JP3850697B2 - 固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、発電効率のよい固体高分子型燃料電池に関し、さらに詳しくは、電極および固体高分子電解質層に存在する過剰な水を除去しながら燃料電池の電極への燃料および酸化剤の供給が効率よく行われる固体高分子型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来の固体高分子型燃料電池の単位セルの断面図を図2に示す。固体高分子電解質膜101は、燃料極102および酸化剤極103の2つの電極で両面から挾持されており、両電極には触媒が担持されている。前記燃料極102には燃料ガス(水素)が供給され、前記酸化剤極103には酸化剤ガス(酸素)が供給される。さらに、一対の集電体104が燃料極102と酸化剤極103を両側から挾持する形に配置され、集電体104と燃料極102、集電体104と酸化剤極103の間の空間が、それぞれ燃料流路105および酸化剤流路106となる。このようにして構成された単位セルの出力電圧は1V以下と低いため、単位セルを複数積層して所望の出力電圧の固体高分子型燃料電池スタックが形成される。
【0003】
燃料極102および酸化剤極103は、触媒活性物質を含む触媒層が、導電性を有する多孔質の電極基材で支持された構造であり、複数の並列な溝からなる燃料流路105から電極基材を透過して燃料極102に供給される燃料としての水素と、酸化剤流路106から酸化剤極103に供給される酸化剤としての酸素が、それぞれの触媒層上で固体高分子電解質/触媒/反応ガスの三相界面を形成し、以下の反応式で示されるような反応が進行する。
【0004】
燃料極:H2→2H++2e- (式1)
酸化剤極:2H++2e-+1/2O2→H2O (式2)
すなわち、燃料極102側では、式1に示すように、水素分子を水素イオンと電子に分解する電気化学反応が、酸化剤極103側では、式2に示すように水素イオンと電子と酸素から水を生成する電気化学反応が、それぞれ行われる。燃料極102側で式1の反応により生成した水素イオンは、水分子との水和状態で固体高分子電解質膜101を透過し、酸化剤極103側で式2の反応に供される。
【0005】
これらの反応を効率よく連続的に行うためには、燃料極102および酸化剤極103へ燃料および酸化剤を連続的に供給すると共に、電極付近から生成物質を速やかに取り除く必要がある。具体的には、酸化剤極103では、酸化剤である酸素を連続的に供給すると共に生成物質である水を取り除く必要がある。水分の除去が速やかに行われなければ、電極付近に形成された水膜により、酸化剤極103へ酸素が供給されにくくなり電極反応が停止する。
【0006】
一方、燃料極102と酸化剤極103に挾持された固体高分子電解質膜101の内部で電荷担体となるのは水和状態の水素イオンである。固体高分子電解質膜内で水素イオンが燃料極から酸化剤極へ移動するのは、固体高分子電解質膜が水和状態の水素イオンを選択的に拡散させる性質を有するからである。したがって、電池反応全体をスムーズに進行させて発電効率を向上させるためには、常に固体高分子電解質を湿潤状態に保って飽和に含水させておく必要がある。
【0007】
すなわち、固体高分子電解質膜101を適度な湿潤状態に保つとともに、燃料極102および酸化剤極103では、燃料および酸化剤のガス透過を妨げる水膜形成を抑制するという相反する要求を満たすことが、燃料電池の高効率化のために必要とされている。
【0008】
上記課題を解決するために、特開平7−326361号公報では、カーボン短繊維のプレス成形体を基材とする電極内に、吸水性材料の微細粒子を分散させた燃料電池が開示されている。この構成の燃料電池内では、前述の式2の反応により酸化剤極に生成した水分を、酸化剤極内の吸水性材料が積極的に吸収して、電極の過剰水分を除去する。従って、酸化剤極における水膜形成を抑制し、燃料電池の効率が向上することが見出されている。
【0009】
しかし該公報において吸水性材料として用いている架橋ポリアクリル酸塩等は導電性を有さないため、電極の吸水能力を向上させるために電極における該吸水性材料の配合比率を多くすると、電極の導電性が低下し、ひいては内部抵抗増加によるエネルギー損失増大を招く。つまり、エネルギー損失を小さく抑えるためには、混合できる吸水性材料の含有比率は上限(該公報において、吸水性材料は電極中10容量%程度含有)が存在し、その結果、電極の吸水能力の限界も低く抑えられる。従って、負荷の急増などに伴い生成水量が増加しても、電極の吸水能力を超えた過剰な水分は、電極では吸水されず、電極表面で水膜を形成して電極へのガスの供給を妨げる。
【0010】
一方、特許公報第3022528号には、燃料電池セルを両側から挾持してガス流路を構成するリブ(溝)付きプレートを備え、プレートの燃料極側のリブに、保水性樹脂とカーボンからなる多孔質性の保水層を備えることにより、固体高分子層全体を湿潤状態に維持する方法が提案されている。この構成の燃料電池では、燃料供給用のガス流路に保水層が備えられるため、該ガス流路内の湿度が上昇し、その結果、固体高分子層が湿潤される。
しかし、該公報における保水層を備えたリブ付きプレートは、燃料極側からの固体高分子電解質層への加湿を主目的としているため、酸化剤側において生成する過剰水分の除去は達成されていない。
【0011】
以上述べたように、上記の従来技術ではいずれも高負荷運転時に電極において生成する過剰水分を除去する能力が十分とはいえない。従って、本発明の解決すべき課題は、電極および固体高分子電解質層に存在する過剰な水を除去して、電極内へのガスの拡散を促進させ、発電効率の高い燃料電池を供給することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、固体高分子電解質層の両側に燃料極および酸化剤極が対設され、燃料極を臨む側に燃料流路を、酸化剤極を臨む側に酸化剤流路を備えた燃料電池セルであって、燃料極および/または酸化剤極上に、導電性材料と保水性樹脂とから形成され、複数の貫通孔を有する保水層が、燃料流路側および/または酸素流路側に備えられる固体高分子型燃料電池を提供し、上記課題を解決する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において、電極とは燃料極または酸化剤極を意味し、ガスとは燃料ガスまたは酸化剤ガスを意味し、ガス流路とは燃料流路または酸化剤流路を意味し、水分とは水を主体とした液体および/または霧状体を意味する。
