JP3850502B2 - ホローカソードおよびこのホローカソードを具備するイオンプレーティング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はホローカソードおよびこのホローカソードを具備するイオンプレーティング装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ホローカソード(中空陰極)はイオンプレーティング装置や真空冶金装置において金属を溶融ないしは蒸発させる場合に使用される。例えばイオンプレーティングにおいては、ホローカソード放電によって金属を溶融して蒸発させ、必要な場合には反応ガスを導入して基板上に薄膜を形成させるが、この時、蒸発粒子のイオン化率が高く基板への付着強度が大であり、蒸発粒子の基板の裏面側への回り込みも良いことから、TiC(炭化チタン)、TiN(窒化チタン)、AlN(窒化アルミニウム)、ZnO(酸化亜鉛)、その他の薄膜がホローカソード放電によるイオンプレーティング装置によって形成されている。
【0003】
図2はホローカソードを使用するイオンプレーティング装置10の縦断面図である。真空ポンプ12が接続された真空槽11内には、水冷銅ブロック19上のハース13に蒸発材料14として例えばMg(マグネシウム)が充填され、その直上方には流量調節バルブ15に接続され、Ar(アルゴン)ガスの導入パイプを兼ねるTa(タンタル)パイプ16の先端にL字形状のホローカソード7が取り付けられており、直流電源18によってハース13とホローカソード7との間に直流電圧が印加されるようになっている。
【0004】
真空槽11内の上方の基板ホールダ22には例えばガラス基板21が固定されており、ガラス基板21の裏面側には、ガラス基板21の温度を制御するための赤外線ヒータ23が取り付けられている。更に、真空槽11の外部から反応ガスとしてのO2 (酸素)ガスが流量調節バルブ24を備え、先端部をリング状とした反応ガスパイプ25によって導入され、蒸発されてくるMgとの反応度を高めるようにガラス基板21の周囲に設けられた円筒状のチムニー26内においてガラス基板21に向けて噴出されるようになっている。図3は上記のホローカソード7の断面図であり、外径16mm、肉厚1.5mm、長さ200mmのL字形のTaパイプである。これを第1の従来例のホローカソードとする。
【0005】
上記のイオンプレーティング装置10によってガラス基板21上にMgO(酸化マグネシウム)の薄膜を形成させるには、真空槽11内を到達可能な圧力まで真空ポンプ12によって排気した後、所定の流量で所定の分圧となるようにArガスを導入し、直流電源18によってハース13とホローカソード7との間に直流電圧を印加する。これによってArガスはプラズマ化され、プラズマによってホローカソード7が加熱される。Taの熱電子放出温度は2500℃近辺にあり、加熱されて高温度となるホローカソード7は熱電子を放出し、その熱電子ビームによってハース13内のMg14は加熱されて溶融しガラス基板21へ向かって蒸発する。この時、蒸発する粒子の20〜40%はイオン化される。一方、反応ガスとしてO2 ガスを所定の分圧となるように導入しチムニー26内で噴出させることにより、ガラス基板21上に反応生成物としてのMgOの薄膜が形成される。
【0006】
しかし、Taは高温で酸化され易い性質を有しており、MgOの薄膜を形成させる場合、すなわち、反応ガスとしてのO2 ガスが存在する場合には、Taパイプである第1従来例のホローカソード7は酸化されて消耗、劣化して、長時間にわたる成膜ができないばかりでなく、ホローカソード7の表面から蒸発するTaの酸化物がガラス基板21に形成されるMgO薄膜中に混入するという欠点があった。
【0007】
これに対して、Taチューブ45を外層とし、内層に熱電子放出材料であるLaB6 (硼化ランタン)の円筒41を一体的に保持させたホローカソード37が採用された。図4はそのホローカソード37の断面図である。外径22mmφ、底面の肉厚3mm、長さ63mmで、底面の中心部に5mmφの開口46を形成させた外層としての有底のTaチューブ45内に、内層としての外径19mmφ、肉厚6mm、長さ40mmのLaB6 円筒41を保持させ、これを外径16mmφのTaパイプ44の下端部に溶接されたTaスリーブ44’に対して溶接固定したものである。これを第2従来例のホローカソードとする。