JP3828720B2 - 成形性の優れた鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車のパネル類、足廻り、メンバーなどに用いられる鋼管およびその製造方法に関するものである。特にハイドロフォーム成形(特開平10−175027号公報参照)の用途に好適である。
本発明の鋼管は、表面処理をしないものと、防錆のために溶融亜鉛めっき、電気めっきなどの表面処理を施したものの両方を含む。亜鉛めっきとは、純亜鉛のほか、主成分が亜鉛である合金のめっきも含む。
本発明による鋼管は、特に軸押し力の働くハイドロフォーム成形性に極めて優れており、ハイドロフォーム成形時の自動車用部品の製造効率を向上させることができる。さらに、本発明は高強度鋼管にも適用できるため部品の板厚を低減させることが可能となり、地球環境保全に寄与できるものと考えられる。
【0002】
【従来の技術】
自動車の軽量化ニーズに伴い、鋼板の高強度化が望まれている。高強度化することで板厚減少による軽量化や衝突時の安全性向上が可能となる。また最近では、複雑な形状の部位について、高強度鋼の鋼管からハイドロフォーム法を用いて成形加工する試みが行われている。これは、自動車の軽量化や低コスト化のニーズに伴い、部品数の減少や溶接フランジ箇所の削減などを狙ったものである。
【0003】
このように、ハイドロフォームなどの新しい成形加工方法が実際に採用されれば、コストの削減や設計の自由度が拡大されるなどの大きなメリットが期待される。このようなハイドロフォーム成形のメリットを充分に生かすためには、これらの新しい成形法に適した材料が必要となる。本発明者らは特願2000−52574号により、集合組織を制御した成形性に優れた鋼管について提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
地球環境問題がますます深刻となる中、ハイドロフォーム成形に対してこれまで以上に高強度の鋼管への要求が高まることは必至と考えられるが、その際に成形性が従来以上に問題となってくることは間違いない。
本発明は、より一層成形性の良好な鋼管およびそれを高いコストをかけることなく製造する技術を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ハイドロフォーム等の成形性に優れた材料の集合組織およびその制御方法を見出し、これを限定することで、ハイドロフォーム等の成形性に優れた鋼管を提供するものである。
即ち、本発明の要旨とするところは次の通りである。
(1) 質量%で、
C :0.0005〜0.50%、 Si:0.001〜2.5%、
P :0.001〜0.2%、 S :0.05%以下、
N :0.01%以下、
Al,ZrおよびMgの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%、
さらに、Mn,TiおよびNbのうち1種または2種以上をMn:3.0%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.15%以下で、かつ0.5≦(Mn+13Ti+29Nb)≦5を満たす範囲で含有し、
残部が鉄及び不可避的不純物からなり、鋼板の1/2板厚における板面の{111}<110>方位のX線ランダム強度比が5.0以上で、かつ鋼板の1/2板厚における板面の{111}<112>方位のX線ランダム強度比が2.0未満であることを特徴とする成形性の優れた鋼管。
(2) 鋼管の軸方向、円周方向および45゜方向のr値が全て1.4以上であることを特徴とする上記(1)に記載の成形性の優れた鋼管。
(3) さらに質量%で、Vを0.001〜0.2%含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の成形性の優れた鋼管。
(4) さらに質量%で、Bを0.0001〜0.01%含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の成形性の優れた鋼管。
(5) さらに質量%で、Sn,Cr,Cu,Ni,Co,WおよびMoの1種又は2種以上を合計で0.001〜2.5%含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の成形性の優れた鋼管。
(6) さらに質量%で、Caを0.0001〜0.01%含むことを特徴とする上記 (1)〜(5)のいずれか1項に記載の成形性の優れた鋼管。
【0006】