本発明の燃料電池は、固体高分子電解質層、電極、ガス流路および保水層から主として構成されることを特徴とする。
【0014】
固体高分子電解質層としては、水素イオンに対するイオン交換基としてスルホン基を有する陽イオン交換膜を用いることができる。具体的には、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、PSSA−PVA(ポリスチレンスルホン酸ポリビニルアルコール共重合体)や、PSSA−EVOH(ポリスチレンスルホン酸エチレンビニルアルコール共重合体)等からなるものが挙げられる。なかでも、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂からなるものが好ましく、具体的には、米国デュポン社製のナフィオン膜、旭硝子社製のフレミオン膜、旭化成社製のアシプレックス膜が用いられる。
【0015】
燃料電池における電気化学反応は、電極と電解質の界面で起こるため、電解質膜の電気化学的特性は燃料電池の電流−電圧特性に大きく影響を与える。特に薄膜化により直列抵抗が減少するため、電流−電圧特性は向上する。前記樹脂の場合は、膜厚が20〜200μm程度になるように作製するのが好ましい。イオン導電率は25℃で5×10-2〜1×10-1(Ω・cm)-1程度であるので、前記膜厚の場合、単位面積あたりの抵抗は0.05〜0.4Ω程度となる。
【0016】
固体高分子電解質膜は、樹脂の前駆体を熱プレス成型、ロール成形、押出し成形等の公知の方法で膜状に成形し、加水分解、酸型化処理することにより得られる。また、フッ素系陽イオン交換樹脂をアルコール等の溶媒に溶解させた溶液から、溶媒キャスト法により得ることもできる。
【0017】
本発明で用いる電極は、カーボン、カーボンペーパー、カーボンの成型体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属、金属繊維集合体などの多孔性基体を撥水処理したものを用いることができる。
気体燃料を利用する燃料電池の電極は、燃料極および酸化剤極の両方とも、電極が気体の拡散を律速しないように、既知な透過性のよい多孔質構造(比表面積:50〜100m2/g)を持つグラファイトを電極材料として用いるのが好ましい。
【0018】
液体燃料を利用する燃料電池の電極は、液体が浸透しやすく、燃料供給の圧損が小さいグラファイト電極を用いるのが好ましい。特に、毛管現象による電極内部への液体燃料の拡散を有効に利用するために、燃料極の多孔質孔径が300μm以下のものが好ましい。300μmより大きい孔径では、毛管力による拡散の効果が得られない。
【0019】
これら電極には更に、触媒層を付与して使用してもよい。触媒層には、白金、鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウムなどの遷移金属と白金の合金あるいはそれらの酸化物の微粒子を触媒として含む炭素材料を用いることができる。燃料が純水素の場合は白金、炭化水素を含む場合には白金−ルテニウム合金が好ましい。触媒の量としては電極に対して約5〜約50重量%、好ましくは約10〜約30重量%である。
【0020】
触媒層は、以下の方法で電極に取りつけることができる。例えば、白金とルテニウムの金属微粉末の混合物をそのまま、あるいは表面積の大きいカーボン上に担持させ、結着剤および撥水剤として働くポリテトラフルオロエチレンや固体高分子電解質を含むアルコール溶液と混合し、カーボンペーパーなどの多孔性電極上に吹き付け、ホットプレスなどによって固体高分子電解質と接合する方法(米国特許第5,599,638号)や、白金とルテニウムあるいはその酸化物の微粉末の混合物を固体高分子電解質を含むアルコール溶液と混合して、この触媒混合溶液をポリテトラフルオロエチレン板上に塗布し、乾燥後ポリテトラフルオロエチレン板から引き剥がして、カーボンペーパーなどの多孔性電極上に転写し、ホットプレスなどによって固体高分子電解質と接合する方法(X.Renら、J.Electrochem.Soc.,143,L12(1996))などがある。
【0021】
電極は、電解質/触媒/反応ガスの三相界面を十分に確保する必要があるので、固体高分子電解質膜と密着して一体に形成されるのが好ましい。一体にするには、加圧下に100〜200℃でホットプレスして燃料極と酸化剤極の電極で固体高分子電解質膜を接合、一体化して積層することができる。
【0022】
ガス流路は、それぞれの電極に臨む側に備えられる。例えば、電極に臨む側に、流路を備えた、後述する集電体やセパレータを積層させることによりガス流路は備えることができる。
【0023】
保水層は、導電性材料および保水性樹脂を原料として、酸素流路側および/または燃料流路に作製することができる。酸素流路側に作製される際には、保水層は酸化剤極で生成する過剰な水分を除去し、燃料流路側に作製される際には、固体高分子電解質膜を湿潤に保つために、固体高分子電解質膜へ水分を補給する。
【0024】
保水性樹脂の保水効果としては、樹脂の多孔質化により増加する毛管力を利用した物理的吸着と、親水基と水分子の間に働く吸引力による化学的吸着があるが、物理的吸着の場合、多孔質の含水により体積膨張が生じるため、長期サイクル使用により、電極と保水層の密着性が弱くなるおそれがある。この場合、電極表面から余剰水分を除去するという保水層本来の機能を果せなくなる。また、前記の体積膨張により、保水層に形成された貫通孔が圧迫されて孔が密閉された場合、貫通孔を通じたガス供給は、ほとんど行うことができなくなる。これらの要因を考慮すると、樹脂の多孔質化による物理的吸着を主体とした保水より、化学的吸着を主体とした保水を利用するのが望ましい。
