JP3829501B2 - 複合半透膜およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状混合物の選択分離、特に低塩濃度水溶液中の電解質除去に有用な複合半透膜およびその製造方法、および多段式逆浸透膜処理方法による造水方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる超薄膜層を微多孔性支持膜上に被覆してなる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い逆浸透膜として注目されている。多官能芳香族アミンと多官能酸ハロゲン化物とを界面重縮合させて複合膜を製造する方法は、たとえば、特開昭55−147106号公報、特開昭61−42302号公報、特開昭61−42308号公報、特開昭62−121603号公報、特開昭62−258705号公報、特開昭63−100906号公報に記載されている。
【0003】
また、4級化窒素原子を有する重合体を用いた半透膜はイオン交換膜や限外濾過膜などに用いられており、また、逆浸透膜については、特開昭63−151303号公報、特開平4−94726号公報などに記載がある。
【0004】
また、架橋ポリアミド膜の低濃度領域における陽イオン除去性能を向上させる方法として4級アンモニウム塩を膜に接触させる処理方法が提案されている(特開平2−2827号公報)が、この方法では、4級アンモニウム塩が静電的な力で膜面に付着し、一時的に性能が向上するものの、長時間にわたって運転を続けると徐々に4級アンモニウム塩がはずれ、もとの性能に戻ってしまう。また、この処理方法では膜の造水量が低下するという欠点がある。
【0005】
また、特開平4−94726号公報に記載の複合半透膜は、4級化窒素原子を有する基が共有結合によって膜に導入されていることから、かかる長時間運転によっても4級化窒素原子を有する基がはずれることなく、高い低濃度陽イオン除去性能を維持することができ、また、造水量も低下せず、逆に4級化窒素原子を有する基の導入により高造水量化できるが、実ラインなどにおいては、殺菌剤や洗浄剤などに接触すると膜のカチオン性が低下し透過液の水質が低下する欠点がある。
【0006】
また、通常の超純水製造方法においては、逆浸透膜装置よりあとに再生型イオン交換樹脂塔を設置し、さらに非再生型イオン交換樹脂塔設置することが多いが、一般に、3MΩ・cm以上の比抵抗値を有する高純度水が安定的に得られれば、かかる再生型イオン交換樹脂塔を用いる必要がなくなり、イオン交換樹脂の再生に伴う水質の不安定化や再生液の処理などの問題を排除することができるとされている。
【0007】
しかしながら、上記の架橋ポリアミドからなる超薄膜層を微多孔性支持膜上に被覆してなる複合半透膜の性能は水溶液中の電解質濃度に依存し、電解質濃度が数ppm以下という低濃度領域においては電解質除去性能が低下し、特に、pH8以上のアルカリ性条件下における低濃度電解質除去性能は実用上不十分なものである。本発明者らは、かかる低濃度領域におけるこれらの膜の電解質除去性能低下の原因について鋭意検討を行なった結果、低濃度領域においては、陰イオンの除去性能はほとんど低下しないにもかかわらず、特に、原水pHが8以上になるとpHが高くなるにつれて陽イオン除去性能が著しく低下することを見出だした。
【0008】
また、通常の超純水製造プロセスでは逆浸透膜装置の後段に再生型イオン交換樹脂塔が設置されているが、近年、再生型イオン交換樹脂塔からのTOC溶出が問題視され始め、また、再生工程の省略という面からも、かかる再生型イオン交換樹脂塔を用いなくてすむプロセスの開発が望まれており、これが多段式逆浸透膜処理方法の究極の目標となっている。
【0009】
また、4級化窒素原子を有する従来の半透膜は、陽イオン性物質の選択的除去性能は比較的優れているが、陰イオン性物質の除去性能や、低分子量物質の除去性能が低いなど、実用的な逆浸透膜に要求される高透過性、高選択分離性、洗浄剤や殺菌剤などの薬品に対する耐久性を実用上十分に満足するものではなかった。ラインの洗浄や殺菌などにおいても性能低下を起こさない実用上十分な耐薬品性を有する半透膜が望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる架橋ポリアミドからなる超薄膜層を微多孔性支持膜上に被覆してなる複合半透膜の陽イオン除去性能を向上させ、電解質濃度依存性やpH依存性の小さい、低濃度領域においても実用上十分な電解質除去性能を有するとともに、複合半透膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、このような低濃度電解質除去性能に優れた膜を用いた多段式逆浸透膜処理方法による造水方法により、後段に設置されるイオン交換樹脂の負荷を軽減する、あるいは後段に再生型イオン交換樹脂を必要としない程度の高純度水を得ることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成からなる。