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の鋼管を得るにあたり、縮径加工に供するに際して、一旦Ac3 変態点以上に加熱し、Ar3 変態点以上の温度域で縮径率40%以上となるように縮径加工を行い、Ar3 変態点以上で縮径加工を完了し、縮径加工完了から5秒以内に冷却を開始し、5℃/s以上の速度で(Ar3 変態点−100)℃以下まで冷却することを特徴とする成形性の優れた鋼管の製造方法。
(8) 上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の鋼管を得るにあたり、縮径加工に供するに際して、一旦Ac3 変態点以上に加熱し、Ar3 変態点以上の温度域で縮径率40%以上となるように縮径加工を行い、引き続きAr3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃の温度域での縮径率10%以上となるように縮径加工を行い,Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃で縮径加工を完了することを特徴とする成形性の優れた鋼管の製造方法。
(9) 母管に対する縮径加工後の鋼管の板厚変化率が+10%〜−10%となる縮径加工を施すことを特徴とする上記(7)または(8)に記載の成形性の優れた鋼管の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
まず、上記(1)の要件について説明する。成分含有量は質量%である。
C:高強度化に有効で0.0005%以上の添加とするが、集合組織を制御する上では過度の添加は好ましいものではなく、上限を0.50%とする。0.001〜0.3%がより好ましく、0.002〜0.2%がさらに好ましい範囲である。
【0008】
Si:安価に機械的強度を高めることが可能であり、要求される強度レベルに応じて添加すれば良いが、過剰の添加はメッキのぬれ性や加工性の劣化を招くばかりか良好な集合組織形成を阻害するので、上限を2.5%とした。下限を0.001%としたのは、これ未満とするのは製鋼技術上困難なためである。
【0009】
P:高強度化に有効な元素であるので0.001以上添加する。0.2%超添加すると熱間圧延や縮径加工時に欠陥が発生したり、成形性が劣化したりするので、0.2%を上限とする。
【0010】
S:不純物であり低いほど好ましく、熱間割れを防止するために0.05%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
【0011】
N:不純物であり低いほど好ましく、加工性を劣化させるため上限を0.01%以下とする。0.005%以下がより好ましい範囲である。
【0012】
Mn,Ti,Nb:本発明において重要である。Mn,Ti,Nbはγ域での縮径加工を行った際に、γ相の再結晶を抑制したり、変態中のバリアント選択に好ましい影響を与え、集合組織を改善する効果を有するので、それぞれ3.0%、0.2%および0.15%を上限とし、1種または2種以上添加する。
これらの上限を超えて添加しても集合組織を改善する効果は飽和するだけでなく、延性の低下を招くことがある。
さらにMn,Ti,Nbは0.5≦(Mn+13Ti+29Nb)≦5を満たす範囲で添加せねばならない。Mn+13Ti+29Nbが0.5未満では集合組織の改善効果は小さい。一方、Mn+13Ti+29Nbを5を超えて添加しても、集合組織の改善効果は小さく、鋼管が極度に硬質化して延性を損なうので、5を上限とする。1〜4がより好ましい範囲である。
【0013】
Al,Zr,Mg:脱酸元素として有効である。一方、過剰の添加は酸化物、硫化物や窒化物の多量の晶出や析出を招き清浄度が劣化して、延性を低下させてしまう上、メッキ性を損なう。したがって、これらの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.50%とする。
【0014】
鋼板の1/2板厚での板面の{111}<110>および{111}<112>のX線ランダム強度比:本発明において重要な特性値である。
板厚中心位置での板面のX線回折を行い、ランダム試料に対する各方位の強度比を求めたときの、{111}<110>方位の強度比が5.0以上、かつ{111}<112>は2.0未満であることが必要である。
【0015】
{111}<112>方位は、ハイドフォーム成形に対して好ましい方位であるが、通常の高r値冷延鋼板の代表的な結晶方位であるので、区別する意味であえて2.0未満とした。また、低炭素冷延鋼板を箱焼鈍して得られる集合組織は{111}<110>が主方位で、{111}<112>が副方位となるため、本発明の集合組織の特徴と類似するが、この場合でも{111}<112>は2.0以上の強度比となるので、本発明の鋼管とは明瞭に区別される。
