JP3863030B2 - 高強度析出硬化型ステンレス鋼、ステンレス鋼線並びにその鋼線による締結用高強度部品 - Google Patents

高強度析出硬化型ステンレス鋼、ステンレス鋼線並びにその鋼線による締結用高強度部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間加工と時効硬化により高強度の圧造部品、例えばセルフドリリングねじ、タッピングねじ、釘、ピンをはじめとする種々の締結用部品として用い得る析出硬化型ステンレス鋼、ステンレス鋼線並びにその鋼線による締結用高強度部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、圧造成形によって製造されるねじやボルトなどのステンレス製圧造品は、例えばJIS G 4314に規定されているように、SUS304やSUS316、SUSXM7などオーステナイト系ステンレス鋼の他、SUS410やSUS430などによるクロム系ステンレス鋼も使用されており、いずれの材料を選択するかはその使用目的や仕上げ寸法などによって選択されている。
また、最近では、付設工程を短縮するためにそれ自体に穿孔機能を持たせたセルフドリリングねじやタッピングねじなどの高強度締結用部品も使用されており、そのための材料として、例えば焼入れ焼戻し処理や冷間加工によって所定の高強度特性を可能にするSUS410等のクロム系ステンレス鋼が一般的に用いられている。
【0003】
しかし、ステンレス鋼においてこのような高強度特性を持たせる材料は焼入れなどの熱処理ができるクロム系ステンレス鋼に限られるため、耐食性に劣るものであり、また、強度的な面においても十分なものでないことから、めっきや窒化などの表面処理が必要となり、工程増加によるコストップの一因となっている。
こうした問題に対応するものとして、例えば特開平6−264194号公報ではマルテンサイト系ステンレス鋼によるものとしたり、特開2001−107192号公報では、0.10〜0.20%C、2〜5%Siを添加することで加工誘起マルテンサイトの形成を容易にし、オーステナイト相を硬化する方法などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら従来のステンレス鋼は、最終製品とするための成形加工やその使用用途との関係で見ると十分なものと言えず、表面処理や用途的制限を設けることが必要となるものである。すなわち、特開平6−264194号公報による線材は、Cr:12〜16%、Ni:1〜2.5%を含むマルテンサイト系ステンレス鋼であるため、中間や仕上げ時に行う熱処理に長時間を要し、また、その仕上げ状態についても表面に酸化スケールを有するなどの問題があることから、光輝な表面状態を得ることは困難である。しかも、得られた線の機械的特性についても、引張強さ800〜1200N/mm2 と非常に高いものであり、過酷なヘッダー加工を必要とする圧造製品にあっては、製品歩留りが悪く、生産性において問題を有するものである。
【0005】
一方、特開2001−107192号公報によるステンレス鋼ではSiを2〜5%と大きくするものであるため、固溶化熱処理状態での硬さが高く冷間加工性が阻害されるという問題がある。また、例えばSUS630などのようなマルテンサイト系析出硬化型ステンレス鋼では冷却マルテンサイト中の時効硬化によってCu相を析出させることで硬化させるものであるが、冷間加工性や耐食性、耐水素脆性、靱性などに劣るものであった。従って、このような材料ではヘッダー加工時や使用時における頭飛びなどの発生が大きいという点が指摘されている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、本発明では、加工前(固溶化熱処理)の組織を実質的にオーステナイト相とすることにより良好な冷間加工性を持たせる一方、C/N比、Ms、Md30などの成分比率を調整することにより、成形加工後の時効処理での硬化率を高め得る特性とした高強度析出硬化型ステンレス鋼を提供するものである。
【0007】
その発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:2%以下、Mn:2〜4%、Ni:4〜8%、Cr:12〜18%、Mo:2%以下、Cu:1.5〜4%、Nb:0.5%以下、N:0.05〜0.25%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C/N:1以下、下記式Ni−bal:−2以上、Ms:−100℃以下、Md30:−30℃以上に調整することにより冷間加工性を向上させたことを特徴とする高強度析出硬化型ステンレス鋼。
