JP3845320B2 - 超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、極低温で動作する超伝導集積回路の基本ゲートに関するものであり、より詳しくは、少なくとも3つ以上の入力信号に対して排他的論理和の演算を行う超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多入力排他的論理和回路は、例えば、デジタル信号処理回路の基本構成要素である全加算器の基本ゲートとして使用される。より具体的には、全加算器は、一般に2個の2進数(加数と被加数)の加算を行う回路であるが、入力信号としては加数と被加数の同一の桁の信号と下位の桁からの桁上げ信号の3つの入力信号の演算を行う必要がある。
【0003】
従って、全加算器は、これら3つの信号から加数と被加数の同一桁を演算する回路(SUM回路)と上位の桁への桁上げ信号を発生する回路(CARRY回路)とで構成される。SUM回路は、3つの信号(加数の信号、被加数の信号、下位の桁からの桁上げ信号)の排他的論理和を演算すれば良い。
【0004】
従来、2つの入力信号の排他的論理和をとる単一磁束量子(Single Flux Quantum、SFQとも呼ぶ)を利用した超伝導回路(文献:IEEE Trans. on Applied Superconductivity. Vol. 1, p. 10, March 1991のFig.13)は良く知られているが、3つ以上の入力信号の排他的論理和を一度にとる回路はなかった。そのため、多入力の排他的論理和の論理演算を行うために、上記2入力の排他的論理和回路を多段に組み合わせて構成する方式が知られている。
【0005】
図7に、一例として、この従来の技術による3入力の排他的論理和回路のブロック構成図を、図8に5入力の排他的論理和回路のブロック構成図を示す。これらの多入力の排他的論理和回路は、2入力の排他的論理和回路(2XOR)を基本ブロックとして構成されている。従って、これらの多入力の排他的論理和回路の動作を説明するために、その基本ブロックである2入力の排他的論理和回路(2XOR)の動作を最初に説明する。
【0006】
図9に、従来の技術による超伝導単一磁束量子2入力排他的論理和回路の等価回路図を示す。また、この2入力の排他的論理和の入出力の論理状態を記した真理値表を図10に示す。
【0007】
この回路は、複数個のジョセフソン接合(J1A、J2A、J1B、J2B、J3、J4、J5)、2個のインダクタンス(L1A、L1B)、信号入力端(InA、InB)、信号出力端(OUT)、及び直流バイアス入力端(Ib1、Ib2)とで構成されている。2入力の排他的論理和は、図10の真理値表に示したように、一方の入力信号のみが”1”の時、出力が”1”になり、両方の入力信号が”0”又は”1”の時は出力信号は”0”になる。
【0008】
この論理演算を実現するために、この回路では、単一磁束量子を保持できる2つの超伝導ループ(J1A、J2A、L1A、J3、J4からなる超伝導ループ1とJ1B、J2B、L1B、J3、J4からなる超伝導ループ2)が組合わさった構成になっており、2つの超伝導ループのどちらか一方にだけには単一磁束量子が保持されるが、両方の超伝導ループには同時に2個の単一磁束量子は保持されないように設計されている。
【0009】
従って、信号入力端InA又はInBのどちらか一方にだけSFQパルスが入力されると、入力された側の超伝導ループに単一磁束量子が保持され、ジョセフソン接合J4がバイアスされた状態(単一磁束量子が保持されたことにより、超伝導ループに永久電流が流れ、超伝導ループの一部であるジョセフソン接合J4にはこの永久電流が流れた状態になっている。)になるため、その後クロック信号(Clock)が入力されると、ジョセフソン接合J4が磁束量子転移して出力端にSFQパルスを発生させる。
【0010】
信号入力端InAとInBのどちらにもSFQパルスが入力されないと、超伝導ループには単一磁束量子は保持されないため、ジョセフソン接合J4もバイアス状態にならない。そのため、その後クロック信号が入力してもジョセフソン接合J4は磁束量子転移せず、出力端にSFQパルスを発生しない。
【0011】
信号入力端InAとInBの両方にSFQパルスが入力されると、最初に一方の超伝導ループに単一磁束量子が保持されて超伝導ループに永久電流が流れるが、その後入力されたSFQパルスによりもう一方の超伝導ループにも単一磁束量子を保持しようとする。しかし、この時すでに最初のSFQパルスにより超伝導電流が流れているため、電流が足し合わされてジョセフソン接合J3に流れ込み、ジョセフソン接合J3は磁束量子転移して超伝導ループに保持していた単一磁束量子を排除する。このため、ジョセフソン接合J4はバイアス状態ではなくなるため、その後クロックパルスが入力されても磁束量子転移せず、出力端にSFQパルスを発生しない。
