JP6118684B2 - 表面性状に優れた冷延鋼板の製造方法 - Google Patents

表面性状に優れた冷延鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、表面疵がないような表面性状に優れた冷延鋼板を製造するための有用な方法に関するものであり、特に自動車、家電製品、建材等の分野で使用されるSi、Mn含有冷延鋼板において、外観が美麗で、しかも年々複雑化する加工にも耐え得る冷延鋼板を製造するための有用な方法に関するものである。
近年、自動車、家電製品、建材等の軽量化の目的で、強度、延性および加工性に優れた鋼板の需要が急増している。鋼板に所定量のSiやMnを含有させると、強度を損なうことなく延性や加工性を向上できることから、このような特性を満たす鋼板としてSiやMnを含有させた冷延鋼板が使用されている。
上記のような冷延鋼板の製造に際しては、スラブに熱間圧延および冷間圧延を施して所望の製品厚さまで加工した後、鋼板の組織制御のために連続焼鈍ライン(以下、「CAL」と略記することがある)にて、焼鈍、焼入れ処理が行われるのが一般的である。
しかしながら、SiやMnを比較的多く含む鋼板では、CAL内のハースロール(ロールハース炉における送給ロール)上に何らかの反応物が生成し、それが鋼板表面に転写されることで押し疵が発生することがある。以下では、上記反応物の生成現象を「ロールピックアップ現象」、こうした現象によって転写により発生する押し疵を「ピックアップ疵」と呼ぶ。
上記のようなロールピックアップ現象は、種々の文献で紹介されている「ビルドアップ」と実質的に同じ現象である。このような不良が発生した場合には、ロール交換のためにラインを停止せざるを得ないために、生産性が著しく悪化することになる。
上記のようなピックアップ疵の低減を実現するために、これまでにも様々な技術が提案されている。こうした技術として、例えば特許文献1には、ロール表面にクロマイジング金属層を金属浸透法によって形成することで、ピックアップ疵を低減する技術が提案されている。また特許文献2、3には、各種セラミックス層を溶射法によって形成することで、ピックアップ疵を低減する技術が提案されている。
上記各技術は、SiやMnの含有量が比較的少ない鋼板に対しては有効である。しかしながら、SiとMnの含有量がいずれも0.1%以上となるような高Si−Mn鋼板については、ピックアップ疵の抑制効果が十分とは言えず、期待するほどの表面性状が得られないのが実情である。
一方、CAL内で生成するスケールを抑制することによって、ピックアップ疵を低減する技術も提案されている(例えば、特許文献4)。SiとMnの含有量が多い鋼板では、SiやMnを含む酸化物、或はSiやMnとFeからなる複合酸化物を抑制する必要があるが、これらの酸化物の平衡酸素圧は非常に低いために、このような技術でも、ピックアップ疵の発生を完全に防止することはできない。
また特許文献5では、連続焼鈍炉内で焼鈍を行う際に、送給ロールと鋼板ストリップの隙間に酸化性のガスを導入しつつ焼鈍を行う方法も提案されている。この技術では、ロール表面に形成された溶射皮膜中に含まれる金属によって、鋼板ストリップ表面に形成される酸化スケールが還元されて還元鉄が生成することが、ピックアップ疵の発生原因であるとの着想の下でなされたものである。この技術においては、ロール近傍での還元鉄生成によるピックアップ疵の抑制には効果的であるが、炉内雰囲気全体が酸化性雰囲気に変わりやすくなり、鋼板表面が酸化されてスケールが多く形成し、溶射皮膜と反応するスケール量が増えて、ピックアップ疵が若干増える傾向を示す。
特開2000−291635号公報 特開2002−256363号公報 特開2006−283105号公報 特開平11−158559号公報 特開2012−126964号公報
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、還元鉄が生成することに基づくピックアップ疵を抑制できると共に、鋼板表面の酸化に基づくピックアップ疵をも抑制できるような、表面性状に優れた冷延鋼板を製造することのできる有用な方法を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明方法とは、冷間圧延に続いて非酸化性雰囲気の連続焼鈍炉内で鋼板の焼鈍を行う際に、600℃以上の送給ロール近傍を、酸素濃度:100ppm未満(体積基準、ガス濃度において以下同じ)、水素濃度:200ppm以上で、且つ下記(1)式の関係を満たすガス組成の雰囲気としつつ焼鈍を行う点に要旨を有するものである。この方法において、「送給ロール近傍」とは、送給ロールと鋼板ストリップの隙間での送給ロール表面付近は勿論のこと、送給ロールと鋼板ストリップが接触する直前の送給ロール表面付近をも含む趣旨である。