Ni−bal=Ni+27C+23N+0.1Mn+0.3Cu−1.2(Cr+Mo)−0.5Si+10
Ms(℃)=1684−60.8Cr−89.2Ni−48.7Mn−40.6Si−2433(C+N)
Md30(℃)=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb
【0008】
(2)さらに、Ti、Zr、V、Taのいずれか1種または2種以上を合計で0.002〜0.5%添加した前記(1)に記載の高強度析出硬化型ステンレス鋼。
(3)ステンレス鋼は、Ca、Mgのいずれか1種または2種を合計で0.001〜0.1%添加した前記(1)または(2)に記載の高強度析出硬化型ステンレス鋼。
【0009】
(4)質量%で、C:0.01〜0.1%、Si:2%以下、Mn:2〜4%、Ni:4〜8%、Cr:12〜18%、Mo:2%以下、Cu:1.5〜4%、Nb:0.5%以下、N:0.05〜0.25%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C/N:1以下、下記式Ni−bal:−2以上、Ms:−100℃以下、Md30:−30℃以上に調整するとともに、固溶化熱処理または、さらに該熱処理に引き続くスキンパス加工によってオーステナイト量を80体積%以上にしたことを特徴とする高強度析出硬化型ステンレス鋼線。
Ni−bal=Ni+27C+23N+0.1Mn+0.3Cu−1.2(Cr+Mo)−0.5Si+10
Ms(℃)=1684−60.8Cr−89.2Ni−48.7Mn−40.6Si−2433(C+N)
Md30(℃)=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb
【0010】
(5)鋼線は、その表面を潤滑皮膜により被覆された前記(4)に記載のステンレス鋼線。
(6)引張強さ500〜850N/mm2 で、伸び特性20〜50%の特性を有する前記(4)または(5)に記載のステンレス鋼線。
(7)前記(4)〜(6)のいずれかに記載のステンレス鋼線を圧造成形加工によって所定形状に成形するとともに、さらに時効処理によってその少なくとも一部分のHv硬さを500以上としたことを特徴とする締結用高強度部品である。
【0011】
上述したように、本発明は、ステンレス鋼としての前記基本組成と、必要に応じて若干の第3元素を加え、さらに各元素同士の配合バランスを各々調整することによって成形加工性を高めるとともに、該加工後の析出硬化処理での硬化率を向上させることによって、高強度の締結用部品を効率よく製造できるものとしている。その成分バランスとして、本発明ではC/N、Ni−bal、Ms、Md30の各値を前記所定値になるように調整している。なお、本発明では「ステンレス鋼線」とは、ステンレス鋼の棒鋼や線材を引抜き加工したものや、これにさらにそのまま圧造などの成形加工によって所定の締結部品を製造できるように仕上げ処理されたものである。前記ステンレス鋼を例えば所定線径に引抜き加工した後、固溶化熱処理したもの、あるいはさらに軽度のスキンパス加工(例えば、加工率3〜10%程度)を行ったものが相当し、表面には潤滑剤を付与したものが好ましい。
【0012】
このような処理によって、本発明では材料中のオーステナイト量(γ量)を80体積%以上、好ましくは90〜99.5%のものとし、さらに、引張強さ500〜850N/mm2 で、伸び特性20〜50%の特性を有するものともしている。なお、前記オーステナイト量については、例えばX線解析装置などにより線の表面や断面を直接計測することが望ましいが、困難な場合は、公知の任意方法によりその材料のマルテンサイト量やフェライト量などを求め、その合計を除いた残量をオーステナイト量と見なす間接法によるものであってもよく、必要に応じて数点の測定値の平均値で示される。また、ステンレス鋼線の表面には、例えば銅やニッケル、その他無機材料等による潤滑剤を付与させておくことが好ましいが、その種類や付着量、付着方法などについては、これまでにも多くの文献の中に示されていることから、特に特定まではしない。
【0013】