【0012】
以上の動作により、図10の真理値表に示したような2入力の排他的論理和の演算を行うことができる。
【0013】
次に、再度図7及び図8を参照して、超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の動作を簡単に説明する。3入力の排他的論理和は、2入力の排他的論理和回路を図7の様に2段に接続し、最初に入力信号InAと入力信号InBの排他的論理和を2入力排他的論理和回路(2XOR1)で演算し、その出力信号と入力信号InCとの排他的論理和を2入力排他的論理和回路(2XOR2)で演算することで得ることが出来る。
【0014】
5入力の排他的論理和は、2入力の排他的論理和回路を図8の様に4段に接続し、最初に入力信号InAと入力信号InBの排他的論理和を2入力排他的論理和回路(2XOR1)で演算し、その出力信号と入力信号InCとの排他的論理和を2入力排他的論理和回路(2XOR2)で演算し、その出力信号と入力信号InDとの排他的論理和を2入力排他的論理和回路(2XOR3)で演算し、その出力信号と入力信号InEとの排他的論理和を2入力排他的論理和回路(2XOR4)で演算することで得ることが出来る。
【0015】
この様に、入力信号の個数に応じて2入力の排他的論理和回路を多段に接続することで、多入力の超伝導単一磁束量子排他的論理和回路を構成することが出来る。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の技術の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路には、次のような問題点がある。即ち、多入力の排他的論理和回路を構成するために、2入力の排他的論理和回路を多段に接続しているため、論理段数が増大して全体としての高速動作が困難である。
【0017】
また、2入力の排他的論理和回路の各段にクロック信号を供給する必要があり、入力信号数に応じてクロック入力信号数が増大するという問題点もある。
【0018】
さらに、2入力の排他的論理和回路を多段に接続しているため回路規模が大きくなり、消費電力も増大するという問題点もある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
従って、本発明の目的は、上記従来の技術が有する問題点を解決する排他的論理和回路を提供する。即ち、本発明は、論理段数を増やさず高速に動作可能な超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路を提供することを目的としている。
【0020】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の信号入力端と第2の信号入力端及び信号出力端を有し、複数個のジョセフソン接合と複数個のインダクタンスとで構成され、前記第1及び第2の信号入力端にそれぞれ入力される第1の入力信号と第2の入力信号に対して排他的論理和の演算を行い、その結果を前記信号出力端に出力する機能を有する従来の超伝導単一磁束量子排他的論理和回路に於いて、前記第1及び第2の入力信号に加えてさらに少なくとも1個以上の第3の入力信号を入力するための入力回路を具備し、前記入力回路が前記第1及び第2の入力信号の位相に対して所望の時間だけ第3の入力信号の位相を遅延させる機能を有することにより、前記第1と第2及び第3の入力信号に対して排他的論理和の演算を行い、その結果を前記出力端に出力する機能を有するようにした。
【0021】
ここで、前記入力回路の遅延機能は、ジョセフソン接合とインダクタンスで構成されるジョセフソン伝送線路の信号伝搬遅延を用いることで実現することができる。
【0022】
あるいは、前記入力回路の遅延機能を、マイクロストリップラインの信号伝搬遅延を用いることで実現することもできる。
【0023】
【発明の実施の形態】
最初に、従来の技術によって3入力の排他的論理和回路を構成した場合の動作について説明する。
【0024】
図9に示した従来の技術の2入力の排他的論理和回路は、2つの信号入力端にSFQパルスが時間差をもって入力されても、或いは、同時に入力されても正常な動作が可能である。上記従来の技術の説明では、2つの信号入力端にSFQパルスが、順番に時間差をもって入力された場合について説明した。
【0025】
