JP3842669B2 - 磁気ヘッド測定装置及び同装置に適用する測定方法 - Google Patents
磁気ヘッド測定装置及び同装置に適用する測定方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般的には磁気力顕微鏡(MFM)を利用した磁気ヘッド測定装置に関し、特に記録ヘッドの磁界特性を測定するための磁気ヘッド測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えばハードディスクドライブに使用する磁気ヘッドの製造工程などでは、当該磁気ヘッドに含まれる記録ヘッド(ライトヘッド)の磁界分布や磁界の飽和現象などの磁界特性を測定する測定工程が必要不可欠である。記録ヘッドは、例えばインダクティブ型の薄膜ヘッドであり、コイルに印加される信号電流に応じた記録磁界を発生する磁気ギャップを有する。
【0003】
測定工程での測定方式としては、(1)スピンスタンドと呼ばれるヘッド・ディスク専用の測定装置を使用する方式、(2)磁気力顕微鏡(MFM)を利用した専用の磁気ヘッド測定装置を使用する方式、(3)コンピュータシミュレーションによる方式が知られている。
【0004】
スピンスタンドを使用する測定方式では、測定対象の記録ヘッドに対するライト電流値を変化させながら、ディスク記録媒体に測定用信号を記録して、再生ヘッド(リードヘッド)により当該記録信号を再生する。そして、スピンスタンドにより、再生ヘッドから出力された記録信号を使用して、測定対象の記録ヘッドの磁界特性を測定する。
【0005】
また、MFMを利用した測定方式では、測定対象の記録ヘッドに対してDC(直流)電流を印加して、当該記録ヘッドから発生するDC磁界(記録磁界)をMFMにより測定する。
【0006】
また、コンピュータシミュレーションによる方式では、測定対象の記録ヘッドに対してDC(直流)電流を印加した場合に当該記録ヘッドから発生するDC磁界(記録磁界)をコンピュータ上のシミュレーションにより求める。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来の各種の測定方式には、以下のような問題がある。
【0008】
まず、スピンスタンドを使用する測定方式では、ディスク記録媒体と再生(MR)ヘッドとを介して記録信号を測定することになるため、これらの特性をも含んだ測定結果が得られることになる。このため、記録ヘッドの飽和磁界を直接に観察することができない。また、飽和現象は、記録ヘッドを構成する磁極の角(エッジ)から生じると推定される。しかし、この測定方式では、その現象を局所的に捉えることはできない。
【0009】
また、MFMを利用した測定方式では、DC電流のみを印加して飽和磁界を測定するため、分解能の向上が期待できない。DC電流値を増大させると、記録ヘッドから非常に大きな磁界が発生する。このため、MFMで使用される探針と、記録ヘッドからの記録磁界との相互作用が、探針の先端部だけでなく、探針の背面部にまで及んでしまう。また、探針の背面部での相互作用には、探針の周囲からの磁界も含まれるため、当該探針の背面部における相互作用効果が非常に大きくなる。従って、相対的に探針の先端部からの寄与が少なくなり、分解能が低下することになる。
【0010】
また、コンピュータシミュレーションでは、記録ヘッドの実際の磁界分布を測定することはできない。
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、記録ヘッドの磁界特性である飽和磁界を直接かつ高分解能に観察することを実現し、結果的に記録ヘッドの測定性能を向上できる磁気ヘッド測定装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る磁気ヘッド測定装置は、記録ヘッド上の少なくとも一つの測定点に対して測定を行なう磁気ヘッド測定装置であって、少なくとも一部に磁性体を有し、前記測定点を走査するための探針と、前記探針を支持するカンチレバーと、前記カンチレバーを加振する加振手段と、前記加振手段により加振される前記カンチレバーの変位を検出する変位検出手段と、前記変位検出手段の検出結果に基づき、前記加振手段が前記カンチレバーを所定の周波数と振幅で加振するよう制御する加振制