一方、締結部品については、前記した縷々製品に使用できるものであるが、特に自己穿孔性が求められるセルフドリリングねじやタッピングねじに有効であり、その成形加工は、例えば、ヘッダー加工や転造など公知の方法が実施される。また、ステンレス鋼は加工後の機械的性質を高める目的から比較的低温での時効処理や析出硬化熱処理が行われることから、本発明でもこのような熱処理(例えば、350〜500℃×5分〜2時間)を行うこととしている。この処理によってさらに締結用部品としての硬度アップが図られる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明において各成分組成の限定理由を述べる。
C:0.01〜0.1%
Cは、強度を高める基本的な元素であり、0.01%未満ではオーステナイト相や加工誘起マルテンサイト相の硬化が十分とは言えず、しかも、NbCによる硬化が不足する。一方、0.1%を超える添加は、耐食性とともに成形加工性が劣る。従って、その範囲を0.01〜0.1%とするが、より望ましくは0.02〜0.08%とする。
【0015】
Si:2%以下
Siは、脱酸剤であり、また、強度を付与する元素でもあるが2%を超えると冷間加工性が劣化するので、その上限を2%とする。望ましくは1%以下とする。
Mn:2〜4%
Mnは、Siと同様に、脱酸剤であり、また、オーステナイトを安定化する元素である。その作用を発揮させるためには2%以上必要であるが、4%を超えると加工硬化しにくくなり高硬度が出ないので、その上限を4%とした。望ましくは2.2〜3.8%とする。
【0016】
Ni:4〜8%
Niは、ステンレス鋼においてオーステナイト組織を安定化する元素であり、靱性向上と耐食性向上に寄与する元素であり、少なくとも4%以上必要である。また、4%未満では造塊時においてNブローホールが発生するという問題もある。
しかし、8%を超える添加は加工硬化しにくくなり高硬度が達成できない。従って、その範囲を4〜8%としており、望ましくは4.5〜7%とする。
【0017】
Cr:12〜18%
Crは、耐食性を向上させる元素である。従って、耐食性を向上させるためには12%以上必要である。しかし、18%を超える添加はδフェライト生成で成形加工性が劣化する。従って、その範囲を12〜18%、望ましくは14〜17%とする。
Mo:2%以下
Moは、耐食性を向上させる元素である。しかし2%を超えるとδフェライト生成で冷間加工性が劣化する。従って、その上限を2%、望ましくは1%とする。
【0018】
Cu:1.5〜4%
Cuは、時効硬化に必要であるとともに、冷間加工時の加工硬化率を低減し加工性を向上させる元素である。しかし、1.5%未満では時効熱処理後の材料硬化率が小さく好ましくない。また、4%を超えると加工硬化しにくくなり高硬度が得られない。従って、その範囲を1.5〜4%とする。望ましくは2.1〜2.9%とする。
【0019】
Nb:0.5%以下
Nbは、NbCを形成し硬度を向上させる作用を有する。しかし、0.5%を超えると粗大な炭窒化物を形成し、また、δフェライトが生じやすくなるため冷間加工性が劣化することとなる。従って、上限を0.5%とした。しかしながら、0.1%未満ではNbCによる硬化が不足することから、望ましくは0.1〜0.3%とする。
【0020】
N:0.05〜0.25%
Nは、オーステナイトの硬化による強度を付与するのに必要な元素である。しかし、0.05%未満ではオーステナイトの硬化が十分でなく、一方、0.25%を超えると造塊時にNブローホールが発生すると共に冷間加工性が劣化するこことなる。従って、その範囲を0.05〜0.25%とする。望ましくは0.06〜0.2%、より望ましくは0.06〜0.15%とする。
【0021】
本発明のステンレス鋼およびステンレス鋼線は、このような組成を少なくとも含むものとし、さらに必要に応じて若干の第3元素を添加することができるものであって、残部Feと不可避的不純物で構成するものとしている。
前記第3元素としては、例えばTi,Zr,V,Taなどの他、CaやMg等が用いられる。特に前者Ti,Zr,V,Taは、いずれも時効硬化性を向上させる働きがあるものの、多量に含有させたものでは冷間加工性が劣化することとなるため、これら元素単体では0.002〜0.5%とし、また、その2種類以上を併用させる場合にあっても、合計含有量は0.5%以下にするのがよい。
【0022】
また、後者Ca,Mgは、共に熱間加工性を向上させる働きを有するものであるが、0.1%を超えるとその効果は飽和することとなるため、各元素単体の場合には、0.001〜0.1%とするのがよく、また、その両者を併用する場合にあっても、上限0.1%以下とするのがよい。
