JP3873309B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、方向性電磁鋼板の製造方法、なかでも磁束密度の高い方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は、変圧器及び発電機用鉄心に使用されるもので、磁気特性として磁束密度 (800 A/m の磁場の強さでの値B8 で示される)と鉄損(1.7 Tの最大磁束密度における50Hz交流鉄損値W17/50で示される)が低いことが必要である。
【0003】
この材料の低鉄損化への努力はこれまで種々になされ、(1) 鋼板の板厚を薄くする、(2) Si含有量を高める、(3) 最終製品の結晶粒径を低減する、といった改善策の結果、板厚0.23mmのW17/50値で0.90W/kgといった鉄損の材料も得られるようになった。
【0004】
一方、方向性けい素鋼板の磁束密度を向上させるためには、製品の結晶粒方位を(110)〔001〕方位いわゆるゴス方位に高度に集積させる必要がある。
かかるゴス方位の結晶粒は、最終仕上焼鈍における二次再結晶現象によって得られる。つまり、この二次再結晶現象により、(110)〔001〕方位に近い結晶粒のみを成長させて、他の方位の結晶粒の成長を抑制する、いわゆる選択成長を起こさせるのである。この選択成長を起こさせるには、他の方位の結晶粒の成長を抑制するための抑制剤(インヒビター)を予め添加しておくことが必要である。すなわち、このインヒビターは、鋼中に析出分散相を形成し、粒成長の抑制作用としての機能を発揮する。
【0005】
インヒビターとして抑制力の大きいものが、より選択成長作用が強く、磁束密度の高い材料が得られるので、抑制力の大きなインヒビターを探究すべくこれまで多くの研究がなされてきたが、最も優れた効果が得られたものはAlN であった。すなわち、特公昭46−23820号公報に開示されている如く、Alを含有する鋼板において、最終冷延前の焼鈍の急冷処理及び最終冷延の圧下率を80〜95%の高圧下率とすることにより、B10で1.92〜1.95Tの高磁束密度材料が得られている。しかしながら、かかる方法は圧下率が高いため、二次再結晶の核となる(110)〔001〕方位の結晶粒の出現頻度が低く二次再結晶が不安定であり、二次再結晶しても、磁気特性も不安定で、確実に良好な磁気特性を得ることが困難であるとの問題があった。
【0006】
そのため、優れた磁気特性を安定して得るための研究開発が進められ、特に方向性けい素鋼板の圧延技術の工夫に関しては、特公昭50−37130号公報に、少なくとも最終冷延のロール径を300 mmφ以下とする技術が、また特開平2−80106号公報に、タンデム圧延において第1スタンドにはロール径250 mm未満のワークロールを使用する技術が、それぞれ開示されているが、これらロール径の小径化によっても磁気特性の安定化には至らなかった。
【0007】
また、特公昭54−13846号公報及び特公昭54−29182号公報には圧延パス間に時効効果を与える熱処理を施す技術が開示されているが、これらのパス間時効によっても、磁気特性の不安定化現象は解消されなかった。
さらに、特公平3−23607号公報には、冷間圧延における第1回目の圧延パスの温度を下限としてはSi量(Xwt%)に応じて100 (X−3.0)2 として与えられる温度、上限として、圧延として圧延の歪速度(y sec-1)に応じて200 ×log yで与えられる温度範囲とする技術が開示されているが、この技術をもってしても、磁気特性の不安定現象は解消されなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、Al含有方向性電磁鋼板を製造する方法において、高圧下率の冷間圧延に伴う磁気特性の不安定性という問題を解決しようとする従来技術にあっては、ロール径の変更やパス間での時効処理では一定の効果しかなく、さらに1パス目の圧延の温度を上げる技術にも大きな改善効果が認められなかった。
【0009】
そこでこの発明は、かかるAl含有方向電磁鋼板の高圧下率の冷間圧延に伴う、磁気特性の不安定現象を解消することができ、かつ従来になく優れた磁気特性を具備する方向性電磁鋼板を製造することのできる方法を提案することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明の要旨構成は、次のとおりである。
すなわち、C: 0.01 〜 0.10wt %および Al : 0.01 〜 0.04wt %を含有する方向性電磁鋼スラブを熱間圧延する工程と、この熱間圧延工程後に1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚となす冷間圧延工程と、この冷間圧延工程後に施す脱炭焼鈍工程及び最終仕上焼鈍工程とを有する方向性電磁鋼板の製造方法において、
該冷間圧延工程の最終冷間圧延の直前に、鋼中に平均粒子径20〜2000Åの微細カーバイドを析出させておき、この最終冷間圧延を複数パスにより、前半部では圧下率30〜75%の範囲で140 ℃以下の低温にて、後半部では少なくとも2回の圧下パスを150 〜300 ℃の高温にて、かつ前半部、後半部を合わせた全圧下率80〜95%で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第1発明)。
【0011】
第1発明において、該冷間圧延工程の最終圧延の前半部の圧延を3〜6の圧下パスからなるタンデム圧延機で行い、後半部の圧延をタンデムもしくはリバース型の圧延機で3〜6回の圧下パスで行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第2発明)。
【0012】
第1発明又は第2発明において、最終冷間圧延の直前の焼鈍の際、均熱処理を前段部と後段部に分割してこの前段部を800 〜880 ℃の温度域での20〜60秒間の均熱処理とし、後段部を1050〜1170℃の温度域での30〜90秒間の均熱処理とし、かつ該焼鈍の冷却過程を500 〜200 ℃の間の冷却停止点まで20℃/s以上の速度で急冷し、この冷却停止点到達時から10〜60秒の間、該冷却停止温度に対し、±100 ℃以内の温度域に加熱又は保熱の手段により温度保持することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第3発明)。
【0013】
第1発明又は第2発明において、最終冷間圧延の直前に鋼中に析出している微細カーバイドの平均粒径D(Å)に応じて、最終冷間圧延の後半部の圧延で行う高温度の圧延温度T(℃)を下式
33 log10D+104 ≦T≦33 log10D+189
の範囲に制御することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第4発明)。
【0014】
第1発明〜第4発明において、最終冷間圧延の最終圧下パス終了後、コイル巻取の間までに、鋼板温度を150 ℃以下に低下させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第5発明)。
【0015】
以下、この発明に至った解明経緯について説明する。
発明者らは二次再結晶を高品質にかつ安定して得るための数多くの研究の結果、二次再結晶の核を鋼板板厚方向においてより内層の側に形成させることが最も有利であるとの知見を得た。これは、二次再結晶の核生成層が鋼板表面近くにある場合、鋼板表層部のインヒビターが最終仕上焼鈍雰囲気の影響を受けて変質し、方位の劣る結晶粒が核となって二次再結晶したり、二次再結晶粒の成長が停止したりして、高品質の製品を得ることができなくなるからである。
【0016】
次に、二次再結晶の核となる(110)〔001〕粒が、圧延・再結晶の過程でどのようにして形成されるかについて述べる。この(110)〔001〕粒は、基本的には冷間圧延時に最も均質で大きな剪断変形を受ける領域に形成されると考えられるため、この冷間圧延時の変形挙動についてまず説明する。
【0017】
ロール冷間圧延時の鋼板の変形挙動については「(153) フェライト鋼の冷間圧延変形挙動の解明(第1報)」(日本金属学会講演概要, 1993年春期大会, 第87頁)で報告されてもいるが、ここに図1を用いて説明する。図1(a) に示すように変形は、圧延時の鋼板5がロール4から受ける摩擦力(ロールバイト入口点1から中立点2に向かう摩擦力f1 及びロールバイト出口点3から中立点に向かう摩擦力f2 )に基づく剪断変形によって生じる。
【0018】
そしてこの剪断変形は、板厚方向でみると鋼板表面部で大きく、鋼板中心部で消失しているのであり、かつその変形の向き及び変形量を1パスのロール圧延における前半(ロールバイト入口点1から中立点2まで)と後半(中立点2からロールバイト出口点まで)で比べてみると、前半の挙動を示す図1(b) 及び後半の挙動を示す図1(c) に示されるように、前半では圧延進行方向へ大きな剪断変形を受け、後半では圧延進行逆方向に比較的小さな剪断変形を受ける。
【0019】
このため、1パスのロール圧延終了後では最も均質で大きな剪断変形を受ける層(最大剪断変形点6)が、図1(d) に示すように板厚方向において表面から板厚1/10〜1/4 の間に存在するのである。この最大剪断変形点の位置は、ロール圧延における中立点2の位置によって変化し、また剪断力の大きさは摩擦力によって変化するため、この最大剪断変形点の位置とほぼ同一視できる上述の(110)〔001〕粒の形成位置は、1パスの圧下の圧下率、板厚とロール径の比、圧延油量や圧延油種や圧延速度や圧延温度に依存する摩擦係数、及び入出側の張力比によって変化することになる。
【0020】
したがって、これらの値を適正な範囲に制御することは、二次再結晶の核を鋼板板厚方向においてより内層の側に形成させるために有効であるが、発明者らは、これらの技術以上に圧延のパス回数を制御することも重要であることを発見した。
【0021】
すなわち、発明者らの研究によって、二次再結晶の位置を板厚の中央方向に制御するためには圧延のパス回数を増すことが有効であることがわかった。図2は80mm径のロールを用い、圧延速度10mpm で0.5 mm厚から0.18mm厚への冷間圧延に際し、圧延のパス回数を変えて二次再結晶の核となる(110)〔001〕粒強度の板厚方向の変化を調べて最も強度の大きな位置を求めた結果であるが、圧延パス回数の増加とともに、(110)〔001〕粒強度最大の位置が板厚中央方向に移行していることがわかる。さらにこの鋼板の二次再結晶後の磁束密度B8 の変化も併せて示すが、パス回数の少ない場合は、B8 の低いものも数多く発生し、二次再結晶が不安定となっている。
