JP3837115B2 - 熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Cu含有鋼材を熱間圧延する際の鋼材の加熱方法において、Cuに起因する鋼材の赤熱脆性を抑制する鋼材の加熱方法に関する。より具体的には、鋼材の加熱時の鋼材表面へのCuの濃化を抑制して鋼材の赤熱脆性を防止し表面形状の優れた鋼材を得る鋼材の加熱方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼材料の鉄源としてスクラップが利用されているが、スクラップを用いた場合には、スクラップ中に含まれるCuが鋼材に混入する。Cuは熱間圧延時に先立つ鋼材の加熱時に、スケールと地鉄の界面に濃化し、このCu濃化量が多いと鋼材表面に割れを生じる赤熱脆性の問題が起きることが知られている。Cuは精錬による除去が困難であるため、この問題を回避するためにCuを含有する鋼材スクラップの使用量が制限されているという状況がある。
しかしながら、鋼材を製造する際のエネルギー消費量や、蓄積された鋼材スクラップ量の増加を考えると、今後、鉄源としてより多くのスクラップを使用することが望まれており、Cuを含有しても赤熱脆性が発生しない製造方法の開発が強く要求されている。
【0003】
熱間圧延に先立ち鋼材は加熱炉に装入され、燃焼ガスにより加熱されて1100〜1300℃の温度で抽出後、高圧水でデスケーリングされ熱間圧延機で熱間圧延される。通常、加熱炉内に供給される燃焼ガスは、酸素、水蒸気、二酸化炭素などの酸化性ガスを含むために、加熱炉で高温で加熱された鋼材表面にはスケール層が生成する。このスケール層は、主に鉄の酸化物からなり、一般に表層からヘマタイト(Fe2O3)、マグネタイト(Fe3O4)、ウスタイト(FeO)の3層からなる。
そして、鉄が高温下で燃焼ガス中の酸化性ガスによって酸化する際に、Cu、Niなどの鉄より貴な金属を含有している場合は、これらの金属は酸化されず、スケール層と地鉄の界面で濃化する。Cuの場合には、γ鉄中に数%程度の溶解度しかなく、Cu濃化量がそれ以上となる場合にはCuが金属相として析出する。Cuの融点は1080℃であり、通常熱間圧延前の鋼材の加熱はそれ以上の温度で行われるために、溶融状態のCuの液相がスケール/地鉄界面に生成し、これが地鉄の粒界に侵入して熱間圧延時のせん断応力や引張応力に耐えられなくなり、赤熱脆性による表面割れが発生する。
【0004】
このCu起因の赤熱脆性の防止にはNiの添加が有効であることが知られている。これはNiを添加することで鋼中のCuの溶解度が増すために、スケール/地鉄界面でのCuの析出を抑制できることによる。
また、特許文献1では、Siの添加も赤熱脆性の防止効果があるとしている。Siを添加すると、スケール/地鉄界面付近でファイアライトを生成し、1170℃以上でスケール中のウスタイトと反応して液相を生成させる。この液相中にCuの液相が取り込まれるために、Cuの地鉄粒界への液相Cuの侵入が抑制される。
【0005】
【特許文献1】
【特開平6−297026号公報】
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Niを添加してCu起因の赤熱脆性を防止する方法は、高価な金属であるNiを使用するためにコスト増につながるという問題がある。
また、Siを添加してCu起因の赤熱脆性を防止する方法は、Siを添加した鋼材はスケールの剥離性が悪く、圧延前の高圧水によるデスケーリングによってもスケールの剥離・除去が困難となり、スケールが残留し鋼材表面が赤くなるなど表面性状が損なわれ、その後、酸洗工程がある場合には、酸洗でスケールが溶解し難いため、酸洗工程のコスト増、生産性の低下の問題がある。