【0014】
すなわち、本発明は微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを有する超薄膜層を配した複合半透膜であって、前記超薄膜層が少なくとも2つの共有結合によって膜に導入された4級化窒素原子を含んでいる複合半透膜である。
【0015】
さらに、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを有する超薄膜層を形成し、前記架橋ポリアミドに、4級化窒素原子を有し、かつ、前記架橋ポリアミドに対して少なくとも2個の反応性の官能基を有する化合物を反応させる複合半透膜の製造方法であってもよい。
【0016】
ここで、反応性の官能基がエポキシ基であることも好ましい。
【0017】
さらに、上記の複合半透膜を有している複合半透膜エレメントも好ましい。
【0018】
また、複合半透膜エレメントを多段に設けてなる流体分離システムであって、原水流れ方向において少なくとも後段に位置するエレメントに上記の複合半透膜エレメントを配置している流体分離システムも好ましい。
【0019】
また、上記の複合半透膜が逆浸透膜である流体分離システムも好ましい。
【0020】
さらに上記の流体分離システムを用いる造水方法も好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の複合半透膜は、実質的に分離性能を有する超薄膜層が、実質的に分離性能を有さない微多孔性支持膜上に設けられており、この超薄膜層は、架橋ポリアミドを主成分としてなる。
【0022】
架橋ポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合によりその骨格が形成され、かつ、分子鎖内に4級化窒素原子を含んでいるものである。
【0023】
多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個のアミノ基を有するアミンをいい、後述する多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により本発明の複合半透膜の超薄膜層を形成する架橋ポリアミド骨格の原料となる。かかる多官能アミンとしては、たとえば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、エチレンジアミンを用いることができるが、膜の選択分離性や透過性や耐熱性を考慮すると多官能芳香族アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。これらのアミンは、それぞれ単独で用いることもできるが、2種類以上を混合して用いてもよく、特に、1,3,5−トリアミノベンゼンとm−フェニレンジアミンを混合して用いると、透過性や選択分離性に特に優れた膜が得られる。
【0024】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいい、上記多官能アミンとの界面重縮合反応により架橋ポリアミド骨格を与えるものである。多官能酸ハロゲン化物としては、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、1,3−ベンゼンジカルボン酸、1,4−ベンゼンジカルボン酸などの脂環式または芳香族の酸ハロゲン化物が好適に用いることができる。
【0025】
多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は、多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。以上のことから、多官能酸ハロゲン化物は1,3,5−ベンゼントリカルボン酸塩化物、1,3−ベンゼンジカルボン酸塩化物、1,4−ベンゼンジカルボン酸塩化物を単独あるいは混合して用いることが好ましい。
【0026】
