JP3854063B2 - 糖化合物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖鎖工学用試薬として有用な硫酸化フコガラクタン、該硫酸化多糖由来低分子化物、及びその製造方法、さらに糖鎖工学分野において有用な硫酸化フコガラクタン分解酵素、該酵素の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
褐藻類には何種類もの硫酸化フコース含有多糖が含まれている。例えば、▲1▼フコースと硫酸基のみからなる硫酸化フカン、▲2▼グルクロン酸、マンノース、フコース及び硫酸基を含有する硫酸化フコグルクロノマンナン、例えばWO97/26896公報に記載のフコース硫酸含有多糖−U(構成糖及びそのモル比がフコース:マンノース:ガラクトース:ウロン酸:硫酸基=約10:7:4:5:20、以下、U−フコイダンと称す)、▲3▼フコース、ガラクトースよりなる硫酸化フコガラクタン、例えば、WO97/26896公報に記載のフコース硫酸含有多糖−F(構成糖及びそのモル比がフコース:ガラクトース=約10:1、以下、F−フコイダンと称す)等の硫酸化フコース含有多糖が知られている。これらの硫酸化フコース含有多糖は、おおよそ総て高分子の陰イオンであるため、様々な精製工程において理化学的に同じ挙動を取り、分離が困難であった。そのため褐藻類の硫酸化フコース含有多糖はそれぞれ分離されることなく、そのまま生物活性が調べられることが多く、見出された生物活性を担うのがどの硫酸化フコース含有多糖であるのかを決定することは困難であった。
【0003】
現在までに活性と分子の相関関連が知られているのは、アグリカルチュラル アンド バイオロジカル ケミストリー (Agricultural and Biological Chemistry )、第44巻、第8号、第1965頁〜第1966頁(1980)記載の抗凝血作用を担う硫酸化フカン画分、WO97/26896公報記載の癌細胞に対するアポトーシス誘発作用を担うU−フコイダンである。
【0004】
硫酸化フカン画分の抗凝血作用に関しては、ヘパリンの代わりに使用することが検討されてきた。しかし、薬品として使用する場合、予期せぬ活性すなわち副作用を防ぐためにも、高純度の硫酸化フカンを得る必要があり、その方法が求められていた。
【0005】
同様に、U−フコイダンに関しても癌細胞に対するアポトーシス誘発作用を利用した薬品類を調製するために高純度のフコース硫酸含有多糖−Uを簡便に得る必要があり、その方法が求められていた。
【0006】
一般的に、多糖の構造解析やオリゴ糖の製造に酵素分解を利用する方法は、最も効率良い方法である。また、分離が困難な多糖の混合物から一種類の多糖だけを除去する際にも、除去したい多糖を特異的に分解する酵素があれば、その多糖をその酵素で低分子化した後、限外ろ過等の分子量分画を行うことにより容易にその他の多糖と分離することができる。
【0007】
硫酸化フコガラクタンに関して、硫酸化フコガラクタンを特異的に分解する酵素があれば、硫酸化フコガラクタンの構造解析、硫酸化フコガラクタンオリゴ糖の製造が容易である。
【0008】
以上のことから硫酸化フコガラクタン分解酵素、及び酵素的に製造した硫酸化フコガラクタンオリゴ糖を得る方法が求められていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
即ち、本発明の目的は、(1)糖鎖工学用試薬あるいは肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)産生誘導物質として有用な硫酸化フコガラクタン又はその塩、(2)該硫酸化フコガラクタンに硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られる低分子化物又はその塩、(3)糖鎖工学的に有用な硫酸化フコガラクタン分解酵素、(4)硫酸化フコガラクタン又はその塩に該酵素を作用させて得られる低分子化物の製造方法、及び(5)硫酸化フコガラクタン分解酵素の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願の発明者らは鋭意研究の結果、褐藻類に含まれる硫酸化フコガラクタン、該硫酸化多糖を分解する硫酸化フコガラクタン分解酵素及びその製造方法を見出した。さらに、糖鎖工学用試薬として利用できる硫酸化フコガラクタンの低分子化物及びその製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の第1の発明は、下記の理化学的性質を有することを特徴とする硫酸化フコガラクタン又はその塩に関する。該硫酸化フコガラクタンは、構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1であり、下記一般式(XI)で表される硫酸化糖を構成糖の必須成分とする。
【化4】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はSO3Hである)
【0012】
さらに、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素により低分子化され、下記一般式(I)〜(IV)で表される化合物より選択される1種以上の化合物が生成する。
【化5】
Figure 0003854063
【化6】
Figure 0003854063
【化7】
Figure 0003854063
【化8】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はSO3Hである)
【0013】
本発明の第2の発明は、下記一般式(II)、(III’)又は(IV)から選択される化学構造を有する糖化合物またはその塩に関する。
【化9】
Figure 0003854063
【化10】
Figure 0003854063
【化11】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はSO3Hである)
【0014】
本発明の第3の発明は、下記の理化学的性質を有することを特徴とする硫酸化フコガラクタン分解酵素に関する。該酵素は、構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1である硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させることができ、至適pHは、約7〜9の範囲であり、至適温度は、約25〜45℃である。
【0015】
本発明の第4の発明は、上記第3の発明に記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を褐藻類由来の硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用させて取得することを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はその塩の製造方法に関する。該酵素によって得られる低分子化物は、例えば、上記第2の発明に記載のオリゴ糖又はその塩が挙げられる。
【0016】
本発明の第5の発明は、硫酸化フコガラクタン分解酵素生産能を有するフラボバクテリウム属細菌を培養し、その培養物から該酵素を採取することを特徴とする上記第3の発明に記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素の製造方法に関する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下本発明に関して具体的に説明する。
褐藻類に属する海藻には複数種の硫酸化フコース含有多糖が含まれている。その分子種としては、硫酸化フカン及び硫酸化フコグルクロノマンナン等や他にも何種類もの分子種が報告されている。
【0018】
本発明の硫酸化フコガラクタンとは、構成糖として主にガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1であり、以下、本発明の硫酸化フコガラクタンあるいはG−フコイダンと称し、例えば、2:1の硫酸化フコガラクタンが例示される。また、平均分子量は、例えば、HPLCゲルろ過法で約13万(分子量分布は、約10万〜約20万)の硫酸化多糖である。なお、上記硫酸化フコガラクタンの分子量、糖組成、及び硫酸基含量は、該硫酸化フコガラクタンの原料の収穫期、該原料の乾燥方法、該原料の保存方法により異なり、また硫酸化フコガラクタンの抽出時の加熱条件、pH条件等により異なる。例えば、酸により該硫酸化フコガラクタンは加水分解される場合がある。従って、本明細書に記載した硫酸化フコガラクタンの分子量、分子量分布、糖組成、あるいは硫酸基含量はその1例にすぎず、該硫酸化フコガラクタンの抽出処理条件により、その分子量、分子量分布、糖組成、あるいは硫酸基含量は容易に変化させ得る。例えば、本明細書に記載のフコース硫酸含有多糖−U分解酵素及びフコース硫酸含有多糖−F分解酵素を用いて本発明の硫酸化フコガラクタンを調製する場合、例えば上記の糖組成と分子量を示す本発明の硫酸化フコガラクタンが得られる。すなわち、調製方法の条件によって任意の分子量、分子量分布、糖組成、あるいは硫酸基含量の硫酸化フコガラクタンを調製することができる。例えば、本発明の硫酸化フコガラクタンの主要な構成糖は、6糖あたりおよそ5残基の硫酸基を含んでいるが、一般的に糖にエステル結合している硫酸基は、化学的に不安定であり、酸やアルカリあるいは熱により容易に切断される。例えば、酸性やアルカリ性条件下で加熱処理を行えばその硫酸含量は減少するものである。すなわち、本発明の硫酸化フコガラクタンから意図的に脱硫酸が可能である。また、脱硫酸の際、酸やアルカリの種類や濃度、加熱処理時の温度や時間を調整すれば、切断する硫酸基の量も調整することができる。従って、本発明の硫酸化フコガラクタンは、前述の特徴を備えた硫酸化フコガラクタンもしくは、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素で低分子化される硫酸化フコガラクタンであればすべての褐藻類由来のものを包含する。
【0019】
本発明の硫酸化フコガラクタンの主骨格は、下記一般式(XII)に表される。下記一般式において、nは、1以上の整数であり、例えば、1〜1000の範囲、さらに好ましくは1〜500の範囲のものが本発明の硫酸化フコガラクタンに含まれる。また、本発明の硫酸化フコガラクタンには、上記範囲であれば、下記一般式(XII)が連続的に繰り返した構造をもつもの及び他の構造が介在して、非連続的に下記一般式(XII)が含有される構造をもつもののいずれもが含まれる。
【化12】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はSO3Hである)
【0020】
本発明の硫酸化フコガラクタンが由来する褐藻類は、特に限定されるものではないが例えば、ガゴメ昆布、ワカメ、マ昆布、アラメ、カジメ、クロメ、レッソニアニグレセンス、ジャイアントケルプ、ダービリア(durvillaea)由来のものを調製することができる。特に限定はないが、例えば、ガゴメ昆布由来フコイダンには、U−フコイダン、F−フコイダン及び本発明のG−フコイダンが含まれている。
【0021】
本発明の硫酸化フコガラクタンの塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、亜鉛等の遷移金属の塩、またはアンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
本明細書において硫酸化フコガラクタン低分子化物とは、本発明の硫酸化フコガラクタンに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られるオリゴ糖であり、還元性末端糖が硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースである。
【0023】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素とは、本発明の硫酸化フコガラクタンに作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させる。また、WO97/26896公報には、フコース硫酸含有多糖−Fを分解するエンド型フコース硫酸含有多糖分解酵素が記載されているが、該酵素は、本発明の硫酸化フコガラクタンを分解しない。また、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、本発明の硫酸化フコガラクタンのD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースとD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースの間のβ1−6結合及びβ1−4結合をエンド的に分解する酵素である。
【0024】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の基質となる本発明の硫酸化フコガラクタンを製造する際にはまず、褐藻類から硫酸化フコース含有多糖画分を得てから本発明の硫酸化フコガラクタンを精製する方法が簡便である。例えば、硫酸化フコース含有多糖画分の製造にはまず、褐藻類の水溶性画分抽出液を得る。その際の硫酸化フコース含有多糖の低分子化を防ぐためには、pHは4〜9、温度は100℃以下の抽出が好ましい。
【0025】
当該抽出液からアルギン酸を除くには、酸性処理によるアルギン酸の等電点沈殿を利用する方法、カルシウム塩等、アルギン酸と沈殿を形成する塩を添加する方法、アルギン酸分解酵素により分解する方法等がある。また、アミノ酸やマンニトール等の低分子を除くには限外ろ過を用いれば効率良く除去できる。疎水性物質の除去には活性炭処理なども有効である。
【0026】
このようにして硫酸化フコース含有多糖の混合物を得ることができる。この混合物から本発明の硫酸化フコガラクタンを製造する際には、硫酸化フコース含有多糖の混合物に、WO97/26896公報にエンド型フコース硫酸含有多糖分解酵素として記載のフコース硫酸含有多糖−F分解酵素及びWO97/26896公報にエンド型フコイダン分解酵素として記載のフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を作用させた後に、低分子画分を限外ろ過法で除去し、本発明の硫酸化フコガラクタンを調製すれば良い。
【0027】
こうして得られた硫酸化フコガラクタンには硫酸化フコガラクタン以外の何種類かの硫酸化フコース含有多糖が含まれる場合があるが、例えば、陰イオン交換樹脂を用いて分離精製することにより、本発明の硫酸化フコガラクタンを単離することができる。この方法によれば、硫酸化フコース含有多糖の混合物を直接陰イオン交換樹脂により分離する方法と比べて樹脂量も少なくて済み、上記2種の硫酸化フコース含有多糖の混入がないため、分離が格段に向上する。
【0028】
前述の方法で得られた本発明の硫酸化フコガラクタンは本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を精製する際の活性測定用基質、あるいは本発明の硫酸化フコガラクタンオリゴ糖製造時の原料としても使用できる。また、硫酸化フコガラクタンオリゴ糖製造時の原料としては、上記の硫酸化フコース含有多糖の混合物を使用してもよい。
【0029】
