JP3837775B2 - ヒト血清アルブミンの分解抑制方法 - Google Patents

ヒト血清アルブミンの分解抑制方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遺伝子操作により形質転換された宿主を培養することにより製造されたヒト血清アルブミン(以下HSAという)の分解抑制方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
HSAは、血漿の主要な蛋白構成成分であり、医薬として、例えば大量出血、ショックや熱傷患者あるいは低蛋白血症、胎児性赤芽球症等の治療薬として使用されている。
【0003】
現在HSAは、主として採取した血液の分画からの産物として製造されている。しかし、この製造法では不経済でありかつ原料の血液の供給が困難である。また、血液は肝炎ウイルスのように好ましくない物質を含んでいるという問題がある。
【0004】
近年組換えDNA技術の出現によって、多種多様の有用なポリペプチドの微生物や細胞による生産が可能となり、HSAについても遺伝子組換技術による大量生産の研究開発が活発に行われている。しかし、その生産収量は低く、さらにHSA産生性宿主によって産生されたHSAが、該宿主に由来する酵素によって分解されることがあるため、大量生産することは困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる技術的背景の下に、特に培養条件の改良によって、HSA産生性宿主により産生されたHSAが、該宿主由来の酵素によって分解されることを抑制し、HSAの生産量をより増大させることを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、遺伝子操作により調製されたHSA産生性宿主を培養する際に、炭素数10〜26の脂肪酸またはその塩を0.2W/V%〜10W/V%含有する培地で培養を行うことにより、HSA産生量が増大するとともに、該宿主によって産生されたHSAが該宿主由来の酵素によって分解されることを抑制することができることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は遺伝子操作により調製されたHSA産生性宿主を、炭素数10〜26の脂肪酸またはその塩を0.2W/V%〜10W/V%含有する培地で培養することによって、該宿主により産生されたHSAの分解を抑制する方法に関する。
特に、オレイン酸またはその塩を含有する培地を用いて培養を行うことが好ましい。より好ましくはHSA産生性宿主として酵母を用い、さらに好ましくはピキア属酵母を用いる。
好ましくは、さらに消泡剤が含有される培地を用いて培養を行う。また、ファーメンターを用いて培養を行うことが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる遺伝子操作により調製されたHSA産生性宿主は、遺伝子操作を経て調製され、かつHSAを産生し得るものであれば特に限定されず、既に公知文献記載のものの他、今後開発されるものであっても適宜利用することができる。具体的には、遺伝子操作を経てHSA産生性とされた菌(例えば、大腸菌、酵母、枯草菌等)、動物細胞などが挙げられる。特に、本発明においては、宿主として、酵母、具体的にはサッカロマイセス属、ピキア属を使用することが好ましい。また、これらの宿主の栄養要求性株や抗生物質感受性株をも使用できる。好適には、G418感受性株であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) AH22株(a, his 4, leu 2, can 1) 、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)GTS115株(his 4,NRRL寄託番号Y−15851) 等が用いられる。
【0009】
これらのHSA産生性宿主の調製方法は公知ならびにそれに準じた手法を採用することによって実施される。