御手段と、前記記録ヘッドに対して直流電流及び交流電流を合わせた電流を印加して、当該記録ヘッドから磁界を発生させる電流印加手段と、前記電流印加手段により印加される電流に応じて前記記録ヘッドから発生する磁界が前記探針に及ぼす力学的相互作用に相当する信号の前記記録ヘッドに印加される交流電流と同期する信号成分を、前記カンチレバーの振動周波数変化として検出する信号検出手段と、を具備することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る測定方法は、記録ヘッド上の少なくとも一つの測定点に対して測定を行なう磁気ヘッド測定装置に適用される測定方法であって、前記記録ヘッドに対して直流電流及び交流電流を合わせた電流を印加して、当該記録ヘッドから磁界を発生させ、前記測定点を走査するための探針を支持するカンチレバーが所定の周波数と振幅で加振されるよう制御した状態で、前記探針を前記記録ヘッドに接近させ、前記電流印加に応じて前記記録ヘッドから発生する磁界が前記探針に及ぼす力学的相互作用に相当する信号の前記記録ヘッドに印加される交流電流と同期する信号成分を、前記カンチレバーの振動周波数変化として検出することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
(磁気ヘッド測定装置の構成)
本実施形態の測定装置は、図1に示すように、測定装置本体1及びコンピュータ20に大別される。測定装置本体1は、磁気力顕微鏡(MFM)を利用して記録ヘッド(以下試料と呼ぶ場合がある)3の磁界特性を測定するための専用装置である。ここで、MFMは、概略的には走査型プローブ顕微鏡の一種であり、通常ではカンチレバー(板バネ部材)に搭載された探針を測定対象試料に接近させて、非接触状態で当該試料から発生する磁界を磁気力相互作用(力または力勾配)を利用して検出するものである。
【0015】
測定装置本体1は、磁性体(又は磁性体がコーティングされた)探針10を支持するカンチレバー2と、当該カンチレバー2に一定振動振幅の振動を与えるための加振用圧電素子5とを有する。この加振用圧電素子5は、後述するAGC回路23からの制御信号に応じて、カンチレバー2の機械的共振周波数(ωr)またはその近傍の周波数で、かつ所定の振幅で、カンチレバー2を振動させる。
【0016】
一方、測定対象の記録ヘッドである試料3は、X軸、Y軸、Z軸の3次元方向に駆動制御される走査用圧電素子4により保持されている。走査用圧電素子4は、後述するフィードバック回路12からの制御信号に応じて、試料3と探針10との3次元の相対位置及び相対距離を変化させる機能を有する。
【0017】
さらに、測定装置本体1は、変位検出計7と、移相器22と、AGC(Automatic Gain Control)回路23と、周波数復調器21と、同期検波器9と、振幅/直流電圧変換器11とを有する。
【0018】
本実施形態では、力学的相互作用を検出する方式として、周波数復調器21を用いた周波数検出方式を採用している。これに伴い、変位検出計7、移相器22、AGC回路(自動利得制御回路)23、加振用圧電素子5によって正帰還発振系を構成し、測定中のカンチレバー2の変位を一定に保つようにしている。特に、移相器22及びAGC回路23は、変位検出計7の検出結果に基づき、加振用圧電素子5がカンチレバー2を所定の周波数と振幅で加振するよう制御する。
【0019】
変位検出計7は、カンチレバー2の変位を検出するものである。
【0020】
移相器22は、変位検出計7から出力される信号の位相に対し、所定の角度だけ位相のずれた信号を出力する。即ち、移相器22は、カンチレバー2の振動の位相を変化させた信号を出力する。この移相器22を調節することにより、変位検出計7の出力信号とAGC回路23の出力信号との位相差を一定に保持した状態とすることができる。なお、AGC回路23と移相器22の配置順序を入れ替えても、測定上の問題はない。
【0021】
AGC回路23は、移相器22の出力信号を受け、カンチレバー2の振動の振幅もしくは加振用圧電素子5への信号の振幅が一定となるように自身の出力信号を制御(自動利得制御)する。
【0022】
周波数復調器21は、変位検出計7の出力信号に基づき、探針10での相互作用によるカンチレバー2の共振周波数変化(周波数シフト)を検出する。