本発明は、Cu含有鋼材を熱間圧延する際のCuに起因する鋼材の赤熱脆性の発生を、NiやSiの添加のような鋼成分の変更を行うことなく抑制できる鋼材の加熱方法、より具体的には、Cuを0.05〜3質量%含有する鋼材の加熱時に鋼材表面でのCuの濃化を抑制して、赤熱脆性がなく表面性状の優れた圧延鋼材を得るCu含有鋼材の加熱方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の(1)〜(3)を要旨とするものである。
(1) Cuを0.05以上3%(質量%)以下で含有する鋼材を熱間圧延に先立ち加熱する方法において、鋼材を圧延前の最終加熱段階の鋼材表面の最低温度が1080℃以上の状態において、Cuの濃化速度よりもCuの拡散速度が大きくなるように、加熱条件を加熱雰囲気の温度、加熱雰囲気の酸素濃度のいずれか一方または双方で制御することを特徴とする熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法。
(2) 最終加熱段階にて加熱雰囲気の温度、加熱雰囲気の酸素濃度のいずれか一方または双方を制御する時間t(分)が、鋼材表面の最低温度T(K)との間で次式で示されるLog10(t)以上であることを特徴とする(1)に記載の熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法。
Log10(t)=−0.00301×(T−273)+4.01
(3) 加熱炉最終段階での加熱条件の制御を、加熱炉内をゾーン分割して行うことを特徴とする(1)または(2)に記載の熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、Cuを含有する鋼材を熱間圧延するための鋼材の加熱方法であって、鋼の基本成分を変えることなく、熱間圧延時のCu起因の赤熱脆性の発生を抑制し、表面形状の優れた熱間圧延鋼材の製造を可能にするものである。
赤熱脆性を引き起こすCuの濃化はスケール/地鉄界面濃化し析出したCuが引き起こす現象である。本発明者らは数多くの実験検証の結果、スケール/地鉄界面に濃化したCuの挙動を定量的に検討し、Cuの析出が回避できる条件を見出した。それは、(1)式に示すようにスケール生成に伴いスケール地鉄界面にCuが濃化する速度(Cuの濃化速度)と、濃化したCuがその濃度勾配により鋼中に拡散する速度(Cuの拡散速度)を比較し、拡散速度が濃化速度より大きい場合にはCuの液相としての析出を回避でき、Cu起因の赤熱脆性を抑制できるというものである。本発明で用いるCuの濃化速度およびCuの拡散速度は後述するように数式にて定義され、計算により値を得られるものである。
(Cuの濃化速度)<(Cuの拡散速度) (1)
【0009】
本発明ではこの原理を利用して、鋼材を加熱し圧延する際の少なくとも圧延前の最終加熱段階で、Cuの濃化速度よりもCuの拡散速度が大きくなるように、加熱条件を加熱雰囲気の温度、加熱雰囲気の酸素濃度のいずれか一方または双方で制御し、スケール/地鉄界面に析出したCuの一部の地鉄中への拡散を進行させることによりスケール/地鉄界面でのCu濃化量を減少させ、赤熱脆性による表面割れの発生を抑制するものである。
本発明の加熱を、少なくとも圧延前の最終加熱段階で行う必要がある。その理由は、上記(1)式の関係が圧延の前工程に実施されている必要があるためである。すなわち、圧延前の最終加熱段階で(1)式の関係が成立していないとCuは濃化するため、圧延時に赤熱脆性による表面割れが発生するためである。従って、圧延前の最終加熱段階で(1)式が成立していれば良い。
【0010】
熱間圧延に先立ち鋼材は加熱される。鋼材の加熱は燃焼ガス雰囲気で行った場合には鋼材が酸化されその表面に鉄の酸化物のスケールが生成する。この際に、Cuなどの鉄より貴な金属を含有している場合は、これらの金属は酸化されずスケール層と地鉄の界面で濃化する。Cuの場合には、γ鉄中に数%程度の溶解度しかなく、Cu濃化量がそれ以上となる場合にはCuが金属相として析出する。