{111}<110>が7.0以上、{111}<112>が1.0未満であればより好ましい。
【0016】
{111}<112>と同様に、{554}<225>も高r値冷延鋼板の主方位であるが、本発明の鋼管にはほとんど存在せず、その強度は2.0未満、さらに好ましくは1.0未満である。これらの各方位のX線ランダム強度比は{110}極点図よりベクトル法により計算した3次元集合組織や、{110}, {100},{211},{310}極点図のうち複数の極点図を基に級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。
例えば、後者の方法によって各結晶方位のX線ランダム強度比を求めるには、3次元集合組織のφ2=45°断面における(111)[1−10]、(111)[1−21]、(554)[−2−25]の強度で代表させる。
【0017】
なお、本発明の集合組織は通常の場合、φ2=45°断面において(111)[1−10]方位に最高強度を有し、この方位群から離れるにしたがって徐々に強度レベルが低下するが、X線の測定精度の問題や鋼管製造時の軸周りのねじれの問題、X線試料作製の精度の問題などを考慮すると、最高強度を示す方位がこれらの方位群から±5°程度ずれる場合も有りうる。
【0018】
さらに{001}<110>の強度は特に限定しないが、2.0以下であることが好ましい。これらは軸方向のr値を低下せしめる方位だからである。より好ましくは1.0以下である。その他の方位、例えば{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>などの強度も特に限定しないが、これらも軸方向のr値を低下させるので、それぞれ2.0以下であることが好ましい。
【0019】
{001}<110>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>のX線ランダム強度比とは、3次元集合組織のφ2=45°断面における、(001)[1−10]、(116)[1−10]、(114) [1−10]、(113)[1−10]で代表させれば良い。
【0020】
鋼管のX線回折を行う場合には、鋼管より弧状試験片を切り出し、これをプレスして平板としX線解析を行う。また、弧状試験片から平板とするときは、試験片加工による結晶回転の影響を避けるため極力低歪みで行うものとし、加工により導入される歪み量の上限を10%以下で行うこととした。
【0021】
このようにして得られた板状の試料について、機械研磨や化学研磨などによって板厚中心付近まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、電解研磨や化学研磨によって歪みを除去すると同時に、板厚中心層が測定面となるように調整する。なお、鋼板の板厚中心層に偏析帯が認められる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で偏析帯のない場所について測定すればよい。さらにX線測定が困難な場合には、EBSP法やECP法により測定しても差し支えない。
【0022】
本発明の集合組織は、上述の通り板厚中心または板厚中心近傍の面におけるX線測定結果により規定されるが、中心付近以外の板厚においても同様の集合組織を有することが好ましい。しかしながら鋼管の外側表面〜板厚1/4程度までは、後述する縮径加工によるせん断変形に起因して集合組織が変化し、上記の集合組織の要件を満たさない場合もあり得る。
なお、{hkl}<uvw>とは、上述の方法でX線用試料を採取したとき、板面に垂直な方向が<hkl>で、鋼管の長手方向が<uvw>であることを意味する。
【0023】
本発明の集合組織に関する特徴は、通常の逆極点図や正極点図だけでは表すことができないが、例えば鋼管の半径方向の方位を表す逆極点図を板厚の中心付近に関して測定した場合、各方位のX線ランダム強度比は以下のようになることが好ましい。
<100>:1.5以下、<411>:1.5以下、<211>:3以下、<111>:6以上、<332>:10以下、<221>:7以下、<110>:5以下。
また、軸方向を表す逆極点図においては、
<110>:15以上、<110>以外の全ての方位:3以下。
【0024】
次に上記(2)の要件について説明する。