水素濃度(ppm)×0.04<水蒸気濃度(ppm) …(1)
本発明方法で対象とする鋼板は、基本的にSiやMnの含有量が比較的多いものであれば、本発明の効果が有効に発揮され、化学成分組成については特に限定するものではないが、基本成分として、C:0.04〜0.25%(質量%の意味。鋼板の化学成分において以下同じ。)、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%およびAl:0.06%以下(0%を含まない)を夫々含有するものが挙げられる。
本発明方法で対象とする鋼板は、上記した基本成分に、更に(a)Cr:2%以下(0%を含まない)、Nb:1%以下(0%を含まない)、V:1%以下(0%を含まない)およびW:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(b)Ni:2%以下(0%を含まない)、Cu:2%以下(0%を含まない)、Mo:2%以下(0%を含まない)およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種、(c)Ti:0.1%以下(0%を含まない)、Ca:0.03%以下(0%を含まない)、Mg:0.03%以下(0%を含まない)およびREM:0.03%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種、等を含有させてもよく、含有される成分に応じて鋼板の特性が更に改善される。
本発明によれば、冷間圧延に続いて非酸化性雰囲気の連続焼鈍炉で焼鈍を行う際に、送給ロール近傍での雰囲気を適切に制御しつつ焼鈍を行うようにしたので、還元鉄が生成することに基づくピックアップ疵を抑制できると共に、鋼板表面の酸化に基づくピックアップ疵をも抑制できるため、表面性状に優れた冷延鋼板が製造できる。
ピックアップ疵の発生状態の推定メカニズムを説明する模式図である。 連続焼鈍ライン(CAL)の装置構成を示す概略説明図である。 ガス導入機構の一例を示す概略説明図である。 ガス導入機構の他の例を示す概略説明図である。
本発明者らは、上記のようなロールピックアップ現象の発生メカニズムを解明すべく、かねてより検討を進めてきた。その研究の一環として、酸化スケール(FeO)と一般的な溶射成分[(Ni,Co)CrAlY]との反応を熱力学計算ソフト(「HSC Chemistry」:オートテック社製)により、ロールピックアップ現象の発生メカニズムを検討した。その結果、酸化スケールが溶射皮膜内の金属Al、Cr等によって還元されて純Feが生成することが判明したのである。この検討における経緯は、下記の通りである。
予め雰囲気制御した熱処理で生成させたFe34皮膜と溶射皮膜(Ni−25%Cr−10%Al−0.5%Y)を対面させて、面圧:0.15kg/cm2(147N/mm2)で圧力をかけ、900℃のN2雰囲気中で2時間保持した。接着部分の断面を切り出し、SEM(走査型電子顕微鏡)とEDX(エネルギー分散型X線分析)によるライン分析を行った。その結果から、酸化スケールと溶射皮膜の反応によって、金属Feが生成することが検証できた。
これらの結果に基づいて、ピックアップ疵の発生メカニズムについて更に検討を進めた。そして、ピックアップ疵は、鋼板のスケールと溶射皮膜の接触による酸化還元反応で生成した還元鉄(溶射皮膜中に存在するFeよりも酸化し易いAlやCrがスケールを還元して金属Feが生成する)に起因するものであると考えられた。この還元鉄中では、酸素が拡散し易く、スケールから溶射皮膜側に酸素が拡散することで、酸化還元反応が連続して起こり、生成した還元鉄がスケール側に向かって成長する。そして、Si、Mn含有鋼板では、硬いSi−Mn−O粒子を含んだ還元鉄が生成してピックアップ疵の原因となると推定できた。こうした状況を図1(模式図)に示す。
上記のような仮説に基づいて更に検討し、送給ロールとスケール間での還元鉄の生成を阻害すれば、ロールピックアップ現象を抑制してピックアップ疵の発生を防止できるとの着想が得られ、更に検討を進めた。そして、CAL中の送給ロールと鋼板ストリップとの隙間に、酸素、水蒸気、二酸化炭素等を含む酸化性のガスを導入することによって、送給ロールと鋼板ストリップ間の酸化を促進して還元鉄の生成を阻止することができ、これによってピックアップ疵の発生防止に有効であることを見出し、その技術的意義が認められたので先に出願している(前記特許文献5)。
