JP3846149B2 - 鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法 - Google Patents

鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法に係り、特に、疲労強度及び熱疲労強度が共に高く、内燃機関用シリンダーヘッド/ブロック等に用いられる鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複雑な形状を有し、かつ、機械的性質(特に靱性)が要求される鋳造用合金の一つとして、鋳造性及び機械的性質に優れるAl-Si-Mg系合金(例えば、AC4C(JIS記号))が挙げられる。このAC4C鋳造品としては、内燃機関用シリンダーヘッド/ブロック、自動車用アルミホイール、マニホールド、油圧シリンダーボディ等がある。
【0003】
これらのAC4C鋳造品においては、強度及び靱性を高めるべく、AC4C鋳造体にT6処理(溶体化・焼入れ処理後に、最高強度が得られる焼戻し温度の時効処理)を施し、AC4C-T6 鋳造品を製品として使用することが多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、AC4C-T6 鋳造品を、T6処理の時効処理温度(約160℃前後)を超える高温の環境下で使用していると、使用中、局部的に時効析出が生じてしまう。この局部的な時効析出の進行に伴って、徐々にAC4C-T6 材の機械的特性が低下してしまう。
【0005】
例えば、図12に示すように、シリンダーヘッド131の場合、エンジン運転中におけるヘッド上面132の温度は略常温(最高でも100℃未満)のままであるが、燃焼室(図示せず)側のヘッド下面133の温度は、約250℃又は250℃以上の高温になる。このため、ヘッド下面133の部分は、耐低サイクル疲労破壊性、即ち熱疲労強度が高いことが好ましく、高い伸び(靱性)が要求され、ヘッド上面132の部分は、耐高サイクル疲労破壊性、即ち疲労強度が高いことが好ましく、高い引張強度が要求される。この時、局部的な時効析出の進行に伴って、AC4C-T6 材の靱性および引張強度が低下すると、ヘッド上面132の薄肉部134、スプリングシート座135、吸入ポート壁136、排出ポート壁137、およびヘッド下面133の薄肉部138等に亀裂Kが生じてしまう。
【0006】
そこで、使用中における局部的な時効析出の生成を抑える方法として、鋳造体に安定化処理(T7処理(溶体化・焼入れ処理後に、T6処理の時効処理温度よりも高い温度の時効処理))を施す方法が挙げられるが、AC4C鋳造体に安定化処理を施した場合、AC4Cの特性上、得られるAC4C-T7 鋳造品の強度が著しく低くなるという問題があった。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、強度及び靱性に優れ、かつ、高温環境下で強度及び靱性が殆ど劣化しない鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係る鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法は、疲労強度及び熱疲労強度が共に要求され、かつ、高温環境下で該疲労強度及び熱疲労強度が殆ど劣化しない鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法において、化学組成が、
Cu:0.5〜1.5wt%、
Mg:0.3〜0.7wt%、
Si:6.5〜7.5wt%、及び
残部:Alからなる鋳造体に、時効処理温度が200〜300℃、好ましくは220〜260℃で、最高強度が得られる時効処理時間よりも長く、かつ、引張強度320MPa(硬度100H B )以上が得られる範囲時間の安定化処理を施すものである。
【0014】
以上の方法によれば、引張強度が320MPa以上、伸びが5%以上で、かつ、安定化処理の時効処理温度近傍の高温環境下でも機械的特性が殆ど低下しない鋳造用アルミニウム合金を、生産性よく得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0016】
