コレステロ一ノレ検出試薬
技術分野
本発明は、 コレステロール検出試薬、 及びそれを用いたコレステロールの検出 方法に関する。 より詳細には、 本発明は、 ポリエチレングリコールコレステリル エーテルを含むコレステロール検出試薬、 及ぴそれを用いたコレステロールの検 出方法に関する。 背景技術
細胞内コレステロールの含量および分布は厳密に調節されている。 細胞内にお いて、 コレステロールはゴルジ後膜に蓄積する(M. S. Bretscher,他、 Science 261, 1280-1. (1993) ) 0 原形質膜上で、 コレステロールはスフインゴミエリンおよ びスフィンゴ糖脂質と一緒になつてミクロドメィンを形成する(A. Rietveld,他、 Biochim Biophys Acta 1376, 467-79. (1998) ; 及び、 R. E. Brown, J Cell Sci 111, 1-9. (1998) )。力べオリン、及ぴグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI) 結合糖タンパク質および二重にァシル化された非受容体型チロシンキナーゼ等の 他のクラスのタンパク質がこのドメインに存在する (T. V. Kurzchalia,他、 Curr Opin Cell Biol 11, 424-31. (1999);及び E. Ikonen,他、 Traffic 1, 212-7. (2000) )。 このドメインは脂質ラフトとして知られている。 脂質ラフトは、 シグナリング、 接着、運動および膜通過などの細胞機能において重要な役割を果たす (D. A. Brown, 他、 Annu Rev Cell Dev Biol 14, 111-36 (1998) ;及ぴ、 K. Simons,他、 Nat Rev Mol Cell Biol 1, 31-9. (2000) ) 。 メチル - j3 -シクロデキストリン(M j3 CD)により表面 のコレステロールを除去するか、 または代謝阻害剤を用いることにより細胞のコ レステロール含量が減少すると、このドメィンの分解が引き起こされる(L. J. Pike, 他 、 J Biol Chem 273, 22298-304. (1998) ; A. Pralle, 他、 J Cell Biol 148, 997-1008. (2000) ;及び、 K. Roper,他、 Nat Cell Biol 2, 582 - 92. (2000) ) 。
細胞のコレステロール含量は、 de novo合成と、 リポタンパク質のエンドサイ トーシスにより外部から得られるコレステロールとの均衡を通して調節される (M. S. Brown,他、 Proc Natl Acad Sci USA 96, 11041—8. (1999) ; K. Simons,他、 Science 290, 1721-6. (2000) ; 及び、 Y. A. Ioannou, Nat Rev Mol Cell Biol 2, 657-68. (2001) ) 。 この調節が破綻すると、動脈硬化またはニーマン一ピック病 C型(NPC)のような病態が引き起こされる(P. G. Pentchev他、 Biochim Biophys Acta 1225, 235-43. (1994) ;及ぴ、 L. Lis cum, Traffic 1, 218-25. (2000) ) 。 後期エンド ソームのリゾビスホスファチジン酸リツチな内膜ドメインは収集および分配装置 として作用することにより、 コレステロール輸送の調節に関与する(T. KobayasM 他、 Nat Cell Biol 1, 113-8. (1999) )。 しかし、 コレステロールおよび/またはコ レステロールリツチな膜ドメインの細胞内輸送については、 ほとんど知られてい ない。
ポリエチレングリコールコレステリルエーテル(PEG-Chols)は、疎水性のコレス テリル部分および親水性のポリエチレングリコール部分からなる非ィォン性かつ 両親媒性の一群の分子である(図 1 A) (H. Ishiwata,他、 Biochim Biophys Acta 1359, 123-35 (1997) ) 。 PEG (50) -Choi (分子量は 2587、 括弧内の数字である 50は エチレングリコールの反復数を示す) は、 培地中の生細胞に添加すると、 クラス リンを介したトランスフェリンのインターナリゼーシヨンに影響を与えない条件 下において、 クラスリンとは無関係である力べオラ様エンドサイトーシスを阻害 することが知られている(T. Baba他、 Traffic 2, 501-12. (2001) )。 しかしながら、 PEG- Choiが細胞の如何なる成分と相互作用するのかは不明であった。 発明の開示
本発明は、 ポリエチレンダリコールコレステリルエーテルが細胞内で特異的に 結合することができる分子を同定することを解決すべき課題とした。 さらに、 本 発明は、 コレステロールと特異的に結合することによりコレステロールを検出す ることができる物質を含む新規なコレステロール検出試薬およびそれを用いたコ
レステロールの検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、 PEG (50) -Choiによりクラ スリンとは無関係のェンドサイトーシスが特異的に阻害されるという以前の知見 を考慮して、 PEG- Choiが一以上の脂質ラフト成分と特異的に相互作用している可 能性があるものと推測し、 オーバーレイ 'アツセィを使用して、 PEG- Choiが様々 な脂質と in vitroで結合することを確認した。 さらに細胞内で PEG - Choiが相互 作用する物質を検討した結果、 PEG-Cholがコレステロールに特異的に結合するこ とができることを見出した。 本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであ る。
