JP3867898B2 - ダイラタンシー性液体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高せん断力下で高粘性となり、低せん断力下で低粘性となるダイラタンシー性を示す液体に関する。このような液体は2個の近接して相対移動する物体間に配置され、高いずり速度のもとでは高いトルクを伝達し、低いずり速度のもとでは低いトルクを伝達するクラッチや防振装置などの作動液体として有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来、微細粒子を分散した液体においては、せん断力を加えると、低いせん断力下では低い粘性を示すが、加えるせん断力を増加させると、急激に高い粘性を示す現象、即ち、ダイラタンシー性を示すことが知られている。このダイラタンシー性は、粒子のパックキング状態が急激な外力により、一時的に変化することから起こる現象である。いま簡単のために、同じ大きさの球形粒子の集合を考えると、最密パックキングでは空隙率は26%である。この状態では、粒子間の空間を埋めるに足りるだけの液体を吸収すれば球形粒子の集合体は静かに流動することができる。しかし、いま、これに急激に強い外力が加えられると、球形粒子の集合は疎なパックキング状態に移行する。例えば、最疎パックキングでは、空隙率は48%であるから、その増大した空間に、上記液体が全部内部に吸い込まれてもまだ足りず、液体に浸されないで、擦れ合う粒子ができる。ダイラタンシー性において、表面の液体が内部に吸い込まれて、体積が膨張し、流動性が失われて、脆い固体のような挙動をするのはこのためである。例を挙げれば、海岸の濡れた砂地を足で踏むと、砂粒の間隙が広がり、海水が砂の中へ吸い込まれて、砂地は乾いて見え、固くなる現象がこれであり、また、無機物の結晶沈澱を吸引濾過するときにもダイラタンシー現象が観察される。
【0003】
ダイラタンシー性を示す液体としてドイツBASF社のダイラタール(登録商標)が知られている。これはアクリル酸エステル−スチレン共重合体微粒子を水に分散させたものである。また、特開平8−281095号では、真球度1.1以下の無機化合物微粒子と液体とからなるダイラタンシー性を示す液体が報告されており、この請求項の中ではシリコーンオイルを使用することが記載されている。
【0004】
従来、公知のダイラタンシー性液体は、分散媒が水または揮発性の溶剤であるため、分散媒が低温では固化し、高温では揮発しやすいという問題があった。また、そこまで至らない場合でも、粘度変化が激しく、室温付近でしか使用できないといった問題があった。また、耐熱、耐寒性に優れるジメチルシリコーンオイルやメチルフェニルシリコーンオイルを分散媒として用いても、ダイラタンシー性を示さない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、広い温度範囲で液状を保持し、機械的強度が大きく、せん断応力の増大に伴う粘性抵抗の変化量が大きい、新規なダイラタンシー性液体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究した結果、窒素原子含有の官能基を有するオルガノポリシロキサン10〜100重量部、無機化合物粒子または有機化合物粒子100重量部からなり、低せん断力下でゾル状となり、高せん断力下でゲル状となるダイラタンシー性液体を見出した。このダイラタンシー性液体は温度変化に伴う粘度変化が小さく、広い範囲で液状を保持し、機械的強度が大きく、せん断応力の増大に伴う粘性抵抗の変化量が大きいものである。窒素原子含有の官能基を有するオルガノポリシロキサンの中でも下記一般式(1)で表されるアミノ変性オルガノポリシロキサンが特に好ましい。
aR'bSiO(4-a-b)/2 (1)
[式中、Rは置換または非置換の1価炭化水素基、R'はアミノ基含有の1価炭化水素基、a,bは0≦a2.0,01.0,0(a+b)2.5を満たす数である]
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における無機化合物粒子または有機化合物粒子の粒径は特に限定の必要はないが、好ましくは0.05〜5μmであり、より好ましくは0.1〜1.5μmである。粒径が大きすぎると粒子の分散が不安定となり、沈降してしまい、溶媒と分離してしまう。粒径が小さすぎるとゾル状態下での粘度が増加し、典型的なダイラタンシー性を示し難く、好ましくない。