本発明者らが先に提案した技術では、送給ロールと鋼板ストリップの隙間に導入する酸化性ガスとして、酸素濃度が100〜5000ppmとなるようなガスを想定したものである。しかしながら、酸素濃度をこのように高めると、導入する位置が一部であったとしても、炉内雰囲気全体が酸化性雰囲気に変わりやすくなり、鋼板表面が酸化してスケールが形成しやすいという別の問題に遭遇した。また、ピックアップ疵の原因となる還元鉄が生成するのは、ロール温度が600℃以上のときが顕著であることも解った。
そこで、送給ロール近傍に導入するガス(酸化性ガス)として、炉内雰囲気全体が酸化性雰囲気に変わりにくい組成のものについて、検討を重ねた。その結果、ロール温度が600℃以上のロール近傍の雰囲気として、酸素濃度:100ppm未満、水素濃度:200ppm以上で、且つ下記(1)式の関係を満たすガス組成とすれば良いことを見出し、本発明を完成した。
水素濃度(ppm)×0.04<水蒸気濃度(ppm) …(1)
送給ロール近傍に導入する酸化性ガスの組成として、酸素ガス(O2)の濃度(酸素濃度)が100ppm以上、または水素ガス(H2)の濃度(水素濃度)が200ppm未満となると、ロール近傍のみならず、炉内雰囲気全体が酸化性雰囲気に変わりやすくなり、鋼板表面が酸化してスケールが形成され、ロール表面の溶射皮膜と反応するスケール量が増えて、ピックアップ疵が増加することになる。
こうした観点から、送給ロール近傍に導入する酸化性ガスの基本組成として、酸素濃度:100ppm未満、および水素濃度:200ppm以上とする必要がある。しかしながら、こうした組成のガスをロール近傍に導入すると、ロール近傍で還元鉄が生成しやすい状況になる。こうしたことから、上記(1)式の関係を満足するように、水蒸気濃度を高めとして、ロール近傍のみを酸化性雰囲気として還元鉄の生成を抑制する。こうした作用を考慮して、本発明で導入するガスを「酸化性ガス」と呼んでいる。
本発明では、送給ロール近傍を、水素(200ppm以上)と水蒸気を共存させた雰囲気とすることによって、鋼板表面の酸化抑制とロールピックアップ現象の抑制(還元鉄の生成抑制)を両立させることが重要なポイントである。
尚、酸素濃度は好ましくは50ppm以下(より好ましくは30ppm以下)であるが、ロール表面での還元鉄の抑制を考慮すると、10ppm以上であることが好ましい。また水素濃度は、好ましくは220ppm以上(より好ましくは250ppm以上)であるが、水素濃度が過剰になるとロール表面で還元鉄が生成しやすくなるので、50000ppm以下とすることが好ましい(より好ましくは40000ppm以下)。
一方、水蒸気濃度については、上記の関係式を満足していれば、その上限については特に限定するものではないが、水蒸気濃度が過剰になると、その雰囲気を通過する鋼板表面で酸化スケールが大量に発生してピックアップ疵発生の原因となる懸念があるから、500000ppm以下とすることが好ましい(より好ましくは300000ppm以下)。
ところで、連続焼鈍ライン(CAL)内は、非酸化性雰囲気に制御されるのが通常である。この非酸化性雰囲気は、酸素濃度が40ppm以下、水蒸気濃度が約650ppm以下(露点:−25℃)であるような雰囲気を言う。但し、この雰囲気中には、水素が1〜20%程度含まれていても良い。また、ベースとなるガスはN2やAr等の不活性ガスである。CALの抽出温度は700〜900℃程度であり、CALの均熱帯(後記図2参照)の在炉時間は、60〜240秒程度である。
本発明では、連続焼鈍炉内で焼鈍を行う際に、送給ロール近傍に、ガス組成を適切に調整した酸化性のガスを導入しつつ焼鈍を行うものであるが、本発明で想定している送給ロールは、鋼材ロールそのものは勿論のこと、鋼材ロール表面の溶射皮膜等の皮膜中に、Feよりも酸化されやすい元素(具体的には、Al,Cr,Zn,Mg,Ca,Zr,Y,Si,Mn,Na,P,V,Ti,Li等)が酸化物以外の状態(例えば、合金成分等)で含有する場合も含むものである。例えば、Crが多量に含有された耐熱鋼で作製されたロールや、一般的にMCrAlY(M:金属元素)として知られる溶射皮膜を表面に形成したロール、更にCVD等でアルミナイジングされたNiAl合金等からなるロール等も含む趣旨である。
本発明では、連続焼鈍炉において、送給ロール近傍に酸化性のガスを導入するものであるが、こうした装置構成を図面に基づいて説明する。連続焼鈍ライン(CAL)の装置構造を模式的に図2に示す。CALでは、予熱帯、加熱帯、均熱帯および冷却帯の各領域に画成されており、鋼板ストリップが多数のロール(送給ロール)によって上記各領域を順次通板されるように構成されている。