一方、本発明において不可避的不純物としては、例えばP,S,Alなどが想定され、PやSについては材料の靱性を劣化させることから、多量添加は好ましくなく、その上限として、Pでは0.1%、望ましくは0.05%以下とし、また、Sについても、0.03%以下、望ましくは0.02%以下とすることがよい。
【0023】
さらに、Alは、ステンレス鋼製造段階で脱酸剤として用いられるものであるが、その含有量が0.1%を超えると粗大な窒化物を生成させることになり、冷間加工性が劣化することから、その上限は0.1%、好ましくは0.05%以下とすることが望ましい。本発明は、このような組成とともに、特に冷間加工性と時効硬化性を高めるために、各組成同士の成分量バランスとして、C/N:1以下、Ni−bal:−2以上、Ms:−100℃以下、Md30:−30℃以上の各要件についても設定しており、それらの算出にあっては前述した式から求めることができる。
【0024】
C/N:1以下
C/Nは、本発明において最も重要なパラメータである。C/Nは、オーステナイト相の硬化による強度を付与させるための規制値としており、CよりもNの方がオーステナイト相を加工硬化させるためオーステナイト相の硬化に対して有効との知見を得ており、また、耐食性の面からもCよりNを添加する方が有利である。なお、本発明では、Cについて、NbCによる時効硬化性確保のために、0.01%以上を添加することとしており、その場合にあっても、C/Nが1を超えるとオーステナイト相の硬化が不足することとなる。従って、その上限を1としており、望ましくは0.8とする。
【0025】
図1は、冷間加工硬さに及ぼすC/Nの影響を示した図であり、図2は、時効硬さに及ぼすC/Nの影響を示している。この図1および図2に示すように、冷間加工硬さおよび時効硬さはMd30にも影響を受けているが、C/Nが小さくなるに従って高くなっており、C/Nを小さくすることによって高硬度が得られることが理解される。
Ni−bal:−2以上
Ni−balは、δフェライト生成を抑制するためのNiバランスを規制するものであり、この値が−2未満ではδフェライト生成で冷間加工性を劣化させる。
従って、その下限を−2とした。
【0026】
Ms:−100℃以下
Msは、オーステナイト量を規制するための温度であり、加工前(固溶化熱処理)状態でオーステナイト相が少ない(マルテンサイト相が多い)と、冷間加工により加工硬化しにくいので、Msを−100℃以下として固溶化熱処理後のオーステナイト量を80体積%以上にし、冷間加工、時効硬化後に高硬度を得る。しかし、−100℃を超えるとオーステナイト量が80体積%未満になり冷間加工や時効硬化後の硬さが不足するので、その上限を−100℃とした。
Md30:−30℃以上
Md30は、加工硬化性および時効硬化性に関する規制温度であり、その値が−30℃未満では加工硬化性および時効硬化性は低下することから、その下限値を−30℃とした。
【0027】
図3は、時効硬化度△Ha(時効硬さ−加工硬さ)に及ぼすCuの影響を示した図である。この図に示すように、時効硬化度はCu2.5%付近で最大であることが判る。これはCu量が少ないと十分な時効硬化度が得られないのは時効硬化に寄与するCu相の析出が少ないためだと推察される。逆にCu量が多すぎるとマトリックスの加工硬化率が減少するため十分な時効硬化度が得られないためだと考えられる。
【0028】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す化学成分組成のステンレス鋼100kgを真空溶解炉にて溶解した後インゴットに鋳造し、1150℃に加熱後、φ20素材に鍛伸し1025℃に加熱、30分保持後水冷の固溶化熱処理した後試験片を加工して試験を行った。表2に試験結果を示す。固溶化熱処理(ST)後の残留オーステナイト(γ)量はX線回折により測定し、さらにHv硬さも併せて測定した。また、冷間加工性を評価するため固溶化熱処理後の限界据込率を測定した(φ14×21L、1号拘束型試験片、日本塑性加工学会冷間鍛造分科会)、また、加工硬化特性と時効硬化特性を評価するために冷間加工(50%据込み)後のHv硬さを測定し、冷間加工後に時効処理(440℃、30分保持、空冷)を施した後のHv硬さを測定した。また、50%冷間加工と440℃時効処理を施した後の耐食性(JISZ 2371塩水噴霧試験50℃、24h噴霧)を評価した。評価基準は○:発錆なし、△:発錆ありとした。さらに、表3に一部の鋼について50%冷間加工、440℃、30分保持、空冷の時効処理後のシャルピー衝撃値を測定(常温、Uノッチ試験片)した結果を示す。また、冷間加工、時効処理後のオーステナイト量をX線回折を用いて測定した結果について併記する。