この場合は、第1のSFQパルスが信号入力端InAから超伝導ループ1(J1A、J2A、L1A、J3、J4から構成されるループ)に入力されることで、まず超伝導ループ1に単一磁束量子が保持される。その後、第2のSFQパルスが信号入力端InBから超伝導ループ2(J1B、J2B、L1B、J3、J4から構成されるループ)に入力された時点で、ジョセフソン接合J3が磁束量子転移することで超伝導ループに保持されていた単一磁束量子が排除される。この一連の動作により、超伝導ループの量子状態は初期状態(状態“0”)に戻る(リセット)。
【0026】
一方、2つの信号入力端にSFQパルスが同時に入力されると、最初からジョセフソン接合J3が磁束量子転移するだけで、超伝導ループの量子状態は初期状態(状態“0”)のままで変化しない。どちらの場合も最終的な量子状態が同じになる。従って、2入力の場合は、SFQパルスが入力される順番は問題にならなかった。
【0027】
しかし、この従来の2入力の排他的論理和回路を単純に3入力にしただけでは、正常な3入力の排他的論理和の論理演算を行うことが出来なかった。なぜなら、3つのSFQパルスが順番に入力された場合と同時に入力された場合では、超伝導ループの最終的な量子状態が異なってしまうからである。3つのSFQパルスが順番に入力される場合は、超伝導ループの量子状態は、第1のSFQパルスの入力により初期状態(“0”)から“1”状態になり、第2のSFQパルスの入力により“1”状態から“0”状態にリセットされ、第3のSFQパルスの入力により再度“0”状態から“1”状態になる。このため、その後、クロック信号が入力されると、出力端にSFQパルスを発生する。この計算結果は正常なものである。
【0028】
一方、3つのSFQパルスが同時に入力される場合は、最初からジョセフソン接合J3が磁束量子転移するだけで、超伝導ループの量子状態は初期状態(状態“0”)のままで変化しない。この場合の計算結果は正常なものとはならない。或いは、1つのSFQパルスが入力された後、残りの2つのSFQパルスが同時に入力された場合は、超伝導ループの量子状態は、まず第1のSFQパルスの入力により初期状態(“0”)から“1”状態になり、その後、第2及び第3のSFQパルスが同時に入力されることにより“1”状態から“0”状態にリセットされる。この場合も、超伝導ループの最終状態は“0”状態になり、3つのSFQパルスが順番に入力される場合の最終の量子状態(“1”状態)と異なってしまい誤動作になる。
【0029】
従って、本発明の特徴は、少なくとも1つ以上の第3の入力信号が、第1及び第2の入力信号に対して所望の時間差をもって超伝導ループに入力されることを保証する手段を有する点にある。これにより、少なくとも3つ以上の入力信号の排他的論理和の演算を一度に1クロックで実行することができる。
【0030】
次に、本発明の第1の実施形態について、図1ないし図3を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第1の実施形態を示す3入力の排他的論理和回路の等価回路図である。図2は、この超伝導3入力排他的論理和回路の真理値表である。
【0032】
まず、本回路の構成と機能について説明する。本回路は、複数個のジョセフソン接合(J1A、J2A、J1B、J2B、J3、J4、J5)、2個のインダクタンス(L1A、L1B)、信号入力端(InA、InB)、信号出力端(OUT)、及び直流バイアス入力端(Ib1、Ib2)とで構成された従来の2入力排他的論理和回路の構成に加えて、第3の信号入力端(InC)とジョセフソン接合(J1C、J2C、Jd1、Jd2)とインダクタンス(L1C、Ld1、Ld2)及び直流バイアス入力端(Ib3、Ib4、Ib5)が接続された構成になっている。ジョセフソン接合(Jd1、Jd2)とインダクタンス(Ld1、Ld2)及び直流バイアス入力端(Ib4、Ib5)で構成されたジョセフソン伝送ライン(JTL)は、信号入力端(InC)に入力された信号を他の信号入力端(InA、InB)に入力された信号に対して所望の時間だけ遅延させる機能を持つ。
【0033】
3入力の排他的論理和は、図2の真理値表に示したように、入力信号が“1”である個数が、奇数の場合は出力が“1”になり、入力信号が“1”である個数が、ゼロ又は偶数の場合は出力が“0”になる。言いかえれば、3つの信号入力端(InA、InB、InC)のいずれか1つに“1”の信号が入力された時と、3つ全てに“1”の信号が入力された時に、出力が”1”になり、3つの入力信号が”0”又は2つ入力信号のみが”1”の時は出力信号は”0”になる。
【0034】
この論理演算を実現するために、この回路では、単一磁束量子を保持できる3つの超伝導ループ(J1A、J2A、L1A、J3、J4からなる超伝導ループ1とJ1B、J2B、L1B、J3、J4からなる超伝導ループ2、J1C、J2C、L1C、J3、J4からなる超伝導ループ3)が組合わさった構成になっており、3つの超伝導ループのいずれか1つだけには単一磁束量子が保持されるが、3つの超伝導ループには同時にそれぞれ単一磁束量子は保持されないように設計されている。