鋼管の軸方向のr値、円周方向のr値、軸方向と円周方向のちょうど中間の45゜方向のr値が全て1.4以上となる。軸方向のr値は2.5を超える場合もある。r値の異方性については特に限定するものではないが、本発明では軸方向のr値が円周方向や45゜方向のr値よりもやや大きい。しかしながらその差は1.0以下である。なお、例えば高r値冷延鋼板を単に電縫溶接により鋼管とした場合、板取りによっては軸方向のr値が1.4以上となる場合がある。しかしながら、本発明は既述の集合組織を有する点において、そのような鋼管とは明瞭に区別されるものである。
【0025】
r値の評価は、JIS11号管状試験片またはJIS12号弧状試験片によって行えば良い。なお、鋼管から弧状試験片を切り出し、プレス等によって平らにして、JIS13号板状試験片としr値を評価すると、弧状試験片よりもr値が高くなる傾向にある。したがって板状試験片で評価したときのr値は1.7以上となる。そのときの歪量は伸び率15%で評価するが、均一伸びが15%未満のときには、均一伸びの範囲内の歪量で評価する。なお、試験片はシーム部以外から試料を採取することが望ましい。
【0027】
続いて上記(3)〜(6)の要件について説明する。
V:必要に応じて添加する。Vは、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって鋼材を高強度化したり加工性を向上することができるばかりでなく、集合組織形成にも好ましいので、0.001%以上添加する。その合計が0.2%を超えた場合には、母相であるフェライト粒内もしくは粒界に多量の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出して、延性を低下させることから、添加範囲を0.001〜0.2%とした。より好ましくは0.01〜0.06%である。
【0028】
B:必要に応じて添加する。BもMn,TiおよびNbと同様にγ域での再結晶を抑制したり、γ→α変態のバリアント選択に影響することを通じて集合組織形成に好ましい影響を与える。またBは、粒界の強化や鋼材の高強度化に有効である。しかし、その添加量が0.01%を超えるとそれら効果が飽和するばかりでなく、必要以上に鋼板強度を上昇させ、加工性も低下させることから、0.0001〜0.01%とした。好ましくは0.0003〜0.003%である。
【0029】
Ni,Cr,Cu,Co,Mo,W,Sn:これらは強化元素であり、必要に応じて1種又は2種以上を合計で0.001%以上添加する。また、過剰の添加はコストアップや延性の低下を招くことから、2.5%以下とした。
【0030】
Ca:介在物制御のほか脱酸に有効な元素で、適量の添加は熱間加工性を向上させるが、過剰の添加は逆に熱間脆化を助長させるため、必要に応じて0.0001〜0.01%の範囲とした。
【0031】
また、不可避的不純物として、O,Zn,Pb,As,Sbなどをそれぞれ0.01%以下の範囲で含んでも、本発明の効果を失するものではない。
【0032】
さらに製造にあたっては、高炉、電炉等による溶製に続き各種の2次製錬を行いインゴット鋳造や連続鋳造を行い、連続鋳造の場合には室温付近まで冷却することなく熱間圧延するCC−DRなどの製造方法を組み合わせて製造してもかまわない。鋳造インゴットや鋳造スラブを再加熱して熱間圧延を行っても良いのは言うまでもない。熱間圧延の加熱温度は特に限定するものではなく、目的とする仕上げ温度を具現化するのに適切な温度であれば良い。
【0033】
熱延の仕上げ温度は通常のγ単相域のほかα+γ2相域やα単相域、α+パーライト、α+セメンタイトのいずれの温度域で行っても良い。熱間圧延の1パス以上について潤滑を施しても良い。また、粗圧延バーを互いに接合し、連続的に仕上げ熱延を行っても良い。粗圧延バーは一度巻き取っても再度巻き戻してから仕上げ熱延に供してもかまわない。熱延後の冷却速度や巻き取り温度は特に限定するものではない。熱間圧延後は酸洗することが望ましい。さらにスキンパス圧延や50%以下の圧下率の冷間圧延を施しても良い。
【0034】
鋼管の製造にあたっては、通常は電縫溶接を用いるが、TIG、MIG、レーザー溶接、UOや鍛接等の溶接・造管手法等を用いることも出来る。これらの溶接鋼管製造に於いて、溶接熱影響部は必要とする特性に応じて局部的な固溶化熱処理を単独あるいは複合して、場合によっては複数回重ねて行っても良く、本発明の効果をさらに高める。この熱処理は溶接部と溶接熱影響部のみに付加することが目的であって、製造時にオンラインであるいはオフラインで施行できる。
【0035】
次に上記(7)〜(9)の要件について説明する。