本発明の酵素の製造に使用される菌株としては、本発明の硫酸化フコガラクタンを低分子化する酵素を産生する菌であれば特に限定はないが例えば、WO97/26896公報記載のフラボバクテリウム (Flavobacterium ) sp. SA−0082株 (通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所[日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)]に平成7年(1995年)3月29日よりFERM P−14872として寄託され、前記通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−5402[国際寄託への移管請求日:平成8年(1996年)2月15日]として寄託)が好適に使用できる。上記菌株はグラム染色性、DNAのGC含量、主要キノン系等の菌学的性質から、フラボバクテリウム属であると考えられた。一方、最近の分類基準に16SrDNAの塩基配列が考慮されていることが多いため、本発明者らも本細菌の16SrDNAの塩基配列についてインターネットNational Center for Biotechnology Information (NCBI)のAdvanced BLAST searchでホモロジー検索を行った。
【0030】
上記塩基配列と相同性の高い遺伝子を持つ細菌を検索したところ、全域に渡って相同性が最も高いものは、ポーラリバクター フィラメンタス(Polaribacter filamentus)で、その相同性は1424塩基にわたって89%であった。その他の細菌では全域にわたって相同性が高いものはなかった。なお、比較的相同性の高いものとしては、ポーラリバクター イルジェンシー(Polaribacter irgensii、1360塩基にわたって89%の相同性)、サイトファーガ スピーシーズ(Cytophaga sp.、1249塩基にわたって92%の相同性)、フレキシバクター マリティムス(Flexibacter maritimus、1247塩基にわたって91%の相同性)等があった。一般的に16SrDNAの塩基配列の相同性が90%以下の場合、同属の細菌と判断できないため、本細菌は、遺伝子学的分類には既知の細菌と同じ属に帰属しないことが考えられた。即ち、本細菌の菌学的性質が サイトファーガ(Cytophaga)目に属するフラボバクテリウム(Flavobacterium )属細菌とほぼ一致すること及び本細菌の16SrDNAの塩基配列について相同性が高い上記4菌株が総て、サイトファーガ目細菌であることなどから、本細菌は、サイトファーガ目に属する新規細菌であると考えられる。なお、本明細書に記載のフラボバクテリウム属細菌には、菌学的性質から分類されるフラボバクテリウム属細菌及び遺伝子学的分類において相同性のあるサイトファーガ目細菌も含まれる。従って、サイトファーガ目に属する細菌を培養して本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を生産する場合は、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の製造方法に含まれる。
【0031】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の製造方法に使用する菌株の培地は、使用する菌株が代謝し、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を生産するものであればよく、炭素源としては例えば硫酸化フコガラクタン、硫酸化フコース含有多糖の混合物、海藻粉末、アルギン酸、フコース、ガラクトース、グルコース、マンニトール、グリセロール、サッカロース、マルトース等が利用でき、窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス等が好適に使用できる。また、本菌株は、上記栄養素を含んだ海水あるいは人工海水中で非常に良く生育する。
【0032】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の生産菌を培養するに当たり、生産量は培養条件により変動するが、培養温度は15〜30℃、培地のpHは6〜9がよく、5〜72時間の通気攪拌培養で本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の生産量は最高に達する。培養条件は使用する菌株、培地組成等に応じ、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の生産量が最大になる様に設定するのは当然のことである。また、当該硫酸化フコガラクタン分解酵素は菌体中にも培養物上清中にも存在する。
【0033】
上記のフラボバクテリウム sp.SA−0082を適当な培地で培養し、その菌体を集め、通常用いられる細胞破砕手段、例えば、超音波処理等で菌体を破砕すると無細胞抽出液が得られる。次いでこの抽出液から通常用いられる精製手段により精製酵素標品を得ることができる。例えば、塩析、イオン交換カラムクロマト、疎水結合カラムクロマト、ゲルろ過等により精製を行い、実質的に他の硫酸化フコース含有多糖分解酵素を含まない純化された本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を得ることができる。また、上述の培養液から菌体を除去した培養上清中にも本酵素が大量に存在するので、菌体内酵素と同様の精製手段により精製することができる。
【0034】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の理化学的性質は以下の通りである。(I)作用▲1▼:構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1である硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させる。
(II)至適pH:本酵素の至適pHは約7〜9付近にある(図1)。
すなわち図1は本酵素の反応時のpHと相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸はpHを示す。
(III)至適温度:本酵素の至適温度は約25〜45℃付近にある(図2)。
すなわち図2は、本酵素の反応時の温度と相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸は温度(℃)を示す。
【0035】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の確認は、例えば、該酵素を硫酸化フコガラクタンに作用させて得られる分解物をHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定することによって、あるいは生成する還元末端を常法により測定することによって行なうことができる。活性測定は、産生菌の細胞抽出液もしくはクロマト精製後の酵素液のいずれにおいても可能である。
【0036】
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はその塩は、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタン含有物に作用させることによって調製することができる。本発明の硫酸化フコガラクタン含有物としては、例えば本発明の硫酸化フコガラクタンの部分精製品、褐藻類由来の硫酸化フコース含有多糖画分、褐藻類の水性溶媒抽出物、もしくは褐藻類藻体が好適に使用できる。
【0037】
本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタン含有物の溶解は通常の方法で行えばよく、溶解液中の本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタン含有物濃度はその最高溶解濃度でもよいが、通常はその操作性、酵素力価を考慮して選定すればよい。本発明の硫酸化フコガラクタンの溶解液としては水、緩衝液等より目的に応じて選択すればよい。溶解液のpHは通常中性付近で、酵素反応は通常30℃付近で行う。酵素量や反応時間等を調整することによって、低分子化物の分子量を調整することもできる。次に低分子化物を分子量分画することによって、更に均一な分子量分布の本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物を調製することができる。分子量分画は通常よく使用されている方法を適用することができ、例えばゲルろ過法や分子量分画膜を使用すればよい。低分子化物は、必要に応じて更にイオン交換樹脂処理、活性炭処理等の精製操作を行ってもよく、必要に応じて脱塩処理、無菌処理、凍結乾燥処理をすることもできる。
【0038】
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物は、特に限定はないが、例えば本発明の硫酸化フコガラクタンに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られる低分子化物として2糖類〜6糖類が挙げられる。本発明の低分子化物中に存在する硫酸基の置換位置は、調製方法によって変化するが、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られたものであれば、本発明の低分子化物に含まれる。該低分子化物の化学構造は、例えば、下記一般式(I)〜(IV)に示される。その中で、下記一般式(III)は、前述の硫酸化フコガラクタンの構成単位であると考えられる。
【化13】
Figure 0003854063
【化14】
Figure 0003854063
【化15】
Figure 0003854063
【化16】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はSO3Hである)
【0039】
また、本発明の低分子化物は、硫酸基を分子中に有しており、該基は種々の塩基と反応し、塩を形成する。これらの本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物は、塩になった状態が安定であり、通常ナトリウム及び/又はカリウム及び/又はカルシウム等の塩の形態で提供される。これらの物質の塩はダウエックス50W(ダウケミカル社製)等の陽イオン交換樹脂を利用することによって遊離の本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物に導くことが可能である。また、これらは、更に必要に応じ公知慣用の塩交換を行い所望の種々の塩に交換することができる。
【0040】
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物の塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、亜鉛等の遷移金属の塩、またはアンモニウム塩等が挙げられる。
【0041】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を用いれば任意の硫酸化フコース含有多糖画分に含まれている本発明の硫酸化フコガラクタンのみを低分子化させることができるので、分子量分画と組み合わせることによって本発明の硫酸化フコガラクタンを選択的に除去することが可能である。例えば、硫酸化フカン画分には抗凝血活性、癌転移抑制活性、ウイルス感染抑制活性等様々な生物活性があることが報告されている。これまで、褐藻類から得られた硫酸化フカン画分には硫酸化フカン及びその他の多糖類が含まれている。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を利用することにより、当該硫酸化フカン画分から硫酸化フコガラクタンを取り除くことができ、その結果、高純度の硫酸化フカンを得ることができる。
【0042】
さらに例えば、硫酸化フコグルクロノマンナンには癌細胞に対するアポトーシス誘発作用があることが報告されている。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を利用することにより、褐藻類から得た硫酸化フコグルクロノマンナンに共雑する本発明の硫酸化フコガラクタンを容易に取り除くことができ、その結果、高純度の硫酸化フコグルクロノマンナンを簡便に得ることができる。
【0043】
本発明の硫酸化フコガラクタンを除去する方法としては、たとえば、本発明の硫酸化フコガラクタン含有物が水系溶媒に溶けた溶液を調製する。本発明の硫酸化フコガラクタン含有物の溶解は通常の方法で行えばよく、溶解液中の本発明の硫酸化フコガラクタン含有物濃度はその最高溶解濃度でもよいが、通常はその操作性、酵素力価を考慮して選定すればよい。本発明の硫酸化フコガラクタン溶解液としては水、緩衝液等より目的に応じて選択すればよい。溶解液のpHは通常中性付近が好ましい。次に本発明の硫酸化フコガラクタン含有物溶液に本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素もしくは該酵素の固定化物、あるいは両方を添加して反応させ本発明の硫酸化フコガラクタンを低分子化する。酵素反応は通常30℃付近で行い、酵素量や反応時間等は、次工程の分子量分画能に応じて適宜調整すればよい。その後、分子量分画すれば、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物を容易に除去された目的物を調製することができる。分子量分画は、通常よく使用されている方法を適用することができ、例えばゲルろ過法や分子量分画膜を利用した限外ろ過法を使用すればよい。
【0044】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、本発明の硫酸化フコガラクタンに作用するため、本発明の硫酸化フコガラクタンの構造解析に用いることができる。例えば、本発明の硫酸化フコガラクタンに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させると、前記一般式(I)〜(IV)に示される化学構造を有する低分子化物が得られる。
【0045】
さらに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を用いれば、本発明の硫酸化フコガラクタンを含有する硫酸化フコース含有多糖から本発明の硫酸化フコガラクタン成分を選択的に除去することができる。例えば、本発明の硫酸化フコガラクタン成分を除去した後の高純度の硫酸化フカンもしくは硫酸化フコグルクロノマンナンは、医薬品の原材料としても好適に使用できる。
【0046】
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、WO97/26896号公報に記載のフコース硫酸含有多糖−F分解酵素及び/又はWO97/26896号公報記載のフコース硫酸含有多糖−U分解酵素と組み合わせて使用することができる。特に限定はないが例えば、ガゴメ昆布からpH4〜9、100℃以下の温度で抽出する方法で得た硫酸化フコース含有多糖の混合物を上記フコース硫酸含有多糖−U分解酵素及び本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素で処理すると下記一般式(XIV)で表される硫酸化糖を構成糖の必須成分とし、その繰り返し構造を有する硫酸化多糖を得ることができる。下記一般式においてnは、1以上の整数であり、例えば、1〜10,000の範囲、さらに好ましくは1〜5,000の範囲のものが得られる。