【0022】
このようにパス回数が多い方が二次再結晶に有利である理由としては、鋼板板厚が薄くなった場合、板厚tとロール径Dとの比t/Dが小さくなり1パスあたりの板厚に対する剪断変形量が大きく、最大剪断変形点が板厚中心方向へ移行するとともに、1パス当たりの圧下量が小さくなるため、ロールバイト内に引き込まれる圧延油量が少なくなって、摩擦力の増加に伴い剪断変形の量が大きくなるからである。
【0023】
以上が、圧延に伴うマクロな変形挙動について、発明者らによる実験の解析及び考察の結果、得られた新しい知見であるが、次にミクロな変形挙動について、調査した結果について述べる。
【0024】
一般に(110)粒は、圧延時の剪断変形に伴う変形帯から、再結晶の際に核生成して生じることがわかっている。圧延時に結晶粒内に変形帯が生じるためには、圧延変形が単純なすべり変形で終了しないこと、すなわち、交叉すべりなどの複雑なすべり変形が生じることが必要である。そのためには結晶が部分的に硬く、変形しにくくなること、つまり転位が移動しにくくなることが必要である。そこで従来は、転位の移動を妨げる手段として、コットレル雰囲気(すなわち、固溶Cが転位に固着し、自由な運動を妨げる現象)を用いることがなされてきた。
【0025】
つまり、最終冷間圧延前の焼鈍にて室温まで急速冷却してから、この最終圧延を温間圧延するか、もしくはパス間時効を施すことは、上記技術の工業的応用例だということができる。このように焼鈍時の冷却を単調に室温まで急冷とすることにより、圧延前の鋼中の固溶Cを増加させておき、引き続く圧延に伴って導入される転位に、高温度の圧延又はパス間の熱処理によってCを移動させて固着して、転位の自由な運動を妨げるものである。
【0026】
かような技術に対し、発明者らが転位の自由な運動を妨げるために創案した新しい方法は、圧延前に結晶粒内に微細カーバイドを析出させ、かつこの析出物の特性を利用するものであり、他の追随を許さぬ新しい方法である。すなわち、圧延前に微細カーバイドを析出させ、かつ圧延を前半部と後半部に分けて、この前半部、すなわち未だ転位密度の比較的小さい段階では低温度多パスの圧延を行う一方、後半部では高温度多パスの圧延を行うものである。
【0027】
かようなこの発明の技術により、転位の自由な運動を妨げることができるのは、次の作用による。まず、転位密度の低い段階では、固溶Cより析出炭化物の方が、より転位の自由な運動を妨げる能力が高いために、(110)粒や(111)粒の発達を促進し(100)粒の発達を抑制する変形帯の発達が著しくなる。このためには、微細カーバイドのサイズと分布を調整することが必要であるとともに、140 ℃以下という低温度多パスの圧延が必要となる。低温が必要とされる理由は、高温の場合、カーバイドが溶解してサイズと密度が減少し、上記効果が消失するからであり、多パスが必要とされる理由は、前述のように最大剪断変形点を板厚中心方向へ移行させるとともに剪断変形量を増加させるためである。このように各条件を適正に制御すれば、剪断変形によって導入される転位の、析出物とのからみあい及び増殖が行われ、局部的な硬度の上昇に関して、固溶Cを利用するコットレル効果よりも大きな変形帯密度の増加が期待できる。また、このような効果を得るためには、ある程度十分な転位密度の導入が必要であり、そのための圧延前半部の圧下率としては30〜75%が必要である。
【0028】
次に圧延後半部においては、微細カーバイドの析出密度に比較し、圧倒的に導入される転位密度が高くなるため、上記微細カーバイドではその作用が十分でなくなる。この高い転位密度の領域で十分に転位の運動を捕捉するために、再び固溶Cを利用する点がこの発明の独創的な点である。すなわち、圧延時の温度を150 ℃以上の高温度としたとき、適正に微細カーバイドのサイズを調整していれば、この微細カーバイドが再固溶し、これを有効に活用できることを発見した。このようなコットレル効果によって得られる作用は、圧延・再結晶時の(100)粒の発達を抑え、(110)粒の発達を促進するものである。このためには、後半部の圧延温度を150 ℃以上とすることが必要であるが、300 ℃を超える場合は転位への固着力が低下し、さらに転位の易動度も増加して粒界への移動消失も起き、所望の効果が得られなくなる。
【0029】
かかる高転位密度下の微細カーバイドの再固溶法は、転位が高密度に存在するためにCの拡散距離が小さく、そのために極めて短時間にCが転位へ到達するので工業応用上有利である。すなわち、圧延パス間にて高温で長時間保持する、いわゆる圧延パス間時効を行わなくとも圧延温度を上げさえすれば大部分の固溶Cが転位へ到達することができるのである。もっとも、固溶Cを完全に転位へ固着させるためパス間時効を組合せた方がより好ましいことに変わりはない。
【0030】
また、このような後半部の圧延においても、マクロ変形挙動を制御して最大剪断変形点の位置及び剪断力を制御することは必要である。すなわち、圧下パス回数は多い方が好ましく、最低3回の圧延圧下パスがあることが好ましい。但し、温間圧延によるコットレル効果を得るためには、最低圧下パスとして2回が 150〜300 ℃間の温間圧延となっていることが必要で、コットレル効果の作用が顕在化する。また、温間圧延時やコイル巻取においてパス間時効を伴っても良い。
【0031】
以上、このような新規技術によって、一次再結晶組織の改良、すなわち(100)粒の減少と(110)粒及び(111)粒の発達を促進すること、さらに(110)〔001〕粒形成層の鋼板板厚方向中心部への移行がなされて、極めて高品質の方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0032】
なお、蛇足ながら、圧延前の微細カーバイドのサイズの増大に伴って圧延後半部の温間圧延の温度を上昇させることが好ましいのは自明である。
【0033】
最終冷延後のコイルは次工程の脱炭焼鈍工程に供されるまで、コイル状態で長時間保管される場合がある。このとき、巻取温度が高いと圧延油が鋼板表面に焼付いて次工程の前処理としての脱脂処理で除去できないことがある。この発明に従えば、最終圧延の最終パス後の時効を不要にできるので、上記脱脂処理のためには、最終圧下パス終了後、コイル巻取までを、クーラント等を用いて 150℃以下に冷却しておくことが好ましい。
【0034】
次に、この発明の最も根幹をなす実験について次に示す。
C:0.078 wt%、Si:3.35wt%、Mn:0.072 wt%、Al:0.025 wt%、Se:0.018 wt%、Sb:0.035 wt%、Mo:0.015 wt%、Cu:0.10wt%を含み、残部は不可避的不純物とFeとからなる方向性電磁鋼スラブ8本を準備し、これらのスラブを常法の熱間圧延により、2.2 mm厚の熱延コイルとした。
【0035】
これらの熱延コイルは1000℃で1分間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、第1回目の冷間圧延で1.5 mmの中間厚に圧延した。この後、1100℃で均熱1分間の中間焼鈍を施したが、このとき、a−1,a−2,a−3,a−4の4コイルは、1100℃からミスト水で 200℃/sの急速冷却を行って室温まで冷却した後、酸洗した。またb−1,b−2,b−3,b−4の4コイルは、1100℃からミスト水で40℃/sの急速冷却で 350℃まで冷却した後、 350℃±25℃の範囲に、30秒間保持した後、空冷して酸洗した。この結果、a−1〜a−4のコイルの鋼板結晶粒内には炭化物の析出は痕跡程度しか認められなかったが、b−1〜b−4のコイルの鋼板結晶粒内には約 500Åの微細カーバイドが多数析出していた。
【0036】
かかる中間焼鈍後のコイルの最終冷間圧延として、a−1, b−1のコイルは4スタンドを有するタンデム圧延機にて50〜140 ℃の温度で0.22mmの最終板厚まで圧延した(圧延パス回数4回)。a−2, b−2のコイルは、0.70mmの厚みまで、同一のタンデム圧延機にて50〜120 ℃の温度で圧延した後、ゼンジマー圧延機で5回の圧延パス回数で180 〜230 ℃の温度で圧延を行い、最終板厚0.22mmとした。a−3, b−3のコイルは同一のゼンジマー圧延機で4回の圧延パス回数で0.70mmの厚みまで180 〜230 ℃の温度で圧延した後、前記と同一のタンデム圧延機にて0.22mmの最終板厚まで50〜120 ℃の温度で圧延した。a−4, b−4のコイルは同一のゼンジマー圧延機で9回の圧延パス回数で最終板厚0.22mmまで180 〜230 ℃の温度で圧延を行った。
【0037】
これらのコイルは脱脂後、露点60℃,N2:40%とH2:60%の湿水・窒素雰囲気中で 840℃, 2分間の脱炭焼鈍を行い、8 %TiO2を含有するMgO を焼鈍分離剤として塗布した後、コイル状に巻き取り、最終仕上焼鈍に供した。この最終仕上焼鈍では、850 ℃で20時間,N2中で保持し、15℃/hr の昇温速度で25%のN2と75%のH2との雰囲気中で1160℃まで昇温し、H2中で1160℃で5時間保持した後、降温した。最終仕上焼鈍後、各コイルは未反応分離剤を除去した後、平坦化焼鈍を兼ねて張力コーティングを塗布 800℃, 1分間焼付けた。かくして得られたコイルの磁気特性を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示されるように、最終冷間圧延前において微細カーバイドを多数析出させ、さらに最終冷間圧延の前半部を低温度(50〜120 ℃)の圧延、後半部を高温度(180〜230 ℃) の圧延を施したb−2のコイルの磁気特性は極めて良好なものであった。
【0040】
第2の実験として、前述の実験と同一の熱延コイルを用い、1000℃で1分間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、第1回目の冷間圧延で1.5 mmの中間厚に圧延した。この後、多数の試片をこのコイルから採取し、1100℃で均熱1分間の中間焼鈍を施したが、その冷却過程において、冷却速度を5〜60℃/sに変化させ、これらの一部には冷却後、 150℃から 500℃の温度域で10秒間から10秒保持し、積極的に鋼板結晶粒内への炭化物析出処理を行った。この結果、鋼板内に析出した微細カーバイドの平均粒子径として、15Å, 20Å, 47Å, 112 Å, 572 Å, 803 Å, 1020Å, 1980Å, 3010Å及び5210Åの試片が得られた。
【0041】