鋼管を縮径加工する前の加熱温度および続く縮径加工の条件は、本発明において重要である。本発明は以下のような新知見に立脚するものである。すなわち、まずγ域での縮径加工を施し、γ相を未再結晶あるいは再結晶分率が50%以下の状態としてγ集合組織を発達させる。このような縮径加工によって形成されたγ集合組織を変態させると、ハイドロフォーム成形に良好な{111}<110>近傍の集合組織が顕著に発達することを見いだしたのである。
【0036】
加熱温度は、Ac3 変態点以上としなければならない。これはγ単相域で大きな縮径加工を行うことで上述した未再結晶のγ集合組織が発達するためである。加熱温度の上限は特に限定しないが、表面性状を良好に保つために1150℃以下とすることが望ましい。(Ac3 変態点+100)℃〜1100℃がより好ましい範囲である。
【0037】
γ域での縮径加工は縮径率が40%以上となるように行う。40%未満ではγ域で未再結晶集合組織が発達しないため、最終的に好ましいr値や集合組織を得ることが困難となる。縮径率50%以上とするのが好ましく、65%以上がより一層望ましい。γ域での縮径加工はできるだけAr3 変態温度に近い温度で完了するのが良い。
なお、この場合の縮径率とは{(縮径加工前の母管の直径−γ域での縮径完了後の鋼管の直径)/縮径加工前の母管の直径)}×100(%)で定義される。
【0038】
γ域で縮径加工を完了する場合には、縮径加工後5s以内に冷却を開始し、冷却速度を5℃/s以上とし、少なくとも(Ar3 変態点−100)℃以下の温度まで冷却する。冷却開始が縮径加工完了後に5s超となってしまうと、γの再結晶が促進されたり、γ→α変態時のバリアント選択が不適切となって、最終的にr値や集合組織が劣化する。一方、冷却速度が5℃/s未満では、変態時のバリアント選択が不適切となりr値や集合組織が劣化する。
【0039】
冷却速度は10℃/s以上が好ましく、20℃/s以上であれば一層好ましい。冷却の終点温度は(Ar3 変態点−100)℃以下とする。これによってγ→α変態に伴う集合組織が良好なものとなる。γ→α変態完了温度まで冷却することが集合組織形成の上でより一層好ましい。
【0040】
γ域で縮径率40%以上の縮径加工を行った後、さらにAr3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃の温度域で縮径率10%以上の縮径加工を行って、Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃で縮径加工を完了しても良い。これによって変態による{111}<110>集合組織の形成がより促進される。γ+α2相域による縮径率は、{(Ar3 変態点以下での縮径加工前の鋼管の直径−Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃での縮径完了後の鋼管の直径)/Ar3 変態点以下での縮径加工前の鋼管の直径}×100 (%)で定義される。
【0041】
このようにして製造された鋼管の全縮径率は、当然のことながら40%以上となる。好ましくは60%以上である。全縮径率は下式で定義される。
{(縮径加工後前の母管の直径−縮径完了後の鋼管の直径)/縮径加工前の母管の直径)}×100(%)。
【0042】
母管に対する縮径加工完了後の鋼管の板厚変化率は、+10%〜−10%とすることが好ましい。板厚減少率は{(縮径加工完了後の鋼管の板厚−縮径加工前の母管の板厚)/縮径加工前の母管の板厚)}×100(%)定義される。
なお、鋼管の直径は鋼管の外形を測定する。縮径後の板厚が縮径前の板厚に比べて増えすぎても逆に減りすぎても良好な集合組織が形成され難くなる。
【0043】
縮径加工は、複数のロールを組み合わせて多段パスのラインを通板することによって行っても良いし、ダイスを用いて引き抜いて行っても良い。また、縮径時に潤滑を施すことは成形性向上の点で望ましい。
本発明に係る鋼管は、延性を確保するためフェライトを面積率で30%以上含有することが好ましい。しかし、用途によってはこの限りでなく、パーライト、べイナイト、マルテンサイト、オーステナイトおよび炭窒化物等のうち、1種以上の組織のみで構成されていても構わない。
【0044】
【実施例】
表1に示す成分の各鋼を溶製して1230℃に加熱後、表1に示す仕上げ温度で熱間圧延して巻き取った。酸洗に引き続き電縫溶接により直径100〜200mmに造管した後、所定の温度に加熱して、縮径加工を行った。
得られた鋼管の加工性の評価は以下の方法で行った。
前もって鋼管に10mmφのスクライブドサークルを転写し、内圧と軸押し量を制御して、円周方向への張り出し成形を行った。バースト直前での最大拡管率を示す部位(拡管率=成形後の最大周長/母管の周長)の軸方向の歪εΦと円周方向の歪εθを測定した。この2つの歪の比ρ=εΦ/εθと最大拡管率をプロットし、ρ=−0.5となる拡管率Reをもってハイドロフォームの成形性指標とした。