【化17】
Figure 0003854063
(式中、Rは、H又はOSO3Hである)
【0047】
上記硫酸化多糖は、構成糖としてフコースを含有する。例えば、抽出時の処理条件が、pH6〜8、95℃ 2時間程度の場合は、平均分子量は約20万(分子量分布は、約1万〜約100万)である。さらに例えば、抽出時の処理条件が、pH6〜8、25℃ 24時間程度の場合は、平均分子量は約1,300万(分子量分布は、約10万〜約2,000万)である。このように抽出条件によって平均分子量及び分子量分布は異なってくる。しかしながら、いずれの抽出条件においても得られる硫酸化多糖は、上記フコース硫酸含有多糖−F分解酵素で低分子化される。なお、上記硫酸化多糖の分子量及び硫酸基含量は、該硫酸化多糖の原料の収穫期、該原料の乾燥方法、該原料の保存方法により異なり、また抽出時の加熱条件、pH条件等により異なる。例えば、酸により加水分解される場合がある。従って、本明細書に記載した上記硫酸化多糖の分子量、分子量分布あるいは硫酸基含量はその1例にすぎず、該硫酸化多糖の抽出処理条件により、その分子量、分子量分布あるいは硫酸基含量は容易に変化させ得る。すなわち、調製方法の条件によって任意の分子量、分子量分布あるいは硫酸基含量の上記硫酸化多糖を調製することができる。例えば、上記硫酸化多糖の主要な構成糖は、7糖あたりおよそ12残基の硫酸基を含んでいるが、一般的に糖にエステル結合している硫酸基は、化学的に不安定であり、酸やアルカリあるいは熱により容易に切断される。例えば、酸性やアルカリ性条件下で加熱処理を行えばその硫酸含量は減少するものである。すなわち、上記硫酸化多糖から意図的に脱硫酸が可能である。また、脱硫酸の際、酸やアルカリの種類や濃度、加熱処理時の温度や時間を調整すれば、切断する硫酸基の量も調整することができる。
【0048】
さらに、上記硫酸化フコガラクタン分解酵素、フコース硫酸含有多糖−F分解酵素及びフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を組み合わせて使用することにより新規硫酸化糖を取得することができる。また、前述の3種類の分解酵素の組み合わせにより従来とは異なる硫酸化糖の分類をすることができる。特に限定はないが、例えば、上記ガゴメ昆布のような褐藻類由来の硫酸化フコース含有多糖の混合物に作用させて、
▲1▼フコース硫酸含有多糖−F分解酵素及びフコース硫酸含有多糖−U分解酵素で分解されず、硫酸化フコガラクタン分解酵素で分解される硫酸化糖画分(本発明の硫酸化フコガラクタン);
▲2▼フコガラクタン分解酵素及びフコース硫酸含有多糖−F分解酵素で分解されず、フコース硫酸含有多糖−U分解酵素で分解される硫酸化糖画分;
▲3▼フコガラクタン分解酵素及びフコース硫酸含有多糖−U分解酵素で分解されず、フコース硫酸含有多糖−F分解酵素で分解される硫酸化糖画分;
▲4▼フコガラクタン分解酵素、フコース硫酸含有多糖−F分解酵素及びフコース硫酸含有多糖−U分解酵素で分解されない硫酸化糖画分;
をそれぞれ得ることができる。これらの硫酸化糖画分は、本発明のフコガラクタン分解酵素とフコース硫酸含有多糖−F分解酵素あるいはフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を組み合わせることによって初めて得られる。
【0049】
本発明の硫酸化フコガラクタン又はその塩は、成長因子産生誘導活性、特にHGF(hepatocyte growth factor)産生誘導活性を有する。
【0050】
部分肝切除を受けた肝臓は、速やかに再生し、もとのサイズになる。この肝再生因子の本体は、長年不明であったが、劇症肝炎患者の血漿中にHGFが見出され、その患者血漿から、単離、精製された(J.Clin.Invest.,88 414−419,1988)。さらに、ヒトHGFのcDNAもクローニングされ、HGFの1次構造も明らかにされた(Biochem.Biophys.Res.Commun.,163 967-973,1989)。また、細胞の運動性を亢進させるscatter factor(SF)および、腫瘍細胞障害因子であるtumor cytotoxic factor(TCF)とHGFが同一物質であることも明らかになった(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88 7001-7005,1991:Biochem.Biophys.Res.Commun.,180 1151-1158,1991)。
【0051】
HGFは、肝細胞だけでなく胆管上皮細胞、腎尿細管上皮細胞、胃粘膜細胞など多くの上皮細胞の増殖を促進させる。また、上皮細胞の運動性の亢進や血管新生、上皮細胞の管腔形成で見られるような形態形成を誘導するなど、HGFは極めて多彩な生理活性を示す多機能活性物質である。つまり、様々な臓器において、その臓器の障害を修復する際の上皮細胞の増殖を促進、運動性の亢進や血管新生などの形態形成の誘導等を行う。また、HGFは、肝細胞増殖作用、タンパク合成促進作用、胆汁うっ滞改善作用、さらには薬剤による腎障害の予防作用などを示す。これらのことからも、重症肝炎、肝硬変および肝内胆汁うっ滞の治療薬として期待されている。
【0052】
またHGFのmRNAは、脳、腎臓、肺等でも合成されており、肝実質細胞、腎細尿管細胞、表皮細胞等に対しても増殖活性がある、中胚葉性細胞成長因子である。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン又はその塩は、肝細胞増殖因子の産生を誘導することにより、肝炎、重症肝炎、肝硬変および肝内胆汁うっ滞、慢性腎炎、肺炎、創傷の治療剤又は予防剤の成分として有用である。
【0053】
本発明の硫酸化フコガラクタン又はその塩は、そのHGF産生誘導作用により、化粧料の有効成分として使用することができ、例えばHGF産生誘導用化粧料として有用であり、HGF産生誘導作用を有するバイオ化粧品が提供できる。
【0054】
さらに、本発明の硫酸化フコガラクタン又はその塩を含有する成長因子産生誘導用化粧品、例えばHGF産生誘導用化粧品は、常法に従って製造することができ、例えばローション類、乳液類、クリーム類、パック類、浴用剤、洗顔剤、浴用洗剤、毛髪剤、育毛剤又は洗髪剤が挙げられる。
【0055】
本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩は、抗原として使用することができる。抗体の作製は、常法により行われるが、例えば、本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩をアジュバンドとともにウサギ等の動物に免疫することによって、ポリクローナル抗体を調製することができる。また、モノクローナル抗体は、抗原を免疫して得られた抗体産生B細胞とメラノーマ細胞を融合し、目的の抗体を産生するハイブリドーマを選択し、この細胞を培養することによって調製することができる。これらの抗体は、本発明の硫酸化フコガラクタン若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩の精製に使用することができる。また、海藻中の本発明の硫酸化フコガラクタンの同定に使用することができる。例えば、本発明の硫酸化フコガラクタンを認識する抗体を使用し、海藻抽出液中の本発明の硫酸化フコガラクタン含量を容易に測定でき、高含有抽出液を効率よく調製することが可能になる。さらに、本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩を認識する抗体は、本発明の硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩の受精阻害作用機作、ウイルス感染阻害機作、生体内での代謝等の解析等に有用である。
【0056】
また、本発明の硫酸化フコガラクタン又はその塩に本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られた低分子化物即ちオリゴ糖類は、糖鎖工学用試薬として用いることができる。例えば、特公平5−65108号公報記載の方法によりピリジル−(2)−アミノ化(PA化)を行い、該低分子化物のPA化物を調製すれば、糖鎖工学用試薬として極めて有用な物質を提供することができる。
【0057】
【実施例】
以下に本発明を実施例をもって具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0058】
実施例1 硫酸化フコガラクタンの調製
(1)硫酸化フコガラクタンを下記の工程により調製した。
乾燥ガゴメ昆布2Kgを穴径1mmのスクリーンを装着したカッターミル(増幸産業社製)により破砕し、20リットルの80%エタノール中で25℃、3時間攪拌後ろ過、洗浄した。得られた残さを50mMの塩化カルシウム、100mMの塩化ナトリウム、10%のエタノール、及びWO97/26896公報記載のアルテロモナス sp. SN−1009株(通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所[日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)]に平成8年(1996年)2月13日よりFERM P−15436として寄託され、前記通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERMBP−5747[国際寄託への移管請求日:平成8年(1996年)11月15日]として寄託)を培養し、該培養物から得られたフコース硫酸含有多糖−F分解酵素を1U含む20リットルの30mMイミダゾール緩衝液(pH8.2)に懸濁し、25℃で2日攪拌すると高分子の硫酸化フコース含有多糖による強い粘弾性が完全に消失したので低分子化した硫酸化フコース含有多糖を除去するため、穴径32μmのステンレス金網でろ過し、洗浄した。得られた残さを100mMの塩化ナトリウム、10%のエタノール、及び4gのアルギン酸リアーゼK(ナガセ生化学工業製)を含む40リットルのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.6)に懸濁し、25℃、4日攪拌後、遠心分離し上清を得た。得られた上清中に含まれるアルギン酸の低分子化物を除去するため排除分子量10万のホロファイバーを装着した限外ろ過機により2リットルに濃縮後、10%のエタノールを含む100mMの塩化ナトリウムで溶液交換した。この溶液に等量の400mM酢酸カルシウムを添加攪拌後、遠心分離し、得られた上清を氷冷しながら、1Nの塩酸でpH2とした。生じた沈殿を遠心分離により除去し、得られた上清を1Nの水酸化ナトリウムによりpH8.0とした。この溶液を限外ろ過により1リットルに濃縮後、100mMの塩化ナトリウムで溶液交換した。この時生じた沈殿は遠心分離により除去した。得られた上清中の疎水性物質を除去するため、上清に1Mとなるように塩化ナトリウムを加えて、1Mの塩化ナトリウムで平衡化した3リットルのフェニルセルロファインカラム(生化学工業製)にかけ、素通り画分を集めた。この画分を限外ろ過機により濃縮後、20mMの塩化ナトリウムで溶液交換し、凍結乾燥した。凍結乾燥物の重量は29.3gであった。
【0059】
(2)上記の凍結乾燥物15gを400mMの塩化ナトリウム及びWO97/26896公報記載のフラボバクテリウム sp.SA−0082(通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所[日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)]に平成7年(1995年)3月29日よりFERMP−14872として寄託され、前記通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−5402[国際寄託への移管請求日:平成8年(1996年)2月15日]として寄託)を培養し、該培養物から得られたフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を9U含む1.5リットルの50mMトリス塩酸緩衝液に溶解し、25℃で6日間反応後、エバポレーターで約300mlに濃縮した。濃縮液を排除分子量3500の透析チューブに入れて徹底的に透析し、低分子化された硫酸化フコグルクロノマンナンを除去した。透析チューブ内に残った液を、50mMの塩化ナトリウムで平衡化した4リットルのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)にかけ、50mM塩化ナトリウムで充分洗浄後、50〜650mMの塩化ナトリウムの濃度勾配による溶出を行った。更に同カラムを650mMの塩化ナトリウムで充分溶出させた。溶出画分のうち650mMの塩化ナトリウムで溶出した画分を硫酸化フコガラクタン画分として集め、排除分子量10万の限外ろ過機により濃縮後、10mMの塩化ナトリウムで溶液を置換し、凍結乾燥して硫酸化フコガラクタン画分の凍結乾燥物を0.85g得た。この画分について、糖組成分析を行なった。まず、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー( Journal of Biological Chemistry)、第175巻、第595頁(1948)の記載に従い、フコース量を定量した。
【0060】
次に、得られた硫酸化フコガラクタンの乾燥標品を1規定の塩酸に0.5%の濃度で溶解し、110℃で2時間処理し、構成単糖に加水分解した。次に、グライコタッグ(宝酒造社製)及びグライコタッグ リージェント キット(宝酒造社製)を用いて加水分解して得られた単糖の還元性末端をピリジル−(2)−アミノ化(PA化)し、HPLCにより構成糖の比率を調べた。なお、HPLCの条件は下記によった。
【0061】
装置;L−6200型(日立製作所製)
カラム;パルパックタイプA(4.6mm×150mm;宝酒造社製)
溶離液;700mMホウ酸緩衝液(pH9.0):アセトニトリル=9:1
検出;蛍光検出器F−1150(日立製作所製)にて励起波長310nm、蛍光波長380nmで検出。
流速;0.3ml/分
カラム温度;65℃
【0062】
次に、アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第4巻、第330頁(1962)の記載に従いウロン酸量を定量した。さらに、バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal)、第84巻、第106頁(1962)の記載に従い硫酸含量を定量した。
【0063】
以上の結果、得られた硫酸化フコガラクタンは、構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比は、約2:1であった。ウロン酸及びその他の中性糖は実質的に含有されていなかった。また、フコースと硫酸基のモル比は約1:2であった。
【0064】
(3)硫酸化フコガラクタン分解酵素の活性測定方法
(2)で得られた硫酸化フコガラクタン画分を用いて本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の活性を測定するときは下記の要領で行った。
【0065】
