JP3845918B2 - 生体用非磁性ステンレス鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、直接人体に接触する装飾品、時計材料、生体用インプラント部品などNiアレルギーが問題とされる機器・部品に対して好適な、Ni溶出量を抑制した、高耐食生体用非磁性ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
これまでネックレス、ピアス、指輪などの装飾品や、時計用材料およびそれらめっき部品の下地材としてとして、Niを含むSUS304、SUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼が多く用いられてきた。また、歯科用材料、インプラント材料を含め生体内にて使用される部品についてもSUS316もしくはSUS316LなどのNiを含有する材料が多く使用されている。
【0003】
しかし、これらNiを含有する材料は、生体内への溶出などによって、Niを原因とするアレルギーがおこることが、欧州を中心に問題となってきており、一説では欧州の人口の約8%がNiアレルギーに苛まれているといわれている「STEEL TIMES”1996年8月号”」。
【0004】
欧州では、上記問題を解決する手法として、加圧ESR(エレクトロ・スラグ・リメルテイング)法を用い、Niの替わりに10〜20%のMn,0.8〜1.0%のNを添加した、いわゆるNiフリーステンレス鋼を開発し、実用化を進めている。
【0005】
しかし、加圧ESR法でのNiフリーステンレス鋼の製造は、コストが極めて高くなり、用途が限定される。そこで、本発明では生体材料としてNiによるアレルギーの発生を極めて抑制し、かつ生体用材料として適切な耐食性を備えた材料に関する非磁性ステンレス鋼を、安価に提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための本発明によるステンレス鋼は、質量%でC:0.06%以下、Si:1.0%以下、Mn:15.0〜22.0%、P:0.030%以下、S:0.015%以下、Ni:1.0%以下、Cr:15.0〜18.0%、N:0.35〜0.60%、Mo:0.5〜4.0%、O:0.020%以下、残部Fe及び不可避不純物から成る組成を有し、非磁性であることを特徴とする。
【0007】
本発明は、更に耐食性をより向上させるためにCu:0.1〜1.5%、W:0.1〜0.8%の1種又は2種を含有させてもよい。
【0008】
更に、熱間加工性のより一層の向上を目的にCa、Mg、B、REMのいずれか1種または2種以上を:0.0005〜0.0100%の範囲で含有させてもよい。
【0009】
また更に、結晶粒の微細化、強度の向上のためにNb、Ti、V、Hfのいずれか1種または2種以上を0.01〜0.25%の量で添加させても良い。
【0010】
また更に、耐食性のさらなる向上、抗菌作用を付与する目的でPt、Au、Ag、Pdの何れか1種または2種以上を0.005〜0.150%の量で含有させてもよい。
【0011】
上記成分からなる鋼種は、通常の大気圧下および低加圧下で製造が可能でありながら、欧州でのNiフリーステンレス鋼と同様、Niの含有量を低減させ、Niの溶出等を抑制し、Niによるアレルギーが極力発生しない効果を有し、かつ生体用材料として適切な耐食性を確保した材料である。
【0012】
【発明の作用】
本発明の成分範囲の限定理由を述べる。
【0013】
C:0.06%以下
Cは、強度の向上、オーステナイト形成元素として有効であるが、多量の添加は溶湯中のNの固溶量を低下させるとともに、Crと結合して炭化物を形成し、マトリックス中のCr固溶量を低下させ、耐食性を劣化させるためその上限を0.06%とする必要がある。
【0014】
Si:1.0%以下
Siは、おもに溶解精錬時の脱酸材として作用する元素である。しかし、多量に含有すると製造性を劣化させるため、その上限を1.0%とする必要がある。
【0015】
Mn:15.0〜22.0%