本発明における無機化合物粒子の表面状態は凹凸が少なく平滑であり、より球状に近いほど好ましい。
本発明における無機化合物粒子の化学組成としてはSi,Al,Mg,Zrの酸化物及び窒化物が好ましい。これら酸化物及び窒化物は機械的強度が大きく、化学的に安定であるから、これらを原料としたダイラタンシー性液体を前記用途に使用した場合、使用中に砕けたり、化学変化したりすることが少なく安定している。これらの具体例としてはシリカ、アルミナ,マグネシア,ジルコニア,四窒化三珪素,窒化アルミニウム,窒化マグネシウム,窒化ジルコニウムなどを挙げることができる。
【0008】
本発明における有機化合物粒子としてはシロキサン重合体、(メタ)アクリル系共重合体、ナイロン樹脂、ポリオレフィンなどが使用可能である。好ましくはシロキサン重合体であり、ゴム状、レジン状または複合パウダーのシロキサン重合体が挙げられる。
【0009】
本発明のダイラタンシー性液体の液状成分として、特に好ましいのは下記一般式(2)で示される直鎖状の窒素原子含有シロキサンである。
【化1】
Figure 0003867898
〔式中、R1は同一または異種の、置換または非置換の1価炭化水素基、R2は−R3−NHR4、−R3−NH(CO)R4、−R3−NH(CO)OR4の中の1種(但し、R3はメチレン基、エチレン基などの2価のアルキレン基、R4はメチル基、エチル基、フェニル基などの1価の炭化水素基または水素原子である。)を表し、a,bはともに0〜10の整数である。〕
特に好ましいシロキサンは、下記一般式(3)、(4)が挙げられる。
【0010】
【化2】
Figure 0003867898
(但し、RはCH3またはOCH3、m、nは整数)
Figure 0003867898
(但し、RはCH3またはOCH3、m、nは整数)
【0011】
また、前記一般式で示されるアミノ変性オルガノポリシロキサンの合成法は、ポリシロキサンにアミノ基を導入するが、アミノアルキルアルコキシシランの加水分解オリゴマーとオクタメチルシクロテトラシロキサンのような環状シロキサンとを水酸化カリウムの存在下、加熱する方法、平衡化に依らず、両末端に水酸基を有するジメチルポリシロキサンとアミノアルキルジアルコキシシランとの脱アルコール反応による方法などがある。
【0012】
本発明のダイラタンシー性液体において、無機化合物粒子または有機化合物粒子100重量部に対する窒素原子含有の官能基を有するオルガノポリシロキサンの混合比率は10〜500重量部である。無機化合物粒子または有機化合物粒子100重量部に対する、オルガノポリシロキサンの好ましい混合比率は30〜100重量部である。10重量部未満であると、本発明のダイラタンシー性液体がスラリー状となり、均一に混合するのが困難となり、また、実際使用するとき充填が困難となる。500重量部を超えると、粒子の沈降が速く、ダイラタンシー性が発現し難い。
【0013】
本発明のダイラタンシー性液体において、無機化合物粒子または有機化合物粒子の、窒素原子含有の官能基を有するオルガノポリシロキサンに対する分散性を向上させるために、あるいは、無機化合物粒子または有機化合物粒子の比重を分散媒である窒素原子含有の官能基を有するオルガノポリシロキサンのそれに近づけるために、粒子の表面をシランカップリング剤またはチタンカップリング剤で処理するか、または、公知の分散性向上剤を添加することは任意である。好ましい分散性向上剤の添加量は1〜20重量部である。
本発明で使用可能なシランカップリング剤を例示すると、ビニルトリエトキシシラン,3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,3−クロロプロピルトリメトキシシランなどである。
また、公知の分散性向上剤のうち好ましいものはシランカップリング剤、特に3−アミノプロピルトリメトキシシランである。
【0014】
本発明のダイラタンシー性液体においては、流動性向上剤を添加して極性をコントロールすることにより、無機化合物の分散状態を変化させ、流動性を向上させることも可能である。
