以下、この発明の実施形態を、前述の小型光ディスクの記録再生装置に適用した場合を例にとって、図を参照しながら説明する。先ず、この発明を説明する前に、この発明が適用される記録再生装置について説明する。
図3は、この発明が適用された小型光ディスクの記録再生装置の構成を示すものである。この図3において、1は小型光ディスクである。小型光ディスク1は、カートリッジ1A内に直径64mmのディスク1Bを収納して構成されている。この小型光ディスク1には、再生専用光ディスク、記録可能な光磁気ディスク、再生専用領域と記録可能領域が混在するハイブリッドディスクの3種類のものがある。
また、ディスク1Bには、予め、光スポット制御用(トラッキング制御用)のプリグルーブが形成(プリピット)されているが、特に、この例の場合には、このプリグルーブにトラッキング用のウォブリング信号に重畳して絶対アドレスデータが記録されている。
小型光ディスク1のディスク1Bは、スピンドルモータ2により回転される。スピンドルモータ2の回転は、サーボ制御回路5により制御され、ディスク1Bが線速度一定の状態で回転するように制御される。小型光ディスク1にはシャッターが設けられており、小型光ディスク1がディスク装着トレイ上に載置され、装置に装填されると、シャッターが開かれる。そして、記録可能な光ディスクの場合には、ディスク1Bのシャッター開口部の上部には記録用の磁気ヘッド3が対向して配置され、ディスク1Bのシャッター開口部の下部には光ピックアップ4が対向して配置される。
光ピックアップ4は、送りモータ6により、ディスク1Bの径方向に移動制御される。また、サーボ制御回路5により、光ピックアップ4のフォーカス及びトラッキング制御がなされる。
システムコントローラ20は、マイクロコンピュータを搭載して構成されており、全体の動作を管理している。このシステムコントローラ20には、キー群10からキー入力信号が与えられる。このキー群10は、電源キー、イジェクトキー、再生キー、一時停止キー、停止キー、録音キー、早送り再生キー、早戻し再生キーなどを備える。
また、システムコントローラ20には、ディスプレイ30が接続される。このディスプレイ30には、装着された小型光ディスクの総演奏時間、演奏中の曲の経過時間、再生中の曲の残り演奏時間、全体の残りの演奏時間等の時間情報や、演奏中の曲のトラックナンバ等が表示される。また、ディスクネームやトラックネームが記録されているディスクでは、ディスクネームやトラックネームが表示される。さらに、曲やディスクの記録日時が記録されていれば記録日時が表示される。
図3の実施例の記録再生信号系の構成は、IC化によりできるだけ構成を簡略化できるように工夫されている。なお、記録時と再生時とでは、システムコントローラ20からのモード切換信号により、各部がモード切り換えされるようにされている。
[記録系の説明]
オーディオ信号(図では簡単のため、1チャンネルであるが、実際は2チャンネルステレオである。以下、同じ)は入力端子31を通じて入力される。この入力端子31からのオーディオ信号は、A/Dコンバータ32において、サンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16ビットでデジタル化される。
このデジタルオーディオ信号は、音声圧縮エンコード/デコード回路33に供給される。この音声圧縮エンコード/デコード回路33では、前述したATRACによるデータ圧縮処理がなされ、オーディオ信号が約1/5にデータ圧縮される。すなわち、オーディオ信号は、前述したように隣り合う符号化単位間のオーバーラップを考慮したDCT処理であるMDCTが用いられて、データ圧縮される。
この場合、回路33においては、元のアナログオーディオ信号の周波数帯域が、低域(0〜5.5125kHz)、中域(5.5125kHz〜11.025kHz)、高域(11.025kHz〜22.05kHz)の3つの帯域に分割され、各帯域毎にMDCTの処理がなされる。
圧縮処理単位である512サンプルのデータは、高域に256サンプル、中域と低域とにそれぞれ128サンプルずつが割り振られる。そして、オーディオ信号の変化の多寡により、MDCTの処理単位の大きさを、それぞれの帯域単位で2通りに選択できるように、ショートモードとロングモードの2つのモードが用意されている。
