JP3871947B2 - エポキシ樹脂の硬化剤、その組成物及びその用途 - Google Patents

エポキシ樹脂の硬化剤、その組成物及びその用途 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリチオエステル化合物からなる新規なエポキシ樹脂硬化剤に関する。さらに詳しくは、かかる硬化剤を含有する成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに有用なエポキシ樹脂組成物に関する。特には、エポキシ樹脂系半導体封止材における硬化剤として使用するときに、低吸水性、低弾性率、低溶融粘度を兼ね備え、成形硬化性にも優れたポリチオエステル系エポキシ樹脂硬化剤及びそれとエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、これまでアミン類、酸無水物類、ポリアミド類、イミダゾール類、ポリフェノール類、ポリメルカプタン類などが知られている。その他にも、カチオン系やアニオン系の触媒系硬化剤や熱又は光潜在性を有する特殊な硬化剤も知られている。この中で、ポリメルカプタン類については、3級アミンを硬化促進剤として併用するときに、低温速硬化が可能で、ポットライフの比較的長い硬化剤として実用化されている。これらはいずれも複数のメルカプタン基(−SH基)を有する化合物であって、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、脂肪族ポリサルファイドなどが知られているが、悪臭を呈することが大きな問題である。
【0003】
一方、半導体封止用に用いられる樹脂組成物としては、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂とともに、硬化剤としてフェノール性水酸基を有する化合物を用いるのが一般的である。もっとも光半導体や液状封止用には、硬化剤として酸無水物やアミン系硬化剤が用いられている。いずれにしてもメルカプタン系の硬化剤は使用されていない。仮に半導体封止用に従来知られているポリメルカプタン系硬化剤を用いた場合、悪臭以外にも、経時的に粘度が増大し流動性が低下する、低温でも反応し熱潜在性が小さい、吸水性に劣る、燃えやすい、など種々の欠点が予測される。
【0004】
ところが近年、半田の鉛フリー化による実装温度の上昇、LSIチップの大型化、パッケージの薄型化/小型化、パッケージ形状の多様化などに伴い、封止材に対する要求性能が大きく変わってきており、従来のエポキシ樹脂封止材料では、耐湿性、耐熱性、信頼性などの点で充分な対応が難しくなってきている。例えば、半田付け時の熱処理時に、吸湿水分の急激な気化膨張に伴うパッケージのクラックや剥離の発生が問題になっている。また一方で、生産性向上の観点から、流動性に優れ、かつ即硬化性があり、成形サイクルの短い硬化剤が要求されている。
【0005】
半田耐熱性のさらなる向上のためには、吸水性が低く、半田付け温度における弾性率が低いエポキシ樹脂や硬化剤の開発が望まれている。またLSI構成部品との接着性向上なども求められている。このような要望に対して、硬化剤としてフェノールアラルキル樹脂(特公昭47−13782号、特公昭47−15111号など)を用いる方法が採用されている。フェノールアラルキル樹脂は、フェノール化合物をハロメチル基やアルコキシメチル基、ヒドロキシメチル基などを2個有する芳香族化合物と反応させることによって得られるもので、OH基濃度が低下する効果で低吸水化や熱時低弾性化を図るものであり、それなりの効果は認められるが、未だ充分なものではなかった。
【0006】
最近、アルコキシメチル基を2個以上有する芳香族化合物にビス(メトキシメチルビフェニル)を反応させたタイプのフェノールビフェニルアラルキル樹脂が提案されており(特許第3122834号など)、ある程度の改善はなされているが、この場合も充分満足すべきものとは言えない。とくに鉛フリー半田対応で、半田付け温度の上昇が避けられない状況では、さらなる低吸水化や低弾性率化の材料が求められている。また、このような水酸基当量の高い材料は、硬化性の低下を引き起こし、成形サイクルの延長や、ゲート詰まり、離型不良、スタッキングなど、生産性が大幅に損なわれるという欠点を有している。
【0007】
この他にもナフトールなど多環芳香族化合物の利用なども提案されているが(特開平9−176262号)、溶融粘度の上昇のためフェノールを過剰に使用することが必須となっており、必ずしも充分な改善が得られていない状況である。
【0008】
また、ナフトールアラルキル樹脂や石油ピッチをフェノールと共にホルムアルデヒドと共重合したもの、ジビニルベンゼンとフェノールの付加反応物、ジシクロペンタジエンとフェノールの付加反応物などが提案され、一部は採用されているが、目標とする特性を満足するまでには至っていない。
【0009】
これら従来の改良処方は、主としてエポキシ樹脂とフェノール系硬化剤との反応によって生じるアルコール性水酸基濃度を減少させるために、硬化剤のフェノール性水酸基やエポキシ樹脂のエポキシ基を減少させるものであった。そのため低吸水化や半田付け温度域での弾性率低減に効果があるものではあったが、官能基数(架橋点)の減少により封止の際の硬化時間が長くなったり、金型からの離型不良が起こったりするなど生産性が損なわれることがあった。またこのような処方でもアルコール性水酸基は減少するものの生成することには変わりがないため、吸水性の低下には本質的に限界があった。
【0010】