架橋ポリアミドに4級化窒素原子を導入する方法としては、たとえば、4級化窒素原子を有する多官能アミンを多官能酸ハロゲン化物と反応させて架橋ポリアミドを形成させる方法や、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応によって形成された架橋ポリアミド中に残存するアミン末端を、ハロゲン化アルキルで4級化する方法や、4級化窒素原子を有し、かつ、架橋ポリアミドに対して反応性の官能基を有する化合物を架橋ポリアミドと反応させる方法を用いることができる。中でも、膜性能を大きく低下させることなく、簡便に4級化窒素原子を導入する方法としては、4級化窒素原子を有し、かつ、架橋ポリアミドに対して少なくとも2個の反応性の官能基を有する化合物を架橋ポリアミドと反応させる方法を用いることが好ましい。かかる反応性の官能基としては、エポキシ基、アジリジン基、エピスルフィド基、ハロゲン化アルキル基、アミノ基、カルボン酸基、ハロゲン化カルボニル基、ヒドロキシ基などをあげることができ、これらを同種あるいは異種組み合わせて用いる。中でも、エポキシ基は入手が容易であるなどの観点から好ましい。
【0027】
ここでいう4級化窒素原子とは、
【化1】
(ただし、R1 、R2 、R3 、はそれぞれ独立に置換もしくは非置換の脂肪族基または芳香族基を表わし、Xはハロゲンイオン、水酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオンなどの陰イオンを表わす。)
に示される基に含まれている窒素原子のことである。なお、以後、上記4級化窒素原子を有する基を
【化2】
の記号で表わす。
【0028】
4級化窒素原子を有し、かつ、エポキシ基を有する化合物としては、
【化3】
(ただし、R4 、R5 、R6 、はそれぞれ独立に水素原子、または、置換もしくは非置換の脂肪族基または芳香族基を表わし、n、mは0以上の整数を表わす。)で表わされるエポキシ化合物がある。架橋ポリアミドに対する反応性、得られた膜の性能、入手の容易さを考慮すると、好ましいエポキシ化合物としてヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドをあげることができる。
【0029】
4級化窒素原子を有し、かつ、アジリジン基を有する化合物としては、
【化4】
(ただし、R4 、R5 、R6 、R8 、はそれぞれ独立に水素原子、または、置換もしくは非置換の脂肪族基または芳香族基を表わし、nは0以上の整数を表わす。)で表わされるアジリジン化合物がある。
【0030】
4級化窒素原子を有し、かつ、エピスルフィド基を有する化合物としては、
【化5】
(ただし、R4 、R5 、R6 はそれぞれ独立に水素原子、または、置換もしくは非置換の脂肪族基または芳香族基を表わし、m、nは0以上の整数を表わす。)で表わされるエピスルフィド化合物がある。
【0031】
複合半透膜の超薄膜層を形成する主成分である架橋ポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合によりその骨格が形成されることから、必然的に未反応アミン末端や酸末端が存在する。上記した化合物中のエポキシ基やアジリジン基、エピスルフィド基は、架橋ポリアミドが有する末端アミノ基などにより求核攻撃を受けて開環し、架橋ポリアミドに結合する。また、ハロゲン化アルキル基は架橋ポリアミドが有する末端1級アミノ基との反応により2級アミンを与え、カルボン酸基は架橋ポリアミドが有する末端アミノ基と脱水縮合してアミド結合を形成し、ハロゲン化カルボニル基は架橋ポリアミドが有する末端アミノ基をアシル化してアミド結合を形成し、アミノ基やヒドロキシ基は架橋ポリアミドが有する末端カルボン酸基と脱水縮合してアミド結合あるいはエステル結合を形成する。したがって、これらの官能基を有し、かつ、4級化窒素原子を有する化合物を用いることにより共有結合を介して4級化窒素原子を複合半透膜に導入することができる。
【0032】
架橋ポリアミド膜は、アミン末端やカルボン酸末端を有するが、アミン末端は低pH領域でイオン的に解離して膜にカチオン荷電性を与え、カルボン酸末端は高pH領域でイオン的に解離して膜にアニオン荷電性を与える。そのため、pHによって膜の荷電性が変化し、高pH領域ではアニオン荷電性が比較的高くなり、膜と反対荷電の陽イオンの排除率が低下するものと考えられる。ところが、4級化窒素原子を有する基は、強塩基性官能基であるので、すべてのpH領域においてイオン的に解離しており、高pH領域で比較的アニオン荷電性の高い架橋ポリアミド膜にカチオン荷電性を付与する効果を有する。したがって、低濃度領域および高pH領域における電解質除去性能低下の原因となっている陽イオン除去性能は、膜のカチオン荷電性の増加にともない向上するものと推測される。
