JP3840447B2 - 原水中の重金属の除去方法 - Google Patents

原水中の重金属の除去方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、原水中の重金属の除去方法に関する。特に、本発明は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いた原水中の重金属の除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キレート樹脂は、イオンの捕捉という点で、多価金属イオンに対して高い選択性を有しており、この性質を利用して、塩水精製、排水処理、薬液精製など様々な用途に使用されている。このようなキレート樹脂の1つであるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を母体とするイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(例えば、非特許文献1参照。)は、重金属と共に高濃度のアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む溶液中から、重金属を選択的に捕捉することができるので、重金属を含む原水から重金属を除去するのに有用である。
【非特許文献1】
「吸着技術ハンドブック、清水博監修、株式会社NTS;第345頁〜359頁、第389頁〜394頁」
【0003】
イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いた、重金属を含む原水からの重金属の除去は、重金属を捕捉できるように再生されたイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に、該原水を通水することにより行われ、これにより原水中の重金属が該キレート樹脂に捕捉され、重金属が低減された処理水が得られる。イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂が捕捉できる重金属の量には限界があるので、該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に対して、限界を超える原水が通水された場合に、処理水への重金属の破過が起こる。一般に、処理水中の重金属の量に関しては一定の基準値が設けられているので、通常の重金属の除去処理においては、重金属の破過が起こる前に、または処理水中の重金属の量が基準値を超える前に、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への原水の通水を停止し、該キレート樹脂の再生または交換を行うといった運転方法が採用されている。
【0004】
処理水中の重金属の測定方法としては、処理水の電気伝導率を指標として間接的に測定する方法、またはICP発光法もしくは原子吸光法など、重金属の量を直接測定する方法などが挙げられる。しかし、原水が重金属と共に、高濃度のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含む場合には、かかる原水をイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水した場合に、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩はそのままリークするので、電気伝導率によって処理水中の重金属の量を測定することはできない。また、ICP発光法または原子吸光法などによると、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩の存在にかかわらず、処理水中の重金属の量を直接測定することが可能であるが、かかる測定には数多くの手間、時間を要するだけでなく、処理水中の重金属の量を間欠的にしか測定できないので、重金属の破過をオンラインでリアルタイムにモニタリングすることが困難であるという問題がある。
【0005】
このように、処理水中の重金属量をリアルタイムで測定するのは困難なので、予備試験などに基づいて、重金属の破過が起こらない処理量、処理時間をあらかじめ設定し、これに基づき通水を停止するという運転方法が広く行われている。しかし、重金属の濃度の変動が大きい原水を処理する場合には、この方法では対応できず、重金属の破過を完全に防止することができない。また逆に、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂が継続して使用可能であるにもかかわらず通水を停止するという事態も生じ、この場合、運転の効率が低下してしまうという問題も生じる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水した場合に、処理水への重金属の破過が処理水のpHの変化に関連していることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いた原水中の重金属の除去方法において、原水の該樹脂への通水の停止の指標として、除去処理により得られた処理水のpHの変化率の低下を採用することにより、リアルタイムにオンラインで、簡易に処理水への重金属の破過を監視でき、これにより、重金属の除去処理の処理状況に応じた処理、停止、再生などの制御を可能にし