JP3834721B2 - 地山補強工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トンネルの掘削に先立って、切羽前方の地山に補強部材を打設し掘削作業の安定化を図る地山補強工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、トンネル構築時における切羽の崩落を防止するために種々の工法が提案されている。その一つとして鏡打ちボルトを使用する工法がある。この工法は、切羽の鏡面から地山内部に向けてFRP等の繊維補強樹脂からなるボルトを打設し、地山を補強するものである。そして、掘進時には打設されたFRPボルトを地山の掘削とともに切断しながら掘り進む。
【0003】
ところが、FRP等で構成された切断可能な繊維補強樹脂ボルトは、鋼製のボルトに比べて剛性が劣るため、打設可能な長さに制限があり、一般的には2〜3mのものしか用いることができない。このため、2〜3m程度掘り進むごとに、鏡面へボルトを打設しなおす必要があり、作業効率が低く、また掘進速度が非常に遅いという問題があった。
【0004】
そこで、これを解決する工法の一つとして、鋼管を用いた注入式長尺先受工法が提案されている。図12に示すように、この工法は、10〜20mの長尺鋼管を用いるものであって、山岳トンネルで用いられるドリルジャンボを使用し、鋼管51内に削孔ロッドを挿入して2重管削孔方式によりトンネル軸線と所定の仰角をなすように削孔と鋼管51挿入とを同時に行うものである。そして、鋼管と削孔ロッドをそれぞれ順次接続して、所定の削孔を形成し削孔ロッドを回収すると、鋼管51内に注入材53を施して鋼管51を削孔内に定着させる。鋼管51が定着すると、掘削機により切羽前方の地山Mを掘削していく。この工法によれば、上記鏡打ちボルトを用いる工法よりトンネル掘削に係る作業効率が高く、高い地山改良効果を得ることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の工法では、注入材53を使用するため安価であるとは言えず、また鋼管51を注入材53により定着させてはじめて地山改良効果が得られるため、施工に長時間を要するという問題がある。また、図12に示すように、この工法では、支保工55と鋼管51とが干渉するのを避けるため、切羽57縁部において鋼管53を打設する部分Tを拡幅しなければならず、このため作業がさらに長期化するとともにコストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、短期間で、しかも低コストで地山の補強を行うことができる地山補強工法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、トンネルの掘削に先立ち、前記トンネル切羽の縁部に沿って複数の削孔を前記トンネル軸線と所定の仰角をなして形成する工程と、内部に空間を有するとともに断面形状において少なくとも一箇所に凹入部を備え、前記空間内の圧力を増大させることで前記凹入部が凸形状に塑性変形して拡径する異形管を、前記削孔内に挿入する工程と、前記異形管内に流体を圧送することにより、該異形管を拡径して前記削孔周囲の地山に定着する工程とを備えたことを特徴とする地山補強工法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、トンネルの掘削に先立って、前記トンネル切羽の鏡面に前記トンネル軸線方向に複数の削孔を形成する工程と、内部に空間を有するとともに断面形状において少なくとも一箇所に凹入部を備え、前記空間内の圧力を増大させることで前記凹入部が凸形状に塑性変形して拡径する異形管を、前記削孔内に挿入する工程と、前記異形管内に流体を圧送することにより、該異形管を拡径して前記削孔周囲の地山に定着する工程とを備えたことを特徴とする地山補強工法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る地山補強工法をトンネルの長尺先受工法に適用した場合の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る長尺先受工法の概略構成を示す横断面図、図2は図1の縦断面図、図3及び図4は長尺先受工法の施工手順を示す横断面図である。
【0010】