これらの試片を酸洗した後、40〜90℃の温度で0.60mmまで4パスで圧延した後、各試片を10分割し、それぞれ140 ℃, 160 ℃, 180 ℃, 200 ℃, 220 ℃, 240 ℃, 260 ℃, 280 ℃, 290 ℃及び310 ℃の温度でかつ5〜7回の圧下パス回数で0.22mmの最終板厚まで圧延した。各圧延における温度の変動は±3℃以内であった。
【0042】
これらの試片は脱脂後、露点60℃, N2:40%とH2:60%との湿水素・窒素雰囲気中で 840℃, 2分間の脱炭焼鈍を施し、8% TiO2 を含有するMgO を焼鈍分離剤として塗布した後、積層して最終仕上焼鈍に供した。この最終仕上焼鈍においては850 ℃で20時間、N2中で保持し、15℃/hr の昇温速度で25%N2と75%H2雰囲気中で1160℃まで昇温し、H2中で1160℃で5時間保持した後、降温した。かかる最終仕上焼鈍後、各試片は未反応分離剤を除去した後、張力コーティングを塗布して800 ℃, 1分間焼付けた後、磁気特性を測定した。
【0043】
図3に、これらの試片の磁束密度を示す。図3に示されるように、B8 ≧ 1.925Tの鋼板を得るためには、微細カーバイドの平均粒子径は20〜2000Åであることが必要で、かつ、最終冷間圧延の後半部の高温圧延の温度は150 〜300 ℃の温度域とすることが必要であることがわかる。
【0044】
また、この後半部の高温圧延の温度150 〜300 ℃の範囲内で、最も優れた磁束密度が得られる温度領域は微細カーバイドの平均粒子径D(Å)によって異なり33 log10D+104 以上、33 log10D+189 以下の温度領域が良好であることがわかる。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を数値限定理由を含めてより具体的に説明する。
さて、この発明で出発材料とする電磁鋼スラブは、連続鋳造法又は造塊−分塊圧延法によって得られた方向性電磁鋼用のスラブを対象とするが、その成分組成は、次の範囲が好適である。
【0046】
Cは、鋼板の結晶組織を改善する有用成分であるが、0.01wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.10wt%を超えると脱炭性が劣化するので、通常は0.01〜0.10wt%の範囲とする。
Siは鋼板の比抵抗を高め鉄損を下げるために必要であるが、2wt%未満ではα−γ変態を生じて最終仕上焼鈍で結晶方位が揃わず、一方 5.5wt%を超えると冷延性が劣化するので2〜5.5 wt%の範囲が好ましい。
Mnは、インヒビターとして作用させるためには少なくとも0.02wt%を必要とし、また熱間圧延性を改善するに有効である。しかし、2.0 wt%を超えると変態を促進し、最終仕上焼鈍で結晶方位が揃わなくなるので、通常は0.02〜2.0 wt%程度の範囲とする。
【0047】
Alはこの発明に必須の成分であり、インヒビター成分として0.01wt%以上を含有させることが必要である。但し、0.04wt%を超えるとAlN の析出物の粗大化をもたらすので、0.01〜0.04wt%の範囲で含有させる。
なお、インヒビターAlN の一方の成分であるNは、途中工程における窒化処理で含有させることも可能であるので、スラブ中の含有量の下限は不純物程度の含有量でも有効であるが、0.013 wt%を超えるとスラブ中に気泡となって存在し、ふくれの原因となるので上限を0.013 wt%とする。
【0048】
また、上記した成分の他にインヒビター成分としてS,Se, Cu, Sn, Sb, Mo, P,Cr, Te, V,B及びBiのうちから選ばれる1種又は2種以上を少量含有させることも可能である。
【0049】
上記の好適成分組成になるスラブは、ガス燃焼炉、誘導加熱炉、もしくは両者の併用により、1150〜1460℃の高温のスラブ加熱に供される。なお、スラブ加熱の前工程として、厚みの低減又は幅の低減の処理を行うこともできる。
【0050】
スラブ加熱後のスラブは、常法により熱間圧延を施し、熱延コイルとする。熱延コイルは、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、1 回もしくは中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延によって最終板厚とされる。かかる熱延板焼鈍、中間焼鈍とは、少なくとも部分的には再結晶を伴う、温度以上での熱処理を称する。
【0051】
ここで、冷間圧延工程の最終冷間圧延の直前の状態、すなわち通常は1回の冷間圧延によって最終板厚となす場合は熱延板焼鈍が、また複数回の冷間圧延によって最終板厚となす場合は最終の中間焼鈍が施されるのであるが、かかる焼鈍工程後の最終圧延直前において、鋼板内に平均粒子径として20〜2000Åの微細カーバイドを析出させておくことが、この発明の効果を得るためには必須の要件である。
【0052】
すなわち、Cを完全固溶させて微細カーバイドを析出させない場合や、析出させても20Å未満という極微細なカーバイドを析出させる場合には、最終冷間圧延の前半部における140 ℃以下の温度での圧延において転位の自由な運動を妨げ変形帯密度を増加させる能力が低下するため、所定の優れた集合組織が得られず、製品の磁気特性が低下する。
【0053】
逆に微細カーバイドの平均粒径が2000Åを超えた場合、析出密度の低下が甚だしくなり、同様に圧延時の変形帯密度が低下し、さらに、最終冷間圧延の後半部における高温度の圧延時に析出カーバイドの固溶が十分に進行せず、たとえCが固溶したとしても、空間的に均一に拡散するためには固溶Cが長い距離を移動して拡散する必要が生じるので、コットレル効果を有効に利用することができない。したがって、やはり集合組織の改善効果が得られず、製品の磁気特性が劣化する。
【0054】
かような微細カーバイドの析出密度というのは、析出物間の平均距離として0.01〜10μm の範囲が好ましい、0.01μm よりも狭い場合は析出物のサイズも極微細となり不利をもたらし、逆に10μm を超える場合は変形帯密度の増加にやや不利となる傾向が生じる。
【0055】
また、かかる微細カーバイドを得るためには、最終冷間圧延直前に80〜380 ℃の温度範囲で10〜105 秒、高温になるにしたがい短時間となる熱処理を行えば良いのであるが、最終圧延直前の焼鈍において、微細カーバイド析出処理を組み合わせた好適な焼鈍方法としては、均熱処理を前段部と後段部とに分け、前段部の均熱処理として800 〜880 ℃の温度域で20〜60秒間とし、後段部の均熱処理として、1050〜1170℃の温度域で30〜90秒間とし、かつ冷却過程を500 〜200 ℃の間の冷却停止点まで20℃/s以上の速度で急冷し、冷却停止点から10〜60秒間、冷却停止点に対し、±100 ℃以内の温度域に加熱又は保熱の手段により温度保持することが望ましい。
【0056】
この焼鈍で、前段部の均熱はC含有量を調整したり、鋼板内のγ組織の均一分散のために必要であり、後段部の温度域は鋼板結晶粒を粗大化し、粒界密度を低下させ、粒界へ拡散していくC量を減らし、結晶粒内に存在するCを増加させるために必要な処理である。このような作用効果を得るための好適条件として前段部の均熱処理として800 〜880 ℃の温度域で20〜60秒間とし、後段部の均熱処理として、1050〜1170℃の温度域で30〜90秒間とする。また、冷却速度は、Cの過飽和度を増すためには、20℃/s以上の急冷とすることが望ましい。冷却停止点が500 ℃を超える場合はCが粒界へ拡散するため、また200 ℃未満であると、析出に必要なCの拡散距離が得られないので、いずれも良好な微細カーバイドの析出が得難くなる。
【0057】
かような冷却停止点到達時から10〜60秒間保持することによって微細カーバイドを十分に析出させる。このためには、10秒以上保持することが好ましく、また60秒を超えると操業性が悪くなる。また、かかる温度保持の温度範囲は、冷却停止温度に対し±100 ℃以内が好ましい。100 ℃を上回る場合は微細カーバイドが粗大化する傾向を有し、逆に冷却停止点−100 ℃よりも低温側に温度低下する場合は、最も好ましい微細カーバイドの析出分布が得難くなる。さらに、かかる温度保持の手段としては、加熱又は保熱の手段によることが望ましい。
【0058】
次に、最終冷間圧延の全圧下率としては80〜95%とすることが必要である。圧下率が80%より低いと適正な集合組織が得られず、磁束密度が低下する。一方、95%より高いとインヒビターAlN の抑制力よりも一次再結晶粒径が小さくなり、方位の劣る粒が二次再結晶の核となり、同じく製品板の磁束密度が低下する。
【0059】
さらに、この最終冷間圧延を前半部と後半部とに分ける。ここで、前半部とは140 ℃以下の温度域で圧延される圧延パスまでを称し、後半部とは圧延パスの温度が初めて150 ℃以上となるパス以降を称する。この前半部を圧下率30〜75%の範囲でかつ、140 ℃以下の低温で行い、後半部を少なくとも2回の圧延パスは150 〜300 ℃の高温で行うことが必須の要件となる。
【0060】
前半部の圧延の温度が140 ℃を超えると、カーバイドが溶解してサイズと密度が減少して所期した効果が十分に得られない。また前半部の圧延の圧下率が30%未満である場合は、十分な変形帯を形成するのに十分な転位の導入がなく、逆に75%を超える場合は、後半部の圧下率が低下し、高温度の圧延の際に導入される転位の密度が不十分となり、いずれも集合組織を劣化させ磁気特性の劣化を招く。
【0061】
なお、前半部の圧延は3〜6の圧延パスで行うことがより適する。すなわち、集合組織のより好ましい形成のためには、圧延圧下回数が多い方が良く、このためには特に3回以上の圧下パス回数としパス回数を増加させることでより優れた集合組織を得て、優れた磁気特性を得ることができる。さらに、これを高能率で行うためにはタンデム圧延機がロールスタンドの数が多いので有利である。但し、6回を超える場合は、ロールスタンドの増設や2回通しなどが必要であり、逆に能率を低下させ、かつ効果も飽和するので6回までとすることが望ましい。
【0062】
次に後半部の圧延を少なくとも2回の圧下パスに関して150 〜300 ℃の高温で行うことが必須の技術となる。この温度が150 ℃未満の場合、微細カーバイドの溶解が進行しないために十分な固溶Cが得られず、コットレル効果による集合組織改善効果が得られないので磁気特性が劣化する。また、逆に300 ℃を超える場合は、導入される転位のCの固着力が低下するとともに転位の易動度が増加して粒界への移動消失が起き、所望の効果が得られなくなる。したがって、後半部の圧延の温度域としては150 〜300 ℃の高温が必要である。
【0063】