【0025】
保水性樹脂は、親水性基であるカルボキシル基、ヒドロキシ基、4級アミノ基およびスルホン酸基からなる群から選択される1またはそれ以上の基を保有する樹脂が好ましく、酸、塩基等の影響が少ないヒドロキシ基を有する樹脂が特に好ましい。
【0026】
保水性樹脂の水酸化度が2より小さい場合、十分な保水性が得られず、逆に50を超えると、保水層全体の膨潤が無視できなくなり、貫通孔を圧迫するおそれがあるため、保水性樹脂成分の水酸化度は2〜50の範囲が好ましい。
【0027】
具体的には、保水性樹脂は、セルロース樹脂、フェノール樹脂およびヒドロキシスチレン樹脂からなる群から選択される1またはそれ以上の樹脂が好ましい。
【0028】
セルロース樹脂としては、セルロースの3個のヒドロキシ基の一部または全部をハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、ハロゲン化ベンジル、酸化プロピレン、ハロゲン化アルコール等によってエーテル化して得られるものとして、アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ベンジルセルロース等)、ヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース(エチルヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシプロピルセルロース等)等が挙げられる。
【0029】
また同様に、セルロースの水酸基をモノクロロ酢酸またはそのアルカリ塩によってエーテル化して得られるものとして、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロースのヒドロキシ基を酢酸等の酸または酸無水物によってエステル化して得られるものとして酢酸セルロース(セルロースアセテート)、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロースおよびこれらセルロース誘導体の混合物、共重合体等が挙げられる。
【0030】
特に、低級アルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル基等)および芳香環で置換された低級アルキル基(例えばベンジル基等)でエーテル化(アルコキシ化およびアラルコキシ化)されたアルキルセルロースは、光や水分の影響が少なく、熱的特性にも優れ(軟化点120℃以上)、また逆に低温時でも柔軟性があり、機械的な強靭性もあるので、好ましい。ただし、アルキルセルロース樹脂は、エーテル化度が95%以上では保水性が著しく悪くなり、40%以下では樹脂の柔軟性が高すぎてのり状となり、形状維持自体が困難になるため、40%〜95%のエーテル化度が好ましい。また、ハロゲン化アルキルアルコールとハロゲン化アルキルを用いてセルロースの水酸化度を調整しながらエーテル化させることにより、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等の樹脂を作製することも可能である。この場合、ヒドロキシ基は、ハロゲン化アルキルアルコールからのヒドロキシ基と、セルロース本体のヒドロキシ基の合計となる。
【0031】
フェノール樹脂の原料としては、特殊なものはなく、フェノールおよびフェノールの低級アルキル、アルコキシ置換体等、一般的に広く使用されるものでよい。また、フェノール樹脂は製造法(フェノール/ホルマリンの比率、触媒の種類)の違いにより、ノボラック樹脂とレゾール樹脂の2種類に大別される。特に、前者は、付加反応−縮合反応を交互に繰り返し、下式の脱水反応を経て、下式右の構造式のように組成の安定した構造となる。ノボラック樹脂は、熱的安定性(寸法安定性)および機械的強度が非常に高い。したがって、フェノール樹脂としては、ノボラック樹脂が好ましい。
【0032】
さらに、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン等を約1〜20%程度添加して重合させると、架橋により硬化樹脂を形成し、寸法安定性がさらに向上する。
【0033】
【化1】
【0034】
ヒドロキシスチレン樹脂としては、近年LSI用フォトレジストとして多く用いられているものを使用することができる。なかでも、ヒドロキシスチレン樹脂としては、ヒドロキシスチレンとブタジエンとの共重合体が好ましい。ヒドロキシスチレン樹脂は、ヒドロキシスチレンと、ブタジエン、アクリロニトリル、ブチルメタクリレート等と共重合させることにより、さらに膜強度を高めることができる。中でもヒドロキシスチレンと、ブタジエンおよびアクリロニトリルとの共重合体が特に好ましい。前記共重合体のヒドロキシスチレン樹脂に対する割合は、保水率を考慮すると50%モル以下が好ましい。
【0035】
セルロース樹脂、フェノール樹脂およびヒドロキシスチレン樹脂は、固体高分子型燃料電池のセル作動温度60〜90℃程度の環境下においても加水分解し難い特性を持つ。さらに、該樹脂の保水体構造が熱や水分などの外的要因によって劣化することを防ぐと同時に、形状をより安定化させるためには、架橋されて保水性樹脂が三次元架橋樹脂であるのが好ましい。
【0036】
三次元架橋樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれでもよいが、長期使用後における膜の保水性の維持および温度変化の繰り返しに対する安定性等を考慮すると、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0037】