図1及び図2に示すように、一般的な長尺先受工法は、切羽前方の地山Mの掘削に先立ち、複数の長尺部材3を切羽1の縁部に沿ってアーチ状に並ぶ箇所で、かつ各長尺部材3がトンネル軸線方向Xと所定の仰角θをなすように打設することにより地山を補強する工法である。掘削されたトンネル内壁面には支保工5が構築された後、覆工コンクリート7を打設する。以下、本実施形態に係る長尺先受工法の施工手順について詳細に説明する。
【0011】
まず、図3(a)に示すように、トンネル切羽1の鏡面9に鏡面吹付けコンクリート11を施工して鏡面9を一時的におさえ、これに続いて切羽1の縁部に沿って、つまり支保工5の下端面に沿って複数の削孔13を形成する。上記したように、各削孔13はトンネルの軸方向Xに対して所定の仰角θをなして延びるように形成する。なお、削孔13の径は、次に説明する長尺部材3の径より若干大きいものとする。
【0012】
次に、図3(b)に示すように、各削孔13に長尺部材3を挿入する。長尺部材3は、以下のように構成されたものを用いる。すなわち、図5に示すように、約3mの中空の鋼管15(図5(a))を押圧して板状にした後(図5(b))、これを鋼管15の長手方向を軸方向として筒状にした2重管17を形成する(図5(c))。なお、鋼管15は、後述するように内部空間Pに供給される水の圧力によって変形するように、肉厚が2〜3mm程度のものを用いる。また、2重管17を構成する鋼管15の内部空間Pに流体が流入できるように、鋼管15を完全に押しつぶさない程度に板状にする必要がある。このとき、板状となった鋼管15を筒状とすることにより形成される空間が、本発明の凹入部に相当する。
【0013】
次に、施工状況に応じて、複数個の2重管17を連結し長尺部材3を構成する。本実施形態では、3本の2重管を連結して約9mの長尺部材3を構成している。図6(a),(b),及び(c)はそれぞれ先頭、中間及び最後尾の2重管17a,17b,17cを示している。同図に示すように、先頭及び中間の2重管17a,17bの後端には雌ネジ付連結スリーブ19が固着されており、中間及び最後尾の2重管17b,17cの先端には、雌ネジ付連結スリーブ19と螺合可能な雄ネジ付連結スリーブ21が固着されている。
【0014】
図7に示すように、雌ネジ付連結スリーブ19は、2重管17の端部が嵌入する嵌入部23と、この嵌入部23と壁部25を介して連結された雌ネジ部27とからなり、壁部25には鋼管の内部空間Pと雌ネジ部27とを連通する流体用の連通孔29が形成されている。一方、図8に示すように、雄ネジ付連結スリーブ21は、2重管17の端部が嵌入する嵌入部31と、この嵌入部31と連通し中空に形成された雄ネジ部33とから構成されている。雄ネジ部33と雌ネジ部27とが螺合した状態では、雄ネジ部33の先端が雌ネジ部27の奥端部まで達しないように構成されており(図7の点線参照)、これにより雄ネジ部33内を流れる流体が、上記連通孔29を介して2重管17の内部空間Pに流入する。また、雄ネジ付連結スリーブ21に固着される2重管17の端部には、内部空間P以外の部分に流体が流入しないように蓋部材34が取り付けられている。
【0015】
また、図6に示すように、先頭の2重管17aの先端にはコーン付きのスリーブ35が固着される一方、最後尾の2重管17cの後端には端部が閉鎖された閉鎖スリーブ37が固着されている。図9に示すように、閉鎖スリーブ37の周壁には、後述する流体注入用の注入口39が形成されている。また、この注入口39に対応して2重管17cの周壁には、上記した内部空間Pと連通する連通孔41が形成されている。
【0016】
そして、施工位置において対応する連結スリーブ19,21を螺合させることで、2重管17を順次連結し長尺部材3を組み立てる。このとき、各2重管17a,17b,17cの内部空間Pは連通し、流体が流入可能となっている。このように構成された長尺部材3が本発明の異形管に相当する。なお、長尺部材3を構成する2重管17の本数は上記した3本に限定されず、施工状況に応じて適宜その本数を決定することができる。すなわち、トンネル内では作業空間に制限があり仮置きができないため、予め長尺部材を準備しておくのではなく、複数の2重管17を準備しておき、作業現場において連結スリーブ等を取り付けた後、長尺部材3を組み立てる。実験では、複数の2重管を連結し20m程度の長さのものまで利用可能であることが確認されている。また、各2重管17の長さも適宜変更可能である。
