JP2007051368A - ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、並びにこれを用いた生体用又は医療用のインプラント等、装身具等及び厨房用器具等 - Google Patents

ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、並びにこれを用いた生体用又は医療用のインプラント等、装身具等及び厨房用器具等 Download PDF

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Abstract

【課題】 生体へのインプラント等、皮膚や粘膜等と接触使用の装身具や食器類等の金属製品による、特にNiアレルギーを発症させず、しかも非磁性具備により人体に悪影響のない、高強度の耐食性ステンレス材料を提供する。
【解決手段】 化学成分組成(質量%)として、0<C≦0.08、0≦Si<0.50、0≦Mn≦1.50、15≦Cr≦30、0≦Ni<0.05、1≦Mo≦10、1.00<N≦2.00、0≦Ca<0.005を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、しかも、前記Cr、Mo及びNの各含有量は、Cr、Mo及びNを含む式で表される耐食性指数が、鋼中非金属介在物の面積占有率、鋼中非金属介在物の最大直径との関係を満たす化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有することを特徴とする、耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼とする。
【選択図】 なし

Description

この発明は、(1)生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具の少なくとも一部分に用いられるステンレス鋼、(2)人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品又は衣料類部品の少なくとも一部分に用いられるステンレス鋼、並びに(3)厨房用器具又は食器類の少なくとも一部分に用いられるステンレス鋼、の内のいずれに対しても、これらの使用中において当該ステンレス鋼中のニッケル金属成分の溶出により、人体にアレルギー反応を起こさせることがなく、しかも耐食性に優れ、更に、強度、成形性及び耐摩耗性にも優れており、上記いずれの用途に対しても好適に供することができる、非磁性ステンレス鋼並びにこれらを用いた製品に関するものである。
近年、生体に対する金属アレルギーの問題が注目されている。この金属アレルギーとは、金属材料を構成するある種の金属が、それが使用される環境条件に応じてイオン化され、生成したこの金属イオンが人体の表皮、粘膜上皮又は細胞内の蛋白と結合することにより、人体が本来有していない化学物質が生成し、この化学物質に対して生体細胞が拒絶反応を起すことにより人体に異常をきたすものである。このような金属アレルギーを発症させる金属元素の一つとして、ニッケル(Ni)が問題とされ、注目されている。
金属材料中のNiの存在は、金属アレルギーの発症原因であるとの観点から従来問題視されているもの、又は問題視されつつあるものとして、下記第一から第三までの対象物が挙げられる。そして、下記第一から第三までの対象物に共通の具備すべき重要な条件として、それらが使用されるそれぞれの環境下において、耐食性に優れていること、特にNiの溶出量ができるだけ少ないことが挙げられる。
第一は、生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具に用いられる金属材料である。この内、生体用又は医療用のインプラントとは、成形外科用材料、接骨材料、人工関節用材料、脳外科用等のビス、並びに、義歯固設用インプラント、義歯用金属床及び義歯用磁性アタッチメント等の歯科治療用材料等を指す。生体用又は医療用のステントとは、心臓の血管や脳の血管等人体各所の血管を拡張保持するために血管の疾患部内部に固設される網目状等の固設体を指す。そして、生体用又は医療用の器具とは、注射針、人体各所の血管の疾患部位に上記ステントを配設するときに、当該疾患部位まで先導的に進入させるカテーテル、並びに、手術時に血管からの出血を抑えるためのクリップ、手術用かん子及び手術用メスの刃等を指す。
第二は、人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品、又は衣料類部品に用いられる金属材料である。装身具乃至装飾品としては、めがねフレーム、腕時計のケース及びバンド、並びに、ネックレス、ピアス、イアリング、指輪、ブレスレッド及びアンクレッド等の種々のアクセサリーがあり、そして、衣料部品としては、これにつけられたファスナー、フック、ボタン等があり、また、防弾チョッキや防弾服、あるいは防護面やヘルメット等各種の防護衣料類にとりつけられて護身用に用いられている金属材料がある。
第三は、食材乃至調理品及び/又は調味料等と直接接触して使用されたり、人の口腔内粘膜と直接接触しながら使用されたりする厨房用器具又は食器類に用いられる金属材料である。厨房用器具としては、鍋、フライパン、やかん、ポット、調理済み食品保温容器、
包丁、計量容器、醤油差し等調味料容器及び調理台等があり、そして食器類としては、椀、皿、スプーン、ナイフ及びフォーク等がある。
耐食性、特にNiの溶出阻止に加えて更に、人工関節用材料、義歯用磁性アタッチメント、手術用メスの刃及び包丁等に対しては、特に優れた耐摩耗性が要求され、注射針、ピアス、カテーテル、ステント、手術用かん子、手術用クリップ、めがねのフレーム、腕時計バンド、ネックレス、イアリング、指輪、腕輪、脚輪及び計量スプーン等に対しては、特に優れた延性乃至成形性が要求され、また成形外科用材料、接骨材料及び人工関節用材料等に対しては、特に優れた強度が要求される。
[I] 生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具
始めに、第一の生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具においてその少なくともそれらの一部分に用いられるステンレス鋼のグループの中から、血管拡張用ステントと義歯用磁性アタッチメントとを代表例として取り上げて、従来技術とその問題点(留意点)について説明する。
血管拡張用ステントとは、狭心症や心筋梗塞の患者に対して、動脈硬化等により、血管が狭くなったり詰まったりしたところを拡げる治療法に用いられるものであって、従来、先端に特殊な風船がついたカテーテル(細い管)を血管内に挿入し、狭くなった部分を、風船を拡げることにより血管患部を押し拡げるだけという治療法が行われていたが、現在では、風船で血管を拡げた後の血管内壁に留置して再び血管が狭くなるのを防ぐ金属製の円筒やコイルを用いる治療法が行われている。そして最近では、円筒状に拡張する金属性メッシュ、即ち拡管用ステントを用いて血管を拡げている。たとえば、動脈硬化等により狭くなった血管を拡張させるために、狭窄部にカテーテルを到達させ、カテーテルの上へ取り付けられた、自己拡張型ステントを狭くなっていた血管壁の部位に挿入し、自己拡張型ステントを半径方向に拡げていき、その結果狭くなっていた血管壁が拡張した血管となり、血流が確保される。拡管用ステントの材質は通常、Ni含有ステンレス鋼であるSUS316やSUS316L等が用いられている。このステントには、血管を拡げるための強度、血管壁との親和性及び長期間の使用に耐える耐久性及び安全性が求められている。その際、血管内壁に長期間留置されたステントからの金属Niの溶出によるアレルギー発症の恐れを解消しておくことが必要である。
一般に、生体内の体液は、Na+、K+及びCl-等の種々のイオン並びにアルブミン及
びグロブリン等の各種蛋白質を含んだ一種の電解質液である。体液のpHは通常、7.35とややアルカリ側にあるが、手術後や外傷等の存在により、5.3〜5.6と酸性側になることもある。従って、従来より、歯科、整形外科材料として使用されている金属材料にとって、生体内は厳しい環境条件であるといえる。顎の骨等に埋植して使用する人工歯根や、骨折箇所等の固定具に使用されるボーンプレート等のインプラント材料は、生体内特有の腐食を生じ易い。現在、生体用に最も多く使用されている金属材料は、ステンレス鋼、特にSUS316及びSUS316L(Fe−13Ni−17Cr−2Mo)であり、次いでCo−Cr合金、Ti合金の順になっている。但し、ステンレス鋼はCo−Cr合金及びTi合金に比べてかなりコスト安であるが、これらいずれの金属材料にあっても、生体内で最も起こり易い腐食はすきま腐食である。ここで、すきま腐食とは、Cl-
の攻撃性アニオンを含む水環境において、金属同士又は金属と非金属とからなるすきまが存在する場合に、その内部で発生する腐食である。即ち、そのすきまの内部では酸素が消費され、酸素不足となった領域の近傍にアノード環境ができることにより、徐々にpHが低下し、腐食箇所中のCl-濃度が上昇して、金属腐食箇所が拡大する。
生体内には、Cl-を含む種々のイオンが存在しており、生体細胞と金属材料との間で、
すきま腐食や濃度差電池の形成による腐食が進行し易い。更に、人工関節のように、2個以上の生体用金属材料部品からなるものでは、すきま腐食が進行し易いだけでなく、部品
素材が異種合金であれば、体液中で電池を生じ、腐食が起こることがある。このような腐食は、生体用金属材料部品の劣化と共に、周囲の細胞を損傷する恐れがあるという点で問題である。
上述した生体内における生体用金属材料のすきま腐食により、SUS316及びSUS316L等のNiを含有する金属からはNiイオンが溶出し、人体に対してアレルギー反応を起こす恐れがあることが容易に推察される。
次に、歯科用磁性アタッチメントについては、市販磁性アタッチメントがあり、磁性アタッチメントには磁性フェライト系ステンレス鋼であるSUS447J1(Fe−30Cr−2Mo)及びSUS444(Fe−19Cr−2Mo)が主として使用されており、その耐食性は極めて優れているが、隙間腐食や接触腐食に注意が必要である(非特許文献1)。ここで、かかる磁性フェライト系ステンレス鋼からなる磁性アタッチメントの永久磁石構造体と加圧負荷条件下で接触するキーパーは、外部への磁束漏洩を小さくして永久磁石構造体のキーパーへの吸引力を高めると共に、口腔内での耐食性を一層高めるために、非磁性オーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。
歯科用磁性アタッチメントとは、永久磁石の磁気吸引力を利用して口腔内に部分義歯床や全部義歯床に義歯を保持する補綴手段に用いる義歯補綴装置であり、その義歯用磁性アタッチメントの構造としては、たとえばサンドイッチ型と称されているものがある。永久磁石構造体は、たとえば、永久磁石が左右方向にN・S極をもち、その外側を軟磁性ステンレス鋼のヨークで挟み、永久磁石のヨークに接触しない部分を、オーステナイト系ステンレス鋼よりなるスペーサーで被覆することにより、磁気回路を形成して吸着力を高めている。同時に永久磁石が口腔内に露出することを防いでいる。ここで、軟磁性体の耐食性金属でなるヨークには、例えば磁性フェライト系ステンレス鋼であるSUS444(Fe−19Cr−2Mo)を用い、非磁性体の耐食性金属でなるスペーサーには、例えば非磁性オーステナイトステンレス鋼であるSUS316L(Fe−13Ni−17Cr−2Mo)が用いられている。
このような義歯用磁性アタッチメントが具備すべき本来の要件として、義歯を安定して固定するために高い磁気特性が発揮されるべきこと、外部への磁束漏洩を小さくして永久磁石構造体の、歯根に固着される面部材に接合する軟磁性金属からなるキーパーへの磁気吸引力を高めることを前提条件として、耐食性特に微量の金属Niの溶出をもこれを阻止することにより、生体のアレルギー反応発症を未然に防止すること、更に、義歯の噛合せ時に永久磁石構造体に配設されたスペーサーとキーパーとの間に作用する金属間同士の繰返し加圧応力負荷に耐えるために、優れた耐摩耗性を有することがスペーサーとキーパーには要求される。
そこで義歯用磁性アタッチメント全体としての高い磁気特性維持及び金属Niの溶出阻止の観点から、スペーサーに用いられる材料として、非磁性ステンレス鋼が開示されている(特許文献1)。即ち、特許文献1は、義歯用磁性アタッチメントの磁気特性機能を損なうことなく、優れた耐食性を示し、且つアレルギー反応を起こすことのない義歯用磁性アタッチメントを提供することを課題として、永久磁石を覆うスペーサーに下記化学成分組成のオーステナイト系ステンレス鋼を用いることを開示している。その化学成分組成は、
C:0.02〜0.3質量%、
Si≦2質量%、
Mn:2〜26質量%、
Cr:11〜24質量%、
Ni≦0.5質量%、
Mo:2.5〜10質量%、
N:0.55〜1.2質量%を含有し、残部:Feからなるものである。ここでの最大の特徴は、オーステナイト組織を安定化させる元素としてのNi含有量を、通常この目的のために含有させるNi含有量の約4〜20質量%に対して、最大で0.5質量%に制限し、且つその他の成分組成を適切に設定して所要の鋼特性値を得るようにしたというものである。しかしながら、特許文献1に開示された非磁性オーステナイト系ステンレス鋼では、その問題点として、特に依然としてNi含有量が最大0.5質量%まで許容されていること、及びMnが2〜26質量%の範囲内で含有されていることに、以後留意すべきである。
[II] 装身具乃至装飾品若しくは衣料類部品
次に、第二の人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される金属製品において少なくともその一部分に用いられるステンレス鋼のグループの中から、めがねのフレームと腕時計バンドとを代表例として取り上げて、従来技術とその問題点(留意点)について説明する。
一般に、めがねはめがねフレームとレンズとからなる。めがねフレームの構造は、通常は、レンズが嵌合される1対のめがねリムと、この1対のめがねリムの間に介在して当該めがねリムを固設的に連結するブリッジと、各々のめがねリムの外側部に配設された1対のつる(テンプル)と、当該各々のめがねリムの内側部に配設された1対の鼻当てとからなり、各々のつるは各々のめがねリムに対して蝶番結合されており、また各々の鼻当ては各々のめがねリムにワイヤで取付けられている。