また、かかる高温度域の圧延の圧下パス回数としては2回以上が必要で、これにより望ましい集合組織にすること可能となり、磁気特性の向上効果が得られる。後半部の圧延の圧下パス回数については2回以上であれば所望の磁気特性が得られるが、特に3回以上の圧下パス回数とし、パス回数を増加させることでより優れた集合組織を得、優れた磁気特性を得ることができる。但し、この場合に、6回を超えると生産の能率を落とし、かつ効果も飽和するので6回までとすることが望ましい。かかる圧延を行うにはゼンジマー圧延機などのリバース型の圧延機のみならずタンデム型の圧延機も有効に用いることができる。
【0064】
さらに、最も優れた後半部の高温度圧延としては、最終冷間圧延の直前の鋼中に析出している微細カーバイドの平均粒径D(Å)に応じて圧延温度T(℃)を33 log10D+104 の値と33 log10D+189 の値の範囲内に制御することが好ましい。かかる温度域で圧延することにより、さらに優れた磁気特性を得ることが可能となる。
【0065】
なお、最終圧延の最終圧下パスにおいては、コイル巻取後の高温保持は不要であり、高温で長時間保持した場合には、逆に圧延油の焼付きが生じる可能性が高いので、最終圧下パス終了後、コイル巻取の間までにおいて鋼板温度を150 ℃以下に冷却することが次工程の洗滌の能率を高める上で望ましい。
【0066】
最終冷間圧延の後は、必要に応じて鋼板表面に溝を配設する磁区細分化処理を施し、次の脱炭焼鈍工程を行う。この脱炭焼鈍は、一般に750 〜950 ℃の温度域で1〜5分の時間、湿水素と窒素ガス雰囲気で処理され、雰囲気の露点としては20〜70℃の値が常用される。
【0067】
脱炭焼鈍後は、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布した後、コイル状を巻き取り、最終仕上焼鈍に供される。この最終仕上焼鈍は二次再結晶と、高温での純化処理を兼ねる焼鈍であるが、二次再結晶にかかわる部分に関しては、公知のいかなるヒートパターン及び雰囲気で適用できる。最終仕上焼鈍後の鋼板は必要に応じて、絶縁コーティングと平坦化処理を施し、製品とされる。このとき、製品にレーザー照射や、プラズマジェットを照射し、磁区細分化処理を施すことも、鉄損をさらに向上させる効果がある。
【0068】
【実施例】
(実施例1)
連続鋳造によって得たC:0.070 wt%、Si:3.34wt%、Mn:0.076 wt%、Al:0.024 wt%、Se:0.018 wt%、Sb:0.025 wt%、N:0.008 wt%を含有し、残部は不可避的不純物とFeとの組成からなる電磁鋼用スラブ7本を常法の熱間圧延により2.0 mmの厚みの熱延コイルとした。これらの熱延コイルは1000℃で均熱30秒間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、冷間圧延により、1.5 mmの中間板厚とした。
【0069】
次いで中間焼鈍を行ったが、その際、60秒間の昇温と1100℃で均熱60秒間の熱処理を行ったのち、冷却条件としてコイルaはミスト水を用い100 ℃/sの冷却速度で室温まで冷却し、コイルb〜fは同じくミスト水を用い40℃/sの冷却速度で350 ℃まで冷却し、350 ℃で30秒間保持した後空冷した。またコイルgはガス冷却により20℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。これらのコイルの鋼中の析出炭化物を透過電子顕微鏡で観察した結果、コイルaにはほとんどカーバイドは認められず、コイルb〜fには700 〜800 Åの平均粒子径の微細カーバイドが析出しており、コイルgは250 Åの平均粒子径の微細カーバイドが一面に密集して析出していた。
【0070】
これらのコイルは酸洗した後、最終圧延の前半部としてコイルa,b,c,d及びgは4スタンドからなるタンデム圧延機で80〜120 ℃の温度で0.75mmの厚さに圧延し、コイルe及びfは同じく4スタンドの圧延機で160 〜190 ℃の温度で0.75mmの厚さに圧延した。これらのコイルはさらに最終圧延の後半部としてゼンジマー圧延機を用いて0.18mmの厚みに5回の圧下パス回数で圧延したが、そのときコイルa,b,c,e及びgは5パスを170 〜200 ℃の温度で圧延した。また、d及びfは5パスを100 〜120 ℃の温度で圧延した。なおコイルcは最終圧延後、クーラントを用いて80〜90℃に鋼板温度を低下させて後、コイル状に巻きとった。
【0071】
これらa〜gのコイルは脱脂後、鋼板片面に、深さ20μm 幅150 μm 、圧延方向から80°の角度方向の直線状の溝を圧延方向の間隔4mmで平行に配設する磁区細分化処理とを行った。
【0072】
この後、50%N2と50%H2、露点55℃の雰囲気下で840 ℃、2分間の脱炭焼鈍を施し、この後、TiO2を8%添加するMgO を焼鈍分離剤として塗布し、コイル状に巻き取った後、最終仕上焼鈍に供した。この最終仕上焼鈍は、850 ℃で15時間N2中で保持した後、15℃/hr の昇温速度で1180℃まで25%N2と75%H2の雰囲気下で昇温し、1180℃で5時間、H2中に保持し、降温した。
【0073】
最終仕上焼鈍後は未反応分離剤を除去した後、張力コーティングを塗布し、平坦化焼鈍を兼ねて800 ℃で1分間焼付け、製品とした。これらの磁気特性を表2に示す。表2に示されるように平均粒子径が250 Åもしくは700 〜800 Åの微細カーバイドを中間焼鈍で析出させ、80〜120 ℃の前半部圧延と170 〜200 ℃の後半部圧延を施した発明例において、極めて優れた磁性が得られた。
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例2)
表3に示される組成を有する電磁鋼スラブA〜Fを常法の熱間圧延により2.5 mmの厚みの熱延コイルとした。
【0076】
【表3】
【0077】
これらの熱延コイルを870 ℃で30秒間の第1の均熱とそれに続く、1150℃で60秒間の第2の均熱と冷却過程としてミスト水を用いて35℃/sの冷却速度で250 ℃まで冷却し、冷却停止点から30秒間、±50℃以内の温度に保持する熱延焼鈍を施し、次いで酸洗処理を施した。
【0078】
酸洗処理後の各コイルの鋼中の微細カーバイドをTEMにより観察して平均粒子径を求めた。この値を表3に併せて示す。
【0079】
各コイルはそれぞれ3分割し、一つのコイルはゼンジマー圧延機を用いて、80〜120 ℃の温度で6回の圧下パスにより0.34mmの最終板厚(圧下率86%) とした(条件i)。もう一つのコイルは、同じくゼンジマー圧延機を用いて80〜110 ℃の温度で4回の圧下パスにより0.75mmの厚み(圧下率70%) まで圧延した後、190 〜210 ℃の温度で3回の圧下パスにより、0.34mmの厚みまで圧延し最終板厚とした(条件iii )。残るコイルは、同じくゼンジマー圧延機を用いて80〜110 ℃の温度で、0.55mm(圧下率78%) 、1.75mm(圧下率30%) 、2.0 mm(圧下率20%) 、2.2 mm(圧下率12%) の厚みまでのいずれかの圧延を行った後、190 〜210 ℃の温度で2〜4パスの圧下パス回数で0.34mmの最終板厚とした(条件ii、iv〜vi)。
【0080】
これらのコイルは55%のH2と45%のN2、露点55℃の雰囲気で840 ℃で3分間の脱炭焼鈍を施した後、5 %のTiO2と3%の Sr(OH)2・8H2Oを添加したMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布し、コイル状に巻き採った後、最終仕上焼鈍を施した。この最終仕上焼鈍では850 ℃までN2中で30℃/hr の昇温速度で昇温し、次に30%N2と70%H2中で1200℃まで15℃/hr の昇温速度で昇温した後、H2中で1200℃、5時間保持した後、降温した。
【0081】
最終仕上げ焼鈍後のコイルは未反応分離剤を除去した後、張力コーティングを塗布し平坦化焼鈍を兼ねて800 ℃、1分間の焼鈍を行った後、プラズマジェットによって圧延直角方向に直線状に、圧延方向への間隔8mmでプラズマ熱流照射を行い、製品とした。
【0082】
これらの製品の磁気特性を、表3に併せて示す。表3に示されるように冷間圧延の前半部を72%の圧下率、4回の圧下パスで80〜110 ℃の低温圧延し、後半部を190 〜210 ℃の温度で3回の圧下パスにより最終板厚としたこの発明の方法による製品は、いずれも優れた磁気特性のものが得られていることがわかる。
【0083】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、Alを含有する方向性電磁鋼板の製造に関し、最終冷間圧延の直前に析出させる微細カーバイドの平均粒子径の制御を行い、かつ最終冷間圧延の前半部を低温の圧延、後半部を少なくとも2パスを高温度の圧延とすることにより、極めて高い磁束密度と低鉄損の方向性電磁鋼板を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】1パスのロール圧延の際の摩擦力の方向と、剪断変形の状態を説明する図である。
【図2】一次再結晶組織の(110)〔001〕強度が板厚方向において最大値をとる位置及び磁束密度の圧延パス回数依存性を示す図である。
【図3】最終冷間圧延の後半部の圧延温度と圧延前の鋼中の微細カーバイドの平均粒子径が磁束密度に及ぼす影響を示す図である。
【符号の説明】
1 ロールバイト入口点
2 中立点
3 ロールバイト出口点
4 ワークロール
5 鋼板
6 最終剪断変形点
【発明の属する技術分野】
この発明は、方向性電磁鋼板の製造方法、なかでも磁束密度の高い方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は、変圧器及び発電機用鉄心に使用されるもので、磁気特性として磁束密度 (800 A/m の磁場の強さでの値B8 で示される)と鉄損(1.7 Tの最大磁束密度における50Hz交流鉄損値W17/50で示される)が低いことが必要である。
【0003】
この材料の低鉄損化への努力はこれまで種々になされ、(1) 鋼板の板厚を薄くする、(2) Si含有量を高める、(3) 最終製品の結晶粒径を低減する、といった改善策の結果、板厚0.23mmのW17/50値で0.90W/kgといった鉄損の材料も得られるようになった。
【0004】
一方、方向性けい素鋼板の磁束密度を向上させるためには、製品の結晶粒方位を(110)〔001〕方位いわゆるゴス方位に高度に集積させる必要がある。