【0023】
同期検波器9は、周波数復調器21から出力される信号からAC(交流)成分を測定する。即ち、同期検波器9は、探針10の力学的相互作用により検出された記録ヘッド3の磁界に対応する交流電流に同期した振幅成分(磁界−電流微分像に相当)を抽出し、それを測定信号100としてコンピュータ20に出力する。
【0024】
振幅/直流電圧変換器11は、変位検出計7の出力信号からAC信号の振幅値をDC(直流)信号102に変換してフィードバック回路12に出力する。フィードバック回路12は、振幅/直流電圧変換器11からの出力信号102の振幅が一定に保たれるように(探針−試料間距離が一定となるように)走査用圧電素子4を駆動する駆動制御信号103を出力すると共に、その信号を当該試料3の表面形状(凹凸像)の測定信号101としてコンピュータ20に出力する。
【0025】
信号発生器13は、試料3である記録ヘッドのコイルに測定用の信号電流104を供給するための電流源を有する回路である。信号電流104は、DCとACとを合わせたものであり、振幅が非常に小さい当該AC電流(角振動周波数ωm)を含む信号電流である。また、AC電流の周波数は、加振用圧電素子5における加振周波数よりも小さく設定する必要がある。なお、上記AC電流を、所定の搬送波周波数と変調周波数とで振幅変調された振幅変調電流とすることにより、コンピュータ20側で高周波磁界の飽和現象を観察することも可能である。
【0026】
コンピュータ20は、測定装置本体1の全体的制御を行なうと共に、測定装置本体1により測定された磁界−電流微分像に相当する測定信号100及び試料の表面形状(凹凸像)に相当する測定信号101のそれぞれを信号処理して測定評価を行なう機能を有する。また、コンピュータ20は、装置本体1の全ての測定条件の設定や動作状態の取得を実行する。具体的には、コンピュータ20は、フィードバック回路12の時定数及び走査用圧電素子4の走査範囲を設定する。また、信号発生器6,13から信号電流を発生するための周波数,振幅,オフセットなどの動作条件を設定する。
【0027】
上述した探針10、カンチレバー2、加振用圧電素子5、変位検出計7、移相器22、AGC回路23、周波数復調器21、同期検波器9、振幅/直流電圧変換器11、フィードバック回路12、走査用圧電素子4は、本測定を行なうために新たに開発することも可能であるが、市販のもしくは既存の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)/MFM装置に組み込まれた形態で実現することが可能である。
【0028】
また、上述した走査用圧電素子4は、記録ヘッド3に対して固定されている構造を想定しているが、探針10と記録ヘッド3との相対位置が変化できるような構造であれば他の配置構成でもよい。
【0029】
また、上述した周波数復調器21においては、LC共振回路とダイオードとを用いた簡単な検波手法のほか、ピークディファレンシャル(peak differential)検波、レシオ(ratio)検波、フォスタシーレ(Foster Seeley)検波、PLL(phase locked loop)復調、SSB(single sideband)復調、DSP(digital signal processor)を用いたデジタル復調などの検波手法を採用してもよい。
【0030】
また、上述したAGC回路23においては、ゲインアンプを用いる構成のほか、ピーク検出器を用いる構成を採用してもよい。
【0031】
また、上述した移相器22においては、オペアンプを使用するオールパスフィルタを用いた構成のほか、三角波変換器(例えば積分回路)及びコンパレータを用いた構成、PLL回路を用いた構成を採用してもよい。
【0032】
(周波数検出方式の特徴)
本実施形態では、周波数検出方式を記録ヘッドの磁界飽和測定に適用している。その際、カンチレバーの振動を正帰還発振系でフィードバック制御し、移相器で位相を変化させることにより(Applied Physics A 66, S885-S889 (1998))、カンチレバー2のQ値を実効的に向上させ、安定かつ高感度に磁界飽和現象を捉えることが可能となる。また、真空中では、さらに感度を向上させ、分解能を上げることが可能となる。
【0033】