本発明方法を実施するに当たっては、酸化性のガス(酸化性ガス)を導入する機構(ガス導入機構)を設けることによって(図2)、送給ロール近傍に酸化性のガスを導入する。図3は、ガス導入機構の一例を示す概略説明図である。この構成では、酸化性ガスを酸化性ガスノズル管に送り、この酸化性ガスノズル管に形成された多数のノズル孔からロール(図3では「ハースロール」と表示)近傍に、酸化性ガスを導入するように構成されている。尚、図2、3では、ロールと鋼板ストリップ(図3では「鋼板」と表示)の隙間に酸化性ガスを導入する状態を示したが、酸化性ガスの導入は、鋼板と接触する直前のロール表面付近(図2、3に示したロールの中央部分)に行っても良い。
図4は、ガス導入機構の他の例を示す概略説明図である。この構成では、酸化性ガスをロール(ハースロール)の内部の空間(図示せず)に送り込むと共に、この空間に連通し、ロール表面に多数形成された噴出孔(酸化性ガス噴出孔)から、ロール(図4では「ハースロール」と表示)近傍に酸化性ガスを導入するように構成したものである。
いずれの構成を採用しても、ロール近傍に酸化性ガスを効果的に導入できるようになっている。
ガス導入機構は、均熱帯の出口(冷却帯入口)から数えて10ロール目までの中から少なくとも1つのロールに設けることが好ましい。この10ロール目までであれば、どこに設置しても良い。これは、鋼板温度が700℃程度で接触するロールであり、還元反応による金属Feの生成が起こりやすいという理由からである。ガス導入装置の数は多い方が好ましいが、10個以上設けてもその効果が飽和することになる。ガス導入装置は、必要に応じて加熱帯、予熱帯、冷却帯に設けることもできる。酸化性ガスとしては、酸素や水蒸気等を含むガスを用い、窒素ガスやアルゴンガスで希釈することによって、所定の濃度とすれば良い。酸化性ガスの成分としては、上記の他、二酸化炭素等を含ませることもできる。
本発明で対象とする鋼板は、冷延鋼板として使用できる限りその化学成分組成は特に限定されないが、例えばC:0.04〜0.25%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Al:0.06%以下(0%を含まない)を夫々含有するものが挙げられる。各元素の添加理由は、以下の通りである。
(C:0.04〜0.25%)
Cは、鋼材(即ち、鋼板)の強度を高めるのに有効な元素であり、0.04%以上含有させることが好ましい。しかしながら、C含有量が0.25%を超えて過剰になると、加工性が低下することになる。より好ましいC含有量は、0.05%以上(更に好ましくは0.06%以上)、0.15%以下(更に好ましくは0.12%以下)である。
(Si:0.1〜3.0%)
Siは、鋼材(即ち、鋼板)の強度を発現しつつ、延性や加工性を確保できる重要な元素であり、高強度鋼板に最低限必要なSi量としてその下限を0.1%以上とすることが好ましい。しかしながら、Si含有量が過剰になると、延性を損なうため、3.0%以下とすることが好ましい。より好ましいSi含有量は、0.5%以上(更に好ましくは0.8%以上)、2.5%以下(更に好ましくは2.0%以下)である。
(Mn:0.1〜3.0%)
Mnは、鋼板の強度および靭性を確保するために重要な元素であり、高強度鋼板に最低限必要なMn量としてその下限を0.1%とすることが好ましい。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、延性を損なうため、3.0%以下とすることが好ましい。より好ましいMn含有量は、0.2%以上(更に好ましくは0.5%以上)、2.5%以下(更に好ましくは2.3%以下)である。
(Al:0.06%以下(0%を含まない))
Alは、製鋼段階での脱酸のために、および焼ならし加熱の際にオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するために有効な元素である。しかしながら、Al含有量が0.06%を超えると、その効果が飽和することに加えて、結晶粒が不安定になる。Al含有量は、より好ましくは0.05%以下(更に好ましくは0.04%以下)である。
上記C、Si、MnおよびAl以外の残部は、鉄であってもよい。残部が鉄の場合、不可避的不純物(例えば、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不純物(P、S、N、O等))が鋼板中に含まれることは、当然に許容される。これらの不純物のうち、P、SおよびNについては、下記のように低減することが好ましい。
