JP3869265B2 - ボルト用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ボルト用鋼に関し、詳細には飛来塩分量の比較的高い海岸地帯などにおける構造物に用いることのできる高い耐候性を有するとともに、特にスケールの剥離性や酸洗い性を高め、高いボルト製造性を具備するボルト用鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、橋梁などの鋼構造物の維持管理費の低減要求が強まり、海浜地帯などの塩化物環境においても錆止め塗装などをせずに用いられる構造部材が求められている。この観点から、Niを多量に添加した厚板、形鋼などの鋼材が開発されてきている。こうした鋼材をボルト締結するためには、腐食電位などの電気化学的特性が鋼材と同等であるボルトを用いなければならない。それは、電気化学的特性が著しく異なる鋼材とボルトを塗装せずに接触させると、ガルバニ腐食(異種金属接触腐食)が起こり、いずれかが選択的に腐食するからである。
【0003】
上記のような背景から、ボルト材についても鋼材の成分に類似してNiを多く添加したものが開発されてきている。例えば、特開2000−63978号公報においてはNiを1.5〜7.0%、また本出願人の先願である特開2000−212696号公報においてはNiを0.5〜2.7%それぞれ添加するとともに、他成分を制限して含有せしめることで耐候性を改善する方法が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記に提案されているボルト材においては、Niの添加は耐食性や耐候性を改善する効果が大きい反面、Niを多く含有することで、圧延線材においてスケール噛み込みによる線状のしわキズが生じ後の鍛造工程において割れを発生させたり、また伸線前の酸洗いにおいて十分スケールが除去できないことで伸線加工を阻害するなど、厚板などの鋼材の製造過程では想定されなかった固有の問題が生じることがわかった。
【0005】
本発明は、このような背景からなされたものであり、その目的は、高い耐候性と、スケールの剥離性や酸洗い性を高めたボルト製造性とを両立させ得るボルト用鋼を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を見出した後その解決のため鋭意調査、研究を行った。その結果、Ni添加によってスケール噛み込みキズや酸洗い性不良が促進する原因は、まだ明確には突き止められていないが次のように推測される。すなわち、Ni添加による母材の性質変化(変形抵抗の増加や耐酸化性上昇など)もあるが、熱間圧延時に緻密で密着性の高い酸化皮膜が形成されることも大きな要因であると考えられる。
【0007】
そこで、本発明においては、Feの酸化物よりも安定な酸化物を形成するMn、Si、Alの量を高めることで熱間圧延時のスケールを剥離性の高いものとすることができると考え、また更にSiやAlはNiと同様に母材の腐食電位を貴にする作用があるため、その分Niの添加量を低減することができると考え、実験によりその効果、すなわち熱間圧延時のスケールの剥離性を高めスケール噛み込みキズを低減し得るとともに、酸洗い性を高め得ることを突きとめて本発明を完成させたものである。
【0008】
【0009】
【0010】
請求項1に係る発明は、質量%で、C:0.05〜0.45%、Mn:0.10〜2.0%、Cu:0.55〜1.6%、Ni:1.2〜3.2%、Al:0.01〜0.15%、Cr:0.10%以下(0%を含む)、Ti:0.005〜0.15%と、更にSi:0.60〜1.50%(0.60%を含まず)とを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とするボルト用鋼である。
【0011】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明のボルト用鋼の鋼成分として、更にB:0.0010〜0.0060%を含有するボルト用鋼である。
【0012】
【0013】
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。まず本発明の鋼の化学成分の限定理由について説明する。
【0015】
C:0.05〜0.45%
Cは、ボルトとしての強度を確保するために必要である。0.05%以下では強度が不足する。一方、上限は、耐候性の観点からは低い方が好ましく、0.25%以下、更に好ましくは0.15%以下である。0.45%以上では靱性が低下し、遅れ破壊等の問題を生じる。
【0016】
Si:0.60〜1.50%(0.60%を含まず)
Siは、Ni添加鋼において熱間圧延中のスケールを剥離しやすい良質なものに変える。更に腐食電位を貴にする作用もあるので、Niを低下させても高い耐候性を保つことができる。このSiの上限は、1.50%を超えての添加は冷間鍛造性を阻害するので1.50%までとする。
【0017】
Mn:0.10〜2.0%
Mnは、上記Si同様にNi添加鋼において熱間圧延中のスケールを剥離しやすい良質なものに変える。このMnの上限は、2.0%を超えると効果が飽和するので経済性を考慮して2.0%までとする。
【0018】
Cu:0.55〜1.6%
Cuは、後記Niと同様に耐候性を改善する。0.55%以上でその効果が現れるが、1.6%以上ではその効果が飽和するうえ熱間圧延時に割れなどを起こしやすくなる。