即ち、 本発明によれば、 標識されていてもよいポリエチレングリコールコレス テリルエーテルを含む、 コレステロール検出試薬が提供される。
本発明の別の側面によれば、 標識されていてもよいポリエチレンダリコールコ レステリルエーテルを用いることを特徴とする、 コレステロールの検出方法が提 供される。
本発明では、 親和性物質又は蛍光物質で標識されているポリエチレンダリコー ルコレステリルエーテルを用いることが好ましい。 図面の簡単な説明
図 1は、 PEG-Cholを用いた in vitroでの結合実験の結果を示す。
図 2は、 細胞を用いた PEG- Choi による標識実験の結果を示す。 バーは 20 /z m を示す。
図 3は、 f PEG-Cholの細胞表面の分布を調べた結果を示す。
図 4は、 f PEG- Choiの細胞表面の分布を調べた結果を示す。
図 5は、 fPEG- Choiの細胞表面の分布を調べた結果を示す。
図 6は、 コレステロールの膜内分布及ぴ細胞表面での挙動を分析した結果を示 す。
図 7は、 コレステロールの膜内分布及び細胞表面での挙動を分析した結果を示
す。
図 8は、 コレステロールの膜内分布及ぴ細胞表面での挙動を分析した結果を示 す。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明の実施の形態について説明する。
本発明のコレステロール検出試薬は、 標識されていてもよいポリエチレンダリ コーノレコレステリルエーテノレを含むものである。
本発明で用いるポリエチレンダリコールコレステリルエーテルとは、 図 1 Aに 記載した構造を有する化合物であり、 疎水性のコレステリル部分おょぴ親水性の ポリエチレングリコール部分からなる化合物である (Η· Ishiwata,他、 Biochim Biophys Acta 1359, 123-35 (1997) ) 。 nはポリエチレングリコール部分における エチレングリコールの反復数を示す。 本発明で用いるポリエチレングリコールコ レステリルエーテルにおける nの数は、 コレステロールとの結合性に悪影響を与 えない限り特に限定されないが、 例えば、 1 0〜 1 0 0 0、 好ましくは 2 0〜 2 0 0、 より好ましくは 2 0〜1 0 0程度である。 好ましく使用できる一例として は、 n = 5 0のポリエチレングリコール部分を含むポリエチレングリコールコレ ステリルエーテルを挙げることができる。
本発明で用いるポリエチレングリコールコレステリルエーテルは公知の化合物 であり 、 例えば、 上記の文献 ( H. Ishiwata,他、 Biochim Biophys Acta 1359, 123 - 35 (1997) )に記載されている。本発明で用いるポリエチレンダリコール コレステリルエーテルは、 コレステロールを溶媒に溶かしエチレングリコールガ スを注入し反応させることにより製造することができる(Ishiwata他、 Chem Pharm Bull 3, 1005-1011 (1995) ) 。 この他、 ポリエチレングリコーノレコレステリルェ 一テルは、 コレステロ一ノレのトルエンスルホン酸エステノレとポリエチレングリコ 一ルとを反応させる方法により製造することもできる(Patel他、 Biochim Biophys Acta 797:20-26 (1984) ) 。
本発明で用いるポリエチレンダリコールコレステリルエーテルとしては、 検出 のための標識物質が結合しているものを使用することが好ましい。 このような標 識物質の種類は特に限定されないが、 例えば、 親和性物質、 蛍光物質、 放射性物 質などが挙げられる。
親和性物質としては、 ビォチンまたはジゴキシゲニンなどを使用することがで きる。 蛍光物質としては、 フルォレセイン (fluorescein) 、 F I TC、 BODIPY 493/503、 BODIPY FL、 ジアルキルァミノクマリン、 2, , 7 ' ージクロ口フルォ レセイン、ヒドロキシクマリン、メ トキシクマリン、ナフトフルォレセイン、 Oregon Green 514, テトラメチルローダミン (TMR) 、 X—ローダミン、 NBD、 TR
I TC、 Te x a s, Cy 5、 Cy 7、 I R144、 F AM、 J OE、 TAMRA、 ROXなどを使用することができる。 放射性物質としては、 32P、 131 I、 35S、 45 C a、 3H、 14Cなどを使用することができる。 この他、 酸化ス トレス検出剤 (同 仁) carboxy - PTI0、 DTCS; NO発生剤(同仁) BN 5;種々の cagedアミノ酸;キレー ト剤 (例えば、 DTPA、 EDTA、 NTAなど) 、 種々の carboxy disulfide ( (カルボン 酸) S - S (カルボン酸) の構造を有する) 等を使用することができる。
本発明のコレステロール検出試薬は、 上記した標識されていてもよいポリェチ レングリコールコレステリルエーテルを含む限り、 その形態は特に限定されず固 体でも液体 (溶液、 懸濁液など) でもよい。 液体の場合には適当な溶媒 (好まし くは、 該ポリエチレンダリコールコレステリルエーテルが一定の溶解度を示す有 機溶媒など) に溶解または懸濁することによって試薬を調製することができる。 上記した形態で提供される本発明の試薬には、 ポリエチレングリコールコレステ リルエーテル以外の助剤 (例えば、 保存剤、 安定化剤、 pH緩衝剤など) を適宜 添加することもできる。
