JP3838941B2 - コレステロール検出試薬 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コレステロール検出試薬、及びそれを用いたコレステロールの検出方法に関する。より詳細には、本発明は、ポリエチレングリコールコレステリルエーテルを含むコレステロール検出試薬、及びそれを用いたコレステロールの検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞内コレステロールの含量および分布は厳密に調節されている。細胞内において、コレステロールはゴルジ後膜に蓄積する(M.S.Bretscher,他、Science 261,1280-1.(1993))。原形質膜上で、コレステロールはスフィンゴミエリンおよびスフィンゴ糖脂質と一緒になってミクロドメインを形成する(A.Rietveld,他、Biochim Biophys Acta 1376,467-79.(1998);及び、R.E.Brown,J Cell Sci 111,1-9.(1998))。カベオリン、及びグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合糖タンパク質および二重にアシル化された非受容体型チロシンキナーゼ等の他のクラスのタンパク質がこのドメインに存在する(T.V.Kurzchalia,他、Curr Opin Cell Biol 11,424-31.(1999);及びE.Ikonen,他、Traffic 1,212-7.(2000))。このドメインは脂質ラフトとして知られている。脂質ラフトは、シグナリング、接着、運動および膜通過などの細胞機能において重要な役割を果たす(D.A.Brown,他、Annu Rev Cell Dev Biol 14,111-36(1998);及び、K.Simons,他、Nat Rev Mol Cell Biol 1,31-9.(2000))。メチル-β-シクロデキストリン(MβCD)により表面のコレステロールを除去するか、または代謝阻害剤を用いることにより細胞のコレステロール含量が減少すると、このドメインの分解が引き起こされる(L.J.Pike,他、J Biol Chem 273,22298-304.(1998);A.Pralle,他、J Cell Biol 148,997-1008.(2000);及び、K.Roper,他、Nat Cell Biol 2,582-92.(2000))。
【0003】
細胞のコレステロール含量は、de novo合成と、リポタンパク質のエンドサイトーシスにより外部から得られるコレステロールとの均衡を通して調節される(M.S.Brown,他、Proc Natl Acad Sci USA 96,11041-8.(1999);K.Simons,他、Science 290,1721-6.(2000);及び、Y.A.Ioannou,Nat Rev Mol Cell Biol 2,657-68.(2001))。この調節が破綻すると、動脈硬化またはニーマン−ピック病C型(NPC)のような病態が引き起こされる(P.G.Pentchev 他、Biochim Biophys Acta 1225,235-43.(1994);及び、L.Liscum,Traffic 1,218-25.(2000))。後期エンドソームのリゾビスホスファチジン酸リッチな内膜ドメインは収集および分配装置として作用することにより、コレステロール輸送の調節に関与する(T.Kobayashi 他、Nat Cell Biol 1,113-8.(1999))。しかし、コレステロールおよび/またはコレステロールリッチな膜ドメインの細胞内輸送については、ほとんど知られていない。
【0004】
ポリエチレングリコールコレステリルエーテル(PEG-Chols)は、疎水性のコレステリル部分および親水性のポリエチレングリコール部分からなる非イオン性かつ両親媒性の一群の分子である(図1A)(H.Ishiwata,他、Biochim Biophys Acta 1359,123-35(1997))。PEG(50)-Chol(分子量は2587、括弧内の数字である50はエチレングリコールの反復数を示す)は、培地中の生細胞に添加すると、クラスリンを介したトランスフェリンのインターナリゼーションに影響を与えない条件下において、クラスリンとは無関係であるカベオラ様エンドサイトーシスを阻害することが知られている(T.Baba 他、Traffic 2,501-12.(2001))。しかしながら、PEG-Cholが細胞の如何なる成分と相互作用するのかは不明であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリエチレングリコールコレステリルエーテルが細胞内で特異的に結合することができる分子を同定することを解決すべき課題とした。さらに、本発明は、コレステロールと特異的に結合することによりコレステロールを検出することができる物質を含む新規なコレステロール検出試薬およびそれを用いたコレステロールの検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、PEG(50)-Cholによりクラスリンとは無関係のエンドサイトーシスが特異的に阻害されるという以前の知見を考慮して、PEG-Cholが一以上の脂質ラフト成分と特異的に相互作用している可能性があるものと推測し、オーバーレイ・アッセイを使用して、PEG-Cholが様々な脂質とin vitroで結合することを確認した。さらに細胞内でPEG-Cholが相互作用する物質を検討した結果、PEG-Cholがコレステロールに特異的に結合することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを含む、コレステロール検出試薬が提供される。