【0045】
X線測定は、縮径前の母管および縮径後の鋼管から弧状試験片を切り出し、プレスして平板として行った。(110)、(200)、(211)、(310)極点図を測定し、これらを用いて級数展開法により3次元集合組織を計算し、φ2=45°断面における各結晶方位のX線ランダム強度比を求めた。
表2には、縮径加工の諸条件と縮径加工後の鋼管の特性を示す。表2において軸方向のr値はrL、45゜方向のr値はr45、円周方向のr値はrCとした。
本発明例ではいずれも良好な集合組織とr値を有し、ハイドロフォーム成形時の最大拡管率も高いのに対して、本発明外の例では集合組織、r値が好ましくなく、最大拡管率も低い。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、ハイドロフォーム等の成形性に優れた材料の集合組織およびその制御方法が得られ、ハイドロフォーム等の成形性に優れた鋼管を製造することができる。
Claims (9)
- 質量%で、
C :0.0005〜0.50%、
Si:0.001〜2.5%、
P :0.001〜0.2%、
S :0.05%以下、
N :0.01%以下、
Al,ZrおよびMgの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%、
さらに、Mn,TiおよびNbのうち1種または2種以上をMn:3.0%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.15%以下で、かつ0.5≦(Mn+13Ti+29Nb)≦5を満たす範囲で含有し、
残部が鉄及び不可避的不純物からなり、鋼板の1/2板厚における板面の{111}<110>方位のX線ランダム強度比が5.0以上で、かつ鋼板の1/2板厚における板面の{111}<112>方位のX線ランダム強度比が2.0未満であることを特徴とする成形性の優れた鋼管。 - 鋼管の軸方向、円周方向および45゜方向のr値が全て1.4以上であることを特徴とする請求項1に記載の成形性の優れた鋼管。
- さらに質量%で、Vを0.001〜0.2%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の成形性の優れた鋼管。
- さらに質量%で、Bを0.0001〜0.01%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形性の優れた鋼管。
- さらに質量%で、Sn,Cr,Cu,Ni,Co,WおよびMoの1種又は2種以上を合計で0.001〜2.5%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形性の優れた鋼管。
- さらに質量%で、Caを0.0001〜0.01%含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形性の優れた鋼管。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼管を得るにあたり、縮径加工に供するに際して、一旦Ac3 変態点以上に加熱し、Ar3 変態点以上の温度域で縮径率40%以上となるように縮径加工を行い、Ar3 変態点以上で縮径加工を完了し、縮径加工完了から5秒以内に冷却を開始し、5℃/s以上の速度で(Ar3 変態点−100)℃以下まで冷却することを特徴とする成形性の優れた鋼管の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼管を得るにあたり、縮径加工に供するに際して、一旦Ac3 変態点以上に加熱し、Ar3 変態点以上の温度域で縮径率40%以上となるように縮径加工を行い、引き続きAr3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃の温度域での縮径率10%以上となるように縮径加工を行い、Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−100)℃で縮径加工を完了することを特徴とする成形性の優れた鋼管の製造方法。
- 母管に対する縮径加工後の鋼管の板厚変化率が+10%〜−10%となる縮径加工を施すことを特徴とする請求項7または8に記載の成形性の優れた鋼管の製造方法。
Priority Applications (11)
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