すなわち、60μlの50mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)と、4.8μlの2.5%の硫酸化フコガラクタン画分溶液と、6μlの4M塩化ナトリウムと、37.2μlの水と12μlの本発明の第1の発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素とを混合し、37℃、3時間反応させた後、反応液を100℃で10分間処理し、遠心分離後100μlをHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定した。対照として、本発明の第1の発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素の代わりに、その酵素を溶解してある緩衝液を用いて同様の条件により反応させたもの及び硫酸化フコガラクタン画分の代わりに水を用いて反応を行ったものを用意し、それぞれ同様にHPLCにより分析した。
【0066】
1単位の酵素は、上記反応系において1分間に1μmolの硫酸化フコガラクタン画分のガラクトシル結合を切断する酵素量とする。切断されたガラクトシル結合の量は下記式により求めた。
【0067】
{(4.8×1000×2.5/100)/MG}×{(MG/M)−1}×{1/(180×0.012)}=U/ml
4.8×1000×2.5/100:反応系中に添加した硫酸化フコガラクタン(μg)
MG:基質硫酸化フコガラクタン画分の平均分子量
M:反応生成物の平均分子量
(MG/M)−1:1分子の硫酸化フコガラクタンが酵素により切断された数
180:反応時間(分)
0.012:酵素液量(ml)
【0068】
なお、HPLC条件は下記によった。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:OHpak SB−806HQ(8×300mm、昭和電工社製)
溶離液:5mMのアジ化ナトリウムを含む50mMの塩化ナトリウム
検出:視差屈折率検出器(Shodex RI−71、昭和電工社製)
流速:1ml/分
カラム温度:25℃
【0069】
反応生成物の平均分子量の測定のために、市販の分子量既知のプルラン(STANDARD P−82、昭和電工社製)を上記のHPLC分析と同条件で分析し、プルランの分子量と保持時間との関係を曲線に表し、上記酵素反応生成物の分子量測定のための標準曲線とした。
【0070】
蛋白質の定量は、酵素液の280nmの吸光度を測定することにより行った。その際1mg/mlの蛋白質溶液の吸光度を1.0として計算した。
【0071】
実施例2 硫酸化フコガラクタン分解酵素の作用機作の決定
(1)硫酸化フコガラクタン分解酵素の調製
硫酸化フコガラクタン分解酵素の生産のため、フラボバクテリウム sp.SA−0082(FERM BP−5402)をグルコース0.1%、ペプトン1.0%、酵母エキス0.05%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー製)pH7.5からなる培地600mlを120℃、20分間殺菌した培地に接種し、24℃で23時間培養して種培養液とした。下記の実施例3(1)の方法で調製したガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分0.2%、ペプトン2.0%、酵母エキス0.01%、及び消泡剤(KM70、信越化学工業製)0.01%を含む人工海水(pH7.5)からなる培地20リットルを30リットル容のジャーファーメンターにいれ120℃で20分間殺菌した。冷却後、上記の種培養液600mlを接種し、24℃で23時間、毎分10リットルの通気量と毎分125回転の攪拌速度の条件で培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を得た。
【0072】
得られた菌体を、1,200mlの0.4M塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離して菌体抽出液を得た。得られた菌体抽出液を同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離して上清を得た。得られた上清に終濃度が90%飽和となるように硫安を添加し生じた沈殿を遠心分離して集めた。得られた沈殿を150mlの50mM塩化ナトリウムを含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解させ、同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離した。得られた上清を同じ緩衝液で平衡化した500mLのDEAE−セファロースFF(アマシャムファルマシア社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、50mMから600mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。
【0073】
得られた活性画分を0.1M塩化ナトリウムを含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分透析し、同じ緩衝液で平衡化した100mLのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、0.1Mから0.4Mの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分に4Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、4Mの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した20mLのPhenyl−セルロファイン(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、4Mから1Mの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出後、さらに1Mの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分に3Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、3Mの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した10mLのPhenyl−セルロファイン(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、3Mから0.5Mの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出後、さらに0.5Mの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分溶出させ、活性画分を集めた。この様にして得られた精製酵素を硫酸化フコガラクタン分解酵素として用いた。
【0074】
(2)硫酸化フコガラクタンの低分子化物の調製
実施例1(2)記載の硫酸化フコガラクタン画分に上記の精製硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させ低分子化物を調製した。すなわち、1.94gの硫酸化フコガラクタン画分を0.2Mの塩化ナトリウムを含む25mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解後、186mUの実施例2(1)記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を加え、25℃で、6日間反応させた。反応液をエバポレーターにより80mlに濃縮し、セルロファインGCL−1000(チッソ社製)のカラム(4×90cm)による分子量分画を行った。分子量15,000以下の画分を集め、硫酸化フコガラクタン酵素消化物画分とした。
【0075】
次に、硫酸化フコガラクタン酵素消化物画分の一部をグライコタッグ(宝酒造社製)及びグライコタッグ リージェント キット(宝酒造社製)を用いて還元性末端をPA化し、得られたPA化糖を2規定の塩酸中で100℃、3時間処理により加水分解し、HPLCにより還元末端糖を調べた。HPLC条件は下記によった。
【0076】
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:パルパックタイプA(4.6×150mm、宝酒造社製)
溶離液:0.7Mホウ酸緩衝液(pH9.0):アセトニトリル=9:1
検出:蛍光検出器(F−1150、日立製作所製)にて励起波長310nm、蛍光波長380nmで検出。
流速:0.3ml/分
カラム温度:65℃
【0077】
この結果、ガラクトースのみが検出されたので、硫酸化フコガラクタンの酵素消化物画分の還元性末端は総て硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースであることが判明した。
【0078】
また、硫酸化フコガラクタンの酵素消化物画分の中性糖組成を分析するため、還元性末端糖を分析した試料の一部を再度PA化し、上記と同じ条件でHPLCにより分析した。その結果、硫酸化フコガラクタンの酵素消化物画分はガラクトースとフコースからなり、そのモル比は、約2:1であることが判明した。前述の結果より、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、硫酸化フコガラクタンのガラクトシル結合を切断して還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させるエンド型ガラクトシダーゼ類であることが判明した。
【0079】
実施例3
(1)ガゴメ昆布から硫酸化フコース含有多糖画分を調製した。すなわち、市販の乾燥ガゴメ昆布2Kgを穴径1mmのスクリーンを装着させたカッターミル(増幸産業社製)で破砕し、20リットルの80%エタノール中に懸濁後25℃で3時間攪拌し、ろ紙でろ過した。得られた残さを40リットルの100mMの塩化ナトリウムを含む30mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に懸濁し、95℃で2時間処理後、穴径106μmのステンレス製ふるいでろ過した。得られたろ液に200gの活性炭、4.5リットルのエタノール、12,000Uのアルギン酸リアーゼK(ナガセ生化学工業社製)を添加し、25℃で20時間攪拌後、遠心分離した。得られた上清を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で4リットルに濃縮後、遠心分離により不溶物を除去し、5℃で24時間放置した。生じた沈殿を遠心分離により除去し、得られた上清を限外ろ過機により溶液交換して100mM塩化ナトリウム溶液とした。この溶液を4℃以下に冷却後、塩酸によりpHを2.0とし、生じた沈殿を遠心分離により除去した。得られた上清のpHを水酸化ナトリウムにより8.0とし、4リットルに濃縮後、限外ろ過機により20mMの塩化ナトリウムに溶液交換した。この溶液中の不溶物を遠心分離により除去後、50%のエタノールを82ml添加して凍結乾燥し、ガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分の乾燥物を76g得た。
【0080】
(2)フラボバクテリウム sp.SA−0082(FERM BP−5402)を実施例3(1)の方法で調製したガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分0.2%、ペプトン1.0%、酵母エキス0.01%を含む人工海水(pH7.5)からなる培地100mlを500ml容の三角フラスコにいれ120℃で20分間殺菌した培地に接種し、24℃で23時間、振とう培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体と培養液上清を得た。
【0081】
得られた菌体を、5mlの0.4M塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離して菌体抽出液を得た。
【0082】
上記の培養液上清と菌体抽出液に含まれる本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素活性を測定した結果、培養液上清には培地1mlあたり2mU、菌体抽出液には培地1mlあたり2mUの活性が検出された。上記の培養条件を用いれば、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素はフラボバクテリウム属細菌の菌体内にも菌体外にもほぼ同量含まれることが判明した。
【0083】
実施例4
実施例3(1)で得られた硫酸化フコース含有多糖画分7gを700mlの50mM塩化ナトリウムと10%のエタノールを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、あらかじめ同緩衝液で平衡化した、5リットルのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)にかけ、同緩衝液で洗浄後、50〜1550mMの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、溶出塩濃度550〜1550mMの硫酸化フコース含有多糖画分を集めた。
【0084】
上記の画分には、硫酸化フコガラクタン分解酵素により低分子化される成分すなわち本発明の硫酸化フコガラクタンも10%程度含まれていた。そこで、本画分を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機により脱塩し、さらに、200mMの塩化ナトリウムを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8.0)で溶液置換した。そこに、600mUの本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を添加し25℃で3日間反応後、限外ろ過を行い、ろ液中に含まれる糖の量をフェノール−硫酸法により測定し、糖が検出されなくなるまで限外ろ過を続けた。この工程により、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素により低分子化される成分すなわち本発明の硫酸化フコガラクタンを前記の硫酸化フコース含有多糖画分から除去することができた。
【0085】
実施例5
(1)硫酸化フコガラクタンの酵素消化物(i)の調製
実施例3で得られたガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分70gを300mMの塩化ナトリウム、20mMの塩化カルシウム、及び10%のエタノールを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解後、排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、ろ過可能な物質を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時に添加する緩衝液は溶解に用いた緩衝液と同じ組成のものを用いた。
【0086】
次に、限外ろ過内液に、WO97/26896公報記載の方法でアルテロモナス sp.SN−1009株(FERM BP−5747)を培養し、該培養物から得られたフコース硫酸含有多糖−F分解酵素を5U添加し、25℃で3日間反応させた。上記反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記フコース硫酸含有多糖−F分解酵素で低分子化された物質、すなわち、フコイダンの低分子化物を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時に添加する緩衝液は上記反応液に用いた緩衝液と同じ組成のものを用いた。
