち、より高磁場側のものを意味する。
【0033】
かくして、本発明の一態様(第3の態様)として、分子内に、少なくとも1つ以上の脂環式骨格を有し、且つ少なくとも2つ以上のオキシラン環またはチイラン環を有し、そのうち1つ以上はチイラン環である化合物であって、プロトンNMRを測定した際に、化学シフトが2.20±0.15ppmの領域に観測される1種類のメチレンプロトン由来のシグナルの強度が、上記シグナルの強度と化学シフトが2.80±0.15ppmの領域に観測される1種類のメチレンプロトン由来のシグナルの強度との和に対して、30%以上である事を特徴とするエピスルフィド化合物が提供される。
【0034】
本発明のエピスルフィド化合物を前記した水素化処理過程を経る方法により製造する際に、その原料としては、少なくとも1つの芳香環または不飽和脂肪族環、及び少なくとも2つのオキシラン環を有する化合物が用いられる。この原料は、1つ以上の芳香環または不飽和脂肪族環からなる基本骨格、及びオキシラン環部位を含む置換基から構成される。このオキシラン環部位を含む置換基は、分子内に2つ以上存在するが、互いに同一の構造をとらなくてもよい。この置換基の数は、2〜10が好ましく、2〜4がより好ましい。
【0035】
基本骨格は、単一の芳香環または不飽和脂肪族環のみから構成されるか、若しくは、複数の芳香環及び/または不飽和脂肪族環、及びこれらの骨格を連結する基から構成される。
基本骨格を構成する1つ以上の芳香環または不飽和脂肪族環としては、合成のし易さ等を勘案すると、5員環、6員環、並びに、5員環及び/または6員環が縮環した構造が好ましい。より好ましい構造としては、シクロペンタジエン環、ベンゼン環、ナフタレン環、テトラリン環、及びシクロペンタジエンが2分子縮合した4,8−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカジエン等が例示され、最も好ましい構造は、ベンゼン環、及びナフタレン環である。
【0036】
分子内に2つ以上の芳香環及び/または不飽和脂肪族環がある場合に、それらを連結する基としては、炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、エーテル結合、エステル結合、及びアミド結合、並びにこれらを2つから3つ組合せた構造が例示される。これらの中で、好ましい例は、メチレン基、ジメチルメチレン基等、下記式(20)〜(22)に示される構造が挙げられる。
【化6】
【0037】
また、複数の芳香環及び/または不飽和脂肪族環を連結する特殊な例として、ただの化学結合が好ましく挙げられ、この場合、一方の環状骨格上の炭素と他方の環状骨格上の炭素とが直接、共有結合で連結される。
上記した、2つの芳香環及び/または不飽和脂肪族環を含む構造の好ましい例を、下記式(23)〜(27)に示す。
【化7】
【0038】
更に、3つの芳香環及び/または不飽和脂肪族環がある場合に、それら3つを連結する部位としては、炭素数1〜10の3価の非環式飽和炭化水素基が好ましく例示される。3価の非環式飽和炭化水素基の炭素数は、1〜3がより好ましい。
3つ以上の芳香環及び/または不飽和脂肪族環を含む構造の好ましい例を、下記式(28)〜(32)に示す。
【化8】
これらの中で最も好ましい芳香環骨格は、(23)、(24)、(26)、(32)に示すものである。
【0039】
次に、上記原料に含まれるオキシラン環部位を含む置換基の構造を説明する。この構造は、オキシラン環部位、及びこれを基本骨格と連結する基から構成される。
オキシラン環部位は、下記式(33)で示される。これは、上記基本骨格と連結する基が一方の炭素上に結合する以外は、いずれの炭素も無置換である末端オキシラン環基である。
【化9】
【0040】
オキシラン環部位を基本骨格と連結する基としては、炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜10の2価の非環式飽和炭化水素基、エーテル結合、エステル結合、及びアミド結合、並びにこれらを2つから3つ組合せた構造が好ましく例示される。
上記したオキシラン環部位を含む置換基の好ましい構造例を、下記式(34)〜(38)に示す。
【化10】
これらの中で、合成のし易さ等を勘案すると、グリシジルオキシ基、グリシジルオキシメチル基が特に好ましい。
【0041】
上述したように、オキシラン環部位を含む置換基は、分子内に2つ以上存在するが、これらは互いに同一の構造をとらなくてもよい。これらの置換基が基本骨格に結合する位置は、基本骨格に含まれる芳香環または不飽和脂肪族環を構成する炭素原子のいずれかである。オキシラン環部位を含む複数の置換基は、別々の炭素原子と結合しているのが好ましく、また、2つ以上の芳香環及び/または不飽和脂肪族環がある場合には、別々の環状骨格と結合しているのが好ましい。
更に、この基本骨格は、オキシラン環部位を含む置換基の他に、置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基等が好ましく、特に、メチル基、エチル基、メトキシ基、及びエトキシ基が好ましい。
【0042】