本発明者は、数多くの実験検証の結果、スケール/地鉄界面に濃化したCuの挙動を定量的に検討した。その結果、スケール/地鉄界面に濃化して、析出に関与するCu量はCuの濃化速度とCuの拡散速度の差で表されることを突き止めた。
【0011】
まず、本発明におけるCuの濃化速度について説明する。Cuの濃化速度とは、鋼材の酸化によりスケール/地鉄界面にCuが濃化する速度であり鋼中のCu濃度と、酸化により鉄が消費される速度の積で表される。Cuの濃化速度を定量的に定義するには鋼材の酸化速度を知る必要がある。鉄の酸化速度は雰囲気の酸素が鋼材表面に充分に供給される場合と、充分に供給されない場合とに分けられ、それぞれの領域でのスケール構造と酸化速度に関する説明が必要である。
鉄が酸化される場合には、一般に上述したようなヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層構造のスケール構造をとるが、これは雰囲気の酸素が鋼材表面に充分に供給されることで生成し、この様な状態を満足する条件を高酸素濃度雰囲気条件と定義する。この時の酸化速度は酸化増量がスケール厚に反比例する放物線則で成長する。
一方、鋼材表面近傍における気相中の酸素ガスの拡散が律速になり、雰囲気の酸素が鋼材表面に充分に供給されない場合、ヘマタイトやマグネタイトは生成せず、ウスタイトからなるスケール構造となる。この様な状態を満足する条件を低酸素濃度雰囲気条件と定義する。この時の酸化速度は、雰囲気の酸素濃度と時間とに比例する直線則となる。
【0012】
この高酸素濃度雰囲気条件と低酸素濃度雰囲気条件との間を移行する場合にスケール構造は変化する。すなわち、高酸素濃度雰囲気条件でヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層構造のスケールが生成した鋼材を低酸素濃度雰囲気条件に移すと、ヘマタイトとマグネタイトはウスタイトに変化しウスタイト層からなるスケール構造に変化する。逆に、低酸素濃度雰囲気条件でウスタイト層からなるスケールが生成した鋼材を高酸素濃度雰囲気条件に移すと、ヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層構造のスケールに変化する。
【0013】
次に、高酸素濃度雰囲気条件での酸化速度を詳細に説明する。一般に、高温で鉄が酸化すると、表層からヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層からなるスケールが生成することが知られている。この場合は酸化増量が時間の平方根に比例して進行する放物線則で進行する。ただし、これはスケール生成に見合うだけの酸素ガスが気相から供給する場合、すなわち高酸素濃度雰囲気条件に成立する現象である。この時の酸化速度は次式のように表される。
w=√(kpt) (2)
dw/dt=kp/2w (3)
kp=kpo exp(−E/RT) (4)
w:酸化増量
t:時間
kp:放物線則速度定数
R:気体定数
T:温度
E:活性化エネルギー
鉄の場合の放物線則速度定数は次のように近似できる。
kpo=0.60(g2cm-2s-1) (5)
E=140(kJmol-1) (6)
また、鉄の場合のスケール厚と酸化増量の関係は次のように近似できる。
w=x/7500 (7)
w:酸化増量(g cm-2)
x:スケール厚(μm)
【0014】
また、通常の燃焼ガス中に含まれる酸化元素である水蒸気と二酸化炭素が酸素源となる場合には、酸化と同時に還元性の水素や一酸化炭素が表面で発生するために、ヘマタイト、マグネタイトが生成せず、ウスタイトからなるスケールとなる。また、これら水蒸気や二酸化炭素のガスによる酸化速度は、酸素による酸化速度に比べて遅いために、燃焼ガス中の酸化速度は、ほぼ酸素濃度によって決まる。したがって、燃焼ガス中の酸化速度を考慮するには、酸素による酸化を主に考慮してよい。
【0015】