【0019】
Ni:1.2〜3.2%
Niは、耐候性改善効果が高く特に1.2%以上で効果が大きい。しかし、3.2%を超えると、上記Mn、Si及び後記Alなどを添加しても、スケール噛み込みキズの生成や酸洗い不良を抑制できなくなる。従って、上限を3.2%以下とするが、好ましくは2.7%以下、更に好ましくは1.5%以下である。
【0020】
Al:0.01〜0.15%
Alは、上記Siと類似して耐候性改善効果およびスケール改質効果を有するので0.01%以上とするが、製鋼時の鋳造割れなどの原因となるため0.15%以上の多量添加は好ましくない。
【0021】
Cr:0.10%以下(0%を含む)
Crは、塩分腐食環境下において特に錆層の安定化を阻害し、錆の進行を促進するため0.10%以下、より好ましくは0.06%以下とすることが必要である。
【0022】
Ti:0.005〜0.15%
Tiは、上記Ni、Cuとの複合添加により、微量で耐候性を高める元素である。0.005%未満ではその効果がない。また、0.15%以上では粗大な窒化物を形成し、疲労特性に悪影響を及ぼす。
【0023】
また、本発明の鋼においては、更にB:0.0010〜0.0060%を含有させることが好ましい。Bは、微量で焼入れ性を高めるので、他の成分が少量であるときや、ボルトの径が太くで焼きが入りにくいときに添加する。0.0010%未満ではその効果がなく、0.0060%以上ではその効果が飽和する。
【0024】
【0025】
本発明の鋼における不可避的不純物について、不可避的不純物には種々あるが、主なものには、P、S、Nなどがある。P、Sは靱性を阻害するので少ない方がよく、いずれも0.035%以下が好ましく、0.015%以下が更に好ましい。Nは製鋼、熱間圧延時の欠陥の原因となるので、0.020%以下が好ましく、0.010%以下が更に好ましい。
【0026】
【0027】
【実施例】
表1に示す成分組成の供試鋼を実験炉にて溶製し、直径21mmの線材に熱間圧延した。この圧延線材を対象にスケール噛み込みキズの検査、酸洗い性の評価、及び耐候性の評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0028】
なお、スケール噛み込みキズの検査は、圧延線材の横断面(各鋼種N=10断面)を光学顕微鏡で観察し、検出されたキズのうち一番深いものの深さで評価した。また、酸洗い性評価は、圧延線材のカットサンプルを26℃、10%の塩酸溶液に20秒間浸漬した後のスケール除去状態を目視評価した。また、耐候性の評価は、圧延線材にボルトと同等の調質処理を施した長さ100mmのサンプルを用い、週1回5%食塩水を散布しながら屋外に3ヶ月放置する大気暴露試験を行った。いずれも暴露前の重量と、暴露後に錆を化学的に除去したサンプルの重量との差を表面積で除して腐食減量を算出した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
上記表1、2においてNo.1および2は本発明鋼、No.3〜5は比較鋼である。本発明鋼No.1は、本発明の特徴成分であるSiのみ特に多く(0.63%)含有し、更にB:0.0020%を含有したもの、本発明鋼No.2は、本発明の特徴成分であるMn、Siを特に多く(Mn:1.57%、Si:0.62%)含有したものである。これら本発明鋼No.1および2は、いずれもキズ深さは比較的浅く(0.02mm以下)、酸洗い性についてもスケールが80%以上除去され、また、腐食減量も比較的良好であった。
【0032】
上記本発明鋼No.1および2に対して、比較鋼No.3は、Al:0.053%、B:0.0022%を含有するものの、本発明の特徴成分であるMn、Siがともに少量であるため、耐候性には優れたがキズ深さ、酸洗い性がともに本発明鋼よりやや劣る結果となった。また、比較鋼No.4は、本発明の特徴成分であるMnを多量に含有しているが、Ni:3.83%と多く含有したため改善効果が十分に得られず、耐候性は非常に良いがキズ深さ、酸洗い性が顕著に低かった。また、比較鋼No.5は、Al:0.026%、B:0.0020%を含有するものの、本発明の特徴成分であるMn、Siがともに少量であるうえに、Ni:1.45%と低く含有させたもので、キズ深さ、酸洗い性、耐候性のいずれも本発明例よりやや劣る結果となった。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るボルト用鋼によれば、スケールの剥離性や酸洗い性を高めることができボルト製造性を高めることができるとともに、製造されたボルトは高い耐候性を有する。
【0034】
Claims (2)
- 質量%で、C:0.05〜0.45%、Mn:0.10〜2.0%、Cu:0.55〜1.6%、Ni:1.2〜3.2%、Al:0.01〜0.15%、Cr:0.10%以下(0%を含む)、Ti:0.005〜0.15%と、更にSi:0.60〜1.50%(0.60%を含まず)とを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とするボルト用鋼。
- 請求項1に記載のボルト用鋼の鋼成分として、更にB:0.0010〜0.0060%を含有するボルト用鋼。
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