、また従来の方法における、処理水の間欠的で煩雑なサンプリングおよび測定作業をなくすることにより作業を簡素化でき、さらに処理水をリアルタイムにオンラインで監視できるので、重金属の除去処理における異常発生に迅速に対応できる、原水中の重金属の除去方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は請求項1として、重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせる原水中の重金属の除去方法において、該処理水のpHの変化率の低下を指標として、該原水の該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止することを特徴とする、原水中の重金属の除去方法を提供する。
本発明は請求項2として、重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせる原水中の重金属の除去方法において、該処理水のpHが定常状態となった後、該処理水のpHの変化率の低下を指標として、該原水の該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止することを特徴とする、原水中の重金属の除去方法を提供する。
本発明は請求項3として、原水のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水の停止が、処理水のpHの変化率の低下が認められた時点から、処理水中の重金属の含有量が許容範囲内である間に行われる、請求項1または2記載の原水中の重金属の除去方法を提供する。
本発明は請求項4として、処理水のpHの変化率の低下が、0.01pH/処理倍量以上の低下である、請求項1〜3のいずれか1項記載の原水中の重金属の除去方法を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の原水中の重金属の除去方法においては、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂が使用される。本発明において使用可能なイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂としては、イミノジ酢酸基を有する樹脂であって、該イミノジ酢酸基において重金属イオンとキレート結合することができるものであれば特に限定されるものではない。好ましくは、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を母体とするイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(例えば、非特許文献1「吸着技術ハンドブック、清水博監修、株式会社NTS;第346頁〜359頁、第389頁〜394頁」参照)、例えば、アンバーライト(登録商標)IRC748(ローム・アンド・ハース社製)、レバチット(登録商標)TP−207(バイエル社製)、ダイヤイオン(登録商標)CR−10等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂は、金属イオン捕捉能という点においては、重金属イオン>アルカリ土類金属イオン>アルカリ金属イオンであり、重金属イオンに対して高い選択性を有している。これにより、本発明においては、原水中にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンが高濃度で含まれている場合であっても、原水中の重金属イオンを選択的に捕捉でき、重金属が低減された処理水を得ることが可能となる。
【0010】
本発明において使用されるイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂は、そのカルボキシル基がカルボン酸型、またはアンモニウム型、アルカリ金属塩型、アルカリ土類金属塩型から選ばれる塩型のいずれであってもよく、カルボン酸型と塩型が共存していても良い。カルボン酸型と塩型が共存する場合には、本発明の方法において、安定した処理水pHを得ることにより、本発明の方法をより効率的、高精度なものにできるという観点から、キレート樹脂中のカルボン酸型と塩型の分布が樹脂充填層内において均一であるのが好ましい。該カルボキシル基におけるカルボン酸型と塩型の比率は、本発明の除去方法により得られる処理水に求められるpHに応じて設定できる。例えば、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂について、そのカルボン酸の50モル%をカルボン酸型および50モル%をナトリウム塩型とすると、該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いて本発明の方法で得られる処理水のpHは4〜6程度となる。また、そのカルボン酸のほぼ全てをナトリウム塩型とすると、得られる処理水のpHは9〜11程度となる。
本発明においては、キレート樹脂層がアルカリ性になることにより難溶性の金属水酸化物の形成が起こる可能性があること、また重金属の除去効率が低下することを鑑みると、本発明において使用されるイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂は、そのカルボキシル基の10〜50モル%がカルボン酸型であり、50〜90モル%が塩型であるのが好ましく、より好ましくは、カルボキシル基の20〜40モル%がカルボン酸型であり、60〜80モル%を塩型にするとよい。ここで、カルボキシル基の塩型としては、ナトリウム型またはカルシウム型が好ましい。また、塩型は、複数種類の混合物であっても良い。