【0033】
本発明において微多孔性支持膜は、実質的には分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する超薄膜層に強度を与えるために用いられる。具体的には、均一で微細な孔、あるいは片面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもっていて、その微細孔の大きさが100nm以下であるような構造の支持膜が好ましい。上記の微多孔性支持膜は、たとえばポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛により強化されたポリスルホン微多孔性支持膜を例示することができる。このような支持膜は”オフィス・オブ・セイリーン・ウォ−ター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造できる。その素材としては、ポリスルホンや酢酸セルロースや硝酸セルロースやポリ塩化ビニルなどのホモポリマーあるいはそれらを混合したものが通常使用されるが、化学的、機械的、熱的に安定性の高い、ポリスルホンを使用するのが好ましい。
【0034】
具体的には、次に示す繰返し単位
【化6】
からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性も高いため好ましい。製造方法としては、たとえば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それをドデシル硫酸ソーダ0.5重量%およびDMF2重量%を含む水溶液中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有した微多孔性支持膜が得られる。
【0035】
次に、本複合半透膜の製造方法について説明する。
【0036】
複合半透膜を構成する実質的に分離性能を有する超薄膜層は、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、前述の多官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格が形成される。
【0037】
アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5.0重量%である。濃度が0.1重量%を下回ると反応の進行が遅くなる傾向があり、10重量%を超えると超薄膜層が厚くなり透水性が不十分となりやすい。この水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒やアルカリ性化合物や酸化防止剤などが含まれていてもよく、膜性能を損なわない範囲で水溶性ポリビニールアルコールなどの水溶性高分子化合物が含まれていてもよい。
【0038】
まず、微多孔性支持膜表面へ上記のアミン水溶液を被覆する。この被覆は、アミン水溶液が表面に均一にかつ連続的に被覆されればよく、公知の塗布手段、たとえば、微多孔性支持膜表面にコーティングする方法や微多孔性支持膜をアミン水溶液に浸漬する方法で行うことができる。
【0039】
次いで、過剰に塗布されたアミン水溶液を液切り工程により除去する。液切りの方法としては、たとえば膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法があり、液滴が残らないようにするのが好ましい。また、液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の一部を除去することもできる。
【0040】
次いで、前述の多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を被覆し、界面重縮合により架橋ポリアミド超薄膜層の骨格を形成させる。
【0041】
多官能酸ハロゲン化物は、有機溶媒に対して、0.01〜10重量%、より好ましくは0.02〜2重量%を溶解して用いるとよい。0.01重量%を下回ると反応の進行が遅くなる傾向があり、10重量%を超えると副反応が起こりやすい。さらに、この有機溶媒溶液にN,N−ジメチルホルムアミドのようなアシル化触媒などを含有させると、界面重縮合が促進され、更に好ましい。
【0042】