架橋方法としては、例えばアルキルセルロースを合成する際に、ハロゲン化アルキル化合物の一部を2価のハロゲン化アルキル化合物(例えばジクロロエタン)に替えてオートクレーブ中で反応させる方法がある。また、前記アルキルセルロース樹脂へのジイソシアネート化合物の添加による方法や、オルガノニュム化合物の添加による方法もある。該オルガノニュム化合物はヒドロキシ基との反応性が高く、かつ架橋による保水性の低下も少ないので、架橋剤として好ましい。該架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンテトラミンなどを用いることができる。
架橋反応は、保水性樹脂中の全ヒドロキシ基の数に対して5〜50%が架橋されるのが好ましい。したがって、架橋剤の樹脂に対する添加は、上記の架橋割合が得られるような量で添加されるのが好ましい。
【0038】
保水層は電極に直接接しており、本発明の燃料電池が集電体を備えるときには保水層は集電体に接しているのが好ましい。この際、保水層を介して電極から集電体へと電荷が移動することで外部回路に電流を取り出すことができる。したがって、保水層における内部抵抗を低減する必要があるので、導電性材料を主成分として配合することにより導電性の向上が達成できる。これにより、燃料電池出力電圧の低下を最小限に抑えて、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0039】
導電性材料としては、導電性カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、活性炭、各種金属などを用いることができる。そのうち、導電性カーボンブラックを用いるのが好ましい。導電性カーボンブラックとしては、アセチレンブラック等が上げられ、通常市販されているカーボンブラックを用いることができるが、特に導電性の良好なソフトカーボン系のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの導電性の判断基準として、カーボンブラックのヨウ素吸着量を用いることができる。このヨウ素吸着量はJIS:K−1469−84の測定法で測定され、導電性カーボンブラックは100以上のヨウ素吸着量を有するのが好ましい。
黒鉛の中でも、ポーラス型黒鉛、近年軸受け合金用等に開発されたコロイド型黒鉛(粒径:約0.8μm)は、特に導電性が高いので好ましい。
【0040】
導電性材料は、保水層全体に対して約50〜95重量%の割合で含有されるのが好ましい。この割合で導電性材料が含有されると、形態的に安定であり、保水性を損なわず、かつ導電性の高い保水層を作製することができる。導電性材料の重量比率が50%以下になると、保水層の比抵抗が急激に増加するため、電極−集電体間の内部抵抗損失の増大により出力電圧が低下してしまう。また、重量比率が95%を超えると保水層成形の際に欠けや巣が発生し、膜形態の維持および加工が困難となる。したがって、この重量割合で導電性材料を含有することで、電極から集電体への電流の流れを保水層が阻害することなく、内部電圧降下の小さい燃料電池を構成することができる。
【0041】
セルロース樹脂およびヒドロキシスチレン樹脂のような熱可塑性樹脂を用いる場合、保水層は、約5〜50重量%の保水性樹脂と、任意に架橋剤とを、適当な有機溶媒(例えばメタノールやエタノールのようなアルコール、酢酸エチル、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等)に溶解させ、その溶液中に約95〜50重量%のカーボンブラックのような導電性材料を分散させ、その分散液をアプリケーター方式やスプレー方式等で保水層を作製する側の電極の上に一様に塗布し、約100〜200℃の温度で約10分〜2時間加熱乾燥して作製される。
【0042】
フェノール樹脂のような熱硬化性樹脂の場合も、前記と同様の方法で得た樹脂ペーストを電極上に塗布・乾燥して作製される。
作製された保水層は、約5〜500μm、好ましくは約100〜300μmの厚さを有する薄膜である。
【0043】
保水層は、全て塗布、乾燥(架橋)など比較的単純で低コストなプロセスを用いて電極上に作製可能であるため、電極に保水層を追加することによる燃料電池セル製造コストの増加を最小限に抑えることができる。なお、電極面と保水層の接合は、保水層に含まれる保水性樹脂の持っている化学的な特性(吸着基の保持)による接合と、電極の表面状態による機械的接合のいずれか、または両方によってもよい。
【0044】
保水層には、酸化剤流路から酸化剤極まで、および/または燃料流路から燃料極までガスが導通できるような貫通孔を有する。例えば酸化剤流路から酸化剤極まで貫通孔が作製されている際、貫通孔は酸化剤流路から供給されるガスを保水層を通過して、スムーズに燃料電池反応の生じている固体電解質膜側に送りだす機能を有する。
【0045】
貫通孔の孔径が小さければ小さいほど、撥水性処理された貫通孔内に水分が侵入し難くなりガス透過性が改善されるが、貫通孔を作製するためのレーザーアブレーション法において用いるフッ化アルゴンエキシマレーザーやフッ化クリプトンエキシマレーザーの使用可能な最小口径(ピーク点強度の1/e2までの範囲)は0.01mmであるため、貫通孔を形成する時に用いるレーザー口径は0.01mmより大きい必要がある。したがって、貫通孔の孔径は、約0.01mmよりも大きいのが好ましい。
【0046】
一方、燃料電池セルの出力電流が大きく、酸化剤極で生成する水量が多く貫通孔内部に水が滞留する場合がある。水滴の接する表面の撥水性の度合いを示す後退接触角が180°に近い超撥水性表面においては、水滴の最大直径は1.8〜2.2mmであることが知られている。したがって、2mm以上の孔径の貫通孔を形成した場合、全ての水滴が貫通孔内に侵入できるので、貫通孔内に水滴が滞留してしまい、貫通孔をガスが透過し難くなる。よって、貫通孔の孔径は、約2mmより小さいのが好ましい。貫通孔の孔径は、したがって約0.01mmより大きく、約2mmより小さく、より好ましくは約0.1〜1mm、さらに好ましくは約0.4〜0.6mmである。