【0087】
次に、限外ろ過内液に、WO97/26896公報記載の方法でフラボバクテリウム sp.SA−0082株(FERM BP−5402)を培養し、該培養物から得られたフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を20U添加し、25℃で5日間反応させた。上記反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記フコース硫酸含有多糖−U分解酵素で低分子化された物質、すなわち、硫酸化フコグルクロノマンナンの低分子化物を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時には水を添加し、最後に200mMの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8)に置換した。
【0088】
次に、限外ろ過内液に、実施例2(1)記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を2U添加し、25℃で5日間反応させた。反応液を2等分し、一方は排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記硫酸化フコガラクタン分解酵素で低分子化された物質、すなわち、硫酸化フコガラクタンの低分子化物を徹底的に限外ろ過した。なお、限外ろ過時には50mMの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8)を添加した。こうして得られたろ過液を硫酸化フコガラクタン酵素消化物(i)とした。
【0089】
(2)硫酸化フコガラクタン酵素消化物(ii)の調製
実施例5(1)で2等分した反応液のもう一方に、実施例2(1)記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を550mU添加し、25℃で7日間反応させ、低分子化の進行を確認した。反応液を、排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、硫酸化フコガラクタンの低分子化物を徹底的に限外ろ過した。なお、限外ろ過時には50mMの塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8)を添加した。こうして得られたろ過液を硫酸化フコガラクタン酵素消化物(ii)とした。
【0090】
(3)硫酸化フコガラクタン酵素消化物(i)の分離精製
実施例5(1)で得られた硫酸化フコガラクタン酵素消化物(i)をエバポレーターで500mlに濃縮後、電気透析装置により脱塩し、あらかじめ10mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した1リットルのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、10mMから900mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は62mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。130mM付近及び220mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分が糖含量のピークを形成していたので、それぞれを集め、130mM溶出画分(i)及び220mM溶出画分(i)とした。
【0091】
130mM溶出画分(i)を電気透析装置により脱塩後、50mMとなるように塩化ナトリウムを溶解させ、あらかじめ50mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した100mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、50mMから200mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。55mMから75mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分が糖含量のピークを形成していたので、60mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集めた。この画分をスピードバック(サバントインストルメンツ社製;SAVANT Instruments Inc.)で2mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化した200mlのセルロファインGCL−25(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で溶出させた。溶出画分は2mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。糖含量がピークを形成している画分を集め、(A)とした。
【0092】
一方、上記の220mM溶出画分(i)に関しては、電気透析装置により脱塩後、100mMとなるように塩化ナトリウムを溶解させ、あらかじめ100mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した100mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、100mMから350mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。160mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集め、スピードバック(サバントインストルメンツ社製;SAVANT Instruments Inc.)で2mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化した200mlのセルロファインGCL−25(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で溶出させた。溶出画分は2mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。糖含量がピークを形成している画分を集め、(B)とした。
【0093】
(4)硫酸化フコガラクタン酵素消化物(ii)の分離精製
実施例5(2)記載の硫酸化フコガラクタン酵素消化物(ii)をエバポレーターで500mlに濃縮後、電気透析装置により脱塩し、あらかじめ10mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した1リットルのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、10mMから900mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は61mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。130mM付近、220mM付近及び270mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分が糖含量のピークを形成していたので、それぞれを集め、130mM溶出画分(ii)、220mM溶出画分(ii)及び270mM溶出画分(ii)とした。
【0094】
130mM溶出画分(ii)を電気透析装置により脱塩後、20mMとなるように塩化ナトリウムを溶解させ、あらかじめ20mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した200mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、20mMから150mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は13mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。50mMから70mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集め、エバポレーターで30mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化した1200mlのセルロファインGCL−25(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。糖含量がピークを形成している画分を集め、10mMとなるように酢酸を添加後、塩酸でpH3.5とし、20mMの塩化ナトリウムを含む10mMの酢酸緩衝液(pH3.5)の導電率と同じになるように塩化ナトリウムを添加し、あらかじめ20mMの塩化ナトリウムを含む10mMの酢酸緩衝液(pH3.5)で平衡化した30mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、20mMから120mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は3mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。65mMから80mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集め、40mMの塩化ナトリウムを含む10mMの酢酸緩衝液(pH3.5)の導電率と同じになるように水で希釈し、あらかじめ40mMの塩化ナトリウムを含む10mMの酢酸緩衝液(pH3.5)で平衡化した20mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、40mMから80mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は3mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。50mMから65mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集め、スピードバック(サバントインストルメンツ社製;SAVANT Instruments Inc.)で2mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化した200mlのセルロファインGCL−25(チッソ社製)のカラムにかけ、同溶液で溶出させた。溶出画分は2mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。糖含量がピークを形成している画分について質量分析したところ、前半の画分には(A)と同じ物質が存在したが、後半の画分には実質的に(A)と同じ物質が含まれていなかったので、後半の画分を集め、(C)とした。
【0095】
一方上記の220mM溶出画分(ii)に関しては、100mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液の導電率と同じになるように水を添加し、あらかじめ100mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した200mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、100mMから300mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は13mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。140mMから170mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集め、エバポレーターで30mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化した1200mlのセルロファインGCL−25(チッソ社製)のカラムにかけ、同溶液で溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。糖含量がピークを形成している画分を集め、質量分析を行ったところ、実施例5(3)記載の(B)と同じ物質であると推定された。
【0096】
また上記の270mM溶出画分(ii)に関しては、150mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)と同じ導電率になるように水を添加し、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)で平衡化した200mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、150mMから300mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は12mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。160mMから180mM付近の塩化ナトリウムで溶出される画分を集め、スピードバック(サバントインストルメンツ社製;SAVANT Instruments Inc.)で2mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化した200mlのセルロファインGCL−25(チッソ社製)のカラムにかけ、同溶液で溶出させた。溶出画分は2mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。糖含量がピークを形成している画分を集め、(D)とした。
【0097】
実施例6
(1)硫酸化フコガラクタンの酵素消化物(iii)の調製
実施例3で得られたガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分15gを1500mlの300mMの塩化ナトリウム、20mMの塩化カルシウム、及び10%のエタノールを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解後、排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、ろ過可能な物質を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時に添加する緩衝液は上記反応液に用いた緩衝液と同じ組成のものを用いた。限外ろ過内液に、実施例5(1)で使用したフコース硫酸含有多糖−F分解酵素を1U添加し、25℃で3日間反応させた。
【0098】
上記反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記フコース硫酸含有多糖−F分解酵素で低分子化された物質、すなわち、フコイダンの低分子化物を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時に添加する緩衝液は溶解に用いた緩衝液と同じ組成のものを用いた。
【0099】
該限外ろ過内液に、実施例5(1)で使用したフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を1U添加し、25℃で5日間反応させた。