続いて、低酸素濃度雰囲気条件での酸化速度を詳細に説明する。放物線則を維持するのに充分な酸素ガスを供給できない低酸素濃度雰囲気条件では、気相からの酸素ガスの供給が律速となり、その場合、酸化速度は酸素濃度と時間に比例して、(8)式で表される。この時の酸化速度(dw/dt)は(9)式で表される。この時はヘマタイト層とマグネタイト層がなく、ウスタイト層からなるスケールが生成する。
w=k1po2t (8)
k1:直線則速度定数
po2:酸素濃度
dw/dt=k1po2 (9)
鉄の場合、直線則速度定数は温度に関係なく(10)式で近似できる。
k1=9.6×10-6(g2cm-2s-1%-1) (10)
従って、燃焼加熱時のような数%程度の酸素濃度条件では、高酸素濃度雰囲気条件や低酸素濃度雰囲気条件の両方を考慮する必要があり、その酸化速度は(3)式および(9)式でそれぞれ表される酸化速度の遅いほうが律速する。すなわち(11)式のように表される。
dw/dt=min(kp/2w,k1po2) (11)
【0016】
以上により、ヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層からなるスケールが生成し、放物線則で酸化が進行する高酸素濃度雰囲気条件と、ウスタイトからなるスケールが生成し、直線則で生成する低酸素濃度雰囲気条件の境界は(12)式で求まる。
po2=kp/2wk1 (12)
ここで(7)式で示される鉄の場合の酸化増量とスケール厚の関係を用いると、高酸素濃度雰囲気条件と低酸素濃度雰囲気条件は(13)式のように表される。(13)式から求まる低酸素濃度雰囲気条件を図1に示す。
po2=7500kp/2xk1 (13)
図1の酸素濃度を示す実線より下の領域(実線を含む)が、低酸素濃度雰囲気条件を示している。
【0017】
尚、(13)式では、スケール厚をμmの単位から酸化増量をg cm-2の単位に変換する7500の係数を用いており、po2が容量%で表示される様にkp、k1の次元を合わせている。また、(12)式から低酸素濃度雰囲気条件等を求める際には、放物線則および直線則の酸化を(2)および(8)式で定義する限りにおいて、特に次元は特定するものではなく、比較する条件について同一次元であれば、どんな次元を用いても良い。
【0018】
本発明におけるCuの濃化速度は、鋼材の酸化によりスケール/地鉄界面にCuが濃化する速度であり、鋼中のCu濃度と酸化により鉄が消費される速度の積であり、鋼中のCu濃度(CCu)、鉄の原子量、酸素の原子量および(11)式の酸化速度を用いて、(14)式のように表される。(14)式で表されるCuの濃化速度の単位は(g−Cucm-2s-1)である。
ここで、CCu:鋼中のCu濃度(質量%)
(14)式において、kpは上述した定数と鋼材の温度から(4)式にて得られる。k1は上述した値を用いる。酸化増量wは鋼材の加熱温度履歴と鋼材がさらされた雰囲気の酸素濃度の履歴から(11)式を積分することにより得ることができる。Cuの濃化速度を求めようとする鋼材が存在する位置の酸素濃度(容量%)と鋼材表面の温度から(14)式を用いて、加熱炉内の鋼材の任意の時点でのCuの濃化速度を求めることができる。
【0019】
次に、本発明におけるCuの拡散速度について説明する。Cuの拡散速度とは、スケール/地鉄界面から鋼中にCuが拡散する速度であり、γ鉄中のCuの拡散濃度と、スケール/地鉄界面でのγ鉄中のCu濃度勾配の積で表される。
ここでCuの濃度勾配を求める必要がある。本発明者らは化学成分の異なる種々の鋼材のCuが濃化したスケール/地鉄界面のCu濃度分布を詳細に分析した結果、Cuの濃化はスケール/地鉄界面から鋼材側に約4μm程度に濃化していることを見出した。さらに析出したCuが存在する場合に、スケール地鉄界面の地鉄側のCu濃度はγ鉄中のCuの固溶限となっていることも確認した。
以上のことから、(15)式に示すようにCuの拡散速度を記述することができる。Cuの固溶限は温度によって変わる値であるが、Fe−Cuの状態図からその値を読み取ることができる。