以上、詳述した本発明のエピスルフィド化合物製造用原料、即ち、芳香環及び/または不飽和脂肪族環を分子内に1つ以上有し、且つオキシラン環部位を2つ以上有する化合物の具体例として例えば、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、ビス(4−グリシジルオキシフェニル)メタン、1,6−ジ(グリシジルオキシ)ナフタレン、1,1,1−トリス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン、1−(2−グリシジルオキシフェニル)−1,1−ビス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス−(4−グリシジルオキシフェニル)エタン等を挙げることが出来る。更に、工業的に生産される芳香環を含む各種エポキシ化合物も好ましく例示される。具体例としては、油化シェルエポキシ社製エピコート828(主として2,2−ビス(4−グリシドキシフェニル)プロパンからなるエポキシ樹脂)、同社製エピコート807(主としてビス(4−グリシドキシフェニル)メタンからなるエポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0043】
以上に詳述した本発明のエピスルフィド化合物は、硬化性組成物の成分として使用できる。
かくして、本発明の一態様(第4の態様)により、上記したエピスルフィド化合物を含むことを特徴とする硬化性組成物が提供される。本発明の硬化性組成物は、更に必要に応じて、硬化剤及び/または硬化触媒を加えて使用することが好ましい。同一の化合物を、硬化剤または硬化触媒として用いてもよい。
【0044】
硬化剤及び/または硬化触媒としては、上述したエピスルフィド化合物を硬化させる機能を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、アミン化合物、イミダゾール化合物、ホスフィン化合物、フェノール化合物、カルボン酸または酸無水物、光酸発生剤、光塩基発生剤等が使用できる。具体的には、アミン化合物、イミダゾール化合物としては、例えば、1,4−ジアミノブタン、ジエチレントリアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジシアノジアミド、2−(N,N−ジエチルアミノ)エタノール、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等、及びこれらの塩が例示される。ホスフィン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン(TPP)、トリオルトトリルホスフィン、トリブチルホスフィン等、及びこれらの塩が例示される。フェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、ビス(4−グリシジルオキシフェニル)メタン、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が例示される。カルボン酸または酸無水物としては、例えば、マレイン酸またはその無水物、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸またはその無水物が例示される。光酸発生剤としては、例えば、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネー等が例示される。光塩基発生剤としては、例えば、1−(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)ピペリジン、1−(1,1−ジメチル−2−フェニルスルホニルエトキシカルボニル)ピペリジン等が例示される。
【0045】
これらの硬化剤及び/または硬化触媒は、互いにその反応性を阻害しない限り、複数種類の化合物を併用してもよい。
硬化剤及び/または硬化触媒の添加量は、その化合物の反応性を勘案して決定されるが、上述したエピスルフィド化合物100重量部に対して0.05から10重量部が好ましく、さらに好ましくは0.1から5重量部である。0.05重量部より少ないと効果時間が長めになる傾向があり、また、10重量部より多いと硬化に伴う発熱が大きくなる傾向がある。
【0046】
更に、硬化性組成物には、必要に応じて、特性を低下させない程度にエポキシ化合物を併せて使用してもよい。
また、硬化前の柔軟性を向上させることと硬化後の保持材料とすることを目的に、接着剤として高分子量物質を加えてもよい。例えば、硬化物の性能が下がらない範囲で、ポリビニルブチラール、アクリルポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等を使用することが出来る。これらの成分を過剰に加えると、硬化物のガラス転移点温度が下がったり、比誘電率が上がる傾向にあるので、添加量は、本発明のエピスルフィド化合物100グラムに対して0〜20グラムの範囲が好ましい。
また、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等のフィラー、銅、銀、金等の金属粒子等を必要性や用途に応じて添加しても良い。
【0047】