アルコール性水酸基の生成を低減させる処方として、最近硬化剤中のフェノール性水酸基をエステル化したものが提案されているが、エポキシ基との反応性が乏しいため、部分的にエステル化したり(特開平7−53675号、特開平8−208807号、特開平10−168283号)、特殊な硬化触媒を用いたり(特開2000−53748号、特開2000−143775号)することが報告されている。しかしながら、フェノール性水酸基に比較して硬化性の低下が大きいため、実用化のためにはまだまだ課題が多いのが現状である。また硬化性とのバランスを考慮して部分的にエステル化されたものは、エステル化率が下がるとともに吸水率の低減効果も小さくなる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、半導体封止用エポキシ樹脂硬化系において、従来のフェノール樹脂系硬化剤では到達不可能なレベルまで吸水性を大幅に低減すると共に、硬化性が優れ、低粘度で熱時の弾性率も低い硬化物を与える新規なエポキシ樹脂硬化剤を提供することにある。本発明の他の目的は、このようなエポキシ樹脂硬化剤をエポキシ樹脂に配合した硬化性組成物ならびにその硬化物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、一般式(1)
【化4】
Figure 0003871947
(式中、Ar は、一般式(2−1)で示されるフェニレン基又は一般式(3−1)で示されるナフタレン基であり、Ar は、一般式(2−2)で示されるフェニレン基又は一般式(3−2)で示されるナフタレン基であり、Xは、直接結合、2価の炭化水素基、O、S又はSOであり、R、Rは、炭化水素基であり、nは1以上の整数)で示されるチオエステル化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤に関する。
【化5】
Figure 0003871947
【化6】
Figure 0003871947
(式中、R、R、Rは、それぞれ水素、炭化水素基、RSC(O)基(Rは炭化水素基)又はハロゲン、s、t、uは、それぞれ1又は2の整数)
【0013】
本発明はまた、上記チオエステル化合物とエポキシ樹脂からなるエポキシ樹脂組成物、さらにはこれを硬化してなるエポキシ樹脂硬化物に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で使用される一般式(1)で示されるチオエステル化合物において、 及びR は炭化水素基であって、異種原子、例えばハロゲン、酸素等を含んでいてもよく、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、n−ブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ベンジル、2−クロルエチル、2−エトキシエチルなどの置換又は非置換のアルキル基、フェニル、2−又は3−又は4−メチルフェニル、2−又は3−又は4−エチルフェニル、2−又は3−又は4−イソプロピルフェニル、2−又は3−又は4−イソブチルフェニル、2−又は3−又は4−tert−ブチルフェニル、2−又は3−又は4−ベンジルフェニル、2−又は3−又は4−クロルフェニル、2−又は3−又は4−エトキシエチルフェニル、2−又は3−又は4−フェニルフェニル、α−又はβ−ナフチルなどの置換又は非置換のアリール基を挙げることができる。 及びR の種類を変えることにより、エポキシ樹脂との硬化速度を所望の値に調整することができる。一般的には、 及びR がアリール基の方が、エポキシ樹脂との硬化速度が適度であるため好ましいが、硬化速度が速い 及びR がアルキル基のものを使用することは勿論可能であり、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0015】
一般式(1)で示されるチオエステル化合物において、Ar及びArは、それぞれ前記一般式(2−1)もしくは(3−1)、及び(3−1)もしくは(3−2)で表されるものであって、それら式におけるR、R及びRは、それぞれ水素、炭化水素基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、イソブチル、n−ブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、ベンジル、2−クロルエチル、2−エトキシエチルなどの置換又は非置換のアルキル基、フェニル、2−又は3−又は4−メチルフェニル、2−又は3−又は4−エチルフェニル、2−又は3−又は4−イソプロピルフェニル、2−又は3−又は4−イソブチルフェニル、2−又は3−又は4−tert−ブチルフェニル、2−又は3−又は4−ベンジルフェニル、2−又は3−又は4−クロルフェニル、2−又は3−又は4−エトキシエチルフェニル、2−又は3−又は4−フェニルフェニル、2−又は3−又は4−メチルスルフィニルフェニル、α−又はβ−ナフチル、RSC(O)基(Rは炭化水素基で、前述のR及びRとして例示したようなもの)置換の前述のようなアリール基などの置換又は非置換のアリール基、CSC(O)、C10SC(O)などのRSC(O)で表される基、弗素、塩素、臭素、沃素などのハロゲンである。ここにs、t及びuはそれぞれ1〜2の整数であり、s個のR、t個のR及びu個のRは、それぞれ同一のものでも異なるものであってもよい。
【0016】
一般式()におけるXは、直接結合、2価の炭化水素基、O、S又はSOであり、nは1以上の整数、通常10以下、好ましくは1〜3である。Xが2価の炭化水素基の場合、酸素、硫黄、ハロゲンなどの異種元素を含むものであってもよく、例えば−Ar−C(O)−S−R10(但しArは置換又は非置換のアリール基であり、R10は置換又は非置換のアルキル基又はアリール基、例えばフェニレン、ナフタレン、置換フェニレン、置換ナフタレンなどでRとして例示したようなもの)のような基を1個以上有するものであってもよい。ここにn個のX,n個のAr、n個のRはそれぞれ同一でも異なるものであってもよい。本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、勿論、一般式()で示される化合物の2以上の異なるものの混合物であってもよく、その場合はnの平均値が1〜3となるようなものが好ましい。