ところで、このような周波数検出方式に対し、位相検波器を用いた位相検出方式を採用する測定装置が提案されている(特願2001−28551号)。位相検出方式では、カンチレバーの共振周波数ωrを予め測定し、そのカンチレバーを加振するための加振信号を発生する信号発生器において加振信号の周波数をωrに設定して、当該カンチレバーへの加振を行なう。加振信号の周波数をωrに設定する理由は、この周波数での位相変化が一番急峻であるため、一番感度の良い状態で測定が行なえるからである。予め行なう共振周波数ωrの測定は、探針と測定試料(記録ヘッド)の表面とが十分に離れているときに行なう。
【0034】
しかしながら、カンチレバーの共振周波数ωrは、探針が試料に近づくにつれ、試料近傍(100nm以下)から、探針と試料との接触電位差による静電気力や磁気力相互作用によって位相シフトが測定時に変化しはじめ、探針が試料から十分離れていたときの値とは違ってしまう。このような値のずれは、測定を行なっている際の数nm〜10nm程度の範囲では特に顕著となる。この結果、検出感度が低下する可能性がある。特に、カンチレバーのQ値が高い状態、例えば真空中で測定を行なう場合やQ値制御回路を組み込んだ場合などにおいては、そのような影響が出やすい。
【0035】
これに対し、周波数検出方式(T. R. Albrecht, P. Grutter, D. Horne, and D. Rugar, Journal of Applied Physics, Vol.69, p.668 (1991) 参照)では、カンチレバーの振動を正帰還発振系でフィードバック制御することにより、共振周波数ωrが変化しても、その変化した周波数でカンチレバーを適切に加振し続けることが可能となる。
【0036】
このような周波数検出方式に関しては、原子レベルの分解能の実現が報告されており(例えば、F. J. Giessibl, Science 260, 67 (1995) )、この方式を記録ヘッドの磁界飽和測定に応用することは非常に有効である。
【0037】
また、この方式を高周波特性測定装置(特願2001−85820号)に適用することにより、高周波磁界の飽和現象も観察可能となる。
【0038】
(測定手順)
以下、図2のフローチャートを参照して、本実施形態の測定手順を説明する。
【0039】
測定を行なう前に、移相器22を調整し、カンチレバー2のQ値の実行値が最大になるように、変位検出計7の出力信号とAGC回路23の出力信号との位相差がπ/2となるようにする。この調節ができたとき、AGC回路23の出力信号の振幅は最小値をとる。
【0040】
測定の準備が整った後、信号発生器13から試料3である記録ヘッドのコイルに対して、信号電流104を印加する(ステップS1)。この信号電流104は、DCとAC(角振動周波数ωm)とを加算したものである。このとき、当該AC電流の振幅を非常に小さい値にする。
【0041】
ここで、AC電流の振幅は小さければ小さいほど、磁界の微分に対応した信号が得られる。しかしながら、MFMの検出感度を考えると、ある程度の振幅が必要である。実際の記録ヘッドでの信号振幅の最大値が30mA〜40mAであることを考慮すると、AC電流の振幅はおよそ3mA以下であることが理想的である。
【0042】
ただし、電流を小さくしすぎると、測定される相互作用の交流成分FACが、測定系のノイズより小さくなり、所定の測定が困難になる。したがって、ノイズレベルに対して大きい信号が得られる電流値に設定する必要がある。通常測定系のノイズのうち、回路のノイズを低減させていくと、カンチレバー2の熱的ノイズが支配的になる。このノイズは熱統計力学的に決まっているため、取り除くことはできない。よって、以下の条件を満たしながら測定を行なう必要がある。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、A,Q,k,ωrはそれぞれ、カンチレバーの振動振幅、Q値、バネ定数、共振周波数である。KBとTはそれぞれ、ボルツマン定数と温度であり、Bは測定系の帯域幅である。本実施形態の測定では、同期検波器9のローパスフィルタの帯域幅を考慮する。実際のFACの大きさは探針の形状や磁性体の材料・スパッタ条件・膜厚によって異なる。
【0045】