本発明の別の側面によれば、標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを用いることを特徴とする、コレステロールの検出方法が提供される。
本発明では、親和性物質又は蛍光物質で標識されているポリエチレングリコールコレステリルエーテルを用いることが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のコレステロール検出試薬は、標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを含むものである。
本発明で用いるポリエチレングリコールコレステリルエーテルとは、図1Aに記載した構造を有する化合物であり、疎水性のコレステリル部分および親水性のポリエチレングリコール部分からなる化合物である(H.Ishiwata,他、Biochim Biophys Acta 1359,123-35(1997))。nはポリエチレングリコール部分におけるエチレングリコールの反復数を示す。本発明で用いるポリエチレングリコールコレステリルエーテルにおけるnの数は、コレステロールとの結合性に悪影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、10〜1000、好ましくは20〜200、より好ましくは20〜100程度である。好ましく使用できる一例としては、n=50のポリエチレングリコール部分を含むポリエチレングリコールコレステリルエーテルを挙げることができる。
【0009】
本発明で用いるポリエチレングリコールコレステリルエーテルは公知の化合物であり、例えば、上記の文献(H.Ishiwata,他、Biochim Biophys Acta 1359,123-35(1997))に記載されている。本発明で用いるポリエチレングリコールコレステリルエーテルは、コレステロールを溶媒に溶かしエチレングリコールガスを注入し反応させることにより製造することができる(Ishiwata他、Chem Pharm Bull 43, 1005-1011(1995))。この他、ポリエチレングリコールコレステリルエーテルは、コレステロールのトルエンスルホン酸エステルとポリエチレングリコールとを反応させる方法により製造することもできる(Patel他、Biochim Biophys Acta 797:20-26(1984))。
【0010】
本発明で用いるポリエチレングリコールコレステリルエーテルとしては、検出のための標識物質が結合しているものを使用することが好ましい。このような標識物質の種類は特に限定されないが、例えば、親和性物質、蛍光物質、放射性物質などが挙げられる。
親和性物質としては、ビオチンまたはジゴキシゲニンなどを使用することができる。蛍光物質としては、フルオレセイン(fluorescein)、FITC、BODIPY 493/503、BODIPY FL 、ジアルキルアミノクマリン、2’,7’−ジクロロフルオレセイン、ヒドロキシクマリン、メトキシクマリン、ナフトフルオレセイン、Oregon Green 514、テトラメチルローダミン(TMR)、X−ローダミン、NBD、TRITC、Texas、Cy5、Cy7、IR144、FAM、JOE、TAMRA、ROXなどを使用することができる。放射性物質としては、32P、131I、35S、45Ca、3H、14Cなどを使用することができる。この他、酸化ストレス検出剤 (同仁)carboxy-PTIO、DTCS;NO発生剤(同仁)BNN5;種々のcagedアミノ酸;キレート剤(例えば、DTPA、EDTA、NTAなど)、種々のcarboxy disulfide((カルボン酸)S-S(カルボン酸)の構造を有する)等を使用することができる。
【0011】
本発明のコレステロール検出試薬は、上記した標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを含む限り、その形態は特に限定されず固体でも液体(溶液、懸濁液など)でもよい。液体の場合には適当な溶媒(好ましくは、該ポリエチレングリコールコレステリルエーテルが一定の溶解度を示す有機溶媒など)に溶解または懸濁することによって試薬を調製することができる。上記した形態で提供される本発明の試薬には、ポリエチレングリコールコレステリルエーテル以外の助剤(例えば、保存剤、安定化剤、pH緩衝剤など)を適宜添加することもできる。
【0012】
本発明によれば、標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを用いてコレステロールを検出する方法も提供される。検出はインビトロで行ってもよいし、細胞内で行ってもよいし、あるいは生体内で行ってもよい。先ず、検出すべきコレステロールを含む試料と、(好ましくは標識されている)ポリエチレングリコールコレステリルエーテルとを一定条件下で接触させることにより、両者を結合させる。
【0013】
結合後に、コレステロールに結合したポリエチレングリコールコレステリルエーテルの検出を行う。検出は、用いた標識の種類に応じて適宜行うことができる。
