JP4336027B2 - 成形性に優れた高強度鋼管とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車の足廻り、メンバーなどに用いられる鋼材で特にハイドロフォーム等に用いられる成形性に優れた高強度鋼管およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車の軽量化ニーズに伴い、鋼板の高強度化が望まれている。高強度化することで板厚減少による軽量化や衝突時の安全性向上が可能となる。また、最近では、複雑な形状の部位について、高強度鋼の素鋼板または鋼管からハイドロフォーム法を用いて成形加工する試みが行われている。これは、自動車の軽量化や低コスト化のニーズに伴い、部品数の減少や溶接フランジ箇所の削減などを狙ったものである。
【0003】
このように、ハイドロフォーム(特開平10−175026号公報参照)などの新しい成形加工方法が実際に採用されれば、コストの削減や設計の自由度が拡大されるなどの大きなメリットが期待される。このようなハイドロフォーム成形のメリットを充分に生かすためには、これらの新しい成形法に適した材料が必要となる。例えば、第50回塑性加工連合講演大会(1999、447頁)にあるようにハイドロフォーム成形に及ぼすr値の影響が示されている。しかしここでは、シミュレーションによる解析が主で、実際の材料と1対1対応するものではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、ハイドロフォーム成形に適した材料開発は実用レベルではほとんど行われておらず、既存の高r値鋼板や高延性鋼板がハイドロフォーム成形に使用されつつある状況と言える。本発明では、このようなハイドロフォーム成形に適した優れた成形性を有する鋼管およびその製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明では、鋼材の集合組織とミクロ組織を制御することでハイドロフォーム成形性に優れた材料を提供するものである。
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、
C:0.04〜0.3%、 P:0.001〜0.2%、
を含み、
Si:0.003〜3%、 Al:0.03〜3%
の双方を合計で0.5〜3%含み、さらにMnを含み、かつ、
Mn:3%以下、 Ni:3%以下、
Cr:3%以下、 Cu:2%以下、
Mo:2%以下、 W :2%以下、
Co:3%以下、 Sn:0.5%以下
の中の1種または2種以上を合計で0.5〜3.5%含み、
N :0.01%以下に制限し、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、ミクロ組織が体積分率で50%以上のフェライトと、体積分率で3%以上の残留オーステナイトを含む第2相との複合組織であり、鋼板1/2板厚での板面の{110}<110>〜{332}<110>の方位群のX線ランダム強度比の平均が2.0以上、あるいは鋼板1/2板厚での板面の{110}<110>のX線ランダム強度比が3.0以上の何れかまたは双方であることを特徴とする成形性に優れた高強度鋼管。
【0009】
(2)質量%で、さらに、B:0.0002〜0.01%を含むことを特徴とする前記(1)記載の成形性に優れた高強度鋼管。
【0010】
(3)質量%で、さらに
Ti:0.3%以下、 Nb:0.3%以下、
V :0.3%以下
の中の1種または2種以上を合計で0.005〜0.3%含むことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の成形性に優れた高強度鋼管。
【0011】
(4)質量%で、さらに
Ca:0.0005〜0.005%、 Rem:0.001〜0.02%
の一方または双方を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか1項に記載の成形性に優れた高強度鋼管。
【0012】
(5)前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の鋼管を製造するにあたり、前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の成分を有する鋳造スラブを、鋳造ままもしくは一旦冷却した後に1000℃〜1300℃の範囲に再度加熱し、熱間圧延して冷却後巻取った熱延鋼板を造管し、鋼材の化学成分で決まる(2×Ac1 変態温度+Ac3 変態温度)/3以上1050℃以下に加熱した後縮径加工を行い、その後、空冷もしくは150℃/秒以下の冷却速度で300℃以上600℃以下まで冷却し、その後15℃/秒以下の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼管の製造方法。