(P:0.02%以下(0%を含まない))
Pは不可避的に含有される元素であるが、微量のPの存在はセメンタイトの析出を遅延し変態を抑制する。しかしながら、P含有量が過剰になると、延性の劣化とめっき密着性の悪化を招くため、その上限を0.02%以下に止めることが好ましい。P含有量は、より好ましくは0.010%以下(更に好ましくは0.005%以下)である。尚、工業生産上、鋼材中のP含有量を0%にすることは困難である。
(S:0.004%以下(0%を含まない))
Sは不可避的に含有される元素であるが、硫化物系介在物(MnS)を形成し、これが鋼板の熱間圧延時に偏析することにより、鋼板を脆化させるので、その上限を0.004%以下に止めることが好ましい。S含有量は、より好ましくは0.003%以下(更に好ましくは0.002%以下)である。尚、工業生産上、鋼材中のS含有量を0%にすることは困難である。
(N:0.01%以下(0%を含まない))
Nは粗大な窒化物を形成して曲げ性や穴拡げ性を劣化させ、且つ溶接時のブローホールの原因となるので、不可避的不純物として混入する場合、その上限を0.01%以下に止めることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.005%以下(更に好ましくは0.002%以下)である。
本発明で対象とする鋼材には、必要に応じて下記に示す種々の選択元素を含有させても良く、含有される元素の種類に応じて鋼材の特性が更に改善される。これらの元素を含有させるときの含有量および限定理由は以下の通りである。
(Cr:2%以下(0%を含まない)、Nb:1%以下(0%を含まない)、V:1%以下(0%を含まない)およびW:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種)
Cr、Nb、VおよびWは、いずれも鋼板の強度を高めるのに有効な元素であり、必要に応じて含有させることができる。このうち、Crは鋼板および冷間鍛造品の強度を付与する上で有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.01%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.04%以上)。しかしながら、Cr含有量が2%を超えて過剰になっても、延性が低下することになる。Cr含有量は、より好ましくは1.5%以下(更に好ましくは1%以下)である。
Nbは、微量の添加で微細組織を得ることができ、靭性を損なわずに高強度化が図れる元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.001%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.005%以上)。しかしながら、Nb含有量が過剰になると、炭化物が多量に生成し、マルテンサイトの体積率減少、或はその析出強化により強度と加工性のバランスが劣化する。こうしたことから、Nb含有量は1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下(更に好ましくは0.1%以下)である。
Vは、Nbと同様に微量の添加で微細組織を得ることができる元素であり、鋼板の強度向上に寄与する。こうした効果を発揮させるためには、0.001%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.005%以上)。しかしながら、V含有量が過剰になると、コスト高の原因となるだけでなく、降伏点(降伏比)を上昇させて加工性を低下させる。こうしたことから、V含有量は1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下(更に好ましくは0.1%以下)である。
Wは、析出強化、フェライト結晶粒の成長抑制による微細強化および再結晶の抑制を通じた転位強化により、鋼板の強度向上に寄与する。こうした効果を発揮させるためには、0.001%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.005%以上)。しかしながら、W含有量が過剰になると、炭・窒化物の析出が過剰となり、成形性の劣化を招くことになる。こうしたことから、W含有量は0.3%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.2%以下(更に好ましくは0.1%以下)である。