例えば、ビオチンを標識として用いた場合には、ビオチンに特異的に結合するアビジンまたはストレプトアビジンを用いて検出を行うことができる。例えば、コレステロールに結合したビオチン標識ポリエチレングリコールコレステリルエーテルに対して、アビジンまたはストレプトアビジンを反応させ、次いで、ビオチン化したアルカリホスファターゼを結合させると、ビオチンを介して酵素が結合する。未結合の酵素を除去した後、アルカリホスファターゼの基質であるニトロブルーテトラゾリウム(NBT)と5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)と反応させると、ビオチン標識ポリエチレングリコールコレステリルエーテルが存在する場合には紫色の発色が見られ、検出することができる。ジゴキシゲニンを標識として用いた場合には、アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体を用いて上記の方法と同様に検出を行うことができる。なお、発色用の酵素としては、アルカリホスファターゼ以外にも西洋ワサビペルオキシダーゼを用いる系も知られている。
【0014】
フルオレセインなどの蛍光物質を使用した場合には、コレステロールとの反応後に蛍光を測定することによりコレステロールと結合したポリエチレングリコールコレステリルエーテルを検出することができる。蛍光は一定の励起光を照射して発生する蛍光エネルギーを測定することにより、蛍光の定性的または定量的な検出を行うことができる。定量に際しては、蛍光エネルギーの強度をコレステロールの存在量の指標として評価することもできる。蛍光エネルギーまたは蛍光は、市販の適当な検出器や蛍光蛍光顕微鏡などを用いて測定することができる。
【0015】
放射性物質を使用した場合には、コレステロールとの反応後にコレステロールに結合した放射活性を当業者に公知の方法により測定することにより、コレステロールの検出を行うことができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0016】
【実施例】
実施例1:PEG-Cholを用いたin vitroでの結合実験
(方法)
(1) 様々な量の各種脂質に対するビオチニル化PEG-Chol(bPEG-Chol:ビオチン1分子がPEG(50)-Cholの末端エチレングリコール部分と結合している)(10μM)の結合能を、既報の通り(K.Igarashi 他、J Biol Chem 270,29075-8.(1995))、TLCプレート上でのオーバーレイ・アッセイにより分析した。結果を図1Bに示す。
(2) 各種のリン脂質、糖脂質およびオレイン酸コレステロール(10nmol)に対するbPEG-Chol(10μM)の結合を上記(1)と同様に調べた。結果を図1Cに示す。
(3) グルコシルセラミド(GlcCer)とスフィンゴミエリン(SM)、またはグルコシルセラミドとジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)との混合物(図1Dに示した比率で合計30nmol)に対するbPEG-Cholの結合を分析した。結果を図1Dに示す。
【0017】
(4) GlcCer、SM、GlcCer+SM(1:1)およびGlcCer+DOPC(1:1)の差動走査熱量測定のサーモグラムのトレースを測定した。MicroCal VP-DSCを使用して、1mMリポソーム(GlcCer、SM、DOPC)または2mMリポソーム(GlcCer+SM、GlcCer+DOPC)懸濁液500μlを計測した。結果を図1Eに示す。
(5) GlcCerとDOPCとの1:1混合物を含む単分子層の蛍光画像を取得した。脂質単分子層は、0.5% C12-BODIPY-PC(分子プローブ)を含有する1mMのGlcCer+DOPCのクロロホルム溶液20μlをUSIシステム(Fukuoka, Jpan)FSD-500 Langmuir-Blodgettのトラフに注入することにより作製した。C12-BODIPY-PCは、優先的にDOPC層に分配された。表面圧力は10mN/mに調整した。LM Plan FI 50x対物レンズおよび東芝3CCDカメラを備えたOlympus Power BX蛍光顕微鏡を使用して蛍光画像を記録した。結果を図1Fに示す。バーは50μmを示す。
【0018】
(6) 様々な量のコレステロールを含む1mMのスフィンゴミエリン小胞を用いて、PEG鎖の遠位末端にフルオレセインを含むフルオレセインPEG-Chol(fPEG-Chol)(H.Ishiwata,他、Biochim Biophys Acta 1359,123-35(1997))の結合について分析した。小胞は、既報の通り(A.Miyazawa 他、Mol Immunol 25,1025-31.(1988))作製した。小胞をfPEG-Cholと一緒に室温で30分間インキュベートした。未結合のfPEG-Cholを、15K×gで15分間遠心分離して洗い流した。ペレットの蛍光を計測し、スフィンゴミエリンのリンによって標準化した。結果を図1Gに示す。
【0019】
(7) 膜間のfPEG-Cholの移動を分析した。500μM(最終濃度)のSM/Chol(1:1)リポソームを、0.5μMのfPEG-Cholおよび0.5μMのN-ローダミン--ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンを含有し、SM単独またはSM/Chol(1:1)から構成されるリポソーム(50μM)に添加した。488nmで励起した蛍光の535nmにおける発光スペクトルの時間的経過をモニターすることにより、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の放出を計測した。結果を図1Hに示す。