【0035】
加えて、本発明の特徴である遅延機能を有する入力回路は、ジョセフソン伝送線路(JTL)で構成されており、信号入力端(InC)に入力された第3の入力信号は、ジョセフソン伝送線路(JTL)の伝搬遅延時間だけ遅れて超伝導ループ3に入力される。
【0036】
図3に、本実施例の超伝導単一磁束量子3入力排他的論理和回路の動作波形の概略図を示す。この動作波形に基づいて、この回路の動作を説明する。図において、上から信号入力端InA、InB、InCに入力される入力信号、クロック信号(Clock)、及び出力信号(OUT)を示している。横軸は、時間軸である。この回路は、SFQパルスにより論理動作を行う回路であり、入力信号、クロック信号、及び出力信号は全てSFQパルスである。SFQパルス論理の回路では、クロックパルス間にSFQパルスが入力された状態を信号の”1”状態、クロックパルス間にSFQパルスが入力されない状態を信号の”0”状態としている。
【0037】
また、各入力信号のSFQパルスに関しては、入力信号が、対応するそれぞれの超伝導ループに入力されたタイミングで示されている。
【0038】
入力信号パターンが、図2の真理値表に対応したものであり、真理値表の8つの論理状態((1)〜(8))に対応した動作波形を示している。クロックパルス間に入力された入力信号により、超伝導ループの量子状態が変化し、クロックパルスが入力された時点でその時の超伝導ループの量子状態に応じて出力端(OUT)にSFQパルスが発生する。この時同時に超伝導ループの量子状態は初期状態”0”にリセットされる。言い換えれば、クロックパルスが入力される前の入力信号パターンに対応して、クロック信号が入力された後に出力パルスが発生する。即ち、1クロック遅れて出力信号が発生する。
【0039】
3つの信号入力端(InA、InB、InC)に入力される入力信号の”1”状態が2つ以下の場合は、従来の技術で説明した動作とほぼ同様であるので、ここでは入力信号が全て”1”状態である図2の(8)の論理状態の場合の動作の説明をする。また、前記3つの入力信号は、ほぼ同時に各信号入力端に入力されるものとする。
【0040】
2つの信号入力端InA、InBにそれぞれ同時に、第1のSFQパルス、第2のSFQパルスが対応する超伝導ループ1、2に入力されると、最初からジョセフソン接合J3が磁束量子転移するだけで、超伝導ループの量子状態は初期状態(状態“0”)のままで変化しない。従って、ジョセフソン接合J4はバイアス状態ではない。
【0041】
その後、ジョセフソン伝送線路(JTL)の伝搬遅延時間だけ遅延された第3のSFQパルスが対応する超伝導ループ3に入力されると、超伝導ループ3に単一磁束量子が保持され、ジョセフソン接合J4は再度バイアス状態になる。そのため、その後クロックパルスが入力されると、ジョセフソン接合J4は磁束量子転移し、出力端にSFQパルスを発生する。
【0042】
ここでは、前記第1のSFQパルスと第2のSFQパルスが同時に対応する超伝導ループに入力される場合を示したが、第1のSFQパルスの後に第2のSFQパルスが入力されてもよい。その場合に動作が正常に行われるためには、最初に第1のSFQパルスの入力により超伝導ループに単一磁束量子が保持され、その後入力された第2のSFQパルスの入力により、超伝導ループの量子状態がリセットされた後に、第3のSFQパルスが入力される必要がある。
【0043】
なぜなら、もし第2のSFQパルスと第3のSFQパルスが同時刻に超伝導ループに入力されると、この時点で第1のSFQパルスにより超伝導ループに保持された単一磁束量子が排除されるからである。そのため、ジョセフソン接合J4はバイアスされなくなるので、その後クロック信号が入力してもジョセフソン接合J4は磁束量子転移せず、出力端にSFQパルスを発生しない。この動作は、誤動作である。
【0044】
従って、第2のSFQパルスが超伝導ループに入力された後(第1のSFQパルスと第2のSFQパルスが同時に入力される場合は、その入力後)、所望の時間だけ遅らせて超伝導ループに第3のSFQパルスが入力されないと正常な動作は行われない。より具体的には、図2の時間t0だけ遅れて第3のSFQパルスが超伝導ループ3に入力される必要がある。時間t0は、第2のSFQパルスが超伝導ループ2に入力されて、超伝導ループの量子状態をリセットするのに要する時間である。本実施例のジョセフソン伝送ラインは、この時間t0だけ第3のSFQパルスが超伝導ループに入力される時刻を送らせる機能を持つ。以上の動作により、表1の真理値表に示したような3入力の排他的論理和の演算を行うことができる。