Mnは、溶湯中のNの固溶量を著しく増加する作用があり、溶湯中のNの固溶量を確保するためには、15%以上の添加が必要である。しかし、多量に添加すると凝固時に窒素ブローが発生しNの固溶量を低下させるとともに製造性が著しく劣化するほか、オーステナイト相が不安定となり非磁性を維持できなくなるため、その上限を22.0%とする。
【0016】
P:0.030%以下
Pは、耐食性の向上に有効である場合もあるが、粒界に偏析し靭性の低下を招くため低いほうが望ましいが、必要以上の低減はコストの上昇を招くため、0.030%以下とする。
【0017】
S:0.015%以下
Sは、切削加工性の向上には有効であるが、熱間加工性を劣化させるほか、MnSを形成して耐食性を著しく劣化させるため、極力下げた方が望ましく、0.015%を上限とする。
【0018】
Ni:1.0%以下
Niはオーステナイト生成元素であり、オーステナイト相安定に寄与するとともに、凝固時に窒素ブローを抑制する効果がある。しかし、Niアレルギーの観点からは極力低減する必要が有り、1.0%以下に限定、望ましくは0.2%以下とする。
【0019】
Cr:15.0〜18.0%
Crは溶湯中のNの固溶量を著しく増加する作用があり、溶湯中のNの固溶量を確保するためには、15%以上の添加が必要である。また耐食性を向上する効果からも多い方が望ましいが、多量に添加すると凝固時に窒素ブローが発生しNの固溶量を低下させるとともに製造性が著しく劣化するほか、オーステナイト相が不安定となり非磁性を維持できなくなるため、その上限を18.0%とする。
【0020】
N:0.35〜0.60%
Nは侵入型元素であって、強度の向上、およびオーステナイト相の安定と耐食性向上に寄与する。0.35%以下ではその効果は低く0.35%以上添加する。また、0.6%以上のNを添加すると大気圧下および低加圧下での溶製が困難となるため、その上限を0.60%とした。
【0021】
Mo:0.5〜4.0%
大気圧下および低加圧下での製造性および非磁性の維持の観点からCrの上限量は上記のように規制されるため、Moは生体用材料として必要な耐食性を確保する元素として必須であり、できるだけ多量に添加することが望ましく、最低でも0.5%、耐食性がより重視される場合などでは2.0%以上の添加が望ましい。しかし、Cr、Mn程では無いにせよ、Moも凝固時の窒素ブローの発生を助長するほか、オーステナイト相が不安定とするため、過度の添加は避けるべきであり、その上限を4.0%とする。
【0022】
O:0.020%以下
酸素は鋼の清浄度を低下させ、耐食性を低下させるため極力低いほうが望ましく、0.020%以下に限定する。極細線加工を施す場合、耐食性がより重視される場合には0.010%以下とするのが望ましい。
【0023】
Cu:0.1〜1.5%、W:0.1〜0.8%の1種又は2種
Cu、Wは、より一層耐食性を必要とする場合に有効な元素であり、それぞれ0.1%以上含有させることでその効果が明瞭となる。ただし、Cuは熱間加工性を劣化させること、またWはコストの上昇を招くことから、それぞれ上限を、1.5%、0.8%に限定する。
【0024】
Ca、Mg、B、REMの1種または2種以上:0.0005〜0.0100%
Ca、Mg、B、REMは、熱間加工性をより向上させるのに有効であり、必要に応じて添加してもよい。その場合、0.0005%未満ではその明確な効果が現れないため、その下限をそれぞれ0.0005%とする。またCa、Mg、REMの過剰な添加は、鋼の清浄度を低下させ靭性、耐食性に悪影響を及ぼすほか、Bの過剰な添加は、硼化物を形成し、熱間加工性、耐食性に悪影響を及ぼすことから、その上限をそれぞれ0.0100%とする。
【0025】
Nb、Ti、V、Hfの1種または2種以上:0.01〜0.25%
Nb、Ti、V、Hfは、結晶粒の微細化に効果が有り、細粒化による強度の向上のほか、その元素自体が固溶することにより強度を高めるため、必要に応じて添加してもよい。その場合0.01%未満では効果が明瞭にならないので、下限をそれぞれ0.01%とする。また、過剰な添加は清浄度および延性の低下を招くので上限を0.25%とする。
【0026】
Pt、Au、Ag、Pdの1種または2種以上:0.005〜0.150%