【0011】
本発明に使用可能なイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂は、任意の、公知の方法で調整することができ、例えば、重金属の吸着能が低下したイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を再生処理することにより得ることができる。再生処理の方法としては、例えば、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に吸着した金属を溶離するために、硫酸、塩酸などの鉱酸を接触させる工程と、必要に応じてカルボキシル基の全部または一部を塩型にするためのアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム)溶液に接触させる工程を含む方法が挙げられる。また、カルシウム塩型などのアルカリ土類金属塩型のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を調整する場合には、上述の再生処理方法におけるアルカリ金属水酸化物溶液の接触に続いて、カルシウム塩をはじめとするアルカリ土類金属塩溶液、またはアルカリ土類金属塩とアルカリ金属の水酸化物の混合物溶液に接触させる工程を含む方法が挙げられる。
上述のような再生処理において使用される鉱酸、アルカリ金属水酸化物溶液、およびアルカリ土類金属塩溶液の種類、濃度、処理溶液量等は特に限定されるものではない。また、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂のカルボキシル基におけるカルボン酸型と塩型との比率の調整は、該キレート樹脂の再生処理におけるアルカリ金属水酸化物溶液との接触量により調整することが可能である。
【0012】
本発明における重金属とは比重が4以上の金属をいい、本発明の目的に反しない限りは特に限定されるものではない。本発明の重金属の除去方法を適用できる重金属としては、好ましくは、Fe、Hg、Cu、Ni、Zn、Cd、Co、Mn、Ti、V、Cr、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Biが挙げられ、より好ましくは、Pb、Fe、Hg、Cu、Ni、Zn、Cd、Co、Mnが挙げられる。
【0013】
本発明における原水は、重金属を含有しているのであれば良く、含まれる重金属はイオンの形態であるものが好ましい。本発明の除去方法で処理可能な、原水中に含まれる重金属の量は、原水のpH、使用されるイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂の種類、量、再生状態、および通水量などにより異なる。
原水は重金属以外の成分を含むことができ、例えば、重金属以外のアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素をイオンまたは化合物の形態で含んでいても良いし、その他の有機、無機成分をイオンまたは化合物の形態で含んでいても良い。また、原水は任意の由来のものであって良く、例えば、塩水精製に供される塩水、工場排水などの排水、薬液精製に供される薬液などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。本発明においては、電気伝導率による処理水中の重金属のモニタリングが行えないような、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を多量に含む原水であっても、オンラインでリアルタイムに除去処理の制御を行うことができるという有利な効果を有している。
【0014】
必要な場合には、本発明の方法で処理される原水は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水される前に、原水中の懸濁物を砂ろ過装置などのろ過装置を用いて除去する工程、重金属の除去効率を高めるためにpHを調整、好ましくは4〜8に調整する工程、希釈工程等の任意の前処理工程に供され得る。
【0015】
本発明においては、重金属を含む原水をイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせるが、この処理は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を充填した重金属吸着塔に原水を通水し、処理水を生じさせるなど、本発明の目的に反しない限りは、任意の公知の装置、方法を用いて行うことができる。好ましい態様は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を固定床として充填した重金属吸着塔に、下向流として原水を通水し、処理水を回収する態様である。この場合、通水量は特に限定されるものではないが、好ましくは、SV(Space Velocity)1〜50、より好ましくは、SV5〜20である。
【0016】
本発明は、該処理水のpHの変化率の低下を指標として、原水のキレート樹脂への通水を停止することを特徴とする。