【0045】
また、図1において、具体的な回路定数は例えば以下のように設定することが出来る。
【0046】
J1A = 0.0926 mA、J1B = 0.0926 mA、J1C = 0.0926 mA、J2A = 0.0824 mA、J2B = 0.0824 mA、J2C = 0.0824 mA、J3 = 0.0848 mA、J4 = 0.0781 mA、J5 = 1.123 mA、L1A = 6.5 pH、L1B = 6.5 pH、L1C = 6.5 pH、Jd1 = Jd2 = 0.1mA、Ld1 = Ld2 = 10pH。
【0047】
ここで、各ジョセフソン接合は、マッカンバ定数β=1程度のオーバーダンピング状態で動作するように設定されている。また、臨界電流密度2500A/cm2のNb/AlOx/Nb接合を想定した回路シミュレーションでは、上記t0として5ピコ秒程度の時間差を設定すれば十分であることを確認した。この値は、接合特性等の回路定数に大きく依存する。
【0048】
なお、本実施形態に於いては、3つの信号入力端(InA、InB、InC)に入力される3つの入力信号は、本3入力排他的論理和回路の前段の回路に於いてほぼ同時刻に発生されるものと想定している。SFQ回路は、マイクロパイプライン的に使用されることが一般的であるため、この様な想定は妥当なものである。
【0049】
また、本実施形態では、遅延機能を実現するジョセフソン伝送ライン(JTL)として2段構成のJTL(ジョセフソン接合Jd1とインダクタンスLd1、ジョセフソン接合Jd2とインダクタンスLd2)で構成したが、所望の遅延時間t0の大小によっては、1段或いは多段に構成しても同様の効果を得ることが出来る。また、遅延時間は、ジョセフソン伝送ラインのバイアス電流(Ib4、Ib5)の値によっても調整することが出来る。
【0050】
以降の実施形態において、第3及びそれ以降のSFQパルスを遅延させるための遅延回路を示しているが、上記時間t0だけ遅延させることができるものであれば、これに限る必要はない。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の超伝導単一磁束量子3入力排他的論理和回路により、第3の入力信号を遅延させて入力することで、3入力の排他的論理和の演算を1クロックの動作で実現できる。これにより、高速化と同時に、従来の技術に比べて素子数の削減ができるため、回路サイズの縮小及び低消費電力化が実現できるという効果もある。
【0052】
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施形態の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路について説明する。
【0053】
図4は、当該第2の実施形態を示す3入力の排他的論理和回路の等価回路図である。本回路の構成は、第1の実施形態に於いて、第3の入力信号を時間的に遅延させる役割のジョセフソン伝送ライン(JTL)をマイクロストリップラインで置き換えたものである。
【0054】
マイクロストリップラインは、前後のジョセフソン接合とインピーダンス整合するように適切な値の特性インピーダンスを持つように設定される。従って、遅延時間t0は、マイクロストリップラインの信号伝搬時間で決まり、マイクロストリップラインの長さに比例する。所望の遅延時間は、マイクロストリップラインの長さを調整することで実現できる。
【0055】
本実施形態の回路の動作は、前記第1の実施形態と同様である。従って、第1の実施形態と同様の効果が得られる。さらに、遅延手段にジョセフソン伝送ラインのようにジョセフソン接合を使用しないため、第1の実施の形態に比べてさらに素子数の減少が可能で低消費電力化が実現できるという効果もある。
【0056】
次に、図5及び図6を参照して、本発明の第3の実施形態の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路について説明する。
【0057】
図5は、当該第3の実施形態を示す5入力の排他的論理和回路の等価回路図である。図6には、この超伝導5入力排他的論理和回路の真理値表が示されている。
【0058】