Pt、Au、Ag、Pdは、耐食性の向上に有効であるほか、上記のCuを含め抗菌効果もあることから必要に応じて添加してもよい。その場合、0.005%未満ではその明確な効果が現れないため、その下限をそれぞれ0.005%とする。また必要以上の添加はコストの上昇を招くため、その上限をそれぞれ0.150%とする。
【0027】
【実施例】
次に本発明の実施例を説明する。表1に示す組成の50kg鋼塊を高周波誘導炉で溶製したのち、続いて鍛伸により20mmの丸棒にし、1050℃×30分加熱後水冷の固溶化熱処理を施した。その後各丸棒より試験片を切り出して硬さ試験、引張試験、透磁率測定、CPT(臨界孔食発生温度)試験、Ni溶出試験を行った。常温引張試験は、JIS4号試験片を使用し、0.2%耐力、引張強度を測定した。
【0028】
透磁率測定は振動試料型磁力計測器により測定した。CPT試験は直径15mm、長さ20mmの試験片を用い、塩酸でpHを1に調整した6%塩化第二鉄中での、臨界孔食発生温度を求めた。試験は5℃からはじめ、24時間浸漬した時点で、腐食の有無を確認し、腐食の発生が認められない場合、2.5℃温度を上げ、同様に24時間浸漬し、腐食の有無を確認する方法で、腐食が発生しなかった最高温度を臨界孔食発生温度(CPT)として、評価を行った。
【0029】
Ni溶出試験は直径10mm、長さ35mmの試験片を用い、生理食塩水溶液に浸漬し、5週間後の試験溶液中のNi量をICPにより分析し試料表面の単位面積当たりのNi溶出量に換算した。
【0030】
表2に発明鋼、比較鋼の試験結果を示す。表2に示すように、本発明鋼の引張強度はSUS316(比較鋼1)に比べ優れており、透磁率もμ<1.01と低くSUS316相当である。耐孔食性はSUS316よりはるかに優れており、生理食塩水溶液中へのNiの溶出も認められず生体用材料としてSUS316よりも優れている。なお、比較鋼2から5については、2種以上、請求範囲から成分が外れており、耐食性、透磁率のいずれかの特性が十分でない。
【0031】
以上、本発明鋼について実施例を示したが、これはあくまで1例示であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、当事者の知識に基づき、その他の変更を加えた態様で実施可能である。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【発明の効果】
上記の通り、本発明の生体用非磁性ステンレス鋼は、生体用として多く用いられているSUS316などのNiを含有するオーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の耐食性を確保したまま、高コストとなる特殊な製造方法を採る必要無く、Niアレルギーの発生を極力抑制することができる。
Claims (5)
- 質量%で
C:0.06%以下
Si:1.0%以下
Mn:15.0〜22.0%
P:0.030%以下
S:0.015%以下
Ni:1.0%以下
Cr:15.0〜18.0%
N:0.35〜0.60%
Mo:0.5〜4.0%
O:0.020%以下
残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする低Ni生体用非磁性ステンレス鋼。 - 請求項1の成分に加え更にW、Cuの何れか1種または2種以上を
Cu:0.1〜1.5%
W:0.1〜0.8%
の量で含有することを特徴とする低Ni生体用非磁性ステンレス鋼。 - 請求項1および請求項2の成分に加え更にCa、Mg、B、REMの何れか1種または2種以上を0.0005〜0.0100%の量で含有することを特徴とする低Ni生体用非磁性ステンレス鋼。
- 請求項1の成分に加え更にNb、Ti、V、Hfの何れか1種または2種以上を0.01〜0.25%の量で含有することを特徴とする低Ni生体用非磁性ステンレス鋼。
- 請求項1の成分に加え更にPt、Au、Ag、Pdの何れか1種または2種以上を0.005〜0.150%の量で含有することを特徴とする生体用非磁性ステンレス鋼。
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