上記めがねフレームは近年、めがね本来の機能に加えて更に、アクセサリー的な要素をもこれに付加するために、上述した各々のめがねフレーム構成部材である金属部材に対して、模様乃至色彩を施すと共に、複雑な形状加工が施されるようになった。一方、このめがねフレームはそのコスト上昇の抑制乃至低減のために、当該金属部材の材質を、Ni−Ti系の形状記憶合金、Cu−Zn−Ni系及びCu−Zn−Ni−Mn−Al系等の代わりにオーステナイト系ステンレス鋼も用いられている。当該オーステナイト系ステンレス鋼としては、耐食性、加工性及び強度に優れ、比較的安価なSUS304(Fe−18Ni−8Cr)乃至SUS316L(Fe−13Ni−17Cr−2Mo)等が用いられているが、これらを更に改良したオーステナイト系ステンレス鋼として、次の化学成分組成のものが開示されている(特許文献2)。即ち、特許文献2には、めがねフレームの部材用として、Niアレルギー反応の発症を抑制すると共に、成形性にも優れたオーステナイト系ステンレス鋼を開発することを目的とし、そのためにNiの代替としてMn含有量を高めることによりオーステナイトの安定化を図ると共に、侵入型元素のN添加による固溶強化により生地強化を図り、更に加工硬化を比較的緩和するために加工誘起マルテンサイト変態の発生を適切に防ぐためのオーステナイト系ステンレス鋼の化学成分組成として、
C≦0.06質量%、
Si≦1.0質量%、
Mn:16.0〜20.0質量%、
Cr:15.0〜18.0質量%、
Ni≦0.5質量%、
Mo:1.5〜3.0質量%、
N:0.35〜0.60質量%を含有し、残部:Feからなり、且つ、次式:
Md30=413−462(C+N)−9.2Si
−8.1Mn−13.7Cr−9.5Ni
−18.5Mo
で示すMd30の値が、−140〜−240の範囲内に入るように化学成分含有量を調整することが開示されている。ここでの最大の特徴は、オーステナイト組織を安定化させる
元素としてのNi含有量を、最大で0.5質量%に制限したこと、及び、Ni含有量低下の代わりにMn含有量を16.0〜20.0質量%の範囲内にまで高めていることに、留意すべきである。
また、人体の皮膚表面に直接接触して使用される金属製品の他の代表的なものとして、腕時計のバンドや腕時計のケース等の腕時計用部品がある。これらはいずれも汗との接触により溶出する金属Niに起因するアレルギー発症が問題とされている(非特許文献2)。そこで、従来、耐食性及び加工性共に優れたNiを含有するオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている時計のバンド及びケースに、Niを含有しないフェライト系ステンレス鋼を使用し、更に、切削性、研磨性あるいは靭性のうちのいくつかを必要とする多方面の用途に用いることができるようにした(特許文献3)。しかしながら、特許文献3では、切削性向上のために、S含有量:0.06〜0.12質量%、Mn含有量の上限を0.40質量%と規定することにより、MnSの生成量を積極的に増加させているために、非金属介在物の清浄性劣化が懸念され、加工性が十分に優れているとはいい難い。また、腕時計の作動機構を覆うケースに用いた場合には、時計が強い磁場に曝された場合のケースの残留磁場による作動機構への影響が発生しないことについても十分な確認が必要である。他方、オーステナイト系ステンレス鋼において、Ni含有量を1.0質量%以下に、望ましくは0.2質量%以下に制限することにより、Niアレルギー防止対策としている低Ni生体用非磁性ステンレス鋼が開示されている(特許文献4)。しかしながら、特許文献4ではNi含有量の上限がなおも0.2質量%まで許容されているので、Niアレルギー発症防止の観点から一層のNi含有量の低下が望まれる。
なお、めがねフレームに使用される金属部材と腕時計バンド及びネックレス等の装身具乃至装飾品、又は衣料類部品とは、解決すべき課題が完全一致はしないが、Niアレルギーの発症阻止の点では課題が共通していること、及びめがねフレームに対する本願発明の課題を解決することにより装身具乃至装飾品に対する課題もめがねフレームに対する課題の解決に準じて解決するものと考えられる。但し、上記装身具乃至装飾品においては近年、特に成形性に優れているとの理由で粉末射出成形品が注目されており、粉末射出成形されたNi含有ステンレス鋼製部品の表面に、Cr、Ti、Zr、Hf、W若しくはAuから選ばれた金属、又は、Cr、Ti、Zr、Hf、W若しくはSiのいずれかの炭化物、窒化物若しくは酸化物である無機物の皮膜を形成させて、上記成形部品の表面を覆うという技術が開示されている。ここで、無機物の皮膜厚さとしては1〜20μm程度が好適であり、電解めっき、無電解めっき、CVD、PVD、プラズマCVD又はイオンプレーティング等によって行なうとよいとされている(特許文献5)。
特許文献5の技術によれば、複雑形状品、精密小型形状品又は難切削加工部材からなる成形品の製造に特にその有用性が認められ、成形品本体(ベース)の耐食性はNiの含有により確保し、一方、表面のみはNi非含有材料であって耐食性良好な材料を使用することによって、Niアレルギー対策を図り、且つ対汗耐食性を良好ならしめている。しかしながら、この特許文献5の技術では、常に高価な表面処理工程を実施することが必須要件となるという点において、工程上の制約を受ける。
[III] 厨房用器具又は食器類
最後に、第三の食材乃至調理品及び/又は調味料等と直接の接触状態で使用されるか、又は人体の口腔内部と接触状態で使用される厨房用器具又は食器類は、美観、耐久性特に耐衝撃破損性、耐熱衝撃破損性及び耐食性等の観点から、ステンレス鋼が素材として用いられているものが多い。これら素材のステンレス鋼としてはSUS304(Fe−18Cr−8Ni)その他であり、Ni含有ステンレス鋼の場合にあっては、厨房用器具例が煮物鍋やおでん鍋等においては、食材や調味料等の内容物、特に塩分と反応して溶出する恐れのある金属元素として、Niは人体にアレルギーを発症させる恐れがある。また、このよ
うなNiの溶出を伴なう場合には、当該厨房器具の腐食による美観劣化が起こる。一方、厨房器具例が醤油入れ(オイルポット)等であって、しかも比較的小形で複雑な形状を有する物の場合には、深絞り加工で成形されるので、所定水準の加工特性が要求される。かかる厨房用器具又は食器類を対象とする場合の例として、素材金属種をステンレス鋼の代わりにチタン製にして各種金属元素の溶出を抑制すると共に、深絞り加工時における組織の変質・劣化に伴なう耐酸性劣化による耐食性保持手段として、薄肉チタン板を所望形状に加工した後、シリカやアルミナ等の粉体を混入した耐食性塗料をコーティングして防護する技術が開示されている(特許文献6)。しかしながら、特許文献6では、素材のTi板を調製する過程において、酸化力が極めて強く且つ比較的高融点の金属Tiを溶解し熱間加工する工程を経て、更に塗装工程を必要とするという点において、製造工程が煩雑であるといった問題点がある。
次に、上述した特許文献1〜6の内、特許文献1〜5に記載の発明における使用金属材料はステンレス鋼である。通常、Mn含有量が過剰になると鋼の耐食性及び靱性が劣化する。この観点から上記各特許文献記載のステンレス鋼のMn含有量に注目すると、同文献1では2〜26質量%、同文献2では16〜20質量%、同文献3では0.4質量%以下、同文献4では15.0〜22.0質量%、同文献5では規定なしである(なお、特許文献6はチタン材料である)。ここで、同文献5におけるステンレス鋼は、粉末射出成形体に加工するものであるが、Mn含有量についての規定は特になく、記載もされていないので、ステンレス鋼全般についてのMn含有量に基づき推定すると、JIS及び実用ステンレス鋼を参照してそのMn含有量は、0.5〜10質量%程度の範囲内にあるものと想定される。従って、同文献1〜5に記載のステンレス鋼のMn含有量の最小値水準は、同文献3における0.4質量%以下ということになる。但し、同文献3によれば、Mnの脱酸作用及び硫化物形成による切削性向上作用発揮のために、Mn含有量の最小値は0.10質量%に制限することが望ましいとしている。これらはいずれも、当該鋼の溶製方法として非金属介在物量を特別に低減させるための手段に限定することには言及されていず、従って、通常の溶製方法である、転炉又は電気炉と真空脱ガス精錬炉との組合せにより得られた溶鋼の鋳造材(鋼塊又は連続鋳造鋼片)を鋼のスタート材としているものである。
以上より、上記金属材料の内、いずれのステンレス鋼においても、ステンレス鋼のMn含有量は、2質量%以上に規定されているか、又はMnS介在物を積極的に生成させ鋼中に残留せしめる場合の0.4質量%以下に規定されているかのいずれかであることがわかる。
上述した通り、従来の(1)生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具、(2)装身具乃至装飾品又は衣料類部品、並びに(3)厨房用器具又は食器類の内いずれかに用いられている金属材料には、それぞれの項目において上述したような種々の問題点がある。
平成14年日本歯科理工学会 北海道東北支部夏期セミナー講演予稿集 基調講演5.「最近の卑金属系歯科用合金の動向」 金属学会会報、第31巻、第12号 特開2001−252289号公報 特開2002−69587号公報 特開平10−60602号公報 特開平10−121203号公報 特開平6−299392号公報 特開平11−309057号公報
この発明は、以上の背景から、人体の安全性にも、また耐久性にも優れた生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具、装身具乃至装飾品又は衣料類部品、及び厨房用器具又は食器類の3種のいずれに対しても適用しうるステンスレ鋼材料を提供することを課題としている。
そしてまた、Niアレルギー発症防止のためステンレス鋼中のNi含有量を実質的に含有しない程度にまで低減し、且つNi含有量をそのように低減したにもかかわらず耐食性に優れると共に、強度及び靱性にも優れ、成形性と耐摩耗性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを発明の課題としている。
本願発明者等は、上記この発明の課題を解決するための検討及び実験研究を行なった。
(1)先ず、生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具に関して検討及び実験研究を行なった。この発明においては、Niアレルギーの発症防止のためにNi溶出量を従来技術におけるオーステナイト系ステンレス鋼のNi溶出量よりも一層低減させることができ、且つその他の各鋼特性値に十分優れていることを必要不可欠の前提条件とした。
そしてこの生体用金属材料の機械的特性としては、用途目的物への加工性に優れ、実際の生体環境での複雑な応力負荷形態に耐えることを、例えば軸方向加重とねじりとの両方を同時に負荷する組合せ応力下での静的試験及び疲労試験によりそれを明らかにすべきである。ここで、機械的特性要件の確認は、溶体化処理後における鋼の引張試験及び硬さ試験により、引張強さ、伸び、絞り及び硬さを測定し、これらが所定の水準を満たすことを確認することにより可能であるとの結論を得た。
本願発明者等は、鋭意実験研究を重ねた結果、上記前提条件と上記機械的特性要件とを同時に満たすためには、Ni含有量を実質的に零、即ち0.05質量%未満とすること、更に望ましくは0.01質量%未満にすることにより、あらゆる生体環境下でのNi溶出の問題を解消することが可能となり、更にMn含有量を1.50質量%以下に規定すること、望ましくは0.01質量%未満に低減させると同時に、オーステナイト相中の固溶窒素含有量を1.0質量%超え2.0質量%以下の範囲内に限定し、且つCa含有量を0.005質量%未満に規定することにより強度と靭性とを高水準に両立させて具備し、しかも生体擬似環境下における耐食性に優れた非磁性オーステナイトステンレス鋼を得ることが可能であるとの知見を得た。
ここで、Mn含有量を1.50質量%以下に規定し、更に望ましくは0.01質量%未満に規定すると共に、Ca含有量を0.005質量%未満に規定することにより、Mn系酸化物及びMn系硫化物を含む非金属介在物の量を著しく減少させ、しかもその形態を、凝固のままの状態においても、また加工後の状態においても、非金属介在物の最大寸法部分の短小化を図ることができる。更に、Ca系酸化物の量の減少をも図ることが可能となり、靭性の著しい向上に寄与すると共に、鋼表面の強固な不動態皮膜の欠陥原因となっていた鋼表面の非金属介在物の著しい減少により、耐食性が著しく向上することを知見した。
一方、上記化学成分組成を有するステンレス鋼の溶製方法は、加圧式ESR(エレクトロスラグリメルティング)装置において、超低Mn含有量条件下における超高N含有量実現のための窒素源の添加条件、積極的なAl添加は行なわないという条件下において実質的にCaによる単味脱酸方式において鋼中Ca含有量を適正値未満にコントロールするための金属カルシウムの添加条件、溶湯中の酸素ポテンシャル低下及び非金属介在物の溶融
スラグへの良好な分離条件を満たすための適切なスラグ組成、及び再溶解雰囲気の窒素ガス高圧力の適正化の開発により実現できることがわかった。
(2)次に、装身具乃至装飾品又は衣料類部品、並びに厨房用器具又は食器類に関して実験研究を行なった。本願発明者等は、上述した生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具と、基本的には使用される環境条件の相違とその際に要求される鋼の特性値の相違とに注目して、Niによるアレルギー発症の予防、並びに鋼の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼の化学成分組成について検討及び実験研究を行なった。使用環境については、装身具乃至装飾品又は衣料類部品の場合は直接又は間接的な人汗環境において、一方、厨房用器具又は食器類に関しては食材乃至食品中の主として塩分を含有する溶体環境において実験研究を行なった。その結果、これらの用途に用いる場合であっても、上述した生体用又は医療用のインプラント又は器具と同じ化学成分組成のオーステナイト系ステンレス鋼を金属材料として用いれば、所望するNi溶出問題の解消、及び優れた耐食性及び機械的性質の具備が得られることが判明した。従って、また溶製方法についても、生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具を対象とした場合に準じて実施することができるとの知見を得た。