まず、本回路の構成と機能について説明する。本回路は、複数個のジョセフソン接合(J1A、J2A、J1B、J2B、J3、J4、J5)、2個のインダクタンス(L1A、L1B)、信号入力端(InA、InB)、信号出力端(OUT)、及び直流バイアス入力端(Ib1、Ib2)とで構成された従来の2入力排他的論理和回路の構成に加えて、第3の信号入力端(InC)と遅延回路(Delay1)とジョセフソン接合(J1C、J2C)とインダクタンス(L1C)及び直流バイアス入力端(Ib3)、第4の信号入力端(InD)と遅延回路(Delay2)とジョセフソン接合(J1D、J2D)とインダクタンス(L1D)及び直流バイアス入力端(Ib4)、第5の信号入力端(InE)と遅延回路(Delay3)とジョセフソン接合(J1E、J2E)とインダクタンス(L1E)及び直流バイアス入力端(Ib5)とが接続された構成になっている。
【0059】
遅延回路(Delay1、Delay2、Delay3)は、ここではボックスで示されているが、具体的には第1の実施形態で示したジョセフソン伝送ライン(JTL)又は第2の実施形態で示したマイクロストリップラインを用いることが出来る。もちろん、上述したように、その他の遅延回路を用いて本発明を構成することもできる。
【0060】
各遅延回路(Delay1、Delay2、Delay3)の遅延時間は、第1の実施形態で述べた時間t0だけお互いに異なった時間に設定されている。さらに、本実施の形態では、この5入力排他的論理和回路への5つの入力信号を発生する前段の回路として、各信号入力端(InA、InB、InC、InD、InE)の前に超伝導単一磁束量子RSフリップフロップ回路(RS−FF)を接続した構成になっている。超伝導単一磁束量子RSフリップフロップ回路は、良く知られている回路で文献(IEEE Trans. on Applied Superconductivity. Vol. 1, p. 7, March 1991のFig.7)に詳しく記されている。
【0061】
5入力の排他的論理和は、図6の真理値表に示したように、入力信号が“1”である個数が、奇数の場合は出力が“1”になり、入力信号が“1”である個数が、ゼロ又は偶数の場合は出力が“0”になる。この論理演算を実現するために、この回路では、単一磁束量子を保持できる5つの超伝導ループ(J1A、J2A、L1A、J3、J4からなる超伝導ループ1とJ1B、J2B、L1B、J3、J4からなる超伝導ループ2、J1C、J2C、L1C、J3、J4からなる超伝導ループ3、J1D、J2D、L1D、J3、J4からなる超伝導ループ4、J1E、J2E、L1E、J3、J4からなる超伝導ループ5)が組合わさった構成になっており、5つの超伝導ループのいずれか1つだけには単一磁束量子が保持されるが、5つの超伝導ループには同時にそれぞれ単一磁束量子は保持されないように設計されている。
【0062】
加えて、本実施形態の特徴である遅延回路(Delay1、Delay2、Delay3)は、お互いに異なった時間だけ超伝導ループに入力する信号を遅らすことが出来る。これにより、第3の入力信号と第4の入力信号及び第5の入力信号を順番に遅らせて入力することが可能になる。
【0063】
5つ信号入力端(InA、InB、InC、InD、InE)に入力される入力信号の”1”状態が3つ以下の場合は、従来の技術及び第1の実施の形態で説明した動作とほぼ同様であるので、ここでは一例として入力信号が全て”1”状態である場合(図6の真理値表の最下行に記した状態)の動作の説明をする。
【0064】
まず、信号入力端InAにSFQパルスが入力されると、超伝導ループ1に単一磁束量子が保持され、ジョセフソン接合J4がバイアスされた状態(単一磁束量子が保持されたことにより、超伝導ループに永久電流が流れ、超伝導ループの一部であるジョセフソン接合J4にはこの永久電流が流れた状態になっている。)になる。
【0065】
その後、信号入力端InBにSFQパルスが入力されて超伝導ループ2にも単一磁束量子を保持しようとする。しかし、この時すでに最初のSFQパルスにより超伝導電流が流れているため、電流が足し合わされてジョセフソン接合J3に流れ込み、ジョセフソン接合J3は磁束量子転移して超伝導ループに保持していた単一磁束量子を排除することで、超伝導ループを初期状態(”0”状態)にリセットする。このため、ジョセフソン接合J4はバイアス状態ではなくなる。
【0066】
ここで、InA、InBのSFQパルスは、それぞれ同時に、対応する超伝導ループに入力されてもよい。
【0067】
その後、第3のSFQパルスが入力されると、超伝導ループ3に単一磁束量子が保持され、ジョセフソン接合J4は再度バイアス状態になる。その後、信号入力端InDにSFQパルスが入力されて超伝導ループ4にも単一磁束量子を保持しようとする。しかし、この時すでに第3のSFQパルスにより超伝導電流が流れているため、電流が足し合わされてジョセフソン接合J3に流れ込み、ジョセフソン接合J3は磁束量子転移して超伝導ループに保持していた単一磁束量子を排除することで、超伝導ループを初期状態(”0”状態)にリセットする。このため、ジョセフソン接合J4はバイアス状態ではなくなる。
