JP3847652B2 - 消失模型用塗型剤組成物 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、消失模型鋳造法に用いられる塗型剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
消失模型鋳造法はフルモールド法とも言われ、合成樹脂発泡体にて製作した模型を鋳物砂に埋設したまま鋳型として利用するプロセスであり、残渣欠陥や焼着の改良が望まれている。なお、残渣欠陥とは、鋳込まれた溶湯による合成樹脂発泡体の熱分解により、発生する多量の熱分解ガス及び残渣による鋳物の欠陥である。また、焼着とは鋳物のコーナー部や溝部等、砂が鋳ぐるまれやすい場所で溶湯が塗型膜を突き破り、砂型の砂粒間に溶湯が浸透する現象であり、特に合成樹脂発泡体が肉厚に設計された部分に発生しやすい。
【0003】
これらの改善方法としては、発泡樹脂組成に関するもの(特開2002−18550号)、模型の形状と注湯方法に関するもの(特開2000−140994号)、鋳物砂の充填性を向上させるもの(特開2000−271700号)を始め、塗型の通気度の向上を図るもの(特開平11−254088号)、塗型剤にガス吸着性の骨材を配合するもの(特開平7−112238号)など多方面からの検討がされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、例えば塗型剤の通気度を上げて残渣欠陥を抑制すると塗膜強度が低下しやすく焼着欠陥の発生につながるように、これらの方法によっても、両方の欠陥を十分に解消できるとは言い難い。特に消失模型鋳造法により製造される鋳物の溝部やコーナー部分の焼着に対しては更なる改善が望まれる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、示差熱分析による吸熱ピーク温度(℃)が〔鋳込み温度(℃)−400〕〜〔鋳込み温度(℃)+150〕である鉱石を含有する消失模型用塗型剤組成物に関する。
【0006】
また、本発明は、消失模型表面に、上記本発明の塗型剤組成物を塗布してなる鋳物用消失模型に関する。
【0007】
また、本発明は、示差熱分析による示差熱分析における吸熱ピーク温度(℃)が〔鋳込み温度(℃)−400〕〜〔鋳込み温度(℃)+150〕である鉱石を含有する消失模型用塗型剤組成物を用いる消失模型鋳造法に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる鉱石の示差熱分析(以下、DTAと表記する)による吸熱ピーク温度(以下、TPと表記する)(℃)は〔鋳込み温度(℃)−400〕〜〔鋳込み温度(℃)+150〕であり、好ましくは〔鋳込み温度(℃)−300〕〜〔鋳込み温度(℃)〕であり、更に好ましくは〔鋳込み温度(℃)−200〕〜〔鋳込み温度〕であり、鉄系鋳物においては、具体的には1000〜1550℃、更に1100〜1400℃、特に1200〜1400℃が好ましい。なお、鉱石のDTAの吸熱ピークは、鉱石の熱分解、軟化、溶融等により発生するが、軟化もしくは溶融によるものが好ましい。吸熱ピークを与える状態の変化は、測定後の試料の目視観察、もしくは冷却後、再測定する等の方法で確認できる。本発明においてDTAは、鉄系鋳物において、昇温速度20℃/分、窒素雰囲気下で行われる。
【0009】
本発明の塗型剤組成物は、鋳込み温度が700〜1500℃、更に1300〜1500℃、特に1330〜1410℃の消失模型鋳造法に用いられるのが好ましい。
【0010】
本発明に用いられる鉱石としては、真珠岩(1380℃)、黒曜石(1350℃)、松脂岩(1300℃)、緑柱石(1410℃)、透輝石(1391℃)、ラスブ石(1123℃)、バラ輝石(1273℃)、白雲母(1100℃)、正長石(1170℃)、曹長石(1100℃)が挙げられる。ここで、( )内はDTAにおけるTPである。好ましくは、熱膨張性の高い真珠岩、黒曜石及び松脂岩から選ばれる一種以上の鉱石であり、更に真珠岩及び/又は黒曜石が、特に黒曜石が好ましい。なお、これら鉱石は、産地やわずかな不純物の影響でDTAによるTPが多少変動するが、TPが鋳込み温度に対して本発明で規定する範囲にあれば何れも使用できる。
【0011】