但し、
Ac1(℃) =723-10.7×Mn%-16.9×Ni%+29.1×Si%+16.9×Cr%
Ac3(℃) =910-203×(C%) 1/2 -15.2×Ni%+44.7×Si%+31.5×Mo%+13.1×W%
-30×Mn%-11×Cr%-20×Cu%+70×P%+40×Al%
【0013】
(6)前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の鋼管を製造するにあたり、前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の成分を有する熱延鋼板を酸洗し冷延した後に焼鈍した鋼板を造管し、鋼材の化学成分で決まる(2×Ac1 変態温度+Ac3 変態温度)/3以上1050℃以下に加熱した後縮径加工を行い、その後、空冷もしくは150℃/秒以下の冷却速度で300℃以上500℃以下まで冷却し、その後15℃/秒以下の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼管の製造方法。
但し、
Ac1(℃) =723-10.7×Mn%-16.9×Ni%+29.1×Si%+16.9×Cr%
Ac3(℃) =910-203×(C%) 1/2 -15.2×Ni%+44.7×Si%+31.5×Mo%+13.1×W%
-30×Mn%-11×Cr%-20×Cu%+70×P%+40×Al%
【0014】
(7)縮径加工後時の縮径率が25%以上であることを特徴とする前記(5)または(6)に記載の成形性に優れた高強度鋼管の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の成形性に優れた高強度鋼管とその製造方法について詳細に述べる。
ハイドロフォーム成形では鋼管を素材とした成形加工が行われる。この際、鋼管の軸方向への押し込み量と内圧の関係を適正に設定することが重要である。内圧のみを増加させた通常の液圧成形と異なり、ハイドロフォーム成形では軸押しによる強制的な材料供給によってより厳しい成形にも耐えることができる。本発明者らは、種々の材料を用いたハイドロフォーム成形試験を元に、鋼材の結晶集合組織の制御と適正なミクロ組織形成によって初めて非常に高いハイドロフォーム成形性が確保できることを見出した。
【0016】
即ち、鋼板1/2板厚での板面の{110}<110>〜{332}<110>の方位群および/または{110}<110>のX線ランダム強度比がハイドロフォーム成形等を行う上で最も重要な特性値である。板厚中心位置での板面のX線回折を行い、ランダム結晶に対する各方位の強度比を求めたときの、{110}<110>〜{332}<110>の方位群での平均が2.0以上とした。この方位群に含まれる主な方位は{110}<110>、{661}<110>、{441}<110>、{331}<110>、{221}<110>、{332}<110>、{443}<110>、{554}<110>および{111}<110>である。これらの各方位のX線ランダム強度比は{110}極点図よりベクトル法により計算した3次元集合組織や{110},{100},{211},{310}極点図のうち、複数の極点図を基に級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。例えば、後者の方法から各結晶方位のX線ランダム強度比を求めるには、3次元集合組織のΦ2=45゜断面における(110)[1−10]、(661)[1−10]、(441)[1−10]、(331)[1−10]、(221)[1−10]、(332)[1−10]、(443)[1−10]、(554)[1−10]、(111)[1−10]の強度で代表させられる。
【0017】
{110}<110>〜{332}<110>方位群の平均X線ランダム強度比とは、上記の各方位の相加平均である。上記方位のすべての強度が得られない場合には{110}<110>、{441}<110>、{221}<110>の方位の相加平均で代替しても良い。中でも、{110}<110>は重要であり、この方位のX線ランダム強度比が3.0以上、好ましくは3.5以上であることが特に望ましい。{110}<110>〜{332}<110>方位群の平均強度比が2.0以上でかつ{110}<110>の強度比が3.0以上であれば特にハイドロフォーム用鋼管としてはさらに好適であることは言うまでもない。また、成形困難な場合には上記方位群の平均強度比が3.5以上であること、{110}<110>の強度比が5.0以上であることのうち少なくとも1つを満たすことが望ましい。