【0068】
その後、第5のSFQパルスが入力されると、超伝導ループ5に単一磁束量子が保持され、ジョセフソン接合J4は再度バイアス状態になる。そのため、その後クロックパルスが入力されると、ジョセフソン接合J4は磁束量子転移し、出力端にSFQパルスを発生する。
【0069】
上記一連の動作が正常に行われるためには、SFQパルスが入力されるたびに、5つの内のいずれかの超伝導ループに単一磁束量子が保持(セット)され、次のSFQパルスの入力により保持された単一磁束量子が超伝導ループから排除され初期状態にリセットされる。以降、SFQパルスの入力数に応じてセットとリセットが正常に繰り返される必要がある。この条件は、第3から第5の入力信号が、お互いに異なった時刻に超伝導ループに入力されるように設定することで満足される。信号間の時間差は、第1の実施形態で述べた時間差t0だけお互いに異なる様に設定しておけば良い(時間t0は、SFQパルスがいずれかの超伝導ループに入力されて、”1”状態であった超伝導ループの量子状態をリセットするのに要する時間である)。
【0070】
以上の動作により、図6の真理値表に示したような5入力の排他的論理和の演算を行うことができる。この様に、第3から第5の入力信号に対してそれぞれ所望の遅延を設定することで、全体として1クロックで動作する(論理段数1段)超伝導単一磁束量子5入力排他的論理和回路を実現することできる。
【0071】
また、図5において、具体的な回路定数は例えば以下のように設定することが出来る。
【0072】
J1A = J1B = J1C = J1D = J1E = 0.0926 mA、J2A = J2B = J2C = J2D = J2E = 0.0824 mA、J3 = 0.0848 mA、J4 = 0.0781 mA、J5 = 1.123 mA、L1A = L1B =L1C = L1D =L1E = 6.5 pH。
【0073】
ここで、各ジョセフソン接合は、マッカンバ定数β=1程度のオーバーダンピング状態で動作するように設定されている。
【0074】
なお、本実施形態に於いては、5つの信号入力端(InA、InB、InC、InD、InE)に入力される5つの入力信号は、前段の超伝導単一磁束量子RSフリップフロップ回路(RS−FF)に於いてほぼ同時刻に発生する。即ち、5つのRSフリップフロップ回路にクロック信号が入力されると、RSフリップフロップの内部状態(量子状態)に応じてほぼ同時にSFQパルスが出力される。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態の超伝導単一磁束量子5入力排他的論理和回路により、5入力の排他的論理和の演算を1クロックの動作で実現できると言う効果がある。これにより、高速化と同時に、従来の技術に比べて素子数の削減ができるため、回路サイズの縮小及び低消費電力化が実現できるという効果もある。
【0076】
また、本実施形態では、5つの入力信号に対する超伝導単一磁束量子5入力排他的論理和回路を構成したが、さらに多くの入力信号に対しても本実施形態と同様に追加した入力信号に遅延を付して入力することで、同様の効果を持つ超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路を実現することができる。
【0077】
【発明の効果】
以上説明した様に本発明により、1クロックで高速に動作可能な超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路が実現できる。本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路は、入力信号数が増えても、従来の技術の多入力排他的論理和回路のように多段構成にする必要がないため、回路サイズの縮小及び低消費電力化が実現できるという効果もある。また、本発明の超伝導単一磁束量子3入力排他的論理和回路を用いることで、デジタル信号処理回路の基本ブロックである全加算器を容易に構成できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第1の実施形態を説明するための等価回路図である。
【図2】本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第1の実施形態を説明するための真理値表である。
【図3】本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第1の実施形態の動作を説明するため動作波形の概略図である。