すなわち、時間的に音が激しく変化する部分ではショートモード、安定した波形が繰り返される部分ではロングモードとされる。ショートモードのときには、MDCT処理単位のサンプル数は、3つの帯域で共通に32サンプルとし、この32サンプル毎のブロックについてMDCTを施す。また、ロングモードのときには、各帯域のすべてのサンプル数、つまり高域では256サンプル、中域と低域とではそれぞれ128サンプルをMDCT処理単位とする。
MDCTは、処理単位サンプル数のブロックについて、隣り合うブロック間でオーバーラップするようなウインドウを設定して各ブロックをウインドウ処理し、その処理結果をDCT処理するものであるので、図4に示すように、各周波数帯域において、ショートモード用のウインドウと、ロングモード用のウインドウが設定されて、処理が行なわれることになる。図4において、太線の実線はそれぞれロングモードのときのウインドウ波形を示し、細線は、それぞれショートモードのときのウインドウ波形を示している。
この図4から解るように、ロングモードの処理単位の時間長は、いずれの周波数帯域の場合も、サウンドフレームに等しい11.6msecである。一方、ショートモードの処理単位の時間長は、高域では1.45msec、中域および低域では2.9msecとなる。
このように、2つのモードを設けることで、時間的に音が激しく変化する部分でも、安定した波形が繰り返される部分でも、効率的な符号化ができる。
なお、各サウンドフレームのデータには、3つの周波数帯域のそれぞれのデータが、いずれのモードでMDCTの処理が行なわれたかを示す識別データが付加されて記録される。
音声圧縮エンコード/デコード回路33で圧縮されたオーディオ信号は、メモリコントローラ34を介して、このメモリコントローラ34により制御されるバッファメモリ35に一度蓄えられる。この例の場合、バッファメモリ35は、データ容量が、4MビットのDRAMが用いられる。
メモリコントローラ34は、記録中に振動等によりディスク1B上の記録位置が飛んでしまうトラックジャンプが生じなければ、バッファメモリ35から圧縮データを書き込み速度の約5倍の転送速度で順次読み出し、読み出したデータを、セクタ構造のデータエンコード/デコード回路36に転送する。
また、記録中にトラックジャンプが生じたことを検出したときは、メモリコントローラ34は、データエンコード/デコード回路36へのデータ転送を停止し、音声圧縮エンコード/デコード回路33からの圧縮データをバッファメモリ35に蓄積する。そして、記録位置が修正されたとき、バッファメモリ35からデータエンコード/デコード回路36へのデータ転送を再開するようにする制御を行う。
この場合のバッファメモリ35のデータ容量としては、上述から理解されるように、トラックジャンプが生じてから記録位置が正しく修正されるまでの間の時間分に相当する圧縮データを蓄積できる容量が最低必要である。この例では、バッファメモリ35の容量としては、前記のように4Mビット有し、この容量は前記の条件を十分に満足するように余裕を持ったものとして選定されているものである。
また、この場合、メモリコントローラ34は、この記録時において、正常動作時は、できるだけバッファメモリ35に蓄積されるデータが少なくなるようにメモリ制御を行う。すなわち、バッファメモリ35のデータ量が予め定められた所定量以上になったら、所定量のデータ、例えば32セクタ分(1セクタは1CD−ROMセクタ(約2Kバイト)である)のデータだけバッファメモリ35から読み出して、常に所定データ量以上の書込み空間を確保しておくようにメモリ制御を行う。
データエンコード/デコード回路36は、バッファメモリ35から転送されてきた圧縮データをCD−ROMのセクタ構造のデータにエンコードする。1セクタは、サウンドグループの5.5個分を含む。この場合、前述したように、各サウンドフレームのデータの先頭には、3つの周波数帯域のそれぞれについて、ショートモードまたはロングモードのいずれの単位でMDCTを施したかの識別情報が含まれる。
なお、オーディオデータの記録再生は、32セクタ分のオーディオデータ(元のアナログオーディオ信号の約2秒分であるが、データ圧縮により約0.4秒相当となる)を単位として行うものである。この32セクタ分のオーディオデータを以下クラスタと称する。
データエンコード/デコード回路36の出力データは、EFM及びCIRCエンコード/デコード回路37に供給される。この回路37では、データにエラー検出訂正用の符号化処理を行うと共に、記録に適した変調処理、この例ではEFM(8−14変調)処理を施す。エラー検出訂正用の符号は、この例ではCDのCIRC(クロスインターリーブ・リード・ソロモン符号)に対してインターリーブを変更したものを用いる。記録データが間欠的なデータであり、1クラスタとしての32セクタ分のオーディオデータの前後に、クラスタ接続用の合計4個のセクタ(以下リンキングセクタと称する)が付加されて、36セクタからなる単位記録データとされる。