かかるゴス方位の結晶粒は、最終仕上焼鈍における二次再結晶現象によって得られる。つまり、この二次再結晶現象により、(110)〔001〕方位に近い結晶粒のみを成長させて、他の方位の結晶粒の成長を抑制する、いわゆる選択成長を起こさせるのである。この選択成長を起こさせるには、他の方位の結晶粒の成長を抑制するための抑制剤(インヒビター)を予め添加しておくことが必要である。すなわち、このインヒビターは、鋼中に析出分散相を形成し、粒成長の抑制作用としての機能を発揮する。
【0005】
インヒビターとして抑制力の大きいものが、より選択成長作用が強く、磁束密度の高い材料が得られるので、抑制力の大きなインヒビターを探究すべくこれまで多くの研究がなされてきたが、最も優れた効果が得られたものはAlN であった。すなわち、特公昭46−23820号公報に開示されている如く、Alを含有する鋼板において、最終冷延前の焼鈍の急冷処理及び最終冷延の圧下率を80〜95%の高圧下率とすることにより、B10で1.92〜1.95Tの高磁束密度材料が得られている。しかしながら、かかる方法は圧下率が高いため、二次再結晶の核となる(110)〔001〕方位の結晶粒の出現頻度が低く二次再結晶が不安定であり、二次再結晶しても、磁気特性も不安定で、確実に良好な磁気特性を得ることが困難であるとの問題があった。
【0006】
そのため、優れた磁気特性を安定して得るための研究開発が進められ、特に方向性けい素鋼板の圧延技術の工夫に関しては、特公昭50−37130号公報に、少なくとも最終冷延のロール径を300 mmφ以下とする技術が、また特開平2−80106号公報に、タンデム圧延において第1スタンドにはロール径250 mm未満のワークロールを使用する技術が、それぞれ開示されているが、これらロール径の小径化によっても磁気特性の安定化には至らなかった。
【0007】
また、特公昭54−13846号公報及び特公昭54−29182号公報には圧延パス間に時効効果を与える熱処理を施す技術が開示されているが、これらのパス間時効によっても、磁気特性の不安定化現象は解消されなかった。
さらに、特公平3−23607号公報には、冷間圧延における第1回目の圧延パスの温度を下限としてはSi量(Xwt%)に応じて100 (X−3.0)2 として与えられる温度、上限として、圧延として圧延の歪速度(y sec-1)に応じて200 ×log yで与えられる温度範囲とする技術が開示されているが、この技術をもってしても、磁気特性の不安定現象は解消されなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、Al含有方向性電磁鋼板を製造する方法において、高圧下率の冷間圧延に伴う磁気特性の不安定性という問題を解決しようとする従来技術にあっては、ロール径の変更やパス間での時効処理では一定の効果しかなく、さらに1パス目の圧延の温度を上げる技術にも大きな改善効果が認められなかった。
【0009】
そこでこの発明は、かかるAl含有方向電磁鋼板の高圧下率の冷間圧延に伴う、磁気特性の不安定現象を解消することができ、かつ従来になく優れた磁気特性を具備する方向性電磁鋼板を製造することのできる方法を提案することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明の要旨構成は、次のとおりである。
すなわち、C: 0.01 〜 0.10wt %および Al : 0.01 〜 0.04wt %を含有する方向性電磁鋼スラブを熱間圧延する工程と、この熱間圧延工程後に1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚となす冷間圧延工程と、この冷間圧延工程後に施す脱炭焼鈍工程及び最終仕上焼鈍工程とを有する方向性電磁鋼板の製造方法において、
該冷間圧延工程の最終冷間圧延の直前に、鋼中に平均粒子径20〜2000Åの微細カーバイドを析出させておき、この最終冷間圧延を複数パスにより、前半部では圧下率30〜75%の範囲で140 ℃以下の低温にて、後半部では少なくとも2回の圧下パスを150 〜300 ℃の高温にて、かつ前半部、後半部を合わせた全圧下率80〜95%で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第1発明)。
【0011】
第1発明において、該冷間圧延工程の最終圧延の前半部の圧延を3〜6の圧下パスからなるタンデム圧延機で行い、後半部の圧延をタンデムもしくはリバース型の圧延機で3〜6回の圧下パスで行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第2発明)。
【0012】
第1発明又は第2発明において、最終冷間圧延の直前の焼鈍の際、均熱処理を前段部と後段部に分割してこの前段部を800 〜880 ℃の温度域での20〜60秒間の均熱処理とし、後段部を1050〜1170℃の温度域での30〜90秒間の均熱処理とし、かつ該焼鈍の冷却過程を500 〜200 ℃の間の冷却停止点まで20℃/s以上の速度で急冷し、この冷却停止点到達時から10〜60秒の間、該冷却停止温度に対し、±100 ℃以内の温度域に加熱又は保熱の手段により温度保持することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第3発明)。
【0013】
第1発明又は第2発明において、最終冷間圧延の直前に鋼中に析出している微細カーバイドの平均粒径D(Å)に応じて、最終冷間圧延の後半部の圧延で行う高温度の圧延温度T(℃)を下式
33 log10D+104 ≦T≦33 log10D+189
の範囲に制御することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法(第4発明)。
【0014】
第1発明〜第4発明において、最終冷間圧延の最終圧下パス終了後、コイル巻取の間までに、鋼板温度を150 ℃以下に低下させることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法(第5発明)。
【0015】
以下、この発明に至った解明経緯について説明する。
発明者らは二次再結晶を高品質にかつ安定して得るための数多くの研究の結果、二次再結晶の核を鋼板板厚方向においてより内層の側に形成させることが最も有利であるとの知見を得た。これは、二次再結晶の核生成層が鋼板表面近くにある場合、鋼板表層部のインヒビターが最終仕上焼鈍雰囲気の影響を受けて変質し、方位の劣る結晶粒が核となって二次再結晶したり、二次再結晶粒の成長が停止したりして、高品質の製品を得ることができなくなるからである。
【0016】
次に、二次再結晶の核となる(110)〔001〕粒が、圧延・再結晶の過程でどのようにして形成されるかについて述べる。この(110)〔001〕粒は、基本的には冷間圧延時に最も均質で大きな剪断変形を受ける領域に形成されると考えられるため、この冷間圧延時の変形挙動についてまず説明する。
【0017】
ロール冷間圧延時の鋼板の変形挙動については「(153) フェライト鋼の冷間圧延変形挙動の解明(第1報)」(日本金属学会講演概要, 1993年春期大会, 第87頁)で報告されてもいるが、ここに図1を用いて説明する。図1(a) に示すように変形は、圧延時の鋼板5がロール4から受ける摩擦力(ロールバイト入口点1から中立点2に向かう摩擦力f1 及びロールバイト出口点3から中立点に向かう摩擦力f2 )に基づく剪断変形によって生じる。
【0018】
そしてこの剪断変形は、板厚方向でみると鋼板表面部で大きく、鋼板中心部で消失しているのであり、かつその変形の向き及び変形量を1パスのロール圧延における前半(ロールバイト入口点1から中立点2まで)と後半(中立点2からロールバイト出口点まで)で比べてみると、前半の挙動を示す図1(b) 及び後半の挙動を示す図1(c) に示されるように、前半では圧延進行方向へ大きな剪断変形を受け、後半では圧延進行逆方向に比較的小さな剪断変形を受ける。
【0019】
このため、1パスのロール圧延終了後では最も均質で大きな剪断変形を受ける層(最大剪断変形点6)が、図1(d) に示すように板厚方向において表面から板厚1/10〜1/4 の間に存在するのである。この最大剪断変形点の位置は、ロール圧延における中立点2の位置によって変化し、また剪断力の大きさは摩擦力によって変化するため、この最大剪断変形点の位置とほぼ同一視できる上述の(110)〔001〕粒の形成位置は、1パスの圧下の圧下率、板厚とロール径の比、圧延油量や圧延油種や圧延速度や圧延温度に依存する摩擦係数、及び入出側の張力比によって変化することになる。
【0020】
したがって、これらの値を適正な範囲に制御することは、二次再結晶の核を鋼板板厚方向においてより内層の側に形成させるために有効であるが、発明者らは、これらの技術以上に圧延のパス回数を制御することも重要であることを発見した。
【0021】
すなわち、発明者らの研究によって、二次再結晶の位置を板厚の中央方向に制御するためには圧延のパス回数を増すことが有効であることがわかった。図2は80mm径のロールを用い、圧延速度10mpm で0.5 mm厚から0.18mm厚への冷間圧延に際し、圧延のパス回数を変えて二次再結晶の核となる(110)〔001〕粒強度の板厚方向の変化を調べて最も強度の大きな位置を求めた結果であるが、圧延パス回数の増加とともに、(110)〔001〕粒強度最大の位置が板厚中央方向に移行していることがわかる。さらにこの鋼板の二次再結晶後の磁束密度B8 の変化も併せて示すが、パス回数の少ない場合は、B8 の低いものも数多く発生し、二次再結晶が不安定となっている。
【0022】
このようにパス回数が多い方が二次再結晶に有利である理由としては、鋼板板厚が薄くなった場合、板厚tとロール径Dとの比t/Dが小さくなり1パスあたりの板厚に対する剪断変形量が大きく、最大剪断変形点が板厚中心方向へ移行するとともに、1パス当たりの圧下量が小さくなるため、ロールバイト内に引き込まれる圧延油量が少なくなって、摩擦力の増加に伴い剪断変形の量が大きくなるからである。
【0023】
以上が、圧延に伴うマクロな変形挙動について、発明者らによる実験の解析及び考察の結果、得られた新しい知見であるが、次にミクロな変形挙動について、調査した結果について述べる。
【0024】
一般に(110)粒は、圧延時の剪断変形に伴う変形帯から、再結晶の際に核生成して生じることがわかっている。圧延時に結晶粒内に変形帯が生じるためには、圧延変形が単純なすべり変形で終了しないこと、すなわち、交叉すべりなどの複雑なすべり変形が生じることが必要である。そのためには結晶が部分的に硬く、変形しにくくなること、つまり転位が移動しにくくなることが必要である。そこで従来は、転位の移動を妨げる手段として、コットレル雰囲気(すなわち、固溶Cが転位に固着し、自由な運動を妨げる現象)を用いることがなされてきた。
【0025】