例えばHSA産生性宿主(またはHSA産生株)の調製方法としては、例えば通常のHSA遺伝子を用いる方法(特開昭58−56684号、同58−90515号、同58−150517号の各公報)、新規なHSA遺伝子を用いる方法(特開昭62−29985号、特開平1−98486号の各公報)、合成シグナル配列を用いる方法(特開平1−240191号公報)、血清アルブミンシグナル配列を用いる方法(特開平2−167095号公報)、組換えプラスミドを染色体上に組込む方法(特開平3−72889号公報)、宿主同士を融合させる方法(特開平3−53877号公報)、メタノール含有培地中で変異を起こさせる方法、変異型AOX2 プロモーターを用いる方法(特開平6−90768号、特開平4−299984号公報)、枯草菌によるHSAの発現(特開昭62−25133号公報)、酵母によるHSAの発現(特開昭60−41487号、同63−39576号、同63−74493号の各公報)、ピキア酵母によるHSAの発現(特開平2−104290号公報)などが挙げられる。
【0010】
このうち、メタノール含有培地中で変異を起こさせる方法は、具体的には以下のように行う。すなわち、まず適当な宿主、好ましくはピキア属酵母、具体的にはピキア・パストリス GTS115株のAOX1 遺伝子領域に常法によりAOX1 プロモーター支配下にHSAが発現する転写ユニットを有するプラスミドを導入して形質転換体を得る(特開平2−104290号公報を参照)。この形質転換体はメタノール含有培地中での増殖能は弱い。そこで特開平4−299984号公報に記載の方法に従い、この形質転換体をメタノール含有培地中で培養して変異を起こさせ、生育可能な菌株のみを回収する。この際、メタノール濃度としては、0.0001%〜5%程度が例示される。培地は合成培地、天然培地のいずれでもよい。培養条件としては15℃〜40℃、1時間〜1000時間程度が例示される。
【0011】
形質転換宿主の培養に用いられる培地は、炭素数10〜26の脂肪酸またはその塩を0.2W/V%〜10W/V%含有していれば他の成分は特に限定されず、通常この分野で既知の培地が使用される。当該脂肪酸の含有量は、さらに好ましくは0.2W/V%〜5W/V%である。0.2W/V%未満ではHSAの宿主由来の酵素による分解を十分に抑制する効果が得られない。
前記脂肪酸としては、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、、パルミトレイン酸、オレイン酸、t−バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、リノレイン酸、アラキドン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。これらの脂肪酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩または有機アミン塩が挙げられる。特に、培地がオレイン酸またはその塩を含有していれば好ましい。
本発明者らは、既に、該宿主を脂肪酸またはその塩を含む培地にて培養することによってHSA産生量を増大させる方法を提案している(特公平6−71432号公報)。今回、上記量の炭素数10〜26の脂肪酸またはその塩を培地に添加することによってHSAの産生量が増加するとともに、HSAの、宿主由来の酵素による分解が抑制される効果があることが見出された。本発明によれば、炭素数が10〜26の脂肪酸またはその塩、好ましくはオレイン酸またはその塩の添加によって宿主のHSA産生量が増加する効果に加えて、この分解抑制効果が得られたことにより、得られるHSAの総量を従来よりも大きく増大させることが可能となる。
【0012】
培地は合成培地、天然培地のいずれでもよい。好ましくは合成培地である。また、固体培地であっても液体培地であってもよいが好ましくは、液体培地である。例えば、合成培地としては、一般に炭素源として各種糖類、窒素源として尿素、アンモニウム塩、硝酸塩など、微量栄養素として各種ビタミン、ヌクレオチドなどの他、無機塩としてMg、Ca、Fe、Na、K、Mn、Co、Cuなどが例示される。YNB液体培地〔0.7%イーストナイトロジェンのベース(Difco 社製)、2%グルコース〕などが挙げられる。また天然培地としては、YPD液体培地〔1%イーストエキストラクト(Difco 社製)、2%バクトペプトン(Difco 社製)、2%グルコース〕が例示される。メタノール資化性宿主を用いる場合は、メタノール含有培地を用いることができる。この場合メタノール濃度は0.01〜5%程度である。
本発明で用いられる培地は、従来公知の培地に所定量の当該脂肪酸を添加することによって簡便に調製することができる。
本発明で用いられる培地には、さらに消泡剤が添加されていてもよい。
【0013】
他の培養条件としては、一般的な常法に準じた条件が挙げられる。
培養温度としては、通常20℃〜37℃が例示される。宿主が酵母の場合は20℃〜30℃であることが好ましく、細菌の場合は30℃〜37℃であることが好ましい。培養時間は通常1時間〜1000時間程度が例示される。