【0047】
貫通孔の形成には、レーザーアブレーション法を用いることができる。レーザーアブレーション法によれば、保水層の材料と下地の酸化剤極の材料の、レーザービームの吸収係数の差を利用して、レーザー光で保水層をエッチングすることにより、酸化剤極の上に保水層が積層された状態でも、保水層のみに選択的に孔を形成することができる。したがって、下地の酸化剤極が損傷を受けることがなく、レーザー照射により短時間に保水層のみを貫通する孔を作製できる。
【0048】
レーザーアブレーション法において、レーザー光源としてはフッ化アルゴンエキシマレーザー(波長193nm)やフッ化クリプトンエキシマレーザー(波長248nm)を用いる。レーザービームは、スフェリカル(球状)レンズまたはシリンドリカル(円柱状)レンズを用いて0.01〜2mm程度の焦点口径で、前記保水層に照射する。保水層(電解質膜および電極と一体化したもの)は、ステージに固定されており、ステージ側を0.6〜3mmの範囲の所定のステップで移動させてレーザーを照射し、多数の貫通孔を保水層に形成する。スフェリカルレンズを用いると円形に近い形状の孔が形成されるが、シリンドリカルレンズを用いれば、スリット状もしくは任意の矩形状の孔を作製することも可能である。
【0049】
燃料電池運転時には、酸化剤極においては水が生成するため、水分が過剰となると保水層の貫通孔が水で塞がれて、ガスの通り道が遮断されるおそれがある。これを防ぐために、保水層の貫通孔の内部表面が、撥水性処理されているのが好ましい。撥水性処理としては、撥水性樹脂の被膜を施すことが挙げられる。貫通孔の内部に撥水性樹脂の被膜を施すと、貫通孔の内部表面が濡れにくくなる。したがって、撥水性表面上では貫通孔内の水分は水滴を形成し、重力にしたがってガス流路へ容易に排出されるため、ガスがスムーズに貫通孔を通過できるようになる。
【0050】
代表的な撥水性樹脂としては、エチレンの水素の少なくとも1つがフッ素に置換された単量体(フルオロエチレン)から構成されたポリエチレンが挙げられる。具体的には、フッ化ビニリデン、フッ化ビニレン等の単独重合体および、これらとエチレン、プロピレン、塩化ビニリデン等との共重合体が挙げられる。中でもフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体が好ましい。用いる撥水性樹脂は、1種類またはそれ以上の共重合体の混合物であってもよい。
【0051】
撥水性樹脂の被膜を形成するためには、撥水性樹脂の溶液を塗布しその後樹脂を安定化させる方法を用いることができる。この方法のためには、ジメチルホルミアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールのような有機溶媒に溶解しやすく、その溶液を調製しやすい共重合体を撥水性樹脂として用いるのが好ましい。
【0052】
貫通孔内部への撥水性樹脂を塗布する方法としては、注射針の先端にウレタン発泡体を備えた特殊な注射器を用いて、貫通孔内に直接撥水性樹脂の溶液を注入する方法を用いることができる。詳細には、この方法により、貫通孔に挿入した注射針から樹脂の溶液を射出することによりウレタン発泡体を溶液で含浸させ、そのウレタン発泡体を介して樹脂の溶液を貫通孔内部壁面に塗布する。この方法によると、貫通孔以外の箇所に撥水性樹脂の被膜が形成されないので、保水層の全体に撥水性樹脂の被膜が形成されて水分を全く透過しなくなるおそれはない。
【0053】
貫通孔内部に塗布された撥水性樹脂を安定化させるには、紫外線または熱等で樹脂を架橋させる方法を用いることができる。
撥水性樹脂の被膜は、前記のDMF等の有機溶媒中に撥水性樹脂を溶液濃度5〜20重量%で溶解させたものを、貫通孔内部へ上記のようにして塗布し、約50〜200℃で約1〜5時間加熱乾燥して作製する。
【0054】
上記工程の後に保水層の貫通孔に形成された撥水性樹脂の被膜の形態を、図5(a)に示す。保水層7の貫通孔8には撥水性樹脂の被膜11が形成され、貫通孔8の孔径は狭くなるか、または孔が封鎖される。したがって再度レーザー光で貫通孔内部をエッチングし撥水性樹脂の被膜の一部を除去して、図5(b)に示すように撥水性樹脂の被膜で被覆された貫通孔を得る。
【0055】
再度レーザー光で貫通孔内部をエッチングするのは、狭くなったり塞がれた貫通孔を広げ、一定の貫通孔の孔径を確保するためである。再度のエッチングにより、作製した撥水性樹脂の被膜を貫通孔内部壁面に残しながら貫通孔の孔径を広げるためには、エッチングの際に用いるレーザ光のレーザー口径を、最初に貫通孔を形成した時に用いたものより小さくする必要がある。
【0056】
再度貫通孔内部をエッチングした後に得られる保水層の孔径は、好ましくは約0.01〜2mm、より好ましくは約0.1〜1mm、さらに好ましくは約0.4〜0.6mmである。
【0057】
ガス透過性に関すれば、貫通孔の保水層全体に占める体積割合が大きいほど望ましいが、該体積割合が50%を超えると、電極と保水層との密着性が低下すると共に、保水層自体の形状維持が困難となる。また、該体積割合が10%未満になると、ガス流路から電極側を臨む見かけのガス透過可能遮断面積が減少することによるガス透過度の低下の寄与が、保水層の吸水効果を用いた電極表面からの水分除去によるガス透過度向上の寄与を相殺する。したがって、該割合が10%未満になると、電極上に保水層を設置しない場合よりも、逆にガス透過度が低下する。したがって、該割合は10%以上50%以下が好ましい。
【0058】
保水層の貫通孔は、燃料流路側の孔径が燃料極側の孔径よりも大きい、および/または酸化剤流路側の孔径が酸化剤極側の孔径よりも大きいすり鉢形であることが好ましい。これは、燃料流路側の孔径と燃料極側の孔径が同じ、および/または酸化剤流路側の孔径と酸化剤極側の孔径が同じ場合、すなわち貫通孔が円筒形である場合には、水滴の表面張力のため貫通孔内に水分が滞留しやすいからである。