この発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の特徴を有している。
本願の第1の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、
化学成分組成(質量%)として、
0<C≦0.08
0≦Si<0.50
0≦Mn≦1.50
15≦Cr≦30
0≦Ni<0.05
1≦Mo≦10
1.00<N≦2.00
0≦Ca<0.005
を含有し、そして残部がFe及び不可避不純物からなり、しかも、上記Cr、Mo及びNの各含有量は、次の(1)式:
PRE=(Cr含有量)+(Mo含有量)×3+(N含有量)×10
・・・・(1)
で表される耐食性指数(PRE)が、次の(2)式及び(3)式:
PRE>150×A ・・・・(2)、
PRE>3.5×D ・・・・(3)
但し、Aは鋼中非金属介在物の面積占有率(%)、Dは鋼中非金属介在物の最大直径(μm)である、
を同時に満たす化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有することに特徴を有するものである。
本願の第2の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1の発明に更に、その化学成分組成としてAlが、0.0005〜0.015質量%の範囲内で付加されて含有されていることに特徴を有するものである。
上記第1及び第2の発明において、Ca含有量として、0質量%の場合を含むものとしたが、本発明品は非金属介在物の清浄性が十分に良好であることを必須要件とする。従って、本発明のステンレス鋼溶製時において、脱酸剤として金属Alを使用しない場合には
、金属Ca添加による脱酸を行なったことを必要条件とし、Ca分析の精度上の問題に起因してCa含有量が0質量%と判定された場合を含むとの主旨である。
本願の第3の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1又は第2の発明において、上記非金属介在物の清浄特性が、(1)式:
PRE=(Cr含有量)+(Mo含有量)×3+(N含有量)×10
・・・・(1)
で表される耐食性指数(PRE)が、上記(2)式及び(3)式に代わって、次の(4)式及び(5)式:
PRE>500×A ・・・・(4)
PRE>5.0×D ・・・・(5)
を同時に満たすことに特徴を有するものである。
本願の第4の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第3のいずれかの発明において、上記Ca含有量を更に低めて、0.001質量%未満に規定することに特徴を有するものである。
本願の第5の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第4のいずれかの発明において、上記Ni含有量を更に低めて、0.01質量%未満に規定することに特徴を有するものである。
本願の第6の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第5のいずれかの発明において、上記Mn含有量を更に低めて、0.01質量%未満に規定することに特徴を有するものである。
本願の第7の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第6のいずれかの発明において、上記不可避不純物の内、P、S及びOの各含有量が、P:0.01質量%未満、S:0.002質量%未満、及び、O:0.003質量%未満の全てを満たすことに特徴を有するものである。
本願の第8の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第7のいずれかの発明に、更に、Cu:0.05〜1.0質量%を付加して含有することに特徴を有するものである。
本願の第9の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第8のいずれかの発明に、更に、質量%で、
0<W≦2.0
0<V≦2.0
のうちの1種以上を付加して含有することに特徴を有するものである。
本願の第10の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第9のいずれかの発明に、更に、Ce:0.01〜0.1質量%を付加して含有することに特徴を有するものである。
本願の第11の発明に係る耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼は、第1から第10のいずれかの発明において、上記Cr含有量を更に望ましい範囲として、20質量%以上25質量%以下の範囲内に規定することに特徴を有するものである。
本願の第12の発明に係る棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線は、第1から第11のいずれかの発明に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理を施された後におけるビッカース硬度が300超えで、引張強さが1000MPa超えである機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
上記において、棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線が上記ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなるとは、当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を出発材として従来知られている加工方法により成形されたものであることを意味する。以下の本願の発明に係る棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線についても同じであり、また以下の本願の発明に係る薄鋼板についてもこれに準じる。
本願の第13の発明に係る棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線は、第12の発明に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理を施された後における伸びが50%を超えて、絞りが70%を超える機械的性質を有する、耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
本願の第14の発明に係る棒鋼または鋼線材若しくは鋼線は、第1から第11のいずれかの発明に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理後における伸びが50%を超えて、絞りが70%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
本願の第15の発明に係る薄鋼板は、第1から第11のいずれかの発明に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理を施された後におけるビッカース硬度が300を超え、引張強さが900MPaを超えて降伏強さが700MPaを超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
本願の第16の発明に係る薄鋼板は、第15記載の発明の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理を施された後における伸びが12%を超えて絞りが10%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
本願の第17の発明の係る薄鋼板は、第1から第11のいずれかに記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ、溶体化処理を施された後における伸びが12%を超えて絞りが10%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
本願の第18の発明に係る薄鋼板は、第11に記載の発明の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理を施された後におけるビッカース硬度が300を超え、引張強さが900MPaを超えで降伏強さが700MPaを超え、そして溶体化処理後における伸びが35%を超えて、絞りが30%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることに特徴を有するものである。
本願の第19の発明に係る生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具は、第1から第18のいずれかの発明に記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、又は当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を素材とす
る前記棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は前記薄鋼板からなる鋼材が、少なくとも一部分に、素材乃至部品として用いられていることに特徴を有するものである。
なお、本願に係る発明の「ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼」とは、その形態が鋼塊、鋼片、鋳片、半成品及び成品の状態にあるもの全てのいずれかを指す。そしてこの「ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼」を素材とする棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は薄鋼板を一括して、又は1種以上を、「鋼材」ともいう。ここで、棒鋼、鋼線材(単に線材)及び鋼線並びに薄鋼板の定義は、JISに規定されたステンレス鋼製の棒鋼、線材、鋼線及び熱延鋼板・冷延鋼板に拠るものとする。
本願の第20の発明に係る生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具は、第19の発明において、上記インプラントが、成形外科用材料、接骨材料、人工関節用材料、脳外科用等のビス、並びに、義歯固設用インプラント、義歯用金属床及び義歯用磁性アタッチメント等の歯科治療用材料の内のいずれか一つであり、上記ステントが、人体内各所の閉塞した血管の拡張保持用ステントであり、そして、上記器具が、注射針、人体内各所の血管進入用カテーテル、並びに、手術用クリップ、手術用かん子及びメスの刃等の手術用器具の内のいずれか一つのものであることに特徴を有するものである。
本願の第21の発明に係る人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品、又は衣料類部品は、第1から第18のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、又は当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を素材とする前記棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は前記薄鋼板からなる鋼材が、少なくとも一部分に、素材乃至部品として用いられていることに特徴を有するものである。
本願の第22の発明に係る人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品、又は衣料類部品は、第21の発明において、上記装身具乃至装飾品が、めがねフレーム、腕時計のケース及びバンド、並びに、ネックレス、ピアス、イアリング、指輪、ブレスレッド、アンクレッド、鼻ピアス及び舌ピアス等の種々のアクセサリーの内のいずれか一つであり、そして、上記衣料類部品が、ファスナー、フック、ボタン、並びに防弾チョッキ乃至防弾服、防護面及びヘルメット等各種の防護衣料類に装着された護身素材の内のいずれか一つであることに特徴を有するものである。
本願の第23の発明に係る厨房用器具又は食器類は、第1から第18のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、又は当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を素材とする前記棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は前記薄鋼板からなる鋼材が、少なくとも一部分に、素材乃至部品として用いられていることに特徴を有するものである。
本願の第24の発明に係る厨房用器具又は食器類は、第23の発明において、上記厨房用器具が、鍋、フライパン、やかん、ポット、調理済み食品保温容器、包丁、計量容器、醤油差し等調味料容器及び調理台等の内の一つであり、そして上記食器類が、椀、皿、スプーン、ナイフ及びフォーク等の内のいずれか一つであることに特徴を有するものである。
この発明によれば、従来人体アレルギーの発症が問題視されている生体用若しくは医療用のインプラント、ステント若しくは器具、装身具乃至装飾品若しくは衣料類部品、又は厨房用器具若しくは食器類に用いられている金属素材に替わって、当該問題を解決すると共に、そのような用途における使用環境においても、従来品よりも著しく優れた耐食性、
強度、耐摩耗性及び延性を有し、また素材から各種製品を製造する際の加工性においても従来材よりも一層優れた金属材料としての新しいニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を提供することが可能となる。更に、かかる鋼を素材として用いることにより、人体アレルギーの発症問題を解決すると共に、従来品よりも耐食性、強度、耐摩耗性及び加工性に一層優れた上記用途分野の各種製品を提供することが可能となる。この発明によれば、上記鋼及びその製品を提供することが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
以下、この発明を詳細に説明すると共に、この発明の望ましい実施形態について説明する。