【0017】
図3に戻って、長尺先受工法の説明を続ける。上記のように構成された長尺部材3を削孔13に挿入すると、これに続いて、閉鎖スリーブ37の注入口39から水等の流体を240〜300kg/cm2程度で圧送し、連通孔41を介して内部空間Pに流入させる。これにより、内部空間Pの内圧が増加し、図10に示すように、2重管17は鋼管が元の形状に復元されるように塑性変形して拡径される。2重管17が拡径すると、図3(c)に示すように、長尺部材3は削孔周囲の岩盤を圧縮しながら地山に定着される。
【0018】
こうして、圧縮された岩盤は長尺部材3に摩擦力を供し、地山補強材としての長尺部材3が地山と一体となる形でここに定着され、これにより地山に内圧効果が生じる。その結果、地山が効果的に補強される。さらに、長尺部材3は、2重管17の拡径に伴って、その長さが僅かに短くなるため、長尺部材3が打設された部分の地山をその分だけ軸方向に締め付ける。これにより、地山が変位するのを抑制し、切羽1を安定的に保持することができる。長尺部材3の固定後、2重管17内の流体は排出されるが、2重管17は塑性変形しているため、削孔内壁面に圧着された状態で保持される。
【0019】
すべての削孔13内に長尺部材3を固定すると、これに続いて切羽1を進行させる。すなわち、図示を省略する掘削機により地山Mの掘削を行い、掘削が進行した分だけ抗壁面に吹付コンクリートを施して壁面Sを形成していく。ここで、図3(c)に示すように、長尺部材3の基端部、つまり最後尾の2重管17cの後端部は壁面Sから掘削予定部M側にはみ出した状態となっているが、長尺部材3は拡径されて単管状態になっているため、掘削機により容易に切断することができる。したがって、図4(a)に示すように、長尺部材3の基端部を切断しつつ地山の掘削を進行させることができる。そして、所定の長さが掘削されると、図4(b)に示すように、鏡面吹付けコンクリート11を打設し、新たに創出されたトンネルの壁面Sに支保工5を建て込むとともに吹付けコンクリート(図示省略)を施して壁面Sを形成し、これを繰り返しながらトンネルを形成していく。なお、図3乃至図4は切羽近傍の図のため、覆工コンクリートの図示を省略している。
【0020】
以上のように、本実施形態によれば、内部空間Pを有し内圧の増加により塑性変形して拡径する長尺部材3を削孔13に挿入後、長尺部材3内に流体を圧送することにより長尺部材3を膨張拡径し地山に定着させている。そのため、従来例のような注入材が不要になり、施工コストを低減することができる。しかも注入材の養生を待つことなく、拡径後直ちに地山改良効果を得ることができるため、施工時間を大幅に短縮することが可能となる。また、湧水が存在する場合に注入材を使用すると、注入材が湧水によって流されてその効果を発揮することができないが、本実施形態に係る工法では、そのような湧水の影響を受けることはない。すなわち、この工法は、従来のような補強材の軸力に頼る鏡打ちボルトや補強材を注入材で定着させる注入式長尺先受け工法とは異なり、2重管17の膨張拡径により、これを即時に地山に定着させるとともに地山自体に内圧を生じさせて、簡単且つ効果的に切羽前方の地山の安定化を図ることができるものである。
【0021】
また、上記した長尺部材3は、拡径されて地山に定着された状態で単管となっているため、掘削機により容易に切断することができる。そのため、長尺部材3を切断しつつ地山の掘削を行うことが可能となり、従来例のように支保工との干渉を避けるため、切羽1を拡幅することが不要となる。すなわち、図4(a)に示すように、地山の掘削予定部M内に基端部が配置されるように長尺部材3を打設し、この状態で基端部を切断しつつ前方地山Mの掘削を行うことができる。したがって、施工時間の大幅な短縮化及び施工コストの低減が可能となる。
【0022】
上記実施形態では、切羽1の縁部に長尺部材を打設して地山を補強しているが、図11に示すように、これに加えて切羽1の鏡面9に長尺部材を打設して掘削を行うこともできる。すなわち、切羽の鏡面9に、トンネル軸線と略平行な削孔を形成した後、上記と同一構成の長尺部材(異形管)3を挿入する。続いて、長尺部材3内に流体を導入して拡径することにより削孔周囲の地山に定着する。これにより、地山がさらに安定し、切羽1の崩落をより確実に防止することができる。なお、長尺部材3は膨張して単管状態になっているため、これを切断しつつ前方地山の掘削が可能である。また、上記した長尺先受工法と併用せず、鏡面にのみ長尺部材を打設した後、トンネルの掘削を行うことも可能である。