本発明によれば、 標識されていてもよいポリエチレングリコールコレステリル エーテルを用いてコレステロールを検出する方法も提供される。 検出はィンビト 口で行ってもよいし、細胞内で行ってもよいし、あるいは生体内で行ってもよい。 先ず、 検出すべきコレステロールを含む試料と、 (好ましくは標識されている)
ポリエチレングリコールコレステリルエーテルとを一定条件下で接触させること により、 両者を結合させる。
結合後に、 コレステロールに結合したポリエチレングリコールコレステリルェ 一テルの検出を行う。検出は、用いた標識の種類に応じて適宜行うことができる。 例えば、 ビォチンを標識として用いた場合には、 ビォチンに特異的に結合する アビジンまたはストレプトアビジンを用いて検出を行うことができる。 例えば、 コレステロールに結合したビォチン標識ポリエチレングリコールコレステリルェ 一テルに対して、 アビジンまたはス トレプトアビジンを反応させ、 次いで、 ビォ チン化したアル力リホスファターゼを結合させると、 ビォチンを介して酵素が結 合する。 未結合の酵素を除去した後、 アルカリホスファタ一ゼの基質であるニト ロブルーテトラゾリゥム (N B T) と 5—ブロモー 4一クロロー 3—インドリル リン酸 (B C I P ) と反応させると、 ビォチン標識ポリエチレングリコールコレ ステリルエーテルが存在する場合には紫色の発色が見られ、 検出することができ る。 ジゴキシゲニンを標識として用いた場合には、 アルカリホスファターゼ標識 抗ジゴキシゲニン抗体を用いて上記の方法と同様に検出を行うことができる。 な お、 発色用の酵素としては、 アルカリホスファターゼ以外にも西洋ヮサビペルォ キシダーゼを用いる系も知られている。
フルォレセインなどの蛍光物質を使用した場合には、 コレステロールとの反応 後に蛍光を測定することによりコレステロールと結合したポリエチレングリコー ルコレステリルエーテルを検出することができる。 蛍光は一定の励起光を照射し て発生する蛍光エネルギーを測定することにより、 蛍光の定性的または定量的な 検出を行うことができる。 定量に際しては、 蛍光エネルギーの強度をコレステロ ールの存在量の指標として評価することもできる。蛍光エネルギーまたは蛍光は、 市販の適当な検出器や蛍光蛍光顕微鏡などを用いて測定すること力できる。
放射性物質を使用した場合には、 コレステロールとの反応後にコレステロール に結合した放射活性を当業者に公知の方法により測定することにより、 コレステ ロー/レの検出を行うことができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、 本発明は実施例によ つて限定されるものではない。 実施例
実施例 1 : PEG- Choiを用いた in vitroでの結合実験
(方法)
( 1 ) 様々な量の各種脂質に対するビォチュル化 PEG- Choi (bPEG-Chol:ビォチ ン 1分子が PEG (50) - Choiの末端エチレングリコール部分と結合している) (10 μ Μ)の結合能を、既報の通り (K. Igarashi他、: Γ Biol Chem 270, 29075-8. (1995) )、 TLC プレート上でのオーバーレイ ·アツセィにより分析した。 結果を図 1 Bに示 す。
( 2 ) 各種のリン脂質、 糖脂質およびォレイン酸コレステロール (lOnmol) に 対する bPEG- Choi (lO ^u M) の結合を上記 (1 ) と同様に調べた。 結果を図 1 Cに 示す。
( 3 ) グルコシルセラミド(GlcCer)とスフインゴミエリン(SM)、 またはグルコ シルセラミ ドとジォレオイルホスファチジルコリン(D0PC)との混合物 (図 1 Dに 示した比率で合計 30nmol) に対する bPEG-Cholの結合を分析した。 結果を図 1 D に示す。
( 4 ) GlcCer, SM、 GlcCer+SM (l: 1)および GlcCer+D0PC (l: 1)の差動走査熱量測 定のサーモグラムのトレースを測定した。 MicroCal VP - DSCを使用して、 ImMリポ ソーム(GlcCer、 SM、 D0PC)または 2mMリボソーム(GlcCer+SM、 GlcCer+DOPC)懸濁 液 500 μ 1を計測した。 結果を図 1 Εに示す。
( 5 ) GlcCerと D0PC との 1: 1混合物を含む単分子層の蛍光画像を取得した。 脂質単分子層は、 0. 5 % C12-B0DIPY-PC (分子プローブ) を含有する ImM の GlcCer+DOPCのクロロホノレム溶液 20 μ ΐを USIシステム (Fukuoka, Jpan) FSD-500 Langmuir-Blodgettのトラフに注入することにより作製した。 C12 - B0DIPY-PCは、 優先的に D0PC層に分配された。 表面圧力は 10mN/mに調整した。 LM Plan FI 50x
対物レンズおょぴ東芝 3CCDカメラを備えた Olympus Power BX蛍光顕微鏡を使用 して蛍光画像を記録した。 結果を図 1 Fに示す。 バーは 50 μ ηιを示す。
( 6 ) 様々な量のコレステロールを含む ImMのスフインゴミエリン小胞を用い て、 PEG 鎖の遠位末端にフルォレセイ ンを含むフルォレセイ ン PEG- Choi (fPEG - Choi) (H. Ishiwata,他、 Biochim Biophys Acta 1359, 123-35 (1997) ) の結合について分析した。 小胞は、 既報の通り(A. Miyazawa 他、 Mol Immunol 25, 1025-31. (1988) ) 作製した。 小胞を fPEG- Choiと一緒に室温で 30分間ィンキ ュベートした。 未結合の fPEG- Choiを、 15K X gで 15分間遠心分離して洗い流し た。 ペレットの蛍光を計測し、 スフインゴミエリンのリンによって標準化した。 結果を図 1 Gに示す。