一方、信号電流104に含まれるAC電流の周波数(ωm)は、カンチレバー2の共振周波数(ωr)の1/10以下でなければならない。当該周波数(ωm)は、振幅変調信号の変調周波数であるが、探針10と磁界の相互作用によってカンチレバー2の共振周波数を搬送周波数とする位相変調の変調周波数に変換される。従って、当該周波数(ωm)の最大値は、カンチレバー2の共振周波数(探針10の振動周波数に相当)および位相検波器内のローパスフィルタのカットオフ周波数に依存し、共振周波数(ωr)の1/10以下でなければ感度よく測定できないことが実験により確認されている。
【0046】
上記信号電流104の供給に応じて、記録ヘッド3のギャップから磁界(記録磁界)が発生する。この状態で、探針10を記録ヘッド3に接近させると、探針10には磁界による力学的相互作用が働く(ステップS2)。
【0047】
本測定においては、試料3の表面形状(凹凸像)と磁界飽和の位置を比較することが望ましい。よって、まず、試料3の表面形状(凹凸像)を測定する。そのために、コンピュータ20は、測定動作を切替えて、フィードバック回路12から出力される測定信号101を入力する。この場合、走査用圧電素子4を、フィードバック回路12からの制御信号に応じて、試料3と探針10との3次元の相対位置及び相対距離を変化させる。
【0048】
そして、信号発生器6から、カンチレバー2の機械的共振周波数(ωr)またはその近傍の周波数の信号を、加振用圧電素子5に供給する。これにより、加振用圧電素子5は、上記周波数で探針10を有するカンチレバー2を加振する。その状態で、探針10の先端部を記録ヘッド3の表面を軽く接触(タップ)させながら走査する。
【0049】
フィードバック回路12は、振幅/直流電圧変換器11からの出力信号102の振幅が一定に保たれるように(探針−試料間距離が一定となるように)走査用圧電素子4を駆動制御する。このとき、フィードバック回路12は、当該駆動制御信号を記録ヘッド3の表面形状(凹凸像)の測定信号101としてコンピュータ20に出力する(ステップS3)。
【0050】
次に、探針10に働く力学的相互作用のうち、AC成分に同期したもの(厳密には異なるが、磁界をDC電流で微分したものに相当)を、周波数復調器21及び同期検波器9を通じて測定する。
【0051】
探針10に働く力学的相互作用(即ち、記録ヘッドの磁界)は、カンチレバー2の共振周波数変化(周波数シフト)として、周波数復調器21により検出される。また、同期検波器9により、当該力学的相互作用のAC(交流)成分に同期した信号が測定信号100として出力される。この測定信号100は、交流電流の周波数(ωm)に同期した振幅成分であり、記録ヘッドから発生する磁界Hを電流Iで微分した磁界−電流微分値dH/dIに相当するものである。
【0052】
コンピュータ20は、探針10で記録ヘッド3のギャップの範囲を走査させることにより、磁界−電流微分像を測定するための測定信号100を入力する(ステップS4)。
【0053】
コンピュータ20は、測定装置本体1から得られた測定信号100に対して所定の信号処理を実行して、測定結果である記録ヘッド3の磁界−電流微分像を黒コントラストによる画像データに変換する。この画像データをディスプレイの画面上に表示出力することにより、測定対象の記録ヘッド3の磁界特性(飽和現象)を視覚的に直接観察することが可能となる。
【0054】
このようにして、測定装置本体1及びコンピュータ20によって測定対象の記録ヘッド3の磁界特性である磁界−電流微分像(測定信号100)及び表面形状である凹凸像(測定信号101)が測定される。
【0055】
なお、本例では、凹凸像と磁界−電流微分像とを同時に測定することは困難であるため、測定動作を切替えて、凹凸像の測定(ステップS3)と磁界−電流微分像の測定(ステップS4)とを別々に行なうようにする。
【0056】
次に、DC電流を変えて同様の測定を再度行なう場合には(ステップS5)、DC電流値の設定変更を行ない(ステップS6)、上記ステップS3及びS4の測定を繰り返す。DC電流を変えて測定を行なう必要が無くなれば、処理を終了する。
【0057】
このように様々な電流値に応じた測定結果を求めることにより、磁界−電流微分曲線(像)を、さらにはこの磁界−電流微分曲線(像)から磁界−電流曲線(像)を、コンピュータ20において得ることが可能となる。