D:オーステナイト鉄中のCuの拡散定数
ρFe:鉄の密度
dC/dx:スケール/地鉄界面近傍地鉄側のCuの濃度勾配
CB,Cu:スケール地鉄界面でのCu濃度(Cuの固溶上限濃度)
CCu:鋼中のCu濃度
L:Cuの濃化域長さ=4μm
(15)式は温度の関数であり、鋼中のCu濃度が0.3質量%以下の場合には(16)式で温度の関数として近似することができる。(16)式で表されるCuの拡散速度の単位は(g−Cucm-2s-1)である。
Cuの拡散速度=3.28×10-90×T26.0 (16)
【0020】
析出に関与するCu量はCuの濃化速度とCuの拡散速度の差で表される。これはスケール生成に伴ってスケール/地鉄界面に濃化するが、一方でそれ自身の濃度勾配で鋼中に拡散しようとする。従って、Cuの拡散速度がCuの濃化速度を上回れば、Cuは鋼中に固溶できる領域まで拡散することができCuの析出挙動には関与せず、Cuの赤熱脆性を回避できる。
本発明では、この知見に基づき、赤熱脆性となるCuが液相で析出する温度、すなわちCuの融点である1080℃以上の状態において、一旦、通常の燃焼ガスによる雰囲気でCuの融点である1080℃以上で加熱して、ヘマタイト、マグネタイト、ウスタイト層からなるスケールを鋼材表層に生成させた後に、圧延前の最終加熱段階で、Cuの濃化速度よりもCuの拡散速度が大きくなるように、加熱条件を加熱雰囲気の温度、加熱雰囲気の酸素濃度のいずれか一方または双方で制御し、スケール/地鉄界面に析出したCuの一部の地鉄中への拡散を進行させる必要がある。この場合に、とりうる手段としては、スケール厚に応じて温度を制御したり、空気比を減じて酸素濃度を下げるなどの手段がある。
Cuの濃化速度は、雰囲気の酸素濃度を下げて酸化速度を遅くすることによって下げることができる。また、Cuの拡散速度は、加熱温度を上げることによって大きくすることができる。この場合、酸化速度が上がらないように極力酸素濃度を下げることが好ましい。
【0021】
赤熱脆性の問題は前述したようにスケール/地鉄界面でCuが液相で析出することが原因で起きるものであり、本発明の適用域もCuの融点である1080℃以上が対象となる。
ここで、Cuの含有量が0.05%(質量%)未満の鋼材の場合は、通常の加熱炉で加熱を行ってもCu起因の赤熱脆性は発生しない。また、Cu濃度が3%(質量%)を超える場合、本発明により酸素濃度や温度の加熱条件を加熱炉の最終段階にて制御して加熱してもスケール/地鉄界面のCu濃化量を充分に減少させることができず、圧延時に赤熱脆性が発生する。したがって、本発明を適用して効果のあるは、Cu含有量が0.05%以上3%(質量%)以下のCu含有鋼材である。
【0022】
この加熱条件の調整過程では、析出状態にあるCuを再度鋼中に拡散させるために、一定以上の時間を保持することが好ましい。すなわち、加熱温度が高いほど拡散速度が速くなることから、この調整加熱の保持時間t(分)は、鋼材表面の最低温度T(K)との間で次式で得られるt(分)以上保持することが好ましい。
Log10(t)=−0.00301×(T−273)+4.01
加熱炉の最終段階にて加熱条件を切り替えるには、加熱炉内を仕切壁などの分割手段でゾーン分割することが好ましい。こうすることで空間的に酸素濃度条件や炉の温度条件を分けることができるからである。
【0023】
本発明は、例えば図2に示すような加熱炉を適用することにより実施できる。この例は、Cuを0.05%〜3%(質量%)含有する鋼材1を、常温で通常の燃焼ガスによる加熱炉2に挿入し、1100〜1300℃の温度まで加熱して抽出後、高圧水3でデスケーリングを施して熱間圧延機4で熱間圧延する場合において、本発明を適用する場合のものであり、設備的には燃焼ガス雰囲気で加熱する一般的な加熱炉2の最終加熱段階に、本発明を実施するための加熱雰囲気(酸素濃度、温度の制御)およびその保持時間を調整する制御機能5を設けたところに特徴がある。