【0018】
なお、本発明の集合組織は通常の場合、φ2=45°断面において上記の方位群の範囲内に最高強度を有し、この方位群から離れるにしたがって徐々に強度レベルが低下するが、X線の測定精度の問題や鋼管製造時の軸周りのねじれの問題、X線試料作製の精度の問題などを考慮すると、最高強度を示す方位がこれらの方位群から±5°ないし10°程度ずれる場合も有りうる。
【0019】
鋼管のX線回折を行う場合には、鋼管より弧状試験片を切り出し、これをプレスして平板としX線解析を行う。また、弧状試験片から平板とするときは、試験片加工による結晶回転の影響を避けるため極力低歪みで行うものとし、加えられる歪み量の上限を10%以下で行うこととした。このようにして得られた板状の試料について機械研磨によって所定の板厚まで減厚した後、化学研磨などによって板厚中心付近まで研磨し、バフ研磨によって鏡面に仕上げた後、電解研磨や化学研磨によって歪みを除去すると同時に板厚中心層が側定面となるように調整する。なお、鋼板の板厚中心層に偏析帯が認められる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で偏析帯のない場所について測定すればよく、またこの範囲外でも前述の条件を満たしていることは何ら鋼管の成形性を落とすものではない。
【0020】
なお、{hkl}<uvw>とは上述の方法でX線用試料を採取したとき、板面に垂直な結晶方位が<hkl>で鋼管の長手方向が<uvw>であることを意味する。
【0021】
本発明の集合組織に関する特徴は、通常の逆極点図や正極点図だけでは表すことができないが、例えば鋼管の半径方向の方位を表す逆極点図を板厚の中心付近に関して測定した場合、各方位のX線ランダム強度比は以下のようになることが好ましい。<100>:2以下、<411>:2以下、<211>:4以下、<111>:15以下、<332>:15以下、<221>:20.0以下、<110>:30.0以下。また、軸方向を表す逆極点図においては、<110>:10以上で、<100>、<411>、<211>、<111>、<332>、<221>の全ての方位:3以下。
【0022】
ハイドロフォーム成形では非常に厳しい加工まで成形可能となることから、一旦鋼管のある位置にくびれが生じると、その場所での変形が加速的に進み、破断(バースト)に至る。従って、極力このような歪みの集中に起因するくびれを発生させないことも非常に重要となる。歪みの集中を回避する方法としては鋼材の加工硬化指数(n値)を高めることが効果的であり、本発明者らは、特に鋼材中に残留させたオーステナイトの加工誘起マルテンサイト変態(TRIP効果)を利用することが最も効果的に歪みの分散を達成できることを見出した。但し、この残留オーステナイト量が3%未満の場合にはその効果は非常に小さいのでこれを残留オーステナイト体積分率の最小値とした。
【0023】
フェライト体積分率が50%未満の場合には上述の結晶集合組織を得ることができないためフェライト体積分率の最小値を50%と限定した。残留オーステナイト体積分率は多いほどその効果が大きいが、残留オーステナイトを確保するためにはベイナイトの生成が必須となり、一般的には得られるオーステナイト体積分率は高々ベイナイト体積分率と同程度であるため、残留オーステナイト体積分率は25%以下であることが望ましい。歪み分散への残留オーステナイトの寄与はオーステナイトの安定性に依存し、オーステナイトが安定なほどその効果が大きい。
【0024】
残留オーステナイトの安定性は、鋼に添加された合金元素とオーステナイトに濃化したC濃度によって決まることから、最終的に得られるオーステナイト体積分率は鋼材のC質量%の100倍以下であることが望ましい。
【0025】
また、第2相には、上述のベイナイトと残留オーステナイト以外に、マルテンサイトおよび一部パーライトを含んでいても何ら最終的な鋼管の成形性を劣化させるものではない。
【0026】
n値は一般的に鋼材の強度と共に低下する。良好なハイドロフォーム成形性を得るためには鋼材の最大強度TSと加工硬化指数nの積TS×nが45MPa以上であることが望ましい。
【0027】
鋼管の強度およびn値は鋼管の管状引張り試験(JIS11号)または軸方向に切り出した弧状引張り試験(JIS12号B)等で得ることができ、強度は最大強度TS、n値は5%〜10%もしくは3%〜8%の歪み範囲での加工硬化率として定義する。
【0028】
次に化学成分の限定理由について述べる。