( 7 ) 膜間の fPEG- Choiの移動を分析した。 500 x M (最終濃度)の SM/Chol (l : l) リボソームを、 0. 5 μ Μの fPEG- Choiおよび 0. 5 μ Μの N-ローダミン一ジパルミ ト ィルホスファチジルェタノールァミンを含有し、 SM単独または SM/Chol (1: 1)から 構成されるリポソーム(50 μ Μ)に添加した。 488nmで励起した蛍光の 535nmにおけ る発光スぺクトルの時間的経過をモニターすることにより、 蛍光共鳴エネルギー 転移 (FRET)の放出を計測した。 結果を図 1 Hに示す。
なお、 コレステロールおよぴォレイン酸コレステロールは、 Sigma (ミズーリ州 セントルイス)から購入した。 ガラクトシルセラミ ド、 ダルコシルセラミ ドおよび ラク トシルセラミ ドは Matreya (ペンシルベニヤ州ステートカレッジ) から購入 した。 他の全ての脂質は、 Avanti Polar lipids (アラバマ州アラバスター) から 購入した。
Choiはコレステロール、 SMはスフインゴミエリン、 PCはホスファチジルコリ ン、 PSはホスファチジルセリン、 PEはホスファチジ エタノー ァミン、 ΡΙは ホスファチジルイノシトール、 ΡΑはホスファチジン酸、 GM1はガングリオシド GM1、 GM2はガングリオシド GM2、 GM3はガングリオシド GM3、 GalCerはガラクトシルセ ラミ ド、 GlcCerはグ コシルセラミ ド、 LacCerはラクトシルセラミ ドである。
(結果)
ピオチェル化 PEG- Choi (bPEG- Choi :ビォチン 1分子が PEG (50) -Choiの末端ェ チレングリコール部分と結合している) を様々な脂質のスポットに添加し、 それ を洗浄した後、 基質として 4 -ク口口- 1 -ナフトールを使用して HRP結合ストレプ トァビジンによりその結合を観察した(図 1 B及び C) (A. Yamaji他、: T Biol Chem 273,5300 -6. (1"8) )。 bPEG- Choi は、 コレステロールおよぴ中†生糖脂質 (例えば ガラクトシルセラミ ド、グルコシルセラミド(GlcCer)およぴラクトシルセラミド) に結合した。 しかし、 bPEG-Chol は、 試験したリン脂質及ぴ酸性糖脂質 (ガング リオシド) には結合しなかった。 bPEG- Choi は、 コレステリルエステルおよぴォ レイン酸コレステロールにも結合しなかった。 また、 スフインゴミエリン(SM)の 添加により、 bPEG-Chol とダルコシルセラミドと結合しなくなったが、 ジォレオ ィルホスファチジルコリン(D0PC)にはそのような効果は生じなかった(図 1 D )。 差動走査熱量測定 (DSC)によれば、 SMと GlcCerとの等モル混合物のゲルから液 体への結晶相転移温度は、 SMと GlcCerについての当該温度の中間値であること が示された (図 1 E ) 。 これに対して、 D0PCと GlcCerとの等モル混合物の前記 相転移温度は GlcCerの相転移温度に非常に近く、そして D0PCの相転移温度は SM の該温度と比べてはるかに低い。 これらの結果は、 GlcCerは SMと混和すること ができるが、この脂質と D0PCとの二成分混合物は異なるドメインに分離されるこ とを示唆する。
GlcCerが DOPCから分離されることを実証するために、 単分子層系を利用した (図 1 F ) 。 単分子層の実験により、 GlcCer (黒) は D0PC (緑) から分離して、 空気と水との中間相にてドメインを形成することが判明した。 この結果は、 PEG-Cholと中性糖脂質とが互いに寄り集まつている場合にのみ、 PEG - Choiは中性 糖脂質と結合することを示唆する。 細胞膜の界面活性剤溶解度 (D. A. Brown,他、 Cell 68, 533-44. (1992) )およぴモデル膜における脂質配分の測定 (T. Y. ffang,他、 Biophys J 79, 1478 - 89. (2000) )から、 糖脂質が細胞においてスフインゴミエリン リツチな膜に分配されることが示唆される。 生体膜においてスフインゴミエリン が高濃度であることを考慮すると、この結果は、細胞では PEG - Choiは糖脂質には
ほとんど結合していないことを示唆する。 糖脂質とは対照的に、 スフインゴミエ リンの添加は、 コレステロール含量が 10%未満まで減少しない限り、 コレステロ ールに対する bPEG- Choiの結合に影響を及ぼさなかった。
コレステロールに対する PEG_Cholの結合を調べるために、 PEG鎖の遠位末端に フルォレセインを含むフルォレセィン PEG-Chol (f PEG- Choi)を使用して、 リポソ ーム実験をさらに行った。 オーバーレイ 'アツセィと同様に、 コレステロールの 添加により、 スフインゴミエリン ' リボソームに対する: PEG- Choiの結合が增加 した (図 1 G) 。 コレステロール含量が低い (10%) 場合は fPEG- Choiが SM リポ ソームと結合しなかったという事実は、 上記膜において、 fPEG-Chol がコレステ ロールリツチなドメインを認識することを示している。