【0024】
【実施例】
[実施例1]
化学成分として質量%でC:0.04%、Si:0.01%、Mn:0.3%、P:0.01%、S:0.01%、Cu:0.7%、Ni:0.04%、Cr:0.07%を含有するCu含有鋼材を対象として、図2に示したような加熱炉2で鋼材1を加熱・保持して抽出し、高圧水3によるデスケーリングを施してから熱間圧延実験を行った。
この実施例1では、図3に示すように、加熱炉2の加熱雰囲気を酸素濃度3%(容量%)にして約60分間で1200℃まで加熱した後、加熱雰囲気の酸素濃度を1%(容量%)に制御して、鋼材表面の最低温度T(K)との間で示される式 Log10(t)=−0.00301×(T−273)+4.01 で得られるt(分)以上となる40分間保持する。
【0025】
酸素濃度3%程度の酸化雰囲気で1200℃まで加熱した段階では、従来の操業例の場合と同様、Cuが液相でグネタイト層中に移動し、Cuの一部がマグネタイト層中に固溶・吸収されるが、酸素濃度を1%に制御後のCuの濃化速度は、従来の操業例(後述)の場合の約半分まで激減し、Cuの拡散速度以下まで減少する。
Cuの拡散速度は、1080℃付近からほぼ一定に推移するが、Cuの濃化速度がCuの拡散速度以下に減少する結果、Cuの濃化速度とCuの拡散速度との関係は、
Cuの濃化速度<Cuの拡散速度
の状態を維持することになり、Cuの拡散が進行し、スケール/地鉄界面のCu濃化量を充分に減少させることができ、抽出後デスケーリングを施して熱間圧延したところ鋼材表面に赤熱脆性の発生は全く認められなかった。熱間圧延後に鋼材表層でのスケール/地鉄界面でのCuの濃化状況を調査したところ、スケール/地鉄界面のCuの濃化量が大幅に減少しており、析出したCu層はスケール内にも地鉄内にも認められなかった。
【0026】
[実施例2]
実施例1と同様のCu含有鋼材を対象として、図2に示したような加熱炉2で鋼材1を加熱・保持して抽出し、高圧水3によるデスケーリングを施してから熱間圧延実験を行った。
この実施例2では、図4に示すように、加熱炉2の加熱雰囲気を酸素濃度3%(容量%)にして約60分間で1200℃まで加熱した後、加熱雰囲気の酸素濃度を変えないで加熱雰囲気の温度を40分で1300℃まで上げて抽出する。この時の40分の保持時間は、鋼材表面の最低温度T(K)との間で示される式 Log10(t)=−0.00301×(T−273)+4.01 で得られるt(分)以上である。
加熱雰囲気を酸素濃度3%(容量%)にして約60分間で1200℃まで加熱した段階で、鋼材表層には、ヘマタイト、マグネタイト、ウスタイトの3層からなるスケールが生成し、加熱雰囲気の温度を40分で1300℃まで上げることにより、Cuの拡散速度が急激に上昇することにより、スケール/地鉄界面で濃化したCuの地鉄中への拡散・固溶が進行し、スケール/地鉄界面のCu濃化量が大幅に減少させることができる。
【0027】
すなわち、Cuの濃化速度が、1200℃での加熱終期においてスケールの成長によって僅かに減少するが、雰囲気温度を1300℃に制御後に回復してほぼ一定に推移する。一方、拡散速度は、1080℃付近からほぼ一定に推移するが、雰囲気温度を1200℃から1300℃に制御することによって4倍強上昇し、Cuの濃化速度とCuの拡散速度との関係は、
Cuの濃化速度<Cuの拡散速度
の状態を維持することになり、Cuの地鉄中への拡散が活発化して、スケール/地鉄界面のCu濃化量を充分に減少させることができ、抽出後デスケーリングを施して熱間圧延したところ鋼材表面に赤熱脆性の発生は全く認められなかった。熱間圧延後に鋼材表層でのスケール/地鉄界面でのCuの濃化状況とを調査したところ、スケール/地鉄界面のCuの濃化量が大幅に減少しており、析出したCu層はスケール内にも地鉄内にも認められなかった。
【0028】
【比較例】