本発明において、「処理水のpHの変化率」とは、処理水中のpHの経時的な変化の割合を表すパラメータ、すなわち、ある処理倍量の時点での処理水中のpHの変化率であり、具体的には、「処理水のpHの変化率」は、本発明の1態様である図1に示されるように、処理水中のpHを縦軸に、処理倍量を横軸にとってpHと処理倍量の関係をグラフ化した場合に、pHの変化を示すグラフ(曲線または直線)の、ある処理倍量の時点での接線の傾き(すなわち微分値)として現れる。例えば、図1においては、処理倍量200の前では、pHは6.2程度で一定であり、このときの処理水のpHの変化率はほぼ「0pH/処理倍量」である。これに対して、処理倍量200の直後からpHの低下が始まり、低下が始まった時点での処理倍量−pHのグラフの傾きが約「−0.026pH/処理倍量」である。よって、処理倍量200の時点で、処理水のpHの変化率が「0pH/処理倍量」から「−0.026pH/処理倍量」に低下したこととなる。これが本発明における「処理水のpHの変化率の低下」に該当する。
【0017】
本発明において、「処理倍量」とは、通水時のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂の体積に対する、ある時点におけるそれまでの総通水量、すなわち、「処理倍量」=(総通水量)/(使用されるイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂の体積)をいう。なお、前記式における「キレート樹脂の体積」とは、市販時の体積をいう。本発明においては、「処理水のpHの変化率」を表すのに「処理倍量」なるパラメータを使用したが、単位時間あたりの通水量、すなわち流速が定まれば、処理倍量を処理時間に換算することが可能なので、処理水のpHの変化率を処理時間に基づいて算出することも本発明の範囲内の事項である。なお、本発明者は、水質が同じであれば、流速が変化しても処理倍量あたりのpHの変化はほぼ同じカーブを描くことを確認している。
【0018】
本発明においては、処理水のpHの変化率の低下を指標として、原水のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水が停止される。ここで、処理水のpHの変化率の低下について、如何なる程度の低下により通水を停止するかについては特に限定されるものではなく、処理水のpHの安定性、処理水に許容される重金属量、原水の水質等に応じて適宜設定されるが、重金属の破過と無関係なpHの変動による通水の停止を行わず、また重金属の破過を見逃すことの無いような範囲であるのが望まれ、好ましくは、0.02pH/処理倍量以上の低下であり、より好ましくは、0.01pH/処理倍量以上の低下であり、さらにより好ましくは、0.005pH/処理倍量以上の低下である。
また、本発明における処理水のpHの変化率の低下は、該pHの変化率が低下するのであれば特に限定されるものではなく、上述の図1におけるような「0」から「負の値」への低下だけでなく、「正の値」から「負の値」への低下、および正の値の絶対値が低下する「正の値」から「正の値」への低下といった態様も包含する。
【0019】
本発明の1態様では、処理水のpHの変化率の低下を指標とした通水の停止は、処理水のpHが定常状態となった後に行われる。重金属を含む原水をイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水した場合には、通水初期においては処理水のpHが安定しない場合がある(図2参照)。しかし、このような場合、通水初期では重金属の破過は起こっておらず、これに基づいて通水を停止したのでは本発明の効率的な運転が図れない。また、このような通水初期の一時的な変動を除けば、重金属の破過が起こるまでは処理水pHはほぼ一定であるか、ほぼ一定比率で増減し続けるといった挙動をとる(図1〜7参照)。
よって、本発明の1態様では、重金属の破過と関連しない通水初期のpHの変動により通水を停止することを防止すべく、「処理水のpHが定常状態となった後」に、処理水中のpHの変化率の低下を指標とした通水の停止を行うこととした。すなわち、本発明における「処理水のpHが定常状態となった後」とは、通水初期のpHが不安定な状態が終了し、処理水pHがほぼ一定であるか、ほぼ一定比率で増減し続ける状態となった後を意味する。ここで、処理水のpHが定常状態となった後とは、上記定義を満たす場合であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、重金属の破過に関連した処理水のpHの変化率の低下が起きる処理倍量の10%の通水が行われた後であり、より好ましくは、該処理倍量の30%の通水が行われた後であり、さらにより好ましくは、該処理倍量の60%の通水が行われた後である。
【0020】