【0058】
図3は、同実施形態で得られる磁界−電流微分値を説明するための図である。
【0059】
本実施形態で得られる磁界−電流微分値dH/dIは、記録ヘッドの場所(各部)によって異なる(site dependence)。
【0060】
図3(A)に示されるように、記録ヘッドの磁極P1,P2のうち、例えば磁極P2側の3箇所(図中のギャップエッジセンター部分(丸)、コーナー部分(四角)、P2磁極の境界部分(三角))の測定に関して考える。この場合の上記3箇所におけるdH/dIによる力勾配(以下、dH/dI力勾配)の電流依存性を図3(B)に示す。
【0061】
図3(B)に示されるように、ギャップエッジセンターでは、dH/dIは約10mAまで一定であるから、10mAを超えたあたりで飽和が始まっていることがわかる。コーナー部分では、低電流から一様にdH/dI力勾配が減衰していることから、低電流値であってもすでに飽和が始まっていることがわかる。P2磁極の境界部分では、dH/dI力勾配が他の2つより小さいことから、電流に対する磁界強度傾きが小さいことがわかる。さらに15mA程度までフラットであることから、15mAまでは単調増加し、その後飽和が始まっていることがわかる。このように、上記測定結果により、記録ヘッドの飽和現象が場所によって異なることを示せた。
【0062】
このように、本実施形態では測定対象である記録ヘッド3の磁界−電流微分像及び表面形状(凹凸像)を測定することができる。従って、コンピュータ20によって、測定結果である記録ヘッド3の磁界−電流微分像から画像を生成することにより、当該記録ヘッド3の磁界特性(磁界飽和現象)を視覚的に観察することが可能となる。また、電流値(DC電流値)を変化させた測定結果から、記録ヘッド3に対する磁界−電流微分曲線(像)、さらには磁界−電流曲線(像)を算出することにより、高い分解能での測定評価を行なうことができる。
【0063】
特に、本実施形態では周波数検出方式を記録ヘッドの磁界飽和測定に適用しており、カンチレバー2の振動を正帰還発振系でフィードバック制御し、移相器22で位相変化を調整することにより、カンチレバー2のQ値を実効的に向上させ、安定かつ高感度に磁界飽和現象を捉えることが可能となる。
【0064】
(変形例1)
図4は、図1の磁気ヘッド測定装置の変形例を示す図である。なお、図1と共通する要素には同一の符号を付し、その具体的な説明を省略する。
【0065】
前述した図1の磁気ヘッド測定装置では、振幅/直流電圧変換器11を設けていたが、この変形例ではその振幅/直流電圧変換器を使用しない構成となっている。
【0066】
また、前述した図1の磁気ヘッド測定装置では、振幅/直流電圧変換器11の出力信号がフィードバック回路12へ送られる構成であったが、この変形例では振幅/直流電圧変換器11を使用しないため、代わりに周波数復調器21の出力信号が(同期検波器9へ送られるだけでなく)フィードバック回路12へも送られる構成となっている。
【0067】
フィードバック回路12は、周波数復調器21の出力信号104を使用することにより、図1の磁気ヘッド測定装置の場合と同様、走査用圧電素子4を駆動制御するための信号103及び試料3の表面形状(凹凸像)の測定信号101を生成することが可能となる。この場合、フィードバック回路12は、周波数復調器21からの出力信号104の振幅が一定に(あらかじめ設定しておいた値に)保たれるように(探針−試料間距離が一定となるように)走査用圧電素子4を駆動制御するとともに、当該駆動制御信号を試料3の表面形状(凹凸像)の測定信号101としてコンピュータ20に出力する。
【0068】
このように、フィードバック回路12は、試料3の表面形状(凹凸像)を測定するに際し、周波数復調器21の出力信号104を用いる。この出力信号104の特性を図5に示す(曲線a)。この出力信号は、探針−試料間距離が大きいときには、記録磁界からの寄与が支配的であるが(破線b)、探針−試料間距離が小さくなると(数nm)、ファン・デル・ワールス力からの寄与が支配的になる(破線c)。ファン・デル・ワールス力は、原子の周りの電子の軌道再構成によって生じるため、この信号をフィードバックの入力信号とし、ファン・デル・ワールス力による周波数シフトが一定となるようにフィードバック制御をすれば、試料3の表面形状を測定することができる。ただし、次式のように、磁気による相互作用Fmagが、ファン・デル・ワールス力Fvdwより小さくなるような測定条件で(探針−試料間距離が数nmとなる領域で)行なう必要がある。