【0017】
上記式におけるXが炭化水素基の場合、具体的には以下のようなものを例示することができる。例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、イソプロピリデン、テトラメチレン、イソブチリデン、シクロヘキシレンなどのアルキレン基やフェニレン、メチルフェニレンなどのアリーレン基などの他に、下記()〜(20)のようなものを例示することができる。
【0018】
【化7】
Figure 0003871947
【化8】
Figure 0003871947
【化9】
Figure 0003871947
【化10】
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【化11】
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【化12】
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【化13】
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【0019】
【化14】
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【化15】
Figure 0003871947
【化16】
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【化17】
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【化18】
Figure 0003871947
【化19】
Figure 0003871947
【0020】
低粘度を兼ね備えた結晶性硬化剤の例としては、一般式()において、Ar及びArがフェニレンであり、nが1であり、Xが直接結合、O、S、SO、CH又はC(CHであり、R及びRがアリール基又は炭素数1〜18のアルキル基である、一般式(21)で示される化合物が好ましい。
【化20】
Figure 0003871947
【0021】
このような化合物として具体的には、式(22)〜(37)で示される化合物を代表例として例示することができる。
【化21】
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【化22】
Figure 0003871947
【化23】
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【化24】
Figure 0003871947
【0022】
【化25】
Figure 0003871947
【化26】
Figure 0003871947
【化27】
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【化28】
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【0023】
【化29】
Figure 0003871947
【化30】
Figure 0003871947
【化31】
Figure 0003871947
【化32】
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【0024】
【化33】
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【化34】
Figure 0003871947
【化35】
Figure 0003871947
【化36】
Figure 0003871947
【0025】
一般式(1)で示されるチオエステル化合物は、SH基を1個有する化合物と、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸ハライド基などを2個以上有する化合物やフタル酸無水物のような酸無水物とを反応させることによって得ることができる。
【0026】
例えばジカルボン酸クロライドとSH基を1個有する化合物の反応においては、溶媒としては、反応によって発生する塩化水素をトラップする塩基性の溶媒、例えばピリジンなどが好ましい。またその場合、重炭酸カリウムや水酸化ナトリウムなどの塩基を存在させて反応を進めるのもよい。
【0027】
原料がジカルボン酸の場合は、反応を促進し、生成する水をできるだけ除くために、ジシクロヘキシルカルボジイミドなど適当な脱水縮合剤を用いることができる。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルピロリドンなどの一般的な極性溶媒を使用することができる。ジカルボン酸の場合、自己の触媒作用で触媒を添加しなくても反応は進行するが、プロトン酸やチタン、スズ、鉛などの有機金属化合物、重金属の酸化物や塩などを触媒として用いることもできる。
【0028】
反応温度は、使用する原料によっても異なるが、例えばジカルボン酸ハライドを使用する場合には0〜200℃、好ましくは20〜150℃の範囲で行うのがよい。反応終了後は、洗浄、再結晶など一般的な精製操作を行うことにより、目的とするチオエステル化合物を得ることができる。
【0029】
かくして得られるチオエステル化合物は、エポキシ樹脂硬化剤として有用であり、エポキシ樹脂系半導体封止材における硬化剤として使用すると、低吸水性、低弾性率、低溶融粘度の速硬化性エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0030】
上記本発明のチオエステル化合物とともに使用することができるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂など、分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