あるいはこれらの硬化性組成物を溶剤に溶解させ、適当な基材に塗布したりあるいは適当な織物に含浸させて使用することが出来る。この場合の溶剤は有機系溶剤であれば限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、乳酸メチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒等をその加工方法に応じて単独または複数混合して使用することが出来る。
硬化前に溶剤を使用した場合は乾燥した後、溶剤を使わない場合はそのまま、熱風オーブン等で加熱し、シートの場合は熱板等で加熱し硬化物を得ることが出来る。硬化条件としては、加熱によるものが好適で、加熱温度は60〜180℃、加熱時間は3〜120分が好ましい。
【0048】
かくして、本発明の一態様(第5の態様)により、上記硬化性組成物を硬化させることにより得られる硬化物が提供される。本発明の硬化性組成物及びその硬化物は様々な用途に使用することができる。硬化性組成物の用途としては、接着剤及び封止材として、並びに、積層板、複合材等の成形体の原料としての使用が例示される。また、硬化物の用途としては、積層材、複合材、電子部品の材料としての使用が例示される。硬化性組成物及びその硬化物の好ましい用途としては、例えば屋外で使用される等の理由から耐候性が要求される部材としての使用、光源機器や半導体チップ等の電子部品の封止材のように光透過性及び/または誘電特性が要求される部材及び/または装置としての使用が挙げらる。特に、ランプ、発光ダイオード等に例示される光源機器の封止材としての使用が最も好ましい。
かくして、本発明の一態様(第6の態様)により、上記硬化物が用いられることを特徴とする光源機器が提供される。
【0049】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例及び比較例において、硬化性組成物及び/または硬化物の色相は色差計(スガ試験機)、誘電率はインピーダンスアナライザ(日本ヒューレットパッカード社製HP4291A)で測定した。
【0050】
製造例1 脂環式構造を有するエポキシ化合物の製造(1)
50グラムの油化シェルエポキシ社製エピコート828(主として2,2−ビス(4−グリシドキシフェニル)プロパンからなるエポキシ樹脂)、1.75グラムのロジウム触媒(特開平11−217379号公報の実施例1に記載の方法に準じて製造した触媒で、グラファイトを担体とし、担体に対して5%の金属ロジウムを担持させたもの)、150グラムのテトラヒドロフランを金属製のオートクレーブに入れて毎分500回で攪拌しながら水素を70kg/cm2で加圧し、容器を70℃で2時間加熱した。得られた液を濾過して触媒を除き、減圧下で濃縮し、2,2−ビス(4−グリシドキシシクロヘキシル)プロパンを49.7グラム得た(以下、この化合物を「エポキシ化合物A」と略記する)。
エポキシ化合物AのプロトンNMR測定を行い、芳香族炭素に置換した水素原子のパターンは観測されないこと、即ち芳香環が100%水素化されたことを確認した。
【0051】
製造例2 脂環式構造を有するエポキシ化合物の製造(2)
エピコート828の代わりに油化シェルエポキシ社製エピコート807(主としてビス(4−グリシドキシフェニル)メタンからなるエポキシ樹脂)を用いた以外は、製造例1と同様に水素化処理し、ビス(グリシドキシシクロヘキシル)メタンを得た(以下、この化合物を「エポキシ化合物C」と略記する)。
エポキシ化合物CのプロトンNMR測定を行い、芳香族炭素に置換した水素原子のパターンは観測されないこと、即ち芳香環が100%水素化されたことを確認した。
【0052】
実施例1 脂環式骨格及びチイラン環を有する化合物の製造(1)
製造例1と同様に調製した50グラムのエポキシ化合物Aを300ml四つ口フラスコに秤取し、これに100グラムの2−ブタノン、100グラムのメタノールを加え該エポキシ化合物Aを溶解させた。フラスコを40℃の油浴に入れ、これに55グラムのチオシアン酸カリウムをゆっくり加え、固体が軽く動く程度に攪拌した(反応が進行するとともに液層は2層に分離した)。加熱攪拌5時間後、油浴よりフラスコを出して放冷後、これに50mlの水を加えて上層の有機層をとりわけ、下層の水層は30mlのトルエンで2回洗浄し、先の有機層と合わせた。有機層を飽和食塩水で洗浄し、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて一晩放置した。その後、減圧濾過で固体を濾別し、濾液を減圧下で濃縮することにより、脂環式骨格及びチイラン環を有する化合物を54.5グラム得た(以下、これを「エピスルフィド化合物B」と略記する)。
エピスルフィド化合物BのプロトンNMR測定を行い、チイラン環とオキシラン環のメチレンプロトン(チイラン環ではδ2.2と2.6付近、オキシラン環ではδ2.7と2.8付近のピーク)の積分比率を計算することにより、原料のオキシラン環の80%がチイラン環で置換されている(残りはオキシラン環)ことを確認した。
【0053】
実施例2 脂環式骨格及びチイラン環を有する化合物の製造(2)
エポキシ化合物Aの代わりに製造例2と同様に調製したエポキシ化合物Cを用いた以外は、実施例1と同様に反応及び後処理を行い、脂環式骨格及びチイラン環を有する化合物を52.5グラム得た(以下、これを「エピスルフィド化合物D」と略記する)。