本発明者らは、靱性に優れるAC4Cと略同等の伸びを有すると共に、AC4Cよりも高強度であって、かつ、機械的特性の低下を招くことなく安定化処理が可能な、即ち時効感受性が鈍感な鋳造用アルミニウム合金を得ることを目的とした。
【0017】
実施の形態に係る鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法は、化学組成が、
Cu:0.5〜1.5wt%、より好ましくは0.8〜1.2wt%、
Mg:0.3〜0.7wt%、より好ましくは0.3〜0.5wt%、
Si:6.5〜7.5wt%、
Zn:0.35wt%以下、
Fe:0.55wt%以下、
Mn:0.35wt%以下、
Ni:0.10wt%以下、
Ti:0.20wt%以下、
Pb:0.10wt%以下、
Sn:0.05wt%以下、
Cr:0.10wt%以下、及び
残部:Alからなる鋳造体に安定化処理を施し、引張強度を320MPa以上、伸びを5%以上とするものである。
【0018】
鋳造用アルミニウム合金の化学組成範囲を限定した理由を以下に述べる。
【0019】
Mg含有量を一定量(0.3wt%、0.4wt%、0.5wt%、0.6wt%、0.7wt%)に固定し、Cu含有量を0.5〜1.5wt%の間で変えた時の引張強度(MPa)および伸び(%)のそれぞれの変化を図1,図2に示す。
【0020】
図1に示すように、引張強度320MPa以上を達成するCu及びMgの含有量は、Cuが0.5wt%以上、Mgが0.3wt%以上である。よって、本発明の合金におけるCuの含有量は0.5wt%以上、かつ、Mgの含有量は0.3wt%以上と規定している。
【0021】
また、図2に示すように、伸び5%以上を達成するCu及びMgの含有量は、Cuが1.5wt%以下、Mgが0.7wt%以下である。よって、本発明の合金におけるCuの含有量は1.5wt%以下、かつ、Mgの含有量は0.7wt%以下と規定している。
【0022】
さらに、Siは強度向上元素であり、Siの含有量がある範囲より少なくなると、鋳造性が極端に悪くなり、Siの含有量がある範囲より多くなると、靱性が低下してしまう。本発明の合金の場合、鋳造性および靱性に影響を及ぼさないように、AC4Cと同範囲のSiを含有させており、その含有量は6.5〜7.5wt%と規定している。
【0023】
また、その他の元素(Zn、Fe、Mn、Ni、Ti、Pb、Sn、およびCr)の含有量も、靱性に影響を及ぼさないように、AC4Cと同範囲の含有量以下に規定しており、それぞれの含有量は0.35wt%以下、0.55wt%以下、0.35wt%以下、0.10wt%以下、0.20wt%以下、0.10wt%以下、0.05wt%以下、および0.10wt%以下としている。
【0025】
実施の形態に係る鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法は、化学組成が、
Cu:0.5〜1.5wt%、より好ましくは0.5〜0.8wt%、
Mg:0.3〜0.7wt%、より好ましくは0.5〜0.7wt%、
Si:6.5〜7.5wt%、
Zn:0.35wt%以下、
Fe:0.55wt%以下、
Mn:0.35wt%以下、
Ni:0.10wt%以下、
Ti:0.20wt%以下、
Pb:0.10wt%以下、
Sn:0.05wt%以下、
Cr:0.10wt%以下、及び
残部:Alからなる鋳造体に対して施してもよい
【0026】
次に、鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法について説明する。
【0027】
先ず、添加元素(Cu、Mg、Si、Zn、Fe、Mn、Ni、Ti、Pb、Sn、およびCr)の量をそれぞれ調整した後、溶製・鋳造を行い、前述した化学組成を有する任意形状の鋳造体を作製する。
【0028】