【0069】
【数2】
【0070】
なお、この変形例では、図1の場合と同様、AGC回路23と移相器22の配置順序を入れ替えても、測定上の問題はない。
【0071】
また、この変形例における測定手順は、前述の図2を用いて説明した測定手順とほぼ同様となる。ただし、この変形例では、凹凸像と磁界−電流微分像とを同視野に対して同時に測定することも可能であり、凹凸像の測定(図2のステップS3)と磁界−電流微分像の測定(図2のステップS4)とを同時に行なってもよいし、また、これら凹凸像の測定と磁界−電流微分像の測定とを別々に行なってもよい。
【0072】
(変形例2)
図6は、本実施形態における測定方法の変形例を説明するための図である。なお、本例による測定方法は、図1に示した構成の測定装置と図4に示した構成の測定装置のいずれにおいても適用できるものである。
【0073】
図6では、記録ヘッド3に対する探針10の走査範囲400、その走査ライン401(破線)、及び測定位置402(黒丸)が概念的に示されている。
【0074】
本例の測定方法では、走査範囲400において、記録ヘッド3の磁極P1,P2の周辺(ギャップ30)で探針10を走査させて(走査ライン401)、予め設定した測定位置402で当該走査を一時的に停止させる。そして、記録ヘッド3に供給する信号電流104の電流値(DC電流値)を変化させたときの同期検波器9からの測定結果(磁界−電流微分値)を、コンピュータ20が記憶する。コンピュータ20は、DC電流値を変化させて得られる複数の測定結果(磁界−電流微分値)を解析して、磁界−電流微分曲線を算出する。さらに、コンピュータ20は、探針10を所定の測定位置402毎の磁界−電流微分曲線から、記録ヘッド3の磁界−電流曲線を算出する。
【0075】
このような変形例によれば、探針10の走査とDC電流値の変化とを同時的に実行することができるため、磁界−電流微分曲線及び磁界−電流曲線を短時間で算出することが可能となる。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することが可能である。
【0077】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、磁気力顕微鏡(MFM)を利用して、磁気ヘッドに含まれる記録ヘッドの磁界特性を測定するための磁気ヘッド測定装置において、測定された磁界−電流微分像を所定の信号処理により画像に変換することにより、測定対象である記録ヘッドの磁極エッジからの磁界の飽和現象を視覚的に観察することが可能となる。また、記録ヘッドに供給する電流値を変化させることにより、当該記録ヘッドの磁界に対する電流依存性(磁界−電流曲線)を求めることも可能となる。即ち、測定対象である記録ヘッドの磁界特性である飽和磁界を直接かつ高分解能に観察することを実現し、結果的に記録ヘッドの測定性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に関する磁気ヘッド測定装置の要部を示すブロック図。
【図2】同実施形態に関する測定手順を説明するためのフローチャート。
【図3】同実施形態で得られる磁界−電流微分値を説明するための図。
【図4】図1の磁気ヘッド測定装置の変形例を示す図。
【図5】同実施形態で使用する周波数復調器の出力信号の特性を説明するための図。
【図6】同実施形態における測定方法の変形例を説明するための図。
【符号の説明】
1…測定装置本体
2…カンチレバー
3…試料(記録ヘッド)
4…走査用圧電素子部材
5…加振用圧電素子
7…変位検出計
9…同期検波器
10…探針
11…振幅/直流電圧変換器
12…フィードバック回路
13…信号発生器
20…コンピュータ
21…周波数復調器
22…移相器
23…AGC回路
Claims (10)
- 記録ヘッド上の少なくとも一つの測定点に対して測定を行なう磁気ヘッド測定装置であって、
少なくとも一部に磁性体を有し、前記測定点を走査するための探針と、
前記探針を支持するカンチレバーと、
前記カンチレバーを加振する加振手段と、