(Ni:2%以下(0%を含まない)、Cu:2%以下(0%を含まない)、Mo:2%以下(0%を含まない)およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種)
Ni、Cu、MoおよびBは、いずれも鋼板の焼入れ性を向上させる元素である。このうちNiは、適量含有させることによって、CAL焼鈍、冷却時点でのマルテンサイト比率の増大とマルテンサイトのラス構造を微細化する作用を通じて、次工程の連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)の焼鈍時における二相域再加熱、冷却処理時の焼入れ性を良好にして、冷却後の最終的な複合組織を良好なものとし、各種成形加工性を向上させることができる。Niは微量添加することによってこうした効果を発揮できるが、こうした効果を有効に発揮させるためには、0.1%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.2%以上)。しかしながら、Niは高価な元素であるので、製造コストの点からその含有量は2%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5%以下(更に好ましくは1.0%以下)である。
CuはNiと同様に焼入れ性を向上させる元素であり、Niと同様の作用により各種成形加工性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、0.1%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.2%以上)。しかしながら、Cuは高価な元素であるので、製造コストの点からその含有量は2%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5%以下(更に好ましくは1.0%以下)である。
Moは、CuやNiと同様に焼入れ性を向上させる元素であり、Niと同様の作用により各種成形加工性を向上させるのに有効な元素である。また、めっき性を損ねることなく、固溶強化を図る上でも有効な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、0.1%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.2%以上)。しかしながら、Moは高価な元素であるので、製造コストの点からその含有量は2%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5%以下(更に好ましくは1.0%以下)である。
Bも鋼板の焼入れ性を向上させる元素であるが、こうした効果を有効に発揮させるためには、0.0001%以上含有させることが好ましい(より好ましくは0.0002%以上)。しかしながら、B含有量が過剰になるとめっき性が劣化するので、0.01%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.005%以下(更に好ましくは0.001%以下)である。
(Ti:0.1%以下(0%を含まない)、Ca:0.03%以下(0%を含まない)、Mg:0.03%以下(0%を含まない)、およびREM:0.03%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種)
Ti、Ca、MgおよびREM(希土類元素)は、いずれも脱酸剤として用いられる元素である。こうした効果を発揮させるためには、Tiで0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)、Ca、Mg、REMで0.002%以上(より好ましくは0.003%以上)含有させることが好ましい。しかしながら、これらの含有量が過剰になると、成形性が劣化するので、好ましくはTiで0.1%以下、Ca、Mg、REMで夫々0.03%以下、より好ましくはTiで0.08%以下(更に好ましくは0.05%以下)、Ca、Mg、REMで夫々0.02%以下(更に好ましくは0.01%以下)である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
[実施例1]
下記表1に示す化学成分組成の鋼材スラブ(鋼種A〜X)を熱間圧延した後、酸洗によりスケーリング除去して、更に冷間圧延することによって、板厚:2.0mmの薄鋼板を作製した。
