JP3864482B2 - 光学活性インドール誘導体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、インドール誘導体と光学活性酢酸エステルを立体特異的に反応させて、光学活性インドール誘導体を高い不斉収率で製造する方法に関する。光学活性インドール誘導体、特に3位の絶対配置がRである3R体は、医薬、とりわけ抗潰瘍剤として有用な化合物の合成中間体である。
【0002】
【従来の技術】
後記一般式(III)で示される光学活性インドール誘導体を得る方法として、特開平7−48349号公報には、後記一般式(I)で表されるウレイド体のラセミ体に、後記一般式(II)で表される光学活性な酢酸エステルを非選択的に付加させて約1:1の両ジアステレオマー混合物とし、適当な溶媒から光学分割して単一のジアステレオマーを得る方法、および式(I)と式(II)の化合物を立体特異的に結合させ、さらに再結晶することにより単一のジアステレオマーを得る方法が記載されている。しかし、前者の方法で光学分割して目的の3R体を得るには、分別結晶を繰り返し行わなければならないので、操作が煩雑であり、3R体の取得率が低いという問題があった。また後者の方法で効率よく光学分割を行うには、反応のジアステレオ選択性を高くする必要があるが、収率は単離収率で50%程度と低い。また反応剤にアルキルリチウム、リチウムアミド、リチウムアルコキシドなどのリチウム反応剤を用いている。しかしこのような反応剤は塩基性が強く副反応を起こし易いため、目的物の収率を低下させる場合が多く、副反応を抑えるには、低温下で反応させなければならず、特別な装置が必要である。また、これらアルキルリチウム、リチウムアミドは発火性であるため取り扱いには特に注意が必要であり、リチウムアルコキシドもブチルリチウム等のアルキルリチウムを原料として製造するので、結局アルキルリチウムを用いる場合と同様の注意が必要である。すなわち安全性及び生産性を考えると、これらの方法は工業的には満足なものではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、一般式(I)で表されるウレイド体と一般式(II)で表される光学活性酢酸エステルとを反応させ、一般式(III)で表される光学活性インドール誘導体を製造する方法を改良し、簡便かつ安全な方法で、高収率で光学活性体インドール誘導体を高い不斉収率で製造することができる、工業的に好適な光学活性インドール誘導体の製造方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、一般式(I)
【0005】
【化3】
【0006】
(式中、R0 はハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、水酸基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、低級アルキルチオ基、アシル基、カルボキシル基、メルカプト基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示し;R1 は置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環式基を示し;R2 は水素原子、置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有していてもよい低級アルケニル基、置換基を有していてもよい低級アルキニル基、置換基を有していてもよい低級アルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環式基を示し、nは0〜4の整数を示す)
で表されるウレイド体と、
一般式(II)
XCH2 CO2 R* (II)
(式中、R* は光学活性なアルキル基、メンチル基のような光学活性な有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される光学活性酢酸エステルとを反応させて、
一般式(III)
【0007】
【化4】
【0008】
(式中、R0 、R1 、R2 及びR* は前記と同義である)で表される光学活性インドール誘導体を製造する方法において、
前記ウレイド体(I)と前記光学活性酢酸エステル(II)との反応を、有機溶媒中、塩基及び金属塩の存在下で行うことを特徴とする、前記光学活性インドール誘導体(III)の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において、上記式(I)、(II)及び(III)で表わされる化合物のうち一部のものは公知の化合物であって、式中、低級アルキル基とは、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1から6のアルキル基を示し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル又はヘキシルなどが挙げられる。
低級アルコキシ基とは、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1から6のアルコキシ基を示し、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ又はヘキシルオキシなどが挙げられる。
【0010】
低級アルキルチオ基とは、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1から6のアルキルチオ基を示し、例えばメチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、i−プロピルチオ、n−ブチルチオ、s−ブチルチオ、t−ブチルチオ、ペンチルチオ又はヘキシルチオなどが挙げられる。
【0011】
アシル基とは、アルカノイル基、例えばアセチル、プロピオニル、ピバロイル又はシクロヘキシルカルボニル、及びアリーロイル基、例えばベンゾイル、ナフトイル又はトルオイルなどが挙げられる。
【0012】
シクロアルキル基とは、炭素数3から8の環状飽和炭化水素基を示し、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチルなどが挙げられる。置換基を有するシクロアルキル基としては、例えばメンチル又はアダマンチルなどが挙げられる。
【0013】