つまり、最終冷間圧延前の焼鈍にて室温まで急速冷却してから、この最終圧延を温間圧延するか、もしくはパス間時効を施すことは、上記技術の工業的応用例だということができる。このように焼鈍時の冷却を単調に室温まで急冷とすることにより、圧延前の鋼中の固溶Cを増加させておき、引き続く圧延に伴って導入される転位に、高温度の圧延又はパス間の熱処理によってCを移動させて固着して、転位の自由な運動を妨げるものである。
【0026】
かような技術に対し、発明者らが転位の自由な運動を妨げるために創案した新しい方法は、圧延前に結晶粒内に微細カーバイドを析出させ、かつこの析出物の特性を利用するものであり、他の追随を許さぬ新しい方法である。すなわち、圧延前に微細カーバイドを析出させ、かつ圧延を前半部と後半部に分けて、この前半部、すなわち未だ転位密度の比較的小さい段階では低温度多パスの圧延を行う一方、後半部では高温度多パスの圧延を行うものである。
【0027】
かようなこの発明の技術により、転位の自由な運動を妨げることができるのは、次の作用による。まず、転位密度の低い段階では、固溶Cより析出炭化物の方が、より転位の自由な運動を妨げる能力が高いために、(110)粒や(111)粒の発達を促進し(100)粒の発達を抑制する変形帯の発達が著しくなる。このためには、微細カーバイドのサイズと分布を調整することが必要であるとともに、140 ℃以下という低温度多パスの圧延が必要となる。低温が必要とされる理由は、高温の場合、カーバイドが溶解してサイズと密度が減少し、上記効果が消失するからであり、多パスが必要とされる理由は、前述のように最大剪断変形点を板厚中心方向へ移行させるとともに剪断変形量を増加させるためである。このように各条件を適正に制御すれば、剪断変形によって導入される転位の、析出物とのからみあい及び増殖が行われ、局部的な硬度の上昇に関して、固溶Cを利用するコットレル効果よりも大きな変形帯密度の増加が期待できる。また、このような効果を得るためには、ある程度十分な転位密度の導入が必要であり、そのための圧延前半部の圧下率としては30〜75%が必要である。
【0028】
次に圧延後半部においては、微細カーバイドの析出密度に比較し、圧倒的に導入される転位密度が高くなるため、上記微細カーバイドではその作用が十分でなくなる。この高い転位密度の領域で十分に転位の運動を捕捉するために、再び固溶Cを利用する点がこの発明の独創的な点である。すなわち、圧延時の温度を150 ℃以上の高温度としたとき、適正に微細カーバイドのサイズを調整していれば、この微細カーバイドが再固溶し、これを有効に活用できることを発見した。このようなコットレル効果によって得られる作用は、圧延・再結晶時の(100)粒の発達を抑え、(110)粒の発達を促進するものである。このためには、後半部の圧延温度を150 ℃以上とすることが必要であるが、300 ℃を超える場合は転位への固着力が低下し、さらに転位の易動度も増加して粒界への移動消失も起き、所望の効果が得られなくなる。
【0029】
かかる高転位密度下の微細カーバイドの再固溶法は、転位が高密度に存在するためにCの拡散距離が小さく、そのために極めて短時間にCが転位へ到達するので工業応用上有利である。すなわち、圧延パス間にて高温で長時間保持する、いわゆる圧延パス間時効を行わなくとも圧延温度を上げさえすれば大部分の固溶Cが転位へ到達することができるのである。もっとも、固溶Cを完全に転位へ固着させるためパス間時効を組合せた方がより好ましいことに変わりはない。
【0030】
また、このような後半部の圧延においても、マクロ変形挙動を制御して最大剪断変形点の位置及び剪断力を制御することは必要である。すなわち、圧下パス回数は多い方が好ましく、最低3回の圧延圧下パスがあることが好ましい。但し、温間圧延によるコットレル効果を得るためには、最低圧下パスとして2回が 150〜300 ℃間の温間圧延となっていることが必要で、コットレル効果の作用が顕在化する。また、温間圧延時やコイル巻取においてパス間時効を伴っても良い。
【0031】
以上、このような新規技術によって、一次再結晶組織の改良、すなわち(100)粒の減少と(110)粒及び(111)粒の発達を促進すること、さらに(110)〔001〕粒形成層の鋼板板厚方向中心部への移行がなされて、極めて高品質の方向性電磁鋼板を得ることができる。
【0032】
なお、蛇足ながら、圧延前の微細カーバイドのサイズの増大に伴って圧延後半部の温間圧延の温度を上昇させることが好ましいのは自明である。
【0033】
最終冷延後のコイルは次工程の脱炭焼鈍工程に供されるまで、コイル状態で長時間保管される場合がある。このとき、巻取温度が高いと圧延油が鋼板表面に焼付いて次工程の前処理としての脱脂処理で除去できないことがある。この発明に従えば、最終圧延の最終パス後の時効を不要にできるので、上記脱脂処理のためには、最終圧下パス終了後、コイル巻取までを、クーラント等を用いて 150℃以下に冷却しておくことが好ましい。
【0034】
次に、この発明の最も根幹をなす実験について次に示す。
C:0.078 wt%、Si:3.35wt%、Mn:0.072 wt%、Al:0.025 wt%、Se:0.018 wt%、Sb:0.035 wt%、Mo:0.015 wt%、Cu:0.10wt%を含み、残部は不可避的不純物とFeとからなる方向性電磁鋼スラブ8本を準備し、これらのスラブを常法の熱間圧延により、2.2 mm厚の熱延コイルとした。
【0035】
これらの熱延コイルは1000℃で1分間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、第1回目の冷間圧延で1.5 mmの中間厚に圧延した。この後、1100℃で均熱1分間の中間焼鈍を施したが、このとき、a−1,a−2,a−3,a−4の4コイルは、1100℃からミスト水で 200℃/sの急速冷却を行って室温まで冷却した後、酸洗した。またb−1,b−2,b−3,b−4の4コイルは、1100℃からミスト水で40℃/sの急速冷却で 350℃まで冷却した後、 350℃±25℃の範囲に、30秒間保持した後、空冷して酸洗した。この結果、a−1〜a−4のコイルの鋼板結晶粒内には炭化物の析出は痕跡程度しか認められなかったが、b−1〜b−4のコイルの鋼板結晶粒内には約 500Åの微細カーバイドが多数析出していた。
【0036】
かかる中間焼鈍後のコイルの最終冷間圧延として、a−1, b−1のコイルは4スタンドを有するタンデム圧延機にて50〜140 ℃の温度で0.22mmの最終板厚まで圧延した(圧延パス回数4回)。a−2, b−2のコイルは、0.70mmの厚みまで、同一のタンデム圧延機にて50〜120 ℃の温度で圧延した後、ゼンジマー圧延機で5回の圧延パス回数で180 〜230 ℃の温度で圧延を行い、最終板厚0.22mmとした。a−3, b−3のコイルは同一のゼンジマー圧延機で4回の圧延パス回数で0.70mmの厚みまで180 〜230 ℃の温度で圧延した後、前記と同一のタンデム圧延機にて0.22mmの最終板厚まで50〜120 ℃の温度で圧延した。a−4, b−4のコイルは同一のゼンジマー圧延機で9回の圧延パス回数で最終板厚0.22mmまで180 〜230 ℃の温度で圧延を行った。
【0037】
これらのコイルは脱脂後、露点60℃,N2:40%とH2:60%の湿水・窒素雰囲気中で 840℃, 2分間の脱炭焼鈍を行い、8 %TiO2を含有するMgO を焼鈍分離剤として塗布した後、コイル状に巻き取り、最終仕上焼鈍に供した。この最終仕上焼鈍では、850 ℃で20時間,N2中で保持し、15℃/hr の昇温速度で25%のN2と75%のH2との雰囲気中で1160℃まで昇温し、H2中で1160℃で5時間保持した後、降温した。最終仕上焼鈍後、各コイルは未反応分離剤を除去した後、平坦化焼鈍を兼ねて張力コーティングを塗布 800℃, 1分間焼付けた。かくして得られたコイルの磁気特性を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示されるように、最終冷間圧延前において微細カーバイドを多数析出させ、さらに最終冷間圧延の前半部を低温度(50〜120 ℃)の圧延、後半部を高温度(180〜230 ℃) の圧延を施したb−2のコイルの磁気特性は極めて良好なものであった。
【0040】
第2の実験として、前述の実験と同一の熱延コイルを用い、1000℃で1分間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、第1回目の冷間圧延で1.5 mmの中間厚に圧延した。この後、多数の試片をこのコイルから採取し、1100℃で均熱1分間の中間焼鈍を施したが、その冷却過程において、冷却速度を5〜60℃/sに変化させ、これらの一部には冷却後、 150℃から 500℃の温度域で10秒間から10秒保持し、積極的に鋼板結晶粒内への炭化物析出処理を行った。この結果、鋼板内に析出した微細カーバイドの平均粒子径として、15Å, 20Å, 47Å, 112 Å, 572 Å, 803 Å, 1020Å, 1980Å, 3010Å及び5210Åの試片が得られた。
【0041】
これらの試片を酸洗した後、40〜90℃の温度で0.60mmまで4パスで圧延した後、各試片を10分割し、それぞれ140 ℃, 160 ℃, 180 ℃, 200 ℃, 220 ℃, 240 ℃, 260 ℃, 280 ℃, 290 ℃及び310 ℃の温度でかつ5〜7回の圧下パス回数で0.22mmの最終板厚まで圧延した。各圧延における温度の変動は±3℃以内であった。
【0042】
これらの試片は脱脂後、露点60℃, N2:40%とH2:60%との湿水素・窒素雰囲気中で 840℃, 2分間の脱炭焼鈍を施し、8% TiO2 を含有するMgO を焼鈍分離剤として塗布した後、積層して最終仕上焼鈍に供した。この最終仕上焼鈍においては850 ℃で20時間、N2中で保持し、15℃/hr の昇温速度で25%N2と75%H2雰囲気中で1160℃まで昇温し、H2中で1160℃で5時間保持した後、降温した。かかる最終仕上焼鈍後、各試片は未反応分離剤を除去した後、張力コーティングを塗布して800 ℃, 1分間焼付けた後、磁気特性を測定した。
【0043】
図3に、これらの試片の磁束密度を示す。図3に示されるように、B8 ≧ 1.925Tの鋼板を得るためには、微細カーバイドの平均粒子径は20〜2000Åであることが必要で、かつ、最終冷間圧延の後半部の高温圧延の温度は150 〜300 ℃の温度域とすることが必要であることがわかる。
【0044】