得られた各種薄鋼板を連続焼鈍ライン(CAL)にて焼鈍を実施した。このときの焼鈍では、予熱帯−加熱帯(前記図2参照)にて400秒で900℃まで昇温し、210秒間、900℃で均熱帯において均熱保持し、その後冷却帯で冷却した。また、焼鈍の際には、下記表2に組成を示す酸化性ガスを、ガス導入機構を用いて(前記図2参照)、ロール(600℃以上に加熱)と鋼板ストリップの間に導入した。酸化性ガスの導入機構は、均熱帯の出口近傍のロールに配置した。
得られた薄鋼板について、ピックアップ疵の有無を評価した。この評価に当たっては、ピックアップ疵の発生までの時間(ロールの交換が行われた後の最初の操業開始時点からピックアップ疵の発生までの時間)で評価した。評価基準は下記の通りである。また、鋼板表面の酸化の有無は、目視で黒化の有無を判断(目視による判断が困難な場合は3000〜5000倍程度の断面SEM観察を実施)して評価した。その結果を、下記表2に示す。
[ピックアップ疵の評価基準]
20時間以下:×(不合格)
20時間超、50時間以下:△(合格)
50時間超、100時間以下:○(合格)
100時間超:◎(合格)
この結果から次のように考察できる。まず本発明で規定する要件を満足するものでは(試験No.1、2、5〜22、25〜29、31)、ピックアップ疵発生までの時間が長くなっており、鋼板表面酸化も無く、表面性状が優れたものとなっていることが分かる。
これに対し、本発明で規定する要件のいずれかを満足しないもの(試験No.3、4、23、24、30)では、ピックアップ疵発生までの時間が短くなっており、表面性状が良好になっていないことが分かる。即ち、試験No.3、4は、導入したガス中の酸素濃度が高い例であり、鋼板表面での酸化が多くなり、ピックアップ疵発生までの時間が短くなっており、表面性状が良好になっていないことが分かる。
試験No.23は、導入したガス中の酸素濃度が高く、且つ水素濃度が低い例であり、鋼板表面での酸化が多くなり、ピックアップ疵発生までの時間が短くなっており、表面性状が良好になっていないことが分かる。試験No.24は、水素濃度が低い例であり、鋼板表面での酸化が多くなり、ピックアップ疵発生までの時間が短くなっており、表面性状が良好になっていないことが分かる。試験No.30は、(1)式を満たさない例(水素濃度も好ましい範囲よりも高くなっている)であり、ピックアップ疵発生までの時間が短くなっており、表面性状が良好になっていないことが分かる。

Claims (5)

  1. 冷間圧延に続いて、酸素濃度が40ppm以下(体積基準、ガス濃度において以下同じ)、水蒸気濃度が650ppm以下である非酸化性雰囲気の連続焼鈍炉内で、C:0.04〜0.25%(質量%の意味、鋼板の化学成分において以下同じ)、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%およびAl:0.06%以下(0%を含まない)を夫々含有する鋼板の焼鈍を行う際に、600℃以上の送給ロール近傍を、酸素濃度:100ppm未満、水素濃度:200ppm以上で、且つ下記(1)式の関係を満たすガス組成の雰囲気としつつ焼鈍を行うことを特徴とする表面性状に優れた冷延鋼板の製造方法。
    水素濃度(ppm)×0.04<水蒸気濃度(ppm) …(1)
  2. 前記600℃以上の送給ロール近傍に、前記ガス組成の酸化性のガスを導入することによって、前記600℃以上の送給ロール近傍を、前記ガス組成の雰囲気とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記鋼板は、更にCr:2%以下(0%を含まない)、Nb:1%以下(0%を含まない)、V:1%以下(0%を含まない)およびW:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記鋼板は、更にNi:2%以下(0%を含まない)、Cu:2%以下(0%を含まない)、Mo:2%以下(0%を含まない)およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記鋼板は、更にTi:0.1%以下(0%を含まない)、Ca:0.03%以下(0%を含まない)、Mg:0.03%以下(0%を含まない)およびREM:0.03%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである請求項〜4のいずれかに記載の製造方法。
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