このようにして形成された記録データは、ヘッド駆動回路38を介して記録用磁気ヘッド3に供給される。これにより、記録データで変調された磁界がディスク1B(光磁気ディスク)に印加される。また、光ピックアップ4からのレーザービームがディスク1Bに照射される。この記録時は、記録トラックには、再生時より大きな一定のパワーのレーザ光が照射されている。この光照射と、磁気ヘッド3による変調磁界とにより、ディスク1Bには熱磁気記録によってデータが記録される。こうして、元のオーディオ信号の約2秒分(1クラスタ)のデータが、約0.4秒で、ディスク1Bに記録される。
なお、磁気ヘッド3と光ピックアップ4とは、共に同期してディスク1の半径方向に沿って移動できるように構成されている。
また、この記録時において、光ピックアップ4の出力がRFアンプ39を介してアドレスデコーダ40に供給されて、ディスク1Bのトラックに沿って設けられたプリグルーブにウォブル記録されている絶対アドレスデータが抽出され、デコードされる。そして、その検出された絶対アドレスデータがEFM及びCIRCエンコード/デコード回路37に供給され、記録データ中に挿入されて、ディスクに記録される。また、絶対アドレスデータは、システム制御回路20に供給され、記録位置の認識及び位置制御に用いられる。
また、RFアンプ39からの信号がサーボ制御回路5に供給され、ディスク1Bのプリグルーブからの信号からスピンドルモータ2の線速度一定サーボのための制御信号が形成され、スピンドルモータ2が速度制御される。
[再生系の説明]
次に、再生時について説明する。すなわち、この再生時には、記録時と同様にして、サーボ制御回路5により、スピンドルモータ2が、プリグルーブからの信号により、ディスク1が記録時と同じ線速度一定の回転速度制御される。
再生時、光ピックアップ4は、目的トラックに照射したレーザ光の反射光を検出することにより、例えば非点収差法によりフォーカスエラーを検出し、また、例えばプッシュプル法によりトラッキングエラーを検出すると共に、目的トラックからの反射光の偏光角(カー回転角)の違いを検出して、再生RF信号を出力する。
光ピックアップ4の出力は、RFアンプ39に供給される。RFアンプ39は、光ピックアップ4の出力からフォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号を抽出してサーボ制御回路5に供給すると共に、再生信号を2値化してEFM及びCIRCエンコード/デコード回路37に供給する。
サーボ制御回路5は、前記フォーカスエラー信号が零になるように、光ピックアップ4の光学系のフォーカス制御を行うと共に、トラッキングエラー信号が零になるように、光ピックアップ4の光学系のトラッキング制御を行う。
また、RFアンプ39の出力はアドレスデコーダ40に供給され、プリグルーブからの絶対アドレスデータを抽出してデコードする。そして、このデコーダ40からの絶対アドレスデータが回路37を介してシステム制御回路20に供給され、サーボ制御回路5による光ピックアップ4のディスク半径方向の再生位置制御のために使用される。また、システム制御回路20は、再生データ中から抽出されるセクタ単位のアドレス情報も、光ピックアップ4が走査している記録トラック上の位置を管理するために用いることができる。
この再生時、後述するように、ディスク1Bから読み出された圧縮データはバッファメモリ35に書き込まれ、読み出されて伸長されるが、両データの伝送レートの違いから、ディスク1Bからの光ピックアップ4によるデータ読み出しは、例えばバッファメモリ35に蓄えられるデータが所定量以下にならないように間欠的に行われる。
EFM及びCIRCエンコード/デコード回路37では、RFアンプ39を介して供給された信号がEFM復調され、エラー訂正処理される。EFM及びCIRCエンコード/デコード回路37の出力は、セクタ構造のデータエンコード/デコード回路36に供給されて、CD−ROMのセクタ構造を解き、データを圧縮された状態の元データにデコードする。
データエンコード/デコード回路36の出力はメモリコントローラ34を介して、バッファメモリ35に一旦記憶される。そして、メモリコントローラ34は、再生中に振動等により再生位置が飛んでしまうトラックジャンプが生じなければ、回路36からの圧縮された状態のデータを書き込み速度の約1/5倍の転送速度で順次読み出し、読み出したデータを、音声圧縮エンコード/デコード回路33に転送する。この場合、メモリコントローラ34は、バッファメモリ35に蓄えられているデータ量が、所定以下にならないようにバッファメモリ35の書き込み/読み出しを制御する。