【0029】
【表1】
Figure 0003863030
【0030】
【表2】
Figure 0003863030
【0031】
【表3】
Figure 0003863030
【0032】
表1〜2に示すNo.1〜18は本発明例であり、いずれもST後γ量が80体積%以上、ST後硬さが200Hv以下、限界据込率が50%以上、冷間加工硬さが400Hv以上、時効後硬さが450Hv以上、時効後の耐食性が全て良好であり、優れた特性を示している。一方、No.19〜33は比較例である。比較例No.19、22、23はC/Nが大きく冷間加工硬さ、時効硬さが低い。比較例No.20、21、22、26はMd30が低く冷間加工硬さ、時効硬さが低い。
【0033】
比較例No.23はCが高く冷間加工性、耐食性が悪い。比較例No.24はNが高く冷間加工性が悪い。比較例No.25はMsが高く冷間加工性が悪く、ST後γ量が少ないためにMd30が同等である本発明例No.2に比べて冷間加工硬さ、時効硬さが低い。比較例No.27はSiが高いため冷間加工性が悪く、耐食性も悪い。比較例No.28はNi−balが低く、冷間加工性、耐食性が悪い。比較例No.29はAlが高く冷間加工性が悪い。
【0034】
なお、図4は、靱性に及ぼすC/Nの影響を示した図である。この図4に示すように、C/Nが0.71である本発明例No.11はC,N以外の組成が本発明例No.11とほぼ同等であり、C/Nが1.40である比較例No.22に比べて高硬度であるにもかかわらず残留オーステナイト(γ)量が多いため高い靱性を示している。また、従来鋼であるマルテンサイト系のSUS630に比べても優れた靱性を示している。このことにより、C/Nを1以下にすることによって、残留オーステナイト量が多くても高硬度が得られ、かつ得られた靱性を有することが判る。
【0035】
(実施例2)
実施例1、表1のNo.3およびNo.15のステンレス鋼について、4.0mmφの線径にまで冷間伸線加工を行った後、さらに固溶化光輝熱処理を連続焼鈍炉によって行い、表面には蓚酸潤滑皮膜を施し、加工率6%のスキンパス加工を行い圧造成形用のステンレス鋼線を得た。なお、この場合の固溶化熱処理としては、例えば温度900〜1200℃、時間10sec〜30分程度の条件で可能であるが、本実施例では温度1150℃、時間100secを選択し、アルゴンガスなどの不活性雰囲気内で行った。また、本発明の効果を比較するための比較材としては、No.29およびNo.32を用い上記と同様の処理を行ったものを用いた。得られた鋼線の機械的特性については、表4に示しており、本発明によるステンレス鋼線はいずれも引張強さ690〜730N/mm2 の軟質状態のものであり、比較材より軟質で優れた特性を有していることが判る。また、参考としてこれら材料の冷間伸線加工率に伴う引張強さの変化を加工硬化特性として図5に示しており、これら結果から、本発明の鋼線は十分な冷間加工性と加工硬化性を有するものであることが判る。
【0036】
【表4】
Figure 0003863030
【0037】
(実施例3)
次に、実施例2で得られた各ステンレス鋼線(No.3およびNo.15)について、冷間圧造によるヘッダー加工により図6に示すドリリングタッピングねじを試作し、冷間圧造性と工具寿命を評価し、さらに得られたねじ製品を温度420〜480℃×30minの時効処理を不活性雰囲気中で行った後の刃先先端部におけるHv硬さを測定した。その結果を表5に示す。比較材としてはSUS304を用いた。 本発明によるステンレス鋼線は、圧造性、工具寿命ともに問題なく、安定作業ができた。上述した、本発明による締結部品の一例として、図6にドリリングタッピングねじを示しており、先端に自己穿孔用の切歯部Aを備えている。このようなねじ部品において、先端切歯部Aの機械的特性はそのまま製品品質の要件となるものであり、その保有硬度がHv500以上の高強度特性となるよう成形加工と析出硬化処理(時効処理)によって達成される。
【0038】
【表5】
Figure 0003863030
【0039】
また、各時効処理温度における歯先先端部のHv硬さの変化を図7に示しており、温度460℃以下での特性が最も優れていることが判る。特に、材料No.3ではHv600近い特性を示すものとなり、本発明のステンレス鋼線は固溶化熱処理状態では軟質で加工しやすく、一方、成形加工後の時効処理では極めて硬質な特性を有するものになるという時効硬化率の大きい材料であることが判る。