【0020】
なお、コレステロールおよびオレイン酸コレステロールは、Sigma(ミズーリ州セントルイス)から購入した。ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミドおよびラクトシルセラミドはMatreya(ペンシルベニヤ州ステートカレッジ)から購入した。他の全ての脂質は、Avanti Polar lipids(アラバマ州アラバスター)から購入した。
【0021】
Cholはコレステロール、SMはスフィンゴミエリン、PCはホスファチジルコリン、PSはホスファチジルセリン、PEはホスファチジルエタノールアミン、PIはホスファチジルイノシトール、PAはホスファチジン酸、GM1はガングリオシドGM1、GM2はガングリオシドGM2、GM3はガングリオシドGM3、GalCerはガラクトシルセラミド、GlcCerはグルコシルセラミド、LacCerはラクトシルセラミドである。
【0022】
(結果)
ビオチニル化PEG-Chol(bPEG-Chol:ビオチン1分子がPEG(50)-Cholの末端エチレングリコール部分と結合している)を様々な脂質のスポットに添加し、それを洗浄した後、基質として4-クロロ-1-ナフトールを使用してHRP結合ストレプトアビジンによりその結合を観察した(図1B及びC)(A.Yamaji 他、J Biol Chem 273,5300-6.(1998))。bPEG-Cholは、コレステロールおよび中性糖脂質(例えばガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド(GlcCer)およびラクトシルセラミド)に結合した。しかし、bPEG-Cholは、試験したリン脂質及び酸性糖脂質(ガングリオシド)には結合しなかった。bPEG-Cholは、コレステリルエステルおよびオレイン酸コレステロールにも結合しなかった。また、スフィンゴミエリン(SM)の添加により、bPEG-Cholとグルコシルセラミドと結合しなくなったが、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)にはそのような効果は生じなかった(図1D)。
【0023】
差動走査熱量測定(DSC)によれば、SMとGlcCerとの等モル混合物のゲルから液体への結晶相転移温度は、SMとGlcCerについての当該温度の中間値であることが示された(図1E)。これに対して、DOPCとGlcCerとの等モル混合物の前記相転移温度はGlcCerの相転移温度に非常に近く、そしてDOPCの相転移温度はSMの該温度と比べてはるかに低い。これらの結果は、GlcCerはSMと混和することができるが、この脂質とDOPCとの二成分混合物は異なるドメインに分離されることを示唆する。
【0024】
GlcCerがDOPCから分離されることを実証するために、単分子層系を利用した(図1F)。単分子層の実験により、GlcCer(黒)はDOPC(緑)から分離して、空気と水との中間相にてドメインを形成することが判明した。この結果は、PEG-Cholと中性糖脂質とが互いに寄り集まっている場合にのみ、PEG-Cholは中性糖脂質と結合することを示唆する。細胞膜の界面活性剤溶解度(D.A.Brown,他、Cell 68,533-44.(1992))およびモデル膜における脂質配分の測定(T.Y.Wang,他、Biophys J 79,1478-89.(2000))から、糖脂質が細胞においてスフィンゴミエリンリッチな膜に分配されることが示唆される。生体膜においてスフィンゴミエリンが高濃度であることを考慮すると、この結果は、細胞ではPEG-Cholは糖脂質にはほとんど結合していないことを示唆する。糖脂質とは対照的に、スフィンゴミエリンの添加は、コレステロール含量が10%未満まで減少しない限り、コレステロールに対するbPEG-Cholの結合に影響を及ぼさなかった。
【0025】
コレステロールに対するPEG-Cholの結合を調べるために、PEG鎖の遠位末端にフルオレセインを含むフルオレセインPEG-Chol(fPEG-Chol)を使用して、リポソーム実験をさらに行った。オーバーレイ・アッセイと同様に、コレステロールの添加により、スフィンゴミエリン・リポソームに対するfPEG-Cholの結合が増加した(図1G)。コレステロール含量が低い(10%)場合はfPEG-CholがSMリポソームと結合しなかったという事実は、上記膜において、fPEG-Cholがコレステロールリッチなドメインを認識することを示している。
【0026】
PEG-Cholは水溶性であり膜間を移動することができる。図1Hにおいて、膜間のfPEG-Cholの移動を測定した。fPEG-Cholの輸送を計測するために、fPEG-Cholと、非置換性マーカーであるローダミン標識したホスファチジルエタノールアミン(ローダミン-PE)との間の蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を測定した(J.W.Nichols,他、Biochemistry 21,1720-6.(1982))。供与リポソームにおいて、fPEG-Chol蛍光は、FRETにより消光した。しかし、一旦、fPEG-Cholが受容リポソームに輸送されると、蛍光は消光しなくなった。SMリポソームを供与体として使用し、SM/Chol(1:1)リポソームを受容体として使用した場合、fPEG-Cholの効率的な輸送が観察された。一方、供与体および受容体の両方がSM/Chol(1:1)である場合、fPEG-Cholはほとんど移動しなかった。これらの結果は、PEG-Cholがコレステロールリッチな膜に優先的に組み込まれ、はその膜内に閉じ込められることを示している。