C:Cはオーステナイトを室温で安定化させて残留させるために必要なオーステナイトの安定化に貢献する最も安価な元素であるために、本発明において最も重要な元素といえる。鋼材の平均C量は、室温で確保できる残留オーステナイト体積分率に影響を及ぼすのみならず、製造の加工熱処理中に未変態オーステナイト中に濃化することで、残留オーステナイトの加工に対する安定性を向上させることができる。しかしながら、この添加量が0.04質量%未満の場合には、最終的に得られる残留オーステナイト体積分率が3%以上を確保することができないので0.04%を下限とした。一方、鋼材の平均C量が増加するに従って確保可能な残留オーステナイト体積分率は増加し、残留オーステナイト体積率を確保しつつ残留オーステナイトの安定性を確保することが可能となる。しかしながら、鋼材のC添加量が過大になると、必要以上に鋼材の強度を上昇させ、最終的に得られる鋼管の成形性をするのみならず、成形後の組立工程において重要となる溶接性を大きく劣化させる。従って鋼材のC質量%の上限を0.3%とした。
【0029】
Mn,Ni,Cr,Cu,Mo,W,Co,Sn:Mn,Ni,Cr,Cu,Mo,W,Co,Snは全て変態挙動を制御するためには有効な元素である。特に、溶接性の観点からCの添加量が制限される場合には、このような元素を適量添加することによって効果的にオーステナイトを残留させることが可能となる。また、これらの元素はAlやSi程ではないがセメンタイトの生成を抑制する効果があり、オーステナイトへのCの濃化を助ける働きもする。さらに、これらの元素はAl,Siと共にマトリックスであるフェライトやベイナイトを固溶強化させることによって、鋼材の強度を高める働きも持つ。しかしながら、これらの元素の1種もしくは2種以上の添加の合計が0.5質量%未満の場合には、必要な残留オーステナイトの確保ができなくなるとともに、鋼材の強度が低くなり、有効な車体軽量化が達成できなくなることから、下限を0.5質量%とした。一方、これらの合計が3.5質量%を超える場合には、母相であるフェライトもしくはベイナイトの硬質化を招き、最終的に得られる鋼管の成形性の低下、靭性の低下、さらには鋼材コストの上昇を招くために、上限を3.5質量%とした。
【0030】
Al,Si:AlとSiは共にフェライトの安定化元素であり、フェライト体積率を増加させることによって鋼材の加工性を向上させる働きがある。また、Al,Si共にセメンタイトの生成を抑制することから、効果的にオーステナイト中へのCを濃化させることを可能とすることから、室温で適当な体積分率のオーステナイトを残留させるためには不可避的な添加元素である。このような機能を持つ添加元素としては、Al,Si以外に、PやCu,Cr,Mo等があげられ、このような元素を適当に添加することも同様な効果が期待される。しかしながら、AlとSiの合計が0.5質量%未満の場合には、セメンタイト生成抑制の効果が十分でなく、オーステナイトの安定化に最も効果的な添加されたCの多くが炭化物の形で浪費され、本発明に必要な残留オーステナイト体積率を確保することができないかもしくは残留オーステナイトの確保に必要な製造条件が大量生産工程の条件に適しない。従って下限を0.5質量%とした。また、AlとSiの合計が3%を超える場合には、母相であるフェライトもしくはベイナイトの硬質化や脆化を招き、最終的に得られる鋼管の成形性の低下、靭性の低下、さらには鋼材コストの上昇を招き、また化成処理性等の表面処理特性が著しく劣化するために、3質量%を上限値とした。
【0031】
P:さらにPは、鋼材の高強度化や前述のように残留オーステナイトの確保に有効ではあるが、0.2質量%を超えて添加された場合には体積分率最大の相であるフェライトの変形抵抗を必要以上に高め、最終的に得られる鋼管の成形性の低下、靭性の低下、さらには鋼材コストの上昇を招く。さらに、耐置き割れ性の劣化や疲労特性、靭性の劣化を招くことから、0.2質量%をその上限とした。但し、Pの添加の効果を得るためには、0.001質量%以上含有することが好ましい。
【0032】
B:また、必要に応じて添加するBは、粒界の強化や鋼材の高強度化に有効ではあるが、その添加量が0.01質量%を超えるとその効果が飽和するばかりでなく、必要以上に鋼材強度を上昇させ、最終的に得られる鋼管の成形性の低下を招くことから、上限を0.01質量%とした。但し、Bの添加効果を得るためには、0.0002質量%以上含有することが好ましい。
【0033】