上記の有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ酸ハロゲン化物を溶解し微多孔性支持膜を破壊しないことが望ましく、アミノ化合物および酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであれば良い。好ましい例としては、たとえば、n−ヘキサン、n−デカンなどの炭化水素化合物やトリクロロトリフルオロエタンが挙げられるが、反応速度や溶媒の揮発性の点からはn−ヘキサン、トリクロロトリフルオロエタンが好ましい。さらに、安全上の問題を考慮するとトリクロロトリフルオロエタンを用いると好ましい。
【0043】
多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液のアミノ化合物水溶液相への接触の方法は、アミン水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。
【0044】
ついで、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液で膜表面を洗浄する。
【0045】
このようにして製造された架橋ポリアミドの超薄膜層の骨格に、4級化窒素原子を有し、かつ、架橋ポリアミドに対して少なくとも2個の反応性官能基を有する化合物(以後、4級化反応性化合物と称する)を接触させる。かかる4級化反応性化合物としては、たとえば、エポキシ基、アジリジン基、エピスルフィド基、ハロゲン化アルキル基、アミノ基、カルボン酸基、ハロゲン化カルボニル基、ヒドロキシ基からなる群から選ばれる官能基を2個以上有し、かつ、4級化窒素原子を含む化合物をあげることができる。これらの化合物は、単独で用いることもできるが、2種類以上を混合して用いてもよい。架橋ポリアミドに対する反応性や得られた膜の性能や入手の容易さを考慮すると、かかる4級化反応性化合物としてはヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドを用いることが好ましい。
【0046】
接触させる方法としては、前記の4級化反応性化合物を複合半透膜を侵さない溶媒に溶解し、この溶液を複合半透膜に塗布するか、あるいはこの溶液に複合半透膜を浸漬する方法を用いることができる。複合半透膜を侵さない溶媒とは、複合半透膜の超薄膜層骨格や微多孔性支持膜層を溶解あるいは大きく膨潤させず、膜性能を大きく損なうことのない溶媒であり、好ましい例として水やアルコールや炭化水素化合物やトリクロロトリフルオロエタンなどを挙げることができる。中でも、4級化反応性化合物の溶解性や取扱いの容易さや経済性を考慮すると、水を用いることが好ましい。
【0047】
膜の荷電量は、接触させる4級化反応性化合物の濃度によりコントロールできる。すなわち、濃度が低い場合は、膜への4級化窒素原子の導入量が少なく荷電量も少なくなり、高い場合は、膜への4級化窒素原子の導入量が多く荷電量も多くなる。膜の荷電特性を考慮すると、4級化反応性化合物の濃度は、一般的には、溶媒に対し0.1〜20重量%が好ましい。
【0048】
複合半透膜を前記の4級化反応性化合物と接触させた後、適当な時間放置することにより、4級化反応性化合物を複合半透膜と反応させる。このとき、50〜150℃で加熱処理を行なうと、反応速度が速くなり、製造に要する時間を1〜30分に短縮することができ、好ましい。また、加熱処理工程の前に過剰の4級化反応性化合物溶液を液切りなどで除去する工程や、予備乾燥工程を設けるとより好ましい。また、4級化反応性化合物を複合半透膜に接触させる際、4級化反応性化合物の溶液を50〜100℃に加熱し、これに膜を浸漬することによっても、製造に要する時間を1〜30分に短縮することができる。
【0049】
本発明にかかる複合半透膜は、所定の条件で水処理を行った時の比抵抗保持率が80%以上であることを特徴とする。ここで、比抵抗保持率とは、複合半透膜を、10ppmに調整した温度25℃の亜硫酸水素ナトリウム溶液に4時間浸漬したのち、pHを8〜10の範囲に調整した1ppm塩化ナトリウム水溶液を、膜透過流束が1m3/m2・日、温度が25℃の条件下で前記複合半透膜に供給した場合において、その透過水の比抵抗(浸漬後比抵抗、MΩ・cm)が、前記亜硫酸水素ナトリウム溶液に浸漬するまえの複合半透膜に前記塩化ナトリウム水溶液を透過させたときの透過水の比抵抗(浸漬前比抵抗、MΩ・cm)に対して保持している割合をいう。
【0050】
比抵抗保持率を80%以上とすることにより、処理水が電解質を含んでいる場合であっても、それら溶質の排除性能を維持しつつ、高い透水性を達成することができる。ここで、前記透過水の浸漬後比抵抗が3MΩ・cm以上であると、たとえば再生型イオン交換樹脂塔を用いる必要がなくなるといった利点を有し好ましい。
【0051】