【0027】
実施例2:細胞を用いたPEG-Cholによる標識実験
(方法)
既報の通り(T.Kobayashi 他、Nat Cell Biol 1,113-8.(1999))、正常(図2A〜D)およびNPC(図2E〜H)のヒト皮膚繊維芽細胞を固定し、透過化処理した。次に、5μMのfPEG-Chol(図2A及びE)、50μg/mlフィリピン(図2B及びF)および抗TGN 46抗体(Serotec Inc.、イギリス、オックスフォード)(図2C及びG)を用いて細胞を三重標識した。Zeiss LSM共焦点顕微鏡を使用して試料を観察した。図2D及びHは合成画像を示す。白色は3種の蛍光団の共局在を示す。fPEG-Cholとフィリピンとで染色した試料については、蛍光がNPC細胞において非常に明るいため、正常細胞とNPC細胞には、レーザー光線を異なるように照射した。
【0028】
図2I及びJにおいては、NPC細胞を通常血清(図2I)および脱脂血清(図2J)の存在下で増殖させた。細胞を透過化し、fPEG-Cholで標識した。
図2K及びLにおいては、NPC皮膚繊維芽細胞を固定して透過化した。次いで、1mMスフィンゴミエリン・リポソーム(図2K)またはスフィンゴミエリン/コレステロール(1:1)リポソーム(図2L)の存在下で、細胞をfPEG-Cholにより標識した。
【0029】
図2M〜Rにおいては、メラノーマ細胞株MEB4(図2M〜O)および糖脂質合成に欠陥のある変異体GM95(図2P〜R)を固定化し透過化した後、fPEG-Chol(図2M及びP)およびフィリピン(図2N及びQ)で二重標識した。MEB4およびGM95における蛍光パターンの類似性は、fPEG-Cholによる標識が主に糖脂質に依存するものではないことを示唆する。fPEG-Chol標識はフィリピン標識と共局在した(図2O及びR)。
【0030】
(結果)
in vitroでのPEG-Cholと様々な脂質との相互作用は、この分子が細胞において特定のコレステロールリッチな膜または膜ドメインに組み込まれることを示唆する。透過化処理したヒト皮膚繊維芽細胞にfPEG-Cholを添加すると、ゴルジ体が明るい蛍光を発光した(図2A)。同様の不明瞭な蛍光パターンは、コレステロールと複合体を形成するフィリピンを用いて以前にも観察されている(J.Sokol 他、J Biol Chem 263,3411-7.(1988);及び、T.Kobayashi 他、Nat Cell Biol 1,113-8.(1999))。fPEG-Chol染色は、トランスゴルジ網マーカーであるTGN46と部分的には共局在していた(A.R.Prescott,他、Eur J Cell Biol 72,238-46.(1997))。その重複が不完全であることは、ゴルジ体においてTGN46とコレステロールが異なった分布をしていることを示唆する。ニーマン−ピック病C型(NPC)は、常染色体劣性の内臓神経疾患である。NPC症候群の特徴は、非エステル化コレステロールが細胞内に蓄積することである(P.G.Pentchev 他、Biochim Biophys Acta 1225,235-43.(1994);L.Liscum,Traffic 1,218-25.(2000);及び、T.Kobayashi 他、Nat Cell Biol 1,113-8.(1999))。正常な繊維芽細胞とは異なり、NPC繊維芽細胞においては、fPEG-Cholにより核周囲の小胞ならびにゴルジ体が染色される(図2E)。この場合も、蛍光はフィリピン蛍光と共局在していた(図2F及びH)。
【0031】
リポタンパク質の不在下でNPC細胞を増殖させると、コレステロールの蓄積が有意に減少した(J.Sokol 他、J Biol Chem 263,3411-7.(1988))。NPC細胞を、通常血清の代わりに脱脂血清の存在下で増殖させた場合、fPEG-Cholによる核周囲の標識は著しく減少した(図2I及びJ)。fPEG-CholをSM/Chol(1:1)リポソームと一緒に前培養すると、fPEG-Chol標識は喪失した(図2L)。コレステロールを含まないスフィゴミエリンリポソームによる効果は、同条件下において著しく少ないことが示された(図2K)。fPEG-Cholは膜ドメインに組み込まれると、SM/Cholリポソームを用いても除去されないことから、fPEG-Cholは細胞中のコレステロールリッチな膜ドメインに閉じ込められていることが裏付けられる。
【0032】
GM95は、糖脂質合成に欠陥のあるメラノーマ細胞株である(S.Ichikawa,他、Proc Natl Acad Sci USA 91,2703-7.(1994))。PEG-Chol染色における糖脂質の効果を調べるために、GM95とMEB4親細胞とを比較した。GM95およびMEB4の両細胞ともfPEG-Cholにより同様に標識された(図2M及びP)。また、その標識はフィリピン標識と共局在していた。これらの結果は、fPEG-Cholによる細胞の標識は主に細胞のコレステロールに依存するが、糖脂質には依存しないことを示す。