また、再生中にトラックジャンプが生じたことを検出したときは、データエンコード/デコード回路36からバッファメモリ35へのデータの書き込みを停止し、回路33へのデータの転送のみを行う。そして、再生位置が修正されたとき、回路36からバッファメモリ35へのデータ書き込みを再開するようにする制御を行う。
また、前述もしたように、メモリコントローラ34は、正常動作時は、できるだけバッファメモリ35に必要最小限以上の所定データが蓄積されるようにメモリ制御を行う。例えば、バッファメモリ35のデータ量が予め定められた所定量以下になったら、光ピックアップ4によりディスク1Bからのデータの間欠的な取り込みを行って、データエンコード/デコード回路36からのデータの書き込みを行い、常に所定データ量以上の読み出し空間を確保しておくようにメモリ制御を行う。
なお、バッファメモリ35にデータを一杯に読み込むのにかかる時間は約0.9秒であり、このデータは約3秒間のオーディオデータに相当する。すなわち、バッファメモリにデータが一杯蓄えられている時に、ディスク1Bの信号が読み取れなくなっても、約3秒間は再生信号を出力し続けることが可能である。その間に光ピックアップをもとの位置に再アクセスし、信号読み取りを再度行なうことで、音飛びの発生を防止できる。
音声圧縮エンコード/デコード回路33は、逆MDCTの処理を行なって圧縮を解き、3つの周波数帯域のデータの帯域合成を行なう。圧縮が解かれ、帯域合成されたデータは、D/Aコンバータ41に供給され、アナログ信号に戻される。このアナログ信号が出力端子42から出力される。
[可変速再生の説明]
この実施形態においては、可変速再生は、システムコントローラ20により制御されて、次のようにして実行される。図1および図2は、この可変速再生の第1の例を説明するための図で、図1は、ノーマル再生より高速の再生を行なう場合の例を、図2は、ノーマル再生より低速の再生を行なう場合の例を、それぞれ示している。
この例の場合、例えばユーザーにより可変速再生キーが操作されると、システムコントローラ20は、図1Aあるいは図2Aに示すように時間的に連続するディスク上のデータDAを、図1Aおよび図2Aにおいて、太線枠にして示すように、それぞれ時間的に連続している複数個のサウンドグループSG毎からなるブロック群GR1、GR2、GR3、…に分割する。
この場合、各ブロック群GRi(i=1,2,…)を構成するサウンドグループの個数は、このブロック群GRiの繰り返し周波数が人間の聴覚上、感知感度が低いもの、例えば20Hz以下となるような個数とする。前述したように、1サウンドグループの時間長がステレオの場合には、11.61msecであり、その繰り返し周波数は86Hzであるので、この例では、4個〜10個の連続するサウンドグループを1ブロック群GRiとする。図1および図2の例では、1ブロック群GRiは、連続する5個のサウンドグループSGからなる。
そして、高速再生を行なう場合には、図1Bに示すように、時間的に前後の各ブロック群GRiの一部をオーバーラップさせるのであるが、そのオーバーラップ量を、その選択された速度に応じて変える。例えば、この例のように1ブロック群GRiが5個のサウンドグループからなるものであれば、ノーマル速度よりも20%高速にするには、図1Bに示すように、ブロック群GRiは、その前後のブロック群GRi-1 およびブロック群GRi+1 とそれぞれ1サウンドグループSG分のオーバーラップを行なうようにする。
なお、図1Bおよび図2Bにおいて、山形の曲線波形はウインドウ波形を示しており、これは便宜上、ロングモードの波形のみを示して連続、不連続の状態を示すようにしている。
なお、オーバーラップ量は、1サウンドグループ単位ではなく、ノーマル再生に対する速度変化に応じた1サウンドグループ以下の単位となる場合ももちろんある。すなわち、図1の例で言えば、20%以下の高速化であれば、1サウンドグループ以下の時間長のオーバーラップとなる。