また、この後半部の高温圧延の温度150 〜300 ℃の範囲内で、最も優れた磁束密度が得られる温度領域は微細カーバイドの平均粒子径D(Å)によって異なり33 log10D+104 以上、33 log10D+189 以下の温度領域が良好であることがわかる。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を数値限定理由を含めてより具体的に説明する。
さて、この発明で出発材料とする電磁鋼スラブは、連続鋳造法又は造塊−分塊圧延法によって得られた方向性電磁鋼用のスラブを対象とするが、その成分組成は、次の範囲が好適である。
【0046】
Cは、鋼板の結晶組織を改善する有用成分であるが、0.01wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.10wt%を超えると脱炭性が劣化するので、通常は0.01〜0.10wt%の範囲とする。
Siは鋼板の比抵抗を高め鉄損を下げるために必要であるが、2wt%未満ではα−γ変態を生じて最終仕上焼鈍で結晶方位が揃わず、一方 5.5wt%を超えると冷延性が劣化するので2〜5.5 wt%の範囲が好ましい。
Mnは、インヒビターとして作用させるためには少なくとも0.02wt%を必要とし、また熱間圧延性を改善するに有効である。しかし、2.0 wt%を超えると変態を促進し、最終仕上焼鈍で結晶方位が揃わなくなるので、通常は0.02〜2.0 wt%程度の範囲とする。
【0047】
Alはこの発明に必須の成分であり、インヒビター成分として0.01wt%以上を含有させることが必要である。但し、0.04wt%を超えるとAlN の析出物の粗大化をもたらすので、0.01〜0.04wt%の範囲で含有させる。
なお、インヒビターAlN の一方の成分であるNは、途中工程における窒化処理で含有させることも可能であるので、スラブ中の含有量の下限は不純物程度の含有量でも有効であるが、0.013 wt%を超えるとスラブ中に気泡となって存在し、ふくれの原因となるので上限を0.013 wt%とする。
【0048】
また、上記した成分の他にインヒビター成分としてS,Se, Cu, Sn, Sb, Mo, P,Cr, Te, V,B及びBiのうちから選ばれる1種又は2種以上を少量含有させることも可能である。
【0049】
上記の好適成分組成になるスラブは、ガス燃焼炉、誘導加熱炉、もしくは両者の併用により、1150〜1460℃の高温のスラブ加熱に供される。なお、スラブ加熱の前工程として、厚みの低減又は幅の低減の処理を行うこともできる。
【0050】
スラブ加熱後のスラブは、常法により熱間圧延を施し、熱延コイルとする。熱延コイルは、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、1 回もしくは中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延によって最終板厚とされる。かかる熱延板焼鈍、中間焼鈍とは、少なくとも部分的には再結晶を伴う、温度以上での熱処理を称する。
【0051】
ここで、冷間圧延工程の最終冷間圧延の直前の状態、すなわち通常は1回の冷間圧延によって最終板厚となす場合は熱延板焼鈍が、また複数回の冷間圧延によって最終板厚となす場合は最終の中間焼鈍が施されるのであるが、かかる焼鈍工程後の最終圧延直前において、鋼板内に平均粒子径として20〜2000Åの微細カーバイドを析出させておくことが、この発明の効果を得るためには必須の要件である。
【0052】
すなわち、Cを完全固溶させて微細カーバイドを析出させない場合や、析出させても20Å未満という極微細なカーバイドを析出させる場合には、最終冷間圧延の前半部における140 ℃以下の温度での圧延において転位の自由な運動を妨げ変形帯密度を増加させる能力が低下するため、所定の優れた集合組織が得られず、製品の磁気特性が低下する。
【0053】
逆に微細カーバイドの平均粒径が2000Åを超えた場合、析出密度の低下が甚だしくなり、同様に圧延時の変形帯密度が低下し、さらに、最終冷間圧延の後半部における高温度の圧延時に析出カーバイドの固溶が十分に進行せず、たとえCが固溶したとしても、空間的に均一に拡散するためには固溶Cが長い距離を移動して拡散する必要が生じるので、コットレル効果を有効に利用することができない。したがって、やはり集合組織の改善効果が得られず、製品の磁気特性が劣化する。
【0054】
かような微細カーバイドの析出密度というのは、析出物間の平均距離として0.01〜10μm の範囲が好ましい、0.01μm よりも狭い場合は析出物のサイズも極微細となり不利をもたらし、逆に10μm を超える場合は変形帯密度の増加にやや不利となる傾向が生じる。
【0055】
また、かかる微細カーバイドを得るためには、最終冷間圧延直前に80〜380 ℃の温度範囲で10〜105 秒、高温になるにしたがい短時間となる熱処理を行えば良いのであるが、最終圧延直前の焼鈍において、微細カーバイド析出処理を組み合わせた好適な焼鈍方法としては、均熱処理を前段部と後段部とに分け、前段部の均熱処理として800 〜880 ℃の温度域で20〜60秒間とし、後段部の均熱処理として、1050〜1170℃の温度域で30〜90秒間とし、かつ冷却過程を500 〜200 ℃の間の冷却停止点まで20℃/s以上の速度で急冷し、冷却停止点から10〜60秒間、冷却停止点に対し、±100 ℃以内の温度域に加熱又は保熱の手段により温度保持することが望ましい。
【0056】
この焼鈍で、前段部の均熱はC含有量を調整したり、鋼板内のγ組織の均一分散のために必要であり、後段部の温度域は鋼板結晶粒を粗大化し、粒界密度を低下させ、粒界へ拡散していくC量を減らし、結晶粒内に存在するCを増加させるために必要な処理である。このような作用効果を得るための好適条件として前段部の均熱処理として800 〜880 ℃の温度域で20〜60秒間とし、後段部の均熱処理として、1050〜1170℃の温度域で30〜90秒間とする。また、冷却速度は、Cの過飽和度を増すためには、20℃/s以上の急冷とすることが望ましい。冷却停止点が500 ℃を超える場合はCが粒界へ拡散するため、また200 ℃未満であると、析出に必要なCの拡散距離が得られないので、いずれも良好な微細カーバイドの析出が得難くなる。
【0057】
かような冷却停止点到達時から10〜60秒間保持することによって微細カーバイドを十分に析出させる。このためには、10秒以上保持することが好ましく、また60秒を超えると操業性が悪くなる。また、かかる温度保持の温度範囲は、冷却停止温度に対し±100 ℃以内が好ましい。100 ℃を上回る場合は微細カーバイドが粗大化する傾向を有し、逆に冷却停止点−100 ℃よりも低温側に温度低下する場合は、最も好ましい微細カーバイドの析出分布が得難くなる。さらに、かかる温度保持の手段としては、加熱又は保熱の手段によることが望ましい。
【0058】
次に、最終冷間圧延の全圧下率としては80〜95%とすることが必要である。圧下率が80%より低いと適正な集合組織が得られず、磁束密度が低下する。一方、95%より高いとインヒビターAlN の抑制力よりも一次再結晶粒径が小さくなり、方位の劣る粒が二次再結晶の核となり、同じく製品板の磁束密度が低下する。
【0059】
さらに、この最終冷間圧延を前半部と後半部とに分ける。ここで、前半部とは140 ℃以下の温度域で圧延される圧延パスまでを称し、後半部とは圧延パスの温度が初めて150 ℃以上となるパス以降を称する。この前半部を圧下率30〜75%の範囲でかつ、140 ℃以下の低温で行い、後半部を少なくとも2回の圧延パスは150 〜300 ℃の高温で行うことが必須の要件となる。
【0060】
前半部の圧延の温度が140 ℃を超えると、カーバイドが溶解してサイズと密度が減少して所期した効果が十分に得られない。また前半部の圧延の圧下率が30%未満である場合は、十分な変形帯を形成するのに十分な転位の導入がなく、逆に75%を超える場合は、後半部の圧下率が低下し、高温度の圧延の際に導入される転位の密度が不十分となり、いずれも集合組織を劣化させ磁気特性の劣化を招く。
【0061】
なお、前半部の圧延は3〜6の圧延パスで行うことがより適する。すなわち、集合組織のより好ましい形成のためには、圧延圧下回数が多い方が良く、このためには特に3回以上の圧下パス回数としパス回数を増加させることでより優れた集合組織を得て、優れた磁気特性を得ることができる。さらに、これを高能率で行うためにはタンデム圧延機がロールスタンドの数が多いので有利である。但し、6回を超える場合は、ロールスタンドの増設や2回通しなどが必要であり、逆に能率を低下させ、かつ効果も飽和するので6回までとすることが望ましい。
【0062】
次に後半部の圧延を少なくとも2回の圧下パスに関して150 〜300 ℃の高温で行うことが必須の技術となる。この温度が150 ℃未満の場合、微細カーバイドの溶解が進行しないために十分な固溶Cが得られず、コットレル効果による集合組織改善効果が得られないので磁気特性が劣化する。また、逆に300 ℃を超える場合は、導入される転位のCの固着力が低下するとともに転位の易動度が増加して粒界への移動消失が起き、所望の効果が得られなくなる。したがって、後半部の圧延の温度域としては150 〜300 ℃の高温が必要である。
【0063】
また、かかる高温度域の圧延の圧下パス回数としては2回以上が必要で、これにより望ましい集合組織にすること可能となり、磁気特性の向上効果が得られる。後半部の圧延の圧下パス回数については2回以上であれば所望の磁気特性が得られるが、特に3回以上の圧下パス回数とし、パス回数を増加させることでより優れた集合組織を得、優れた磁気特性を得ることができる。但し、この場合に、6回を超えると生産の能率を落とし、かつ効果も飽和するので6回までとすることが望ましい。かかる圧延を行うにはゼンジマー圧延機などのリバース型の圧延機のみならずタンデム型の圧延機も有効に用いることができる。
【0064】
さらに、最も優れた後半部の高温度圧延としては、最終冷間圧延の直前の鋼中に析出している微細カーバイドの平均粒径D(Å)に応じて圧延温度T(℃)を33 log10D+104 の値と33 log10D+189 の値の範囲内に制御することが好ましい。かかる温度域で圧延することにより、さらに優れた磁気特性を得ることが可能となる。
【0065】
なお、最終圧延の最終圧下パスにおいては、コイル巻取後の高温保持は不要であり、高温で長時間保持した場合には、逆に圧延油の焼付きが生じる可能性が高いので、最終圧下パス終了後、コイル巻取の間までにおいて鋼板温度を150 ℃以下に冷却することが次工程の洗滌の能率を高める上で望ましい。
【0066】