エポキシ樹脂の硬化に際しては、硬化促進剤を併用することが望ましい。かかる硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール樹脂系硬化剤で硬化させるための公知の硬化促進剤を用いることができ、例えば3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール類及びそのテトラフェニルボロン塩、有機ホスフィン化合物およびそのボロン塩、4級ホスホニウム塩などを挙げることができる。より具体的には、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセンー7などの3級アミン、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレートなどを挙げることができる。とくに有用なものは第3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール類である。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤、カップリング剤、離型剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、低応力剤等を、添加または予め反応して用いることができる。またフェノール系重合体硬化剤を併用することもできる。この場合、本発明のチオエステル化合物硬化剤は、フェノール系重合体硬化剤の低溶融粘度化、低吸水化、低弾性率化、速硬化性などに効果的である。このようなフェノール樹脂系硬化剤としては、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であって、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、特公昭47−13782号、特公昭47−15111号、特開平6−184258号、特開平6−136082号、特開平7−258364号、特許第3122834号などに開示されているフェノールアラルキル樹脂、フェノールビフェニルアラルキル樹脂、フェノールナフチルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン型ノボラック樹脂などを例示することができる。
【0033】
とくに半導体封止用に使用する場合は、無機充填剤の添加は必須である。このような無機充填剤の例として、非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、ガラス、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、マグネサイト、クレー、タルク、マイカ、マグネシア、硫酸バリウムなどを挙げることができるが、とくに非晶性シリカ、結晶性シリカなどが好ましい。また優れた成形性を維持しつつ、充填剤の配合量を高めるために、細密充填を可能とするような粒度分布の広い球形の充填剤を使用することが好ましい。
【0034】
カップリング剤の例としては、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系などのシラン系カップリング剤やチタン系カップリング剤を、離型剤の例としてはカルナバワックス、パラフィンワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィンワックスなど、また着色剤としては、カーボンブラックなどを例示することができる。難燃剤の例としては、ハロゲン化エポキシ樹脂、ハロゲン化合物、リン化合物など、また難燃助剤としては三酸化アンチモンなどを挙げることができる。低応力化剤の例としては、シリコンゴム、変性ニトリルゴム、変性ブタジエンゴム、変性シリコンオイルなどを挙げることができる。
【0035】
本発明のチオエステル化合物とエポキシ樹脂の配合比は、耐熱性、機械的特性などを考慮すると、チオエステル基/エポキシ基の当量比が0.5〜1.5、とくに0.8〜1.2の範囲にあることが好ましい。硬化促進剤として好適な第3級アミンは、硬化特性や諸物性を考慮すると、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部の範囲で使用するのが好ましい。さらに半導体封止用のエポキシ樹脂組成物においては、無機充填剤の種類によっても若干異なるが、半田耐熱性、成形性(溶融粘度、流動性)、低応力性、低吸水性などを考慮すると、無機充填剤を組成物全体の60〜93重量%を占めるような割合で配合することが好ましい。
【0036】
エポキシ樹脂を成形材料として調製する場合の一般的な方法としては、所定の割合の各原料を、例えばミキサーによって充分混合後、熱ロールやニーダーなどによって混練処理を加え、さらに冷却固化後、適当な大きさに粉砕するなどの方法を挙げることができる。このようにして得た成形材料は、例えば低圧トランスファー成形などにより半導体素子を封止することにより、半導体装置を製造することができる。エポキシ樹脂組成物の硬化は、例えば100〜250℃の温度範囲で行うことができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
[参考例1]
ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸ジクロライド27.9g(0.1モル)及びピリジンを83.7gからなる溶液に、チオフェノール24.2g(0.22モル)を10分かけて逐次添加し、85℃まで昇温した後、2時間反応させた。反応液中には未反応のビフェニル−4,4’−ジカルボン酸ジクロライドは検出されなかった。反応液にメチルイソブチルケトン100ml及び純水100mlを加えたのち、析出した結晶を濾別した。次いで得られた結晶を純水100mlにより3回洗浄し、10時間減圧乾燥することにより、前記式(24)で示される融点235℃の4,4’−ジ(S−フェニル)ビフェニルジチオカルボキシレート35.4g(83.7%収率)を得た。