【0033】
実施例3:fPEG-Cholの細胞表面の分布
(方法)
正常なヒトの皮膚繊維芽細胞を、1μMのfPEG-Cholおよび5μM AlexaFluor 594標識したコレラトキシンとともに室温で90秒間インキュベートし、次いでパラホルムアルデヒドで10分間固定した。図3のA及びCはfPEG-Chol蛍光、図3のB及びDはAlexaFluor 594蛍光である。小さい矢印は、fPEG-Cholとコレラトキシンで二重に標識された構造を示す。大きな矢印は、fPEG-Cholのみで標識された構造を示す。矢じりは、コレラトキシンのみによって陽性を示すスポットを示す。図3のE及びFにおいては、固定前に、10mMのMβCDによる37℃で30分間の処理を細胞に施すか(E)、または施さなかった(F)。次いで、細胞を1μMのfPEG-Cholで標識した。図3においてバーは4μmを示す。
【0034】
図4のG〜Lにおいては、正常な皮膚繊維芽細胞を2μMのfPEG-Cholで標識し、さらに5μg/mlビオチニル化上皮増殖因子(EGF)とともに4℃で20分間(図4のG及びH)、または37℃で2分間(図4のI及びL)インキュベートした。次に細胞を3%PFA、8%スクロースを含むPBSにより固定し、急冷してTRITC標識したストレプトアビジンとともに4℃で20分間インキュベートした。Hamamatsu C-4742-98冷却CCDカメラを備えたNikon TE 300顕微鏡で試料を観察した。図4のG及びIはfPEG-Chol蛍光、図4のH及びJはAlexaFluor 594のEGF蛍光である。図4のKおよびLにおいては、細胞を、1μMのfPEG-CholおよびAlexaFluor 594標識したコレラトキシンBサブユニットで二重に標識した後、未標識EGFで刺激した。図4のKはfPEG-Chol蛍光、図4のLはコレラトキシン蛍光である。図4においてバーは4μmを示す。
【0035】
図5のM〜Pにおいては、B細胞株A20.2Jを抗体なしで37℃で1分間インキュベートした。次に細胞を洗浄し、1%PFAで30分間固定し、さらに氷上において45分間、0.7μMのfPEG-Cholおよび10μg/mlのAlexa 546結合コレラトキシンBサブユニットを含有する0.1%BSAを用いて標識した。洗浄後、Zeiss LSM 510共焦点顕微鏡の下で、染色された細胞を観察した。図5のMはfPEG-Chol標識、図5のNはコレラトキシン標識、図5のOは合成画像、図5のPは位相差画像である。これらの条件下において、fPEG-Cholは固定した細胞に浸透することが可能となり、細胞内膜ならびに原形質膜を染色する。対照的に、コレラトキシンは細胞内に入らず、細胞表面のみを染色した。
【0036】
図5のQ〜Tでは、A20.2J細胞をマウスIgG+IgMに特異的なF(ab')2ヤギ抗体(F(ab')2抗Ig)15μg/mlを用いて37℃で1分間刺激した。次いで上記と同様に細胞を固定し、染色した。図5のQはfPEG-Chol標識、図5のRはコレラトキシン標識、図5のSは合成画像、図5のTは位相差画像である。
【0037】
(結果)
実施例3では、fPEG-Cholの細胞表面の分布を調べた(図3〜図5)。
正常なヒトの皮膚繊維芽細胞をfPEG-Cholで処理し、洗浄及び固定した。小さいドメイン(直径200〜500nm)において、より強い蛍光で標識されている不均一な表面が認められた(図3A及びC)。これらのドメインの一部は、Alexa Fluor 594標識したコレラトキシンB鎖と共局在していた(図3B及びD)。コレラトキシンは、原形質膜に非ランダムに分布しカベオラに蓄積するGM1と結合する(R.G.Parton, J Histochem Cytochem 42,155-66.(1994))。細胞を、コレステロールを細胞から特異的に除去するメチル-β-シクロデキストリン(MβCD)で前処理すると、fPEG-Chol染色が失われた(図3E及びF)(G.H.Rothblat 他、J Lipid Res 40,781-96.(1999))。
【0038】
次に、細胞を上皮増殖因子(EGF)で刺激しなかった場合のfPEG-Cholの分布を測定した。EGF受容体はコレステロールリッチな原形質膜ドメインを特定しており、EGF受容体へのEGFの結合は細胞表面のコレステロールに依存することが示唆された(M.G.Waugh,他、Biochem Soc Trans 29,509-11.(2001); K.Roepstorff,他、J Biol Chem 8,8(2002);及び、T.Ringerike,他、J Cell Sci 115,1331-40.(2002))。fPEG-Chol蛍光は、EGFを4℃で添加した場合のビオチン標識EGFの分布と共局在していた(図4G及びH)。EGFを37℃で添加すると、EGF受容体のクラスター化が観察された(図4J)。これらのクラスターはfPEG-Cholで標識された(図4I)。GM1の細胞表面の分布もこの条件下で調べた。GM1もこれらのクラスターにおいて富化されており、さらにfPEG-Cholと共局在していた(図4K及びL)。これらの結果は、EGFが、コレステロールおよびGM1の両方についてEGF受容体が富化されている前記クラスターへの分配を誘導することを示す。
【0039】