【0100】
上記反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記フコース硫酸含有多糖−U分解酵素で低分子化された物質、すなわち、硫酸化フコグルクロノマンナンの低分子化物を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時には200mMの塩化ナトリウム及び10%のエタノールを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8)を添加した。
【0101】
次に限外ろ過内液に、実施例2(1)記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を600mU添加し、25℃で5日間反応させた。反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記硫酸化フコガラクタン分解酵素で低分子化された物質、すなわち、硫酸化フコガラクタンの低分子化物を徹底的に限外ろ過した。なお、限外ろ過時には20mMの塩化ナトリウムを含む10%のエタノールを添加した。こうして得られたろ過液を硫酸化フコガラクタン酵素消化物(iii)とした。
【0102】
(2)硫酸化フコガラクタン酵素消化物(iii)の分離精製
実施例6(1)で得られた硫酸化フコガラクタン酵素消化物(iii)を電気透析装置により脱塩し、エバポレーターで50mlに濃縮後、あらかじめ50mMの酢酸アンモニウム(pH5.5)で平衡化した100mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、50mMから4Mの酢酸アンモニウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。420mMから620mM付近の酢酸アンモニウムで溶出される画分が糖含量のピークを形成していたので、その画分を集め420から620mM溶出画分とした。
【0103】
(3)420から620mM溶出画分の精製
該画分を、電気透析装置により脱塩し、50mMの酢酸アンモニウム溶液と同じ導電率とし、あらかじめ50mMの酢酸アンモニウム(pH5.5)で平衡化した100mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、100mMの酢酸アンモニウム(pH5.5)で洗浄し、100mMから800mMの酢酸アンモニウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。440mMから530mM付近の酢酸アンモニウムで溶出される画分を集めた。
【0104】
該画分を、電気透析装置により脱塩し、200mMの酢酸アンモニウム溶液と同じ導電率とし、あらかじめ200mMの酢酸アンモニウム(pH5.5)で平衡化した100mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、200mMから700mMの酢酸アンモニウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。420mMから470mM付近の酢酸アンモニウムで溶出される画分を集めた。該画分について質量分析及び核磁気共鳴スペクトル(NMR)分析を行ったところ実施例5(3)記載の(B)と同じ物質であると推定された。なお、質量分析はAPI−III質量分析器(パーキンエルマー・サイエクス社製)を用いて行った。NMR分析は核磁気共鳴装置JMN−A500(日本電子社製)を用いて行った。
【0105】
(4)硫酸化フコガラクタン酵素消化物の再酵素消化及び分離精製
実施例6(2)の420から620mM溶出画分以外は比較的分子量が大きかったので再度硫酸化フコガラクタン分解酵素により分解した。すなわち、420から620mM溶出画分以外の溶出画分を集め、電気透析装置で脱塩後、該溶液が200mMの塩化ナトリウム及び10%のエタノールを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)となるように調整し、実施例2(1)記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を460mU添加し、25℃で8日間反応させた。反応液を電気透析装置により脱塩し、50mMの酢酸アンモニウム溶液と同じ導電率とし、あらかじめ50mMの酢酸アンモニウム(pH5.5)で平衡化した100mlのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同緩衝液で洗浄後、100mMから1Mの酢酸アンモニウムのグラジエントにより溶出させた。溶出画分は10mlずつ分取し、それぞれの糖含量をフェノール−硫酸法により測定した。180mMから280mM付近の酢酸アンモニウム溶出画分及び360mMから430mM付近の酢酸アンモニウムで溶出される画分を集め、それぞれ、(E)及び(F)とした。
【0106】
実施例7 硫酸化フコガラクタン酵素消化物の構造決定
実施例5及び6で得られた6つの画分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)についてそれぞれ電気透析装置により脱塩後、凍結乾燥し、糖組成及び質量を分析した。質量分析は、API−III質量分析機(パーキンエルマー・サイエクス社製)を用いた。また、NMR分析は、JNM−α500型核磁気共鳴装置(日本電子社製)を用いた。分析試料は、定法により重水で置換後、構造解析を行った。構成糖の結合様式は、1H−検出異種核検出法であるHMBC法を用いて行った。1H−NMRの帰属にはDQF−COSY法及びHOHAHA法を、13C−NMRの帰属にはHSQC法を用いた。
【0107】
(1)低分子化物(A)の物性
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)の1H−NMRスペクトルを図3に、13C−NMRスペクトルを図4に、マススペクトルを図5にそれぞれ示した。即ち、図3は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図4は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)の13C−NMRスペクトルを示す図であり、図5は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)のマススペクトルを示す図である。図3、図4において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図5において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/Z値を示す。
分子量; 632
MS m/z 653.2 [M+Na+−2H+]-、315.0 [M−2H+] 2-
1H−NMR(D2O)
δ;5.15(1H,d,J=4.3Hz,F1−1−H),4.93(1H,d,J=3.7Hz,F2−1−H),4.53(1H,d−d,J=10.4,4.3Hz,F1−3−H),4.49(1H,d,J=7.6Hz,G1−1−H),4.46(1H,d−d,J=10.7,3.1Hz,F2−3−H),4.36(1H,q,J=6.7Hz,F2−5−H),4.14(1H,q,J=6.7Hz,F1−5−H),4.09(1H,d,J=2.4Hz,F1−4−H),4.03(1H,d,J=3.1Hz,F2−4−H),3.97(1H,d−d,J=10.4,4.3Hz,F1−2−H),3.90(1H,br−s,G1−4−H),3.81(1H,d−d,J=10.7,3.7Hz,F2−2−H),3.59(1H,m,G1−3−H),3.59(1H,m,G1−5−H),3.59(2H,m,G1−6−H),3.56(1H,m,G1−2−H),1.19(3H,d,J=6.7,F1−6−H),1.14(3H,d,J=6.7,F2−6−H)
13C−NMR(D2O) 各炭素の13C−NMR分析時のケミカルシフト値を表1に示す。
【0108】
【表1】
Figure 0003854063
【0109】
糖組成 L−フコース:D−ガラクトース=2:1
硫酸基 2分子
なお、1H-NMRにおけるピークの帰属の番号は、下記式(V)の通りである。
【化18】
Figure 0003854063
【0110】
(2)低分子化物(B)の物性
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)の1H−NMRスペクトルを図6に、13C−NMRスペクトルを図7に、マススペクトルを図8にそれぞれ示した。即ち、図6は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図7は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)の13C−NMRスペクトルを示す図であり、図8は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)のマススペクトルを示す図である。図6、図7において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図8において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/Z値を示す。
分子量; 1116
MS m/z 1181.2 [M+3Na+−4H+]-、 579.0 [M+2Na+−4H+]2-、378.6 [M+Na+−4H+] 3-
1H−NMR(D2O)
δ;5.20(1H,d,J=4.3Hz,F1−1−H),4.95(1H,d,J=3.7Hz,F2−1−H),4.64(1H,HODと重複,G1−1−H),4.60(1H,d,J=7.9Hz,G2−1−H),4.55(1H,d−d,J=10.7,1.8Hz,F1−3−H),4.47(1H,m,F2−3−H),4.45(1H,d,J=7.6Hz,G3−1−H),4.42(1H,br−s,G2−4−H),4.38(1H,q,J=6.4Hz,F2−5−H),4.28(1H,m,G2−3−H),4.20(1H,m,G3−3−H),4.17(1H,br−s,G3−4−H),4.14(1H,q,J=6.4Hz,F1−5−H),4.11(1H,d,J=1.8Hz,F1−4−H),4.06(1H,d,J=1.8Hz,F2−4−H),4.01(1H,m,G2−6−H),3.97(1H,d−d,J=10.7,4.3Hz,F1−2−H)、3.90(1H,br−s,G1−4−H),3.88(1H,m,G2−5−H),3.83(1H,m,G2−6−H),3.82(1H,m,F2−2−H),3.68(1H,m,G1−3−H),3.66(1H,m,G2−2−H),3.65(2H,m,G3−6−H),3.62(1H,m,G3−5−H),3.61(2H,m,G1−6−H),3.59(1H,m,G1−2−H),3.55(1H,m,G1−5−H),3.54(1H,m,G3−2−H),1.21(3H,d,J=6.4,F1−6−H),1.15(3H,d,J=6.4,F2−6−H)
13C−NMR(D2O) 各炭素の13C−NMR分析時のケミカルシフト値を表2に示す。
【表2】
Figure 0003854063
【0111】
糖組成 L−フコース:D−ガラクトース=2:3
硫酸基 4分子
なお、1H−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(VI)の通りである。
【化19】
Figure 0003854063
【0112】
(3)低分子化物(C)の物性
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)の1H−NMRスペクトルを図9に、13C−NMRスペクトルを図10に、マススペクトルを図11にそれぞれ示した。即ち、図9は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図10は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)の13C−NMRスペクトルを示す図であり、図11は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)のマススペクトルを示す図である。図9、図10において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図11において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/Z値を示す。
分子量;502
MS m/z 523 [M+Na+−2H+]-、 250 [M−2H+]2-
1H−NMR(D2O)
δ4.57(1H,d,J=7.9Hz,G1−1−H),4.43(1H,d,J=7.9Hz,G2−1−H),4.20(1H,br−s,G1−3−H),4.20(1H,br−s,G1−4−H),4.20(1H,br−s,G2−3−H),4.15(1H,br−s,G2−4−H),3.95(1H,m,G1−6−H),3.82(1H,m,G1−5−H),3.80(1H,m,G1−6−H),3.63(2H,m,G2−6−H),3.62(1H,m,G2−5−H),3.55(1H,m,G2−2−H),3.50(1H,m,G1−2−H)
13C−NMR(D2O) 各炭素の13C−NMR分析時のケミカルシフト値を表3に示す。
【表3】
Figure 0003854063
【0113】
糖組成 D−ガラクトースのみ
硫酸基 2分子
なお、1H−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(VII)の通りである。
【化20】
Figure 0003854063
【0114】
(4)低分子化物(D)の物性
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)の1H−NMRスペクトルを図12に、13C−NMRスペクトルを図13に、マススペクトルを図14にそれぞれ示した。即ち、図12は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図13は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)の13C−NMRスペクトルを示す図であり、図14は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)のマススペクトルを示す図である。図12、図13において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図14において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/Z値を示す。
分子量;1358
MS m/z 711.2 [M+3Na+−5H+]2-、466.6 [M+2Na+−5H+]3-、344.2 [M+Na+−5H+] 4-
1H−NMR(D2O)