この発明は、大別して(1)生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具、(2)装身具乃至装飾品又は衣料類部品、及び(3)厨房用器具又は食器類という用途製品において、少なくともその一部分に素材乃至部品として用いられるステンレス鋼であって、これら3種の用途製品のいずれに対しても汎用的に有利に用いることができるものを基本とする。そのために、人体に対してNiアレルギーを発症させないようにするために、Ni含有量を実質的に零(0)にして(所謂ニッケルフリーにして)、上記3種の如何なる使用環境条件下においても溶出Niを実質的に消滅させ、しかも非磁性とすることによって各製品が使用状態において磁場の影響を受けず使い易くさせ、また耐食性を良好に保持するため、安定したオーステナイト系ステンレス鋼とするために必要な化学成分組成を有するものに限定してある。その上で、鋼乃至鋼材特性の内、耐食性及び所定の機械的性質を上記いずれの用途製品に対しても好適となるように創案したものである。また、本願発明者等は、かかる目的を達成するための化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼を得るために、従来の加圧式ESR(エレクトロスラグリメルティング)装置に改良を加えると共に、新しい溶解・精錬条件の開発により、所期の目的を達成するための改良された加圧式ESR技術を開発した。
先ず、この出願に係る全ての発明品において、そのステンレス鋼を構成すべき化学成分としては、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo及びNに加えて、Ca及びAlの2成分の内の少なくとも1成分が必要である。但し、Si及びMnは0質量%であってもよい。また、Caの含有量については次の通りである。即ち、当該ステンレス鋼の溶製段階において、脱酸剤として金属Alを添加した場合には、適量の金属Caを添加してもしなくてもよい。十分な脱酸が行なわれ、非金属介在物に関する良好な清浄性が実現されていればよいからである。しかし、脱酸剤として金属Alを添加しなかった場合には、脱酸剤として金属Caを添加して溶製したものであることが必須の要件である。但し、この場合、Caの分析技術の精度上から0質量%の場合を含むものとする。
以下、本発明品における化学成分組成を、第1〜第11の発明に記載された通りに限定した理由について述べる。
C(炭素):0を超えて0.08質量%以下
Cは、鋼の強度向上に寄与すると共に、オーステナイト相生成元素として有効であるが、反面鋼の耐食性及び靱性を損なう元素であるから、他の成分による強度確保及びオーステナイト相確保を前提とし、耐食性及び靱性確保の観点からはできるだけその含有量を低減すべきである。そして、C含有量は実質的に0質量%であっても、この発明が目標とするステンレス鋼は、以下に述べるその他の化学成分組成を満たすことにより達成され得る。しかしながら、C含有量を実質的に0質量%とするためには、ESRにおける電極調製用原材料のコストが著しく高くなるので、現実的には得策とはいえない。従って、本発明に係るステンレス鋼においては、C含有量は0質量%を含まないものとした。そして、この発明における材質特性を満たすため、及び製鋼プロセスにおけるステンレス鋼の製造性
を考慮すると、C含有量は上限値を0.08質量%未満まで許容すべきである。以上により、C含有量を0.08質量%未満(0質量%を含まず)に限定する。
Si(ケイ素):0から0.50質量%未満
Siは、脱酸剤として作用する元素であるが、その反面Siは脱酸生成物であるSiO2を生成させることにより非金属介在物の成長が助長されるので、耐食性の低下を招く。
またSiは、磁性を示すデルタフェライト相の生成を促進するので、この点からも低値に抑えるべきである。そこで、脱酸能を確保するために、脱酸元素として適量のCaを添加し、更に望ましくはCeを付加して添加する複合脱酸により、ESRプロセスにおける酸化物系介在物除去作用と相俟って、鋼中酸化物系非金属介在物を著しく低減することにした。その上で、製造性も考慮してSi含有量の許容値を0.50質量%未満とした。そして
、この発明においては、ESRという溶製プロセスであって、しかも後述するように、所定圧力のN雰囲気で溶解・精錬を行なうので、上記Caの脱酸操作を適切に行なう限り、Si含有量は実質的に0質量%であっても、十分な脱酸を行なうことができる。従って、Si含有量は0質量%でもよい。
なお、この発明においては、前述したようにN含有量を、従来例のステンレス鋼中N含有量と比較して極めて高含有量の1.0質量%超え2.0質量%以下に限定しているので、後述する本願発明者等が創案した改良加圧式ESR法(実施例の項において説明する。以下、同じ)により、N添加源として窒化ケイ素等のSiを含有する添加源物質は用いず、窒化フェロクロム合金や窒化クロム等を用いると共に、溶解精錬雰囲気の窒素ガス最大圧力を5MPaとし、且つ添加スラグ成分としてCaF2単味系を使用することにより、
溶湯からスラグへの非金属介在物の分離を促進すると共に、溶湯へのSiの混入源を制限して、Si含有量のコントロールを有利にした。以上により、Si含有量を0.50質量%未満(0質量%を含む)に限定する。
Mn(マンガン):0から1.50質量%以下
Mnは、Siと同様脱酸剤として作用する元素であり、またオーステナイト相の安定化に寄与する。更に、Mnは溶湯中のNの溶解度を高めるので、一般に高N含有鋼を製造しようとする場合には、これに対して極めて有効な元素である。この発明においても、N含有量を1.0質量%超え2.0質量%以下という高値に限定しているので、この観点からはMnを積極的に含有させることは、一見、極めて有利である。しかしながら、Mn含有量を増加させると、Si含有量の増加の場合に準じて、脱酸生成物であるMnOが酸化物系介在物の成長を助長する作用があるので、鋼の耐食性が低下すると共に、靱性も低下する。
そこで、この発明においては、Mn含有量をできるだけ低くすべきであることに着眼した。この着眼は、この発明の著しい特徴の一つである。この発明においては、Mnの脱酸作用に関してはSiと同様、添加量を制限しても脱酸能を確保することができるようにするために、適量のAl、Ca又はAlとCaのいずれかを添加して溶湯中の溶解酸素を極低値に低下させる。そして更に望ましくはこれにCeを付加して添加する複合脱酸により、その脱酸効果を一層発揮させて、酸化物系介在物を低減させるものである。
かかる制御された脱酸方法の採用により、本来脱酸機能を有するMnの含有量を更に低下させることが可能となり、望ましくはMn含有量を0.01質量%未満とすることができ、このようにすることにより、更にMn系酸化物を含む非金属介在物の量を減らし、しかも形態寸法を小さくすることができるので、本発明の鋼及び鋼材の耐食性向上に対して極めて効果的である。
また一層の酸化物系非金属介在物対策としては、上記Si含有量に関するところでも述べたように、適切な条件下での改良加圧式ESRプロセスで溶解・精錬を行なうものとした(この改良加圧式ESRプロセスの好適な溶解・精錬条件についての更に詳細な方法は、実施例の項で後述する)。
なお、ステンレス鋼におけるN添加は、オーステナイト相の安定化にも大きく寄与する。かくして、この発明においては、上述した耐食性及び靱性改善の観点に、改良加圧式ESRプロセスにおける製造性、特に消耗電極の成分上及び供給上の安定的調製を考慮して、Mn含有量を1.50質量%以下とした。ここで、Mn含有量の下限値については、Si含有率における場合と同様、この発明においては、ESRプロセスであって、しかも後述するように、所定圧力のN雰囲気で溶解・精錬を行なうので、上記Caの脱酸操作を適切に行なう限り、Mn含有量は実質的に0質量%であっても、十分な脱酸を行なうことができる。また、適切量のAl添加脱酸によっても、十分な脱酸を行うことができると共に、Al23含有介在物の生成を抑制し、残留量を極低下させることができる。
一方、MnSの生成量を抑制するためにも、Mn含有量を可能な限り低含有量とし、更に望ましくは、後述するように、S含有量を0.002質量%未満に規定することにより、MnS介在物の生成量を一層低下させることができるという、相乗効果も得られる。
従って、Mn含有量は0質量%でもよい。以上により、Mn含有量を1.50質量%以下(0質量%を含む)に限定し、望ましくは0.01質量%未満に限定する。
Cr(クロム):15〜30質量%
Crは、ステンレス鋼に耐食性を付与するための重要な構成元素であり、特に塩分等のCl-を含有する体液、汗、食品及びその他溶液の腐食環境における、耐局部腐食の抑制
を実現するためには、Cr含有量を15質量%以上とすべきである。しかしながら、Crはフェライト生成元素でもあり、過剰に含有させるとσ相等の金属間化合物が析出し易くなり、その結果、鋼の脆化を招く。従って、Cr含有量は30質量%以下にすべきである。一方、本発明者等は、本発明の化学成分組成の範囲内において、Cr含有量の極めて望ましい範囲として、20質量%以上25質量%以下の範囲内に規定することにより、溶体化処理後の薄鋼板における機械的性質として、強度が十分に確保された状態で、伸び及び絞りが著しく向上することを見出した。
そこで、本発明においては、Cr含有量を15〜30質量%に限定し、一層望ましくは20〜25質量%の範囲内に限定する。
Ni(ニッケル):0から0.05質量%未満、望ましくは0から0.01質量%未満
Niは、オーステナイト生成元素であるからオーステナイト相の安定化に寄与し、またNiは耐食性の向上にも有効である。しかしながら、この発明においては、Niアレルギーの発症を最大限に防止するために、Ni含有量を実質的に零(0)に近づけることにより、この発明の用途範囲内の如何なる使用環境においてもNiの溶出量を実質的に零(0)とすることを目標としている。従って、この発明では、Ni含有量を0.05質量%未満に限定する。そして更に望ましくはこれを0.01質量%未満に限定することにより、上記Niアレルギーの発症を極限まで防止する。ここで、Ni含有量は0質量%であっても、この発明においてNiを含有することにより得られる有利な作用・効果を、他の化学成分組成により十分に補完することができる限り、問題が無い上に、Niアレルギー発症の抑止という観点からみて、極めて望ましい。従って、この発明におけるNi含有量には0質量%を含むものとする。
Ca(カルシウム):0から0.005質量%未満
Caは、脱酸剤及び脱硫剤として有効である。従って、非金属介在物の低減に寄与して
、耐食性及び靱性の向上に寄与する。この発明に係るステンレス鋼のCa含有量は、本発明における改良加圧式ESRプロセスによれば、ESR鋼塊のCa含有量が、0.005質量%未満であっても、脱酸及び脱硫作用効果が十分発揮される。一方、Ca含有量の下限値は特に限定しない。そして、0質量%を含んでもよい。その理由は、Caの定量分析の検出限界とその精度を考慮すると、Ca含有量が極めて低い場合には、その分析値が所謂トレース(trace)と判定され、Ca含有量が0ppmと記載されることがあり得る。このように微量のCaが存在する状態における鉄鋼分析上の測定値が所謂トレース(trace)の場合において、極めてO含有量が低く、清浄性の極めて良好なステンレス鋼を排除するものではないからである。
本発明者等は、本発明者等が開発した後述する改良加圧式ESR法において、ステンレス鋼中のCa含有量とO含有量(T.O含有量)との間に図2に示すような関係があることを知見した。図2に示したように、Ca含有量がこのように低い範囲内においては、Ca含有量が減少しても、O含有量が低減していることから、この発明においては、Ca含有量の上限値を更に低めて、0.001質量%未満に規定することにより、一層非金属在物の清浄特性が向上するステンレス鋼が得られるので望ましい。
一方、Caの過剰添加は、CaN析出物の生成及び非金属介在物の残留量の増加を招き、耐食性の劣化をきたすので、これらを防止するためにも、Ca含有量の上限を0.005質量%に制限すべきである。
なお、この発明においては上述の通り、オーステナイト生成元素の内、Ni以外の元素の内、特にMn及びC含有量をもできるだけ低値に限定している。それにもかかわらず、この発明に係るステンレス鋼は、非磁性オーステナイト系ステンレス鋼に限定するというものである。その理由は、耐食性を可能な限り良好に保持すること、特にすきま腐食や接触腐食の一層の防止を図るために磁性フェライト系ステンレス鋼を避けること、歯科用磁性アタッチメントを構成する永久磁石構造体に形成される磁気回路からの磁気漏洩をできるだけなくすためにも、スペーサー(図5、符号18参照)を非磁性にすべきであること、及び腕時計のケース及びバンド等には、腕時計の作動機構に悪影響を与える恐れのある残留磁場を形成させないようにするために、非磁性ステンレス鋼を使用する方が望ましいこと、等による。かくして、Niを実質的に0質量%とする場合に問題となるオーステナイト生成元素の確保手段として、この発明においてはNの固溶量の下限を1.0質量%超えとすることにした。この発明においては、本願発明者等による改良加圧式ESR法を開発することにより、上記オーステナイト生成元素のMn及びC含有量を極力減らしながらも、Nの固溶量の下限を1.0質量%超えに限定することを可能とし、オーステナイト系非磁性ステンレス鋼に組織調整をすることを可能とした。なお、この発明においは前述した通り、Nの固溶量増大に有効なMnの含有量は、耐食性及び靭性の低下防止のために、上限を1.50質量%に制限し、望ましくは極めて低い0.01質量%未満がよい。
Mo(モリブデン):1〜10質量%
Moは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。しかしながら、その含有量が1質量%未満では、その効果は十分ではない。一方、MoはCrと同様フェライト生成元素でもあり、その含有量が10質量%を超えると、金属間化合物の生成が著しくなり、鋼の脆化を招く。従って、Mo含有量を1〜10質量%に限定する。
N(窒素):1.00質量%超え2.00質量%以下
Nは、固溶状態のNが塩分等のCl-を含有する体液、人汗、食品及びその他溶液の腐
食環境における耐食性の向上に有効であり、更に、オーステナイト生成元素でもある。特に、この発明においてはオーステナイト生成元素の確保手段としても、極めて大きな役割を担っている。かくして、オーステナイト結晶構造の安定化を図るためには、N含有量の