アリール基とは、例えばフェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アントリル又はフェナントリルなどが挙げられる。
【0014】
低級アルケニル基とは、直鎖又は分岐鎖状の炭素数2から6のアルケニル基を示し、例えばビニル、アリル又はi−プロペニルなどが挙げられる。
【0015】
低級アルキニル基とは、直鎖又は分岐鎖状の炭素数2から6のアルキニル基を示し、例えばエチニル、プロピニル又はブチニルなどが挙げられる。
【0016】
複素環式基とは、O、S及び/又はNを1個又は2個有する5員又は6員の単環を示し、例えばピリジル、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピラジニル又はピリミジニルなどが挙げられる。
【0017】
置換基とは、ハロゲン、低級アルキル、シクロアルキル、アリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルチオ、複素環、ホルミル(アセタールなどで保護されていてもよい)、アルカノイル、アリーロイル、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アミノ、イミノ、チオアセタール、ニトロ、ニトリル又はトリフルオロメチルなどが挙げられる。
【0018】
ウレイド体(I)は、インドール環の3位に不斉炭素原子を有する化合物であり、本発明の原料としては、R体、S体、ラセミ体のいずれも用いることができる。
R0 としては、低級アルキル基あるいはnが0である無置換体が好ましく、特にnが0である無置換体が好ましい。
R1 としては、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、低級アルキル又は低級アルコキシで置換されたフェニル基がさらに好ましく、特にメチル又はメトキシで置換されたフェニル基が好ましい。
R2 としては、アルコキシで置換された低級アルキル基が好ましく、特に一般式(IV)及び(V)で表されるアルキル基が好ましい。
【0019】
【化5】
【0020】
(式中、R3 及びR4 は置換基を有していてもよい低級アルキル基を示す)
【0021】
【化6】
【0022】
(式中、Zは置換基を有していてもよいメチレン、エチレン、プロピレン等の低級アルキレン基を示す)
【0023】
ウレイド体(I)はN−置換イサチンを出発原料とし、特公平4−6710号、特公平4−6711号に記載の方法に類似の方法、又は特開平7−48349号に記載の方法により合成することができる。
【0024】
光学活性酢酸エステル(II)におけるR* は、光学活性な有機基であり、ウレイド体のインドール環の3位に不斉を導入できるような基であればよく、(−)−2−ヘプチル、(+)−2−ヘプチル、(−)−2−ヘキシル、(+)−2−ヘキシル、(−)−2−ノナニル、(+)−2−ノナニル、(−)−2−ペンチル、(+)−2−ペンチルのようなアルキル基;(−)−8−フェニルメンチル、L−メンチル、D−メンチルのようなメンチル基が挙げられ、好ましくは(−)−8−フェニルメンチル、L−メンチル又はD−メンチルであり、特にL−メンチル及びD−メンチルが好ましい。
【0025】
Xとしては、塩素原子、臭素原子又は沃素原子が好ましく、特に臭素原子及び沃素原子が好ましい。
【0026】
光学活性酢酸エステル(II)として、好ましい化合物はブロモ酢酸L−メンチル及びブロモ酢酸D−メンチルである。
これらの光学活性酢酸エステル(II)は、ハロゲノ酢酸と光学活性アルコールとの脱水縮合により合成することができる。
光学活性酢酸エステル(II)の使用量は、ウレイド体(I)1モルに対して通常1〜2モル、好ましくは1〜1.5モルである。光学活性酢酸エステルの使用量が少ないと反応が完結しないので反応の収率が低下し、また、光学活性酢酸エステルの使用量が多いと、反応混合物から目的の付加体を得る際に分離が困難になる。
【0027】
本反応で使用する塩基としては、発火性が無く、取扱い易い塩基が好ましく、例えば水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウム t−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩類;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩;メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン等の低級アルキル第一アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルエチルアミン、メチルエチルアミン等のジ低級アルキル第二アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のトリ低級アルキル第三アミン;ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、N−メチルピロリジン等の複素飽和環式アミン;DBU(1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセ−7−エン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕−5−ノネン)、DABCO(ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン)、キヌクリジン(1−アザビシクロ〔2.2.2〕オクタン)等の架橋環式アミン;アニリン、トルイジン、N−メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニレンジアミン等のアリール基が少なくとも1個窒素原子に結合したアリールアミン;シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、シクロプロピルジメチルアミン、シクロブチルジメチルアミン等のシクロアルキル基が少なくとも1個窒素原子に結合したシクロアルキルアミン;を挙げることができる。
【0028】
好ましい塩基は、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド、トリ低級アルキルアミン、複素飽和環式アミン及び架橋環式アミンである。
特に好ましいのは、アルカリ金属アルコキシド、トリ低級アルキルアミン及びN−メチルモルホリンである。