【0014】
培養は静置または振盪、攪拌、通気下に回分(バッチ)培養法や半回分(フェッドバッチ)培養法あるいは連続培養法により実施され、好ましくは、ファーメンターを用いた半回分培養法が用いられる。例えば、フェッドバッチ培養により、高濃度のグルコースを適度に少量ずつ供給し、産生菌体に対する高濃度基質阻害を避けて高濃度の菌体と産生物を得る方法(特開平3−83595号公報)などが挙げられる。
【0015】
なお、当該培養に先立って前培養を行うことが好ましい。前培養の培地としては、例えばYNB液体培地やYPD液体培地が使用される。また、前培養の培養条件としては、好ましい態様として、培養時間は10時間〜100時間、温度は酵母では30℃程度、細菌では37℃程度が例示される。
【0016】
かくして培養終了後、HSAは培養上清または濾液、または菌体、細胞からそれぞれ公知の分離、精製手段により採取される。
【0017】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
実施例1
(1)使用菌株の調製
特開平2−104290号公報に記載のAOX1 プロモーター支配下にHSAが発現する転写ユニットをもつプラスミドpHSA113から、HSA遺伝子の5’ノンコード領域を除去したHSA発現プラスミドpPGP1を作成した。pPGP1は、正常HSAのアミノ酸配列をコードするcDNAを有する[正常HSAのアミノ酸配列および正常HSAをコードする染色体DNA配列は、J. Biol. Chem., 261, 6747-6757(1986)に記載されている。]。そして、特開平2−104290号公報に述べられている方法に従い、ピキア・パストリス(Pichia pastoris) GTS115株(his4)のAOX1 遺伝子領域を、HSA発現プラスミドpPGP1をNot1制限酵素で切断して得られる断片で置換して、形質転換体PC4130を得た。この株はAOX1 遺伝子が存在しないためにメタノールを炭素源とする培地での増殖能が低くなっている(Mut−株)。
【0018】
PC4130をYPD培地(1%イーストエキストラクト、2%バクトペプトン、2%グルコース)3mlに植菌し、24時間後に初期OD540 =0.1となるようにYPD培地50mlに植菌した。3日間30℃で培養後に初期OD540 =0.1となるようにYPD培地50mlに植菌した。さらに3日毎に同様の継代を繰り返した。継代毎に菌体を107 cells/plate になるように滅菌水で希釈して2%MeOH−YNBw/oa.a.プレート(0.7%イーストナイトロジェンベースウィズアウトアミノアシッド、2%メタノール、1.5%(寒天末)に塗布し、30℃5日間培養してコロニーの有無を判断した。その結果、12日間継代後に塗布した2%MeOH−YNBw/oa.a.プレートから20個のコロニーが生じた。このプレートではMut−株はほとんど生育できず、Mut+株は生育できる。すなわち、このプレートではコロニーが生じるということはメタノールの資化性が上昇し、Mut+に変換した株が得られたことを示している。生じたコロニーの内の1つを適当に滅菌水で希釈して2%MeOH−YNBw/oa.a.プレートに拡げシングルコロニーに単離した。その1つをGCP101と名付けた。
【0019】
GCP101株から単離したAOX2プロモーター [変異型。天然AOX2プロモーター (YEAST, 5, 167-177 (1988)またはMol. Cell, Biol., 9, 1316-1323 (1989) 中、開始コドン上流255番目の塩基がTからCに変異したもの] を用いてHSA発現用プラスミドpMM042を構築し、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)GTS115株に導入し、形質転換体UHG42−3株を得た(特開平4−29984号公報)。
【0020】
(2)培地組成
前培養には、YPD培地(2%バクトペプトン、1%イーストエキストラクト、2%グルコース) を使用した。本培養に使用したバッチ培地の組成を表1に、フィード培地の組成を表2に示す。さらに、表1および表2中の*2の溶液の組成を表3に示す。表1および表2に示すように、実施例1において使用したバッチ培地およびフィード培地中のオレイン酸の含有量は0.5W/V%とした。
【0021】
【表1】
Figure 0003837775
【0022】
【表2】
Figure 0003837775