下限は1.00質量%超えにすべきである。また、N含有量を高めることは、強度向上にも寄与する。しかしながら、N含有量が2.00質量%を超えると、特にCr窒化物の生成が助長され、Cr含有量の低下によるCr酸化物皮膜の減少により耐食性が却って低下する、即ち、特にCl-を含有する腐食環境における耐食性が却って低下し、また、靭性
も低下する。従って、N含有量を1.00質量%超えから2.00質量%以下の範囲内に限定する。なお、この発明に係るステンレス鋼の化学成分組成の下で、N含有量をこのように高水準値にコントロールすることが可能となったのは、本願発明者等により、従来の加圧式ESR法に改善を加えて改良加圧式ESR法を開発したことによる。
Cr、Mo及びNの各含有量は、上記範囲内であって且つ次の(1)式で表わされる耐食性指数(PRE)が、次の(2)式及び(3)式:
PRE=(Cr含有量)+(Mo含有量)×3+(N含有量)×10
‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
PRE>150×A ‥‥‥‥‥‥‥‥(2)
PRE>3.5×D ‥‥‥‥‥‥‥‥(3)
を満たすことが必要である。但し、Aは鋼中非金属介在物の面積占有率(%)、Dは鋼中非金属介在物の最大直径(μm)である。耐食性指数と鋼中非金属介在物の面積占有率及び最大直径との関係について述べる。ステンレス鋼は、鋼表面に強固な不動態皮膜を生成するため、耐海水腐食性を有する。従って、生体材料等として使用された環境条件においても、耐食性を発揮し、金属の溶出を抑制する。
しかしながら、鋼中に酸化物、硫化物等の非金属介在物が存在すると、この非金属介在物が鋼の皮膜欠陥となり、耐海水腐食性を劣化させる原因となり、生体材料等としての使用環境においても金属溶出の原因となる。この耐海水腐食性劣化等の程度は、上記(1)式:PRE=(Crの質量%)+(Moの質量%)×3+(Nの質量%)×10で規定される耐食性指数(PRE)と、鋼中非金属介在物の面積占有率(A%)及び鋼中非金属介在物の最大直径(Dμm;但し、長径と短径が存在する場合には、長径の最大径をDとする。)とに依存する。
上記(2)及び(3)式の規定は、鋼中非金属介在物の面積占有率(%)A、及び鋼中非金属介在物の最大直径(μm)Dを、更に小さく規定することにより、下記(4)及び(5)式:
PRE>500×A ‥‥‥‥‥‥‥‥(4)
PRE>5.0×D ‥‥‥‥‥‥‥‥(5)
で示すように非金属介在物の清浄特性を一層厳しくすることにより、上記耐海水腐食性劣化等を一層良好に抑止することが可能となる。
ステンレス鋼の海水環境下での使用を実用的なものとする良好な耐海水腐食性を実現するためには、従って、塩分等のCl-を含有する体液、人汗、食品及びその他溶液の腐食
環境における、良好な耐局部腐食の抑制を実現するためには、前記(1)式及び(2)式を共に満足することが必要である。即ち、耐食性指数(PRE)が、鋼中非金属介在物の面積占有率(A%)との間に、PRE>150×Aなる関係が満たされ、且つ鋼中非金属介在物の直径(Dμm)との間に、PRE>3.5×Dなる関係が満たされることが必要である。更に望ましくは、上記(3)式及び(4)式を共に満足すべきである。
ここで、鋼中非金属介在物の面積占有率の測定方法は、例えば、次の通り行なえばよい。即ち、鍛造乃至圧延方向に平行な断面を鏡面に研磨し、光学顕微鏡を用い、倍率1000倍、視野数150視野において、視野中最大の非金属介在物の直径(Dμm)を測定し、また、その画像の画像解析から面積占有率(A%)を求める。
なお、必須成分の内、Cr、Mo及びNについては、次の点に留意すべきである。即ち、Cr、Mo及びNを多量に含有すると、ステンレス鋼の製造性、加工性及び溶接性の低下を招き、鋼特性値に少なからず影響を与え、また、ステンレス鋼の価格は高価であって製造コストを上げるということである。従って、耐食性指数(PRE)の値は、Cr、Mo及びNの各含有量上昇を抑制するために、上記(2)及び(3)式を満たす範囲内において、小さい方が望ましい。かかる観点から、(2)式及び(3)式に基づき、鋼中非金属介在物の面積占有率(A%)及び最大直径(Dμm)は、A<0.3%、且つD<15μmであることが好ましい。
この発明においては、ESR鋼塊の溶製に際して、溶湯の脱酸はCa主体により行ない、ESR鋼塊の酸化物系非金属介在物の清浄性をできるだけ高水準に確保するために、Alによる複合脱酸は避けた方が望ましい。従って、この発明においては、Al含有量は特に限定しないが、消耗式ベース電極製造段階における溶製段階で必要なAl残留量の許容により混入する程度の含有量に留めておく。このような観点から、ESR鋼塊中のAl含有量は、0.0005〜0.015質量%の範囲内に有ることが望ましい。
ここで、本願に係るステンレス鋼及び鋼材に対して、C、Cr、Mo、N及びCaは必須成分元素である。一方、Si及びMnはESRの消耗式ベース電極(これに、N添加源用の合金、及び脱酸用Caと合体させてESR電極を製作する)を溶製する際の溶鋼脱酸元素としては有効である。この場合には、Si及びMnの酸化物系非金属介在物を溶鋼から十分に分離・除去して清浄化する必要があり、Si及びMn含有量は低値を示す。また、上記消耗式ベース電極を真空溶解炉で調製したり、あるいは真空精錬炉を用いて溶製すれば、Si及びMnの積極的添加は不要となる。そして、ESR溶解時の本脱酸は消耗式電極に合体されたCaにより行なう。従って、Si及びMn含有量は、上記消耗式ベース電極の溶製プロセスに応じて、Si及びMn系酸化物含有量が低くなるように、適宜制御する。
また、鋼の溶製工程において不可避的に混入する元素の内、P、S及びO含有量は極力低いことが望ましい。かかる観点から、化学成分組成の範囲を総合的に決定し、且つ耐食性指数(PRE)が非金属介在物の清浄性及び大きさにより上述の通り規定された、この発明に係るステンレス鋼を溶製する方法としては、加圧式ESR法において、特に、超高含有のNのための添加方法及び高清浄鋼溶製のためのCa主体の脱酸方法が重要である。そのためには、例えば次の通り創案された改善ESR操業を行なえばよい。
先ず、円柱状の消耗式ベース電極の外周部に所定深さと幅とを有する複数本の溝を鉛直方向に複数本形成し、この内、所定の溝の中に、この溝に沿って所定重量のCaワイヤを挿入し、更に、各溝に嵌合させるように、N添加源を収容した下記鋼製パイプをセットする。即ち、所定成分のステンレス鋼製パイプにN添加源として例えば窒化フェロクロム(FeCrN)粉末を所定の充填密度で真空封入・封止し、真空炉で900℃前後で焼結させて、このN添加源が収容された鋼製パイプを調製して上記溝にセットする。このようにセットされたこのN添加源収容パイプを、上記消耗式ベース電極に溶接で接合・固設して、ESR用の窒素添加型消耗式電極を調製する。但し、上記窒化フェロクロム粉末のパイプへの封入量と消耗式ベース電極の化学成分組成とは、溶製すべきESR鋼塊の化学成分組成を考慮し、適正に調整しておくと共に、加圧式ESRの溶解・精錬雰囲気を例えば0.1〜5MPa程度の範囲内で、適切な圧力の窒素ガス雰囲気に調整する。なお、上記電極の溶解・精錬期に、上記Caワイヤは窒素雰囲気中にて溶解するので、雰囲気による酸化が防止されると共に、徐々に溶湯に添加されつつ、脱酸反応に寄与する。
一方、ESRスラグとしては、添加スラグとして例えばCaF2単味系を使用する。こ
れにより、溶湯からスラグへの非金属介在物の分離を促進すると共に、溶湯へのSiの混
入源を制限して、Si含有量の上限コントロールを有利にすることができる。SiO2
分は、ESR鋼塊のSi含有量調整を容易にするために、またAl23成分は、ESR鋼塊のAl含有量調整のために添加しない。
かかる条件下で適宜、加圧式ESR装置を運転することにより、上記所望の化学成分組成を有するESR鋼塊を溶製することができる。なお、N添加源物質としては、窒化フェロクロム(FeCrN)に限定されず、クロム窒化物(CrN)等の無機窒素であればよい。但し、Mn及びSiの混入を避けるために、少なくともいずれかの元素でも含有する窒化フェロマンガン(FeMnN)及び窒化ケイ素(SiN)等は使用しない。
この発明において、化学成分組成を限定すべき必須成分は、上述の通りC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、N及びCaである。しかしながら、耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に一層優れたステンレス鋼又はこのような鋼が用いられた各製品を製造するために、更に不純物としてのP、S及びOを、そして更には有効元素としてのCu、W及びV、並びにCeの各含有量を下記の通り限定する。
P(リン):0.01質量%未満
Pは、結晶粒界に偏析し、耐食性の低下を招き易く、また靱性の低下を招く。従って、その含有量は少ない方が望ましい。しかしながら、必要以上の低減はコスト上昇をきたすので、製造性を考慮すれば、上限を0.01質量%未満まで許容すべきである。従って、P含有量を0.01質量%未満に限定する。
S(硫黄):0.002質量%未満
Sは、耐食性及び熱間加工性を低下させる。この発明においては、Mn含有量を1.50質量%以下に規定し、望ましくは0.01質量%未満とする。従って、MnS系非金属介在物の生成量は多くはないが、CrS系非金属介在物の生成も極力低減させて、耐食性の向上を一層図るために、S含有量を極力少なくすべきである。しかしながら、S含有量を極低水準に制限すると、脱硫コストが大きく上昇するので、製造性を考慮して上限を0.002質量%未満まで許容する。即ち、S含有量を0.002質量%未満に限定する。
O(酸素):0.003質量%未満
Oは、酸化物系非金属介在物の成長を助長して、耐食性の低下を招くので、その含有量は極力少なくすることが望ましい。しかしながら、製造性も考慮する必要があり、O含有量の上限を0.003質量%未満まで許容する。即ち、O含有量を0.003質量%未満に限定する。
以上の化学成分組成を有するステンレス鋼中の不可避不純物元素であるP、S及びOの全ての各含有量を、以上の通り限定することにより、この発明に係るステンレス鋼の耐食性、靱性及び熱間加工性が一層優れたものになる。
Cu(銅):0.05〜1.0質量%
Cuは、塩分等のCl-を含有する体液、汗、食品及びその他溶液の腐食環境における
、耐局部腐食の向上に有効な元素であり、しかも抗菌性を発揮する元素ある。しかしながら、その含有量が0.05質量%未満では、上記局部腐食の抑制効果が十分ではない。一方、その含有量を1.0質量%を超えると熱間加工性が劣化する。従って、Cu含有量を0.05〜1.0質量%の範囲内に限定する。
以上の化学成分組成を有するステンレス鋼に、更にCu含有量を以上の通り限定して含有させることにより、この発明に係るステンレス鋼のCl-含有溶体における耐局部腐食
性が一層優れたものになる。
W(タングステン):0から2.0質量%以下及び、
V(バナジウム):0から2.0質量%以下
Wは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。しかしながら、その含有量が過剰になると、WはCrと同様フェライト生成元素であるため、金属間化合物の生成が著しくなり、鋼の脆化を招く。従って、W含有量は2.0質量%以下に限定する。なお、望ましくは、その効果を十分に発揮させるためには、その含有量が1質量%以上であることがよい。ところが、一方、Vは、塩分等のCl-を含有する体液、汗、食品及びその他溶液
の腐食環境における、耐局部腐食の向上に有効な元素である。しかしながら、その含有量が過剰になると、鋼の熱間加工性を阻害する。従って、V含有量は2.0質量%以下に限定する。なお、望ましくは、その局部腐食の抑制効果を十分に発揮させるためには、その含有量が1質量%以上であることがよい。
以上の化学成分組成を有するステンレス鋼に、更にW及びVの内、1種以上の含有量を以上の通り限定して含有させることにより、この発明に係るステンレス鋼の耐食性又は/及びCl-含有溶体における耐局部腐食性が、更に一層優れたものになる。
Ce(セリウム):0.01〜0.10質量%
Ceは、脱酸剤及び脱硫剤として有効である。従って、非金属介在物の低減に寄与して、耐食性及び靱性の向上に寄与する。しかしながら、その含有量が0.01質量%未満では、上記効果が十分ではない。一方、Ceの過剰添加は鋼の熱間加工性を阻害するので、0.10質量%未満に制限すべきである。従って、Ce含有量を0.01〜0.10質量%の範囲内に限定する。
以上の化学成分組成を有するステンレス鋼に、更にCe含有量を以上の通り限定して含有させることにより、この発明に係るステンレス鋼の耐食性及び靭性を、更に一層向上させることができる。
ところで、一般にオーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼に、オーステナイト組織を安定化させる作用を有する元素を添加して得られ、得られたステンレス鋼の化学成分組成により異なるが、約1010〜1180℃程度までの間の所定温度において十分に加熱した後、急冷することにより、含有する炭化物をオーステナイト組織に溶け込ませることにより製造され、これによりオーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れ、且つ非磁性であるという特殊な性質が具備される。オーステナイト系ステンレス鋼の機械的性質は、一般に鋼の合金成分が固溶体に溶解する温度以上に鋼を加熱し、十分時間を保持し、急冷してその析出を阻止する操作を行なった後、即ち溶体化処理を施した後の試験片について得られた試験値で評価される。
この発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の一層望ましい形態は、上述した通り限定された化学成分組成を有する全ての場合のステンレス鋼材であって、溶体化処理後の機械的特性値について、ビッカース硬度が300超えであり、且つ引張強さが1000MPa超えであることを満たすものがよい。かかる機械的性質を有するステンレス鋼材は、通常使用されているオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、JIS G4303、G4304、G4305の中のオーステナイト系ステンレス鋼)の機械的性質の水準値、特に硬度及び引張強さの水準値よりも大きく超えているので、この発明の鋼材がこの発明で目標とする各種用途に供された場合に、その用途製品は一層優れた使用成績を収めることができるからである。