前記加振手段により加振される前記カンチレバーの変位を検出する変位検出手段と、
前記変位検出手段の検出結果に基づき、前記加振手段が前記カンチレバーを所定の周波数と振幅で加振するよう制御する加振制御手段と、
前記記録ヘッドに対して直流電流及び交流電流を合わせた電流を印加して、当該記録ヘッドから磁界を発生させる電流印加手段と、
前記電流印加手段により印加される電流に応じて前記記録ヘッドから発生する磁界が前記探針に及ぼす力学的相互作用に相当する信号の前記記録ヘッドに印加される交流電流と同期する信号成分を、前記カンチレバーの振動周波数変化として検出する信号検出手段と、
を具備することを特徴とする磁気ヘッド測定装置。 - 前記信号検出手段によって検出された信号の直流電流値依存性を測定する測定手段をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。
- 前記測定手段は、前記電流印加手段における前記直流電流を変化させることによって前記検出手段から得られる信号に基づき、前記記録ヘッド上の任意の測定点における磁界−電流微分曲線を得ることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。
- 前記加振制御手段は、
前記変位検出手段の検出結果に基づき、前記カンチレバーの振動の位相を変化させた信号を出力する移相器と、
前記移相器の出力信号を受け、前記カンチレバーの振動の振幅を一定とするための信号を出力する自動利得制御回路と、
を有することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。 - 前記電流印加手段における前記交流電流の周波数は、前記加振手段における加振周波数よりも小さく設定されることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。
- 前記測定手段は、前記記録ヘッド上の任意の測定点において前記探針による走査を停止させた状態で、前記電流印加手段における前記直流電流を変化させ、これにより前記検出手段から得られる信号に基づき、当該測定点における磁界−電流微分曲線を得る処理を、複数の測定点の各々に対して行なうことを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。
- 前記変位検出手段の出力信号から交流信号の振幅値を直流信号に変換して出力する信号変換手段と、
前記信号変換手段から得られる直流信号に基づき、前記探針と前記記録ヘッドの表面との間の距離を一定にして走査するための駆動制御信号を生成すると共に、この駆動制御信号を前記記録ヘッドの表面形状の測定信号として生成する制御手段と、
をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。 - 前記信号検出手段により検出される前記カンチレバーの振動周波数変化に基づき、前記探針と前記記録ヘッドの表面との間の距離を一定にして走査するための駆動制御信号を生成すると共に、この駆動制御信号を前記記録ヘッドの表面形状の測定信号として生成する制御手段をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。
- 前記電流印加手段における前記交流電流は、所定の搬送波周波数と変調周波数とで振幅変調された振幅変調電流であることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド測定装置。
- 記録ヘッド上の少なくとも一つの測定点に対して測定を行なう磁気ヘッド測定装置に適用される測定方法であって、
前記記録ヘッドに対して直流電流及び交流電流を合わせた電流を印加して、当該記録ヘッドから磁界を発生させ、
前記測定点を走査するための探針を支持するカンチレバーが所定の周波数と振幅で加振されるよう制御した状態で、前記探針を前記記録ヘッドに接近させ、
前記電流印加に応じて前記記録ヘッドから発生する磁界が前記探針に及ぼす力学的相互作用に相当する信号の前記記録ヘッドに印加される交流電流と同期する信号成分を、前記カンチレバーの振動周波数変化として検出することを特徴とする測定方法。
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