エピスルフィド化合物DのプロトンNMR測定結果から、原料のオキシラン環の80%がチイラン環で置換されている(残りはオキシラン環)ことを確認した。
【0054】
製造例3 芳香環骨格及びチイラン環を有する化合物の製造
原料にエピコート828を用い、2−ブタノンの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例1と同様に反応、及び後処理を行い、芳香族化合物を54.0グラム得た(以下、これを「芳香族化合物E」と略記する)。
芳香族化合物EのプロトンNMR測定結果から、原料のオキシラン環の80%がチイラン環で置換されている(残りはオキシラン環)ことを確認した。
【0055】
実施例3
0.04グラムの砕いたトリフェニルホスフィン(TPP)に4.0グラムのエピスルフィド化合物Bを加えてよく攪拌し、これをアルミ皿に移して真空下で脱泡し、熱風オーブンにて120℃、1時間加熱し硬化物を得た。この硬化物の色相は無色透明であった。また、比誘電率は10MHzで2.45と低かった。
【0056】
実施例4
エピスルフィド化合物Bの代わりにエピスルフィド化合物Dを用いた以外は、実施例3と同様にして硬化物を得た。この硬化物の色相は無色透明であり、比誘電率は10MHzで2.50と低かった。
【0057】
実施例5
4.0グラムのエピスルフィド化合物Bに0.04グラムのジアザビシクロウンデセン(DBU)を加えてよく攪拌し、これをアルミ皿に移して真空下で脱泡し、復圧して常温で24時間静置することにより硬化物を得た。この硬化物の色相は無色透明であり、比誘電率は10MHzで2.42と低かった。
【0058】
実施例6
エピスルフィド化合物Bの代わりにエピスルフィド化合物Dを用いた以外は、実施例5と同様にして硬化物を得た。この硬化物の色相は無色透明であり、比誘電率は10MHzで2.54と低かった。
【0059】
比較例1
エピスルフィド化合物Bの代わりにエポキシ化合物Aを用いた以外は、実施例3と同様にして硬化物の調製を試みたが、この条件では硬化物は得られなかった。
【0060】
比較例2
エピスルフィド化合物Bの代わりにエポキシ化合物Cを用いた以外は、実施例3と同様にして硬化物の調製を試みたが、該条件では硬化物は得られなかった。
【0061】
比較例3
エピスルフィド化合物Bの代わりにエポキシ化合物Aを用いた以外は、実施例5と同様にして硬化物の調製を試みたが、該条件では硬化物は得られなかった。
【0062】
比較例4
エピスルフィド化合物Bの代わりにエポキシ化合物Cを用いた以外は、実施例5と同様にして硬化物の調製を試みたが、該条件では硬化物は得られなかった。
【0063】
比較例5
エピスルフィド化合物Bの代わりに芳香族化合物Eを用いた以外は、実施例5と同様にして硬化物の調製を試みた。芳香族化合物EにDBUを加えてよく攪拌した後にこれをアルミ皿に移したところ、室温で即座に反応し硬化した。硬化物は攪拌の際の泡を含んでおり満足な硬化物は得られなかった。
【0064】
比較例6
エピスルフィド化合物Bの代わりに芳香族化合物Eを用いた以外は、実施例3と同様にして硬化物を得た。この硬化物は黄色く着色しており、比誘電率は10MHzで2.78と高かった。
【0065】
実施例3〜6、比較例1〜6の結果を表1にまとめて示す。
【表1】
【0066】
表1中の略号等は次の通りである。
A:エポキシ化合物A、B:エピスルフィド化合物B、C:エポキシ化合物C、D:エピスルフィド化合物D、E:芳香族化合物E、TPP:トリフェニルホスフィン、DBU:ジアザビシクロウンデセン、比誘電率:10MHzでの値。
【0067】
【発明の効果】
以上述べた本発明のエピスルフィド化合物、及び硬化性組成物は、硬化性に優れ、また殆ど無色透明で光によって着色せず、かつ低い誘電率を持つ硬化物を与える。従って、接着剤、耐光性塗料、耐光性成形物、電気用封止材、複合材、積層体、基板等として好適に使用することが可能である。
Claims (6)
- オキシラン環の酸素原子の少なくとも30%以上が硫黄原子に置換される請求項1に記載のエピスルフィド化合物の製造方法。
- 前記エピスルフィド化合物は、分子内に、少なくとも1つ以上の脂環式骨格を有し、且つ少なくとも2つ以上のオキシラン環またはチイラン環を有し、そのうち1つ以上はチイラン環であり、プロトンNMRを測定した際に、化学シフトが2.20±0.15ppmの領域に観測される1種類のメチレンプロトン由来のシグナルの強度が、上記シグナルの強度と化学シフトが2.80±0.15ppmの領域に観測される1種類のメチレンプロトン由来のシグナルの強度との和に対して、30%以上である請求項1又は2に記載のエピスルフィド化合物の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の方法により得られたエピスルフィド化合物に硬化剤及び/又は硬化触媒を加えることを特徴とする硬化性組成物の製造方法。
- 光源機器封止材用である請求項4に記載の硬化性組成物の製造方法。
- 請求項4又は5に記載の方法により得られた硬化性組成物を加熱し硬化させることを特徴とする硬化物の製造方法。
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