この発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の他の一層望ましい形態は、上述の通り限定された化学成分組成を有する全ての場合のステンレス鋼材であって、溶体化処理後
の機械的特性値について、更に伸びが50%以上であり、且つ絞りが70%以上であることを満たすものがよい。かかる機械的性質を有するステンレス鋼材は、通常使用されているオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、JIS G4303、G4304、G4305の中のオーステナイト系ステンレス鋼)の機械的性質水準値よりも、特に伸び及び絞りの水準値よりも大きく超えているので、この鋼材がこの発明で目標とする各種用途に供された場合に、その用途製品は一層優れた使用成績を収めることができるからである。
この発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の更に他の一層望ましい形態は、上述の通り限定された化学成分組成を有する全ての場合のステンレス鋼材であって、溶体化処理後の機械的特性値について、ビッカース硬度が300超えであり、引張強さが900MPa超えで且つ降伏強さYSが700MPaであることを満たすものがよい。かかる機械的性質を有するステンレス鋼材は、通常使用されているオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、JIS G4303、G4304、G4305の中のオーステナイト系ステンレス鋼)の機械的性質の水準値、特に硬度、引張強さ及び降伏強さの水準値よりも大きく超えているので、この発明の鋼材がこの発明で目標とする各種用途に供された場合に、その用途製品は一層優れた使用成績を収めることができるからである。
この発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の更に他の一層望ましい形態は、上述の通り限定された化学成分組成を有し、溶体化処理後の機械的特性値について、上記ビッカース硬度、引張強さ及び降伏強さを有するステンレス鋼材であって、しかも、伸びが12%で且つ絞りが10%であることを満たすものがよ
く、更に望ましくは伸びが35%以上で絞りが30%以上のものがよい。かかる機械的性質を有するステンレス鋼材は、通常使用されているオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、JIS G4303、G4304、G4305の中のオーステナイト系ステンレス鋼)の機械的性質水準値よりも、硬度、引張強さ、降伏強さ、並びに伸び及び絞りのいずれにおいてもその水準値よりも大きく超えていることから、強度、靱性、成形性及び耐摩耗性に優れているので、この鋼材がこの発明で目標とする各種用途に供された場合に、その用途製品は更に一層優れた使用成績を収めることができるからである。
この発明に係る上述の通り限定された化学成分組成を有するか、又は上述の通り限定された化学成分組成及び溶体化処理後の機械的性質を有する全ての場合のステンレス鋼又はステンレス鋼材は、これらの内のいずれであっても、生体用又は医療用インプラント、ステント又は器具、装身具乃至装飾品又は衣料類部品、及び厨房用器又は食器類のいずれの製品用途に対しても、それぞれの少なくとも一部分に素材乃至部品として、極めて好適に且つ従来のステンレス鋼に比べて優位に用いることができる。
ここで、生体用又は医療用インプラント、ステント又は器具としては、具体的に次のものが好適である。先ず、生体用又は医療用インプラントとしては、成形外科用に比較的短期間人体内部に使用される金属材料、永久的乃至半永久的に人体内部に使用される接骨材料や人工関節用材料、また脳外科で頭骨接合等に使用されるビス、歯科治療用材料として使用される義歯固設用インプラント、義歯用金属床及び義歯用磁性アタッチメント等、各種の歯科治療用インプラント材料に適用される。生体用又は医療用ステントとしては、心臓の血管や脳の血管等人体内部各所の血管で閉塞したり狭隘化した部位を拡張保持するために、当該疾患部内部に固設される網目状円筒固設体又はパイプ状固設体の材料に適用される。そして生体用又は医療用器具としては、各種注射針、人体各所の血管進入用カテーテル、更には手術用の各種器具の内、止血用クリップ、縫合時用クリップ、手術用かん子及びメスの刃等に適用される。
また装身具乃至装飾品又は衣料類部品としては、具体的に次のものが好適である。装身具乃至装飾品としては、めがねフレーム、腕時計のケース及びバンド、また種々のアクセ
サリーの内、ネックレス、イアリング、指輪、ブレスレッド、アンクレッド等、人体の皮膚表面に直接接触しつつ使用され、かつ人汗を介して皮膚と接触するものから、ピアス、鼻ピアス、舌ピアス、へそピアス等、人体の皮膚表面又は粘膜に直接接触しつつ、同時に生体内部環境に曝されるものまで、いずれにも適用される。そして衣料類部品としては、ファスナー、フック、ボタン等の衣料部品であって、直接乃至人汗を介して間接的に皮膚に接触するものから、防弾チョッキや防弾服、あるいは防護面やヘルメット等各種の防護衣料類にとりつけられて護身用に用いられている金属材料のように、人汗を介して間接的に人体皮膚と接触するものまでに適している。
そして厨房用器具又は食器類としては、具体的に次のものが好適である。厨房用器具としては、鍋、フライパン、やかん、ポット、調理済み食品保温容器、包丁、計量容器、醤油差し等調味料容器及び調理台等、食材乃至調理品や調味料等と直接接触しつつ、常温あるいは100℃以上300℃以下程度の温度で使用されたりするものに適しており、そして食器類としては、椀、皿、スプーン、ナイフ及びフォーク等、調理品と直接接触しつつ、口腔内粘膜と直接接触しながら使用されものに適している。
上述したように、この発明に係るステンレス鋼又はステンレス鋼材が、上記いずれの用途の製品に対しても好適且つ優位に用いることができる理由は、当該鋼又は鋼材が、実質的にNiを含有しないNiフリーのオーステナイト系ステンレス鋼であって、且つ鋼中非金属介在物低減を実現するための化学成分組成の創案と、かかる化学成分組成を有するステンレス鋼溶製を実現するための溶製プロセスの開発とにより、上記いずれの製品の使用環境においてもNiの溶出が実質的に零(0)であるために、Niアレルギーの発症防止が可能となり、しかも耐食性並びに強度、成形性及び耐摩耗性に優れたステンレス鋼であることによる。
上述したこの発明に係るステンレス鋼又は鋼材を素材として、この発明に係る生体用若しくは医療用のインプラント、ステント若しくは器具、装身具乃至装飾品若しくは衣料類部品、又は厨房用器具若しくは食器類からなる製品群を製造する。先ず、上記素材としてのステンレス鋼は、化学成分組成の特徴を満たすために効率的な溶製方法であるESR法を採用し、しかも所要の化学成分組成のESR鋼塊を実操業において溶製するために、ESR装置を改良すると共に、改良型消耗型電極を調製するとともに、適正な操業条件に制御する。これら全ての改良技術を採り込んだESR法を、この出願においては、「改良加圧式ESR法」という(後述の実施例の項に記載した通りである)。
改良加圧式ESR法により溶製されたESR鋼塊を、上記各種製品に応じて、薄板、棒、線のいずれかの形態に、熱間圧延、熱間鍛造、熱間押出、冷間圧延、冷牽及び冷間引抜き等の群から選ばれた一以上の従来技術で加工する。ここで、素材の形態とその素材から製造される製品種類との組合せ関係は、従来技術において採用されているものを考慮して採用する。例えば、心臓の血管や脳の血管等人体各所の血管を拡張保持するために血管の疾患部内部に固設される網目状のステント、医療用の注射針あるいはめがねフレーム等の製造用素材としては、線が適しており、腕時計のケース又はバンド、調理用鍋あるいはスプーン等の素材としては、薄板が適しており、そして接骨材料あるいは人工関節用材料としての素材としては、棒が適している。そして、各素材からこの発明に係る各種製品を製造する方法は、当該各種製品をオーステナイト系ステンレス鋼、例えばSUS316L等を素材として製造している従来技術を採用することができる。この発明に係る各種製品の素材は、全て、安定したオーステナイト系ステンレス鋼で構成されているからである。
以上の説明に沿うものとして、以下に発明の実施例を説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
まず、この発明を実施例に基づいて更に詳しく説明する。先ず、この発明の範囲内に属する実施例の化学成分組成を有するステンレス鋼塊を溶製するために好適な、ESR法(エレクトロスラグリメルティング法)による溶製装置(ESR装置)及び溶製方法を説明する。なお、この出願においては、以下に述べるESR装置の改良、改良型消耗式電極(窒素添加型消耗式電極)の調製、及び各種操業条件(スラグ組成の調整、溶解・精錬における雰囲気窒素ガス圧力制御、脱酸方法等)等を総合的に適用してESR鋼塊を溶製する方法を、「改良加圧式ESR法」という。
上記実施例のESR鋼塊は、従来の加圧式ESR装置における溶解・精錬反応の雰囲気加圧機構・能力及びESR本体外殻の耐圧能力を増強することにより、溶解・精錬期のN2ガス雰囲気圧力を、0.1〜5MPa程度の範囲内において調整可能に改造した装置で
溶製した。ここで、消耗式電極として、次に述べる工程で製作した改良型消耗式電極である窒素添加型消耗式電極をセットし、スラグとしてCaF2単味のプリメルトスラグ、又
はCaF2+CaOの2成分のプリメルトスラグを使用し、上記窒素添加型消耗式電極を
溶解原料とする再溶解・精錬を行ない、この実施例が目標とする化学成分組成を有する100mmφ×約320mm高さのNiフリー、極低Mn、超高N、且つ非金属介在物に関して高清浄の20kgESR鋼塊を溶製した。その際、このESR鋼塊のN含有量を目標値の超高水準に調整するための基本操作として、(1)上記窒素添加型消耗式電極表層部に固設した窒素添加体に含まれるN含有量とその電極表層部の窒素添加体分布の対称性維持、(2)溶解・精錬期のN2ガス雰囲気圧力の制御、及び(3)溶解・精錬温度の制御
により行なった。また、高清浄鋼溶製の基本的手法は、溶湯の金属Ca主体による強脱酸、又は金属Al主体による強脱酸を基本とし、更に望ましくは、適量の金属Ceを付加した複合脱酸も採用した。なお、Ca添加量は、消耗式電極重量に対して0.6〜0.8質量%の範囲内において、金属Caワイヤーを消耗式電極に組み込んで取り付け調製し、更に、溶融スラグの成分組成については、スラグの酸素及び硫黄のポテンシャルの極低下及び流動性の適正化を図ることにより、脱酸生成物及び脱硫生成物の溶湯(溶鋼)バルク乃至溶滴から溶融スラグ相への浮上・分離除去の促進及び溶湯バルクの再酸化防止を図った。なお、Ca及びCeには、脱硫作用も行なわせた。
ここで、実施例用ESR鋼塊の原料とする上記窒素添加型消耗式電極の製作工程及びその性状・形態について述べる。窒素添加型消耗式電極は、溶製すべきESR鋼塊の成分の内、特にN含有量を最大2.0質量%までの複数の所望含有量水準に調整するために有効な性状・形態を備えたものである。図1(a)及び(b)のそれぞれに、Ca添加のときの窒素添加型消耗式電極の斜視概略図及びその水平方向断面図を示す。窒素添加型消耗式電極1は次の通り製作した。円柱状の消耗式ベース電極2の外周部長手方向に複数本の溝3(同図では8本である)を成形加工し、その内部に、先ず金属Caワイヤ5を当該溝3に沿って挿入し、更に、この金属Caワイヤ5を円柱状の窒素添加体4で外側から押さえ込むようにして、その溝3の内部に嵌合し、窒素添加体4を消耗式ベース電極2に溶接接合で固設し、合体させた。このように、Caを添加(固設)した場合は、脱酸材としてのAlは添加せずにCa単味で脱酸した。また、Ceの添加ヒートにあっては、Caの添加方法に準じて行なった。また、脱酸材として、金属Caを添加せずに金属Alの添加によるAl単味脱酸によるESR鋼塊の溶製も、上記に準じた方法で行なった。
ここで、消耗式ベース電極2とは、ESR鋼塊溶製用の主要原料に相当するものであり、真空誘導溶解炉で溶製した清浄性の良好な鋼塊から調製した。この鋼塊の化学成分組成は、溶製すべきESR鋼塊の目標化学成分組成に対する、窒素添加体4、金属Caワイヤ5(Ce添加ヒートにあってはCeも含む)又は金属Al、スラグ組成並びに溶製時窒素雰囲気圧力等を考慮した、Niを実質的に含有しない化学成分組成に設定した。
また図1(b)は、図1(a)の水平方向概略断面図であり、上記窒素添加体4の構成は、ステンレス鋼製パイプ6の内部にクロム窒化物(CrN)粉末が真空充填・封入され、真空焼結されたもの7であるものを示す。
上記窒素添加体4の調製方法について更に述べる。窒素添加源物質としてクロム窒化物(CrN)粉末(N含有量:20質量%)の微粉末(粒径:5μm以下)を用い、所定寸法のSUS403ステンレス鋼製パイプ6の一端を封じ、この内部に、充填密度3.2g/cm3で充填し、その後10-3torr以下の圧力に減圧し保持しながら、パイプの他
端を溶接で封止した。次いで、こうして得られた調製体を真空炉内で900℃においてクロム窒化物を焼結し、窒素添加体4を調製した。こうして得られた、内部にクロム窒化物の焼結体7が充填形成された窒素添加体4を、予め準備しておいた溝3加工付き65mmφの消耗式ベース電極2の外周部に形成されている複数本の溝3のそれぞれに、上述した通り取り付けて、窒素添加型消耗式電極1を製作した。
上記窒素添加型消耗式電極1において、消耗式ベース電極2の化学成分組成の設定、SUS403ステンレス鋼製パイプの化学成分組成及び寸法の選定、及び窒素添加体4の固設本数を、本発明の範囲内に属する実施例用のステンレス鋼の目標化学成分組成を有するESR鋼塊を溶製し得るように適宜決定した。
以上のようにしてESRにより溶製された実施例鋼塊6個(実施例鋼塊No.1、2、3、4、5、6という)の化学成分組成を、表1に示す。
Figure 2007051368
この中で、特にN含有量に関しては、本願発明者等により開発された改良加圧式ESR法により、Mn含有量が実質的にフリーの微少含有量であるにもかかわらず、N含有量が