δ;5.19(1H,d,J=4.3Hz,F1−1−H),4.93(1H,d,J=3.7Hz,F2−1−H),4.62(1H,HODと重複,G1−1−H),4.59(1H,HODと重複,G2−1−H),4.54(1H,d−d,J=10.6,2.7Hz,F1−3−H),4.46(1H,d,J=7.6Hz,G3−1−H),4.46(1H,m,F2−3−H),4.41(1H,br−s,G2−4−H),4.41(1H,d,J=7.6Hz,G4−1−H),4.37(1H,q,J=6.4Hz,F2−5−H),4.27(1H,m,G2−3−H),4.24(1H,br−s,G3−4−H),4.21(1H,m,G3−3−H),4.19(1H,m,G4−3−H),4.15(1H,br−s,G4−4−H),4.13(1H,q,J=6.7Hz,F1−5−H),4.09(1H,d,J=2.7Hz,F1−4−H),4.04(1H,d,J=2.8Hz,F2−4−H),3.98(1H,m,G2−6−H)、3.96(1H,d−d,J=10.6,4.3Hz,F1−2−H),3.93(1H,m,G3−6−H),3.88(1H,br−s,G1−4−H),3.86(1H,m,G2−5−H),3.81(1H,m,G2−6−H),3.81(1H,m,F2−2−H),3.80(1H,m,G3−5−H),3.80(1H,m,G3−6−H),3.66(1H,m,G1−3−H),3.65(1H,m,G2−2−H),3.64(1H,m,G1−6−H),3.64(1H,m,G4−6−H),3.61(1H,m,G4−5−H),3.58(1H,m,G1−2−H),3.56(1H,m,G1−6−H),3.56(1H,m,G4−6−H),3.55(1H,m,G4−2−H),3.54(1H,m,G1−5−H),3.54(1H,m,G3−2−H),1.20(3H,d,J=6.7,F1−6−H),1.14(3H,d,J=6.4,F2−6−H)
13C−NMR(D2O) 各炭素の13C−NMR分析時のケミカルシフト値を表4および5に示す。
【表4】
Figure 0003854063
【表5】
Figure 0003854063
【0115】
糖組成 L−フコース:D−ガラクトース=2:4
硫酸基 5分子
なお、1H−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(VIII)の通りである。
【化21】
Figure 0003854063
【0116】
(5)低分子化物(E)の物性
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)の1H−NMRスペクトルを図15に、13C−NMRスペクトルを図16に、マススペクトルを図17にそれぞれ示した。即ち、図15は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図16は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)の13C−NMRスペクトルを示す図であり、図17は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)のマススペクトルを示す図である。図15、図16において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図17において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/Z値を示す。
分子量;1036
MS m/z 528.0[M+Na+−3H+]2-、344.0 [M−3H+] 3-1H−NMR(D2O)
δ;5.19(1H,d,J=4.3Hz,F1−1−H),4.87(1H,d,J=3.7Hz,F2−1−H),4.63(1H,HODと重複,G1−1−H),4.59(1H,d,J=7.9Hz,G2−1−H),4.53(1H,d−d,J=10.7, 1.8Hz,F1−3−H),4.44(1H,d,J=7.6Hz,G3−1−H),4.40(1H,br−s,G2−4−H),4.32(1H,q,J=6.4Hz,F2−5−H),4.27(1H,m,G2−3−H),4.19(1H,m,G3−3−H),4.16(1H,br−s,G3−4−H),4.12(1H,q,J=6.4Hz,F1−5−H),4.06(1H,d,J=1.8Hz,F1−4−H),3.99(1H,m,G2−6−H),3.88(1H,br−s,G1−4−H),3.88(1H,d−d,J=10.7,4.3Hz,F1−2−H),3.86(1H,m,G2−5−H)、3.81(1H,m,G2−6−H),3.81(1H,m,F2−3−H),3.69(1H,d,J=1.8Hz,F2−4−H),3.66(1H,m,G1−3−H),3.65(1H,m,G2−2−H),3.64(1H,m,F2−2−H),3.63(2H,m,G1−6−H),3.61(1H,m,G3−5−H),3.61(2H,m,G3−6−H),3.60(1H,m,G1−2−H),3.53(1H,m,G1−5−H),3.53(1H,m,G3−2−H),1.19(3H,d,J=6.4,F1−6−H),1.12(3H,d,J=6.4,F2−6−H)
13C−NMR(D2O) 各炭素の13C−NMR分析時のケミカルシフト値を表6に示す。
【表6】
Figure 0003854063
【0117】
糖組成 L−フコース:D−ガラクトース=2:3
硫酸基 3分子
なお、1H−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(IX)の通りである。
【化22】
Figure 0003854063
【0118】
(6)低分子化物(F)の物性
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)の1H−NMRスペクトルを図18に、13C−DEPT−135°スペクトルを図19に、マススペクトルを図20にそれぞれ示した。即ち、図18は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図19は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)の13C−DEPT−135°スペクトルを示す図であり、図20は本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)のマススペクトルを示す図である。図18、図19において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図20において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/Z値を示す。
分子量;1278
MS m/z 660.0 [M+2Na+−4H+]2-、 432.0 [M+Na+−4H+]3-、318.2 [M−4H+] 4-
1H−NMR(D2O)
δ;5.19(1H,d,J=4.3Hz,F1−1−H),4.87(1H,d,J=3.8Hz,F2−1−H),4.61(1H,HODと重複,G1−1−H),4.59(1H,J=7.9Hz、G2−1−H),4.53(1H,d−d,J=10.6, 2.7Hz,F1−3−H),4.46(1H,d,J=7.6Hz,G3−1−H),4.42(1H,d,J=7.6Hz,G4−1−H),4.41(1H,br−s,G2−4−H),4.32(1H,q,J=6.4Hz,F2−5−H),4.27(1H,m,G2−3−H),4.24(1H,br−s,G3−4−H),4.20(1H,m,G3−3−H),4.20(1H,m,G4−3−H),4.16(1H,br−s,G4−4−H),4.12(1H,q,J=6.7Hz,F1−5−H),4.06(1H,d,J=2.7Hz,F1−4−H),3.98(1H,m,G2−6−H),3.94(1H,m,G3−6−H),3.89(1H,d−d,J=10.6,4.3Hz,F1−2−H)、3.88(1H,br−s,G1−4−H),3.86(1H,m,G2−5−H),3.86(1H,m,G2−6−H),3.82(1H,m,F2−3−H),3.80(1H,m,G3−5−H),3.80(1H,m,G3−6−H),3.69(1H,d,J=2.8,F2−4−H),3.66(1H,m,G1−3−H),3.65(2H,m,G1−6−H),3.65(2H,m,G4−6−H),3.64(1H,m,G2−2−H),3.64(1H,m,F2−2−H),3.62(1H,m,G4−5−H),3.59(1H,m,G1−2−H),3.54(1H,m,G1−5−H),3.54(1H,m,G3−2−H),3.54(1H,m,G4−2−H),1.19(3H,d,J=6.7,F1−6−H),1.12(3H,d,J=6.4,F2−6−H)
13C−NMR(D2O) 各炭素の13C−NMR分析時のケミカルシフト値を表7および8に示す。
【表7】
Figure 0003854063
【表8】
Figure 0003854063
【0119】
糖組成 L−フコース:D−ガラクトース=2:4
硫酸基 4分子
なお、1H−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(X)の通りである。
【化23】
Figure 0003854063
【0120】
実施例8
(1)本発明の硫酸化フコガラクタンの主要構造の解析
実施例1(2)で調製した硫酸化フコガラクタン画分の全構造及び硫酸化フコガラクタン分解酵素の切断部位を決定するために、NMR分析を行った。
質量分析及びNMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化フコガラクタンの1H−NMRスペクトルを図21に、13C−NMRスペクトルを図22に、赤外吸収(IR)スペクトルを図23にそれぞれ示した。即ち、図21は本発明の硫酸化フコガラクタンの1H−NMRスペクトルを示す図であり、図22は本発明の硫酸化フコガラクタンの13C−NMRスペクトルを示す図であり、図23は本発明の硫酸化フコガラクタンの赤外吸収スペクトルを示す図である。図21、図22において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図23において、縦軸は透過率(%)を、横軸は、波数(cm-1)を示す。1H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表9および10に示す。
【表9】
Figure 0003854063
【表10】
Figure 0003854063
【0121】
表9および10に示した帰属より、本発明の硫酸化フコガラクタンは、実施例7(4)に記載の(D)の化合物が主骨格であり、さらに本発明の硫酸化フコガラクタンは、該化合物が繰り返し結合している構造である事が判明した。また、繰り返し構造間の結合は、下記式(XIII)に示すようにG2のガラクトースがβ結合でG4のガラクトースの6位に結合したものであった。すなわち硫酸化フコガラクタンは、下記に示す主骨格の繰り返し構造を有することが判明した。
【化24】
Figure 0003854063
【0122】
また、本発明の硫酸化フコガラクタンの化学構造及び本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物の化学構造から、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、硫酸化フコガラクタンのD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースとD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースの間のβ1−6結合及びβ1−4結合をエンド的に分解する酵素であることが判明した。さらに、本発明の硫酸化フコガラクタンの分子量は、実施例1(3)の条件で測定したところ、その平均値は約13万であった。またその分子量分布は約1万〜約20万であった。
【0123】
(2)本発明の硫酸化フコガラクタンのHGF産生誘導活性
実施例1(2)記載の方法で得られた本発明の硫酸化フコガラクタンのHGF産生誘導活性を測定した。HGF産生誘導活性は、以下のようにして測定した。すなわち、1×105cells/mlとなるように10%牛胎児血清を含んだDME培地に懸濁したMRC-5細胞懸濁液(CCL171:大日本製薬社製、code.02−021)500μlを48穴の細胞培養プレートに入れ、37℃、5%CO2存在下で24時間培養後に1%牛胎児血清を含んだDME培地に交換した。その後、試料として実施例1−(2)に記載の方法で得られた硫酸化フコガラクタンを最終濃度が1、10、100μg/mlとなるように添加し、さらに24時間培養した後、培地を回収し、Quantikine Human Hepatocyte Growth Factor(HGF)ELISA Kit(フナコシ社製、Code.RS-0641-00)を用いて、培地中のHGFの量を測定した。一方、コントロールとして試料と同量の蒸留水を添加した。コントロールのHGF量は4.3ng/mlであり、この値を100%とした、各試料添加区のHGF産生量を表11に示す。なお、実験は全て2連で行い、その平均値を採用した。
【表11】
Figure 0003854063
【0124】
表11に示したように、本発明の硫酸化フコガラクタンがHGFの産生を誘導することを確認した。即ち、本発明の硫酸化フコガラクタンは、HGF産生誘導物質として有用であることを確認した。
【0125】
実施例9
(1)実施例3で得られたガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分70gを300mMの塩化ナトリウム、及び10%のエタノールを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解後、排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、ろ過可能な物質を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時に添加する緩衝液は溶解に用いた緩衝液と同じ組成のものを用いた。
【0126】
次に、限外ろ過内液に、WO97/26896号公報記載の方法でフラボバクテリウム sp.SA−0082株(FERM BP−5402)を培養し、該培養物から得られたフコース硫酸含有多糖−U分解酵素を20U添加し、25℃で5日間反応させた。上記反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記フコース硫酸含有多糖−U分解酵素で低分子化された物質、すなわち、硫酸化フコグルクロノマンナンの低分子化物を徹底的に除去した。なお、限外ろ過時には水を添加し、最後に200mMの塩化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8)に置換した。
【0127】
次に、限外ろ過内液に、実施例2(1)記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素を2U添加し、25℃で5日間反応させた。反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記硫酸化フコガラクタン分解酵素で低分子化された物質、すなわち、硫酸化フコガラクタンの低分子化物を徹底的に限外ろ過した。なお、限外ろ過時に添加する緩衝液は上記反応液に用いた緩衝液と同じ組成のものを用いた。
【0128】