【0023】
本発明で使用される異形管の構成は、上記実施形態で示したものに限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。すなわち、断面形状において少なくとも一箇所に凹入部を備え、内部空間の圧力を増大することにより凹入部が塑性変形して拡径可能であり、かつ拡径状態で掘削機により切断可能に構成されているものであれば、本発明の地山補強工法に適用することができる。
【0024】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、内部に空間を有するとともに断面形状において少なくとも一箇所に凹入部を備えた異形管内に流体を圧送することで、凹入部を凸形状に塑性変形させ、これにより異形管を拡径させて削孔周囲の地山に定着し、地山を補強している。この定着状態において、異形管は内部に空間を形成した状態となっているため、掘削機により容易に切断することが可能となる。そのため、異形管を切断しつつ地山の掘削を行うことができ、従来例のように支保工との干渉を避けるため、切羽を拡幅することが不要となる。例えば、地山の掘削予定部内に基端部が配置されるように異形管を打設し、この状態で、基端部を切断しつつ前方地山の掘削を行うことが可能となる。したがって、施工時間の大幅な短縮化及び施工コストの低減が可能となる。
【0025】
また、トンネルの掘削に先立って、切羽の鏡面にトンネル軸線方向に削孔を形成し、この削孔内に上記と同一構成の異形管を打設することで、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る地山補強工法をトンネルの長尺先受工法に適用した場合の一実施形態を示す横断面図である。
【図2】図1の縦断面図である。
【図3】図1の長尺先受工法の施工手順を示す横断面図である。
【図4】図1の長尺先受工法の施工手順を示す横断面図である。
【図5】図1の長尺先受工法に使用される長尺部材の製造手順を示す図である。
【図6】図1の長尺先受工法に使用される長尺部材を構成する2重管を示す斜視図である。
【図7】図6の2重管に使用される雌ねじ付スリーブを示す断面図である。
【図8】図6の2重管に使用される雄ねじ付スリーブを示す断面図である。
【図9】図6の2重管に使用される閉鎖スリーブを示す断面図である。
【図10】図1の長尺先受工法における長尺部材の圧着工程を示す図である。
【図11】本発明に係る地山補強工法の他の例を示す図である。
【図12】従来の長尺先受工法を示す横断面図である。
【符号の説明】
1 切羽
3 長尺部材
9 鏡面
13 削孔
P 内部空間(空間)
Claims (2)
- トンネルの掘削に先立ち、前記トンネル切羽の縁部に沿って複数の削孔を前記トンネル軸線と所定の仰角をなして形成する工程と、
内部に空間を有するとともに断面形状において少なくとも一箇所に凹入部を備え、前記空間内の圧力を増大させることで前記凹入部が凸形状に塑性変形して拡径する異形管を、前記削孔内に挿入する工程と、
前記異形管内に流体を圧送することにより当該異形管を拡径し、単管状態にして前記削孔内壁面に圧着することで地山の内圧を高める工程と、
前記異形管内の流体を排出する工程と、
流体が排出されて単管状態となった前記異形管の後端部を切断しつつ、地山の掘削を行う工程と、
を備えたことを特徴とする地山補強工法。 - トンネルの掘削に先立って、前記トンネル切羽の鏡面に前記トンネル軸線方向に複数の削孔を形成する工程と、
内部に空間を有するとともに断面形状において少なくとも一箇所に凹入部を備え、前記空間内の圧力を増大させることで前記凹入部が凸形状に塑性変形して拡径する異形管を、前記削孔内に挿入する工程と、
前記異形管内に流体を圧送することにより当該異形管を拡径し、単管状態にして前記削孔内壁面に圧着することで地山の内圧を高める工程と、
前記異形管内の流体を排出する工程と、
流体が排出されて単管状態となった前記異形管を切断しつつ地山の掘削を行う工程と、
を備えたことを特徴とする地山補強工法。
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