【0023】
【表3】
Figure 0003837775
【0024】
(3)ファーメンターを用いた培養方法
▲1▼ 前培養
凍結ストックバイアルより、菌体懸濁液1mlをYPD培地50mlを含むバッフル付きの300ml容三角フラスコに植菌し、30℃、24時間振盪培養した。
【0025】
▲2▼ 本培養
バッチ培地700mlに前培養液14mlを植菌し、ミニジャーファーメンターを用いて通気攪拌培養した。培養温度は、培養24時間までは30℃とし、培養24時間目より後は、25℃とした。通気量は槽内を0.5kgf/cm2 に加圧した状態で3.2L/minとした。攪拌速度は培養7時間目までは200rpm、培養7時間目より後は1000rpmとした。pHは5.85とした。消泡は、必要に応じてアデカノールLG−109(旭電化工業製)を培地中に適宜添加した。
【0026】
バッチ培養において酵母が十分高密度に増殖し、培地中のグリセロールが消費された後、フィード培地の添加を開始し、360時間培養を行った。
培養終了後、培養液をサンプリングし、下記の参考例に記載した方法にて菌体濃度、HSA濃度、分解率を測定した。その結果を表4に示す。後述の実施例2、実施例3および実施例4についてもそれぞれ同様に測定し、それらの結果も合わせて表4に示す。
【0027】
実施例2
フィード培地中のオレイン酸濃度を1W/V%としたこと以外は実施例1と同様にして培養を行った。
【0028】
実施例3
フィード培地中のオレイン酸濃度を5W/V%としたこと以外は実施例1と同様にして培養を行った。
【0029】
実施例4
フィード培地中のオレイン酸濃度を0.2W/V%としたこと以外は実施例1と同様にして培養を行った。
【0030】
【表4】
Figure 0003837775
【0031】
オレイン酸の添加量を上げるにつれて、HSAの産生量が増加し、また低分子体への分解が抑制されることが判明した。
【0032】
参考例1 菌体濃度の測定
培養終了後、培養液をサンプリングし、蒸留水で測定時のOD540 値が0.3以下となるよう適当に希釈したのち分光光度計(UV1200型、島津製作所製)を用いて540nmにおける吸光度を測定した。本実験において、吸光度から乾燥菌体量への変換はOD540 値/5.6とした。
【0033】
参考例2 HSA濃度の定量
培養終了後、培養液をサンプリングし、15,000rpmで5分間遠心した。得られた上清をウルトラフリーC3HVにより清澄濾過後、HPLCによるゲル濾過分析を実施した。
カラム :東ソー TSKgel G3000SWX1
移動相 :0.3M NaCl, 50mM Na-Phosphate, 0.1% NaN3 ,pH6.5
流速 :0.7 ml/min
インジェクション量 :50μl
検出 :A28O 、A350 (2波長)
【0034】
参考例3 分解率の算出
参考例2におけるHPLC分析の結果から、次式によって分解率を求めた。
分解率(%)=HSA分解物(43kd)ピーク高さ/HSAモノマー(67kd)ピーク高さ×100
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、HSA産生性宿主が産生するHSAの産生量を増大させることができると共に、HSAが、宿主自身が分泌する酵素によって分解されることを抑制することができるため、HSAの採取量を増大させることができる。本発明は、炭素数10〜26の脂肪酸またはその塩を所定量添加した培地でHSA産生性宿主を培養すればよく、簡易な方法によって実施することができる。

Claims (6)

  1. 遺伝子操作により調製されたヒト血清アルブミン産生性宿主を培養する際にオレイン酸またはその塩をW/V%〜W/V%含有する培地で培養することを特徴とするヒト血清アルブミンの分解抑制方法。
  2. ヒト血清アルブミン産生性宿主が酵母である、請求項記載のヒト血清アルブミンの分解抑制方法。
  3. 酵母が、ピキア属酵母である請求項記載のヒト血清アルブミンの分解抑制方法。
  4. 遺伝子操作により調製されたヒト血清アルブミン産生性宿主を培養する際に、オレイン酸またはその塩を0.5W/V%〜W/V%含有する培地で培養することを特徴とするヒト血清アルブミンの製造方法。
  5. ヒト血清アルブミン産生性宿主が酵母である、請求項記載のヒト血清アルブミンの製造方法。
  6. 酵母が、ピキア属酵母である請求項記載のヒト血清アルブミンの製造方法。
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