次に、限外ろ過内液に最終濃度が20mMになるように塩化カルシウムを添加し、さらにWO97/26896公報記載の方法でアルテロモナス sp.SN−1009株(FERM BP−5747)を培養し、該培養物から得られたフコース硫酸含有多糖−F分解酵素を5U添加し、25℃で3日間反応させた。上記反応液を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機で限外ろ過し、上記フコース硫酸含有多糖−F分解酵素で低分子化された物質を徹底的に限外ろ過した。なお、限外ろ過時には水を添加した。こうして得られたろ過液に含まれているフコース硫酸含有多糖の低分子化物について理化学的性質を調べた。
【0129】
(2)上記(1)で得られたろ過液を集め、排除分子量3000のホロファイバーを装着させた限外ろ過機により限外ろ過し、ろ過液と非ろ過液に分離した。
このろ過液をロータリーエバポレーターで約3リットルに濃縮後、遠心分離して上清を得た。得られた上清を排除分子量300の膜を装着させた電気透析器により脱塩し、この溶液に0.1Mとなるように酢酸カルシウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離により除去した。この上清をあらかじめ50mMの酢酸カルシウムにより平衡化させたDEAE−セルロファイン(樹脂量4リットル)にかけ、50mMの酢酸カルシウム及び50mMの塩化ナトリウムで充分洗浄後、50mM〜800mMの塩化ナトリウムのグラジエントにより溶出させた。この時の分取量は1本当り500mlで行った。分取した画分をセルロースアセテート膜電気泳動法[アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第37巻、第197〜202頁(1970)]により分析したところ塩化ナトリウム濃度が約0.4Mで溶出される画分(以下、0.4M溶出画分と称す。)が均一であることが判明した。また、約0.6Mの濃度で溶出される画分(以下0.6M溶出画分と称す。)も電気泳動的にほぼ均一であった。
【0130】
そこで、まず0.4M溶出画分の液を150mlに濃縮後、濃度が4Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、あらかじめ4Mの塩化ナトリウムにより平衡化したPhenyl−セルロファイン(樹脂量200ml)にかけ、4Mの塩化ナトリウムにより充分洗浄した。非吸着性の硫酸化糖画分を集め、排除分子量300の膜を装着させた電気透析器により脱塩し、脱塩液505mlを得た。
【0131】
得られた脱塩液のうち40mlを10%のエタノールを含む0.2Mの塩化ナトリウムによって平衡化させたセルロファインGCL−90のカラム(4.1cm×87cm)にかけて、ゲルろ過を行った。分取は1フラクション当り9.2mlで行った。
【0132】
全フラクションに対して総糖量の分析をフェノール硫酸法〔アナリティカル ケミストリー(Analytical Chemistry)、第28巻、第350頁(1956)〕により行った。
【0133】
この結果、硫酸化糖は1つのピークを形成したので、そのピークの中央部分を集め、排除分子量300の膜を装着させた電気透析器により脱塩後、凍結乾燥し、112mgの本発明の硫酸化糖の乾燥品を得た。該乾燥品の一部を取り糖組成分析及び質量分析を行った。また、乾燥品のうちの10mgを常法により重水置換し、NMR分析に供した。
【0134】
糖組成分析の結果、0.4M溶出画分は、フコースのみからなる硫酸化糖であることが判明した。
【0135】
また、API−III質量分析機(パーキンエルマー・サイエクス社)を用いた、硫酸化糖の質量分析の結果を図24に示し、以下に解析結果を示す。すなわち図24は硫酸化糖の質量分析の結果を示す図であり、縦軸は相対強度(%)を、横軸はm/z値を示す。その結果、分子量は、全硫酸基がナトリウム塩になっている状態で2264±1であった。つまり、構成糖がフコースだけの硫酸化糖であることから、フコースが7分子、硫酸基が12分子結合したもので、その硫酸基がすべてナトリウム塩になっているもので、理論的分子量は2265であることが判明した。
【0136】
つまり、本物質をMとすると、図24中の主なシグナルは下記のように帰属することができる。
Figure 0003854063
この結果、本物質はフコース7分子、硫酸基12分子のオリゴ糖である。
【0137】
次に、フコースの結合様式、及び硫酸基の結合位置を決定するために、JNM−α500 型核磁気共鳴装置(日本電子社製)を用い、NMR分析を行った。構成糖の結合様式は1H−検出異種核検出法であるHMBC法を用いて行った。1H−NMRの帰属にはDQF−COSY法及びHOHAHA法を、13C−NMRの帰属にはHSQC法を用いた。
【0138】
NMRの帰属の結果を以下に示し、0.4M溶出画分の硫酸化糖の 1H−NMRスペクトルを図25に、13C−NMRスペクトルを図26にそれぞれ示した。但し、1H−NMRでの化学シフト値はジオキサンの化学シフト値を3.53ppmに、13C−NMRではジオキサンの化学シフト値を66.5ppmとして表した。測定は両方共に60℃で行った。すなわち図25は、0.4M溶出画分の硫酸化糖の1H−NMRスペクトルを示す図であり、図26は0.4M溶出画分の硫酸化糖の13C−NMRスペクトルを示す図である。図25、図26において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。1H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表12および13に示す。
【表12】
Figure 0003854063
【表13】
Figure 0003854063
【0139】
なお、NMRのピークの帰属の番号は下記式(XV)の通りである。
【化25】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はOSO3Hである)
【0140】
以上の結果より、本物質は下記式(XVI)で表される硫酸化糖であることが判明した。
【化26】
Figure 0003854063
【0141】
(3)実施例9(2)に記載した、DEAE−セルロファインの0.6M溶出画分に関しても0.4M溶出画分と全く同様に精製して凍結乾燥品を得た。
この標品は、HPLCによる分析の結果、0.4M溶出画分よりも分子量の大きな硫酸化糖であることが判明したが、NMRの分析結果によると0.4M溶出画分とほぼ同じスペクトルが得られた。
【0142】
図27に0.6M溶出画分の1H−NMRスペクトルを示した。但し、溶媒は重水を用い、1H−NMRでの化学シフト値はジオキサンの化学シフト値を3.53ppmとして表した。測定は60℃で行った。すなわち図27は0.6M溶出画分の1H−NMRスペクトルを示す図であり、縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。
【0143】
この結果、0.6M溶出画分は0.4M溶出画分が数分子結合した構造を持つことが強く示唆された。そこで、0.6M溶出画分を実施例9(1)記載のフコース硫酸含有多糖−F分解酵素によりさらに分解して得た分解物をHPLCにより分析したところ、反応生成物の多くが実施例9(2)に記載したDEAE−セルロファインの0.4M溶出画分の硫酸化糖と同じ位置に溶出されてきた。
【0144】
なお、HPLCの分析条件は下記の通りである。
カラム Shodex SB802.5(昭和電工社製)
カラム温度 25℃
溶液 5mMのアジ化ナトリウムを含む50mMの塩化ナトリウム
検出 示差屈折率検出器 Shodex RI−71
上記0.6M溶出画分、0.4M溶出画分につきプルラン(昭和電工社製)を標準物質としたゲルろ過法により分子量を測定したところ、0.4M溶出画分はプルラン換算で分子量約8500、0.6M溶出画分は分子量約26000であり、0.6M溶出画分は0.4M溶出画分の硫酸化糖の3量体であることが判明した。また、7糖残基の繰り返しの結合位置は約0.6M溶出画分の1H−NMRスペクトルを詳細に検討することにより、式(XV)中のFのフコースの3位にα−(1→3)結合でつながっていることが明らかとなった。さらに、上記の方法に準じ、上記フコース硫酸含有多糖の低分子化物中より、(XVI)で表される硫酸化糖の5量体、すなわち下記一般式(XIV)においてn=5で表される硫酸化糖を得た。
【化27】
Figure 0003854063
(式中、RはH又はOSO3Hである)
【0145】
以上のことから、ガゴメ昆布のような褐藻類から得られた硫酸化フコース含有多糖をフコース硫酸含有多糖−U分解酵素及び本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素で処理することにより、硫酸化フコース含有多糖−F分解酵素によって低分子化され、下記一般式で表される硫酸化糖を構成糖の必須成分とする硫酸化多糖が得られることが確認できた。また、該硫酸化多糖の分子量は、実施例1(3)の方法で測定したところ、抽出時の処理条件が、pH6〜8、95℃ 約2時間の場合は、平均分子量は約20万(分子量分布は、約1万〜約100万)であった。また、抽出時の処理条件が、pH6〜8、25℃ 約24時間の場合は、平均分子量は約1,300万(分子量分布は、約10万〜約2,000万)であった。
【発明の効果】
本発明により糖鎖工学用試薬あるいはHGF産生誘導物質として有用な硫酸化フコガラクタン及びその低分子化物が提供される。また、該硫酸化フコガラクタンの構造解析や分解、硫酸化フコガラクタンの低分子化物の再現性よい製造に用いることができる新規な硫酸化フコガラクタン分解酵素が提供される。また、該酵素の製造方法についても提供される。また、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素により硫酸化フコース含有多糖の混合物から硫酸化フコガラクタンを選択的に除去する方法が提供される。さらに、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素と他のフコース硫酸含有多糖分解酵素を組み合せて使用することにより、新規の硫酸化糖が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン分解酵素のpHと相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図2】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン分解酵素の温度と相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図3】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(A)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図6】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(B)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図9】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図11】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(C)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図12】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図13】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図14】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(D)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図15】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図16】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図17】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(E)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図18】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図19】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)の13C−DEPT−135°スペクトルを示す図である。
【図20】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタン低分子化物(F)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図21】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタンの1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図22】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタンの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図23】 本発明により得られる硫酸化フコガラクタンの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図24】 フコース硫酸含有多糖の低分子化物の0.4M塩化ナトリウム溶出画分の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図25】 フコース硫酸含有多糖の低分子化物の0.4M塩化ナトリウム溶出画分の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図26】 フコース硫酸含有多糖の低分子化物の0.4M塩化ナトリウム溶出画分の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図27】 フコース硫酸含有多糖の低分子化物の0.6M塩化ナトリウム溶出画分の1H−NMRスペクトルを示す図である。

Claims (2)

  1. 下記化学式(VI)、化学式(X)又は化学式(VII)から選択される化学構造を有する糖化合物またはその塩:
    Figure 0003854063
    Figure 0003854063
    Figure 0003854063
  2. 下記理化学的性質を有する硫酸化フコガラクタン分解酵素を褐藻類由来の硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用させて取得することを特徴とする請求項1に記載の糖化合物の製造方法。
    (1)作用:構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1である硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させる、
    (2)至適pH:本酵素の至適pHは約7〜9である、
    (3)至適温度:本酵素の至適温度は約25〜45℃である。
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