本発明にかかる複合半透膜は、通常所望の容器に収納して複合半透膜エレメントとして使用する。このようなエレメントは、低塩濃度水溶液の脱塩に好適に用いることができ、特に、多段式逆浸透膜処理装置において、後段への供給水が、炭酸を含み、ナトリウムイオン濃度が1ppm以下である場合の後段の逆浸透膜装置に好適に用いることができる。
【0052】
逆浸透膜を用いることによる経済性を考慮すると、膜透過流束が1m3 /m2・日になるような圧力は30kg/cm2以下であることが好ましい。一方、多段式逆浸透膜処理方法により炭酸を含んだ原水を処理する際、効率よく炭酸を除去するためには少なくとも後段の逆浸透膜への供給水のpHを8〜10、好ましくは、8.5〜9.5に調整し、運転することが好ましい。従来の複合半透膜を用いた場合は、供給水のpHが8〜10のとき、炭酸は効率よく除去することができても透過水中の陽イオン濃度が増大し、透過水中の全電解質濃度が増大するため実用的ではない。そのため、かかる従来の複合半透膜を用いた場合、透過水中の全電解質濃度を最小にするためにはpH8以下での運転が必要となるが、pH8以下では効率よく炭酸を除去することができない。ところが、本願発明の複合半透膜を用いた場合、上記多段式逆浸透膜処理方法において後段の逆浸透膜への供給水pHが8〜10の範囲において、低濃度陽イオンが良好に除去されるため、pH8〜10での運転が可能となり、そのため、炭酸も効率よく除去され、透過水中の全電解質濃度を低減することができる。
【0053】
次に、本願発明の複合半透膜エレメントを用いた多段式逆浸透膜処理方法による造水方法について説明する。
【0054】
本発明による多段式逆浸透膜処理方法による造水は、炭酸を含む原水にアルカリを添加し、次いでこのアルカリ添加水を前段の逆浸透膜装置で処理して一次透過水を得、次いでこの一次透過水を処理水の流れ方向の下流側である後段の逆浸透膜装置で処理して高純度水である二次透過水を得ることにより行う。なお、アルカリの添加は一次透過水に添加してもよい。
【0055】
ここで、本願発明の複合半透膜エレメントは後段の逆浸透膜装置に用いられることが好ましい。本願発明のような低濃度電解質除去性能に優れた逆浸透膜エレメントは、前段あるいは後段の逆浸透膜装置のいずれに用いても効果は得られるが、前段では比較的電解質濃度が高い原水を処理するため、従来膜と比較して効果がさほど顕著には現れないことが多く、後段の逆浸透膜装置に用いた方が好ましい。
【0056】
また、硬度成分を有する水を原水とする場合は、逆浸透膜面でのスケール析出防止のために、脱炭酸装置を設けたり、スケール防止剤や酸を添加したりする工程を加えてもよい。さらに、多段式逆浸透膜処理方法の概念を逸脱しない範囲において、溶存ガスを脱気したり、殺菌剤を注入したり、殺菌剤を除去したりする工程など、公知の多段式逆浸透膜処理方法で用いられている他の水処理工程が含まれていてもよい。また、本多段式逆浸透膜処理方法により効率よく炭酸を除去し、かつ、得られた高純度水中の全電解質濃度を最小にするためには、添加するアルカリの量を調整し、一次透過水のpHが8〜10、より好ましくは8.5〜9.5になるように調整するのが好ましい。
【0057】
【実施例】
以下、実施例および比較例においては、被処理水として滋賀県琵琶湖の水を用いた。
【0058】
また、排除率は次式により求めた。
【0059】
【数1】
また、膜透過流束(m3 /m2・日)は膜面積1平方メートル当り、1日の透水量(立方メートル)から求めた。
【0060】
(評価法1)
複合半透膜の標準性能は以下の方法により求めた。
【0061】
pH6.5に調整した1,500ppm塩化ナトリウム水溶液を、10kg/cm2、25℃の条件下で複合半透膜に供給して逆浸透テストを行ない、単位時間あたりの透過水量と、透過水中に含まれる塩化ナトリウム濃度から膜透過流束(m3 /m2・日)と塩化ナトリウム排除率(%)をそれぞれ求めた。
【0062】
(評価法2)
複合半透膜の2段式逆浸透膜処理方法後段膜としての膜性能は以下の方法で求めた。
【0063】
被処理水に水酸化ナトリウムを加えてこれを1段目供給水とし、東レ製逆浸透膜エレメントSU−710に供給して逆浸透処理を行ない、その透過水を2段目供給水として10kg/cm2、25℃の条件下で複合半透膜に供給し、2段目透過水の比抵抗(MΩ・cm)と、含まれるナトリウムイオン濃度を測定し、ナトリウムイオン排除率(%)を求めた。また、単位時間あたりの透過水量から膜透過流束(m3 /m2・日)を求めた。
【0064】
(評価法3)
複合半透膜の耐亜硫酸水素ナトリウム性の指標である比抵抗保持率(%)およびナトリウムイオン排除率(%)は以下の方法により求めた。