【0059】
具体的には図4を用いて説明する。図4中、1は固体高分子電解質膜、3は酸化剤極、7は保水層、8は貫通孔および10は水分を示す。毛管力Fは、その毛管の孔径rに反比例する。したがって、図4(a)に示すような円筒形貫通孔の場合、孔径rが一定のため貫通孔内の毛管力Fは一様である。一方、図4(b)に示すようなすり鉢形貫通孔の場合、酸化剤流路側に向かうにつれて孔径rは大きくなるため、毛管力Fは減少し、貫通孔内壁への水分付着が減る。したがって、貫通孔をすり鉢形にすることにより、孔の毛管力Fを低減し、孔内への水分滞留を減らすことができる。また、貫通孔内に水分が滞留していない場合には、酸化剤流路側の孔径を大きくしてあるので、貫通孔8内に酸化剤ガスが滞留し難く、新鮮な酸化剤ガスがスムーズに貫通孔8内に侵入し、酸化剤極3に供給されるため、電極へのガス供給状態がさらに改善されるという効果も得られる。
【0060】
また、保水層が過剰水分の除去を効率よく行うためには、電極との密着性が重要であるが、すり鉢形の貫通孔は、電極側孔径が小さいので、保水層と電極との接触面積を大きくとれる。したがって、過剰水分の除去能力が改善されるとともに、保水層が電極から剥離し難くなり長期耐久性が向上する。
【0061】
保水層に貫通孔を形成する別の方法としては、貫通孔を有する保水層を別途作製した後、任意に貫通孔の内部表面を上述のように撥水処理し、その保水層を電極上に載せることにより上記と同様の構造を有する燃料電池を作製することもできる。この方式では、保水層の吸水効果による電極表面の水分の除去を効果的に行うために、電極と保水層を密着させる必要がある。電極と保水層を密着させるためには、電極上に保水層を載せ、保水層の上にさらに不織布を重ねて保水層と電極を不織布で挟みこむ方法が使用できる。
【0062】
燃料極、電解質層、酸化剤極および保水層を積層してなる燃料電池は、さらにその積層の上面と下面の両方から集電体により挾持されてもよい。集電体は、ポーラスカ−ボン等、多孔質でガス透過性を有する材料から形成される。
燃料側の集電体には、燃料流路が形成されて、酸化剤極側の集電体には、酸化剤流路であると共に酸化剤極で生成する水分を集める流路である酸化剤流路が形成されていると、別個に燃料流路や酸化剤流路を形成する必要がないので、燃料電池を薄層化することができ、好ましい。
【0063】
本発明の燃料電池は、さらにセパレータを備える。セパレータは金属板またはグラファイトなど、燃料および酸化剤ガスが通過しないものであればよい。ステンレスなどの金属からなるセパレータは加工しやすいため好ましい。一方、燃料が容易に金属を脆弱化させる気体であるとき、比較的容易に溝加工を行えて、脆化されにくいグラッシーカーボンなどからなるセパレータが好ましい。
【0064】
燃料極に供給される燃料としては、燃料電池のタイプにより気体燃料と液体燃料に分けられる。一般的に、気体燃料としては水素ガス、液体燃料としてはメタノールが使用される。
【実施例】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は一般的なものであり、本発明はこれに限るものではない。
実施例1
2枚のグラファイト電極シート(膜厚400μm)で、固体高分子電解質膜(米国デュポン社製、商品名ナフィオン(Nafion)117、膜厚170μm)1を挟み、200kg/cm2程度の加圧下、150℃で60秒間ホットプレスして、燃料極2および酸化剤極3と、固体高分子電解質膜1とを接合および一体化して積層膜を得た。
保水層材料として、45重量%のベンジルセルロースと55重量%のアセチレンブラックおよび極微量のヘキサメチレンジイソシアネートをn−メチルピロリドンに溶かし(固形分10重量%残存)、前記の工程により得られた積層膜の酸化剤極面側に一様に塗布しその後乾燥(乾燥温度:150℃、30分)させ、膜厚100μmの保水層7を作製した。
【0065】
次いで、保水層面上に、1.5mm間隔でフッ化アルゴンエキシマレーザーを照射して貫通孔8を作製した。レーザービームはスフェリカルレンズを用いて口径0.5mmの円形の焦点として照射し、内径0.4〜0.6mm程度の孔を保水層7に作製した。ここでは、保水層を含む燃料電池セルは、ステージ上に固定されており、マイクロメーターを用いて一定の間隔でステージを動かすことにより複数の貫通孔を形成した。
【0066】
実施例2〜7
表1に示す保水性樹脂、導電性材料およびその比率ならびに架橋剤を用いた以外は、実施例1と同様に処理して保水層を作製した。
【表1】
注:1)上記カーボンブラックのヨウ素吸着量(mg/g)は、いずれも100を超えていた。
2)吸油量(cm3/100g)は、JIS K6221−82吸油量B法を用いて測定した。
【0067】
このようにして得られたグラファイト電極と保水層7との接合は、保水性樹脂の持っている化学的な特性(吸着基の保持)による接合と、酸化剤極の表面状態による機械的接合との複合型の接着性を示した。電極および電解質一体型保水層に対して、室温(20℃、湿度40%)の状態および高温多湿(80℃、湿度90%)の環境に24時間曝した後、酸化剤ガス(O2)の透過度を測定し、実施例1で保水層を作製しない電極および電解質膜の一体型積層膜(比較例)と比較した。これらの測定結果を、空孔率、膜厚とともに表2に示す。ただし、ガス透過度は、保水層表面酸素を0.5atmで導入し、通過したガス流量を石鹸膜流量計にて測定した。また、空孔率は、水銀ポロシメーターを用いて測定し、膜厚は段差膜厚計を用いて測定した。各実施例の保水層に水滴を乗せて接触角計で測定した後退接触角は、実施例1〜7のいずれも20〜40°の範囲内であった。
【0068】
【表2】
【0069】