PEG-Cholは水溶性であり膜間を移動することができる。 図 1 Hにおいて、膜間 の f PEG - Choiの移動を測定した。 fPEG-Cholの輸送を計測するために、 fPEG-Chol と、 非置換性マーカーであるローダミン標識したホスファチジルエタノールアミ ン(ローダミン- PE)との間の蛍光共鳴ヱネルギー転移(FRET)を測定した (J. W. Nichols,他、 Biochemistry 21, 1720-6. (1982) )。供与リボソームにおいて、 f PEG - Choi蛍光は、 FRETにより消光した。 し力 し、 ー且、 f PEG- Choiが受容リポ ソームに輸送されると、蛍光は消光しなくなった。 SMリボソームを供与体として 使用し、 SM/Chol (1 : 1)リボソームを受容体として使用した場合、 fPEG- Choi の効 率的な輸送が観察された。 一方、 供与体および受容体の両方が SM/Chol (l : l)であ る場合、 fPEG - Choiはほとんど移動しなかった。 これらの結果は、 PEG - Choiがコ レステロールリツチな膜に優先的に組み込まれ、 はその膜内に閉じ込められるこ とを示している。 実施例 2 :細胞を用いた PEG-Cholによる標識実験
(方法)
既報の通り (T. Kobayashi他、 Nat Cell Biol 1, 113-8. (1999) )、 正常(図 2 A〜 D)および NPC (図 2 E〜H)のヒト皮膚繊維芽細胞を固定し、透過化処理した。次
に、 5 W Mの fPEG- Choi (図 2 A及び E )、 50 g/ml フィリピン(図 2 B及び F ) お ょぴ抗 TGN 46抗体(Serotec Inc.、 イギリス、オックスフォード)(図 2 C及ぴ G) を用いて細胞を三重標識した。 Zeiss LSM共焦点顕微鏡を使用して試料を観察し た。 図 2 D及び Hは合成画像を示す。 白色は 3種の蛍光団の共局在を示す。 fPEG-Chol とフィリピンとで染色した試料については、 蛍光が NPC細胞において 非常に明るいため、 正常細胞と NPC細胞には、 レーザー光線を異なるように照射 した。
図 2 I及ぴ Jにおいては、 NPC細胞を通常血清(図 2 I )および脱脂血清(図 2 J )の存在下で増殖させた。 細胞を透過化し、 f PEG- Choiで標識した。
図 2 K及ぴ Lにおいては、 NPC皮膚繊維芽細胞を固定して透過化した。次いで、 ImM スフインゴミエリン · リボソーム(図 2 K)またはスフインゴミエリン コレ ステロール(1 : 1)リボソーム(図 2 L )の存在下で、細胞を f PEG- Choiにより標識し た。
図 2 M〜Rにおいては、 メラノーマ細胞株 MEB4 (図 2 M〜0) および糖脂質合 成に欠陥のある変異体 GM95 (図 2 P〜R) を固定化し透過化した後、 fPEG- Choi (図 2 M及ぴ P ) およびフィリピン (図 2 N及び Q) で二重標識した。 MEB4およ び GM95における蛍光パターンの類似性は、 fPEG- Choiによる標識が主に糖脂質に 依存するものではないことを示唆する。 fPEG - Choi標識はフィリピン標識と共局 在した (図 2 0及ぴ R) 。
(結果)
in vitroでの PEG- Choi と様々な脂質との相互作用は、 この分子が細胞におい て特定のコレステロールリツチな膜または膜ドメインに組み込まれることを示唆 する。 透過化処理したヒ ト皮膚繊維芽細胞に fPEG- Choiを添加すると、 ゴルジ体 が明るい蛍光を発光した (図 2 A) 。 同様の不明瞭な蛍光パターンは、 コレステ ロールと複合体を形成するフィリピンを用いて以前にも観察されている(J. Sokol 他、 J Biol Chem 263, 3411-7. (1988) ;及ぴ、 T. Kobayashi 他、 Nat Cell Biol
1, 113-8. (1999) ) 0 fPEG-Chol染色は、 トランスゴルジ網マーカーである TGN46と 部分的には共局在していた (A. R. Prescott,他、 Eur J Cell Biol 72, 238-46. (1997) )。 その重複が不完全であることは、 ゴルジ体において TGN46とコレステロールが異 なった分布をしていることを示唆する。エーマン一ピック病 C型 (NPC)は、常染色 体劣性の内臓神経疾患である。 NPC症候群の特徴は、 非エステルィ匕コレステロ一 ルが細胞内に蓄積することである(P. G. Pentchev 他、 Biochim Biophys Acta 1225, 235-43. (1994); L. Li scum, Traffic 1, 218-25. (2000);及ぴ、 T. Kobayashi他、 Nat Cell Biol 1, 113-8. (1999) ) 。 正常な繊維芽細胞とは異なり、 PC繊維芽細 胞においては、 f PEG - Choiにより核周囲の小胞ならびにゴルジ体が染色される(図 2 E )。 この場合も、蛍光はフィリピン蛍光と共局在していた (図 2 F及ぴ H)。 リポタンパク質の不在下で NPC細胞を増殖させると、 コレステロールの蓄積が 有意に減少した(J. Sokol他、 J Biol Chem 263, 3411-7. (1988) )。 NPC細胞を、 通 常血清の代わりに脱脂血清の存在下で増殖させた場合、 fPEG-Chol による核周囲 の標識は著しく減少した (図 2 I及ぴ J ) 。 fPEG- Choiを SM/Chol (1: 1)リポソ一 ムと一緒に前培養すると、 fPEG - Choi標識は喪失した (図 2 L ) 。 コレステロ一 ルを含まないスフィゴミエリンリボソームによる効果は、 同条件下において著し く少ないことが示された(図 2 K)。 fPEG - Choiは膜ドメインに組み込まれると、 SM/Cholリボソームを用いても除去されないことから、 fPEG-Cholは細胞中のコレ ステロールリツチな膜ドメインに閉じ込められていることが裏付けられる。
