JP3852387B2 - 複合構造物の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基材表面にセラミックスや半金属などの脆性材料からなる構造物を一体的に形成した複合構造物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のゾルゲル法、PVDやCVDなどの蒸着法、溶射法或いは特開平8−81774号公報、特開平10−202171号公報、特開平11−21677号公報、特開平11−330577号公報或いは特開2000−212766号公報に開示されるガスデポジション法や静電微粒子コーティング法に代わる被膜形成方法として、本発明者らは特許第3265481号、国際出願特許WO 01/27348A1号等にエアロゾルデポジション法を提案している。
【0003】
ガスデポジション法は、主として金属粒子をガス攪拌にてエアロゾル化し、このエアロゾルを微小なノズルを通して加速せしめて基材に衝突させ、この衝突の際の運動エネルギーの一部を熱エネルギーに変換し、微粒子間あるいは微粒子と基材間を焼結することを基本原理としている。また、静電微粒子コーティング法はガスデポジション法と同様の基本原理で被膜形成を行う方法で、微粒子を帯電させ電場勾配を用いて加速せしめる方法である。
【0004】
これに対し、エアロゾルデポジション法はセラミック粒子などの脆性材料粒子をエアロゾル化して基材に衝突させて、基材表面に脆性材料構造物(膜など)を形成するようにしている。
従来のガスデポジション法と上記エアロゾルデポジション法との大きな違いは、前者が熱を利用して微粒子を焼結させているのに対し、後者のエアロゾルデポジション法は、粒子径、衝突速度、雰囲気、更には必要に応じて微粒子に内部歪を予め付与するなどの条件下で行うことで、室温にて脆性材料構造物の形成を可能とした点である。そして、形成された脆性材料構造物も、多結晶で結晶同士の界面にはガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないという特異性を有している。
【0005】
また、ガスデポジション法或いはそれに類似した方法によって基板に所定形状の構造物(膜)を形成するには、マスクを介して微粒子を基板表面に衝突させる手段が考えられる。このことを提案する先行技術として、特開平6−93418号公報および特開平10−202171号公報に開示されるものがある。
【0006】
特開平6−93418号公報に開示される内容は、アルミニウムなどの材料を加熱して蒸発させた後、空中で凝集せしめて超微粒子とし、この超微粒子をマスクを密着させた状態の基板に吹き付けマスクの開口内にガスデポジション法によって超微粒子の膜(配線パターン)を形成するというものであり、特開平10−202171号公報に開示される内容は、セラミックスなどの超微粒子をノズルを通して基板に噴射し、堆積させて微細形状の構造物を形成する際に、基板から所定距離だけ離した位置に所定の開口パターンを有するマスクを配置し、開口を通過した超微粒子を基板上に堆積せしめるようにしている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
エアロゾルデポジション法によって、基板に所定形状の脆性材料構造物を形成する場合、特開平10−202171号公報と同じ手法を用いると、基板とマスクとが離れることになり、マスクの開口を透過した微粒子に広がりが発生し、マスクの開口形状を正確に基材表面に再現することができず、また構造物の境界部を基板から垂直に切り立ったものとすることができない。
【0008】
また、特開平6−93418号公報のように基板の表面にマスクを密着させれば、マスクの開口に正確に一致した形状の構造物を得ることができる。しかしながら、同公報にも示されているように、開口の周囲には堆積物が付着する。そして、その堆積物はマスクの開口内全部に構造物を形成する場合、開口周囲の堆積物とつながってしまう。この状態でマスクを剥がすと、開口周囲の堆積物が開口内の堆積物側に残ったり、逆に開口内の堆積物の一部を剥がしてしまう。その結果、正確な形状、特に側壁部が垂直に切り立った構造物を形成することができない。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく本発明に係る複合構造物の形成方法は、基材の表面に脆性材料微粒子のエアロゾルを衝突させ、衝突による衝撃で前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、微粒子同士を再結合せしめて基材の表面に脆性材料構造物を形成するエアロゾルデポジション法による複合構造物形成方法において、前記基材の表面には開口を有するマスクを密着せしめ、当該開口から露出する基材表面のみに脆性材料構造物を形成するとともに、前記マスクの材料としてエアロゾルデポジション法による被膜形成がなされないものとしてDHv2(塑性変形分を考慮したダイナミック硬さ)が44以上の樹脂材料からなるものを選定した。
【0010】
このように、マスクを基材に密着せしめることで、マスク開口に忠実な形状の構造物を形成することができる。特にマスク開口の厚み方向の側面を垂直面としておくことで、形成される構造物の側壁も基材に対して垂直に切り立ったものとすることができる。