【0065】
複合半透膜を、10ppmに調整した温度25℃の亜硫酸水素ナトリウム溶液に4時間浸漬したのち、pHを8〜10の範囲に調整した1ppm塩化ナトリウム水溶液を、膜透過流束が1m3/m2・日、温度が25℃の条件下で前記複合半透膜に供給して逆浸透テストを行ない、ナトリウムイオン濃度からナトリウムイオン排除率(%)を求めた。また、比抵抗保持率(%)については、上記透過水の比抵抗(浸漬後比抵抗、MΩ・cm)を用いて次式にて算出した。
【0066】
(式中、浸漬前比抵抗とは前記亜硫酸水素ナトリウム溶液に浸漬するまえの複合半透膜に、前記塩化ナトリウム水溶液を透過させたときの透過水の比抵抗をいう。)
【数2】
また、実施例および比較例においては、下記の方法を用いて超薄膜層を形成し、その後の処理に供した。
【0067】
ポリエステル繊維からなるタフタ(縦糸、横糸とも150デニールのマルチフィラメント糸を用いた。織密度は縦90本/インチ、横67本/インチ、厚さ160μ)上にポリスルホンの15重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を200μの厚みで室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜(以下FR−PS支持膜と略す)を作製した。このようにして得られたFR−PS支持膜(厚さ210〜215μm)に、1,3,5−トリアミノベンゼン1重量%とm−フェニレンジアミン1重量%とを含むアミン水溶液中に1分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引上げ、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸塩化物0.05重量%と1,4−ベンゼンジカルボン酸塩化物0.05重量%とを含むオクタン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。つぎに、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去した後、炭酸ナトリウムの1重量%水溶液で洗浄した。
【0068】
(実施例1)
上記の方法により得られた超薄膜層を、ヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドの3重量%水溶液に5分間浸漬した後、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、80℃で20分間乾燥機中で熱処理し、水洗した。評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
上記の方法により得られた超薄膜層を、ヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドの3重量%水溶液に1分間浸漬した後、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、110℃で2分間乾燥機中で熱処理し、水洗した。評価結果を表1に示す。
【0070】
また、本実施例で得られた複合半透膜を、1ppm塩化ナトリウム水溶液を原水とし、10kg/cm2、25℃の条件下で逆浸透テストした結果、原水pH8、9、10において、それぞれ、ナトリウムイオン排除率は97.9%、98.5%、99.3%、塩素イオン排除率は95.7%、98.8%、99.1%の膜性能が得られ、膜透過流束は1.0m3 /m2・日であった。
【0071】
さらに、本実施例で得られた複合半透膜を用いて逆浸透膜エレメントを作成し、この逆浸透膜エレメントを2段目逆浸透膜エレメントとする2段式逆浸透膜処理方法により被処理水の処理を以下の方法で行ない、高純度水の製造を行なった。被処理水に水酸化ナトリウムを加えてこれを1段目供給水とし、15kg/cm2、25℃の条件下でイオン除去性能を有する逆浸透膜エレメント(たとえばSU−710/東レ(株)製、NTR−759/日東電工(株)製など)に供給して逆浸透処理を行ない、その透過水を2段目供給水として10kg/cm2、25℃の条件下で2段目逆浸透膜エレメントに供給した。製造された高純度水の水質は、2段目供給水のpHが高くなるとともに向上し、pH9のときイオン交換樹脂の負荷となるイオン濃度が最低となり、水素イオンと水酸イオンを除く全イオン濃度は1.6×10-6mol/lであった。また、このとき、製造された高純度水の比抵抗値は7.5MΩ・cmであった。
【0072】
(実施例3)