GM95 は、 糖脂質合成に欠陥のあるメラノ一マ細胞株である(S. Ichikawa,他、 Proc Natl Acad Sci USA 91, 2703-7. (1994) )。 PEG- Choi染色における糖脂質の効 果を調べるために、 GM95と MEB4親細胞とを比較した。 GM95および MEB4の両細胞 とも fPEG- Choiにより同様に標識された (図 2 M及び P ) 。 また、 その標識はフ イリピン標識と共局在していた。 これらの結果は、 fPEG- Choi による細胞の標識 は主に細胞のコレステロールに依存するが、 糖脂質には依存しないことを示す。 実施例 3 : f PEG- Choiの細胞表面の分布
(方法)
正常なヒトの皮膚繊維芽細胞を、 1 μ Mの fPEG - Choiおよび 5 μ M AlexaFluor 594 標識したコレラトキシンとともに室温で 90秒間インキュベートし、次いでパラホ ルムアルデヒドで 10分間固定した。図 3の A及び Cは f PEG- Choi蛍光、図 3の B 及ぴ Dは AlexaFluor 594蛍光である。 小さい矢印は、 fPEG - Choiとコレラトキシ ンで二重に標識された構造を示す。 大きな矢印は、 fPEG - Choi のみで標識された 構造を示す。矢じりは、コレラトキシンのみによって陽性を示すスポットを示す。 図 3の E及び Fにおいては、 固定前に、 lOraMの M CDによる 37°Cで 30分間の処 理を細胞に施すか(E )、 または施さなかった(F )。 次いで、 細胞を Ι μ Μ の fPEG-Cholで標識した。 図 3においてバーは 4 μ πιを示す。
図 4の G〜Lにおいては、正常な皮膚繊維芽細胞を 2 Mの f PEG- Choiで標識し、 さらに 5 g/mlビォチニル化上皮増殖因子 (EGF)とともに 4°Cで 20分間(図 4の G 及ぴ H)、または 37°Cで 2分間 (図 4の I及ぴ L ) インキュベートした。 次に細胞 を 3%PFA、 8%スクロースを含む PBSにより固定し、 急冷して TRITC標識したス トレプトアビジンとともに 4°Cで 20 分間インキュベートした。 Hamamatsu C- 4742- 98冷却 CCDカメラを備えた Nikon TE 300顕微鏡で試料を観察した。 図 4 の G及ぴ Iは f PEG- Choi蛍光、図 4の H及び Jは AlexaFluor 594の EGF蛍光であ る。 図 4の Kおよび Lにおいては、細胞を、 Ι μ Μの fPEG- Choiおよび AlexaFluor 59 標識したコレラトキシン Bサブュニットで二重に標識した後、 未標識 EGFで 刺激した。 図 4の Kは fPEG- Choi蛍光、 図 4の Lはコレラトキシン蛍光である。 図 4においてパーは 4 μ ηιを示す。
図 5の Μ〜Ρにおいては、 Β細胞株 A20. 2Jを抗体なしで 37°Cで 1分間インキ ュペートした。 次に細胞を洗浄し、 1%PFAで 30分間固定し、 さらに氷上におい て 45分間、 0. 7 ^ Mの fPEG- Choiおよび lO ii g/mlの Alexa 546結合コレラトキシ ン Bサブュニットを含有する 0. 1%BSAを用いて標識した。洗浄後、 Zeiss LSM 510 共焦点顕微鏡の下で、 染色された細胞を観察した。 図 5の Mは fPEG- Choi標識、 図 5の Nはコレラトキシン標識、 図 5の Oは合成画像、 図 5の: Pは位相差画像で
ある。 これらの条件下において、 fPEG - Choi は固定した細胞に浸透することが可 能となり、 細胞内膜ならびに原形質膜を染色する。 対照的に、 コレラトキシンは 細胞内に入らず、 細胞表面のみを染色した。
図 5の Q〜Tでは、 A20. 2J細胞をマウス IgG+IgMに特異的な F (ab' ) 2ャギ抗体
^ (3 )2抗1§) 15 / g/mlを用いて 37°Cで 1分間刺激した。 次いで上記と同様に 細胞を固定し、 染色した。 図 5の Qは fPEG- Choi標識、 図 5の Rはコレラトキシ ン標識、 図 5の Sは合成画像、 図 5の Tは位相差画像である。
(結果)
実施例 3では、 fPEG- Choiの細胞表面の分布を調べた (図 3〜図 5 ) 。
正常なヒ トの皮膚繊維芽細胞を f PEG - Choiで処理し、 洗浄及ぴ固定した。 小さ いドメイン (直径 200〜500nm) において、 より強い蛍光で標識されている不均一 な表面が認められた (図 3 A及び C ) 。 これらのドメインの一部は、 Alexa Fluor 594標識したコレラトキシン B鎖と共局在していた (図 3 B及び D) 。 コレラト キシンは、 原形質膜に非ランダムに分布し力べオラに蓄積する GM1 と結合する (R. G. Parton, J Histochem Cytochem 42, 155-66. (1994) ) 0 細胞を、 コレステロ一 ルを細胞から特異的に除去するメチル -シクロデキストリン(M 3 CD)で前処理 すると、 fPEG - Choi染色が失われた (図 3 E及ぴ F ) (G. H. Rothblat他、 J Lipid Res 40, 781-96. (1999) )。