LaB6 の熱電子放出温度は1500℃近辺にあり、放電時におけるホローカソード37の温度を低下させたが、O2 ガスの雰囲気下でTaが酸化されることは避けられず、形成されるMgOの薄膜中にTa成分が不純物として混入するという欠点は第2従来例のホローカソードによっても改善されなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、使用する融点が2000℃以上の高融点金属が酸化性の雰囲気下において酸化されないホローカソード、およびその様なホローカソードが設置されており、長時間にわたって成膜を継続することが可能で、かつ形成される薄膜中にホローカソードの高融点金属の成分が不純物として含まれてこないイオンプレーティング装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は請求項1の構成によって解決されるが、その解決手段を実施の形態によって例示すれば、図1は本実施の形態の耐酸化性ホローカソード57の断面図である。内層としてのLaB6 円筒41を一体的に保持する外層としてのTaチューブ45の上端部がTaパイプ44の下端部(先端部)に溶接されたTaスリーブ44’に対して溶接して固定され、そのTaチューブ45の外周側にAl2 O3 (酸化アルミニウム)からなるスペーサ59を介してTaからなるシールド・チューブ51が取り付けられている。そして、成膜時にはTaパイプ44から送り込まれるホローカソード放電用Arガスとは別に、保護用Arガスが導入ノズル52からシールド・チューブ51内へ送り込まれてTaチューブ45の外周面を保護し、シールド・チューブ51の底面の開口56を排出口として排出される。従って、反応ガスとして使用されるO2 ガスがホローカソード57の周囲に存在する場合にもイオンプレーティング時に高温度になるTaチューブ45が酸化されることはない。
【0010】
また、そのような耐酸化性ホローカソード57を組み込んだイオンプレーティング装置はTaチューブ45が酸化、消耗されないので長時間の連続放電が可能であり、形成される薄膜中にTaが不純物として含まれてこない。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は本実施の形態による耐酸化性ホローカソード57を示す断面図である。内層としての熱電子放出材料LaB6 の円筒41を一体的に保持する外層としてのTaチューブ45の上端部がTaパイプ44の先端部に溶接固定されていることは従来例のホローカソード37と全く同様である。そのTaパイプ44の外周にはセラミック製のビス49、49によってAl2 O3 からなるスペーサ59が固定されており、このスペーサ59の外周面に形成された雄ねじに対して、上端部の内周面に雌ねじが形成されたTaからなるシールド・チューブ51が螺合されており、Taパイプ44およびTaチューブ45との間に保護用Arガスの通路となる狭い空間53が形成されている。そして、シールド・チューブ51にはTaチューブ45の上端より高い位置にArガスの導入ノズル52が取り付けられており、底面の中央部にはTaチューブ45の底面の開口46に対応する開口56が形成されている。なお、シールド・チューブ51にTaを使用するのは、ハース13の直上に設置されるため、例えば溶融し蒸発しているMg(融点649℃)からの輻射熱を考慮したものである。
【0013】
ホローカソード57による成膜は図2に示したイオンプレーティング装置10のホローカソード7を図1に示した耐酸化性ホローカソード57と交換し、それ以外は従来例の場合と同様に行われる。Taパイプ16からArガスが送り込まれ、この耐酸化性ホローカソード57とハース13との間に直流電圧が印加されてArガスがプラズマ化され、そのプラズマによってLaB6 円筒41が加熱され、熱電子が放出されてハース13との間にホローカソード放電が生起する。この放電の熱電子ビームによってハース13内の蒸発材料14、例えばMgが溶融され蒸発され、導入されるO2 ガスと反応してガラス基板21上にMgOの薄膜が形成される。
【0014】
この時、Taパイプ16を経て耐酸化性ホローカソード57のTaパイプ44から導入されるホローカソード放電用Arガスとは別に、シールド・チューブ51の導入ノズル52から保護用Arガスが送り込まれ空間53を経て開口56を排出口として排出される。従って、ホローカソード放電によって高温度になるTaチューブ45は空間53を流れる保護用Arガスによって保護され、反応ガスとしてO2 ガスが使用されて雰囲気が酸化性となっていても酸化されないのである。
【0015】
シールド・チューブ51もTaからなるが、ホローカソード放電時にTaチューブ45は高温度になっても、シールド・チューブ51との間を保護用Arガスが流れるのでシールド・チューブ51は冷却され、酸化され易い程の高温度にはならない。また、シールド・チューブ51は電圧の印加されるTaパイプ44とは電気絶縁体であるAl2 O3 のスペーサ59を介して取り付けられているので、ホローカソード放電による成膜時にも直流電圧は印加されず、従ってホローカソード放電によって生成するイオン等が加速されて衝突することはなく、スパッタ作用を受けにくい。