この場合、各ブロック群GRiの中では、サウンドグループのデータは時間的に連続したものであるので、ノーマル再生時と同様にウインドウ処理およびオーバーラップの処理を行なうことで、ノイズを生じない再生が行なわれる。そして、ブロック群間のオーバーラップ部分で、可変速再生用の繋ぎ処理を行なうことになる。これは、ノーマル再生時とはまったく異なるウインドウ関数による処理を行なうか、あるいは可変速再生時は、それほど音質を問題にしないので、ウインドウ関数を用いたオーバーラップ部の処理を行なうのではなく、直線的にいわゆるフェードインフェードアウトのようにクロスフェードさせる簡易型の処理を行なうようにしてもよい。
次に、低速再生を行なう場合には、図2Bに示すように、各ブロック群GRiの間を、その選択された速度に応じた時間分だけ空けて再生を行なう。例えば、ノーマル速度よりも20%低速にするには、図2Bに示すように、ブロック群GRi間を1サウンドグループ分の時間、空けるようにする。20%以下の低速化であれば、ブロック群GRi間の時間空間は、1サウンドグループSGの時間長以下となる。
この低速再生の場合には、ブロック群GRi同士のオーバーラップはないので、ウインドウ処理は、ノーマル再生時のウインドウ関数のみを用いて行なうだけでよい。もっとも、時間空間を埋めるように、前後のブロック群GRiのデータをクロスフェードさせるようにしてもよい。
以上のようにすると、MDCTのウインドウが不連続となるのは、このブロック単位、つまり連続する4個のサウンドグループ以上の長さ毎に生じることになり、ノイズの発生数が1個のサウンドグループ単位で可変速再生を行なう場合に比べて少なくなる。そして、1個のサウンドグループ単位で可変速再生を行なって不連続となった場合には、約86Hzのノイズが生じるが、このように4個以上としたときには、その1/4以下である約20Hz以下のノイズとなり、人間の感知感度が低い周波数領域に、ノイズを追いやることができる。
この例の場合の音声圧縮エンコード/デコード回路33は、機能的には、図5に示すようなブロック構成となる。図5は、実施形態の再生装置の要部の構成を示すものである。
すなわち、この例において、スペクトル復元処理部50は、メモリコントローラ34よりの入力データからスペクトル信号を復元する。このスペクトル復元処理部50からは高域、中域、低域の3つの周波数帯域のデータが得られる。
そして、高域、中域、低域の各スペクトル信号は、各周波数帯域用の逆MDCT処理部51、52、53の組みと、逆MDCT処理部54、55、56の組みとに、それぞれ供給される。
逆MDCT処理部51〜56は、記録時のMDCTの逆処理を行なうもので、それぞれの帯域のスペクトル信号を周波数領域から時間領域のデータ、すなわち、時系列信号に戻してデータ伸長する処理を行なう。また、この逆変換の処理のときに、システムコントローラ20からの制御を受けて、ショートモードまたはロングモードのモードに応じたウインドウ関数を生成し、生成したウインドウ関数を掛け算する処理を行なう。つまり、隣り合う処理単位ブロックでオーバーラップする部分を、これを互いに加算するとスムースな繋がりの波形となるようにする処理を行なう。そして、さらに、そのオーバーラップ部分の加算の処理も行なう。
この場合、逆MDCT処理部51、52、53はノーマル再生用、逆MDCT処理部54、55、56は可変速再生用とされている。両者は、サウンドグループ内や連続するサウンドグループでは、同じ動作を行なう。
すなわち、ショートモードであれば、1つのサウンドグループ内において、32サンプル単位を1処理単位ブロックとして、周波数領域のデータを時間領域のデータに戻すと共に、時間領域のデータについて、各ブロック同士をオーバーラップさせて繋ぎ処理を行なう。また、ロングモードであれば、256あるいは128サンプル単位を1処理単位ブロックとして、周波数領域のデータを時間領域のデータに戻すと共に、時間領域のデータについて、隣り合うサウンドグループについて、一部をオーバーラップさせて繋ぎ合わせる処理を行なう。
なお、システムコントローラ20は、再生されたサウンドグループ単位のデータ中の識別情報をデコードし、それぞれショートモードまたはロングモードのいずれのモードで記録されているかを判別し、その判別結果に応じてそれぞれの逆MDCT処理回路51、52、53および逆MDCT処理回路54、55、56を制御する。逆MDCT処理回路51、52、53および逆MDCT処理回路54、55、56では、この制御に基づいてそれぞれのモードに応じた逆MDCTの処理を実行する。
しかし、可変速再生用の逆MDCT処理部54、55、56は、システムコントローラ20の制御を受けて、可変速再生時において不連続となる部分で、前述したような、ノーマル再生用とは異なるオーバーラップ部分の処理をする。