実施例1、2と同様のCu含有鋼材を対象として、図2に示したような加熱炉2で鋼材1を加熱・保持して抽出し、高圧水3によるデスケーリングを施してから熱間圧延実験を行った。この比較例では、図5に示すように、加熱炉2の加熱雰囲気を酸素濃度3%(容量%)にして約60分間で1200℃まで加熱した後120分保持して抽出する。
一方Cuの拡散速度は、1080℃付近からほぼ一定に推移する。しかし、Cuの濃化速度とCuの拡散速度との関係は、
Cuの濃化速度>Cuの拡散速度
の状態を維持することになるため、Cuの拡散の進行が充分ではなくスケール/地鉄界面のCu濃化量を充分に減少させることができず、抽出後デスケーリングを施して熱間圧延した場合に赤熱脆性による鋼材表面の割れが発生した。熱間圧延後に鋼材表層でのスケール/地鉄界面でのCuの濃化状況を調査したところ、スケール/地鉄界面のCuに析出したCu相が存在した。
【0029】
【発明の効果】
本発明では、Cuを0.05〜3%(質量%)含有する鋼材を対象として、NiやSiの添加など鋼材の成分を変えることなく、加熱炉内の加熱雰囲気を、Cuの融点である1080℃以上の状態で、酸化雰囲気で加熱し、圧延前の加熱最終段階で加熱雰囲気の酸素濃度を下げ、または加熱雰囲気の温度を上げて、加熱することで、スケール/地鉄界面でのCuの濃化速度を抑制し、拡散速度をCuの濃化速度より大きくして、析出したCuの地鉄中への拡散を進行させることによりスケール/地鉄界面のCuの濃化量を大幅に減じることができ、熱間圧延時のCu起因の赤熱脆性を抑制し、表面性状の良好な熱間圧延鋼材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】加熱炉内における鋼材表面の酸化の進行に関与する酸素濃度条件をスケール厚と温度との関係で示す説明図。
【図2】本発明を実施する加熱炉例を示す側断面説明図。
【図3】本発明の実施例1における加熱操業例と鋼材表面のスケール生成状況を示すスケール断面の説明図。
【図4】本発明の実施例2における加熱操業例と鋼材表面のスケール生成状況を示すスケール断面の説明図。
【図5】比較例における加熱操業例と鋼材表面のスケール生成状況を示すスケール断面の説明図。
【符号の説明】
1 鋼材
2 加熱炉
3 高圧水
4 熱間圧延機
5 加熱雰囲気制御機能
Claims (3)
- Cuを0.05以上3%(質量%)以下で含有する鋼材を熱間圧延に先立ち加熱する方法において、鋼材を圧延前の最終加熱段階の鋼材表面の最低温度が1080℃以上の状態において、Cuの濃化速度よりもCuの拡散速度が大きくなるように、加熱条件を加熱雰囲気の温度、加熱雰囲気の酸素濃度のいずれか一方または双方で制御することを特徴とする熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法。
- 最終加熱段階にて加熱雰囲気の温度、加熱雰囲気の酸素濃度のいずれか一方または双方を制御する時間t(分)が、鋼材表面の最低温度T(K)との間で次式で示されるLog10(t)以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法。
Log10(t)=−0.00301×(T−273)+4.01 - 加熱炉最終段階での加熱条件の制御を、加熱炉内をゾーン分割して行うことを特徴とする請求項1または2に記載の熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法。
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JP2003011080A JP3837115B2 (ja) | 2003-01-20 | 2003-01-20 | 熱間圧延時のCu含有鋼材の加熱方法 |
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