【0011】
前記マスクの厚みが厚すぎると構造物の形成段階で、マスクの開口内に脆性材料微粒子の一部が構造物とならず、圧粉体として堆積し構造物の質が劣化する懸念があるため、マスクの厚みは目的とする脆性材料構造物の高さと同じ程度にする。
【0013】
ここで、樹脂の硬さを示す指標として、DHv1(材料の塑性変形分を考慮しないダイナミック硬さと、DHv2(材料の塑性変形分を考慮したダイナミック硬さ)があるが、前者の指標では脆性材料構造物を形成できるか否かの判断はできない。
即ち、エアロゾルデポジション法の原理から脆性材料構造物を形成できる基材は金属やセラミックスなどの高硬度の材料に限られると考えていた。事実、エポキシ樹脂やポリプロピレンには脆性材料構造物を形成できない。しかしながら、これらエポキシ樹脂やポリプロピレンよりも低硬度の樹脂には脆性材料構造物を形成できることが判明した。その境界としてはDHv2=44であった。
【0014】
【発明の実施の態様】
図1は本発明に係る複合構造物の製造装置(エアロゾルデポジション装置)の一例を示す図であり、製造装置10は窒素ガスボンベ101がガス搬送管102を通じて、脆性材料微粒子を内蔵するエアロゾル発生器103に接続され、エアロゾル搬送管104を介して形成室105内に設置された縦0.4mm横10mmの開口を持つノズル106に接続されている。ノズル106の先にはXYステージ107に設置された基材108が配置され、この基材108表面には図2(a)に示すように、予めマスク109が貼着され、また、前記形成室105は真空ポンプ110に接続されている。
【0015】
前記マスク109が貼着された基材108にノズル106から脆性材料微粒子を高速で衝突せしめると、図2(b)に示すように、マスク109の開口109aの部分にのみ脆性材料微粒子が堆積した脆性材料構造物111が形成される。そこで、マスク109を除去することで図2(c)に示すように、基材108と脆性材料構造物111からなる複合構造物が得られる。
【0016】
次に、具体的な実施例を示す。
(実施例1)
図1に示した構造物形成装置(エアロゾルデポジション装置)を用いて、ガラス基材上へのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)構造物の形成を試みた。
PZT微粒子には、平均粒子径0.2μmのものを用い、基材には、ソーダライムガラスを用いた。
図3(a)、(b)に示すように、基材108には厚さ0.1mmの硬質プラスチック板(DHv2=155.4)に5mm×5mmの方形の穴109aの空いたマスク109を密着させて貼り付けした。
形成後、マスク109を基材108より取り外し、得られた構造物の、マスクとの接触部であった端の部分について、膜形状プロファイルを日本真空技術株式会社触針式表面形状測定器Dektak3030を用いて測定した。この結果を図4に示す。縦軸が形成高さを表す。
図4では、形成高さ27μmの構造物において、構造物の端の切り立ちが約45°となっている。触針式測定器を使用しているがゆえに垂直に近い切り立ち部がある場合は触針の横移動での測定中、針の側面が切り立ち部に衝突するなどの不具合で、このような切り立ち部に対する測定精度の問題が生じることが懸念されるが、少なくとも実施例1においてはこの角度以上の切り立ち角度を有していると言える。
【0017】
(実施例2)
脆性材料微粒子として酸化アルミニウム微粒子を選定した。具体的には、純度99%以上、平均粒子径0.2μmのα−アルミナを用いた。また、プラスチック基材には、厚みが1〜2mm程度のABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、ポリスチレン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、エポキシ樹脂ARALDITE XD911、およびステンレス鋼上に厚み数十μmで形成したポリイミド膜、電子回路基板として良く用いられるガラス−エポキシ基板の11種類を用いた。
【0018】
エアロゾルを発生させる高純度窒素ガスの流量は7L/min、形成時間は10分、形成環境は室温で行った。このようにして得られた構造物の形成結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1において、構造物形成状況については、上述の操作によって構造物の形成が見られた場合(形成可能)、形成が見られず目視では基材に何の変化も無かった場合(形成されず)、形成が見られず基材がエッチングされて表面から削り取られていた場合(形成されず・基板削れ)で分けられ、構造物の形成が見られた場合は、その構造物の最大形成厚さを日本真空技術株式会社触針式表面形状測定器Dektak3030を用いて測定した。
【0021】
また基材の硬さを島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH−W201を用いて、ビッカース圧子、試験力10gf、負荷速度1.350gf/sec、保持時間15秒、測定環境室温の条件で負荷−除荷試験を行い、材料の塑性変形分を考慮しないダイナミック硬さDHv1と、材料の塑性変形分を考慮したダイナミック硬さDHv2の値のそれぞれを示した。
【0022】