Nb,Ti,V:また、必要に応じて添加するNb,Ti,Vは、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって鋼材を高強度化することができるが、その合計が0.3%を超えた場合には母相であるフェライトやベイナイト粒内もしくは粒界に多量の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出し、最終的に得られる鋼管の成形性の低下、靭性の低下、さらには鋼材コストの上昇を招く。また、炭化物の生成は、本発明にとって最も重要な残留オーステナイト中へのCの濃化を阻害し、Cを浪費することから上限を0.3質量%とした。但し、これらの元素の添加によって高強度化するためには、Nb,Ti,Vの合計で0.005質量%以上添加することが好ましい。
【0034】
Ca,希土類元素(Rem):介在物制御に有効な元素で、Caは0.0005質量%以上、Remは0.001%以上の添加により熱間加工性を向上させるが、Caは0.005%超、Remは0.02%超の添加は逆に熱間脆化を助長させるため、上記の範囲とした。ここで、希土類元素とは、Y,Scおよびランタノイド系の元素を指し、工業的には、これらの混合物であるミッシュメタルとして添加することがコスト的に有利である。
【0035】
鋼板中のNはCと同様にオーステナイトを安定化することができるが、同時に鋼材の靭性や延性を劣化させる傾向があるために0.01質量%以下とすることが望ましい。
【0036】
またOは酸化物を形成し、介在物として鋼材の加工性、特に伸びフランジ成形性に代表されるような極限変形能や鋼材の疲労強度、靭性を劣化させることから、0.01質量%以下に制御することが望ましい。
【0037】
以下に本発明の製造方法について述べる。
(スラブ再加熱温度)
所定の成分に調整された鋼は、鋳造後直接もしくは一旦Ar3 変態温度以下まで冷却された後に再加熱された後に熱間圧延される。この時の再加熱温度が1000℃未満の場合には、熱間圧延を完了するまでに、何らかの加熱装置必要となるためにこれを下限とした。また再加熱温度が1300℃を超える場合には、加熱時のスケール生成による歩留まり劣化を招くと同時に、製造コストの上昇も招くことから、これを再加熱温度の上限値とした。
【0038】
(熱延条件)
熱延は通常の方法にて行われれば良く、熱延終了温度が鋼のAr3 変態温度以下となっていても良い。但し、最終的に得られる鋼管の集合組織を好ましいものとするためには、熱延鋼板での集合組織発達を回避することが有効であり、このためにAr3 変態温度+50℃以上で熱延を完了することが望ましい。一方、スケール生成に起因する表面特性の劣化を抑制するためには、仕上げ温度を980℃以下とすることが好ましい。
【0039】
(冷延−焼鈍条件)
熱延完了した鋼板をそのまま造管し縮径加工を行っても良いが、必要に応じて酸洗後冷延し、焼鈍後に造管し縮径加工を行っても良い。この時の冷延−焼鈍条件は特に規定しない。
【0040】
(造 管)
造管はコイル状の鋼板を連続的に巻きながら、もしくは前もって所定のサイズに切断された鋼板を巻いた後に溶接もしくは固相拡散接合等の方法によって行われる。
【0041】
(縮径加工)
以上のような方法によって製造された鋼管を縮径加工によって所定のサイズに調整する際に、縮径加工開始前の加熱温度が鋼材の化学成分によって決まる(2×Ac1 変態温度+Ac3 変態温度)/3未満の場合には、最終的に得られる残留オーステナイト体積分率が3%未満となり、鋼管の成形性を劣化させることから、これを加熱温度の下限値とした。一方、この加熱温度が1050℃超となった場合には、最終的に得られる鋼管において{110}<110>〜{332}<110>の方位群が発達せず、結果として鋼管の成形性が劣化するために、これを加熱温度の上限値とした。
【0042】
縮径は上記の加熱温度に規定することにより、縮径の温度範囲を特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、最終的なミクロ組織中にマルテンサイトを得るために、縮径の仕上げ温度は鋼の成分で決まるAr3 変態温度−100℃以上とすることが、また、2相分離を十分に進めるためにはAr3 変態温度+150℃以下とすることが好ましい。
但し、
とする。
【0043】
縮径加工によって、鋼管の長さ、鋼管外周径、板厚を変化させることができるが、これらを全て独立に変化させることができないために、この中の1つに着目して制御することで縮径加工時に導入された全歪み量を評価することができる。ここではその代表値として鋼管の外径の変化に着目する。この縮径の程度は縮径率(={縮径加工前の鋼管の外径−縮径加工後の鋼管の外径}/縮径加工前の鋼管の外径×100%)で表現され、この縮径率が25%未満の場合には鋼材に導入される歪み量が十分でないために集合組織の発達が不十分となり鋼管の成形性を劣化させる。従ってこれを縮径率の最小値とした。この縮径率は大きければ大きいほど良く、望ましくは45%以上、さらに非常に高い加工性が要求される場合には70%以上とすることが望ましい。