原形質膜ガングリオシドは、B細胞株A20.2Jの原形質膜上のB細胞抗原受容体が架橋される際に再分配される(M.J.Aman,他、J Biol Chem 276,46371-8.(2001))。F(ab')2抗Igでの処理によりfPEG-Cholが再分配されるかどうかを調べた。処理前では、Alexa Fluor 594標識したコレラトキシンおよびfPEG-Cholにより表面全体の輪郭が浮かび上がった(図5のM〜P)。しかし、F(ab')2断片で1分間刺激した後には、コレラトキシンは凝集構造となって原形質膜に蓄積した(図5のR)。fPEG-Cholもこの構造に局在した(図5のQ及びS)。この結果は、B細胞株の刺激の際にコレステロールがGM1と一緒に再分配されることを示す。
【0040】
実施例4:コレステロールの膜内分布及び細胞表面での挙動の分析
(方法)
(1) 上記の通り、ストレプトリジンOを使用して正常(図6のA)およびNPC(図6のB)繊維芽細胞の原形質膜を透過化した。細胞を、fPEG-Cholとともに室温で30分間インキュベートした後に洗浄し、Zeiss LSM 510共焦点顕微鏡の下で蛍光画像を撮影した。結果を図6に示す。
(2) 正常繊維芽細胞(図7のC〜H)およびNPC繊維芽細胞(図7のI〜N)を、1μMのfPEG-Cholとともに室温で5分間インキュベートした。細胞を洗浄し、1mg/mlローダミン・デキストランの存在下において、37℃で10分間(図7のF、I、L)、60分間(図7のD、G、J、M)および180分間(図7のE、H、K、N)インキュベートした。結果を図7に示す。
【0041】
(3) NPC繊維芽細胞を、1μMのfPEG-Cholとともに室温で5分間インキュベートした。次に細胞を洗浄し、37℃で30分間インキュベートした(図8O)。NPC繊維芽細胞を、1μMのfPEG-Cholとともに4℃で30分間インキュベートした。次に細胞を洗浄し、撮影した。次に細胞を洗浄し、37℃で30分間インキュベートした(図8P)。NPC繊維芽細胞を、5μg/mlのブレフェルジンAで30分間(図8Q)、5μg/mlのノコダゾールで90分間(図8R)、または5μg/mlのサイトカラシンBで30分間(図8S)処理した後、1μMのfPEG-Cholおよび1mg/mlのローダミン・デキストランとともに30分間インキュベートした。図8Tにおいては、NPC繊維芽細胞を1μMのfPEG-Cholとともに30分間インキュベートした後、5μg/mlのサイトカラシンBで30分間処理した。図6〜8において、バーは20μmを示す。
【0042】
(結果)
コレステロールの膜内分布については従来ほとんど報告がない。本実施例では半透過性細胞を使用して、コレステロールが細胞内膜の細胞原形質側に局在するのか内腔側に局在するのかを調べた。正常およびNPC皮膚繊維芽細胞の原形質膜を細菌毒素ストレプトリジンOにより、選択的に透過化した。次に細胞をfPEG-Cholとともにインキュベートした(図6A及びB)。fPEG-Chol染色は、固定し透過化した細胞で得られた染色とは著しく異なっていた(図2A及びE)。さらに、正常細胞とNPC細胞には大きな違いがあった。正常な皮膚繊維芽細胞では、周辺部の小胞様構造が強く染色されたが、NPC細胞では、網状様の構造が可視化された。この構造は、細胞を固定して透過化した後では見られなかったことから、この区画は壊れやすいか、あるいは界面活性剤により傷害を受けやすいことが示唆される。ゴルジ体および後期エンドソーム/リソソームは、これらの条件下では、ほとんど標識されなかった。これらの結果から、コレステロールがこれらのオルガネラの内腔にのみ存在することが示唆される。一方、正常な繊維芽細胞の周辺部の小胞およびNPC細胞の網状構造は、細胞質膜にコレステロールを含む。
【0043】
NPC細胞における遊離コレステロールの細胞内蓄積の詳細なメカニズムは未解明である。最近の研究によれば、膜区画間のコレステロールの活発な流れのアンバランスが蓄積を引き起こすことを示している(Y.Lange,他、J Biol Chem 275,17468-75.(2000))。生体内で合成されたコレステロールおよびLDLを介して得られるコレステロールはともに原形質膜に到達後、続いて細胞内取り込まれる。Cruzら(J.C.Cruz,他、J Biol Chem 275,4013-21.(2000))は、NPC1(即ち、それに突然変異が生じることにより前記疾患の原因となる遺伝子によりコードされるタンパク質)が、原形質膜以後のコレステロール転送経路に関与することを示唆した。フィリピンは毒性があるため、細胞表面のコレステロールの挙動の追跡のためには適当でない。蛍光コレステロール類似体であるデヒドロエルゴステロールは、CHO細胞株において、エンドサイトーシスを受けて再生区画に蓄積されることが示された(S.Mukherjee,他、Biophys J 75,1915-25.(1998);及び、M.Hao 他、J Biol Chem 277,609-17.(2002))。DHEは、3つ多い二重結合と追加のメチル基をもつ点で、コレステロールとは異なる。近年、ペルフリンゴリシンOがコレステロールリッチな膜ドメインに選択的に結合することが判明した(A.A.Waheed 他、Proc Natl Acad Sci USA 98,4926-31.(2001);及び、W.Mobius 他、J Histochem Cytochem 50,43-55.(2002))。fPEG-Cholの利点としては、蛍光団の安定性および量子効率が高いこと、バックグラウンド染色が低いこと、細胞毒性が低いこと、並びにサイズが比較的小さいために実施濃度での構造摂動が少ないことなどが挙げられる。