【図4】本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第2の実施形態を説明するための等価回路図である。
【図5】本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第3の実施形態を説明するための等価回路図である。
【図6】本発明の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路の第3の実施形態を説明するための真理値表である。
【図7】従来の技術の超伝導単一磁束量子3入力排他的論理和回路を説明するためのブロック構成図である。
【図8】従来の技術の超伝導単一磁束量子5入力排他的論理和回路を説明するためのブロック構成図である。
【図9】従来の技術の超伝導単一磁束量子2入力排他的論理和回路を説明するための等価回路図である。
【図10】従来の技術の超伝導単一磁束量子2入力排他的論理和回路を説明するための真理値表である。
【符号の説明】
J1A、J1B、J1C、J1D、J1E、J2A、J2B、J2C、J2D、J2E、J3、J4、J5、Jd1、Jd2 ジョセフソン接合
L1A、L1B、L1C、L1D、L1E、Ld1、Ld2 インダクタンス
Ib1、Ib2、Ib3、Ib4、Ib5 直流バイアス電流
InA、InB、InC、InD、InE 信号入力端
2XOR1、2XOR2、2XOR3、2XOR4 2入力排他的論理和回路
Claims (6)
- 一端が第1の接続点に接続され他端が出力点に接続された第1のジョセフソン接合と、一端が前記出力点に接続され他端が接地された第2のジョセフソン接合と、一端が前記出力点に接続され他端が制御信号入力点に接続された第3のジョセフソン接合と、一端が第1の信号入力点に接続され他端が接地された第4のジョセフソン接合と、一端が第1のバイアス電流入力点に接続され他端が前記第1の信号入力点に接続された第5のジョセフソン接合と、一端が前記第1のバイアス電流入力点に接続され他端が前記第1の接続点に接続された第1のインダクタンスと、一端が第2の信号入力点に接続され他端が接地された第6のジョセフソン接合と、一端が第2のバイアス電流入力点に接続され他端が前記第2の信号入力点に接続された第7のジョセフソン接合と、一端が前記第2のバイアス電流入力点に接続され他端が前記第1の接続点に接続された第2のインダクタンスとで構成された超伝導単一磁束量子排他的論理和回路において、
第3の信号入力点と第3のバイアス電流入力点とを有し、一端が前記第3の信号入力点に接続され他端が第2の接続点に接続された所定の遅延時間を有する遅延回路と、一端が前記第2の接続点に接続され他端が接地された第8のジョセフソン接合と、一端が前記第3のバイアス電流入力点に接続され他端が前記第2の接続点に接続された第9のジョセフソン接合と、一端が前記第3のバイアス電流入力点の1つに接続され他端が前記第1の接続点に接続された第3のインダクタンスとから構成された回路を少なくとも1個以上含むことを特徴とする超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路。 - 前記所定の遅延時間は、前記第1のジョセフソン接合と前記第2のジョセフソン接合を共通に含み前記第1から第3のインダクタンスと前記第4から第9のジョセフソン接合と接地とを介して構成される超伝導ループが、その超伝導ループの量子状態をリセットするのに要する時間以上の時間であることを特徴とする請求項1記載の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路。
- 前記少なくとも1個以上の第3の信号入力点に接続された少なくとも1個以上の遅延回路の遅延時間は、前記所定の遅延時間だけ順次お互いに異なっていることを特徴とする請求項1記載の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路。
- 前記遅延回路は、ジョセフソン接合とインダクタンスで構成されるジョセフソン伝送線路の信号伝搬遅延を用いることで実現したことを特徴とする請求項1記載の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路。
- 前記遅延回路は、マイクロストリップラインの信号伝搬遅延を用いて実現されていることを特徴とする請求項1記載の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路。
- 前記制御信号が周期的なクロック信号であることを特徴とする請求項1記載の超伝導単一磁束量子多入力排他的論理和回路。
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