重金属の破過と関連した処理水のpHの変化率の低下がどのような態様で、どの程度の処理倍量で起こるかは、本発明の方法を適用しようとする条件で、予備的に重金属の除去処理を行うことにより確認でき、この予備的検討を基に、処理倍量に対するpHの変化の確認、指標とする処理水のpHの変化率の低下の程度の設定、定常状態の設定を行うことが可能である。よって、本発明の1態様としては、重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせる原水中の重金属の除去方法において、あらかじめ確認された重金属の破過が起こる処理倍量の前後で起こる該処理水のpHの変化率の低下を指標として、該原水の該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止することを特徴とする、原水中の重金属の除去方法が挙げられる。該態様における「あらかじめ確認された重金属の破過が起こる処理倍量の前後」としては、原水中の重金属の変動等により適宜設定することができるが、好ましくは、あらかじめ確認された重金属の破過が起こる処理倍量の±50%の範囲、より好ましくは、±30%の範囲、さらにより好ましくは、±20%の範囲であるが、これに限定されるものではない。複数の重金属が含まれ、各重金属において破過が起こる処理倍量が異なる場合には、最も少ない処理倍量で破過が起こる処理倍量を基準にして上記態様が行われるのが好ましい。
【0021】
本発明においては、処理水のpHの変化率の低下を指標として原水の通水が停止されるが、停止のタイミングは、処理水に含まれ得る重金属の量、処理水のpHの変化率の低下と重金属の破過との関連などを考慮して適宜設定することが可能である。好ましくは、原水のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水の停止は、処理水のpHの変化率の低下が認められた時点から、処理水中の重金属の含有量が許容範囲内である間に行われる。より好ましい態様は、あらかじめ設定された程度の処理水のpHの変化率の低下が認められたら、直ちに通水を停止する態様である。処理水中の重金属含有量の許容範囲は、対象となる重金属の種類、処理水の使用目的などに応じて適宜設定される。
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0022】
【実施例】
実施例1
実施例1は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂であるアンバーライトIRC748を用いて行われた。300mLのアンバーライトIRC748(市販状態のもの、すなわち該樹脂のカルボキシル基のほぼ100モル%がナトリウム塩型である)を内径21mm、長さ1000mmのアクリル製カラムに充填した。これを次の工程で再生した:
工程1:6%塩酸を下向流で、通液速度SV4で39分間通液した。
工程2:純水を下向流で、通液速度SV4で45分間通液した。
工程3:4%水酸化ナトリウム水溶液を下向流で、通水速度SV2.4で18分間通液した。
工程4:純水を下向流で通液速度SV2.4で45分間通液した。
工程5:純水を下向流で通液速度SV10で10分間通液した。
工程6:空気をカラムの下部より吹き込む空気混合で5分間混合した。
工程3での水酸化ナトリウムの量は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂のカルボン酸基の60モル%をナトリウム塩型にする量である。
再生後、表1に示されるpH、組成を有する重金属を含む原水を調製し、該原水を通水速度SV10の下向流でイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂が充填されたカラムに通水し、カラム出口のpHをオンラインで連続的に測定した。また、一定時間ごとに処理水をサンプリングし、処理水中の各重金属の量をICP発光法を用いて定量した。実施例1の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図1に示される。
【0023】
図1のグラフから明らかなように、処理倍量が200以後にZnの破過が始まった。また、処理倍量が200の前まではpHがほぼ一定であり、処理水のpHの変化率はほぼ「0pH/処理倍量」であったが、処理倍量200の直後から処理水のpHの変化率は約「−0.026pH/処理倍量」となった。すなわち、重金属の破過が起こる処理倍量200の前後で、処理水のpHの変化率は、0.026pH/処理倍量低下した。
この結果から明らかなように、処理水のpHの変化率の低下が認められた処理倍量200をやや越えた時点で通水を停止し、再生すれば、重金属であるZnの破過を生じさせず、かつ効率的な運転が可能となる。
【0024】
【表1】
Figure 0003840447
【0025】
実施例2
実施例2では、重金属を含む原水が表1に示されるものに変更されたことを除き、実施例1と同一の方法が行われた。実施例2の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図2に示される。
【0026】
図2のグラフから明らかなように、処理倍量が200の前まではpHがほぼ一定であり、処理水のpHの変化率はほぼ「0pH/処理倍量」であったが、処理倍量200の直後から処理水のpHの変化率は約「−0.030pH/処理倍量」となり、処理倍量200の前後で、処理水のpHの変化率は、約0.030pH/処理倍量低下した。また、ZnおよびCdの破過は処理倍量200以後に認められた。また、開始直後および処理倍量40〜60付近でpHの変動が認められたが、これは通水初期における変動であり、この時点ではいまだ定常状態になっておらず、この後の安定したpHが本発明にいう定常状態である。
この結果から明らかなように、処理水のpHの変化率の低下が認められた処理倍量200の時点で通水を停止し、再生すれば、重金属であるZnおよびCdの破過を生じさせず、かつ効率的な運転が可能となる。