表2の結果より、電極および電解質一体型保水層のガス透過度を保水層を有さない比較例と比較すると、実施例1〜7の電極および電解質一体型保水層は電極表面が保水層で覆われているため、20℃でのガス透過度は比較例に比べて低いが、80℃では比較例に比べてガス透過度が高い。すなわち、温度条件が変化しても保水層を備えた電極および電解質一体型積層はガス透過度があまり低下しない。これは、保水層の吸水効果により、保水層下地の電極における水滴滞留が低減されたことにより、ガス透過性が改善されたことを示している。
【0070】
また、保水層膜厚が100μmより薄い場合(実施例5)、80℃での透過度は20℃での値の56%に相当するが、100μmより厚い場合には(実施例5以外)、80℃での透過度は20℃での値の70%以上に相当する。したがって、100μm以上の膜厚を有する保水層であれば、高温多湿状態における保水層のガス透過度低下を抑制することができる。
【0071】
また、実施例1〜7について、電極および電解質一体型保水層のガス透過度と空孔率を比較すると、20℃から80℃への温度変化によるガス透過度の減少割合は、空孔率の減少割合とほぼ同程度であり、ガス透過度の低下は空孔率の低下が主に寄与していると考えられる。したがって、ガス透過度をより改善するためには、貫通孔の空孔率向上、貫通孔内への水滴滞留を低減することが重要である。これについては実施例9および10において詳述する。
【0072】
上記実施例2の電極および電解質一体型保水層を、ガス流路を備えた集電体で挾持して備えた燃料電池(図1参照)と、保水層なしの電極および電解質一体型積層膜を、ガス流路を備えた集電体で挾持して備えた燃料電池(図2参照)とに、0.5Mメタノール水溶液を燃料として供給し、動作温度70℃の条件でセル特性を測定した。保水層なしの燃料電池は限界電流密度100mA/cm2であるのに対し、保水層を備えた燃料電池は110mA/cm2が得られた。したがって、保水層形成により電極へのガス供給不足に起因する濃度分極が減少して、出力電流密度の向上を図れることが確認できた。
【0073】
実施例8
実施例2で使用した導電性材料(B)の黒鉛(ポーラス型)の保水層全体に対する重量比(B/(A+B))を40〜100%まで変化させて保水層を作製し、前記比率と比抵抗の関係を測定した。その結果を図3に示す。ただし、黒鉛(ポーラス型)のヨウ素吸着量は125のものを用いた。なお、膜の比抵抗は、4探針法により測定し、得られた抵抗値(Ω)を体積平均の比抵抗(Ω・cm)に換算して表示した(SRIS−2301)。また、測定は温度20℃、湿度40%の条件下で行った。
【0074】
図3より、重量比B/(A+B)が減少するにつれて保水層の抵抗が増加することが示された。また、特に重量比50%以下の領域において比抵抗の急激な増加が見られるため、保水層の導電性を考慮すると50%以上の導電性材料の配合が必要である。また、実際の保水層の作製では、導電性材料の重量比が95%を超えると層形成自体が難しい。したがって、重量比の範囲は、50%〜95%の範囲が好ましい。
【0075】
実施例9
実施例1の電極および電解質一体型保水層の孔内部に、針の先端をポリウレタン性発泡体で覆った注射器を用い、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体を有機溶媒(DMF)に10重量%溶解させた溶液を注入し、120℃で5時間程度加熱乾燥を行った。再度貫通孔8に対して、焦点径が0.2〜0.3mmとなるように調整したフッ化アルゴンエキシマレーザービームを照射して、内径0.3〜0.4mm程度の孔を保水層7に作製した。このとき、レーザービームの焦点位置は貫通孔8と一致させる必要があるので、実施例1〜7において貫通孔8を作製したときと同様に、スレージ上の同じ位置に保水層7を含む燃料電池セルを固定して、ステージについているマイクロメータで位置合わせを行った。
【0076】
得られた保水層について、実施例1〜7と同様にガス透過度および空孔率を測定した。ただし、雰囲気は条件1(気温20℃、湿度40%)、条件2(気温40℃、湿度85%)および条件3(気温80℃、湿度95%)の3通りで測定を行った。これらの結果を表3に示す。また、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体からなる撥水性被覆の後退接触角は135°であった。
【0077】
実施例10
実施例1の電極および電解質一体型保水層の代わりに実施例2の電極および電解質一体型保水層を用いて、実施例9と同様にして撥水性樹脂の被膜を作製した。得られた電極および電解質一体型保水層について、実施例9と同様にガス透過度および空孔率を測定し、その結果を表3に示した。なお、撥水性樹脂の被膜の後退接触角は、実施例9と同様に135°であった。
【0078】
【表3】
【0079】
貫通孔8内部を撥水性樹脂の被膜11で覆うことにより孔径が狭まったため、実施例9および10の結果を撥水性処理前の実施例1および2のものと比較すると、条件1では空孔率が60%弱低下している。それにしたがって、ガス透過度も若干低くなっているが、貫通孔8内部の撥水性は向上しているので(後退接触角は撥水性処理前は約30°であったが、処理後は135°)、条件2および3のような高温多湿条件になっても空孔率があまり低下していないことがわかる。すなわち、撥水性樹脂の被膜11形成により貫通孔径が狭まったが、撥水性向上により貫通孔内の水滴滞留が減ったため、実質的には高温多湿条件でのガス透過度は撥水性処理前より向上する。また、実際の酸化剤極3における水分生成量および雰囲気条件は燃料電池運転状態に依存して変化するが、特に燃料電池セル内温度が上昇し、水分生成量の多い高負荷運転時においても適度なガス透過度を確保できるので、電極へのガスの供給が安定しガス不足による濃度分極を低減することができる。したがって、雰囲気に関わらず安定したガス透過度が得られるため、高負荷運転時での発電効率が向上する。
【0080】