スイッチ回路57、58、59は、ノーマル再生時は逆MDCT処理部51、52、53からの時系列信号を選択し、可変速再生時は逆MDCT処理部54、55、56からの時系列信号を選択するもので、これらスイッチ回路57、58、59は、システムコントローラ20からの切り換え信号により切り換えられる。
帯域合成フィルタ61は、スイッチ回路58、59からの中域および低域の時系列データについて、同期をとって合成する処理を行なう。遅延回路62は、帯域合成フィルタ61での処理時間分だけ、スイッチ回路57からの高域の時系列データを遅延させる。また、帯域合成フィルタ63は、遅延回路62からの時系列データと、帯域合成フィルタ61からの中域および低域が合成された時系列データとの同期をとって合成する処理を行なう。帯域合成フィルタ63の出力が、音声圧縮エンコード/デコード回路33の再生出力データとなる。
図6は、音声圧縮エンコード/デコード回路33における再生時の処理の流れ図である。
すなわち、回路33では、まず、スペクトル信号の復元が行なわれる(ステップS1)。次に、ユーザーにより指示された再生状態は可変速再生か否か判断する(ステップS2)。可変速再生でなければ、通常の逆MDCTを行ない(ステップS3)、3つの周波数の帯域合成を行ない(ステップS8)、合成後のデータをD/Aコンバータに出力して(ステップS9)、この処理ルーチンを終了する。
また、ステップS2で可変速再生であると判断したときには、上述したように1ブロック群GRiとされる個数のサウンドグループについて、回路33の処理が終了したか否か判断する(ステップS4)。このステップS4で、いまだ、1ブロック群GRi内のサウンドグループの処理であると判断すると、ステップS3以降に進んで、ノーマル再生時と同じ逆MDCTの処理を行なう。これは、1つのブロック群GRi内では、サウンドグループは時間的に連続していて、ノーマル再生時とまったく同様の処理でよいからである。次に、3つの周波数の帯域合成を行ない(ステップS8)、D/Aコンバータに出力して(ステップS9)、この処理ルーチンを終了する。
ステップS4で、1ブロック群GRi内のすべてのサウンドグループの処理が終了したと判断したときには、次のブロック群の処理の準備を行ない(ステップS5)、その後、可変速再生用のオーバーラップ処理等の処理を行なうか否かの判断をし(ステップS6)、可変速再生用の処理を行なわないのであれば、ステップS3に移り、上述したように、通常の逆MDCTを行ない、帯域合成を行ない(ステップS8)、出力データをD/Aコンバータに出力して(ステップS9)、この処理ルーチンを終了する。
また、可変速再生用のオーバーラップ処理等を行なう場合には、ステップS6からステップS7に進み、前述したようなオーバーラップ部分の処理を行なう可変速再生用の逆MDCTを行ない、次に、ステップS8に進んで、帯域合成を行ない、出力データをD/Aコンバータに出力して(ステップS9)、この処理ルーチンを終了する。
[可変速再生の第2の例]
図7および図8は、可変速再生の第2の例を説明するための図で、図7は、ノーマル再生より高速の再生を行なう場合の例を、図8は、ノーマル再生より低速の再生を行なう場合の例を、それぞれ示している。なお、図7および図8において、山形の曲線波形はウインドウ波形を示しており、これは便宜上、ロングモードの波形のみを示して連続、不連続の状態を示すようにしている。この第2の例では、1ブロック群GRiは、4個のサウンドグループSGで構成されている。
この例の場合、例えばユーザーにより高速再生が指示されると、システムコントローラ20は、図7Aに示すように時間的に連続するディスク上のデータDA中から、その指定された速度に応じたデータ抽出を行なうように光ピックアップ4を制御する。このデータ抽出は、この例では、前述したブロック群GRi単位で行なうが、この高速再生の場合には、その速度に応じた分の個数だけ、サウンドグループSGを飛び越して、ブロック群GRiを抽出して、各ブロック群GRiを時間的に連続したものとする。
例えば、ブロック群GRiが4個のサウンドグループSGで構成されている場合に、2倍速であれば、図7Bに示すように、4個飛びの4個のサウンドグループSGを1ブロック群GRiとして順次に抽出するようにする。
また、25%の速度増加であれば、図7Cおよび図7Dに示すように、データDA中の1個飛びの4個のサウンドグループSGを1ブロック群GRiとして順次に抽出して時間的に連続するように並べるようにする。