【0027】
実施例3
実施例3では再生工程を以下のように変更したことを除き、実施例1と同一の方法が行われた。実施例3の再生工程は以下の通りである:
工程1:6%塩酸を下向流で、通液速度SV4で39分間通液した。
工程2:純水を下向流で、通液速度SV4で45分間通液した。
工程3:2%水酸化ナトリウム水溶液を上向流で、通水速度SV12で樹脂を流動させながら9分間通液した。
工程4:純水を下向流で通液速度SV12で30分間通液した。
工程5:純水を下向流で通液速度SV10で10分間通液した。
工程3での水酸化ナトリウムの量は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂のカルボン酸基の60モル%をナトリウム塩型にする量である。
実施例3の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図3に示される。
【0028】
図3のグラフでは、pHは処理倍量150程度までは一定比率で低下しているが、処理倍量150〜200ではほぼ一定であり、処理倍量200の直前の処理水のpHの変化率は約「+0.003pH処理倍量」であったが、処理倍量200の直後から処理水のpHの変化率は約「−0.017pH/処理倍量」となり、処理倍量200の前後で、処理水のpHの変化率は、約0.020pH/処理倍量低下した。また、Znの破過は処理倍量200以後に認められた。
この結果から明らかなように、処理水のpHの変化率の低下が認められた処理倍量200の時点で通水を停止し、再生すれば、重金属であるZnの破過を生じさせず、かつ効率的な運転が可能となる。
【0029】
実施例4
実施例4では、重金属を含む原水が表1に示されるものに変更されたことを除き、実施例1と同一の方法が行われた。実施例4の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図4に示される。
【0030】
図4のグラフから明らかなように、処理倍量が255まではpHが徐々に上昇しており、処理倍量255の直前の処理水のpHの変化率は、約「+0.029pH/処理倍量」であったが、処理倍量255の直後の処理水のpHの変化率は約「+0.002pH/処理倍量」となり、処理倍量255の前後で、処理水のpHの変化率は、約0.027pH/処理倍量低下した。また、Cuの破過は処理倍量255以後に認められた。
この結果から明らかなように、処理水のpHの変化率の低下が認められた処理倍量255の時点で通水を停止し、再生すれば、重金属であるCuの破過を生じさせず、かつ効率的な運転が可能となる。また、本発明における処理水のpHの変化率の低下は、実施例1および2のような「0」から「負の値」への低下や、実施例3のような「正の値」から「負の値」への低下だけでなく、実施例4のような正の値の絶対値が低下する「正の値」から「正の値」への低下でも良いことが確認された。
【0031】
実施例5
実施例5では、重金属を含む原水およびキレート樹脂のナトリウム塩型のモル%が表1に示されるものに変更されたことを除き、実施例1と同一の方法(ただし、水酸化ナトリウム水溶液の通水量を、カルボン酸基の100モル%がナトリウム型となるように増加し、工程6を省略した。)が行われた。実施例5の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図5に示される。
【0032】
図5のグラフから明らかなように、処理倍量が170まではpHがほぼ一定であり、処理水のpHの変化率はほぼ「0pH/処理倍量」であったが、処理倍量170の直後の処理水のpHの変化率は約「−0.057pH/処理倍量」となり、処理倍量170の前後で、処理水のpHの変化率は、約0.057pH/処理倍量低下した。また、Znの破過は処理倍量170の時点から起こっていることが確認された。また、処理倍量20付近で、処理水のpHの変化率の低下が認められたが、これは重金属の破過に関係しない通水初期における変動であり、この時点ではいまだ定常状態になっておらず、この後の安定したpHが本発明にいう定常状態である。
この結果から明らかなように、処理水のpHの変化率の低下が認められた処理倍量170をやや越えた時点で通水を停止し、再生すれば、重金属であるZnの破過を生じさせないか、処理水中に重金属が含まれたとしても低濃度に抑制でき、かつ効率的な運転が可能となる。
【0033】
実施例6
実施例6では、重金属を含む原水およびキレート樹脂のナトリウム塩型のモル%が表1に示されるものに変更されたことを除き、実施例5と同一の方法が行われた。実施例6の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図6に示される。
【0034】
図6のグラフから明らかなように、処理倍量約140まではpHがほぼ一定であったが、その後低下傾向を示した。処理倍量140での処理水のpHの変化率の低下は、約0.006pH/処理倍量であり、処理倍量145での処理水のpHの変化率の低下は、約0.013pH/処理倍量であり、処理倍量153での処理水のpHの変化率の低下は約0.046pH/処理倍量であった。また、Znの破過は処理倍量約140前後から起こっていることが認められた。