次に、その鋳造体に安定化処理(T7処理)を施す。具体的には、鋳造体に溶体化処理および焼入れ処理を施した後、焼入れ処理後の鋳造体に、最高強度が得られる焼戻し温度よりも高い温度の時効処理を施す。この時、時効処理温度は、200〜300℃、好ましくは220〜260℃とする。また、時効処理時間は、最高強度が得られる時効処理時間よりも長い時間、好ましくは、過時効による強度減少が略飽和に達するまでとし、具体的には0.2〜30hr、好ましくは0.5〜20hrとする。
【0029】
安定化処理後の鋳造体を、所定の冷却速度で冷却する(例えば、炉冷又は空冷する)ことで、鋳造品(T7処理体)が得られる。
【0030】
述した化学組成を有する各鋳造体に、本実施の形態に係る鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法、すなわち安定化処理を施すことで、引張強度が320MPa以上、伸びが5%以上となる。
【0031】
また、本実施の形態により得られた鋳造用アルミニウム合金は、安定化処理が施されてなるものであるため、該合金を安定化処理における時効処理温度近傍(例えば、200℃以上)の高温環境下で使用しても、該合金中で局部的な時効析出が進行することはなく、機械的特性の低下は殆どない。
【0032】
かかる鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法によれば、鋳造体に対して前述した範囲の温度・時間の安定化処理(T7処理)を施しているが、この時効処理時間は、従来合金であるAC4C-T6 鋳造品における時効処理時間と略同じであり、AC4C-T6 鋳造品と比較して、生産性に遜色はない。
【0033】
また、安定化処理における時効処理時間を、過時効による強度減少が略飽和に達するまでとしていることで、該T7処理体を安定化処理における時効処理温度近傍(例えば、200℃以上)の高温環境下で使用しても、強度がそれ以上低下することはない。
【0034】
【実施例】
Al-7.0Si-0.3Mg-1.0Cu(wt%)の化学組成を有する鋳造体(以下、実施例1と呼ぶ)、Al-7.0Si-0.6Mg-0.7Cu(wt%)の化学組成を有する鋳造体(以下、実施例2と呼ぶ)、およびAl-7.0Si-0.3Mg(wt%)の化学組成を有するAC4C鋳造体(以下、比較例と呼ぶ)を溶製・鋳造する。
【0035】
(試験例1)
時効処理時間をそれぞれの焼戻し温度で最高強度が得られる時間とし、実施例1、実施例2、および比較例に、焼戻し温度(時効処理温度)160℃のT6処理、焼戻し温度200℃の安定化処理(T7処理)、および焼戻し温度300℃の安定化処理をそれぞれ施した。
【0036】
実施例1、実施例2、および比較例における焼戻し温度(℃)と硬度(HB )との関係を図3に、焼戻し温度(℃)と(常温)引張強度(MPa)との関係を図4に示す。ここで、図3,図4中において、■印を結んだ線31は実施例1を、黒丸印を結んだ線32は実施例2を、▲印を結んだ線33は比較例を表している。
【0037】
図3および図4中、線33で表される比較例は、焼戻し温度が高温になるにつれて硬度および引張強度が著しく低下している。具体的には、比較例に、焼戻し温度160℃のT6処理および焼戻し温度300℃の安定化処理を施したものをそれぞれ比較すると、硬度が約24%および引張強度が約34%も低下している。
【0038】
以上のことから、比較例に対して安定化処理を施した場合、安定化処理の焼戻し温度を高くする程、強度低下が著しくなるということが確認された。
【0039】
これに対して、図3および図4中、線31,32で表される実施例1,2におけるT6処理体の硬度および引張強度は、比較例におけるT6処理体の硬度および引張強度と比較して硬度が約10〜17%、引張強度が約12〜14%も高くなっていることから、実施例1,2は、比較例よりも高強度であることがわかる。
【0040】
また、実施例1,2は、焼戻し温度が高温になっても硬度および引張強度がそれ程低下していない。具体的には、実施例1,2に、焼戻し温度160℃のT6処理および焼戻し温度300℃の安定化処理を施したものをそれぞれ比較すると、硬度は約9%、引張強度は約6%しか低下していない。
【0041】