更に、増稠剤、ゲル状物を添加して、チキソトロピック性を与えることにより、低せん断力下あるいは蒸気圧下で流れ難いグリース状物としてもよい。
【0015】
本発明のダイラタンシー性液体の製造方法としては、60℃以上の高温下で、無機化合物粒子または有機化合物粒子と窒素原子含有の官能基を有するオルガノポリシロキサンとを攪拌して均一に分散させるか、または、オルガノポリシロキサンに無機化合物粒子または有機化合物粒子を攪拌下、徐々に添加して分散させる方法が好ましい。
【0016】
【実施例】
以下に実施例を記載し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)
シリコーンレジンパウダー・KMP−590[信越化学工業(株)製商品名]100重量部と下記式(5)で示されるアミノシロキサン(25℃粘度12cs)53重量部とを反応用のガラスフラスコに入れ、混合し80℃で30分間攪拌し、半透明の液体153重量部を得た。
【0018】
【化3】
Figure 0003867898
【0019】
(実施例2)
実施例1のシリコーンレジンパウダーをシリカパウダー・エロジル200(日本エロジル社製商品名)80重量部に変更した他は全て実施例1と同様にして、半透明の液体133重量部を得た。
【0020】
(実施例3)
実施例1のシリコーンレジンパウダーをナイロン粒子・SP−500[東レ(株)製商品名]100重量部に、アミノシロキサンを下記式(6)で示されるオルガノポリシロキサン(25℃粘度50cs)45重量部に変更した他は全て実施例1と同様にして、半透明の液体145重量部を得た。
【0021】
【化4】
Figure 0003867898
【0022】
(比較例1)
シリコーンレジンパウダー・KMP−590[信越化学工業(株)製商品名]100重量部と下記式(7)で示されるジメチルシロキサン(25℃粘度10cs )53重量部とを反応用ガラスフラスコに加え、混合し、80℃で30分間攪拌したところ、硬いコンパウンドとなってしまった。
【0023】
【化5】
Figure 0003867898
【0024】
(比較例2)
比較例1のジメチルシロキサン(25℃粘度10cs )53重量部を65重量部に変更した他は全て比較例1と同様の方法で行ったところ、白色液体118重量部を得た。
【0025】
(比較例3)
シリコーンレジンパウダー・KMP−590[信越化学工業(株)製商品名]100重量部と0.5%アンモニア水50重量部とをガラスフラスコに入れ混合し、30℃で30分間攪拌したが、シリコーンレジンパウダーはアンモニア水に分散しなかった。
以上の実施例、比較例で得られた各液体について、東京計器(株)製回転粘度計(B8U型、No.5ローター使用)で粘度(単位cp)を測定し、その結果を表1に記載した。
【0026】
【表1】
Figure 0003867898
【0027】
(実施例の総括)
比較例から解るように、通常のシロキサン、例えば、ジメチルシロキサンではローターが高速回転になるほど、粘度が低下して、ダイラタンシー性は認められないが、本発明の組成物ではローターが高速回転になるほど、高粘度化する、即ち、ダイラタンシー性が認められる。しかも、水を溶媒として使用する場合、水が固化する温度である−5℃においてもダイラタンシー性が発現されることが解る。
【0028】
【発明の効果】
本発明のダイラタンシー性液体は温度変化に伴う粘度変化が小さく、広い温度範囲で液状を保持し、機械的強度が大きく、せん断応力の増大に伴う粘性抵抗の変化量が大きいという優れた特性を有する。従って、本発明のダイラタンシー性液体はクラッチや防振装置などの作動液体として有用である。

Claims (1)

  1. 下記一般式(1)で表されるアミノ変性オルガノポリシロキサン10〜100重量部、無機化合物粒子または有機化合物粒子100重量部からなり、低せん断力下でゾル状となり、高せん断力下でゲル状となるダイラタンシー性液体。
    a ' b SiO (4-a-b)/2 (1)
    [ 式中、Rは置換または非置換の 1 価炭化水素基、R ' はアミノ基含有の 1 価炭化水素基、a,bは0≦a<2.0,0<b<1.0,0<(a + b)<2.5を満たす数である。 ]
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