次に、細胞を上皮増殖因子(EGF)で刺激しなかった場合の fPEG- Choiの分布を測 定した。 EGF受容体はコレステロールリッチな原形質膜ドメインを特定しており、 EGF受容体への EGFの結合は細胞表面のコレステロールに依存することが示唆さ れた(M. G. Waugh,他、 Biochem Soc Trans 29, 509-11. (2001) ; K. Roepstorf f ,他、 J Biol Chem 8, 8 (2002);及ぴ、 T. Ringerike,他、 J Cell Sci 115, 1331-40. (2002) )。 fPEG-Chol蛍光は、 EGFを 4。Cで添加した場合のビォチン標識 EGFの分布と共局在 していた (図 4 G及ぴ H) 。 EGFを 37°Cで添加すると、 EGF受容体のクラスター 化が観察された (図 4 J ) 。 これらのクラスタ一は fPEG - Choiで標識された (図 4 I )。 GM1の細胞表面の分布もこの条件下で調べた。 GM1もこれらのクラスター
において富化されており、さらに: PEG- Choiと共局在していた(図 4 K及び L;)。 これらの結果は、 EGF力 S、 コレステロールおよび GM1の両方について EGF受容体 が富化されている前記クラスターへの分配を誘導することを示す。
原形質膜ガングリオシドは、 B細胞株 A20. 2Jの原形質膜上の B細胞抗原受容体 が架橋される際に再分配される(M. J. Aman,他、 J Biol Chem 276, 46371-8. (2001) )。
(&13' ) 2抗 Igでの処理により fPEG- Choiが再分配されるかどうかを調べた。 処理 前では、 Alexa Fluor 594標識したコレラトキシンおょぴ fPEG- Choiにより表面 全体の輪郭が浮かび上がった (図 5の M〜P ) 。 しかし、 F (ab' ) 2断片で 1分間刺 激した後には、 コレラトキシンは凝集構造となって原形質膜に蓄積した (図 5の R) 。 fPEG - Choi もこの構造に局在した (図 5の Q及び S ) 。 この結果は、 B細 胞株の刺激の際にコレステロールが GM1と一緒に再分配されることを示す。 実施例 4 : コレステロールの膜内分布及び細胞表面での挙動の分析
(方法)
( 1 ) 上記の通り、ストレプトリジン 0を使用して正常(図 6の A)および NPC (図 6の B )繊維芽細胞の原形質膜を透過化した。 細胞を、 fPEG - Choiとともに室温で 30分間インキュベートした後に洗浄し、 Zeiss LSM 510共焦点顕微鏡の下で蛍光 画像を撮影した。 結果を図 6に示す。
( 2 ) 正常繊維芽細胞(図 7の C〜H)および NPC繊維芽細胞(図 7の I〜N)を、 Ι μ Μの fPEG - Choi とともに室温で 5分間ィンキュベートした。 細胞を洗浄し、 lmg/mlローダミン .デキストランの存在下において、 37°Cで 10分間(図 7の F、 I、 L )、 60分間(図 7の D、 G、 J、 M)および 180分間(図 7の E、 H、 :、 Ν) インキュベートした。 結果を図 7に示す。
( 3 ) NPC繊維芽細胞を、 Ι μ Μの f PEG - Choiとともに室温で 5分間ィンキュベ 一トした。次に細胞を洗浄し、 37°Cで 30分間ィンキュベートした(図 8 O )。 NPC 繊維芽細胞を、 1 μ Mの fPEG - Choiとともに 4°Cで 30分間ィンキュベートした。次 に細胞を洗浄し、撮影した。次に細胞を洗浄し、 37°Cで 30分聞ィンキュベートし
た(図 8 P )。NPC繊維芽細胞を、 S ^ g/mlのブレフエルジン Aで 30分間(図 8 Q)、 5 μ g/mlのノコダゾールで 90分間(図 8 R)、 または 5 μ g/mlのサイトカラシン B で 30分間(図 8 S )処理した後、 1 Mの fPEG- Choiおよび lmg/mlのローダミン ' デキストランとともに 30分間ィンキュベートした。 図 8 Tにおいては、 NPC繊維 芽細胞を 1 ju Mの fPEG - Choiとともに 30分間ィンキュベートした後、 5 μ g/mlの サイトカラシン Bで 30分間処理した。 図 6〜8において、 バーは 20 mを示す。
(結果)
コレステロールの膜内分布については従来ほとんど報告がない。 本実施例では 半透過性細胞を使用して、 コレステロールが細胞内膜の細胞原形質側に局在する のか内腔側に局在するのかを調べた。 正常および NPC皮膚繊維芽細胞の原形質膜 を細菌毒素ストレプトリジン 0 により、 選択的に透過化した。 次に細胞を fPEG-Cholとともにィンキュベートした (図 6 A及び B ) 。 fPEG- Choi染色は、 固 定し透過化した細胞で得られた染色とは著しく異なっていた (図 2 A及び E ) 。 さらに、 正常細胞と NPC細胞には大きな違いがあった。 正常な皮膚繊維芽細胞で は、 周辺部の小胞様構造が強く染色されたが、 NPC細胞では、 網状様の構造が可 視化された。 この構造は、 細胞を固定して透過化した後では見られなかったこと から、 この区画は壊れやすいか、 あるいは界面活性剤により傷害を受けやすいこ とが示唆される。 ゴルジ体および後期エンドソームノリソソームは、 これらの条 件下では、 ほとんど標識されなかった。 これらの結果から、 コレステロールがこ れらのオルガネラの内腔にのみ存在することが示唆される。 一方、 正常な繊維芽 細胞の周辺部の小胞および NPC細胞の網状構造は、 細胞質膜にコレステロールを 含む。
NPC細胞における遊離コレステロールの細胞内蓄積の詳細なメカニズムは未解 明である。 最近の研究によれば、 膜区画間のコレステロールの活発な流れのアン バランスが蓄積を引き起こすことを示している(Y. Lange,他、 J Biol Chem 275, 17468-75. (2000))。 生体内で合成されたコレステロールおよび LDLを介して 得られるコレステロールはともに原形質膜に到達後、続いて細胞内取り込まれる。