1.00質量%超えの超高含有量の所定値にコントロールされており、また、適切なCa単味添加による脱酸及び脱硫処理、CaとCeとの添加による複合脱酸及び複合脱硫処理、又はAl単味添加による脱酸、並びにCaF2単味系溶融スラグ又はCaF2−CaO系溶融スラグを用いたESR精錬により、O含有量を0.0008〜0.0026質量%の極めて低い水準にまで低減させ、Ca含有量も0.0005〜0.0038質量%の範囲内に制御し、極めて高清浄な鋼が得られている。なお、Ca、又はCaとCeとの添加によりO及びS含有量のみならず、P含有量も著しく低減している。
こうして溶製された表1に示した化学成分組成を有する実施例鋼塊No.1、2、3、4、5、6については、それぞれを熱間鍛造し、次いで熱間圧延して、実施例鋼塊6については板厚:15mm、板幅:70mmの熱延板に仕上げ、実施例鋼塊1、2、3、4、5については更に、それぞれを冷間圧延して板厚:1.0mm、板幅:70mmの薄板に加工した。
更に、実施例鋼塊No.1、2、3については、上記熱間鍛造材の一部を採取し、熱間圧延及び伸線加工を経て、線径:1.0mmの冷間圧造用ステンレス鋼線に調製した。
こうして調製された薄板及び鋼線に対して、1230℃で15分間の加熱を施した後、水冷して溶体化処理を施した。こうして実施例鋼塊No.1、2、3、4、5のそれぞれから得られたステンレス冷延薄鋼板を、それぞれ実施例1A、2A、3A、4A、5A、実施例鋼塊No.6から得られたステンレス熱延鋼板を、実施例6Aといい、そして、実施例鋼塊No.1、2、3のそれぞれから得られたステンレス鋼線を、それぞれ実施例1B、2B、3Bという。
〔比較例用供試体〕
一方、比較例用供試材として、SUS316Lに属する化学成分組成を有する市販の板厚1.0mmの冷間圧延ステンレス鋼板(比較例1Aという)、及び市販の線径1.0mmの伸線ステンレス鋼線(比較例2Bという)の各化学成分組成を前記表1に併記した。
比較例1A及び比較例2Bのいずれに対しても、上記実施例と同様、1230℃で15分間の加熱後、水冷して溶体化処理を施した。
[確性試験項目]
この発明に係る各種製品が、医療用のインプラント、ステント若しくは器具、装身具乃至装飾品若しくは衣料類部品、又は厨房用器具若しくは食器類と、極めて多岐にわたっているので、本発明に係るステンレス鋼がこれらすべての製品に対して好適なステンレス鋼であることを明らかにするために、下記の各種試験を行なった。確性試験として、
(1)顕微鏡等による金属組織試験及び鋼中の非金属介在物測定試験(非金属介在物の清浄性及び最大長さの測定)
(2)耐食性試験として、
(2−1)金属の溶出試験 (2−2)すきま腐食試験、
(3)機械的性質試験
を、製品用途を考慮して、実施例及び比較例について適宜行った。
[金属組織試験]
実施例1A〜6A、実施例1B〜3B、及び比較例1A、2Bの全てについて行なった。
実施例の化学成分組成はいずれも、オーステナイト生成元素のNi含有量として、混入した不純物程度の含有量(最大で0.04質量%)、乃至実質的に零(0)に近い0.003〜0.01質量%に制限し、Mn含有量を0.08質量%という低含有量、更には0.005〜0.01質量%という極低含有量に規制しながらも、一方、N含有量を1.05〜1.98質量%という高含有量にコントロールすることにより、オーステナイト相の
安定性を確保し得る成分組成を有するものである。一方、比較例1A及び比較例2Bの化学成分組成はいずれも、SUS316Lの標準的な成分組成を有し、安定したオーステナイトステンレス鋼である。
これら実施例及び比較例の板厚:1.0mmの冷延鋼板又は15mmの熱延鋼板の試験片、及び線径1.0mmの鋼線試験片について、薄板の場合は板幅の中央における圧延方向に平行で圧延面に垂直な断面を、鋼線の場合は伸線方向に平行で直径を含む断面を光学顕微鏡観察及びEPMA(走査型電子顕微鏡)プロファイル観察、並びにJIS Z3119の組織図B(Cr当量−Ni当量により定まる組織図。ここで、Cr当量=Cr+Mo+1.5Si+0.5Nb、Ni当量=Ni+30C+30N+0.5Mnである。)中へのプロットにより、金属組織観察及びその判定を行なった。その結果、実施例の試験片についてはいずれも、Nが均一に固溶しており、Cr窒化物の粒界析出がないオーステナイト単相組織となっていることが確認された。
また、比較例1A及び比較例2Bについても、上記実施例と同じ結果が得られた。
これらの結果は、この発明においては、オーステナイト生成元素のNiがほぼ実質的に零(フリー)であって、且つMn含有量が0.08質量%という低含有量乃至0.01質量%という超低含有量であっても、Nを1.0質量%超えに含有させることにより、オーステナイト相の安定化を図ることができ、また、Cr窒化物の粒界析出を防止することができることを示すものである。
[非金属介在物測定試験]
実施例1A〜5A、実施例1B〜3B、及び比較例1A、2Bの全てについて行なった。非金属介在物の存在は、耐食性に悪影響を及ぼすので、非金属介在物の大きさ及び面積占有率を、以下の方法で測定した。
各実施例及び各比較例の前記薄板及び鋼線試験片について、薄板の場合は板幅70mmの中央部における圧延方向に平行で圧延面に平行な断面を、鋼線の場合は、圧延方向に平行で直径を含む断面を鏡面に研磨し、光学顕微鏡を用いて倍率1000倍で視野数150の検鏡面を観察し、非金属介在物の最大直径(長径)Dμmを測定し、また、上記検鏡面の画像解析により非金属介在物の面積占有率A%を求めた。
表2に、非金属介在物の長径及び面積占有率の試験結果、並びに、前記金属組織試験で得られたオーステナイト相の安定性試験結果を示す。
Figure 2007051368
なお、同表には、各試験片について、化学成分組成の内、Cr、Mo及びN含有量を用
いて算出された耐食性指数:EPR=Cr含有量+Mo含有量×3+N含有量×10の値、A×150及びA×500、並びにD×3.5及びD×5の各値を併記した。
表2の非金属介在物測定試験結果より、下記事項がわかる。
実施例1A〜5A、実施例1B〜3Bの中で非金属介在物の最大直径は、実施例1Aでの7.8μmと小さく、その他の実施例では、3.1〜6.8μmと更に小さいので、耐腐食性にとって一層望ましく、この内実施例3A、実施例3Bは3.1〜3.2μm未満であり、特にその大きさが小さく、耐腐食性にとって極めて望ましい。また、靱性確保の観点からも、非金属介在物の大きさが小さいことは、介在物の面積占有率が小さいことと合わせて望ましいものである。これに対して、比較例1A及び比較例1Bはいずれも、最大直径がそれぞれ25.3μm、18.3μmであり、各実施例の数倍の大きさである。
一方、非金属介在物の面積占有率に関しても、表2の結果よりわかるように、実施例及び比較例において、上述した非金属介在物の大きさについての大小関係に関する傾向に類似した傾向が認められる。上述した非金属介在物の大きさ及び面積占有率に関する成績は、鋼中O含有量及びS含有量に大きく依存している。
[金属溶出試験−特にNiの溶出、及び強酸性条件下での金属の溶出]
実施例1A〜3A、及び比較例1A(いずれも冷延薄板)につき、Ni、Fe、Cr及びMoの溶出試験を次の要領で行なった。
金属からのNi溶出に伴なうアレルギー発症性を評価するために、特に、Niの溶出量に注目すると共に、その他の金属の溶出についても試験した。その際、pH=2.8の強酸性条件下での評価試験も行なった。これは、この発明に係る全ての鋼および製品用途に共通して重要な試験である。
厚さ1.0mmの各薄板試験片から全表面積が約7.5cm2の試料を切り出し、その
表面を#500のSiC研磨紙を用いて研磨処理を施した後、アセトンで洗浄して試験片とした。溶出試験は浸漬試験法で行ない、欧州規格EN1811「貴金属−皮膚に直に長期間触れるようになる製品からのニッケル離脱に関する基準試験方法」を参考にして行なった。金属溶出条件として、浸漬溶液のpH水準を2水準設定し、それぞれで行なった。浸漬溶液はISO 10271により、0.9%NaCl溶液に1%乳酸を用いて、第1試験は、体液の通常のpH=7.35よりもやや低いpHの6.5に調整し(前述したように、体液のpHは通常、7.35とややアルカリ側にあるが、手術後や外傷等の存在により、5.3〜5.6と酸性側になることもあることを考慮した)、第2試験は1%乳酸を用いて更に厳しい溶出条件であるpH=2.8に調整した。浸漬溶液の温度は30±2℃に保持し、225mlの浸漬溶液に試験片を浸漬し(液量は試験片の表面積1cm2
たり30mlに相当する)、試験片からのNi並びにFe、Cr及びMoの溶出量を測定した。
溶出量の測定は、浸漬開始時を基点に、0hr、1hr、8hr、24hr、72hr(又は56hr)、及び168hr(7日)経過後の各時点において、10ml以下の浸漬溶液をサンプリングし、これをICP発光分析装置又はICP質量分析装置にかけて、金属元素の溶出量を測定した。測定結果は各金属の溶出量(μg/ml)から試験片の単位表面積当たりの溶出量(μg/cm2)に換算した。表3にpH=6.5の場合の結果
を、そして表4にpH=2.8の場合の結果を示す。
Figure 2007051368
Figure 2007051368
表3及び表4に示したNi等金属の溶出試験結果より、下記事項がわかる。
生理的食塩水に1%乳酸を添加してpH=6.5に調整した浸漬溶液においては、本発明の範囲内にあるNiフリー高窒素ステンレス鋼の実施例1A、2A、3A、及び従来生体用材料として使用されているSUS316Lの比較例1Aのいずれにおいても、Niの溶出は認められず、またCr及びMoの溶出も認められない。但し、Feの溶出は実施例及び比較例の全てにおいて認められる。
これに対して、pH=2.8の強酸性の浸漬溶液においては、比較例1Aにおいては、Niの溶出が認められたが、実施例1A、2A、3Aにおいては、Niの溶出は認められなかった。また、Crについても同じ溶出傾向であった。なお、Feについては実施例及び比較例のいずれにも溶出がみられた。なお、Moについてはいずれにも溶出は認められなかった。
以上の通り、実施例においてはNiを実質的に含有しないオーステナイトステンレス鋼であることから、溶出するNi量は実質的に0であることが確認された。また、特にN含有量を高めて、耐食性指数PRE=(Cr含有量)+(Mo含有量)×3+(N含有量)×10を増大させ、更に鋼中非金属介在物の清浄特性の向上(面積占有率の低下と同時に形状の短小化)を図ったことにより、生体環境における耐食性の向上もなされた。
[すきま腐食試験]
耐局部腐食性を評価するために、実施例4A、5A、及び比較例1A(いずれも冷延薄板)につき、すき間腐食試験を行なった。
上記それぞれの冷延薄板から1.0×50×50mmの試験片を切り出し、その表面を#600のSiC研磨紙を用いて研磨処理を施した後、アセトンで洗浄して試験片とした。試験片の中央部に直径10mmの穴を開け、ASTM G 78に準拠してすき間形成材をポリサルホン製樹脂で製作し、チタン製のボルト、ナット、及びワッシャーを締めつけ、試験片にすき間を形成した。この試験片を35℃の人工海水に浸漬し、浸漬電位から1mV/minの速度で設定電位まで掃引した後に、所定の設定電位に48時間保持し、この電位において腐食が認められない場合には、0.025V貴な電位に設定し、また48時間保持する。この操作を順次繰り返し、すきま腐食が認められない最も貴な電位を求め、これをすきま腐食電位とした。すきま腐食電位が貴であるほど、耐すきま腐食性に優れていることを意味する。このすきま腐食試験に用いた人工海水の成分組成は、次の通りである。
溶媒:純水
溶質:
塩化ナトリウム (NaCl) 24.53 g/l
塩化マグネシウム (MgCl2) 5.20 g/l
硫酸ナトリウム (Na2SO4) 4.10 g/l
塩化カルシウム (CaCl2) 1.16 g/l
塩化カリウム (KCl) 0.70 g/l
炭酸水素ナトリウム (NaHCO3) 0.20 g/l
臭化カリウム (KBr) 0.10 g/l
塩化ストロンチウム (SrCl2) 0.025g/l
ホウ酸 (H3BO3) 0.027g/l
フッ化ナトリウム (NaF) 0.003g/l
上記すき間腐食発生の定電位試験結果は、比較例1Aのすき間腐食発生電位は、0.050VSCE(VSCE:飽和甘コウ電極基準電位)であったのに対し、実施例4A、5Aにおいてはいずれも、0.90VSCEの酸素発生電位以上でもすき間腐食は発生することなく
、著しく優れている。
[機械的性質試験]
機械的性質試験として、実施例及び比較例の全てのいずれも溶体化処理済みの鋼材について、引張試験及び硬さ試験を行なった。引張試験は、JIS Z2201で定める引張試験片を調製し、JIS Z2241で定める引張試験方法により引張試験を行ない、引張強さ、降伏強さ、伸び及び絞りを測定した。また、硬さ試験はJIS Z2244で定めるビッカース硬さ試験方法により、ビッカース硬さを測定した。表5に、各試験結果を示し、図3にそれらの内、引張強さと伸び及び絞りの水準とその関係を図示する。
Figure 2007051368
表5及び図3に示した機械試験の結果から、下記事項がわかる。
(1)強度水準について:先ず、本発明の範囲内にある実施例においては、鋼材の形態
が薄板であるか線であるかを問わず(但し、薄板は冷延鋼板に限る)、強度水準が比較例に比べて著しく高いことが特徴である。具体的には、引張強さTSについて、比較例が560〜580MPaの水準であるのに対して、実施例は960〜1220MPaの高水準にある。一方、降伏強さYSについても、薄板において比較例が約290MPaの水準であるのに対して、実施例においては800〜870MPaの高水準にある。
(2)延性水準について:次に、延性水準については、実施例同士を線と薄板とで比較した場合、強度水準が上述の通りの高水準にあり、線ではしかも伸びElが68〜73%、絞りRAが75〜80%という高水準にある。しかし、冷延薄板(鋼板)では伸びが13〜15%、絞りが12〜13%と低水準にあり、線と薄板とでは大きな差がある。これに対して比較例においては、線の伸び及び絞りがそれぞれ40%、51%、薄板の伸び及び絞りがそれぞれ48%、60%と、高水準を維持している。但し、熱延鋼板(実施例6A参照)では、伸びElが51%、絞りRAが60%という高水準にある。このように、延性水準につき、実施例と比較例とを比べた場合、線においては実施例が比較例よりも更に一段と優れているが、薄板においては、冷延鋼板の実施例の水準がかなり低いために、比較例の方が著しく勝っているが、熱延鋼板の実施例の水準は、極めて優れていることがわかる。