ノーマル再生時の速度よりも遅い速度での再生は図8に示すようにして行なう。すなわち、この例の場合に、図8Aに示すように、時間的に連続するディスク上のデータDAをブロック群GRi毎に区切り、各ブロック群GRiのすべてのサウンドグループあるいは一部のサウンドグループを繰り返すようにする。例えば、1/2倍速であれば、図8Bに示すように、各ブロック群GRiのすべてのサウンドグループを2回ずつ繰り返し再生する。この場合、繰り返す同じブロック群間で不連続が生じるので、その部分はノーマル再生時とは異なるオーバーラップ処理とする。
また、例えば25%低速とするのではあれば、図8Cおよび図8Dに示すように、データDA中の2つおきのブロック群GR1、GR4、GR7、…を抽出すると共に、各ブロック群GR1、GR4、GR7、…のそれぞれを4回づつ繰り返す。つまり、この第2の実施例では、低速の速度に応じて、抽出するブロック群GRiと、その繰り返し回数とを組み合わせて、任意の低速とすることができる。
以上のようにすれば、前述の例と同様に、MDCTのウインドウが不連続となるのは、ブロック群単位、つまり連続する4個のサウンドグループ以上の長さ毎に生じることになり、ノイズの発生数が1個のサウンドグループ単位で可変速再生を行なう場合に比べて少なくなると共に、人間の感知感度が低い周波数領域に、ノイズを追いやることができる。
[可変速再生の第3の例]
この第3の例は、第2の例の発展型である。この例は、連続するデータ列DAから抽出するブロック群GRiの目標の大きさは決定しておくが、その目標の大きさから、例えば1〜3個のサウンドグループの増加、減少を許し、かつ、全体としては、目的の再生速度に応じた可変速再生を可能とするものである。
すなわち、1ブロック群GRiの目標のサウンドグループ数は例えば5個であるが、あるときに6個のサウンドグループからなるブロック群GRiが生じたときには、次のあるいは、それより後に出現するブロック群として4個のサウンドグループからなるものを生じさせるように制御して、全体として、すべて5個のサウンドグループからなるブロック群で構成した場合とまったく同様の可変速再生を行なうようにする。
このように、1ブロック群GRiの大きさの変動を許すことにより、この第3の実施例の場合には、次のような可変速再生を実施することができる。
前述したように、サウンドグループのMDCT処理は、ショートモードとロングモードとがある。ショートモードは、音の変化が激しい部分で実行されるものであるので、このショートモードの部分で時間的不連続を繋げる処理をすれば、その部分で生じるノイズは、目立たない。
そこで、この第3の例では、1ブロック群を構成するサウンドグループの少なくとも、ブロック群の両端あるいは一方の端部のサウンドグループはできるだけ、ショートモードのサウンドグループとなるようにブロック群を生成するものである。
これは、ブロック群を生成するときに、その周辺のサウンドグループを検索し、ショートモードのものがあれば、それを端部になるようにブロック群を生成する。ショートモードのサウンドグループがなければ、規定の目標数のサウンドグループ数でブロック群を生成することで実現することができる。
[可変速再生の第4の例]
この第4の例も、第3の例の発展型である。
この例の方法は、1ブロック群を構成するサウンドグループの数だけでなく、飛び飛びに抽出するブロック群の抽出の方法を可変にする方法である。
すなわち、例えば1ブロック群は4個のサウンドグループで構成するが、それを飛び飛びに抽出するときに、できるだけ、端部にショートモードのサウンドグループが来るようにする抽出する方法である。この場合、前述した第3の実施例のように1ブロック群を構成するサウンドグループの数に1〜3個の自由度を設定しておき、もし、例えば5個目にショートモードのサウンドグループのものがあれば、そのブロック群は5個のサウンドグループで構成し、他に3個のサウンドグループからなるブロック群を生成して全体のつじつまを合わせるようにする。
この例の場合には、ショートモードのサウンドグループで時間的不連続部分が繋げられる可能性が高くなり、ノイズの聴感上のさらなる低減を図ることができる。
なお、以上の例は、圧縮方式がMDCTの場合であるが、処理単位ブロック間のオーバーラップ処理を行なうオーディオデータの圧縮方式であれば、MDCTに限らず、この発明は適用可能である。
20…システムコントローラ、33…音声圧縮エンコード/デコード回路、50…スペクトル信号復元処理部、51〜53…ノーマル再生用の逆MDCT処理部、54〜57…可変速再生用の逆MDCT処理部、61、63…帯域合成フィルタ