以上のことから、実施例1,2に対して安定化処理を施した場合、安定化処理の焼戻し温度の上昇による強度低下は殆どないということが確認された。ここで、安定化処理の焼戻し温度の上限は、T7処理体の組織制御等の観点から300℃を上限とすることが好ましい。
【0042】
(試験例2)
実施例1、実施例2、および比較例に、焼戻し温度(時効処理温度)160℃のT6処理、焼戻し温度200℃の安定化処理(T7処理)、焼戻し温度230℃の安定化処理、および焼戻し温度250℃の安定化処理をそれぞれ施す。
【0043】
実施例1、実施例2、および比較例における時効処理時間(hr)と硬度(HB )との関係を図5,図6,図7に示す。ここで、図5,図6,図7中において、○印を結んだ曲線51,61,71は焼戻し温度160℃のT6処理を施した場合、△印を結んだ曲線52,62,72は焼戻し温度200℃の安定化処理を施した場合、□印を結んだ曲線53,63は焼戻し温度230℃の安定化処理を施した場合、および×印を結んだ曲線54,64は焼戻し温度250℃の安定化処理を施した場合を表している。
【0044】
図5,図6に示すように、実施例1,2において、焼戻し温度が高くなるにつれて、最高硬度は減少している。しかし、実施例1において、曲線51と曲線54とを比較した場合の最高硬度の減少率は約9%、また、実施例2において、曲線61と曲線64とを比較した場合の最高硬度の減少率は約8%であり、その減少の度合いが緩やかであることがわかる。
【0045】
これは、実施例1,2が、Al-Si-Cu-Mg 系合金であるため、Alマトリックス中に析出する化合物がMg化合物(Mg2 Si)およびCu化合物(Al2 Cu、Al2 CuMg等)となることに起因していると考えられる。Cu化合物は、Alマトリックス中に強固に比較的高い温度で析出する(即ち、比較的拡散速度が遅い)ため、熱処理温度を高くしても、Cu化合物の結晶が粗大に成長することはない。このため、実施例1,2に対して、T6処理を施した場合(曲線51,61)と、安定化処理を施した場合(曲線52〜54,62〜64)とを比較すると、図5,図6に示すように、曲線52〜54,62〜64の最高硬度は、曲線51,61の最高硬度と殆ど変わらない(又は最高硬度減少の度合いが小さい)。また、実施例1,2においても、安定化処理の焼戻し時間が長くなる程、曲線52〜54,62〜64の硬度は低下していくが、それ程大きく低下するものではなく、その硬度は図7に示す曲線71の硬度と同等又は同等以上となる。
【0046】
また、曲線53において黒丸印で表される過時効材56においても、曲線51において黒丸印で表される通常T6材55と同じ引張強度330MPa(硬度約110HB )を有する。さらに、曲線63において黒丸印で表される過時効材66においても、曲線61において黒丸印で表される通常T6材65と同じ引張強度350MPa(硬度約120HB )を有する。ここで、通常T6材55,65からなる鋳造品を200℃以上の高温環境下で使用すると、強度及び靱性の低下が生じる。これに対して、過時効材56,66は強度(硬度)減少が略飽和に達したものであるため、過時効材56,66からなる鋳造品を200℃以上の高温環境下で使用しても、強度の低下が生じることはない。
【0047】
これに対して、図7に示すように、比較例においては、焼戻し温度が高くなるにつれて最高硬度の減少率も大きくなる。具体的には、比較例に、焼戻し温度160℃のT6処理を施した場合(曲線71)と焼戻し温度200℃の安定化処理を施した場合(曲線72)とを比較すると、曲線72の最高硬度は曲線71の最高硬度よりも約7%(曲線51と曲線52、曲線61と曲線62との比較では約3〜4%)減少しており、その減少の度合いが大きいことがわかる。
【0048】
これは、比較例であるAC4Cが、Al-Si-Mg系合金であるため、Alマトリックス中に析出する化合物がMg化合物(Mg2 Si)のみであることに起因していると考えられる。Mg化合物は低い温度で析出する(即ち、比較的拡散速度が速い)ため、熱処理温度が高くなると、Mg化合物の結晶が成長して粗大なMg化合物が析出する。このため、比較例に安定化処理を施す場合、焼戻し温度が高くなる程又は焼戻し時間が長くなる程、硬度(強度)は大きく低下する。