【0040】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明による冷間加工で加工誘起マルテンサイトを生成させることによる硬化、時効処理による硬化の他に、C,Nの適量添加とC/Nの規制によって冷間加工後に残留しているオーステナイト相を硬化させる冷間加工性に優れた高強度析出硬化型ステンレス鋼が得られ、極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】加工硬さに及ぼすC/Nの影響を示した図である。
【図2】時効硬さに及ぼすC/Nの影響を示した図である。
【図3】時効硬化度△Ha(時効硬さ−加工硬さ)に及ぼすCuの影響を示した図である。
【図4】靱性に及ぼすC/Nの影響を示した図である。
【図5】冷間伸線加工の加工率に伴う引張強さの変化を示す加工硬化曲線である。
【図6】ドリリングタッピングねじの正面図である。
【図7】時効処理温度がねじ製品のHv硬さに及ぼす関係を示す図である。
【符号の説明】
A 先端切歯部

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C:0.01〜0.1%、
    Si:2%以下、
    Mn:2〜4%、
    Ni:4〜8%、
    Cr:12〜18%、
    Mo:2%以下、
    Cu:1.5〜4%、
    Nb:0.5%以下、
    N:0.05〜0.25%
    を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C/N:1以下、下記式Ni
    −bal:−2以上、Ms:−100℃以下、Md30:−30℃以上に調整することによ
    り冷間加工性を向上させたことを特徴とする高強度析出硬化型ステンレス鋼。
    Ni−bal=Ni+27C+23N+0.1Mn+0.3Cu−1.2(Cr+Mo)
    −0.5Si+10
    Ms(℃)=1684−60.8Cr−89.2Ni−48.7Mn−40.6Si−
    2433(C+N)
    Md30(℃)=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−
    29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb
  2. さらに、Ti、Zr、V、Taのいずれか1種または2種以上を合計で0.002〜0.5%添加した請求項1に記載の高強度析出硬化型ステンレス鋼。
  3. ステンレス鋼は、Ca、Mgのいずれか1種または2種を合計で0.001〜0.1%添加した請求項1または2に記載の高強度析出硬化型ステンレス鋼。
  4. 質量%で、
    C:0.01〜0.1%、
    Si:2%以下、
    Mn:2〜4%、
    Ni:4〜8%、
    Cr:12〜18%、
    Mo:2%以下、
    Cu:1.5〜4%、
    Nb:0.5%以下、
    N:0.05〜0.25%
    を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、C/N:1以下、下記式Ni−bal:−2以上、Ms:−100℃以下、Md30:−30℃以上に調整するとともに、固溶化熱処理または、さらに該熱処理に引き続くスキンパス加工によってオーステナイト量を80体積%以上にしたことを特徴とする高強度析出硬化型ステンレス鋼線。
    Ni−bal=Ni+27C+23N+0.1Mn+0.3Cu−1.2(Cr+Mo)−0.5Si+10
    Ms(℃)=1684−60.8Cr−89.2Ni−48.7Mn−40.6Si−2433(C+N)
    Md30(℃)=551−462(C+N)−9.2Si−8.1Mn−13.7Cr−29(Ni+Cu)−18.5Mo−68Nb
  5. 鋼線は、その表面を潤滑皮膜により被覆された請求項4に記載のステンレス鋼線。
  6. 引張強さ500〜850N/mm2 で、伸び特性20〜50%の特性を有する請求項4または5に記載のステンレス鋼線。
  7. 請求項4〜6のいずれかに記載のステンレス鋼線を圧造成形加工によって所定形状に成形するとともに、さらに時効処理によってその少なくとも一部分のHv硬さを500以上としたことを特徴とする締結用高強度部品。
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