この結果から、通水を停止すべき処理水のpHの変化率の低下をあらかじめ特定の値に設定することにより、重金属の破過を防止できることを含め、処理水に求められる重金属の量に応じた効率的な運転が可能となることが明らかとなった。
【0035】
実施例7
実施例7では、重金属を含む原水およびキレート樹脂のナトリウム塩型のモル%が表1に示されるものに変更されたことを除き、実施例1と同一の方法(ただし、水酸化ナトリウム水溶液の通水量は、カルボン酸基の50モル%がナトリウム型となるように減少させた。)が行われた。実施例7の結果は、処理水のpHおよび重金属含有量を縦軸に、処理倍量を横軸にして表わしたグラフとして、図7に示される。
【0036】
図7のグラフから明らかなように、通水初期のpHの変動の後、pHは処理倍量約70までは緩やかに上昇したが、処理倍量約70でpHの上昇の頭打ち、およびそれに続く低下が認められた。処理倍量70での処理水のpHの変化率の低下は、約0.007pH/処理倍量であり、処理倍量75での処理水のpHの変化率の低下は、約0.025pH/処理倍量であり、処理倍量80での処理水のpHの変化率の低下は約0.047pH/処理倍量であった。また、Znの破過は処理倍量57〜85の間に起こっていることが認められた。
この結果から、通水を停止すべき処理水のpHの変化率の低下をあらかじめ特定の値に設定することにより、処理水中に重金属が含まれるとしても低濃度に抑制できる運転が可能となることが明らかとなった。
【0037】
以上、実施例1〜7の結果から明らかなように、様々な条件下、様々な重金属に対しても、処理水のpHの変化率の低下を指標として、原水のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止することにより、処理水への重金属の破過を防止することを含め、処理水中の重金属の含有量を制御しつつ、効率的な運転をすることを可能にするという本発明を達成できることが明らかとなった。
【0038】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明は、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂を用いた原水中の重金属の除去方法において、原水の該樹脂への通水の停止の指標として、除去処理により得られた処理水のpHの変化率の低下を採用することにより、リアルタイムにオンラインで、簡易に処理水中の重金属量を監視でき、これにより、重金属の除去処理の処理状況に応じた処理、停止、再生などの制御を可能にし、また従来の処理水の間欠的で煩雑なサンプリングおよび測定作業をなくすることにより作業を簡素化でき、さらに処理水をリアルタイムにオンラインで監視できるので、重金属の除去処理における原水の変化など異常発生に迅速に対応できるという有利な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は実施例1における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。
【図2】 図2は実施例2における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。
【図3】 図3は実施例3における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。
【図4】 図4は実施例4における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。
【図5】 図5は実施例5における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。
【図6】 図6は実施例6における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。
【図7】 図7は実施例7における、処理倍量と処理水pHおよび処理水中の重金属量との関係を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせる原水中の重金属の除去方法において、該処理水のpHの変化率の低下を指標として、該原水の該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止することを特徴とする、原水中の重金属の除去方法。
  2. 重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせる原水中の重金属の除去方法において、該処理水のpHが定常状態となった後、該処理水のpHの変化率の低下を指標として、該原水の該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止することを特徴とする、原水中の重金属の除去方法。
  3. 原水のイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水の停止が、処理水のpHの変化率の低下が認められた時点から、処理水中の重金属の含有量が許容範囲内である間に行われる、請求項1または2記載の原水中の重金属の除去方法。
  4. 処理水のpHの変化率の低下が、0.01pH/処理倍量以上の低下である、請求項1〜3のいずれか1項記載の原水中の重金属の除去方法。
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