この結果より、基材のダイナミック硬さDHv2の値が構造物の形成に大きく影響を及ぼしている様子がわかる。即ち、PP(ポリプロピレン)に着目すると、DHv1=7.423であり、この値はPET(DHv1=9.959)とPTFE(DHv1=2.784)の中間となっている。したがって、DHv1の値から判断すれば、脆性材料構造物が形成されるはずであるが実際は形成できない。一方、PP(ポリプロピレン)のDHv2=47.615であり、DHv2から判断すればPET(DHv2=32.766)やPTFE(DHv2=7.971)よりも高く、DHv2の値が構造物の形成の指標になることが分る。同様に、ガラスエポキシの値もDHv2の値が構造物の形成の指標になることを示している。
【0023】
図5はその状況をわかりやすく示したもので、基材のDHv2を縦軸にとって並べた場合に「形成」、「形成されず」、「形成されず・基板削れ」の3水準で数値的に区分けできる。この結果よりDHv2が5以上44以下更に詳細には7以上33以下のプラスチック基材(有機物材料)を用いた場合において、エアロゾルデポジション法を利用しての脆性材料の構造物が形成が行われると言える。
【0024】
(比較例)
図1に示した構造物形成装置を用いて(実施例1)と同じくガラス基材上へのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)構造物の形成を試みた。PZT微粒子には、平均粒子径0.2μmのものを用い、基材108には、ソーダライムガラスを用いた。
図6(a)、(b)に示すように、基材108には厚さ0.3mmのステンレス板に5mm×5mmの方形の穴109aの空いたマスク109を1mmだけ基板から浮かせて固定した。
構造物形成装置10を用いたPZT構造物の形成手順は(実施例)と同じである。ノズル106より噴射したエアロゾルは一部はマスク109に衝突し、マスク109の開口を通過したエアロゾルは基材108に衝突し、基材108に構造物が形成される。XYステージ107を稼動させて、基材108を揺動させることによりマスク109の開口の面積分におおよそ相当する5mm×5mmへ構造物の形成を行った。形成環境は室温で行った。
形成後、マスク109を基材108より取り外し、得られた構造物の、マスクとの接触部であった端の部分について、膜形状プロファイルを日本真空技術株式会社触針式表面形状測定器Dektak3030を用いて測定した。この結果を図7に示す。
図7では、形成高さ26μmの構造物において、構造物の端の切り立ちが約7°となった。
【0025】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、エアロゾルデポジション法によって基材表面に脆性材料構造物を形成するにあたり、マスクを基材に密着せしめて行うようにしたので、マスク開口に忠実な形状の構造物を形成することができる。そして、マスクの材料としてエアロゾルデポジション法によって脆性材料構造物が形成されないものを選定したので、マスクを剥がす際に形成した脆性材料構造物の形が崩れるなどの心配がない。
【0026】
また、マスクの開口内側壁に沿った形状の構造物、即ち形成される構造物の側壁も基材に対して垂直に切り立ったものとすることができる。例えば誘電体共振器の場合には、誘電体材料を基材表面に円筒状に形成した構造のものがあるが、円筒状誘電体の側壁が基材から垂直に切り立った形状にすることで、特性の向上が図れる。
【0027】
更にマスクには脆性材料構造物が形成されないため、破損などがない限り再度利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る複合構造物の製造装置の一例を示す図
【図2】(a)〜(c)は複合構造物の形成過程を説明した図
【図3】(a)は実施例に用いたマスクを貼着した基材の断面図、(b)は斜視図
【図4】実施例で製造した構造物の側壁の形状を示す拡大図
【図5】各種樹脂の硬度(DHv1およびDHv2)と成膜の可否との関係を示すグラフ
【図6】(a)は比較例に用いたマスクを貼着した基材の断面図、(b)は斜視図
【図7】比較例で製造した構造物の側壁の形状を示す拡大図
【符号の説明】
10…複合構造物の製造装置、101…窒素ガスボンベ、102…ガス搬送管、103…エアロゾル発生器、104…エアロゾル搬送管、105…複合構造物形成室、106…ノズル、107…XYステージ、108…基材、109…マスク、109a…マスクの開口、110…真空ポンプ、111…脆性材料構造物。
Claims (1)
- 基材の表面に脆性材料微粒子のエアロゾルを衝突させ、衝突による衝撃で前記脆性材料微粒子を変形または破砕し、微粒子同士を再結合せしめて基材の表面に脆性材料構造物を形成するエアロゾルデポジション法による複合構造物形成方法において、前記基材の表面には開口を有するマスクを密着せしめ、当該開口から露出する基材表面のみに脆性材料構造物を形成するとともに、前記マスクの材料としてエアロゾルデポジション法による被膜形成がなされないものとしてDHv2(塑性変形分を考慮したダイナミック硬さ)が44以上の樹脂材料からなるものを選定したことを特徴とする複合構造物の形成方法。
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