【0038】
[実施例1]
参考例1で得た式(24)で示される4,4’−ジ(S−フェニル)ビフェニルジチオカルボキシレート、エポキシ樹脂(住友化学工業(株)製ESCN−195XL、オルソクレゾールノボラック型、エポキシ当量195g/eq)、溶融シリカ、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(DBU)、アミノシランカップリング剤及びカルナバワックスを表1に示す割合で配合し、充分に混合した後、85℃±3℃の2本ロールで3分混練し、冷却、粉砕することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。これを用いてキュラストメータ硬化性を測定した。
【0039】
またトランスファー成形機でエポキシ樹脂組成物を圧力100kgf/cmで175℃、2分間成形後、180℃、6時間ポストキュアを行い、吸水率用、曲げ弾性率用及びガラス転移温度(Tg)用のテストピースを得た。
【0040】
これらエポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物の特性を、次の方法により測定した。
【0041】
(1)吸水率
サンプル形状50mm径×3mmの円盤を、85℃、相対湿度85%RH雰囲気下で168時間吸水させたときの吸水率を測定。
吸水率(%)=(処理後の重量増加分/処理前の重量)×100
【0042】
(2)曲げ弾性率
サンプル形状80×10×4mmの短冊を260℃雰囲気で10分放置後、JIS K6911に準じて測定
【0043】
(3)ガラス転移温度(Tg)
TMAにより、線膨張係数を測定し、線膨張係数の変曲点をTgとした。
【0044】
(4)175℃溶融粘度
エポキシ樹脂組成物1gをタブレットにして高下式フローテスター(温度175℃、圧力10kgf/cm、オリフィス径1mm、長さ1mm)で組成物の溶融粘度を測定した。
【0045】
(5)キュラストメータ硬化性
エポキシ樹脂組成物約5gをタブレットにして、金型温度175℃のキュラストメータで硬化に応じたトルク変化を測定した。
【0046】
(6)半田クラック発生率
実施例及び比較例のエポキシ樹脂組成物で、銅フレームにマウントされた6.7mm×6.7mm×0.4mmのLSIチップを、175℃、150秒、圧力60kgf/cmの条件でトランスファー成形により封止し、175℃で4時間ポストキュアし、60ピンQFP(パッケージサイズ20mm×14mm×2.7mm)の半導体装置を各8個づつ成形した。この半導体装置を、85℃、85%湿度の恒温恒湿槽で168時間処理した後、260℃のシリコーンオイルに10秒間浸漬し、内部クラックの発生状況を軟X線で観察した。
【0047】
[比較例1]
表1の配合組成のものにつき、実施例1と同様にして評価を行った。尚、表中におけるフェノールアラルキル樹脂としては、住金ケミカル(株)製HE100C−15(水酸基当量170g/eq)を用いた。
【0048】
【表1】
Figure 0003871947
表中の原料の数値は重量部
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、成形材、各種バインダー、コーティング材、積層材などに有用なチオエステル化合物系エポキシ樹脂硬化剤を提供することができる。このようなチオエステル化合物は、とくに半導体封止用エポキシ樹脂硬化剤として用いた場合に、低吸水性、低弾性率、高流動性(低溶融粘度)で半田耐熱性に優れ、硬化性が良好なエポキシ樹脂組成物を形成することができる。

Claims (8)

  1. 一般式(1)
    Figure 0003871947
    (式中、Ar は、一般式(2−1)で示されるフェニレン基又は一般式(3−1)で示されるナフタレン基であり、Ar は、一般式(2−2)で示されるフェニレン基又は一般式(3−2)で示されるナフタレン基であり、Xは、直接結合、2価の炭化水素基、O、S又はSOであり、R、Rは、炭化水素基であり、nは1以上の整数)で示されるチオエステル化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤。
    Figure 0003871947
    Figure 0003871947
    (式中、R、R、Rは、それぞれ水素、炭化水素基、RSC(O)基(Rは炭化水素基)又はハロゲン、s、t、uは、それぞれ1又は2の整数)
  2. 一般式()において、nが1であるチオエステル化合物である請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
  3. 請求項1又は2に記載のチオエステル化合物とエポキシ樹脂とからなるエポキシ樹脂組成物。
  4. 無機充填剤を含有する請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。
  5. 第3級アミンを含有する請求項3又は4に記載のエポキシ樹脂組成物。
  6. 半導体封止用に使用される請求項3〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
  7. 請求項3〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化物。
  8. 請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなる半導体装置。
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