実施例10の撥水性樹脂の被膜を備えた電極および電解質一体型保水層を、ガス流路を備えた集電体で挾持して備えた燃料電池に0.5Mのメタノール水溶液を燃料として供給し、動作温度70℃の条件でセル特性を測定して、実施例2の撥水性樹脂の被膜を備えない電極および電解質一体型保水層を、ガス流路を備えた集電体で挾持して備えた燃料電池と比較した。限界電流密度は、実施例10の電極および電解質一体型保水層からなる燃料電池については115mA/cm2が得られ、実施例2の電極および電解質一体型保水層からなる燃料電池と比較して出力電流密度が約5%向上した。すなわち、ガス濃度分極の低減により限界電流密度を改善し、発電効率を向上させることができた。
【0081】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、燃料電池の電極に発生する水分を保水層により吸収し、かつ該保水層の貫通孔を介して電極へガスを供給できるため、燃料電池のガス濃度分極の発生を低減し、発電効率を向上することができる。
また、前記保水層は、保水性樹脂を溶剤に溶かしたのち塗布、加熱乾燥等のプロセスで容易に形成できるため、製造コスト増加を低く抑えることができる。
【0082】
また、前記貫通孔内部に撥水性処理を施すことにより、高温多湿時における保水層を介したガス透過性が向上するため、燃料電池の運転状態に依存せず電極表面に安定したガス供給が行えるため、運転効率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一つの形態における固体高分子型燃料電池のセル構造の模式図である。
【図2】従来の固体高分子型燃料電池のセル構造の模式図である。
【図3】本発明の固体高分子型燃料電池における、保水層に含有される導電性材料の重量比と、比抵抗との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の保水層に形成した貫通孔の形状を示す模式図である。
【図5】本発明の貫通孔に撥水性樹脂の被膜を作製する工程を示す模式図である。
【符号の説明】
1 固体高分子電解質膜
2 燃料極
3 酸化剤極
4 集電体
5 燃料流路
6 酸化剤流路
7 保水層
8 貫通孔
9 燃料電池セル
10 水分
11 撥水性樹脂の被膜
101 固体高分子電解質膜
102 燃料極
103 酸化剤極
104 集電体
105 燃料流路
106 酸化剤流路
Claims (16)
- 固体高分子電解質層の両側に燃料極および酸化剤極が対設され、燃料極を臨む側に燃料流路を、酸化剤極を臨む側に酸化剤流路を備えた燃料電池セルであって、
燃料極および/または酸化剤極上に、導電性材料と保水性樹脂とから形成され、複数の貫通孔を有する保水層が備えられる固体高分子型燃料電池。 - 導電性材料が、保水層全体に対して50〜95重量%の割合で含有されることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
- 導電性材料が、導電性カーボンブラックである請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水性樹脂が、カルボキシル基、ヒドロキシ基、4級アミノ基およびスルホン酸基からなる群から選択される1またはそれ以上の基を保有する樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水性樹脂が、ヒドロキシ基を保有する樹脂であり、その水酸化度が、2〜50の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水性樹脂が、セルロース樹脂、フェノール樹脂またはヒドロキシスチレン樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- セルロース樹脂が、アルキルセルロース樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子型燃料電池。
- フェノール樹脂が、ノボラック樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子型燃料電池。
- ヒドロキシスチレン樹脂が、ヒドロキシスチレンとブタジエンとの共重合体またはヒドロキシスチレンと、ブタジエンおよびアクリロニトリルとの共重合体であることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水性樹脂が、三次元架橋樹脂であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- 三次元架橋樹脂が、オルガノニュム化合物を架橋剤として用いることにより得られることを特徴とする請求項10に記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水層の厚さが、約5〜500μmであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水層の貫通孔の内部表面が、撥水性処理されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水層の貫通孔の孔径が、約0.01mmより大きく、約2mm未満であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水層の貫通孔が、保水層に対して10〜50容量%で備えられることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
- 保水層の貫通孔が、
保水層が燃料極上に備えられるときには、燃料流路側の保水層の貫通孔の孔径が燃料極側の貫通孔の孔径よりも大きい、および/または
保水層が酸化剤極上に備えられるときには、酸化剤流路側の保水層の貫通孔の孔径が酸化剤極側の貫通孔の孔径よりも大きいすり鉢形であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一つに記載の固体高分子型燃料電池。
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