【0044】
正常な繊維芽細胞とNPC繊維芽細胞とを用いて、細胞表面のfPEG-Cholの挙動を比較した(図7のC〜N)。本実験では1μMのfPEG-Cholを使用した。この濃度のfPEG-Cholは、この系においてはデキストランおよびコレラトキシンのエンドサイトーシスに影響を及ぼさない。細胞をfPEG-Cholとともに室温で5分間インキュベートし、洗浄し、さらに1mg/mlローダミン・デキストランの存在下、37℃でインキュベートした。正常な繊維芽細胞では、fPEG-Cholで5分間標識した後、細胞表面が強く標識された。10分間の追跡後、蛍光の大部分は原形質膜上に残っていた(図7のC及びF)。60分間の追跡後、核は細胞質の蛍光発光した区画に囲まれた非標識オルガネラとして認識された(図7のD)。これらの区画の全体パターンは、CHO細胞においてDHE-MβCDにより検出したものと同様であった(M.Hao他、J Biol Chem 277,609-17.(2002))。しかし、fPEG-Cholは細胞内の小胞も染色した。これらの小胞の大部分は、細胞内に取り込みされたローダミン・デキストランとは共局在しなかった(図7のG)。これらの小胞は、図6Aでの観察と同様に、細胞の周辺部で観察される場合が多い。180分後、ゴルジ体はfPEG-Cholで顕著に標識され、ローダミン蛍光発光はエンドソーム/リソソーム中に分布していた(図7のE及びH)。NPC繊維芽細胞におけるfPEG-Cholの挙動は著しく異なっていた。10分の追跡後、fPEG-Cholは特徴的な網状構造を染色したが(図7のI及びL)、これは正常細胞では全く観察されなかった。180分の追跡後でも、大部分のfPEG-Cholはこの構造中に残存し、ゴルジ蛍光発光はほとんど見られなかった(図7のJ及びM)。細胞内に取り込みされたローダミン・デキストランが網状構造に囲まれる場合もり(図7M、矢印)、これらの構造がエンドサイトーシス性区画の特徴をもつことが示唆される。これらの構造は、図6Bにおいて観察されるものと非常に類似している。
【0045】
網状構造へのfPEG-Cholの組み込みは、温度に依存する。4℃では、fPEG-Cholは原形質膜上にとどまり、網状体に組み込まれなかった(図8P)。図8Pはまた、fPEG-Cholが自然発生的には二分子層横断移動を起こさないことを示す。自然発生的にフリップフロップを起こす蛍光団は、これらの条件下において細胞内膜を染色する(R.E.Pagano,他、J Cell Biol 91,872-7.(1981);及び、R.E.Pagano,他、J Biol Chem 260,1909-16.(1985))。次に、阻害剤の存在下におけるfPEG-Cholおよびローダミン・デキストランのインターナリゼーションを計測した。Brefeldin A(ゴルジ後輸送およびノコダゾールの阻害剤。微小管集合を阻害する)は、fPEG-Cholの網状体への組み込みにほぼ影響を及ぼさなかった。対照的に、網状構造はサイトカラシンB(これはアクチン重合を阻害する)により消失した。サイトカラシンBは、ローダミン・デキストランのインターナリゼーションに影響を及ぼさなかった。図8Tにおいては、サイトカラシンBによる処理の前に、fPEG-Cholにより細胞を標識した。この場合もやはり、網状構造は消失し、このことから網状構造がアクチン網に依存することが示唆される。
【0046】
【発明の効果】
上記した実施例の結果から、fPEG-Cholはコレステロールリッチなドメインを可視化するための有利な手段であることが実証された。即ち、本発明によれば、蛍光団の安定性および量子効率が高く、バックグラウンド染色が低く、細胞毒性が低く、さらにサイズが比較的小さいために実施濃度での構造摂動が少ないといった利点を有する新規なコレステロール検出試薬が提供されることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、PEG-Cholを用いたin vitroでの結合実験の結果を示す。
【図2】図2は、細胞を用いたPEG-Cholによる標識実験の結果を示す。バーは20μmを示す。
【図3】図3は、fPEG-Cholの細胞表面の分布を調べた結果を示す。
【図4】図4は、fPEG-Cholの細胞表面の分布を調べた結果を示す。
【図5】図5は、fPEG-Cholの細胞表面の分布を調べた結果を示す。
【図6】図6は、コレステロールの膜内分布及び細胞表面での挙動を分析した結果を示す。
【図7】図7は、コレステロールの膜内分布及び細胞表面での挙動を分析した結果を示す。
【図8】図8は、コレステロールの膜内分布及び細胞表面での挙動を分析した結果を示す。
Claims (4)
- 標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを含む、コレステロール検出試薬。
- ポリエチレングリコールコレステリルエーテルが親和性物質又は蛍光物質で標識されている、請求項1に記載のコレステロール検出試薬。
- 標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリルエーテルを用いることを特徴とする、コレステロールの検出方法。
- 親和性物質又は蛍光物質で標識されているポリエチレングリコールコレステリルエーテルを用いる、請求項3に記載のコレステロールの検出方法。
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