さらに、エステル収率及び不斉収率ともに極めて高いことから、トリエチルアミン及びカリウム t−ブトキシドが最も好ましい。
【0029】
塩基の使用量は使用する塩基の種類によって異なるが、ウレイド体(I)1モルに対して通常1〜5モル、好ましくは1〜3モル使用する。塩基の使用量が多いと副反応が進行して反応の選択率を低下させ、また塩基の使用量が少ないと反応が完結しないので、反応の収率を低下させる。
【0030】
本反応で使用する金属塩としては、リチウム、マグネシウム、亜鉛及び錫から選ばれる金属元素のハロゲン化物、カルボン酸塩、スルホン酸塩等が挙げられ、フェニルグリニャール化合物等のグリニャール試薬を包含する。具体的には、例えば塩化リチウム、沃化リチウム、臭化リチウム、臭化マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸錫又はフェニルマグネシウムブロミドが挙げられ、好ましくは塩化リチウム、沃化リチウム、臭化リチウム等のハロゲン化リチウムである。
【0031】
金属塩の使用量は、ウレイド体(I)1モルに対して通常1〜5モル、好ましくは1〜2モル使用する。金属塩の使用量が多いと反応混合物から目的の付加体(III)を得る際に分離が困難になる。
【0032】
反応は、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。反応時に酸素が存在すると、ウレイド体(I)が酸化され、反応の選択性が低下するので好ましくない。
【0033】
本反応は有機溶媒中で行われる。使用する溶媒としては、反応に影響を及ぼさない溶媒、特に非極性溶媒が好ましく、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。中でもテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルが好ましい。また本反応に使用される溶媒は乾燥して使用するのが好ましい。
使用する溶媒量は、ウレイド体(I)1gに対して5〜50ml、好ましくは10〜30mlがよい。使用量が多いと反応が著しく遅くなり、少ないとウレイド体の転化率が低くなる。
【0034】
本発明の反応は、通常は常圧で、−80〜80℃、好ましくは−80〜30℃で行われる。ウレイド体(I)と沃化リチウムのテトラヒドロフラン溶液に、トリエチルアミン、次いでブロモ酢酸エステルを滴下する方法で実施するのが好ましい。滴下速度は特に限定されない。
【0035】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0036】
実施例1
アルゴン気流下、0℃で1−(2,2−ジエトキシエチル)−3−〔N′−(4−メチルフェニル)ウレイド〕インドリン−2−オン(133.88g、0.377mol)と沃化リチウム(55.51g、0.415mol)のテトラヒドロフラン溶液に、トリエチルアミン(76.30g、0.754mol)を滴下した。5分間撹拌した後、ブロモ酢酸L−メンチル(125.41g、0.452mol)を滴下した。2時間撹拌した後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(500ml)を加え、5分間撹拌した後、有機層と水層を分離した。水層は酢酸エチル(500ml×2)で抽出し、有機層に合わせた。有機層を飽和食塩水(500ml)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム(500g)で乾燥した。有機層をHPLC分析した結果、エステル収率99%、不斉収率77%であった。有機層を濃縮し、得られた残渣を85%−メタノール/水(2.06リットル)で結晶化し、粗結晶を得た(光学純度98.4%)。得られた結晶を85%−メタノール/水(2.95リットル)で再結晶し、光学純度100%の3R−1−(2,2−ジエトキシエチル)−3−(L−メントキシカルボニルメチル)−3−〔N′−(4−メチルフェニル)ウレイド〕インドリン−2−オン(129.6g、64%)を得た。
HPLC分析条件
カラム:YMC−Pack CN A−502 4.6φ×150mm、
溶離液:n−Hexane/i−PrOH=100/1、
流速 :1ml/min. 、
波長 :254nm、
温度 :40℃
【0037】
実施例2〜4
実施例1における、トリエチルアミンの代りに他の塩基を用いた外は、実施例1と同様に反応させた。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例5、6
実施例1における、沃化リチウムの代りに臭化リチウム又は塩化リチウムを用いた外は、実施例1と同様に反応させた。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
実施例7
実施例1における、テトラヒドロフランの代りにジクロロメタンを用いた外は、実施例1と同様に反応させた。その結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
比較例1
実施例1における、沃化リチウムを用いず、塩基としてカリウム t−ブトキシドを用いた外は、実施例1と同様に反応させた。その結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
比較例2
比較例1における、溶媒THFの代りにDMSOを用いた外は、比較例1と同様に反応させた。その結果を表4に示す。
【0046】
【発明の効果】
本発明の製造方法により、一般式(III)で表わされる光学活性インドール誘導体を、簡便かつ安全な操作及び高い不斉収率で製造することができる。
Claims (2)
- 一般式(I)
で表されるウレイド体と、
一般式(II)
XCH2CO2R* (II)
(式中、R*は光学活性な有機基を示し、Xはハロゲン原子を示す)で表される光学活性酢酸エステルとを反応させて、
一般式(III)
前記ウレイド体(I)と前記光学活性酢酸エステル(II)との反応を、有機溶媒中、塩基及びハロゲン化リチウムの存在下で行うことを特徴とする、前記光学活性インドール誘導体の製造方法。 - 反応に使用する塩基が、アルカリ金属アルコキシド、トリ低級アルキルアミン又はN−メチルモルホリンである、請求項1記載の光学活性インドール誘導体の製造方法。
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