【0049】
試験例1,2の結果および図3〜図7を参照した結果から、安定化処理における時効処理温度(焼戻し温度)は200〜300℃、好ましくは220〜260℃と規定され、また、安定化処理における時効処理時間(焼戻し時間)は、最高温度が得られる時効処理時間よりも長い時間、好ましくは0.2〜30hr、より好ましくは0.5〜20hrと規定される。
【0050】
(試験例3)
外径φ6mm、長さ30mmのJIS14−A号試験片からなる試料を、実施例1、実施例2、および比較例を用いてそれぞれ作製する。その後、各試料に対して、高温試験を行った。
【0051】
高温試験は、各試料を常温、150℃、200℃、250℃、および300℃で15分保持した後における高温引張試験と高温伸び試験及び各試料を150℃、200℃、および250℃で15分保持した後における高温圧縮試験により、評価を行うものとした。
【0052】
温度(℃)と引張強度(MPa)との関係を図8に、温度(℃)と伸び(%)との関係を図9に、温度(℃)と圧縮応力(MPa)との関係を図10に示す。ここで、図8〜図10中において、■印を結んだ線81は実施例1を、黒丸印を結んだ線82は実施例2を、▲印を結んだ線83は比較例を表している。
【0053】
図8に示すように、高温引張試験の結果、実施例1は、全温度域(常温〜300℃)に亘って比較例よりも引張強度が高かった。この結果から、実施例1は、比較例よりも常温及び高温での強度が良好であることがわかる。また、実施例1と実施例2とを比較すると、常温〜約160℃の温度域では引張強度は殆ど変わらないが、約160〜300℃の温度域では、実施例2の方が実施例1よりも引張強度が高くなっており、実施例2の方が、実施例1よりも高温強度が高いことがわかる。
【0054】
次に、図9に示すように、高温伸び試験の結果、実施例1は、常温〜100℃強の温度域を除くと、比較例よりも伸びが良好であった。この結果から、実施例1は、比較例よりも靱性、特に高温靱性が良好であることがわかる。また、実施例2は、全温度域(常温〜300℃)に亘って比較例および実施例1よりも伸びが低く、実施例1の方が、実施例2よりも常温靱性および高温靱性が良好であることがわかる。尚、比較例の300℃における伸びは測定不能であったため図示していない。
【0055】
次に、図10に示すように、高温圧縮試験の結果、実施例1は、高温度域(150〜250℃)において、比較例よりも圧縮応力が高かった。この結果から、実施例1は、比較例よりも高温圧縮強度が良好であることがわかる。また、実施例1と実施例2とを比較すると、全温度域(常温〜300℃)に亘って、実施例2の方が実施例1よりも圧縮応力が高くなっており、実施例2の方が実施例1よりも高温圧縮強度が高いことがわかる。
【0056】
以上の高温試験の結果から、実施例1,2は、常温及び高温での強度が比較例よりも良好で、かつ、常温靱性は比較例よりやや劣るものの、高温靱性は比較例と略同等又は同等以上であることが確認された。
【0057】
(試験例4)
外径φ8mmの平滑試験片からなる試料を、実施例1、実施例2、および比較例を用いてそれぞれ作製する。その後、各試料に対して、疲労試験を行った。
【0058】
疲労試験は、小野式回転曲げ試験で回転数を3,000rpmとして行い、破断までの繰返し回数が107 (回)の時の応力振幅値により疲労強度を評価した。
【0059】
破断までの繰返し回数(回)と応力振幅(MPa)との関係を図11に示す。ここで、図11中において、■印を結んだ線111は実施例1を、黒丸印を結んだ線112は実施例2を、▲印を結んだ線113は比較例を表している。
【0060】
図11に示すように、破断までの繰返し回数が107 (回)の時の比較例の応力振幅は70MPaであった。これに対して、破断までの繰返し回数が107 (回)の時の実施例1,2の応力振幅は、それぞれ90MPa(比較例の約1.29倍)、80MPa(比較例の約1.14倍)となり、疲労強度が良好であることがわかった。
【0061】
(試験例5)