(3)以上の通り、実施例において、線に関しては強度及び延性のいずれもが極めて高水準にあり、両者のバランスも良好であり、また、熱延鋼板においても同様に優れている。熱延鋼板においてこのように優れた強度と延性との優れたバランス特性を有しているのは、化学成分組成において、Cr含有量が本願発明の範囲内においても望ましい値にあるからである。
しかしながら、冷延鋼板に関しては線又は熱延鋼板のような優れた両者のバランスが具備されていず、強度がかなり高いという特徴を有するに留まっている。但し、実施例の薄板の結果における強度と延性とのバランスに関しては、上記の通り優れたものではないが、強度が上昇するにつれて延性が低下するというステンレス鋼の従来材の傾向と一致しており、定量的にも従来の高強度ステンレス鋼における延性水準相当のものとなっている。これに対して比較例においては、線及び薄板共に、強度と延性とのバランスは良好であるが、強度水準については実施例に大きく及ばない。
(4)硬さについてみると、ビッカース硬さHVで比較例においては155〜183の
水準にあり、実施例においてはこれよりも著しく高く、305〜380のかなりの高水準にある。従って、耐摩耗性についても実施例は比較例に比べて著しく優れていることがわかる。
上記各種確性試験における実施例についての結果は、本願発明の要件の特徴を満たすものである。そして、特に、適切な化学成分組成を有することに加えて、非金属介在物について清浄特性に優れているので、耐食性に優れており、生体環境においてはNiの溶出が実質的に皆無であり、更に、機械的性質については、強度に優れ、また成形性についても線については強度との優れたバランスを備えていることが明らかとなった。また、硬さは比較例に比べて大きく優れており、生体材料の内でも人工関節材料として重要な耐摩耗性や耐フレッティング性にも優れていることが推定される。そして、このような材料特性は、更に材料特性の向上を適宜もたらす元素であるCu、W、V及びCeの適切な添加、及び不可避不純物元素であるP、O及びSの含有量の一層の低減により、更に一層の向上が図られることも明らかとなった。
上述したように、上記実施例及び比較例の試験によれば、本願発明者等が開発した改良加圧式ESRプロセスで、好適な溶解・精錬条件にて操業することにより、上記本願発明
に係る化学成分組成に著しい特徴を有すると共に、清浄なニッケルフリーで高窒素含有のオーステナイト系ステンレス鋼塊を溶製することができる。かかるESR鋼塊を適切な熱間乃至冷間加工により製造した鋼は、溶体化処理により耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れた特性が付与され、特に人体アレルギー発症を起こすことがない。こうして得られた棒鋼、薄板、鋼線又は鋼管等の鋼は、生体用若しくは医療用のインプラント、ステント若しくは器具、人体の皮膚表面若しくは粘膜に直接若しくは間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品若しくは衣料類部品、又は厨房用器具若しくは食器類用に、共通して好適に用い得ることがわかった。
なお、上記特性を有する鋼から、上記用途に属する各種製品、例えば義歯固設用インプラント、ステント、めがねフレーム及び調理用鍋、その他各種製品を製造するに当たっては、各種製品毎に適した形態の鋼を選定し、選定された鋼を素材として、従来採用されている適切な技術で加工することができる。
Ca添加のときの窒素添加型消耗式電極の概略斜視図及びその水平方向断面図である。 本発明者等が開発した改良加圧式ESRプロセスで得られた各種成分系のステンレス鋼中のCa含有量とトータル酸素含有量(T.O含有量)との間の関係を示すグラフである。 実施例及び比較例の引張り試験で得られた引張強さと伸び及び絞りとの関係を示すグラフである。
符号の説明
1 窒素添加型消耗式電極(Ca添加のとき)
2 消耗式ベース電極
3 溝
4 窒素添加体
5 金属Caワイヤ
6 ステンレス鋼製パイプ
7 クロム窒化物粉末の焼結体

Claims (24)

  1. 化学成分組成(質量%)として、
    0<C≦0.08
    0≦Si<0.50
    0≦Mn≦1.50
    15≦Cr≦30
    0≦Ni<0.05
    1≦Mo≦10
    1.00<N≦2.00
    0≦Ca<0.005
    を含有し、そして残部がFe及び不可避不純物からなり、しかも、前記Cr、Mo及びNの各含有量は、下記(1)式:
    PRE=(Cr含有量)+(Mo含有量)×3
    +(N含有量)×10
    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
    で表される耐食性指数(PRE)が、下記(2)式及び(3)式:
    PRE>150×A‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(2)
    PRE>3.5×D‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(3)
    但し、Aは鋼中非金属介在物の面積占有率(%)、
    Dは鋼中非金属介在物の最大直径(μm)
    を同時に満たす化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有することを特徴とする、耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  2. 請求項1の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性に加えて、質量%で
    0.0005≦Al≦0.015
    を含有することを特徴とするニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  3. 前記非金属介在物の清浄特性は、
    PRE>500×A‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(4)
    PRE>5.0×D‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(5)
    であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  4. 前記Ca含有量は、0.001質量%未満であることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  5. 前記Ni含有量は、0.01質量%未満であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  6. 前記Mn含有量は、0.01質量%未満であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  7. 前記不可避不純物の内、P、S及びOの各含有量(質量%)は、
    P:0.01%未満、
    S:0.002%未満、及び、
    O:0.003%未満
    の全てを満たすことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  8. 前記化学成分組成として、更に、質量%で
    0.05≦Cu≦1.0
    を付加して含有することを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  9. 前記化学成分組成として、更に、質量%で、
    0<W≦2.0
    0<V≦2.0
    のうちの1種以上を付加して含有することを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  10. 前記化学成分組成として、更に、質量%で
    0.01≦Ce≦0.10
    を付加して含有することを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  11. 前記Cr含有量は、20質量%以上25質量%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項10のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼。
  12. 請求項1から請求項11のいずれかに記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理後におけるビッカース硬度が300を超えて、引張強さが1000MPaを超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線。
  13. 請求項12に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性並びに機械的性質を有し、且つ、溶体化処理後における伸びが50%を超えて、絞りが70%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線。
  14. 請求項1から請求項11のいずれかに記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理後における伸びが50%を超えて、絞りが70%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線。
  15. 請求項1から請求項11のいずれかに記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理後におけるビッカース硬度が300超え、引張強さが900MPaを超えて降伏強さが700MPaを超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする薄鋼板。
  16. 請求項15に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性並びに機械的性質を有し、且つ、溶体化処理後における伸びが12%を超えて、絞りが10%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする薄鋼板。
  17. 請求項1から請求項11のいずれかに記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ、溶体化処理後における伸びが50%を超えて、絞りが70%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする薄鋼板。
  18. 請求項11に記載の化学成分組成及び非金属介在物の清浄特性を有し、且つ溶体化処理後におけるビッカース硬度が300を超え、引張強さが900MPaを超えて降伏強さが700MPaを超え、そして溶体化処理後における伸びが35%を超えて、絞りが30%を超える機械的性質を有する耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼からなることを特徴とする薄鋼板。
  19. 請求項1から請求項18のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、又は当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を素材とする前記棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は前記薄鋼板からなる鋼材が、少なくとも一部分に、素材乃至部品として用いられていることを特徴とする、生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具。
  20. 前記インプラントは、成形外科用材料、接骨材料、人工関節用材料、脳外科用等のビス、並びに、義歯固設用インプラント、義歯用金属床及び義歯用磁性アタッチメント等の歯科治療用材料の内のいずれか一つであり、前記ステントは、人体内各所の閉塞した血管の拡張保持用ステントであり、そして、前記器具は、注射針、人体内各所の血管進入用カテーテル、並びに、手術用クリップ、手術用かん子及びメスの刃等の手術用器具の内のいずれか一つであることを特徴とする、請求項19に記載の生体用又は医療用のインプラント、ステント又は器具。
  21. 請求項1から請求項18のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、又は当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を素材とする前記棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は前記薄鋼板からなる鋼材が、少なくとも一部分に、素材乃至部品として用いられていることを特徴とする、人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品、又は衣料類部品。
  22. 前記装身具乃至装飾品は、めがねフレーム、腕時計のケース及びバンド、並びに、ネックレス、ピアス、イアリング、指輪、ブレスレッド、アンクレッド、鼻ピアス及び舌ピアス等の種々のアクセサリーの内のいずれか一つであり、そして、前記衣料類部品は、ファスナー、フック、ボタン、並びに防弾チョッキ乃至防弾服、防護面及びヘルメット等各種の防護衣料類に装着された護身素材の内のいずれか一つであることを特徴とする、請求項21に記載の人体の皮膚表面又は粘膜に直接又は間接的に接触して使用される装身具乃至装飾品、又は衣料類部品。
  23. 請求項1から請求項18のいずれかに記載の耐食性、強度、成形性及び耐摩耗性に優れたニッケルフリー高窒素ステンレス鋼、又は当該ニッケルフリー高窒素ステンレス鋼を素材とする前記棒鋼又は鋼線材若しくは鋼線、又は前記薄鋼板からなる鋼材が、少なくとも一部分に、素材乃至部品として用いられていることを特徴とする、厨房用器具又は食器類。
  24. 前記厨房用器具は、鍋、フライパン、やかん、ポット、調理済み食品保温容器、包丁、計量容器、醤油差し等調味料容器及び調理台等の内の一つであり、そして前記食器類は、椀、皿、スプーン、ナイフ及びフォーク等の内のいずれか一つであることを特徴とする、請求項23に記載の厨房用器具又は食器類。
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