Cruz ら(J. Cruz,他、 J Biol Chem 275, 4013-21. (2000) )は、 PC1 (即ち、 それ に突然変異が生じることにより前記疾患の原因となる遺伝子によりコードされる タンパク質) 力 原形質膜以後のコレステロール転送経路に関与することを示唆 した。 フィ リピンは毒性があるため、 細胞表面のコレステロールの挙動の追跡の ためには適当でない。 蛍光コレステロール類似体であるデヒドロエルゴステロ一 ノレは、 CH0細胞株において、 エンドサイトーシスを受けて再生区画に蓄積される ことが示された(S. Mukherjee,他、 Biophys J 75, 1915-25. (1998);及ぴ、 M. Hao他、 J Biol Chem 277, 609-17. (2002) )。 DHE は、 3つ多い二重結合と追加のメチル基 をもつ点で、 コレステロールとは異なる。 近年、 ペルフリンゴリシン 0がコレス テロールリツチな膜ドメインに選択的に結合することが判明した(A. A. Waheed他、 Proc Natl Acad Sci USA 98, 4926-31. (2001) ;及び、 W. Mobius 他、 J Histochem Cytochem 50, 43-55. (2002) )。 fPEG - Choiの利点としては、 蛍光団の安定性および 量子効率が高いこと、 バックグラウンド染色が低いこと、 細胞毒性が低いこと、 並びにサイズが比較的小さいために実施濃度での構造摂動が少ないことなどが挙 【テられる。
正常な繊維芽細胞と NPC繊維芽細胞とを用いて、 細胞表面の fPEG - Choiの挙動 を比較した (図 7の C〜N) 。本実験では I Mの fPEG- Choiを使用した。 この濃 度の f PEG- Choiは、 この系においてはデキス トランおよびコレラ トキシンのェン ドサイトーシスに影響を及ぼさない。 細胞を fPEG - Choiとともに室温で 5分間ィ ンキュベートし、洗浄し、さらに lmg/mlローダミン'デキストランの存在下、 37°C でィンキュベートした。正常な繊維芽細胞では、 fPEG-Cholで 5分間標識した後、 細胞表面が強く標識された。 10分間の追跡後、蛍光の大部分は原形質膜上に残つ ていた (図 7の C及び F )。 60分間の追跡後、 核は細胞質の蛍光発光した区画に 囲まれた非標識オルガネラとして認識された (図 7の D) 。 これらの区画の全体 パターンは、 CH0細胞において DHE-M j3 CD により検出したものと同様であった (M. Hao他、 J Biol Chem 277, 609-17. (2002) )。 しかし、 fPEG- Choiは細胞内の小 胞も染色した。 これらの小胞の大部分は、 細胞内に取り込みされたローダミン.
デキストランとは共局在しなかった (図 7の G) 。 これらの小胞は、 図 6 Aでの 観察と同様に、 細胞の周辺部で観察される場合が多い。 180 分後、 ゴルジ体は fPEG-Chol で顕著に標識され、 ローダミン蛍光発光はエンドソーム リソソーム 中に分布していた (図 7の E及び H) 。 NPC繊維芽細胞における fPEG- Choiの挙 動は著しく異なっていた。 10分の追跡後、 fPEG-Cholは特徴的な網状構造を染色 したが (図 7の I及び L ) 、 これは正常細胞では全く観察されなかった。 180分 の追跡後でも、 大部分の fPEG-Cholはこの構造中に残存し、 ゴルジ蛍光発光はほ とんど見られなかった(図 7の J及ぴ M)。細胞内に取り込みされたローダミン · デキストランが網状構造に囲まれる場合もり (図 7 M、 矢印) 、 これらの構造が エンドサイト一シス性区画の特徴をもつことが示唆される。 これらの構造は、 図 6 Bにおいて観察されるものと非常に類似している。
網状構造への fPEG-Cholの組み込みは、 温度に依存する。 4°Cでは、 fPEG- Choi は原形質膜上にとどまり、 網状体に組み込まれなかった (図 8 P ) 。 図 8 Pはま た、 fPEG-Chol が自然発生的には二分子層横断移動を起こさないことを示す。 自 然発生的にフリップフ口ップを起こす蛍光団は、 これらの条件下において細胞内 膜を染色する(R. E. Pagano,他、 J Cell Biol 91, 872 - 7. (1981);及ぴ、 R. E. Pagano, 他、 J Biol Chem 260, 1909-16. (1985) )。次に、阻害剤の存在下における fPEG - Choi およびローダミン ·デキス トランのインターナリゼーションを計測した。 Brefeldin A (ゴルジ後輸送およびノコダゾールの阻害剤。微小管集合を阻害する) は、 fPEG-Chol の網状体への組み込みにほぼ影響を及ぼさなかった。 対照的に、 網状構造はサイトカラシン B (これはァクチン重合を阻害する)により消失した。 サイトカラシン Bは、 ローダミン ·デキストランのインターナリゼーシヨンに影 響を及ぼさなかった。 図 8 Tにおいては、 サイトカラシン Bによる処理の前に、 fPEG-Chol により細胞を標識した。 この場合もやはり、 網状構造は消失し、 この ことから網状構造がァクチン網に依存することが示唆される。 産業上の利用の可能性
上記した実施例の結果から、 fPEG- Choi はコレステロールリッチなドメインを 可視化するための有利な手段であることが実証された。 即ち、 本発明によれば、 蛍光団の安定性および量子効率が高く、 パックグラウンド染色が低く、 細胞毒性 が低く、 さらにサイズが比較的小さいために実施濃度での構造摂動が少ないとい つた利点を有する新規なコレステロール検出試薬が提供されることになつた。