【0016】
上記の耐酸化性ホローカソード57と従来例のホローカソード37とについて、図2に示したイオンプレーティング装置10を使用し、耐酸化性を比較した。すなわち、図2におけるホローカソード7を図1の耐酸化性ホローカソード57または図4のホローカソード37と交換し、表1に示した条件下にMgOの薄膜を形成させた。
【0017】
【表1】
【0018】
すなわち、ハース13に蒸発材料14であるMgを充填して蒸発源とし、厚さ3mmのガラス基板21をセットした真空槽11を2×10−6 Torrの真空度まで排気した後、Taパイプ16からArガスを40sccmの流量で導入し、直流電源18によってハース13と、耐酸化性ホローカソード57またはホローカソード37との間に直流電圧を印加してホローカソード放電を生起させると共に、耐酸化性ホローカソード57の場合には更に導入ノズル52から流量100sccmでArガスを流入させ、一方、反応ガスパイプ25からはO2 ガスを流量2000sccmで導入して、温度150℃に維持したガラス基板21上に折出速度300A/秒でMgOを折出させて厚さ2μmのMgOの薄膜を作成した。
【0019】
この時の耐酸化性のホローカソード57と従来例のホローカソード37とについての、ホローカソードの消耗による寿命と、ガラス基板21に形成されたMgO膜中のTa濃度を比較して表2に示した。
【0020】
【表2】
【0021】
表2の結果から明らかなように、本実施の形態の耐酸化性ホローカソード57は従来例のホローカソード37と比較して7倍以上の寿命を示し、MgO膜中のTa濃度は検出下限界が0.1%である分析装置では測定できなかった。耐酸化性のホローカソード57を使用することの効果は明白である。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限られることなく、本発明の技術的思想に基いて種々の変形が可能である。
【0023】
また本実施の形態においては、シールド・チューブ51に高融点金属のTaを使用したが、これ以外の耐熱材料、例えばグラファイトの如き炭素系の材料やMgOも使用可能であり、これらは価格の点で好ましい。
【0024】
また本実施の形態においては、スペーサ59としてAl2 O3 を使用したが、これ以外の耐熱性の電気絶縁材料、例えばMgO等を使用し得る。
【0025】
また本実施の形態においては、LaB6 円筒41のサイズを外径19mmφ、肉厚6mm、長さ40mmとしたが、サイズはこれに限られず、長さ、外径、内径を大にしてもよい。特に大電流を流す場合にはLaB6 円筒41の内表面積を大にして電気抵抗を小さくすることが望ましい。
【0026】
また本実施の形態においては、外層にTaチューブ45を使用し、その上端部をTaパイプ44の下端(先端)部に取り付けたが、これらにおけるTaを融点2000℃以上の金属の高融点金属、例えばW(タングステン)、やMo(モリブデン)に代えてもよい。
【0027】
また本実施の形態においては、内層としてのLaB6 円筒41を一体的に保持するTaチューブ45をTaパイプ44に固定するに際して、Taスリーブ44’を介して両者を溶接したが、これ以外の如何なる方法で固定してもよく、例えばTaスリーブ44’に雄ネジ、Taチューブ45に雌ネジを切って両者を螺合させてもよい。
【0028】
また本実施の形態においては、Taパイプ44へスペーサ59を取り付けるに際して、ビス49、49を使用したが、スペーサ59を電気絶縁性とする場合にはそれを損なわない範囲において、上記以外の如何なる方法で取り付けてもよく、例えばTaパイプ44にピンを立てて、これにスペーサ59を係止するようにしてもよい。
【0029】
また本実施の形態においては、スペーサ59にシールド・チューブ51を取り付けるに際して、両者を螺合させたが、これ以外の如何なる方法で取り付けてもよく、例えばスペーサ59にピンを立てて、これにシールド・チューブ51を係止するようにしてもよい。
【0030】
また本実施の形態においては、シールド・チューブ51内へ供給するArガスの排出口として、シールド・チューブ51の底面の中央部に形成した開口56を兼用したが、耐酸化性ホローカソード57の軸心にある開口56は必須として、このほかに排出口を追加してもよい。
【0031】
また本実施の形態においては、蒸発材料としてMgを例示したが、これ以外のTi、Si、Zr(ジルコニウム)、Al(アルミニウム)を蒸発させ、O2 ガスと反応させることによりTiO2 (酸化チタン)、SiO2 (酸化ケイ素)、ZrO(酸化ジルコニウム)、
Al 2 O3 (酸化アルミニウム)の如き誘電体、絶縁体が薄膜として得られる。また、In(インジウム)とSn(錫)とを蒸発させてO2 ガスと反応させることにより透明電導体ITOの薄膜を形成させ得る。