実施例1および比較例からなる試料に対して熱疲労試験を行い、熱疲労強度の評価を行った。熱疲労試験は、各試料に対して低温→高温→低温を1サイクルとする熱サイクルを与えるものであり、歪み値が所定値に達した時の繰返し回数(回)により熱疲労強度を評価した。
【0062】
熱疲労試験の結果、実施例1の繰返し回数は比較例の約1.4倍を示した。このことから、実施例1は、比較例よりも熱疲労強度が良好であることがわかる。
【0063】
試験例1〜5の結果、実施例1,2に焼戻し温度200〜300℃の安定化処理を施したT7処理体で、例えば、図12に示したシリンダーヘッド131を形成した場合、エンジン運転によりヘッド下面133の温度が約250℃又は250℃以上となっても、安定化処理が施されているため、エンジン運転中にシリンダーヘッド131の機械的特性が低下することはない。
【0064】
また、エンジン運転中、このT7処理体からなるシリンダーヘッド131の上・下面132,133に大きな温度差が生じるが、エンジン運転中にシリンダーヘッド131の機械的特性が低下することはないため、ヘッド上面132の薄肉部134、スプリングシート座135、吸入ポート壁136、排出ポート壁137、およびヘッド下面133の薄肉部138等に亀裂Kが生じ難い。
【0065】
さらに、このシリンダーヘッドにおいては、疲労強度及び熱疲労強度が良好であるため、エンジンの運転/停止の繰返しに伴う耐熱疲労性が、比較例からなるシリンダーヘッドよりも良好となる。
【0066】
尚、本発明で得られた鋳造用アルミニウム合金は、上述したようにシリンダーヘッドのみにその用途が限定されるものではなく、その他にも疲労強度及び熱疲労強度が共に要求される鋳造用アルミニウム合金にも適用することができることは言うまでもなく、例えば、シリンダーブロック、自動車用アルミホイール、マニホールド、油圧シリンダーボディ等が想定される。
【0067】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、前述した化学組成を有する鋳造体に、時効処理温度が200〜300℃で、最高強度が得られる時効処理時間よりも長く、かつ、引張強度320MPa(硬度100H B )以上が得られる範囲時間の安定化処理を施していることで、引張強度が320MPa以上、伸びが5%以上となり、かつ、その合金を安定化処理における時効処理温度近傍の高温環境下で使用しても、機械的特性が低下するおそれがないという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】Cu含有量と引張強度との関係を示す図である。
【図2】Cu含有量と伸びとの関係を示す図である。
【図3】焼戻し温度と硬度との関係を示す図である。
【図4】焼戻し温度と引張強度との関係を示す図である。
【図5】時効処理時間と硬度との関係を示す図である。
【図6】時効処理時間と硬度との関係を示す図である。
【図7】時効処理時間と硬度との関係を示す図である。
【図8】温度と引張強度との関係を示す図である。
【図9】温度と伸びとの関係を示す図である。
【図10】温度と圧縮応力との関係を示す図である。
【図11】破断までの繰返し回数と応力振幅との関係を示す図である。
【図12】シリンダーヘッドの断面図である。

Claims (1)

  1. 疲労強度及び熱疲労強度が共に要求され、かつ、高温環境下で該疲労強度及び熱疲労強度が殆ど劣化しない鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法において、化学組成が、
    Cu:0.5〜1.5wt%、
    Mg:0.3〜0.7wt%、
    Si:6.5〜7.5wt%、及び
    残部:Alからなる鋳造体に、時効処理温度が200〜300℃、好ましくは220〜260℃で、最高強度が得られる時効処理時間よりも長く、かつ、引張強度320MPa(硬度100H B )以上が得られる範囲時間の安定化処理を施すことを特徴とする鋳造用アルミニウム合金の熱処理方法。
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