本発明に好ましく用いられる黒曜石、真珠岩(パーライト)、松脂岩等、いわゆるパーライトと呼ばれる鉱石の代表組成(重量比)は、SiO2が0.75、Al23が0.14、Fe23が0.009、CaOが0.001、K2O、Na2Oがそれぞれ0.035であり、DTAによるTPは1200〜1400℃である。これらは加熱により熱変形すると内部に含まれる結晶水の膨張により発泡し見掛け体積が増加する性質があることが知られている。
【0012】
本発明に用いられる鉱石は、粒径が1〜1000μm、好ましくは40〜250μmの粉末状のものを用いるのが好ましい。
【0013】
本発明の効果が得られる詳細は明らかでは無いが、DTAによるTPが本発明の範囲にある鉱石は、低温度で熱変形する性質があり、溶湯と接触する前には、発泡模型に由来する熱分解ガスを効率的に鋳型側へ排出し、また、溶湯と接触した後には、塗型剤の膜やヒビ部を目詰めするため、高耐焼着性を示すものと考えられる。
【0014】
なお、黒曜石や真珠岩等を砂型内面に塗布する塗型剤に配合することは知られている(特開平3−226334号、特開昭52−18425号)が、消失模型用の塗型剤組成物として要求される上記利用方法についての示唆はない。
【0015】
本発明の塗型剤組成物は、DTAによるTPが本発明の範囲にある鉱石を、組成物中の固形分100重量部に対し、5〜99重量部、更に15〜90重量部、特に40〜80重量部含有することが、より良好な本発明の効果が得られる点で好ましい。
【0016】
本発明では、上記鉱石として、シリカ(TP1713℃)のような比較的高融点の物質にアルカリ金属塩を混合してTPを本発明の範囲に調整したものを用いてもよい。
【0017】
また、本発明の塗型剤組成物は、アルミニウム等の非鉄金属系鋳物や鋳鉄、鋳鋼等の鉄系鋳物の何れにも用いることができるが、鋳物重量が大きく、且つより高温で鋳込まれるため焼着欠陥の起こりやすい鉄系鋳物用(鋳込み温度1300〜1500℃)、特には鋳鉄鋳物用(鋳込み温度1330〜1410℃)として用いることが、本発明の効果を有効に利用することができ、好ましい。
【0018】
本発明の塗型剤組成物は、DTAによるTPが本発明の範囲にある鉱石と、この種の組成物に通常配合される、耐火性骨材、粘結剤等の成分とからなる。また、組成物は、水系であってもアルコール系であってもよい。
【0019】
塗型剤組成物中の耐火性骨材としては、従来から鋳造の目的に応じて各種のものが利用されており、例えば黒鉛、ジルコン、マグネシア、アルミナ、シリカなどがある。また粘結剤として、水系ではポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性高分子や各種の樹脂エマルションを、またアルコール系ではアルコール可溶もしくは分散する各種樹脂を添加するのが、塗膜強度の点から好ましい。添加量は耐火性骨材100重量部に対し、好ましくは0.5〜30重量部である。
【0020】
塗型剤の通気度は、発生する熱分解ガスを塗型膜を通して砂中に排出する点から、0.5〜10、更に0.5〜5が好ましい。なお、通気度とは、連続した気孔を持つ塗型剤からなる成型体の通気性の尺度であり、所定形状(試験的には円筒形ないし長方形が好ましい)の成型体に対して所定量の空気を通過させる際に、空気の導入方向に直交する断面の面積a(cm2)と、空気の導入方向における成型体の長さh(cm)(塗型剤の厚さに相当)と、空気を通過させるのに要する時間v(cm3/min)と、その時の通気抵抗値p(cmH2O)とを測定し、それらの値から、通気度=(hv)/(ap)により算出されるものである。
【0021】
本発明の塗型剤組成物は、通常と同様に合成樹脂発泡体の模型に塗布して用いられる。合成樹脂発泡体としては、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、又はこれらの共重合体等の発泡体が用いられる。また鋳造に用いる鋳物砂としては、石英質を主成分とする珪砂の他、ジルコン砂、クロマイト砂、合成セラミック砂等の新砂又は再生砂が使用される。鋳物砂は粘結剤を添加せずに用いることもでき、その場合には充填性が良好であるが、鋳型強度が必要な場合には、粘結剤を添加し、硬化剤により硬化させるのが好ましい。
【0022】