【0032】
【発明の効果】
本発明は以上に説明したような形態で実施され、次に記載するような効果を奏する。
【0033】
請求項1の耐酸化性ホローカソードによれば、ホローカソード放電時に高温度になる外層としての融点が2000℃以上の高融点金属の外周面が保護用不活性ガスによって保護され酸化性の雰囲気に触れないので、その酸化、消耗が防がれる。
【0034】
請求項2の耐酸化性のホローカソードによれば、シールド材が電気的に絶縁されるので、ホローカソード放電による成膜時にも電圧は印加されず、ホローカソード放電によって生成するイオンが加速されて衝突することによるスパッタ作用を受けにくく、損傷されにくい。
【0035】
請求項5のイオンプレーティング装置によれば、ホローカソードが酸化性雰囲気中で酸化、消耗されないので、長時間の連続放電が可能であり、かつホローカソードに使用されている高融点金属の成分が形成される薄膜中に不純物として混入することはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態による耐酸化性ホローカソードの縦断面図である。
【図2】 イオンプレーティング装置の縦断面図である。
【図3】 第1従来例のホローカソードの縦断面図である。
【図4】 第2従来例のホローカソードの縦断面図である。
【符号の説明】
10 イオンプレーティング装置
11 真空槽
12 真空ポンプ
13 ハース
14 蒸発材料(Mg)
15 流量調節バルブ
16 Taパイプ
18 直流電源
21 ガラス基板
22 基板ホールダ
23 赤外線ヒータ
24 流量調節バルブ
25 反応ガスパイプ
26 チムニー
41 LaB6 円筒
44 Taパイプ
45 Taチューブ
46 開口
51 シールド・チューブ
52 Arガス導入ノズル
56 開口
57 耐酸化性ホローカソード
Claims (5)
- ホローカソード放電によるイオンプレーティングに使用するための、融点が2000℃以上の高融点金属からなる外層と、LaB6 (硼化ランタン)からなる内層とによって円筒状に形成されたホローカソードであって
該ホローカソードの外周面との間に保護用不活性ガスの通路となる空間をあけて前記ホローカソードを覆う筒状のシールド材が耐熱性の電気絶縁材料で形成されるスペーサを介して前記ホローカソードの外周面に取り付けられており、
かつ前記シールド材には前記空間内へ前記保護用不活性ガスを供給する導入口と、少なくとも前記ホローカソードの先端の中央部に対応する箇所において前記保護用不活性ガスの排出口とが形成されており、
酸化性反応ガスの存在下に行われるイオンプレーティング時には、前記ホローカソード内へ供給されるホローカソード放電用不活性ガスとは独立して、前記シールド材の前記導入口から前記保護用不活性ガスが供給され、前記空間内を経由して前記開口から排出されることにより、前記ホローカソードが酸化性の雰囲気から保護されることを特徴とするホローカソード。 - 前記スペーサがAl 2 O 3 ( 酸化アルミニウム)またはMgO(酸化マグネシウム)によって形成されている
請求項1に記載のホローカソード。 - 前記シールド材がTa(タンタル)、C(炭素)、MgOのうちの少なくとも何れか1種である
請求項1または請求項2に記載のホローカソード。 - 前記保護用不活性ガスおよび前記ホローカソード放電用不活性ガスが何れもAr(アルゴン)ガスである
請求項1から請求項3までの何れかに記載のホローカソード。 - ホローカソード放電によるイオンプレーティング装置において、融点が2000℃以上の高融点金属からなる外層とLaB6 (硼化ランタン)からなる内層とによって円筒状に形成されたホローカソードの外周面に耐熱性の電気絶縁材料で形成されるスペーサを介して前記ホローカソードを覆う筒状のシールド材が取り付けられて、前記ホローカソードの外周面との間に保護用不活性ガスの通路となる空間が形成されており、
かつ前記シールド材には前記空間内へ前記保護用不活性ガスを供給する導入口と、少なくとも前記ホローカソードの先端の中央部に対応する箇所において前記保護用不活性ガスの排出口とが形成されており、
酸化性不活性ガスの存在下に行われるイオンプレーティング時には、前記ホローカソード内へ供給されるホローカソード放電用不活性ガスとは独立して、前記シールド材の導入口から前記保護用不活性ガスが供給され、前記空間内を経由し前記排出口から排出されて、前記ホローカソードが酸化性の雰囲気から保護されることにより、
前記ホローカソードが消耗されずに長期間の連続放電が可能であり、かつ形成される薄膜中に前記ホローカソードの前記高融点金属の成分が不純物として含まれてこない
ことを特徴とするイオンプレーティング装置。
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