【0044】
縮径加工後の冷却によって鋼材のミクロ組織が制御される。この時の冷却は空冷でも良いが、ブロワーや気水冷却、水冷等の設備を配して加速冷却しても良い。但しこの時に、冷却速度を150℃/秒超とするためには過大の設備投資を必要とするためにこれを冷却速度の上限とした。空冷される場合には、冷却は室温まで連続的に行われても良いが、加速冷却される場合には、冷却完了温度が300℃未満になると、鋼材中の残留オーステナイトが非常に不安定となり、最終的に得られる鋼管の成形性を劣化させるためにこれを冷却停止温度の下限値とした。また、冷却停止温度が500℃超の場合には、加速冷却する効果は全くなくなるために、これを冷却停止温度の上限とした。縮径加工後に加速冷却される場合に、300℃〜500℃で冷却が停止され後にさらに鋼管は室温まで冷却される。この時の冷却速度が15℃/秒超の場合には鋼材中の残留オーステナイトの安定性が低くなり、最終的に得られる鋼管の成形性を劣化させるためにこれを冷却速度の上限値とした。ここでの冷却速度は遅いほど有効であるが、冷却速度を0.5℃/秒未満にするためには付加的な設備を必要とするために、300℃〜500℃からの冷却速度は0.5℃/秒以上が好ましい。
【0045】
このようにして製造された鋼管をハイドロフォーム成形する前に、表面の摩擦抵抗を小さくする目的で、油脂や固体潤滑剤等を塗布しても良い。
また、防錆効果のために、これらの鋼管にZn等の表面処理を施しても良い。
【0046】
【実施例】
表1に示す化学成分の鋼を溶解し、鋳造後一旦室温まで冷却した後に再度1200℃に加熱し900℃以上で熱延を完了した後冷却し、電縫溶接した。このようにして製造した母管を所定の温度に加熱し縮径加工を行った。
【0047】
最終的に得られた鋼管の加工性の評価は以下の方法で行った。前もって鋼管に10mmΦのスクライブドサークルを転写し、内圧と軸押し量を制御して、円周方向への張り出し成形を行った。バースト直前での最大拡管率を示す部位(拡管率=成形後の最大周長/母管の周長)の軸方向の歪みεΦと円周方向の歪みεθを測定した。この2つの歪みの比ρ=εΦ/εθと最大拡管率をプロットし、ρ=−0.5となる拡管率Re(0.5)をもってハイドロフォーム成形性の指標とした。
【0048】
集合組織の測定はX線解析によって、鋼管から弧状試験片を切り出し、プレスして平板としたサンプルの1/2部に対して行った。また、X線の相対強度はランダム結晶と対比することで求めた。
【0049】
残留オーステナイトの体積分率はMoのKα線を用いたX線解析により、フェライトの(200)面、(211)面およびオーステナイトの(200)面、(220)面、(311)面の積分反射強度を測定して、Journal of The Iron and Steel Institute, 206 (1968) p60 に示された方法にて算出した。
【0050】
フェライト体積分率は、鋼管の軸方向断面の1/4厚部において500倍の写真を撮影し、ポイントカウント法によって求めた。
【0051】
表2には、表1の鋼P2を表中に示した縮径加工条件で加工し、得られた鋼管のハイドロフォーム成形性とミクロ組織、集合組織を調査した結果を示した。例1は縮径加工前の加熱温度が鋼材の化学成分で決まるAc1=742℃、Ac3 =851℃で規定される(2×Ac1 +Ac3 )/3=778℃未満であるために、最終的に得られる鋼管中にオーステナイトを残留させることができないため、結果として鋼管の成形性が低い。また例2は縮径率が25%未満であるために集合組織の発達が十分でなく鋼管の成形性が低い。また、例6は縮径加工後の加速冷却停止温度が300℃未満となっているために、残留オーステナイト体積分率は確保できているものの、残留オーステナイトの安定性が低いために鋼管の成形性は低い。その他の例は本発明の範囲内にあり、良好な成形性を示すことがわかる。
【0052】
表3には、表1に示した全ての鋼に対して、表中に示した本発明の範囲内で縮径加工を行った鋼管の成形性評価結果を示した。縮径率はすべて55%、縮径加工後の冷却は全て空冷とした。本発明の範囲の化学成分であるP1〜P16の例は全て{110}<110>〜{332}<110>の方位群のX線ランダム強度比の平均が2.0以上および/または鋼板1/2板厚での板面の{110}<110>のX線ランダム強度比が3.0以上であり、かつ鋼材中の残留オーステナイト体積分率が3%以上となっており、その結果として化学成分の中のどれかが本発明範囲からはずれているC1〜C6の例に比較して良好なハイドロフォーム成形性を示すことがわかる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【発明の効果】