本発明の消失模型用塗型剤組成物を用いた消失模型鋳造法は、通常の方法に準じて行うことができる。鋳込み温度は、鋳鉄系の場合一般に1330〜1410℃であり、アルミニウム系の場合一般に700〜750℃であり、鋳鋼系の場合一般に1450〜1500℃である。このような鋳込み温度に対して、TPが〔鋳込み温度(℃)−400〕〜〔鋳込み温度(℃)+150〕の範囲にある鉱石を選定し、塗型剤組成物に配合s、該塗型剤組成物による塗型が形成された消失模型を用いて、鋳込みが行われる。また、熱分解ガスの排気効率を高めるため減圧下鋳造を行う、あるいは大気に連通する排気管を設ける等の方法を用いてもよい。
【0023】
【実施例】
実施例1〜3、比較例1〜5
(評価方法1)
発泡ポリスチレン(発泡倍率50倍)を用いて図1に示す形状の模型を作成した。模型表面に表1の水性塗型剤組成物を塗布し、乾燥膜厚で1mmとした。フリーマントル珪砂(5号)に有機スルホン酸硬化剤(花王クエーカー(株)製TK−2)を0.2重量部添加混練した後に、フラン樹脂(花王クエーカー(株)製340B)を珪砂に対して0.5重量部混合した。この混練砂に上記の模型を埋設した。溶湯があふれない速度で堰の部分から鋳込みを行い(鋳鉄FC−250、鋳込み温度1400℃)、底部及びコーナー部における焼着の有無を目視で評価した。また、鋳物の側面及び上面の残渣欠陥面積率を写真撮影による画像解析により測定した。また、通気度の測定は(社)日本鋳造工学会 関西支部 等による「消失模型用塗型剤の特性と標準化」(平成8年3月15日)記載の方法に準じて行った。これらの結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
Figure 0003847652
【0025】
表1中のメジアン径は、堀場製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置LA−920を用い相対屈折率を1.09として測定した。また、黒曜石、真珠石の吸熱ピークは、DTA測定後の試料の目視観察により、軟化点と判断した。また、表1で用いた成分は以下の通りである。
・界面活性剤:一般市販ノニオン系界面活性剤。
【0026】
(評価方法2)
発泡ポリスチレン(発泡倍率50倍)で作られた自動車用金型(製品重量3.5t、FC−250)の模型に、上記比較例1、実施例2の水性塗型剤組成物をそれぞれ65Be(ボーメ)で刷毛で塗布した。常法により鋳込み(鋳込み温度1400℃)を行ったところ、比較例1では鋳物平面部、ポケット部、コーナー部に焼着が発生したが、実施例2ではコーナーの一部にごく小さな焼着が発生したのみであった。
【0027】
(評価方法3)
ポリメタクリル酸メチル/ポリスチレン(75/25重量比)の共重合体発泡模型(発泡倍率60倍)で作られた工作機械用ベッド(製品重量4.3t、鋳鉄−300)の模型2個に、上記比較例1、実施例3の水性塗型剤組成物をそれぞれ70Be(ボーメ)で刷毛で塗布した。常法により鋳込み(鋳込み温度1400℃)を行ったところ、比較例1では溝部に焼着が発生したが、実施例3では焼着が発生しなかった。
【0028】
【発明の効果】
以上の如く本発明によれば、消失模型鋳造法において、残渣欠陥及び鋳物の溝部やコーナー部等に生じる焼着を同時に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の評価方法1で用いた合成樹脂発泡体製の消失模型の概略図である。

Claims (6)

  1. 示差熱分析による吸熱ピーク温度(℃)が〔鋳込み温度(℃)−400〕〜〔鋳込み温度(℃)+150〕である、真珠岩、黒曜石及び松脂岩から選ばれる一種以上の鉱石を含有する消失模型用塗型剤組成物。
  2. 鋳込み温度が700〜1500℃の消失模型鋳造法に用いられる請求項1記載の消失模型用塗型剤組成物。
  3. 鉄系鋳物に用いられる請求項1又は2記載の消失模型用塗型剤組成物。
  4. 鉱石を、組成物中の固形分100重量部に対し、5〜99重量部含有する請求項1〜の何れか1項記載の消失模型用塗型剤組成物。
  5. 消失模型表面に、請求項1〜の何れか1項記載の塗型剤組成物を塗布してなる鋳物用消失模型。
  6. 示差熱分析による吸熱ピーク温度(℃)が〔鋳込み温度(℃)−400〕〜〔鋳込み温度(℃)+150〕である、真珠岩、黒曜石及び松脂岩から選ばれる一種以上の鉱石を含有する消失模型用塗型剤組成物を用いる消失模型鋳造法。
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