最終冷間圧延の後は、必要に応じて鋼板表面に溝を配設する磁区細分化処理を施し、次の脱炭焼鈍工程を行う。この脱炭焼鈍は、一般に750 〜950 ℃の温度域で1〜5分の時間、湿水素と窒素ガス雰囲気で処理され、雰囲気の露点としては20〜70℃の値が常用される。
【0067】
脱炭焼鈍後は、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布した後、コイル状を巻き取り、最終仕上焼鈍に供される。この最終仕上焼鈍は二次再結晶と、高温での純化処理を兼ねる焼鈍であるが、二次再結晶にかかわる部分に関しては、公知のいかなるヒートパターン及び雰囲気で適用できる。最終仕上焼鈍後の鋼板は必要に応じて、絶縁コーティングと平坦化処理を施し、製品とされる。このとき、製品にレーザー照射や、プラズマジェットを照射し、磁区細分化処理を施すことも、鉄損をさらに向上させる効果がある。
【0068】
【実施例】
(実施例1)
連続鋳造によって得たC:0.070 wt%、Si:3.34wt%、Mn:0.076 wt%、Al:0.024 wt%、Se:0.018 wt%、Sb:0.025 wt%、N:0.008 wt%を含有し、残部は不可避的不純物とFeとの組成からなる電磁鋼用スラブ7本を常法の熱間圧延により2.0 mmの厚みの熱延コイルとした。これらの熱延コイルは1000℃で均熱30秒間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗し、冷間圧延により、1.5 mmの中間板厚とした。
【0069】
次いで中間焼鈍を行ったが、その際、60秒間の昇温と1100℃で均熱60秒間の熱処理を行ったのち、冷却条件としてコイルaはミスト水を用い100 ℃/sの冷却速度で室温まで冷却し、コイルb〜fは同じくミスト水を用い40℃/sの冷却速度で350 ℃まで冷却し、350 ℃で30秒間保持した後空冷した。またコイルgはガス冷却により20℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。これらのコイルの鋼中の析出炭化物を透過電子顕微鏡で観察した結果、コイルaにはほとんどカーバイドは認められず、コイルb〜fには700 〜800 Åの平均粒子径の微細カーバイドが析出しており、コイルgは250 Åの平均粒子径の微細カーバイドが一面に密集して析出していた。
【0070】
これらのコイルは酸洗した後、最終圧延の前半部としてコイルa,b,c,d及びgは4スタンドからなるタンデム圧延機で80〜120 ℃の温度で0.75mmの厚さに圧延し、コイルe及びfは同じく4スタンドの圧延機で160 〜190 ℃の温度で0.75mmの厚さに圧延した。これらのコイルはさらに最終圧延の後半部としてゼンジマー圧延機を用いて0.18mmの厚みに5回の圧下パス回数で圧延したが、そのときコイルa,b,c,e及びgは5パスを170 〜200 ℃の温度で圧延した。また、d及びfは5パスを100 〜120 ℃の温度で圧延した。なおコイルcは最終圧延後、クーラントを用いて80〜90℃に鋼板温度を低下させて後、コイル状に巻きとった。
【0071】
これらa〜gのコイルは脱脂後、鋼板片面に、深さ20μm 幅150 μm 、圧延方向から80°の角度方向の直線状の溝を圧延方向の間隔4mmで平行に配設する磁区細分化処理とを行った。
【0072】
この後、50%N2と50%H2、露点55℃の雰囲気下で840 ℃、2分間の脱炭焼鈍を施し、この後、TiO2を8%添加するMgO を焼鈍分離剤として塗布し、コイル状に巻き取った後、最終仕上焼鈍に供した。この最終仕上焼鈍は、850 ℃で15時間N2中で保持した後、15℃/hr の昇温速度で1180℃まで25%N2と75%H2の雰囲気下で昇温し、1180℃で5時間、H2中に保持し、降温した。
【0073】
最終仕上焼鈍後は未反応分離剤を除去した後、張力コーティングを塗布し、平坦化焼鈍を兼ねて800 ℃で1分間焼付け、製品とした。これらの磁気特性を表2に示す。表2に示されるように平均粒子径が250 Åもしくは700 〜800 Åの微細カーバイドを中間焼鈍で析出させ、80〜120 ℃の前半部圧延と170 〜200 ℃の後半部圧延を施した発明例において、極めて優れた磁性が得られた。
【0074】
【表2】
【0075】
(実施例2)
表3に示される組成を有する電磁鋼スラブA〜Fを常法の熱間圧延により2.5 mmの厚みの熱延コイルとした。
【0076】
【表3】
【0077】
これらの熱延コイルを870 ℃で30秒間の第1の均熱とそれに続く、1150℃で60秒間の第2の均熱と冷却過程としてミスト水を用いて35℃/sの冷却速度で250 ℃まで冷却し、冷却停止点から30秒間、±50℃以内の温度に保持する熱延焼鈍を施し、次いで酸洗処理を施した。
【0078】
酸洗処理後の各コイルの鋼中の微細カーバイドをTEMにより観察して平均粒子径を求めた。この値を表3に併せて示す。
【0079】
各コイルはそれぞれ3分割し、一つのコイルはゼンジマー圧延機を用いて、80〜120 ℃の温度で6回の圧下パスにより0.34mmの最終板厚(圧下率86%) とした(条件i)。もう一つのコイルは、同じくゼンジマー圧延機を用いて80〜110 ℃の温度で4回の圧下パスにより0.75mmの厚み(圧下率70%) まで圧延した後、190 〜210 ℃の温度で3回の圧下パスにより、0.34mmの厚みまで圧延し最終板厚とした(条件iii )。残るコイルは、同じくゼンジマー圧延機を用いて80〜110 ℃の温度で、0.55mm(圧下率78%) 、1.75mm(圧下率30%) 、2.0 mm(圧下率20%) 、2.2 mm(圧下率12%) の厚みまでのいずれかの圧延を行った後、190 〜210 ℃の温度で2〜4パスの圧下パス回数で0.34mmの最終板厚とした(条件ii、iv〜vi)。
【0080】
これらのコイルは55%のH2と45%のN2、露点55℃の雰囲気で840 ℃で3分間の脱炭焼鈍を施した後、5 %のTiO2と3%の Sr(OH)2・8H2Oを添加したMgO を焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布し、コイル状に巻き採った後、最終仕上焼鈍を施した。この最終仕上焼鈍では850 ℃までN2中で30℃/hr の昇温速度で昇温し、次に30%N2と70%H2中で1200℃まで15℃/hr の昇温速度で昇温した後、H2中で1200℃、5時間保持した後、降温した。
【0081】
最終仕上げ焼鈍後のコイルは未反応分離剤を除去した後、張力コーティングを塗布し平坦化焼鈍を兼ねて800 ℃、1分間の焼鈍を行った後、プラズマジェットによって圧延直角方向に直線状に、圧延方向への間隔8mmでプラズマ熱流照射を行い、製品とした。
【0082】
これらの製品の磁気特性を、表3に併せて示す。表3に示されるように冷間圧延の前半部を72%の圧下率、4回の圧下パスで80〜110 ℃の低温圧延し、後半部を190 〜210 ℃の温度で3回の圧下パスにより最終板厚としたこの発明の方法による製品は、いずれも優れた磁気特性のものが得られていることがわかる。
【0083】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、Alを含有する方向性電磁鋼板の製造に関し、最終冷間圧延の直前に析出させる微細カーバイドの平均粒子径の制御を行い、かつ最終冷間圧延の前半部を低温の圧延、後半部を少なくとも2パスを高温度の圧延とすることにより、極めて高い磁束密度と低鉄損の方向性電磁鋼板を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】1パスのロール圧延の際の摩擦力の方向と、剪断変形の状態を説明する図である。
【図2】一次再結晶組織の(110)〔001〕強度が板厚方向において最大値をとる位置及び磁束密度の圧延パス回数依存性を示す図である。
【図3】最終冷間圧延の後半部の圧延温度と圧延前の鋼中の微細カーバイドの平均粒子径が磁束密度に及ぼす影響を示す図である。
【符号の説明】
1 ロールバイト入口点
2 中立点
3 ロールバイト出口点
4 ワークロール
5 鋼板
6 最終剪断変形点
Claims (5)
- C: 0.01 〜 0.10wt %および Al : 0.01 〜 0.04wt %を含有する方向性電磁鋼スラブを熱間圧延する工程と、この熱間圧延工程後に1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚となす冷間圧延工程と、この冷間圧延工程後に施す脱炭焼鈍工程及び最終仕上焼鈍工程とを有する方向性電磁鋼板の製造方法において、
該冷間圧延工程の最終冷間圧延の直前に、鋼中に平均粒子径20〜2000Åの微細カーバイドを析出させておき、この最終冷間圧延を複数パスにより、前半部では圧下率30〜75%の範囲で140 ℃以下の低温にて、後半部では少なくとも2回の圧下パスを150 〜300 ℃の高温にて、かつ前半部、後半部を合わせた全圧下率80〜95%で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 該冷間圧延工程の最終圧延の前半部の圧延を3〜6の圧下パスからなるタンデム圧延機で行い、後半部の圧延をタンデムもしくはリバース型の圧延機で3〜6回の圧下パスで行うことを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 最終冷間圧延の直前の焼鈍の際、均熱処理を前段部と後段部に分割してこの前段部を800 〜880 ℃の温度域での20〜60秒間の均熱処理とし、後段部を1050〜1170℃の温度域での30〜90秒間の均熱処理とし、かつ該焼鈍の冷却過程を500 〜200 ℃の間の冷却停止点まで20℃/s以上の速度で急冷し、この冷却停止点到達時から10〜60秒の間、該冷却停止温度に対し、±100 ℃以内の温度域に加熱又は保熱の手段により温度保持することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 最終冷間圧延の直前に鋼中に析出している微細カーバイドの平均粒径D(Å)に応じて、最終冷間圧延の後半部の圧延で行う高温度の圧延温度T(℃)を下式
33 log10D+104 ≦T≦33 log10D+189
の範囲に制御することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。 - 最終冷間圧延の最終圧下パス終了後、コイル巻取の間までに、鋼板温度を150 ℃以下に低下させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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