鋼管の集合組織とミクロ組織を制御することで、鋼管のハイドロフォーム成形性が著しく向上することを以上に詳述した。本発明によって、複雑な形状の部品へのハイドロフォーム加工が可能となり、自動車車体の軽量化をより一層推進することができる。従って、本発明は、工業的に極めて高い価値のある発明である。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.04〜0.3%、 P:0.001〜0.2%、
を含み、
Si:0.003〜3%、 Al:0.03〜3%
の双方を合計で0.5〜3%含み、さらにMnを含み、かつ、
Mn:3%以下、 Ni:3%以下、
Cr:3%以下、 Cu:2%以下、
Mo:2%以下、 W :2%以下、
Co:3%以下、 Sn:0.5%以下
の中の1種または2種以上を合計で0.5〜3.5%含み、
N :0.01%以下に制限し、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、ミクロ組織が体積分率で50%以上のフェライトと、体積分率で3%以上の残留オーステナイトを含む第2相との複合組織であり、鋼板1/2板厚での板面の{110}<110>〜{332}<110>の方位群のX線ランダム強度比の平均が2.0以上、あるいは鋼板1/2板厚での板面の{110}<110>のX線ランダム強度比が3.0以上の何れかまたは双方であることを特徴とする成形性に優れた高強度鋼管。 - 質量%で、さらに、B:0.0002〜0.01%を含むことを特徴とする請求項1記載の成形性に優れた高強度鋼管。
- 質量%で、さらに
Ti:0.3%以下、 Nb:0.3%以下、
V :0.3%以下
の中の1種または2種以上を合計で0.005〜0.3%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の成形性に優れた高強度鋼管。 - 質量%で、さらに
Ca:0.0005〜0.005%、Rem:0.001〜0.02%
の一方または双方を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の成形性に優れた高強度鋼管。 - 請求項1〜4の何れか1項に記載の鋼管を製造するにあたり、請求項1〜4の何れか1項に記載の成分を有する鋳造スラブを、鋳造ままもしくは一旦冷却した後に1000℃〜1300℃の範囲に再度加熱し、熱間圧延して冷却後巻取った熱延鋼板を造管し、鋼材の化学成分で決まる(2×Ac1 変態温度+Ac3 変態温度)/3以上1050℃以下に加熱した後縮径加工を行い、その後、空冷もしくは150℃/秒以下の冷却速度で300℃以上600℃以下まで冷却し、その後15℃/秒以下の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼管の製造方法。
但し、
Ac1(℃) =723-10.7×Mn%-16.9×Ni%+29.1×Si%+16.9×Cr%
Ac3(℃) =910-203×(C%) 1/2 -15.2×Ni%+44.7×Si%+31.5×Mo%+13.1×W%
-30×Mn%-11×Cr%-20×Cu%+70×P%+40×Al% - 請求項1〜4の何れか1項に記載の鋼管を製造するにあたり、請求項1〜4の何れか1項に記載の成分を有する熱延鋼板を酸洗し冷延した後に焼鈍した鋼板を造管し、鋼材の化学成分で決まる(2×Ac1 変態温度+Ac3 変態温度)/3以上1050℃以下に加熱した後縮径加工を行い、その後、空冷もしくは150℃/秒以下の冷却速度で300℃以上500℃以下まで冷却し、その後15℃/秒以下の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする成形性に優れた高強度鋼管の製造方法。
但し、
Ac1(℃) =723-10.7×Mn%-16.9×Ni%+29.1×Si%+16.9×Cr%
Ac3(℃) =910-203×(C%) 1/2 -15.2×Ni%+44.7×Si%+31.5×Mo%+13.1×W%
-30×Mn%-11×Cr%-20×Cu%+70×P%+40×Al% - 縮径加工後時の縮径率が25%以上であることを特徴とする請求項5または6に記載の成形性に優れた高強度鋼管の製造方法。
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