上記の方法により得られた超薄膜層を、80℃に加熱したヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライド10重量%水溶液に10分間浸漬した後、水洗した。評価結果を表1に示す。
【0073】
【比較例】
(比較例1)
実施例1で用いたヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドをグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドに変更した以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。評価結果を表2に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例2で用いたヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドをグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドに変更した以外は、実施例2と同様にして複合半透膜を作製した。評価結果を表2に示す。
【0075】
(比較例3)
実施例3で用いたヘキサメチレンビス(グリシジルジメチルアンモニウム)ジクロライドをグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドに変更した以外は、実施例3と同様にして複合半透膜を作製した。評価結果を表2に示す。
【0076】
【表1】
【表2】
【0077】
【発明の効果】
本発明によれば、複合半透膜が4級化窒素を含んでいるので、低濃度領域においても陽イオン排除率が高く、かつ洗浄剤や殺菌剤などに対する耐薬品性に優れた複合半透膜およびその製造方法を提供することができ、特に、アルカリ性条件下においても低濃度陽イオン排除率の高い複合半透膜およびその製造方法を提供することができる。
【0078】
また、炭酸を含んだ水をこの複合半透膜で処理する際、より高pH領域での運転が可能となり、効率よく炭酸を除去することができ、透過水中に含まれる全電解質濃度を低減することができる。
【0079】
さらに、本発明により架橋ポリアミド系複合逆浸透膜の造水量を飛躍的に向上させることができる。
【0080】
また、本発明の多段式逆浸透膜処理方法による造水方法によれば、高い比抵抗値を有する高純度水を安定的に得ることができ、かかる再生型イオン交換樹脂塔を用いる必要がなくなるという利点を有するとともに超純水製造装置の保守・点検において洗浄剤や殺菌剤などを使用しても高純度水の水質低下を最低限に抑えることができる。
【0081】
さらに、再生型イオン交換樹脂塔を用いた場合でも、その再生頻度を低減することができ、経済的な利点が大きいだけでなく水質の安定化を図ることができる。
【0082】
また、本発明の複合半透膜において、4級化窒素原子を有する基が2ヶ所以上の共有結合によって膜に導入されている場合は、長時間運転によっても4級化窒素原子を有する基がはずれることなく、溶質濃度が低い場合であっても、高い陽イオン除去性能を維持することができる。
Claims (7)
- 微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを有する超薄膜層を配した複合半透膜であって、前記超薄膜層が少なくとも2つの共有結合によって膜に導入された4級化窒素原子を含んでいることを特徴とする複合半透膜。
- 微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを有する超薄膜層を形成し、前記架橋ポリアミドに、4級化窒素原子を有し、かつ、前記架橋ポリアミドに対して少なくとも2個の反応性の官能基を有する化合物を反応させることを特徴とする複合半透膜の製造方法。
- 反応性の官能基がエポキシ基である、請求項2に記載の複合半透膜の製造方法。
- 請求項1に記載の複合半透膜を有していることを特徴とする複合半透膜エレメント。
- 複合半透膜エレメントを多段に設けてなる流体分離システムであって、原水流れ方向において少なくとも後段に位置するエレメントに請求項4に記載の複合半透膜エレメントを配置していることを特徴とする流体分離システム。
- 複合半透膜が逆浸透膜である、請求項5に記載の流体分離システム。
- 請求項5または6に記載の流体分離システムを用いることを特徴とする造水方法。
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